鬼剣の王と戦姫   作:無淵玄白

64 / 86
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。


『復讐の闘争』

 

 

 

 

 ロドニークでの滞在は色々ありながらも、それなりに心地よいものであったように感じる。

 

 

 この後、エレンはライトメリッツで兵を組織して、アルサスへと出発させる予定。サーシャは取りあえず領地での諸々が終わると同時に、支援を約束してくれた。

 

 

 

「それじゃ僕はこの辺で、四人とも―――気を付けるんだよ」

 

 

 

 それぞれの領地へ至るための街道の分かれ道。そこで焔の戦姫と分かれることになった。

 

 

 色々と理由はあるのだが、ロドニークの街にレグニーツァの使者達がやってきていたことが、彼女にこれ以上の同行を許さなかった。

 

 

 数十人でのそれを前に、どうしたのかと思っていたのだが……どうやら彼女は無断で公宮を抜け出したらしく、それを連れ戻すためにこれだけの兵士・騎士達がやってきたのだと思い知らされた。

 

 

 レグニーツァ方面の開けた街道―――そこへ向かうサーシャを見送りつつ、自分達は少しばかり脇にて草木が生い茂り遮蔽物多い街道を進む。

 

 

 ライトメリッツ及びオルミュッツ方面への街道。何気ない調子を装いつつ、エレオノーラとミラがきゃんきゃん言うのを見ながら、それが来るのを平然と待ち構えていた。

 

 

 腰には鬼哭とアメノムラクモ、千鳥は―――取り回しが悪いので仕舞っておいたが……もしかしたら自分が『臨戦態勢』を取っているのを見て警戒しているのかもしれない。

 

 

 しまったな。と感じるたのも束の間―――太陽が隠れたかのように陰が上空から差してきた。

 

 

 

(あっちも痺れを切らせたな……)

 

 

 

 陰―――上空を飛んだ黒ずくめは囮。それに気を取られた隙に―――森の中、街道の両側から放たれる投擲暗器。

 

 

 剣と刀、縦横無尽に振るわれるそれで撃ち落される暗器。

 

 

 両側からの投擲をやり過ごしつつ、エレオノーラの後ろに陣取って弓弦を引き、エレオノーラの脇から森に通される矢。

 

 

 返礼のように返された矢で悲鳴が聞こえる。そうして矢筒からもう一本を引き抜き、引き絞り放たれる銀の矢。

 

 

 刀を振るう自分の顔の横を通った矢が、やはり悲鳴を森の中から挙げさせた。

 

 

 

「見事」

 

 

「……『見えてるの』?」

 

 

 

 上方に氷の壁を作り上げていたリュドミラの驚愕の声が賞賛の声を上げたリョウの声と重なった。

 

 

 その一言には、『森の中の下手人』と『二人の超戦士』の『動き』が見えているのかというのが含まれている。

 

 

 それに対してティグルは何も言わないが一瞬だけ、弓持つ手の親指を立ててミラへの返事としたのを見た。

 

 

 

「行くぞ!」

 

 

 

 エレオノーラの短い言葉で、前方へと馬を翻す。暗殺者に対して待ちを行うなど愚の骨頂。

 

 

 釣り上げた上で叩ききる。そういうことだ。と全員が判断できた。

 

 

 最前を走るはエレオノーラ。そこから少し遅れて両脇にミラとティグル―――殿は当然。俺である。

 

 

 後ろを見ながら、鬼哭を納めてからアメノムラクモを握る。

 

 

 使う勾玉は、光である。刀身が黄金色に光り輝くのを見ながら、後ろに向けて一振りする。

 

 

 すると自分達の頭の上を飛び越える形で、五人の暗殺者達が現れる。それぞれの得物を手に、人が対処しにくい頭上からの襲撃。

 

 

 タイミングも完璧の一言。正しく殺しのわざとしては一流。

 

 

 しかし――――――。

 

 

 バルナグ(鉄爪)ジャマダハル(三枚刃)が、ティグルの頭を貫く―――そして何の感触も無いままに、土と金属が触れ合う。

 

