新ビジュアル公開。そしてヴァレンティナの消失。なんてことだヴァレンティナが死んだ! この人でなし!!(嘘)
はい、ダッシュエックス文庫版ではティナは『戦姫』ではないそうで、それにしてもミリッツアの衣装が微妙にアジアンテイストというかジャポネスクな感じを受ける。
先生―――あなたの心意気に感謝だぜ(失礼千万)
とはいえ、ぶっちゃけビジュアル的にはFGOのおっきーにしか見えない。まぁああいったキャラは無くは無いよな……。
そんなこんな思いつつ、新話をお送りします。
「それでそのヤーファの客人とやらは何処かへと旅立ってしまったのかい?」
「ええ、一応引き止めてはいたのですが『面倒なので失礼する』として―――去っていかれましたよ。これが人相書きになります」
自分が居ない間に、レグニーツァにて起こったことの報告を受けていた
その絵が鮮明であり写実的であるかは分からないが、絵の中には三人の女性と……一匹のネコがいた。
自分より長い黒髪に独創的な衣装をした女性。格好は普通というか身軽な印象で金色の髪を頂点で結っている女の子、長い白髪を腰まで伸ばした女性、衣装はどこか重そうな着物を着ていた。
そんな三人のインパクトが薄れるぐらいに……直立したネコ……外套を着込んで眼帯をしているのだ。
体格こそ人間サイズではないものの、やはりこの絵を描いた人間の精神状態を疑いたくなる。
「けれど……このネコさんは、喋ったあげく「サカガミ」と名乗ったんだねマトヴェイ?」
「はい。航海中は色々と悩みましたが、やはり喋りもするし、自由騎士と同じような剣術で海賊船を沈黙させました……字は「ジュウベイ」。『坂上十葉官兵衛』とヤーファの文字で書くそうです」
海の男であるマトヴェイの言は偽りが無い。船乗りの掟として、不義理は犯せないのだろう。
サカガミの姓を名乗り、リョウと同門であろう……ネコ。
頭に引っ掛かるものを感じながらも、サーシャはその旅人達と一度会っておくべきであったかと、少し後悔する。
そんな自分の苦悩など知らぬのか……朱灰色の幼竜は、机によじ登り机に投げ出された絵を見て―――喜ぶような表情を見せた。
その絵を取って頬に撫で付ける様を見せていた。自分がリョウに甘える時の仕種のようなそれを見て――――サーシャに天啓が降りてくる。
「思い出した!! このネコは間違いなくリョウのお父上だ!!」
「何故そこまで断言できるのですか?」
老文官の言葉に頭に浮かんだことを『そのまま』伝える。
そう。あれはいつぞや夜伽の後の『後戯』の際に聞きだした話の一つだった。
リョウのご両親、武士である父君と巫女姫であった母君の出会いの話とその後の――――顛末の一つ。
それを怨念の話と見るか悲恋と見るか……人によって評価が分かれようが、それでもその時は話半分に聞いてきたことの一つだった。
語り終えると同時に、サーシャ以外の全員が何ともいえない表情をしていた。
目の前の女性の「生々しい話」を聞かされて、文、武官一同。どんな顔をすればいいのか分からなかった。
しかし一堂の中で勇気を出して、リプナ市長ドミトリーは話の続きを促した。
「では戦姫様、このお客人たちの目的をご存知ですかな?」
「マトヴェイに語ったとおり、観光とリョウの様子見じゃないの?」
「まぁそう考えるのが当然ですが、ヤーファ人の全てが自由騎士のような人物なわけはないでしょう」
「―――ドミトリーは、この中に『不審』な人間がいると見たんだね?」
リプナに着いた後に、この客人たちの接待の相手をしていた男の証言。それを今までとは違い、為政者としての態度で受けるサーシャ。
頷いたドミトリーは、中でも「カズサ」「ヒヨノ」なる女性は、普通ではないと感じた。
ただの武士ではなく……恐らく戦姫などの「国」持ちの領主であろうと見えたと伝えてきた。
「まぁヤーファの詳細な政治体制は僕も知らないからね。しかし……仮にもしも、そんな『人間』を派遣するなんて、何かあったんだろうか?」
自分とリョウが戦姫エレオノーラの別荘で会っていた時に彼は、この事を知っていたのだろうか?
