鬼剣の王と戦姫   作:無淵玄白

24 / 86
「凍漣の雪姫Ⅱ」

 

 

「で、どうなんだ?」

 

 

「どうなんだって聞かれてもね……幾ら君でも僕の色恋にまで口出されたくないんだけど」

 

 

応接室にてこちらにずずいっ、と顔を近づける銀髪の戦姫に黒髪の戦姫は困ってしまう。

 

 

銀髪の戦姫の横には対応するかのように金髪の戦姫がいて、紅茶を優雅に啜っている。彼女が今回の原因でもある。

 

 

しかしそれ以上の原因は――――黒髪の戦姫―――アレクサンドラ・アルシャーヴィンの想い人にあった。

 

 

(何もエレンに言わなくてもいいのに……)

 

 

彼女に言えばどんなことになるか分かっていそうなものだが、いや金髪の戦姫ソフィーヤ・オベルタスは分かっていてやったのだ。

 

 

こういうプライベートな事を態々話すという辺り、彼女は面白がってやったわけ……がないと言い切れない笑顔を見せるソフィーに苦虫を噛み潰した思いだ。

 

 

「何を言うんだ。事はジスタート全体にも及びかねない問題だ。あの男を私は陛下やユージェン様ほどに信用はしていない。戦姫に取り入りとんでもないことを行おうとしているに違いない」

 

 

「嘘はいけないよエレン。そういう他人に吹き込まれたことを自分の意見のように言うのはよくない」

 

 

こちらの言葉に体を少しだけ硬くした妹分。恐らくソフィー辺りからそんなことを聞いたのだろう。

 

 

「そしてソフィーもそんな風に正面切って自分で聞けないならば、そんなことを吹きこまないように」

 

 

「ごめんなさいね。それじゃ実際の所どうなの? シレジアでは一緒の部屋だったじゃないあなた達」

 

 

そう。シレジアへの召喚の後に自分は、王都を少し遊びたいと言って地元の宿屋に二泊ほどしたのだ。

 

 

その際にリョウは、二部屋取ろうとしたところを、「色々」と聞いていただけに「一部屋」として泊り込んだ。

 

 

「そ、それは私は初耳だぞ……」

 

 

「まぁ何とかヴァレンティナの優位性を崩したかったからね。僕も年齢が年齢だから少し余裕が無い」

 

 

「何を言っているんだサーシャ。サーシャはソフィーよりも若々しいぞ。寧ろソフィーの方が老け―――」

 

 

最後までエレンが言えなかったのは、ソフィーの竜具「ザート」が頭に叩き込まれて硬い床に突っ伏したからだ。

 

 

とはいえ、親友とも言えるソフィーにまで黙っていたのは悪かったかと思う。

 

 

よって――――――――。

 

 

「実際の所どうなのかしらサーシャ、リョウは優しかった?」

 

 

ソフィーの直球な質問に対して。

 

 

「それに関してはノーコメントだよ。ただ女として―――何で十年以上もこんな熱い交わりを知らなかったんだろうと後悔はしたね」

 

 

『!?』

 

 

少しだけ虚実織り交ぜた話をすることにした。

 

 

しかし頬に手を当てながら滔々と語る自分の姿が、目の前にいる二人の戦姫を更に狼狽させたのは紛れもない事実である。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

リュドミラ・ルリエは、国内ではかなり珍しい戦姫である。そもそも戦姫という存在も珍しいのだが、それはともかくとして彼女らは竜具によってさだめられた為政者であり、竜具の選定は本当に突然なものであり唐突なものだ。

 

 

騎馬民族の幼い娘が選ばれたことから竜具の選ぶ戦姫というものには規則性があるのかどうかすら不透明になっている。

 

 

ジスタート人のみが選ばれるというわけでもないということを鑑みるに血によるものが選定の条件とも言えなくなっている。

 

 

国内の識者によれば、そういうことらしい。そんな中でルリエ家は三代続いての戦姫の家系であり、ちょっとした名門貴族以上の権勢を誇っているともいえなくない。

 

 

ルリエ家の領土ともいえるオルミュッツは、彼女の竜具の属性ゆえにかそれとも何かしらの要因があってか、南部に位置しながらも寒冷な土地である。

 

 

歩きながら思うことは何故にブリューヌ王国は自分を招待したいのか、ということだ。

 

 

イルダー公王の公国運営に一段落着いたところで、ジスタートに帰ってくると同時に王都からの急使がやってきた。

 

 

内容としては―――ブリューヌ王国にて武祭が行われるとのことで、それにゲストとして招きたいとのことだ。

 

 

疑問は尽きない。何故自分なのか。戦姫を招くことも出来ただろうし、イルダーだって今は忙しいがかなりの豪傑であり剣上手だ。

 

 

(まぁ色々あるんだろう。国境を隣接している国がブリューヌは多い……不安要素に対してはいち早く正体を掴んでおきたいのかもな)

