鬼剣の王と戦姫   作:無淵玄白

44 / 86
『モルザイムの戦い-Ⅰ』

 

 

 

 二千百と九百の戦い。数の上でならば確実に前者に軍配は上がる。だが寡兵で以て戦う術ある以上、それは盤石ではない。

 

 

 それを一番認識しているのは―――――二千百の方であった。

 

 

「前進!!」

 

 

 二千百の軍勢が馬陣を揃えて平原を進撃してくる。

 

 

 

 

 

 その威容と、並び方に指揮官たちは――――目を丸くした。作戦前に言われた通りの陣容と戦術のそれだ。

 

 

 あまりの嵌りっぷりに、何か妖術……いや妖術に近いことを出来るのは知っていたのだが、それでもここまで読み切るとは、頭のキレも大したものだ。

 

 

「正直、話半分でしたが……本当にサカガミ卿の言う布陣で来ましたね。しかも、竜の上に居ますよ」

 

 

「中央三百、右翼二百、左翼二百、後方二百。この布陣で完全勝利を目指す……か」

 

 

 件の自由騎士より渡された「望遠鏡」で所定の位置にて確認したリムアリーシャは、隣にいるルーリックと共に主戦場にいれないことに少しだけの不満も覚えていた。

 

 

 だが、これを『覆す手』が都合よくあらわれるのだろうか。

 

 

 それは――――――。

 

 

 

 

 

『二百の兵を三倍に増やす――――『疾風』―――』

 

 

 

 そう聞かされていただけに、自然と左翼を率いるオルガは空に視線を向けた。確かに今、この平原に吹く風はこちらにとって追い風だ。

 

 

 騎馬の民の馬は強壮であり、優秀だ。ありとあらゆる風に乗ることが出来る。

 

 

 ティグルはこの事態に際して、全騎兵の馬をモルザイムにて放牧していた馬に替えていた。それはただの放牧馬ではなく、いざとなれば、いやすぐにでも軍馬になれる馬だ。

 

 

 それをオルガは分かっていただけに、自分たちが右翼・左翼を突破していく要なのだと理解出来た。

 

 

† † †

 

 

 そんなオルガが感心していた理屈を察して、尚且つリョウの軍略も知っていた右翼を率いるティナは何も不安を覚えていなかった。

 

 

 慢心している軍は一度追い落とされただけで『水鳥の羽音』にいもしない大軍勢を見る。

 闇夜に焚かれる篝火の多さとそれを『角』につけた「獣」に進軍を止められる。

 

 

 何より彼はここに吹く風を知っていた。天文と土地の者とに聞き、この辺りの地形を見たからこそ今、この「時」に―――戦いを挑んだのだ。

 

 

 『偽』を『真』として、『真』を『偽』とする。相手の頭脳の程を察していなければここまでの策は打てまい。そんなティナの不安ごとは―――戦いの後である。

 

 

 

† † †

 

 

 戦いの後に―――何が起こるか、まだ勝ち負けも決まっていないというのに、それを望みつつも、もはや自分はこの戦いに関わるしかなくなる。

 

 

 ティグルヴルムド・ヴォルン伯爵。馬を横に並走している男こそが求めた光だ。しかしそれは魔を討ち払い、この西方の王となるべく運命付けられたものだからだ。

 

 

 だが……そればかりに肩入れ出来る人間とも言いきれてはいない。この男を俺はまだ見極めきれていないのだから。

 

 

「前進か」

 

 

 呟くティグルヴルムドに答えを出す。まだ戦闘距離ではない。奴らの不安感が最高点に達する位置まで、誘いを掛ける。

 

 

「突撃じゃない辺りが、奴らの不安感の正体だ。奴らは今、後ろから来るのではないかという奇襲を恐れている」

 

 

 生憎ながら伏『兵』はいない。これから奴らが受けるのは奇襲では無く「強襲」だ。そうしているとティグルヴルムドが、再び話しかけてきた。

 

 

「なぁリョウ……俺に何か求めたいことあるか? この弓だけが俺の武芸なんだ。それで俺はお前に借りを返したいんだ」

 

