鬼剣の王と戦姫   作:無淵玄白

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忘れたころの更新技。おおっ、色んな企画が進行中でいいことなのだが……。


ギネヴィ「私の胸が増量中! 美弥月先生ありがとう!!」

しかし、ヒロイン枠としてはロランに移動を開始。そんな彼女の今作での立ち位置は!?


と言った感じで色々と凍漣の方にも合わせていくと、とんでもないことに―――。

久々の更新どうぞ。


『将星の集い-Ⅰ』

 

 ―――朝日昇りつつ、世界を照らしていく。

 しかしながら、だからといって即座に世界が暖かくなるわけではない。そして何より、今の季節は冬なのだ。

 

 無論、冬と言っても初冬と言うのが正解であろう―――そしてブリューヌは温暖な気候である。

 次第に暖かくなっていくのは余程の人間でなければ分かるだろう。

 

 だが……だからこそ、自分はこの枯れ草色の草原に立つことにしたのだ。

 自分がいる場所は戦士達の野―――ザクスタン風に言えばヴァルハラなのだ。

 

 戦士達は朝と共に目覚めなければならない。例え、どんなに奮闘してもやってくる永遠の眠りがあるとしても、彼らは起きなければならないのだ。

 寒さで惰眠を貪る事はあってはならない。

 

 よって――――男は、唄う事にした。彼らを眠りから覚ますための、大いなる『人間賛歌』を歌い上げることにした。

 

「あさが来る~♪ きっと来る~♪ 何かあの辺から出てくる~ ひょっこり出てくる~♪」

 

 自分考案の弦楽器―――この辺では三弦琴にも似たものを打ち鳴らしつつ歌い上げる。

 

「太陽よ。なぜにくる~♪ おまえはどこまでもやってくる~ 逃れられぬきしょー、さまたげられるねむり~~」

 

 サビに入ろうか。と言う所で、平原にある全ての幕舎から人が這い出てきた。

 

『うるせぇ(うるさい)―――!!』

 

 起床の第一声としては中々に悪罵が込められていたのだが、まぁとりあえず男女全ての幕舎から人が出てきたのは良い兆候であったので―――ウィリアムはとりあえず満足する事にした。

 歌にたいする感想はあれではあったが、都合一週間もこんなことをやっていれば慣れたものであった……。

 だが、自分の歌で人々に感涙を流させること出来ないのは悔しすぎた。

 

 そんな内心の葛藤を抱えたウィリアム・シェイクスピアなるアスヴァールの吟遊詩人が現在厄介になっている軍団。

 

 多くの幕舎を平和な草原に建てたブリューヌ有志連合軍とライトメリッツ軍の最近の朝の光景は、そんなものであった。

 

 

 † † †

 

 

 ―――オルミュッツとの諸々の戦後処理を終えてライトメリッツからアルサスに戻ったティグル達であったが、予想以上のことがお互いに起こっていた。

 

 アルサス待機組に関しては、何故だか知らないがアスヴァールよりリョウ・サカガミを頼って(?)アルサスにやってきた吟遊詩人ウィリアム・シェイクスピアがいた。

 待機してアルサスにて練兵していた間にオルミュッツと一戦やらかした事にリムはあれこれ小言を主人に言っていたが、まぁそれは結局、『私の判断だ』という言葉で沈黙させられた。

 

『ならば、こちらも私の判断です』

 

 そうして、不満を解消するかのように、吟遊詩人であり『銃士』である男を紹介された。連合軍初の傭兵として雇ったらしいのだが、客将である自由騎士リョウ・サカガミは露骨に嫌そうな顔をしたのが印象的であった。

 

『アスヴァールからの間諜だ。追い出せ』

『酷すぎますな。ギネヴィアの騎士―――今の私は一介の吟遊詩人でしかないのですから』

 

 などと手持ちの弦楽器を打ち鳴らして悲しみと哀切を表現されると、その音色と真剣さを感じたのかティグルは入隊を了承した。

 

『まぁいいんじゃないか。俺もリョウのアスヴァールでの伝説を教えて欲しいしな―――歓迎するよ。楽聖』

『ありがとうございます。弓の領主殿―――やはり弓使いは話が早いですな。宰相閣下の引きとめをいなしたのも弓使いでしたから』

 

 というティグルの言葉に、最終的にリョウも折れた。戦士としても優秀であることは保証されていたので、殊更反論は出来なかった。

 そしてアスヴァールからの調略であったとしても、それはそれでいいだろうとティグルは考えた。

 

