――白井さん、これを仗助君に渡して。
「これ、は?」
黒子の問いに八雲は答えなかった。代わりに返って来たのは「自分を置いて逃げるように」という絶対に承服しかねる回答だった。当然黒子はそれを全力で否定しようとする。だが……
――これが最善の道なんだ。お互いに全滅しない為の最良の道なんだよ。……きっかけは作る。後は任せた。
黒子の引きとめようとする手は虚しく空を切り、八雲は満身創痍の身体で駆け出していく。
「八雲さんっ、待っ――」
現実の時間で黒子が認識できたのはそこまでだった。
そこから先は静止した世界での出来事。人間には干渉すら出来ない世界の話だ。
だから彼女の瞳には、目の前にいた八雲が一瞬にして絶命しているという『過程』をすっ飛ばした『結果』だけが提示されるのみだった。
「――八雲には、感謝しても仕切れねぇな。こうして対策を練るチャンスを作ってくれたんだからよぉ……」
今は無き親友の事を思い、仗助の表情は悲しみに崩れかける。だが「今はその時では無い」と頭を振り払いのける。親友の為に涙を流すのは、目的を達成してからでも遅くは無い。仗助は黒子から手渡された
――
「ですが、本当にあの男はこちらを追ってきますの? 迎え撃つにしても、もしこのまま地上にでも出られたら……」
目的地は中央制御室の
適度に空間が広く、尚且つ遮蔽物があり、身を隠すに適した場所。
最もその前にもう一つ手にしなければならない備品がある訳だが、
「野郎は『運命』やら『因縁』とやらに強いこだわりを持っている。このまま俺達を放っぽって地上に出るとは考えにくい」
「あくまで仗助さんと決着をつける事にこだわると?」
「ああ。事実ビンビン感じんだよ、野郎がこちらに向かって近付いて来る『威圧感』って奴をな」
「……それほどまでに仗助さんに固執するあの男、一体どんな因縁があるのでしょうね?」
「さあな、前世で奴の車でもぶっ壊したのかもな」
仗助のくだらないジョークに黒子がクスリとする。だがすぐさま真顔に戻る。備品のある場所にたどり着いたからだ。
ここに来る道すがら、様々な薬品を調達してきた。さすが研究所らしく目当ての品々は簡単に見つかり、ここの薬品を調達すれば準備は万端といった感じだった。仗助達はすばやく薬品を入手すると再び空間移動を繰り返す。
「よし。これで準備は整ったな。後は――」
「……『逃げる』ということは『恐怖』しているという事だな。この
「ッ!!」
気が付けば医療用のナイフが数本、超高速で眼前に迫っていた。
マズイ! 追いつかれたのもマズイが、このナイフも非常にマズイ。眉間をストレートに狙ってきている、当たれば即死級だ! クレイジーダイヤモンド、間に合うか!?
仗助は咄嗟に『クレイジー・ダイヤモンド』を出し、連打を前方のナイフに繰り出す。
どうやら拳を打ち込むタイミングがうまく合わさったようだ。
ナイフは、ギャンッ! という数度の金属音と共に、全てなぎ払われ、地面に突き刺さっている。
「ザマアミロ! 全て弾き返してやった……ッ!?」
ディオの奇襲を何とかしのぐ事が出来たと、仗助は安堵のため息をつこうとして――一瞬にして凍りついた。
仗助の眼前、その一面に先とは比べ物にならない大量のナイフが展開し、こちらに襲い掛かって来たからだ。
「なにィィィィッ!?」
先程の時間停止は仗助達の足を止める為。だが今回は違う。油断し、足の止まった獲物を仕留める為の完全に無慈悲な攻撃だ。仗助を完全に包囲する形で放たれたナイフの一群。恐らく黒子の
「うおおおおおおおおおおッ! 『クレイジー・ダイヤモンドッ!』――ドララララララララララァーッ!」
仗助は前方に向かい『クレイジー・ダイヤモンド』の連打をやたらめったらに打ち込んだ。
時速300kmを超える拳の連打が襲い掛かるナイフを次々と弾き返していく。だが――
たった一瞬の時間で全てのナイフを叩き落す技量など、今の仗助は持ち合わせてはいない。攻撃の死角となる部分は確実に発生し、ナイフは無情にも拳をすり抜け仗助の肩口に突き刺さった。
「うぐぅっ!?」
ダメージを負った瞬間に『クレイジー・ダイヤモンド』の動きは確実に鈍くなり、それがさらにナイフを通過させる悪循環に繋がる
