やったねオルガ、表紙が貰えるチャンスが増えたよ!
そしてヴァレンティナ及びフィーネ退場の危機が迫りつつある中―――予定通りに7月で終わる作品とのクロスオーバー外伝を投稿してみました。
よろしければご一読どうぞ。
「虚影の幻姫は傷つかない-Ⅰ」(×機巧少女は傷つかない)
ある晴れた日―――としか言いようがないのだが、まぁその日は特に何事も無い日のはずであった。
起き上がると同時に隣にいた姫君にせがまれて数十分ほどの接吻をしたり、建造中の『砕氷船』に関して滞りがないかを聞きに行ったり、帰りの道中にて現れた盗賊団を壊滅させたりと、人によっては波乱万丈の限りだと言われても仕方ないほどのものだった。
しかしながら、オステローデの食客にして自由騎士リョウ・サカガミにとって、これは日常茶飯事だったはずなのだ。
その日常茶飯事が崩れたのは―――その盗賊団を壊滅させた後に起こったことだった。
「馬車どころか馬もやられるとは―――失態だよ」
「領内に密告者がいるのでしょうね。ここまで周到にやられると……まぁ何人か当たりはついていますが」
自由騎士が嘆くも隣の謀略家の戦姫は『チンコロ』した人間の炙り出しを早速も始めていた。
未来のことは、ともかくとしてここから公宮まで帰るにはどうしたらいいのか迷ってしまう。
「何とも中途半端な距離だな」
御稜威を使っての韋駄天の術もどきでも、ティナの竜技でも、何というか使った技に対しての距離が合わない。
「磔の為の木々も早めにもってこさせませんと、死体を漁りに獣たちがやってきます―――」
言うや否や大鎌を円状に振るって、空間を歪曲させる準備をする虚影の幻姫。片手に大鎌、片手を差し出してきたので、その片手に手を乗せようとした瞬間。
「死ねぇ自由騎士っ!!!」
死んだフリをしていたと思しき盗賊の一人が、その手に隠していた投げナイフをこちらに放っていた。
「リョウッ!!」
完全な不意打ち。迂闊だったと思う間もなく投げナイフを『撃ち落す』形で、『投げ返した』。
その手に持っていた鬼哭を使ってのフルスイングが盗賊の眉間目掛けて撃ちだされて、絶命。
しかし、完全な不意打ちであり一瞬持ち手を掠めたことで手から出血をする。
その血が、『紅の翼』のように飛沫を挙げた―――それが原因だったのかティナの竜技『虚空回廊』が、巨大な圧を発する。
『んなっ!?』
侍と姫君。両者にあるまじき言葉が、出てしまうほどに状況が切迫する。圧は明確な形で強まる。
円状の転移『空間』から閃雷が迸り、何かを捕まえようとする。何かとはもはや―――明確すぎる。
圧力から逃れるべくティナは虚空回廊の停止をしようとして、リョウはクサナギノツルギを使って大地に己の身体を縫い付けようとしたのだが―――。
「ぶぎゃっ!!」
「プラーミャ!! もうタイミング悪すぎです――!!」
虚空回廊の圧が最初に捕まえたのは壊れた馬車の上で飛んでいた幼竜であり、幼竜としても自分達を助けようとしたのだろうが、本当にタイミング悪すぎて―――。
腹にダイブ決められて、圧に捕まった自分が吹き飛ばされて、その途上に居たティナもまた吹き飛ばされて―――虚空回廊は二人と一匹を飲み込んだことで、その空間からは消えた。
後に残るは、盗賊どもの死体ばかりであり……、その二人と一匹の行方を探すべく、少しばかりオステローデの公僕たちは動くことになってしまうのであった。
そして、それを耳にしたルヴ-シュ、ポリーシャ、レグニーツァの戦姫達は『来るべき時が来た』と思って、嫉妬心丸出しで、オステローデに使者を送り出して動向を探ることにするほどだった。
◇ ◆ ◇ ◆
つんつん。何かで突かれるような感覚を覚える。
木の枝か何かで死体かどうかを確認するような動きだな―――己の感覚。五感と六感が告げるものを素直に受け入れつつ、どうしたものかと思う。
呼吸は正常。脈拍も大丈夫。欠損部位なく骨折もない―――己の肉体に関しての『支配』を強める『論理』を叩き込むということは、神流の剣客にとって標準的な作業である。
そうしてから―――起き上がる。
多くの者を眼下に収めるような動きで距離を取ると、そこには―――着崩した着物を羽織った黒髪の15.6歳程度の少女がいた。
黒髪はティナほどに長くその髪に様々なリボンを付けた何ともけったいな恰好ながらも『洒落てる』と思うぐらいには似合っていた。
「すごい動きです! まさか『オートマトン』いえ『バンドール』!?」