 

 彼もこちらの態度の悪さを軟化させたいのだろう。あちらがどう思っているかは勝手だが、それは借りでも何でもないと思う。

 

 

 しかし―――リョウは少しだけ、この狩人領主の実力の程を知りたくて無茶な注文を出す。

 

 

「………ならば俺の『速さ』に合わせて弓を射かけてくれ……正直、援護射撃もなく前に出るなんて怖くてしょうがない」

 

 

「そうなのか?」

 

 

 心底びっくりした顔をするティグルヴルムド・ヴォルンに、先程までのイジワルさを無くして、やはり何故か正直な気持ちを吐き出してしまう。

 

 

「俺はヤーファでも射戦の後の突撃戦で存分に暴れろと言われる。けれども俺にとって突撃戦、乱撃戦ってのは本当に怖い」

 

 

 心底いやそうな顔をしながら語るリョウ・サカガミに、本当の意味で親近感が湧いてしまう。

 

 

「外れそうな矢でもどんなに俺を殺しそうなほどに自分を擦過する矢でも「護矢」は俺にとってはありがたい「護矢」なんだ」

 

 

「若はそんな矢は放ちませんぜ。サカガミ卿、その矢はみんなを守る本当の光なんだ」

 

 

 バートランさんの言葉を聞きながらも、自分はティグルヴルムド・ヴォルンに「挑戦」をしなければならない。

 

 

 この男が本当に王だというのならば、俺に閃光を見せろ。俺に神速の先を見せろ。俺に―――――――。

 

 

 

「俺は何処にだって翔ぶ。どんな援護だって生かす。だから……俺に「魔弾」射ってこい!!」

 

 

 

 その時浮かべた―――互いの顔は、いつまでも忘れられない。お互いに得るべきもの、お互いが欲しかったものが一致した時だったからだ。

 

 

 そして―――最初の激突が始まる。中央突破と見たテナルディエ公爵の弓、騎、歩の三軍九百が中央の三百とぶつかる。

 

 

「突撃!!」

 

 

 最初に号令をかけたのは、エレンであった。中央と言ってもリョウとティグルと少し離れた所にいたエレンの号令は中央で三倍の敵とぶつからせた。

 

 

 もっともエレンの中央軍は全て騎馬兵であり、その突破力はとんでもないものだ。無論、負けじと公爵軍側も騎兵を歩兵と共に押してくる。

 

 

 それでも先手を獲ったのはこちらだ。勢いはこちらにある。

 

 

 エレンの反対側ではリョウとティグルの率いる中央軍がいたのだが……。その時、エレンは――――信じられないものを見た。

 

 

 この場に吟遊詩人がいれば、その様を見て全ての人間の心を打つ最高の武勲詩が唄えて一生を喰うに困らないかもしれない。

 

 

(言いたくないが……言わなければならないかもしれない……私は―――――伝説を、神話を見ている)

 

 

 そうしながらもエレンは迫りくる騎兵に対してアリファールを向けて鎧袖一触をしていく。そんな彼女もそれに近い存在ではあるのは間違いなく敵を恐慌させていたのだから。

 

 

 † † †

 

 

 

 中央から躍り出た黒髪の侍は騎馬から一度降り立ち、飛ぶようにして地面すれすれを跳びながら、剣を振るった。一撃にして隊五十の騎馬全ての脚が止まる。

 

 

 その五十の騎兵に対して次から次へと矢が奔る。己に近い順、二百五十アルシン先の距離を時間差で撃っていたからなので、タイムラグはあった。

 

 

 だが傍から、それはまるで『同時』で突き刺さったように見えた。飛来した『閃光』が落馬した騎兵全ての眉間を正確に射抜いた。

 

 

 面頬の隙間から突き刺さるそれは、ただ一人の所業だ。

 

 

 騎馬の壁が崩れてそこから次の敵。今度は歩兵だ。長槍などを翳してこちらに近づけないような戦法。

 

 