 

 

ジスタート、ムオジネル、ザクスタンという三国と国境を接しているブリューヌはある意味不幸なお国柄だ。

 

 

東西南北どこを向いても侵略国家ばかりだ。そんな中でもジスタートは、そんなに頻繁に侵攻を行わないことで安心もしていた。

 

 

そんな中で自分が現れたことが本格侵略の前段階だと疑われるのも無理からぬ話だろう。

 

 

だからこそ今回、オルミュッツに来たのはそんなブリューヌの事情に詳しく色々と知っているリュドミラに知恵を乞いたかったからだ。

 

 

ティナやソフィーでもよかったのだが、それでも期日としては差し迫っている色々と忙しそうな二人と別れて、そのままジスタート南部に向かって、リュドミラとの話で今回の招待に関してとブリューヌという国の内情に迫りたかった。

 

 

オルミュッツの戦姫の居館の前に着くと同時に門番に何者かということを告げて、次に用向きを話す。

 

 

数分もすると、文官の一人がやってきて案内をしてくれる。その文官曰く、リュドミラは少し準備があると少し待たされるようだ。

 

 

「忙しかったですかね?」

 

 

「いえいえ、戦姫様が良いお茶を提供したいとのことで少しだけ気合いを入れているだけですのでお構いなく」

 

 

そこまで気を使わなくてもいいのに、という思いで待合室で数十分待っていると。

 

 

「義兄様、お久しぶりです」

 

 

「久しぶりだなミラ。元気にしていたようで何よりだ」

 

 

「ええ、この前もサーシャの所に来ていたエレオノーラを完膚なきまでに叩き潰してきましたから♪」

 

 

笑顔でそういうことを言うんじゃないと思いつつもリプナの街に来ていたサーシャから、事の顛末は聞き及んでいた。

 

 

結論としては、仲良くケンカしなという辺りだろう。本当はどっちも仲良くしたいのだろう。どちらかといえば歩み寄ってきたミラをエレオノーラが邪険に扱ったという感じだが、サーシャによれば、彼女もまた余裕が無かったようでもある。

 

 

「急な来客で済まなかったが色々とお前と話したくてな。構わないか?」

 

 

「ええ、私もブリューヌ関連のことであろうとは予測していましたから、どうぞこちらへ」

 

 

案内された部屋は豪勢ともいえるし質素ともいえる。何を言っているのかは分からないとは思うが、そういった印象を持つ部屋だ。

 

 

客間ではなく……。

 

 

「ミラ、年頃の乙女が簡単に私室に男を招くものではないよ」

 

 

「大丈夫ですよ。義兄様はあんまり私に女として見てはいないというのは分かってますから」

 

 

そういう意味での信頼は有難いのだが、それでもそういうのは自分を安売りしすぎだ。

 

 

「それに内密の話をする上では、ここの方がいいでしょう」

 

 

隠すことでもないとは思うが、ミラの家はそれなりに古い名家であり、古桶の底のように思わぬ穴が開いている可能性がある。

 

 

つまりはブリューヌの間者がいる可能性が高いのだ。そう考えればそこから桶屋が儲かるなどということは勘弁願いたい。

 

 

ミラの出してきたソファに腰掛けてから彼女の淹れる紅茶の香りが部屋中に籠る。

 

 

それにジャムを入れるのが彼女の飲み方であり、品のある苦味と甘味が舌に広がり、気持ちが弛緩していく。

 

 

張りつめたものが無くなるのを感じているとミラの微笑が眼に入る。

 

 

「先程までの義兄様は少し尖った細剣の如き張りつめ方でしたけど、少しは落ち着きました?」

 

 

「一本取られたな……。ならばミラ、少し真面目な話をしようか、ゆっくりと穏やかにな」

 

 

「よろしいですよ義兄様。ではどのようなことを―――」

 

 

彼女も一口紅茶を含んでから、笑顔のままに会話が進んでいく。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「成程、王都では随分と楽しそうでしたねティグル様」

 

 

「そんなことは無いよ……アルサスの、ティッタの手料理が恋しかった……いや、本当だぞ」

 

 

闇の女神を信仰しているわけではないのだが、ティッタの様子が色々と不味いものに見える。

 

 

そんなティッタの様子を意に介さずに、シチューを食べるオルガの様子がとことん憎らしく見えてしまう。

 

 

「大体、レギンは大貴族の娘だと思う。俺みたいな小領主なんかに手が届く相手じゃない」

 

 

「色々と王都を見て回りながら、飲んだり食べたりいちゃついたりしていたそうじゃないですか」

 

 

「色々と誇張がありすぎる……」

 

 

「けれどレギンさんは、明らかにティグルに好意を抱いていた」

 

 

弁解しようとして、一部の事実を認めつつも語弊を解こうとした瞬間に、オルガからの追撃が加わり、もはや詰みとなってしまった。

 