 

 瞠目する暗殺者にティグルの矢が飛び込む、が―――。

 

 

 バルナグとジャマダハルが輝き、矢を斬り飛ばした。

 

 

 

「!!」

 

 

 

 気功、妖術の一種だと気付けたのも束の間。『幻』を貫き、矢を弾いた暗殺者に追撃を掛ける。

 

 

 

風影(ヴェルニー)

 

 

 

 馬から飛び立ち自分を追い抜いて暗殺者に負けぬほどの跳躍力で暗殺者に斬りかかるエレオノーラ。体勢を立て直して、待ち構える暗殺者だが、如何に強化された剣とはいえ―――。

 

 

 砕け散るバルナグとジャマダハル。鎧袖一触の言葉の通りに風の戦姫の斬撃は二人の暗殺者を断ち切っていた。

 

 

 

「成程―――、やはり一筋縄ではいかないな」

 

 

 

 5アルシン程度の距離を取り、こちらに姿を現した暗殺者集団。一人には見覚えがありすぎた。

 

 

 総勢七人の暗殺者。統率者としているのは……忍装束の女である。

 

 

 

「甲賀ものが、何ゆえテナルディエ公爵に味方するかね」

 

 

「依頼を明かす忍はいない。だが……これは依頼ではないのでな。私怨で以って私はここにいる」

 

 

 

 馬を下りて自分とエレオノーラの近くまでやってきたミラとティグル。

 

 

 ここで決着となるはず。しかし……これで終わらぬものも感じている。

 

 

 

「私怨と言ったな。何ゆえの怨みで俺たちを狙う」

 

 

 

 ティグルの言葉。それに対して、黒ずくめの女―――あの時の金髪の忍者が頭巾を捨てながら言い放つ。

 

 

 

「この中に、ザイアン・テナルディエを殺した人間はいるか?」

 

 

 

 短いが、先程までの声とは違いどこかに「怒り」を感じる。その声を聞きながら―――、この怒りがティグルに向けられるのは不味いと思い、名乗り出ようとした瞬間に―――。

 

 

 

「―――俺だ。俺がザイアンを殺した。恨みをぶつけるべきは戦姫エレンでもなく、自由騎士リョウでもない―――俺に恨みをぶつけろ」

 

 

 

 馬鹿っ。と罵ろうと目を向けることを許されなかった。前にいる忍者からの圧が増す。

 

 

 

「魔体と化したザイアン様を貴様が……どういう手品かは分からぬが、どちらにせよ気様らは全員ここで殺す」

 

 

 

 ならさっきの問答なんて意味無かったじゃないか。という文句を言う暇も無く再びの戦闘となる。

 

 

 

「ふん。暗殺者風情が戦姫の前に出てきたことをあの世で後悔しろ!」

 

 

「お前、それ悪役の言うセリフだぞ。まぁ正義を気取る気も無いけれど」

 

 

 

 エレオノーラと同時に飛び掛る。忍の後ろにいた連中は散って―――「印」を斬っている。

 

 

 あれは―――、服部の『忍将』が使っていた妖術にして「忍術」―――。

 

 

 火球が飛び大地が隆起し、風がこちらにたたらを踏ませた時に、直線の雷が飛ぶ。

 

 

 

「妖術!? アリファール!!」

 

 

「祖は解、世界の律崩せし音の唱和、十重、二十重に響き、無人の野に吹き荒べ!」

 

 

 

 エレオノーラも百戦錬磨の戦士、目の前の現象への疑問を捨てて、それに対処する。

 

 

 風が吹き荒び火遁の乱打が止まり、岩礫が砂礫となって大地に還った。敵の風と雷は、こちらの御稜威に勢いを殺され、こちらに届く前に霧消した。

 

 

 だが、それは囮であり本命は正面に居た女忍の攻撃であった。

 

 

 逆手に持った両手の忍刀で獣の如く斬りかかってくる。

 

 

 捌くたびに金属音が何度も響き、少しばかり難儀する剣戟だ。サーシャほど圧倒的な読みがあるわけではない。

 

 