 気合いを込めて放たれるそれを前にして侍は跳躍。歩兵百の頭上を飛んでいく。そうして頭上を見た瞬間の隙を狙って、後ろにいた弓兵―――騎馬を操りながらも見事に矢を放ち、歩兵を一矢で三人まとめ殺す。

 

 

 前の恐慌が伝わると同時に、後ろにいたサムライは神速の乱撃を繰り出す。歩兵集団を一刀の下で殺していきながら、弓矢の位置が分かる。

 

 

 変な話だが―――「お互いの呼吸」が分かるのだ。

 

 

 弓は、ヤーファの弓術―――ヤブサメ(流鏑馬)のように歩兵集団をぐるりと回りながら撃ちぬいていく。しかしそれは歩兵集団を中から斬り殺している刀には当たらない。己の位置を理解して、相手の呼吸が分かる。

 

 

 それが戦場の絶技を生み出していた。殺しつくすと同時に弓の前に出る刀。それはまるで『王』と『王』の狩りの成果を見せ合うかのように一致したものだ。『示しあわせた』わけではないが『示しあわせてしまう』

 

 

 そんな少しの待機時間に、背後を狙う狼藉者の矢が飛ぶ。歩兵の後ろにいた弓兵部隊の矢だが―――それを刀―――リョウは回転するようにして得物を一回転させて打ち落とした。

 

 

 自分と弓――――ティグルヴルムドを狙ったものだけを正確に打ち落とし、リョウが落とした矢を空中で受け取り弓に番えるティグル。

 

 

 三矢―――扇状に狙いをつける。

 

 

「リョウ!」「―――ティグル!」

 

 

 何でもない呼びかけ。だがそれだけで意は伝わった。弓隊は一列に並んでいる。それを前にしてもティグルは自分に覆うように撃つ。背中に迫る矢、残り二十アルシンに迫る所で、身を屈めてやり過ごすだけでなくその矢の軌道を追う。

 

 

「ひっ!!!」

 

 

 悲鳴を聞きながらも、手を貫かれ弓を落とした一人の首を落とす。もはやここまで迫った時点で弓隊は混乱に陥っていた。

 

 

 胆で睨みつけながら、弓隊に停滞を促す。それこそが最後の敗着であった。

 

 

(俺ならばもう一度試すね! 『魔弾の王』が照準を合わせる前にだ!!)

 

 

 先程放たれた矢の軌道を逆回しにするかのように、混乱して止まっていた弓隊に絶命の矢が突き刺さる。

 

 

 弓隊の死体の前まで来たティグル、その弓隊の無用となった矢筒を投げ渡してから、口笛を吹き馬を呼び寄せる。

 

 

「たかだか三十人ばかりの弓隊で援護射撃が出来るわけがない……本命は竜の上か!」

 

 

「エレオノーラの方を支援する。横っ腹を突き破る―――――もっとギリギリでも構わないぞティグル。俺の速さを舐めるな」

 

 

 と言いつつも、原因は分かっている。こちらの言葉に苦笑するティグル。

 

 

「矢のストックが追いつかないんだ。しかしお前は、あんな戦陣の中をいつも援護射撃なしで戦ってきたのか?」

 

 

「あっても俺の速度に合わせられるほどの天下無双の弓取りがいないんだよ。だから俺は―――一人で戦ってきた」

 

 

 無論、自分よりも速く重い剣士がいないわけではない。それでも俺の「意」を汲み取れる存在はいなかった。精々、サーシャのような三速ある剣士ぐらいだろうか。

 

 

「―――俺は、俺の弓の「意」をリョウが完全に読み取っていることが嬉しい。そして何より―――俺を必要としてくれる剣士が―――いたことが」

 

 

 矢が思い通りの軌道を描けば、その先の道を切り裂いてくれる剣士。剣が主役でもあり、弓が主役でもある。

 

 

 どちらが欠けても「先」にはいけない。神域の絶技―――。

 

 

「行こうぜ。話してる間にも作戦は推移しているんだ――――」

 

 

 話を打ち切り、そっぽを向くような形で、馬をエレンのぶつかっている方向に向けるリョウ。

 