 

「とにかくレギンは大切な友人だ。そこまで干渉されたくないぞ俺は」

 

 

「け、けれども……げ、現地妻とかダ、ダメですよ」

 

 

どんな想像をしていたのかは分からないが、現地も何も自分はまだ誰とも結婚していないのだ。

 

 

「そんなことをするにはこの領地に於いての妻を迎えなければいけないな。とはいえ俺と親しい同年代の女の子なんてティッタぐらいじゃないか」

 

 

呆れつつも、近隣の領地には貴族の子女なんていないのだから、政略結婚の可能性は低い。となると可能性としては恋愛結婚。自分の親しい相手と結婚するしかない。

 

 

過疎化及び高齢化が著しい村などだとそういう風なのが、通例となっている。小領土の貴族にすらそういう通例が適用されてしまうのは仕方ない話だ。

 

 

「そ、そんなティグル様ってば、そこまで情熱的に求められると困りますよ」

 

 

「オルガ、どうしようティッタと会話が成立していない」

 

 

身をくねらせながら顔を赤らめている幼なじみの少女の様子に助けを求めるもアルサスの客将の返答は、冷たいものでありティグルには少しばかり理解が及ばなかった。

 

 

「安心していいティグル。ティッタさんは全てを理解している。そしてティグルは己の言葉の重みを理解していない」

 

 

訳が分からない思いに囚われつつも、ティッタからアルサスにおける自分がいない間の報告を受ける。

 

 

「変化というほどのものはありませんが、そうですね。とりあえず管理者募集の触れに何人かが応募してきました。一応どこそこの誰というのは記しておりますから後で目を通しておいてください」

 

 

「早いな。それはアルサス領内の人間なのか?」

 

 

「ええ、ただ職にあぶれたというわけではなくて、大きな仕事をやってみたいといった感じの方ばかりですね」

 

 

領内の風邪通しを良くするために、これまでなるたけ失職者や失業者を出さないようにしてきたので、そういったのでないだけ少し心落ち着く。

 

 

本当に食い詰める前に、男ならば騎士となるためニースに、女であれば踊り子や詩人になるためムオジネルへといった感じになるのだが税収を落としたくないので、出来ることならばアルサスに落ち着いてほしいのがティグルの意見だ。

 

 

しかしそれでも……胸に大望を抱いている有志であれば、ティグルもそれを送り出したい。国内最強のナヴァール騎士団ではないが、現在はカルヴァドス騎士団に所属しているオーギュストのように。

 

 

「大望を抱くか……東からやってきた「竜」は何を求めて西方にやってきたのか……」

 

 

あの円卓の会議の後に何気なくヤーファに関して更に知りたかったので図書館にて調べものをした際に、東方見聞録というタイトルの本によれば、「竜」という言語は東方に於いては「リュウ」「リョウ」とも呼ばれるらしい。

 

 

リョウ・サカガミという剣士――――。その名前を聞いた時から自分はその男に嫉妬をしているのだと気付かされた。

 

 

自分も弓蔑視のブリューヌを捨て去り、弓を重視する国。彼のヤーファのような所に行けたならば我が身の窮屈さも少しは解消されるのではないかと――――夢想して意味のない想像だと感じた。

 

 

「生れの責任からは逃れられないな」

 

 

「ティグル様はアルサス以外に生まれればよかったと思っています……?」

 

 

「ブリューヌ国家ではない「アルサス」であればよかったとは思っているよ」

 

 

ティッタの不安げな視線におどけた回答をしたが、その答えにティッタは笑って自分たちもどちらかといえば「アルサス人」という意識だと言ってきた。

 

 

そうして一しきり笑った後に、ここまで殆ど口を挟んでいなかったオルガが口を開いた。

 

 

「そういえばティグル。先程山道沿いの村から山に竜が出たという報告が来ていた。被害は無いが、どうする?」

 

 

「やれやれ……リョウ・サカガミの事を考えていたらば違う「竜」が出てくるか」

 

 

頭を掻きながら考えるも緊急を要するものではない。竜はあまり町や村には降りてこない。放っておくのも一つだが、あまり村の蓄えが無くなるのは困る。

 

 

何より――――。

 

 

「ティッタの作る「ベックオフ」は絶品なんだ。材料の熊や猪をたっぷり食い殺されてはたまらない」

 

 

「ティグルは大物だよ。食欲の為に竜退治を決意するんだから……」

 

 

呆れつつもティッタのシチューをお代わりしているオルガに言えた義理ではなかった。

 

 

 

 

ミラから聞かされた話は聞き及んでいたことと大差なかったが、それでも王宮の識者よりも一歩踏み込んだ内容を自分に語って聞かせた。

 

 

テナルディエとガヌロンの二大貴族の覇権争い。それに王宮の三つ巴の戦いでありながらも……そこを狙って近隣諸国が食指を伸ばそうと牙を研いでいるという。

 