仮に知っていたとしても伝えるべき事項でないと考えたのか、それとも……数週間前に会ったというのに再び会いたくなるのは……この黒髪の「カズサ」なる女性が、もしかしたらばリョウと色々あったご主君である「サクヤ」なのかもしれないからだ。
サーシャの心の中に明確な嫉妬心が芽生えてしまう。もしも知っていて教えなかったということも考えられる。
国公事に関わることだったらば簡単に自分にも教えられないはず。
(けれど私的なことで、今回の来訪を黙っていたのかな……?)
胸が締め付けられる思いだ。ヴァレンティナやエリザヴェータ相手ならば、ここまでの事は無い。
まだお互いに知り合って一年も経っていないのだ。けれど、ヤーファから来たこの人たちはリョウと同じ「長い時間」を過ごしてきた人なのだ。
(駄目だな……弱気になりすぎだよ……)
と気持ちを諌められたのか、腰に差している双剣が炎を出していた。それは特に自分を害するものではないが、それでも尻に火を点けられた気分だ。
見ると、レグニーツァの入り口で彷徨っていた幼竜も自分の胸に飛び込んで見上げてきた。
名前はまだ付けていないが、いずれ立派な名前を付けてあげようと思う。
「成るように成るしかないね。彼の行動を全て知れるほど僕らも大きな木々じゃないからね」
「『鳥』というには大きすぎ、熱すぎますからな」
『不死鳥』の止まり木になるには、レグニーツァ及びジスタートは、まだまだかもしれない。ただ彼はどこそこに留まっていられる人間でもないのだろう。
苦笑してから気持ちを切り替える。付き合いの長さで情の深さが決まるわけではないのだから
「いずれ直接会ってみたいね。それで奇態なヤーファのお客様の話題は兎も角として、他の大きな報告事項は?」
「大きいというわけではありませんが、ライトメリッツとオルミュッツが不穏な空気を見せております。報告が数日前なので戦になった可能性もあるかと」
「穏やかじゃないね。ザウル」
あの会談でティグルヴルムド・ヴォルンは、リュドミラ・ルリエの心を掴んだはずだが、どんな変節があったのだろうか。
そうして考え込んでいた自分にもう一つの話が上がる。諜報官というか、間者の頭というか、まぁそんな部署の武官からの報告に少し耳を疑った。
「―――カザコフ卿がプシェプスにやって来た? ……目的は?」
「私的なものだろうと思われます。供のものも殆ど居らず、妻子を伴った私的な旅行だと思われますが……」
「まぁ比較的近場のルヴーシュの戦姫との仲が最悪なのは、聞き及んでいるけれども……」
ただの観光であれば別に領主として、そこまであれこれ言う立場にない。
客人としてお金を落としてくれるならば、それを拒めるわけではないのだ。
とはいえ、用心しておくに越したことはないだろう。
(まずはリュドミラだね。彼女は最後まで手強く立ちはだかるよエレン、ティグル……)
ここからは見えないものの窓の外の景色。その向こうに見えるはずのタトラ山脈。
凍てつく冷気と険しき山々、それらを想像して何気なく寒気を覚えてとことこと着いてきた幼竜―――火を象徴して暖かい子を抱き上げて、再び窓の外の景色―――城下町の様子に目を遣る。
この景色を砕くようなことがあれば、その時は再び戦場に立つ。
そこに――――またリョウ・サカガミという自分だけの「騎士」がいてくれれば嬉しい。と思ってサーシャは、再び仕事に邁進することにした。
† † † † †
「こちらオルミュッツの騎兵長であり衛兵長でもあるピピン殿、今回のことで色々と世話になったんだ」
「こういっては何ですが、このような形では、お初にお目にかかります風の戦姫殿」
戦士として鍛え抜かれた身体。槍のような、壁のような印象を受ける長身でありながらも筋肉を程よく付けた中年の男性が挨拶をする。
衛兵でありながらも、恐らくその鍛錬は騎士の時代から衰えたことがないだろう人間だ。
「あなたの噂は色々と聞いている。先代、リュドミラの母の時代には冷壁将軍と呼ばれた人物だと聞いている」
「私は戦姫様の騎士でありますが、同時に大公閣下の一番槍でもありましたから、大公様が隠居されると聞いた時に同じく閑職に退かせていただいたのです」