 

「クサかったか?」

 

 

「恥ずかしいんだよ」

 

 

 それをクサいというのではないかと思いつつもティグルはあえて言わなかった。先程までのどこか硬かった態度が軟化していたからだ。

 

 

 多分、リョウに自分は試されていたのだ。だが、認めてもらえた。それが嬉しい。

 

 

 まだ自分はリョウ・サカガミの事を全て知っているわけではない。けれども―――いつかはお互いの全てを曝け出せる友になりたいと思えた。

 

 

† † †

 

 

 そうして中央での鬼と魔弾の悪魔的な活躍は戦場での予想外の展開を誘発することになる。

 

 

 確かにこうして中央で受け止めて火竜と地竜を釣る作戦ではあったのだが、それ以外の効果として、元々の恐怖心も合わさって歩兵部隊は恐慌状態になったのだ。

 

 

 騎兵を操る殆どは騎士という「職業軍人」であるのだが、歩兵の大半は兵士、領民を徴収した「市民軍人」である。

 

 

 彼らにとっては略奪出来るからこそ着いてきたわけで、何より従軍して俸給が出ると言っても、上司である領主次第でどれだけ出るか分からぬし、彼らからすれば、生まれた土地を守る防衛戦でもなし、何故こんな辺境に来て死ななければならないのだという感覚が出てきた。

 

 

 そして血臭に混ざって風に乗って香るこの匂い。恐らくアルサスの料理の匂いが、鼻に突く。何故自分たちはここで無為に死んでいるのだと、郷里に似た匂いの料理が作られているというのに……何であんな非道な領主の為に戦わなければならないのだと。

 

 

 これに関しては、ヴァレンティナの策略であった。

 

 

 彼女は、各国の軍人の錬成と来歴の程から、ブリューヌの騎士団以外の貴族軍の殆どが市民軍人であることを分かっていた。

 

 

 そこで各地方の味わいある料理の特徴を察してそれぞれの地方の特徴で「燻製」した「塩」を開発することに成功していたのだ。

 

 

 アルサスの野戦食に使わせたのは、効果があるかどうかの実験でもあったのだが――――。

 

 

(試しにやってみましたけれど……まさかここまで効果覿面とは)

 

 

 エザンディスの刃で顔を隠しながらほくそ笑む。これを利用すれば間諜達を現地人として紛れ込ませることも容易になる。

 

 

 しかし謀略の類は、今は置いておく。目の前の戦いに集中しなくてはならない。

 

 

 右翼左翼の部隊は未だにテナルディエ軍と矛を交えていない。

 

 

 テナルディエ軍の陣容は中央千、右翼四百、左翼四百、本陣に三百である。

 

 

 おまけにここからでも見えるが、どうにも後ろをしきりに気にしている。戦力を広く展開していれば確かにディナントでも勝てたはずだ。それは自分も分析した。

 

 

 ザイアン・テナルディエはそれに従軍していたのだろう。そしてエレオノーラがそのディナントでの軍勢であることは既に知れている。

 

 

 故に寡兵で以て来る以上、伏兵を気にしているのは当然だが……。

 

 

 そんな風に考えを巡らしていた時に――――遂に待ち望んでいた疾風が吹いた。

 

 

 

 羅轟の月姫と虚影の幻姫が、己の武器を掲げる。風にも負けず掲げた武器。そして示される指示で遂に―――戦端が開かれる。

 

 

 

『シュトゥールム・プラルィーフ!!!』

 

 

 

 符丁に従い右翼と左翼の騎兵は、飛び出した。モルザイム平原を怒号と共に蹴って迫る四百の騎兵。

 

 

 それは風の勢いもあり、まるで神話に出てくる怪物のようにも思える突撃であった。

 

 

 リョウがこの右翼左翼の軍団に願ったのは――――中央と同じく強襲である。相手の攻撃を弾きながら、進撃に次ぐ進撃で防衛線に穴を空けることであった。

 

 

『一回通過したならば、そのまま敵本陣を下がって背後を突く形になれ――――』

 

 