 待機組に来た勇士は一人。それに対してライトメリッツに戻った方は三名もの勇士を雇うことに成功した。

 

 双子のザクスタン女戦士。『アルヴルーン』と『エルルーン』この二人に関しては、ティグルとリョウは満場一致で配置を決めていた。

 

『双子の『戦乙女』は、私の部下なのか?』

『ああ、仮称『オルガ隊』とでも言うべきものに彼女らを配置する。意味は分かるな?』

『うん。責任重大だ。けれど二人はそれでいいのか?』

 

 将としての訓練であり、これからのオルガの為を思ったものに対して、双子は自分に使われる事を良しとするのだろうかと考えていた。

 歳が近いといえば近いし、身のこなしも良さそうだから、そこ―――『武』に対して不満は無い。問題は自分の下に居ることを許容するのかどうかと言う『気持ちの問題』である。

 似た顔の双子だが髪色と髪の結い方で『どっちがどっち』か分かるのに尋ねるオルガ。

 

『異論は無いの。私の『勇者』を探すためにも『切り込み部隊』に入れられるのは歓迎』

『領主様の意向に従います』

 

 小さな『エレン』と『リム』のような応答の言葉に、一同が視線を『元祖』に向けた。

 視線の意味を理解して咳払いをするリムであったが、エレンは笑って『あんな感じだったかな?』と独り言を漏らす。

 

『分かった。私は平時はティッタさんと同じくアルサスの女中をやっているから二人にもそれをやってもらう。いいかな?』

 

 オルガの命令に頷く双子。こうして彼女らの処遇は決まったのだが―――次いで現れた人間にリムアリーシャの『気』が膨れ上がった。

 

『……フィグネリアだ。よろしく頼む』

『いや意味は分かるが、何故に俺を前に出すよ?』

 

 リョウの後ろから控えめに声を出して、自己紹介をした女戦士。別に『人見知りフィーネちゃん』などというわけではない。

 見知った顔であり、色々と因縁が深い相手がいたからこそ、そんな風だったのだろう。

 そして見知った顔の一人が、同じく見知った相手―――雇う判断を下した一人に食って掛かった。

 

『エレン、彼女が何をしたのか忘れたわけではないでしょう?』

『―――ああ』

『ならば何故?』

 

 声こそ荒げていないもののリムは怒っている。口調といつもの畏まった口調、特に敬称を忘れて―――恐らく彼女らが『姉妹』だった頃のように言う所に動揺が隠せていない。

 

『私とて怒りが無いわけじゃないさ。ただそれを呑み込むぐらいには……私たちも大人になれたと思うんだ。姉さん』

 

 無表情の『姉』の怒りを和らげようと微笑で語る『妹』。

 傭兵団が解散してからの彼女らの苦境。だがその一方で……フィーネも苦しんでいたことを今の二人ならば理解できる。

 あの頃には察すること出来なかったフィーネの気持ち。少女ではなく『女』として成熟してきた自分達ならば、あの頃のフィーネの苦悩が分からないわけではない。

 

『愛する男を殺せ』と依頼されたフィーネの心の苦悩が―――ティグルに対して、もしもジスタート王宮から良くない指令を出された場合。

 それを突っぱねるだけの立場と力が今のエレン達にはあるが、あの頃―――ただの傭兵として動いていた自分たちではどうなるか分からない。

 

 それと同じ事だ。だが、もしかしたらばティグルはそれすらも退けて、自分達を懐に収めていた可能性があった。

 そしてヴィッサリオンも、その気になれば……フィーネを懐に入れられただろうが……。

 

『フィーネ。あなたは私達を疎ましく思っていましたか?』

『私が女としてヴィッサリオンに見られるためならば――確かにその考えが無かったわけではないね』

 

 リムの疑問の言葉に対して、観念したのか前に出てきた隼の剣士は、自嘲するような笑みを浮かべて言う。

 

『けれど……ヴィッサリオンにとってあんた達は守るべき『宝』だった。いずれは蝶よ花よという『女の子』に戻したいとも語っていた』

 

 自分の信じる『国』が出来上がれば、と付け足したフィーネの言葉に姉妹は対照的な表情を見せた。

 

『だから―――愛し、愛されなかった男に『殺されるならば』、それも運命だってね』

 

 絶対に勝てると思っていたわけではない。勝てたのは―――恐らく偶然だった。

 そして、恐らくヴィッサリオンにとっても……自分は『大事にしたい』人の一人だと気付いてしまい。それでも刃は違わず愛した男に突き刺さった。

 