「……いまいち意味合いは分からないが、とりあえずオレは正真正銘の人間だよ」
「!?―――お、お兄さん―――そ、そんな『声音』で『ヤヤ』を惑わそうとしてもダメなんですからね! ヤヤのまっさらな体は『ライシン』だけのものなんですー!!」
いまいち要領を得ない会話。思い当たる節があったのかこちらを『規定』しようとした少女は、次の瞬間にはリョウの『声音』に何か思う所があったのか自分抱きをして悶えるようにするそれを見て、そして聞いて―――。
(何か……いろいろ『似ている』……)
ただ一点。違う点と言えば『発育の良さ』であろうか……少女は年齢のことを考えても、少しばかり『不良』であった。
「突然の来訪で申し訳ないが、ここは何処なんだ? 君の着ている服から『ヒノモト』出身者であろうことは分かるんだが」
「ずいぶんと古風なものいいですね。今では『大日本帝国』って言うのが一般的なんですよ」
古風―――その一言でいくつかの可能性が浮かび上がる。問われたことに素直に答える辺り、本質的にはいい子なんだろう。
まぁ死体を突くようにされたのは少し傷ついたが―――。
「ここは大英帝国が誇る機巧都市リヴァプールにあるヴァルプルギス王立機巧学院。多くの『マキナート』の学徒が集まりつつも、各国の思惑なんかが絡み合うドロドロとした代理戦争の場なんです」
「なんてところだよ。つーか、よく覚えているもんだな」
「えへへ、実は雷真の受け売りでしかないんですけど、そしてこの学園の一室は、雷真と夜々の愛の巣なんです!! 口八丁手八丁の砲弾が飛び交う男と女の直接戦争の場なんですよ!!」
何でだろう。それに対して猛烈に『つっこみ』を入れなければいけないというのに、具体的な言葉が出てこない。
照れた後に、勢い込んで言う夜々という少女に対して言ってやりたい言葉が色々とありつつも、それを押し殺して、今まで聞こえてきた単語の中に何か一つでも、思い当たるものがあるかといえば殆ど無かった。
唯一、『リヴァプール』という単語にアスヴァ―ルでは聞き覚えがあったりもしたが、こんな『デカい建物』があるなど聞いたことが無かった。
それらに対して、色々な推測を立てていくと恐ろしい『想像」が出てきた。憶測と当て推量でしかないが―――。もしかしらと思えていたのだが、唐突に夜々という少女は怪訝な顔をして見せた。
「こ、これは雷真の匂い!? しかし、何だか女の匂いがします!! またもや夜々以外の女狐とお楽しみを―――……う、う―――ん?」
「どうしたんだ? いきなり言葉が萎んだぞ」
「何だか……雷真の隣にいる『女性』だろう人物をあれこれ言うのは夜々にもダメージが来そうなのです……何か『己』に対して蹴りを入れてるみたいで痛いです……」
近づいてくるだろう気配。達者な武芸者ながらも、それを『殺している』。有体に言えば武士の癖に「忍び」のような動きをしているとでも言えばいいだろう。
それこそが、この少女の言う雷真なる男だろうと理解出来て、その隣にいる女―――。夜々が言う女狐の匂いが自分にも感じられた。
「夜々、すまないが硝子さんかいろりを呼んできてくれ。こっちの人に――――」
「我が覇王愛人―――♪ ようやく会えましたわ―――♪」
「意味は分かるが、もう少し節度を弁えて!!」
少し薄汚れた感じのドレス。
まぁさっきまで殺劇を繰り広げてきたので当然なのだが、それのままにこちらに素早く抱きついてきたヴァレンティナ・グリンカ・エステスの姿に心底安堵する。
しかしよく見ると、ここが鬱蒼とした森の中だけに賊共の血以外にも、土と木の葉にも塗れており貴人の様相が少しだけ残念になっていた。
心細かったのか自分の胸板に顔を埋めるティナの頭を優しく撫でてあげる。
「なぁ夜々……すっごい羨ましいんだけど……」
「雷真、夜々もいつか硝子に頼んで、改造を受けて巨乳のボインボインになってみせます!! だからそんなに羨ましそうな顔しないでください!!」
そんな自分達を見ていた少年少女の会話が耳に入ってきた。
それを聞きながらもティナが落ち着くまで、撫でていたのだが、状況に変化が起こる。
「ちょっと待って―――!! そっちは危ないわよ!! 生徒達が無造作に施した魔術が何かしか発動しちゃうかもしれないんだから!!」
『シャルよ。どうもあの幼竜は『こちらにおとさんとお母さんがいる』などと言っている。親子の対面を邪魔するのは無粋かと思うぞ』