 丁度、テナルディエ軍は丘を背にする形で離れて陣取っていた。なだらかな丘は、大体主戦場から450アルシンといった所か。

 

 

『斥候がしきりに丘の向こうにいるだろう伏兵を探しているだろうが……意味は無い。オルガ、絶対にお前は丘までいけよ』

 

 

 変化させて長斧と化したムマを振るいながら、オルガはこれが将としての戦いなのだと自覚していた。多くの策を成功させることは、全員の活躍あってこそ成るものなのだと。

 

 

 疾風の勢いで右翼の部隊を食い破って距離を離す形で、左翼の部隊と共に丘まで疾走する。

 

 

 抵抗が弱々しく歩兵の殆どが戦わずに、武器と鎧を捨てて去っていくと、神速の突破をティナとオルガに与えた。

 

 

 敵騎兵達は、向い風で動けぬ所を簡単に撃破された。勢いに乗った軍隊の行軍とは止められることなき風車のようなものだ。

 

 

「トレブションさん。ティグルに伝令を!」

 

 

「了解だよオルガちゃん!!」

 

 

 示された通りに伝令役のアルサス兵士が騎兵軍から離れて、元来た道を大きく迂回する形で、陣営に合流することになる。

 

 

 

 ―――――それを見送ってからオルガは馬笛を吹いて、銅鑼を鳴らすように言った。

 

 

† † † †

 

 

 

 そんな背面を取られたことに対するテナルディエ軍の動揺は激しかった。

 

 

 ザイアンは慎重に、四方八方に斥候を飛ばして伏兵がいるかどうかを慎重に探るようにしていた。しかし見つかるはずの伏兵は居らず――――疑心暗鬼を生みつつも一つの結論を生み出していた。

 

 

「前にいる戦力が全てなんだろう! 奴らを突破する! 如何に自由騎士と戦姫が強卒であろうと戦力は我らが上回っているんだ!!」

 

 

 結論して、行軍させてきたのだが―――。予想外の事態ばかりが起こっていた。

 

 

 まずはこのモルザイムに吹く風だ。追い風を受けた敵方の騎兵の突破力は通常以上だ。これには馬の種類の違いも大きい。

 

 何せアルサス及びライトメリッツ軍の騎馬の殆どは、騎馬民族のものであり、その勇壮さは他国も買い求めるものだからだ。

 

 

 そして戦力の散逸が風の効果を生み出した。中央の突破力は恐ろしく如何に竜を擁していても、兵士達の多くは恐慌、及び風に乗る飯の匂いが彼らを戦闘不能とした。

 

 

 これでもしも通常のブリューヌ式の突撃陣形であれば、激飛ばしも効果あっただろうが、騎士という「上役」なく「兵長」程度の連中が率いては、その激が飛ぶ前に戦場からの逃走を生み出した。

 

 

「くそっ!! 兵士達に逃げ出せば厳罰だと告げろ!!!」

 

 

「無理です。自由騎士と戦姫―――それと弓の閃光が煌めく度に、恐怖が上回ります!!」

 

 

「奴らが最初から我々を壊滅させる意図だったのはこれが理由か!!」

 

 

 寡兵で以て、真正面から受けて立つという姿勢でいたこと―――それは、後方司令部には疑心暗鬼を生みださせて、前線には二千百を壊滅させるという意思表示をすることで兵士に脅しをかけたのだ。

 

 

 何より兵士の動揺だけはどうしようもない。死人に口なし―――。そうであるというのならば最初から厳罰も何もあったものではない。

 

 

 テナルディエからの懲罰よりも、命無くば意味は無い。こちらの勝ちの目を見せないことで、戦力を無効化させた。

 

 

「ザイアン様、中央を撃破する―――それしかありませぬ!」

 

 

「……分かった。我らが出なければ兵士達も戦わぬだろう……! 『地空の合一』で中央の自由騎士と戦姫を撃滅する!!」

 

 

 

 背後から攻められても前に突っ切ればいいだけだ。重臣の一人の言を聞きながら、ザイアンは決意した。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。