鍔の長い帽子を幕舎に用意された机の上に置きながらピピン殿は、苦笑して身の上話はその辺でいいのではないかと伝える。
彼の武勇伝でも聞きたかったのかエレンは、一度だけ肩を竦めてから経緯と結果のほどを聞くことにした。
自分―――ティグルも交えたその説明は、まずオルミュッツに入った時から始まる……。
公国オルミュッツに入ったティグルはまず指示された通り、中央広場にて人目を少し気にしつつも「イクユミヤ」を三度ほど打ち鳴らした。
矢を番えられていない弓を引っ張るティグルに少しだけ住民や広場の商人達は訝しむ思いであったが、それでも打ち鳴らした弓の音が響くたびに身体の芯に響くようであった。
その後、少し目立つもののティグルは、そそくさと広場を退散してから街の薬師の下へと向かうことにした。
オルミュッツの薬師……というよりも施療院の人は院内に居なかったものの奥に呼び掛けるとやってくる辺り、ここのご家族も、あの「シノビ」にやられていたのだろうと察せられる。
薬師―――女性の方は疲れている様子であった。リョウの言葉を信じるならば広場での「祓い御稜威」で何とかなったはず。
それとなく探りを入れることにすると、寝込んでいた息子、薬師の義母が容態の急変を伝えたとの事。
「悪くなったんですか?」
「いいえ、苦しげな様子が無くなったんですが……、今度は熱が出てきて、ただ喋れるぐらいにはなったので、義母に呼ばれていたのです」
どういった呪いを掛けたかはリョウでも分からなかったので、そこは推測に過ぎないが、回復に向かったと見ていいだろう。
そうしてから、手紙一通と『薬袋』を取り出す。
院内にある植物は、薬に関しては素人なティグルから見ても見事なもので、『生成』は可能だろう。
「!? これは……!?」
「西方の『自由騎士』より託されたものです。私の事は信じられないかもしれませんが……どうかリョウの事は信じてください」
「―――少しお待ちいただけますか?」
深く一礼をして、薬師殿は匙を使い、袋の中の『特効薬』を適量測ってから二階に上がっていく。
(後は……天に任せるのみだ……)
説客というのは、こうした『説得工作』が通じなかった場合、殺される運命にある。リョウの渡した薬が、快復させるのか、それとも悪化するのか……。
信じるしかないのだ。そうして静かに心穏やかにして、半刻ほど経とうとした頃に、薬師の女性が降りてきた。
少しだけ泣いているような様子。どちらなのか分からないが、それでも結果を問う。
「ありがとうございます。旅のお方……! 息子の熱が下がって起きあがれるようになりました……!!」
「リョウ・サカガミが渡したのは、まず特効薬だそうです。手紙の中身にあると思いますが、時間をかけて『毒』を抜く解毒薬の精製をお願いします」
「オルミュッツの医者全てを使ってでも生成させます。となると……これを皆の所に届けなきゃいけない」
薬師の女性は少し動転しているようだが、リョウもまさか最初からこの展開になるとは読んでいなかっただろう。
本来ならばこの女性―――オルミュッツの「騎兵長」の奥さんの信用で、全ての患者の快復をするはずだったのだが……この家の子供までが、そんなことになっていようとは……。
少し予定違いながらも、自分が全ての人間に届けてくるのが肝要だろう。
しかし自分で言っておいて自分のような信用あるかどうか分からぬ男を招きいれてくれるとは限らない。
と考えていると、二階から一人の老女という割りには腰がしっかりした女性が降りてきた。
「それならば私が付き添おうか。孫も私の様なババアよりは、母親の手で看病してほしいはずだよ」
「お義母さん……」
「若いの、エスコートを頼もう」
「喜んで」
この街で自分など外様も同然だ。自由騎士の伝言役と言っても、それに信用がつけられるかどうかなど別の話だ。
―――そうして二刻するかしないかの内に、老人―――何でも、宿屋の侍女長をやっている女性の言葉が全ての患者の家族に伝わり、全てが終わった。
特効薬を全ての家に回って渡すよりも、広場に来させて持って行かせた方がいいという、老女の献策は実ったのだった。