 

「戦争が起こるのか、ブリューヌで」

 

 

「多くの人間の認識はそうです。ただそれがいつ、どんな形で引き起こされるかについては不透明というだけ。無論、現在の皇太子であるレグナス王子を廃するだけの事態が起きれば即座に王位継承権を持つ親族を御輿にして二大は争うでしょう」

 

 

暗殺者を利用しての謀殺であるならば必然的に疑いはこの二大に向くのが普通だ。即ち現在の主流、ファーロン国王とレグナス皇太子の二人を抹殺した上でしかこの二大は戦えない。

 

 

「王宮としてもこの二大貴族が相争って、力を無くすことで復権を望んでいるようですが、その一点に関しては共同歩調をしていますよ」

 

 

言う度に伏し目がちなミラに少しの疑問を抱きつつも、頭で整理すると……ブリューヌの状況は正に一触即発である。これではジスタートもあまり手を出したくはなかろう。

 

 

無論、領土を増やすチャンスがあれば参戦もするだろうが、今の状況では正直言って余計な火傷を負いかねない。

 

 

場合によってはいらぬ敵を増やすこともありうる。つまりムオジネルやザクスタンという違う餓狼とエサを巡って戦うことにもなりかねない。

 

 

「ジスタートとしては余計な飛び火さえなければ静観したいでしょうね。義兄様の活躍で海洋の領土が増えたのですから」

 

 

「だが食糧事情を改善するという上ではそんなによろしくは無いと思うが、肥沃な土地に温暖な気候のブリューヌはジスタートにとっては喉から手が出るほど欲しくなるもののはず」

 

 

「そこで貿易というものですよ。リョウ義兄様とて同じ考えのはず」

 

 

試すような意地の悪い質問だったかと思いつつも、少しだけミラの表情が和らいだのに喜びながら、紅茶をもう一杯飲もうとしたところに。

 

 

「お注ぎしますよ」

 

 

と言って茶葉を取り換えたミラの表情はこちらに少しだけ挑戦的な笑みを浮かべていた。

 

 

(何か企んでいるな……)

 

 

義妹のそれを見ながらも、黙って成り行きを見守る。そうして出されたものは紅茶の色では無かった。

 

 

「これは……」

 

 

「ご試飲を、私は結構気に入りましたけど人によっては砂糖が欲しいのではと思いました」

 

 

心地よい苦味が口の中に広がりつつもその後には清涼感を感じる。

 

 

「本来は甘い菓子と一緒にすることで引き立つんだよ……緑茶は」

 

 

これだったらば何か茶菓子を持ってくるんだと思ったが、だんごも煎餅も作れない。何せこの地には「米」が無いのだから。

 

 

ここにサクヤの作ってくれる和菓子が欲しかった。という女々しい思いを打ち消すべくもう一口入れて口中を苦くする。

 

 

「ああ、それとムオジネル商人やヤーファ商人などが最近、米を輸入・輸出する計画を立てているそうで」

 

 

余剰生産が出来ているのかもしれないが、それでもまさか嗜好食品として米を求めるとは、どんな心境の変化か。

 

 

「まぁその辺りは我が故郷の施政方針次第だ。俺が態々口に出すことじゃないな」

 

 

「冷たいですね」

 

 

「信頼しているんだよ。サクヤも和紗のことも―――みんながいたから……俺はこうしていられる」

 

 

緑茶の味わいに故郷での多くの思い出が脳裏を過る。自分の旅の節目……それは恐らくだが、このブリューヌ王国で始まるだろう事変で決まる。

 

 

そんな予感がある。それが終われば一度は故郷に帰るのも悪くないかもしれない。

 

 

「それじゃ最後の質問なんだが……ミラ、お前はブリューヌに関して「どちら」と繋がりが深い」

 

 

こちらの探り針にミラは少しだけ眦を上げる。いかに尊敬する義兄とはいえ、そこまで干渉されたくはないのだろう。

 

 

だが、それと同時に少しだけの落ち込みも見せる。

 

 

「ルリエ家が何代も前から付き合いを深くしてきたのは間違いなくテナルディエ公爵家です。しかし……私としては……正直、これ以上付き合いたくは無い人物です」

 

 

確かにテナルディエ公爵はブリューヌを代表する大貴族であり、それに違わぬ財力と政治力を持ち合わせ取引の決済において信頼は高い。

 

 

しかし、遠く離れたこのオルミュッツの地にすら彼の小覇王の悪逆無道と奸賊の程は、誇り高き彼女の肌には会わないのだろう。

 

 

「……けれど、私の私的な感情だけで物事の取捨選択を決められはしません」

 

 

手を組み合わせて胸の前で宙を漂わせている弱々しさは戦姫という異名には似合わない。

 

 

良友と誇りを尊ぶ彼女からすれば、テナルディエのような悪人かつ大逆を旨としている人間との付き合いなど斬りたいのだろう。

 