「黙りなさいシグムント!! あんなマキナートで制御されていない『真正の幻創種』なんて、他の学生が見つけたらすぐに改造とか非道な実験されちゃうんだから! 私が守ってあげないといけないんだから!!」
『君の過保護も、その域にまで来たか。その性向、いつか『恋愛』で損するものだぞ』
「お昼のチキンを『ラッカセイ』にするわよ!!」
変化。どうやら雷真と夜々の二人にはなじみのものらしく、少しだけ苦笑した顔をしている。そして森の向こうから木々を越えて朱い鱗の幼竜が、自分達を見つけて―――自分の頭に乗っかった。
赤い幼竜―――プラーミャの後に、金髪の少女と鈍色の鱗の―――何か『生物』とは思えぬ小竜が少女の肩に乗っていた。
「………何かしらこの状況?」
「よう。何かお互いに色々なことが起こり過ぎているようだな―――だから全員言いたい事は言っておこうぜ。そちらの剣士の兄さんもいいかな?」
「ああ、構わん。君には―――何か親近感を覚える」
女難の相が出すぎていると言われそうな二人そろって苦笑する。
金色の少女の姿を確認した男―――雷真という少年に同意しつつ―――、口を開いた。
『『何が起こっているんだよ?』』
『『何が起こっているんでしょう?』』
「シグムント、私の耳はおかしくなったのかしら? 変態の声が二重に聞こえながら、夜々の声も二重に聞こえたわ……この作品(?)はいつからステレオ配信になったのかしら?」
『シャルよ。君の耳は至って正常だ。そして君が異常だと言うのならば私の耳もまた変になっているはずだ』
雷真とリョウ、夜々とヴァレンティナ。
双方が同時に発した声は見事に同調して唯一の『部外者』であるシャルロット・ブリューを困惑させた。
「まぁとりあえずお互いに状況確認といこうぜ。どう考えても兄さんとミス・エステスは、『この時代』に似つかわしくない『格好』をしているからな」
「雷真、いつの間に名前を聞いたんですか……そこまで、そこの大鎌持ったお姉さんに興味津々の色事万歳マンなんですか!?」
「複合技でオレを貶めてくれるんじゃない! 第一、ヴァレンティナさんはそこの男性に完全にホの字だろうが! オレ勝ち目無いよ!」
「寝取りが趣味……!? まさかオルガと婚約したのもヴェイロンから―――」
「別方向から射撃するな! あの『事件』の顛末はお前も知っているだろうが!?」
わちゃわちゃわいわいしながらも女子二人からの言葉攻めを受けて陥落寸前の『雷真城』に対して―――仕方なく援軍として飛び込んでやることにした。
「悪いな。右も左も分からぬ彼女をここまで連れてきてくれたんだ。雷真君には感謝してるよ。だからあんまり攻めてやってくれないでくれよ」
二人の少女に対して『決めつけ良くない』と言外に含めつつ言ってやると―――効果はあったようですぐに反応してくれた。
「うっ、お兄さん卑怯です。そんな風に言われると夜々が雷真に在らぬ疑いを懸けたみたいで痛いです……」
「その通りだからな!」
「ま、まぁそういうお人よしで優しい所があなたの長所よね」
そうしてリョウの仲裁というほどではないが、話術で二人の少女の『牙』を斬りおとすことが出来た。
それによって、二人は大人しくなりつつあったというのに――――生来の悪戯好きか、それとも他の理由があるのかヴァレンティナが口を開いてきた。
「けれど、こうして私をリョウの元に連れてくれるまでライシン君の視線は私の胸に集中していましたわね。大きい乳が好きなんですの?」
そうして腕で双丘を上げる仕草を取って、いたずらっぽい視線を向けるティナに対して、それを凝視していた雷真はあからさまに呻いた。
その様子が、二人の少女を激昂させる。
最初に怒ったのは夜々と言う少女でありどういう原理なのか本当に怒髪天を衝くと言わんばかりに長い黒髪が上昇していく。
「らーーいーーーしーーーーんんんん!!!!」
「お、落ち着け夜々! 仕方ないだろ! 男ならば、あのるろお氏(?)では殆どありえない片桐雛太氏(?)な巨乳に眼を奪われちまう!! まさしく魔性の女!」
「この変態! 彼氏持ちの女性にまで色目を使うなんて!」
先程のシャルロットと同じく、メメタァなことを言う雷真に、二人の少女の一度は収まった怒気が吹き上がる。そして、ものの見事にまぜっかえしてくれたティナにリョウは半眼を向ける。
「混ぜっ返すなよ」
「他人の人間関係ほど私にとって興味深いものはありませんから♪ それに―――事実ですからね♪」