 しかし、四肢全てに「気息」を充溢させた剣戟は、必定こちらの膂力の予想を超える。

 

 

 

「くっ……何合も打ち合っているのに―――武器が砕けない。どういう手品だ」

 

 

「簡単に説明すれば、武器そのものを強化させている。見えぬ砕けぬ「力場」みたいなものが付与されていると思え」

 

 

 

 剣戟を一度終えてエレオノーラと共に離れて答える。忍の秘術としては珍しくは無い。だが、それでもここまで取れないとは……。

 

 

『ハンゾー』のような熟達した忍でもなければ、ここまで戦場で持つはずは無い。

 

 

 

「お前も似たことが出来るのか?」

 

 

「生憎、ああいったことが出来れば「コイツ」はいらなかったな」

 

 

 

 持っているアメノムラクモを掲げながらエレオノーラに言う。

 

 

 自分の場合、己の「妖力」「霊力」を肉体強化のみに使っている。器用貧乏というか身体が「外」向きになっていなかったのだろう。

 

 

 そんな自分の思考を切り裂くように―――手裏剣が「乱」で飛んできた。

 

 

 同時に、忍術による攻撃が自分達を襲う。手裏剣の方向は―――自分達の後方。つまりミラとティグルのいる方向にある。

 

 

 

「お前が先程から後ろの二人に攻撃させていなかったのは―――――『位置』をばらさないためだな」

 

 

 

 斬りかかってくる人間が三人―――火遁、土遁、雷遁の支援の元でやってきた一人にネタばらしされてしまった。

 

 

 先程からティグルとミラを攻勢に出させなかった理由は、何のことは無い。仮にもしも何が何でもティグルを狙われたらば、守りきれなかったからだ。

 

 

 無論、ティグルが弱いから言っているわけではない。投擲という分野に限って言えば、この忍の技はティグルと相性が悪すぎた。

 

 

 ゆえに『光蛇剣』によってティグルの位置を目測させずにいた。ティグルとミラのいる位置は忍達からは幻惑されており―――――。

 

 

 

「ラヴィアス!」

 

 

 

 しかしながら、振るった氷の槍が手裏剣を弾き飛ばすと同時に、位置が割れてしまった。

 

 

 ミラの行動は正解でありながらも不都合極まりなかった。

 

 

 不味い―――。扇のように手で一杯に広げた手裏剣全てがティグルとミラの位置に飛ぶ。

 

 

 エレオノーラも風で吹き飛ばそうとするも、斬り合いに興じた二人の忍で拘束される。

 

 

 やむを得ず無理やり身体を入れる形で、手裏剣の軌道に「割り込む」。

 

 

 

「疾ッ!」

 

 

 

 気合一声。襲い掛かる投擲武器を、全て撃ち落そうとする。

 

 

 しかし無理な体勢と無理な動きから、落とし損ねた二枚のクナイ手裏剣がティグルに飛ぶ。

 

 

 ミラもまた奇襲の形で、街道の脇から出てきた暗殺者に気を取られている。

 

 

 躱せば、その隙を突いて女忍は一も二もなく飛び掛る体勢だ。食い止めるには―――。

 

 

 

(前に出るしかない!!)

 

 

 

 ティグルの内心の叫びが聞こえたかのようで、そのままティグルは『ジョワイユーズ』を引き抜きクナイの間の鋼線を切り裂いた。

 

 

 クナイを大きく躱さずにやり過ごす形でいたならば、その鋼線が首を切り裂いていたはず。

 

 

 忍の『二手』先を読んだティグルは、短剣ジョワイユーズを戻す動作と同時に背中の矢筒から一本の矢を取り出して早業一閃で弓弦に番えた。

 

 

 流れるような『射』の姿勢作り。思わず見惚れてしまうほどだ。

 

 

 

「俺の仲間に―――これ以上、『手狭』な戦いさせられるか」

 

 

 

 ティグルの言葉。それに答えるようにミラのラヴィアスから氷の力。自分の光蛇剣から光の力が―――ティグルの矢に纏わる。

 

 