 

悪漢を信ずればその人間も悪漢と見られてしまうかもしれないのだから。

 

 

「だが商売の鉄則とは本当の意味で相手が信頼できるかどうかだ。ミラがその人間を信ずることが出来なくなれば付き合いはやめた方がいい」

 

 

取引をする相手が取引相手に不実を行わなくとも、自分の身内に不実を行い続けていればその矛先がいつか取引相手に向かわないとも限らない。

 

 

例えその相手がどれだけの財力や権力を持っていたとしても、己の力を不当に行使し守るべき相手にすら不実を行い続けていればそいつはどうあっても取引の相手として失格だ。

 

 

「商人ムオネンツオだったか……俺はあの話には重大な落ち度があると思っている。家族にすら非道を行う奴が、赤の他人に非道を行っていない訳がない」

 

 

その中には恐らくムオネンツオと取引をして損をさせられていた同業者もいたはずだ。ただの損ではなく大損であり、破産にも匹敵するものが。

 

 

「けれど義兄様、全ての人間が幸福を得ることは限りなく難しいと思います。無論……目指すべきだと思いますけれど」

 

 

「ああ、ミラは賢い子だ。だから……あんまり視野狭窄にならず――――多くの相手と友誼を交わすべきだよ。つまらぬ特技しか持たぬ相手であってもそれがどんな利益につながるかは分からないのだしね」

 

 

『鶏鳴狗盗』ではないが、一人の相手とだけの取引ではなく多くの人。多くの可能性を探るべきだ。というミラに対する助言の回答として旅袋の中から一抱えもする鉱物を出す。

 

 

土が机に乗らないように布を広げた上で、鉱物を置いた。その石の塊にミラは眼を丸くしていたが、それが鉄に似ているようで、銅とも銀とも金でもない鉱物だと知り、興味を示す。

 

 

「リョウ義兄様……これは?」

 

 

「俺がオニガシマの開発事業を監督しているのは知っているな。今はイルダーに任せているが、あそこの鉱脈には色々と面白いものがあってな。その中でこいつが出てくるとは思わなかった」

 

 

退魔金属―――この辺りでは「ミスリル鋼」などと呼ばれているものだ。

 

 

「今までは陶器生産だけだと思っていたが……まぁこれを使えばそれなりの武具が創れるはずだ。その先駆者としてオルミュッツのトリグラフアーマーを生産している職人達の派遣を要請したい」

 

 

無論、無料とは言わない。と言いながらもミラ自身は、こちらの言葉よりも金属そのものに対して興味を抱いているようだった。

 

 

「確かにこの金属は竜具に通じるものを感じますが……何故、義兄様はこれを知っていたのですか?」

 

 

「それの来歴という意味で言うならば俺のご先祖由来としか言いようがないな」

 

 

鬼の一族は冶金技術に長けており、自分の家でもその技術は伝わっている。

 

 

「これが新たな公国においてあるのですか……?」

 

 

「パッと見だがオステローデの鉱脈にもありそうなんだよな。まぁこれを使って武器なり鎧を作ってみることをお勧めするよ。俺の剣技に耐えられぬ鎧では、いずれヤーファの剣士が大挙すればやられるよ」

 

 

「そんな気なんて無いでしょうに……とはいえ、面白い金属です。少しだけ……取引相手を見定める前条件にはしていこうと思います」

 

 

もしもテナルディエとの付き合いをやめた場合でも良き取引先としてイルダーの国を示すことで、ミラの気を休めることぐらいは出来るだろう。

 

 

それともう一つには、オルミュッツの武具の良さを上げることで、何かがあった時に即座に戦力を増強させたい。

 

 

言うなれば万が一の時の保険である。保険が用をなさない時にはオルミュッツ、オニガシマ、オステローデが軍備に於いて頭一つ上になるだけの可能性もあるが……。

 

 

(そん時はそん時だ)

 

 

「さて可愛い義妹からのお茶も尽きそうだ。そろそろお暇しようかな」

 

 

「もう行かれるのですか?」

 

 

立ち上がり、荷物を持った自分に言うミラだが、召喚状に示された期限とニースまでの距離を考えれば、そうそう逗留しているわけにもいかない。

 

 

第一、一番近いルートであるライトメリッツを通るわけにもいかないのだ。

 

 

(あの女のことだから交通税とかとんでもなく吹っかけてきそうだし)

 

 

『お前は金貨千枚置いていけ』

 

 

などと言いかねない。エレオノーラに見つかる前に関所を突破すればいいだけの話だが、どうなるかわかったものではないので。

 

 

こちらのルートを通ろうとしたのだ。

 

 

もっとも海路を使いオードからニースへ向かう手もあったのだが、それはミラに会うことは出来ないルートだったので最初から考えはしなかった。

 

 