『けれど生き残ったのは、私だった―――ならば、生きている人間として最低限の義務を果たす。それだけだよリムアリーシャ』

 

 もう少し早めにするべきだったかもしれない。と付け足すフィーネ。

 結局の所、お互いに心の中でのしこりがあり、それが戦姫になってからのエレオノーラの行動と心に『棘』を与えていたのだと気付かされた。

 特に同僚である戦姫。ラズィーリスと呼ばれる戦姫の『父親』に対する行動と『言葉』が、フィーネには衝撃的だったのだろう。

 

『あんた達ヴィッサリオンの『娘』が信じた『王様』が、どれほどのものか―――その戦いとあんたらの行く末を見届ける義務があるんだ』

『……分かりました。配置は私に一存させてもらって構わないので?』

『好きにしな。メイドだろうと何だろうとやってやるさ』

 

 勢いや良しな言葉だが、そのメイド服姿を想像した瞬間に―――何人かが口を押さえた。

 

 全員の気持ちは一つであった……。

 

『イタすぎる』

 

 奉仕するよりもされるほうだろう『姐御役』にそれは似合わなさすぎた。

 

『って何だって俺だけ蹴られるんだよ!?』

『他の子を蹴るわけにいかないからね。甘んじて受け入れなっ!』

 

 怒りの矛先をリョウ・サカガミだけに向ける乱刃のフィーネの様子に全員が笑って、彼女もまた受け入れられた事が分かった瞬間だった。

 

 そんなこんなで新しき人間、旧知の人間を加えた連合軍のある日の朝。

 

 ―――いつも通り、ウィリアムの調子外れの歌で目覚めて、始まった日に―――遂に変化が訪れた。

 

「エルルちゃん。アルルちゃん。お水お願い出来る?」

「了解なのです侍女長様」

「ティッタ様の手は料理をする為と王様を慰める手。冬の冷水で怪我させません」

 

 そんなことを言うザクスタンの双子達が大瓶を軽々と持ち、川から多くの水を運んでくる様子は二日ほど周囲の人間を驚かせたが、都合一週間も経てば、この『銀の竜星軍』内部で驚くものはいなくなった。

 ちなみにティッタは、『前例』とも言えるオルガの力持ちっぷりを知っていたので、そんなもんだろうと考えていた。

 色々と間違っているかもしれないが、アルサスのメイド達は逞しすぎた。

 

 そうして朝は過ぎていく筈だったのだが…………今日は遂に待ち望んだ変化が起こった日でもあった。

 

 だがティッタにとってはいつもと変わらぬ日でありながらも……聞かされたことを実現する日であった。

 

 ティッタやエルル達が朝の支度をすると同時に兵士達も朝の支度を始めていた。そんな中で、朝の恒例行事ともいえるものはいつも通りであった。

 

「そんな無駄ものを使うよりも、もっと効率よいものがあるのだよ禿頭のものよ。この地では私の方が先達なのだから素直に忠告を聞いておけ」

「生憎だが、我々の好みには、こちらの『燻方』がいいのだよ。とはいえ、なんならばユーグ殿も含めて試食会でも開こうか?」

 

 塩漬けの豚肉の燻製方法で揉める美形二人。事の大小に関わらず二人が張り合うことが多いのは立場が近すぎるからだろうか……。

 そんな二人とは対照的にルーリックと『つるむ』ライトメリッツの騎士達とジェラールの家臣達は案外仲良しになったりしていた。

 最終的には『林檎の木』を『チップ』にして燻製しておけという忠言で治まった。

 

「姐さん! もう一本!!」

「しつこいねぇ。まぁ実戦感覚を取り戻すにはいいか」

 

 ライトメリッツ兵、ブリューヌ兵混合で、歴戦の傭兵にして美女でもあるフィーネに挑みかかる。

 木刀、摸擬剣などでの乱取りは、いつでもフィーネの勝ちで終わる。ちなみにフィーネから誰かが一本取れば『賞品』が与えられたりする。

 その賞品とは―――フィグネリアの色気ある「寝間着」姿での酌と言う……誰が発案者であるか分かり易すぎるものである。

 ちなみに宿営地での綱紀粛清をする立場も務めるリムもこれに同意して、更に言えばフィーネもこれを諾とする辺り「まだまだだな」と誰もが感じていた。

 