その言葉に対して『待っている言葉と行動』を察するも、そう簡単に『エサ』をやらない。
別に主導権争いをするわけではないが、こんな少年嫉妬するような小さい男だと思われるのも癪だったからだ。
「そうか」
「嫉妬しないんですの?」
いたずらな視線と探る様な言葉の混ぜ合わせに苦笑し、頭を撫で梳きつつ答える。
「君が美しくて可愛らし過ぎて茶目っ気がありすぎる姫君であることは、俺が一番知っている『秘密』だが、そんな風な巷間の人が知らないティナを皆に知ってもらいたいという俺のワガママがある以上、嫉妬はよほどのことが無い限りは無いよ」
「……ずるいです。そう言われたならば、何も言えないじゃないですか……」
「それ以外にも君の『魅力』を知っている俺だ。表面的なものだけじゃないヴァレンティナ・グリンカ・エステスを俺は『独占』している―――それが嫉妬しない理由だよ」
「リョウ………」
感極まってから、静かに『自由騎士』の胸に、そっと頭を預ける妖精のような少女。その心根にあるもの―――『己』だけのことを考えていた女の子の心に留まれたことを嬉しく思うのだ。
そんなこちらの様子に――――。少年少女は興味津々ながらも少しだけ落ち込んだ様子であった。
「雷真……」
「なんだよ? 言いたい事は何となく分かるけど」
「私、とてもおこちゃまな気分です……」
「奇遇だな。実はオレもそんな気分だ……」
攻めていたはずの夜々と攻められていたはずの雷真であるのだが、こちらの様子に対して少し落ち込んだ気分になったようだ。
本質的にはいい関係なのだろう。似た者同士ともいえるかもしれない。
「お、大人な関係ね……何だか見ているこっちが恥ずかしくなっちゃうわよ……」
「シャルよ。君もいつかはああいった関係になれる伴侶を見つけたまえ。そしてこちらのプラーミャ君のような珠のような子を作るのが摂理というものだよ」
いつの間にか自分達から離れてシグムントなる竜に纏わりついているプラーミャを見て、順応性高すぎる我が子の未来を少しだけ案じる。
というよりも、あんな風に人語を介して同属を解する竜がいるなど、フラムミーティオ……に関してはあれはまた別口である。
可能性の一つがますます現実味を帯びてきた。
「鋭意努力するわよ。それよりもミスター・ブシドー、ミス・フェアリー。申し訳ありませんがご同行願えますか? 実を言うと学園の『結界』を越えた存在がいて―――まぁお二人とプラーミャちゃんのことだと思いますので……」
「なんだ。もう学園側は感知していたのか」
「まぁね―――詳しい話は校舎内で―――どうでしょうか?」
雷真の言葉に、シャルロットなる少女は少しだけ困ったような顔をして、こちらに下駄を預けてきた。
もしも断れば―――鈍色の竜から、『何か』されるだろう。
明確ではないが、そういった『意』と『力』を感じつつも、それに気付かないフリをして気楽に同意しておいた。
「ではエスコートお願いするよレディ」
「はい。こちらへ―――あなたも一応着いてきて」
「言われなくとも―――首を突っ込みまくるつもりだったしな」
「雷真の悪い癖ですよね。そして己がトラブルの中心人物になっている……そして、また一人女狐が近寄るという悪循環……!」
三人の会話を聞きつつ、こいつらいつもこんな調子なのかと何だか親近感を覚えつつ―――先導に従い歩き出したのだが……。
「フェアリー……妖精だなんて、わたしもう二十歳なのに恥ずかしすぎますっ」
「言葉のわりには嬉しそうだねー。まぁ妖精は妖精でも人をかどわかす、
アスヴァ―ルでギネヴィアに教えてもらったこと。「しゃれにならないイタズラ」をする妖精のことを思い出したのだが―――。
「もうリョウってば、かわゆい妻のことはきちんと褒めるべきですよ♪ この照れ屋!」
「この喉元に突きつけられたエザンディスさえなければ、その言葉も普通に受け入れられたんだけどなー」
笑いながら差し出された血のような色をした双葉の刃の煌めきに肝を冷やしつつも、とりあえず自分達よりも少しばかり若いものたちの先導に対する歩みは止めないでおく。
そんな自分達の様子も三人にはばっちり見られていたようで、先程自分が思ったように『いつもの調子』を知られることとなった。
――――そして、今回。このような状況を作り出した元凶は、その様子を見て―――『マズイ連中』が関わったと焦りつつも何とか計画を実行しようと動き出すのであった……。