第一、最近海ばかり見ていたので山が恋しくなってしまった。それが一番の理由であった。

 

 

「義兄様は色々と気苦労を抱え込みますね。あまりあれこれ気を回さなくてもよろしいのに」

 

 

拗ねた事を言うミラの気持ちは分からなくもない。もう少しだけ確かにミラと一緒にいて武芸や様々な事を話したかった。

 

 

「自分で出来ることはなるたけやりたいんだ。まぁ領主としては頼りがいはあっても王としてならばあまり部下を信用していないと見られかねない」

 

 

自分が王に向かないのはそういう所にもあるのだろう。

 

 

居館を出ると同時にひりつくような気配を覚える。殺気の類だとミラも理解すると同時に体を硬くする寸前に小声で警告を発する。

 

 

(気付かれるな。ここで流血沙汰はまずいだろ)

 

 

(……ご武運を)

 

 

そうして居館の外まで仲睦まじく歩き、再会の約束をすると同時に、門番に一礼してからミラの屋敷を辞して借り馬の場所に向かう。

 

 

そこまで襲撃が無かったことを考えれば、こちらにそれを向けている襲撃(予定)者は、オルミュッツ内で襲うことはしないのだろう。

 

 

それはリョウにとってもありがたいことだったが、『技能』から考えるに、愚策ではないかとも考えた。

 

 

†  †  †

 

 

(間違いない。テナルディエ公の放った暗殺者―――七鎖(セラシュ)に通じる相手だわ)

 

 

テナルディエという貴族は真正面からの戦いにも長けているが、それ以上に謀殺も得意としている。

 

 

特別に育てた暗殺者や雇い入れた暗殺者も多数存在しているという話だ。

 

 

何故、テナルディエの暗殺者と分かるかと言えば、単純な話―――彼はこちらの居館に間諜を放っているのだろう。

 

 

そして自分も、ブリューヌの情勢を大きく知るためにそれなりの情報屋から買っている。

 

 

それによれば、テナルディエはリョウ・サカガミをあからさまに排除したいという情報だった。

 

 

場合によってはブリューヌ国内で暗殺してしまうことで国王の失点にしようとしているとの話だ。

 

 

「義兄様が負けるとは思えない……けれど……」

 

 

胸を押さえて、義兄の去った方向を見つめ続ける。胸騒ぎがする。だからと言って簡単に自分も離れられない。

 

 

それは義兄の誇りを汚す行為だと知っていたし、何よりこのままではブリューヌまでついていってしまいかねない。

 

 

そこまで出来ないのだ。自分とて責任ある立場なのだ。だからこそ―――――――――。

 

 

「あら? 思ったよりも早く会えたわねリュドミラ。少し尋ねたいことがあるんだけど、いいかしら?」

 

 

門番も思わず敬礼を忘れる形で、思わぬ人物が目の前に現れた。ミラは言わずもがな門番も既知の人物であった彼女は、自分が望んだことを行ってくれるだろう。

 

 

何せ彼女の目的もまたブリューヌに向かうことのはずだから。

 

 

木々が乱立をして街道に少しの気持ちよさを与えながらも、リョウの気持ちは晴れない。

 

 

適当な所まで来たところで馬を停めて待つように、適当な木の脇に着かせた。これで仮に自分が死んだとしてもこの馬は逃げ出せるだろう。

 

 

そうしてから―――林とも森とも取れる街道の脇に入っていく。

 

 

小便をするという形を取り、脚絆に手を伸ばしながら入っていけば隙だと見てくれると思ったのだが。

 

 

乗ってこない形を見るや否や、振り向きざま、低い跳躍走行を行いながら目星を付けた大木に抜刀術を放った。

 

 

神速の居合抜きが、木を切り倒す前に何かが大木の枝から飛んで行くのを見た。再び振り返り、今度は懐から短刀を取り出しながら飛んで行った相手に投げつける。

 

 

突然のスローイングだが、飛んで行った―――鳥獣ではない「暗殺者」は打ち落とすと同時に、地面に落ちてきた。

 

 

黒い装束。全身を包み込みながらも一点だけ怪訝に思う。頭巾の額に当てられているものの珍しさに、一瞬ここがどこだか分からなくなった。

 

 

(鉢金……「忍」か……)

 

 

しかし逆手に持った両手のダガ―ナイフに、やはり分からなくなる。この人物は本当に―――どんな来歴なのか。

 

 

「何者か―――って答えるわけないよ「我が主の命によりあなたの命を頂きに来た」―――」

 

 

驚く。答えを気にしていなかったが、意外なことにその忍は、更に口を開いてきた。

 

 

「貴方は、神流剣士にして「皇剣隊筆頭 坂上 龍」で間違いないか?」

 

 

「元だよ……今は、流れの浪人も同然だ」

 

 

そこまで知っているとは間違いなくこの忍、ヤーファ人だ。しかし……何故にここにいるのだ。

 

 

ヤーファで政変が起きたとも考えられなくもない。しかし海を越えてまでここまでやってくる理由が分からない。

 

 

「一応言っておくが私の主はブリューヌの然るお方とだけ言っておく……」

 

 

「俺の心の杞憂を取り除くとは随分と優しいな。けれど―――甘いんだよ」

 

 

彼我の距離を一挙に詰める形での斬撃を放つも後ろに逃げた忍者の口から何かが放たれる。

 

 

頭巾の下をはぎ取りながらの一瞬の攻撃は勢いよく放たれた呼気ゆえ。その攻撃の正体は一瞬で知れる。

 

 

(含み針……古典的な…!)