 ウィリアムはオリジナルの作曲・作詞の演奏を止めて朝に相応しい「テーマ」を幕営内に流していく。

 一日を始めるに相応しく元気が出るものだ。ジスタート・ブリューヌで共に良く聴かれる音楽であって、誰もが時に歩みや動きを止めて聞き惚れるものだ。

 芸術家としては甚だ不満だろうが、こうした従軍楽士というものの役目が分かっていないわけではない。

 

 そうした事が起こっている中、竜星軍内では、国と国が『地続き』ではない、関係が薄い人間は何をしているかと言えば…………。

 

 ―――釣りをしていた。川に釣竿と糸を垂らして―――大物がかかってくれないかという気持ちでいた。

 

 自分達がここに来るまでに雨が降り、更に山からの雪解け水も加わってか、それなりに増水して魚の食いつきも悪くなっているのではないかと思うほどである。

 何より、ここで釣れなければ陣内の人間達から『自由騎士に剣才あれども『釣才』なし』などと言われた上に、『次に釣れなきゃ、頭をルーリックみたいにしてやる!』とヤーファで釣果無しを『ボウズ』と呼ぶことからそんなことを言ってしまったのだ。

 

 売り言葉に買い言葉と言えばそれまでだ。しかし、偶には『焼き魚』でも食いたい気分なのは誰もが感じていた。

 

(『ぬし』を釣れば祟られるからな……とはいえ、仕方ない)

 

 禁断の手である雷の勾玉を出してリーザがやっていたような釣りをしようかと思っていた時に何かが流れてきた。

 一瞬、流木かと勘違いしたが、エルルとアルルが瓶を担いで、それを対岸から追っていた。

 

「若大将ーーー!! あの人を捕まえてーーー!!」

「王様に御用の方なのーーー!!」

 

 呼びかけられて、捕まえられない理由を何となく察する。とはいえ、それとは関係無く今は人命救助である。

 エルルとアルルに対岸を挟んで並走しつつ、下流にある適当な川の踏み石をみつけて、そこに先回りして、飛び乗る。

 

「素は軽―――」

 

 御稜威を唱えて、溺れつつも流れに必死に抵抗する少年を捕まえてエルルとアルルの方へとそのまま飛んでいく。

 どうやら意識ははっきりしているらしく、大地に下ろした少年騎士は咳き込んでから佇まいを正して助けられた礼を言ってきた。

 

「申し訳ありません。騎士殿……人間、無謀な事をするとろくなことにならないことを身を以って知りました」

「何でまた溺れたんだよ?」

「その……双子―――エルルさんとアルルさんが、もの凄い跳躍力で対岸に渡ってきたもので―――男として負けてられないと……意地を張ってしまいました」

 

 同じような年頃ゆえか、婦女子にカッコの悪い事を言ったことで頬を掻いて苦笑している。

 頑丈そうな皮と銀で作られた鎧に小剣二本と小弓を持った少年。着ているものと持っているものとがブリューヌ、ザクスタン、ムオジネル……三国ごっちゃまぜという感じで来歴を特定できない。

 ただ韋駄天の術を人前で無闇に使ったエルルーン、アルヴルーンを少し叱っておく。

 

『ごめんなさい』

 

 少年―――黒茶色の髪をしたのに頭を下げる双子。それを受けて少年は気にしなくていいと言った。

 そんな少年の笑顔を見て、二人して安堵するのを見つつ、少年少女の情ある行動だけに構っていられないとして、聞くべきことを聞くことにした。

 

「それで君は何処の誰なんだ。俺は『銀の竜星軍』にて傭兵を務めているものだが、君が伯爵閣下に何の用事でやってきたのか知らなければならない」

 

「失礼しました。自分はブリューヌ南部マッサリアを修めるマルセイユ家のものです。武公ピエールが孫、文公ヨハンが息子 『ハンス=マルセイユ』―――奸賊テナルディエを討つためにヴォルン伯爵閣下の陣営に入らせていただきたく参上しました」

 

(あいつには『仁星』でもあるのかね―――)

 

 頭を下げて言ってきたハンス少年の自己紹介を聞きつつ、ティグルに対する評価を改めておく。

 そうして再び対岸を『飛び』、竜星軍幕営内に戻る事にした。

 

 彼が本当に登用されるかどうかは分からないが、まぁ会わせて損はあるまいとして、年少組を連れ立って歩いていく。

 

 ある意味では『大物』を釣り上げた自分だが、果たして剃髪を免れるかどうかが疑問であったりもした……。

 


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