予想外に早い仕事。しかしながら、少しばかり騒ぎになりつつあるので、即座に次なる行動に出る。
「ありがとうございました」
「礼を言うのはこちらの方だよ……これからどうするか?」
一礼をして、身仕舞いをしたティグルに問い掛ける老女。その言葉をはぐらかすことも出来たが、とりあえず協力してくれた人物なのだ。
真実を語らなければ、恩知らずである。モーラに窘められる気分を思い出しつつ、一応の事情を話す。
自分はライトメリッツと同盟関係にあるブリューヌ貴族の一人で、戦姫リュドミラ=ルリエとも話したこともある。
そして―――今回、ライトメリッツとの戦争になった原因も知っていると―――。
「なるほど、道理でお嬢様らしくない対応だと思ったが……そういうことだったとは……それで伯爵殿は、これからどうする?」
「タトラに向かおうかと、大公閣下―――戦姫殿のお父上も同じく取り返すこと出来れば、無駄な血を流さなくて済む」
「……ならば私の息子を就けよう。存分に使いなされ」
そうして老女は二階から降りてきた時と同じくしっかりとした足で街門の方へと歩いていく。
驚きつつも荷物をまとめてティグルもそれに続く。そうして衛兵詰め所に入っていく老女。
少しすると、―――20代後半だろう人間、軽装の騎士風の男が槍一本を持って出てきた。
その後に老女も出てきた。
街に入る際には見なかったが、この男も衛兵なのだろう。しかし何故出てきたのやら。
「大公閣下の捜索に協力するピピンと申します。伯爵閣下、どうかよろしくお願いします」
「え?」
言われたことの意味が、少し分からなくなってしまった。だが老女は得心したように頷くのみだ。
そしてピピンなる男の規律正しい敬礼に驚くのみだ。
「では皆、後は頼んだぞ。私はヴォルン閣下と共に再びタトラに大公様をお救いに行く」
『はっ! 隊長もお気をつけて!!』
この男がオルミュッツの公都の門番の中でも一番に偉い人なのだと思い、何故そんな人が自分に協力してくれるのだろうと思う。
「私の一人息子を救ってくれたのは、閣下だと母から聞きましたので、それに大公様は私にとっても尊敬すべきお方でしたので、今度こそ―――お救いしたいのです」
その目に決意の程を見てから、旅の供をこちらからもお願いする事にした。
「礼には及びません。詳しい事情は、道すがら―――旅支度もありますので」
慌てるピピン殿だが、こちらとしても分からぬ旅路であったのだ。道案内してくれる人が現れて本当にほっとしていると、先程の薬師―――関係から察するに、ピピン殿の奥さんがやってきた。
手には旅道具らしき一纏めの荷物。受け取ったピピン殿は準備完了したと言ってきて、出立を促す。
「よろしいんですか、奥様と一言なくて……」
「昔から心配掛けっぱなしなので、今更です。今は、両閣下のお命を守ることが私の使命ですので」
心残りを置いて生きたくないと言うピピン殿の決意は固く、だからこそこの人は絶対に生きて返してあげようと思った。
何が何でも、自分の黒弓の力を使ってでも―――成し遂げることが増えた瞬間だった。
そうしてオルミュッツ国民の見送りの元、その時は知らなかったが、かつて『冷壁』と呼ばれた将軍と共にタトラ山へと赴くことになった。
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一息つく形で話が途切れる。その間に暖めておいた葡萄酒(ヴィノー)を二人の前に差し出す。
喉を湿らせるそれを口にして一心地突く二人、日数から考えるに自分達がぶつかる三日前には、彼らはタトラに上がり大公閣下の再捜索にかかったはず。
「それで大公閣下を取り返せなかったってのは……『見つける』ことは出来たんだな?」
「ああ、近くに行けば見えなくなる変な「まやかし」でもあったのか、まぁそれは何とかなったんだけどな」
苦笑しつつ語るティグル。『結界』を解いた術も含めて説明を求めていく。
それは一つの冒険譚も同然で少しだけわくわくするものがあったのは事実である……。
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(後篇に続く)