 二重螺旋として光と氷の粒が無限に回転する形で矢に付与された。そうして、力を受け取った矢が―――「上空」に向けて放たれる。

 

 

 

「どこを狙っている」

 

 

 

 走りながら『印』を斬る女忍。それを食い止めんと、暗殺者を切り伏せたミラが立ちふさがる。

 

 

 しかし――――上空に放たれた矢から光と氷の礫を辺り一面に撒き散らす。幻想的なダイヤモンドダストの煌きに目を奪われつつも、何が為されたのかがはっきりと分かる。

 

 

 

「ち、力が練れない!?」

 

 

「さ、サラ様! これは一体!?」

 

 

 

 動揺する暗殺者達。だが、それは決定的な隙でしかない。

 

 

 どうやらティグルの矢は、こちらに悪意ある「呪力」全てを遮断したうえで――――。暗殺者達の足元全てを氷で縫い付けた。

 

 

 

 その隙を狙い、後ろにいる忍術を使う連中に斬りかかる。

 

 

 

「おいリョウ!?」

 

 

「そっちの「双子」は任せた!」

 

 

 

 双子と切り結ぶエレオノーラを置き去りにする形で、後方へと跳ぶ。ティグルが「己の身は己で守る」と宣言した以上、もはや防戦ではなく、攻勢に出る。

 

 

 靴を脱ぎ捨てて裸足でかかる暗殺者四名。それぞれの得物を見る余裕で動きが緩慢に思える。本来ならばその殺しの技は何者にも負けぬはずだろうが、今の自分にとっては……意味は無い。

 

 

 鬼哭を抜き去り、得物を絡め取るようにして、されど武器と武器が交錯しない『すり抜けて斬る』―――「交差必殺」が四名同時に放たれて首と胴が離れる結果だけを与えた。

 

 

 

「っ! あとは私たちだけ……!」

 

 

「あんまりお前ぐらいの歳の女を殺したくは無いんだが、どうする?」

 

 

 

 双子達は既に得物を喪っている。呪力を練ることももはや出来なくなり、戦姫相手に対して無力だ。

 

 

 双子の絶望的な声音が切り結んでいたエレオノーラに届いた。

 

 

 それを悟ったのかエレオノーラも半分ほどやる気がそがれている。

 

 

 毒とて放っていたのだろうが、予備知識としてエレオノーラに教えておいたので、己の身体に粒子物質を吹き飛ばす程度の風を彼女は与えていた。

 

 

 そして女忍と斬り合うリュドミラ。既に呪力を喪った刃では―――竜具には無力だ。

 

 

 

「くっ!」

 

 

「諦めろと言って諦めてくれれば嬉しいんだけど、今ならば不法侵入の罪も不問にしてあげるわ」

 

 

 

 リュドミラは言いながらも女忍に対する攻撃を緩めていない。ラヴィアスの払いで弾き飛ばされた忍刀が氷付けになった。

 

 

 こういう場合、一番不味いのはやけっぱちでティグル一人を狙われることだ。

 

 

 その可能性を考慮しつつ……注意を全方位に向ける。一番には、ティグルに向かおうとしている『くノ一』

 

 

 しかし立ちはだかるは氷雪の竜姫。その壁は透明でいかにもすり抜けられそうであるが、分厚すぎる氷の壁だ。

 

 

 それでも―――やはり向かってきた。不味いと思いつつも、双子の暗殺者が立ち向かってきた。

 

 

 仕方無しに峰で延髄を打とうとするが―――――――――。

 

 

 双子の暗殺者は、とんでもない跳躍力を見せて自分達を飛び越えるように去っていった。

 

 

 そして―――女忍もまた去っていく。

 

 

 しかしティグルはそれを見逃さずに矢を引き絞って、膝を狙おうとしたが、振り返った女忍。

 

 

 その顔を見た瞬間に、ティグルは一瞬止まった。その顔はこちらからも見えていた……だからこそティグルの動揺が完全に分かった。

 

 

 動揺したティグルの隙を狙って去っていく三人の暗殺者。全てが終わりを告げたと分かるには、何とも後味の悪い決着である。

 