 

 

とは言え、大人しく受けてやるわけもない。口に含まれていた以上、毒ということは無いだろうが、それでも痺れ薬の効果ぐらいはあるかもしれない。

 

 

大きく回避すると同時に向かおうとした所に、再び投擲物が投げ込まれる。

 

 

棒手裏剣と車手裏剣の交錯暗器七連だ。

 

 

小癪なという思いで、全てを一刀で斬り捨てると同時に、間合いを詰めていく。あちらも再びダガ―を両手に握って待ち構えている。

 

 

金属と金属がぶつかり合う音。力の移動を完全に考えた上での受け太刀だが、いつまでも付き合ってはいられないとして、二合目は、受け太刀を虚として逃げる太刀を実とした交差斬撃を放とうとしたのだが、再びの金属音に驚愕してしまう。

 

 

この地にいる戦姫達に見極めること不可能であったその斬撃の二つ目が受け止められた。

 

 

(何故だ……!)

 

 

「簡単に言わせてもらう。神流の剣士は人間以上の存在を相手する故に―――人間の間合いを理解していない」

 

 

反対に突きこまれるダガ―ナイフ。身体全てを伸長させた攻撃は、中々に体に響く。

 

 

しかしそれだけだ。言われると同時に、その事実を忘れていただけだとして神速の斬撃を叩きこもうとした時に体が痺れる。

 

 

「なっ……」

 

 

「どうやら回ってきたようだな私の仕込んだ毒が」

 

 

いつだ。という視線を向けながらも、恐らくここまでに仕込まれたのだろう。

 

 

一番考えられるのはミラの居館での飲食物だ。あの居館の中で殺気を感じていたのだから、あそこで何かの毒物を仕込まれていた可能性が高い。

 

 

「ここまでの攻防は全ては、あなたの中にあった毒を回すためだ。流石に「鬼」の一族は毒の廻りが遅い……何度死にそうにになったことか」

 

 

頭巾で表情は見えないが、今までの余裕ある態度は虚偽であり、こちらの斬撃を喰らう度に肝を冷やしていたようだ。

 

 

「この場で殺すにはもう少しかかるだろう。しかし……別命により「捕えろ」という指示も受けている」

 

 

膝を突きそうになるほどの痺れを受けていながらもそれだけは出来ない。御稜威を封じる思惑もあったのだろうか声も出せなくなりつつある。

 

 

しかしながらもう少しだ。もう少しで「動ける」のだが、その前に鎖が放たれ自分に巻きつこうとした時に、陽光とは別の圧倒的な光の塊が自分と忍の間に投げ込まれた。

 

 

その光に眼を灼かれながらも、リョウは勝機を見出した。

 

 

「―――ッ! 何故うごけ―――」

 

 

二十チェートの距離、それを一瞬で走破するほどの歩法。全身に雷が纏わりつきながらも、その雷が自分の身体を動かす燃料であった。

 

 

戦鬼「温羅」の身体を動かした雷の神器、それと似て非なる方法で、雷の勾玉を使うことで己の身体を動かす。

 

 

そういう考えの下での斬撃は驚愕で防御を忘れた黒ずくめの忍に「峰打ち」で決まり肩から腹に掛けての斬撃となった。

 

 

大打の斬撃に吹き飛ばされて、大木に叩き付けられながらも、逃げ出す体制を取る忍。

 

 

「これでも手加減してやったんだ。これ―――以上の―――戦闘は無理だろう」

 

 

「何故……私を殺さない」

 

 

言葉と同時に頭巾が破れ風に攫われる。そうしている内に光を投げ込んだ「女」が、こちらにやってきた。

 

 

「それは―――お前が「女」だからだ」

 

 

頭巾と破れ千切れた衣服の向こう側には女の顔と女の裸体が晒されていた。驚くべきは忍の技を受け継いだ女はヤーファ人ではなくどう見てもこの地方の人間の髪色と瞳の色をしていた。

 

 

金色の長髪に藍色の瞳。ヤーファに詳しいことから来歴を予想していたのだが再び予想を覆された。

 

 

「帰ってお前の主とやらに伝えな……俺を倒したければお前自身で向かって来いと」

 

 