 

 

「どうやら、あなた……ただの「貴族」というわけではなさそうね。ティグル「さん」?」

 

 

「笑顔でそういう風に威圧するのどうかと思うよ」

 

 

 

 いきなりな敬称に対してティグルは溜め息を突いたが、それも一瞬であり、一応の事情説明をティグル含めてする。

 

 

 秘密の一つをばらすティグルに対してエレオノーラは少し不機嫌ではあった。しかしいずれは知られてしまうことであると思っていたから自分は特に何も感じなかった。

 

 

 

「成程、テナルディエ領で蔓延る噂の一つはあなただったのね……」

 

 

「噂?」

 

 

「地上から放たれる流星の弓撃が―――テナルディエ公爵の飛竜を撃ち落したという噂よ」

 

 

 

 流石に自分のブリューヌ訪問の際のとき以来、ミラも公爵の土地に間者を紛れ込ませていた。

 

 

 そうして集めた情報の一つを彼女は吟味していたようである。

 

 

 どうやらザイアンの魔体の話は流布されてはいないようだ。しかしその噂一つだけでも、かなりのものだ。

 

 

 最初は戦姫、もしくは自由騎士の仕業だと思っていたというミラの言葉にティグルは買いかぶりすぎであり、己も詳細が分かっていないと告げた。

 

 

 

「詳細は分からないとはいえ、とてつもない力よ。竜具が一振り増えたようなものだもの」

 

 

「リョウだってアメノムラクモを使っているんだ。それに関してのあれこれは無かったのか?」

 

 

「まぁ……その辺は人柄(周知)の差よね」

 

 

「傷ついたよ」

 

 

 

 ぐっさりと心に矢を放たれたティグル。とはいえ、自分の場合は一応オステローデの食客であり、オニガシマの臨時騎士総監だったり、王宮特使だったり、ヤーファの大使だったりと……色々な立場に括りつけられている。

 

 

 ぶっちゃけると「ティナ」という「敵」が「多すぎる」女に世話になっている限りは、そういう「野望」云々に関する目論見は微妙なのだろう。

 

 

 もしくはティナに対する抑え・重石として多くの裁量権を与えてくれたということでもあるかと思う。

 

 

 

「何はともあれ暗殺者の脅威は去った。戦力が半減どころか壊滅みたいなものになった以上、暫くは大人しくしているんじゃない?」

 

 

「だといいがな」

 

 

 

 嘆息すると同時にティグルは苦虫を噛み潰した顔をしている。その理由は自分にも分かった。

 

 

 あの時―――逃げ去ろうとした女忍は「笑み」を浮かべたのだ。

 

 

 まるで『事は成れり』とでも言わんばかりのそれが目に焼きついているのは、勝ったのはこちらだというのに、

 

 

 

「それじゃ、色々あったけれど本当に有意義ではあったわ。義兄様の主家も頼りになる人だって分かったもの」

 

 

「リョウは必ず帰すよ」

 

 

「あなたも―――この戦いの後に、必ずもう一度、私に会いにきなさい。お礼に紅茶ご馳走するから」

 

 

「毒を入れられるかもしれない。やめておけ」

 

 

「エレオノーラ。そういう悪罵は品性を損ねるよ」

 

 

 

 そんな風なやり取りでリュドミラと街道にて別れた。名残惜しそうな目を「ティグル」に向けるミラを見つつ、これならば。と思っていた矢先である。

 

 

 

 

 

 ライトメリッツに帰って来て、数日で諸々の用を済ませて遠征軍をブリューヌ駐留軍と合流させようとした二日ほど前のこと。

 

 

 

 公宮に急報が飛び込んできた。

 

 

 

 それはそこにいた誰もを仰天させる情報であり、どんな変節だと怒り、不安、疑義のそれを三者三様で感じながら聞くこととなる。

 

 

 

『公国オルミュッツ軍―――ライトメリッツ国境付近にて集結―――国境砦への攻撃姿勢を見せている』

 

 

 

 ―――そういった報告が飛び込んできたのだった。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。