言葉の半ばで忍―――くノ一は、逃げ去っていった。正直、こちらも限界だ。痺れ薬と雷の痺れとが同時に襲いかかり、身体の回復に努めなければならなかった。

 

 

「あなたも人の子なのね。あんな風に苦戦するんだから―――、何かしてほしいことはある?」

 

 

「俺の荷物を持って―――来てくれ。解毒薬が入っているから」

 

 

言葉が途切れ途切れでつらそうなのを理解したのか急いで、光を投げ込んだ女。戦姫ソフィーヤ・オベルタスは街道の方に戻っていった。

 

 

同時にソフィーが来てくれなければ自分は負けていた可能性の方が高いと認識して自戒をしておく。

 

 

西方での戦いの仕方に慣れ過ぎていたなど言い訳にもならないし、女であったことも今更苦戦の理由にもならない。

 

 

(愚か者とは俺のことだ―――この事は肝に銘じなければならない)

 

 

歯ぎしりをしたくなるほどの苦衷と身体の苦痛とを一身に浴びていると、ソフィーが戻ってきた。

 

 

何はともあれ生きることは出来そうだ。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「それじゃあ君もブリューヌに行くのか?」

 

 

「ええ、本当はあなた一人の予定だったけれども、色々と面倒な事態を考慮して顔が広い私があなたの同行者になったわ」

 

 

先程の暗殺者―――忍との戦いから数刻経った現在、まだ昼間ではあるが、急がなければ次の宿場町まで着けないという時間。

 

 

回復した以上、長居は無用として街道にて馬を走らせながらソフィーにここにいる理由を聞いたのだが、概ね予想通りであった。

 

 

「ただ単に招待されて武芸大会を観戦しにいくだけだぞ俺は」

 

 

「それがブリューヌの本当の『目的』ならば私も手を振って送り出していたわよ」

 

 

違う理由があるというのは何となく分かっている。先程の暗殺者の襲撃とてそうだ。とはいえブリューヌ全体がそういったことではあるまい。

 

 

「まぁ取り込んで利用したい『六割』、排除したい『三割』といったところね」

 

 

「残りの一割は?」

 

 

「静観してどちらかに着くってところね。もっともその排除したい三割が厄介なのだけど」

 

 

排除したい三割というのにはミラが話してくれたテナルディエ公爵が含まれているのだろう。

 

 

「そんな訳で、ブリューヌは不慣れだろうリョウを手助けするためにサーシャやティナの挙手を制して私が今回の旅の同行者♪」

 

 

「嬉しそうな顔をして何ではあるがプラーミャはいないぞ」

 

 

恐らく最初に自分の旅のお供として二人が挙手したのだろう。リーザは今、色々とイルダーの公国経営に関して手伝っているので、こっちには来れない。

 

 

『ウラが征服した国は私にとっても守るべき大事な国です。だから私はイルダー様のお手伝い懸命にしますわ』

 

 

気心の知れた相手の方がいいだろうとしての協定締結であったが、そんな風に意気込んでいるリーザは本当にいい子すぎて自分としては衝動的に頭を撫でてしまっていた。

 

 

その様子をリーザの副官となったアデリーナさんに見られて―――

 

 

『私も頑張っています。すごく頑張っています。よってサカガミ卿に頑張っている女の子として頭を撫でてほしいです』

 

 

と泣きそうな顔で迫られて、交互に頭を撫でることになり、その様子が色んな意味でルヴ-シュの文官・武官達に衝撃を与えたのは言うまでもなかった。

 

 

「というか何で二人を差し置いて君が? 正直言えば気心が知れている二人の方が俺は良かったんだけど……それも理由か?」

 

 

「察しが良くて助かるわ」

 

 

彼女ら二人では、恐らく自分に手玉に取られるなどよろしくない想像もあったのだろう。とはいえどちらにせよ戦姫の色子という不名誉だか名誉なんだか分からぬ称号返上はまだ先になりそうだ。

 

 

「そういうリョウこそ予想通りの進路を追いつけたけど、ライトメリッツではなくオルミュッツに遠回りをする辺り、そこまでエレオノーラに会いたくなかったの?」

 

 

「察しが良くて助かるよ」

 

 

ため息と共にそう言ってから、出発してからまだそんなに時間が経っていないというのに襲撃を受けたのだ。

 

 

金髪の―――異国人のそれでいながらも忍者の技を使う女。その来歴こそ不明だがそれでも穏やかならざるものを自分は感じてしまう。

 

 

そしてそんな手段に簡単に出る相手が出る時点で、もはや確信を得ていた。

 

 

ブリューヌには確実に数か月以内に争いが起きる。それも―――恐らく最初には他国を巻き込んだものだ。

 

 

(見つけなければならない―――サクヤの……陛下の仰った「王」を)

 

 

風と草原の王国ブリューヌ。その地にいるだろう魔弾の王を―――自分は見つけなければいけない。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。