右脇腹に1本。
左大腿部に2本。
次々とナイフが仗助の身体に深々と埋め込まれていった。
「ッ!!」
そしてナイフがさらに仗助の眉間に打ち込まれようとした瞬間に、黒子の
「…………」
後に残ったのはその場に佇む
「……あの女、邪魔だな。アレさえいなければ既に仗助の奴を始末出来ていたというのに……」
致命傷は、確実に負わせた。最早仗助はまともに歩く事すらままなるまい。
だが、あの女の能力がそれを補っている。まさか二度にわたりこの
「空間移動……だったか? これ程までに手を焼く能力とは……。まず始末するべきはあの女からだったか……」
あの時に吸血などせずに、すぐに殺しておけば……。
驕り。
それは絶対的優位に立つものほど持ちやすい。
時として敵に対し隙を生み出し、足元をすくわれる。厄介な感情だ。
「……二度と驕らぬ。仗助は殺す。あの小娘も殺す。ジョースターに関わる人間は、全て根絶やしにする」
「決着をつけよう。長きに渡るジョースターの因縁、ここで断ち切る」
☆
「う……ぐゥ………っ……!」
「仗助さん、しっかりっ。気をしっかりお持ち下さいですのっ!」
どうやら移動先は何かの研究室のようだった。正面には複数のモニター画面があり、大きな窓ガラスの先にはCT検査機械の様なものを確認する事が出来る。
あれが医療用の機器だったらどんなに良かったことかっ。黒子は軽い失望感と焦燥間を味わいつつ、深々と突き刺さったナイフに手を伸ばす。
まずはこのナイフをどうにかしなければ。
肩口や腹部、左足に刺さったナイフを引き抜くと、持参した
「自分自身の怪我や傷は治せない……。まさかここに来てその弊害に悩まされるなんてな……」
「仗助さんっ!?」
仗助は傷の手当てをしようとする黒子を手で制すると、ゆっくりと立ち上がろうとする。
それを黒子が慌てて「な、何て無茶な真似をッ」と押し留める。
「まだ止血もしていないのにッ、ここで死ぬつもりですのッ!?」
「死ぬ? そうかもな、野郎を倒す為には、こっちも命を張らなくちゃあな」
仗助は片腕で強く黒子を押し、前へ一歩踏み出す。そして『クレイジー・ダイヤモンド』で周囲の建物を滅茶苦茶に破壊し始めた。
「ま、まさか」
「予定変更だ。ここで、決着をつけるぜ……」
窓ガラスを破壊する。その上で隣の検査室へと移動する。
大量の破壊音。砕け散るガラス片。
この音をディオが聞き漏らすはずがあるまい。モノの数分もしない内にここにやってくるだろう。
「ああもうっ! 「こう!」と決めたらテコでも動かない石頭なんですからッ!」
忘れていた。
思い立ったが吉日というか、行動力が有りすぎる。それに振り回される身にもなって欲しいものだ。
黒子は、「まったく!」と毒づきながらも、即座にナップサックから薬品類を取り出し『準備』に取り掛かる。
こうなった以上、仗助に賭けるしかない。
僅か数%でも、勝率が上がるのなら彼に乗るしかない。
「もし作戦が失敗したら、ちゃんと責任とって下さいましね」
「安心しろよ。そん時ゃ二人して仲良くお陀仏してっからよぉ~~」
まったく何の慰めにもならないお言葉を承り、黒子は返す言葉を捜すのをやめた。
こういうやりとりがしっくり来るというか、心地よいというか。
切迫する事態はあくまで絶望的だというのに、何故だろうか?
「仗助さん、準備できましたわ! 後は――」
「――俺の命を秤(はかり)にかけるだけだ! 『クレイジー・ダイヤモンドッ!』」
黒子が準備した大量の容器に向かい、仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』を思い切り叩き込んだ。
☆
「…………」
『クレイジー・ダイヤモンド』が破壊の限りを尽くした研究室。まるで爆撃が合ったかのような惨状を無感情に眺めながら、
仗助は、いた。
割れたモニタールームのガラス窓の向こう。検査機器のある中央部分で荒い息を吐き佇んでいた。
ガラスを叩き割り向こうの部屋に移ったのだろう。
割れたガラスにはべったりと血の雫が零れ落ち、それが赤い直線となり仗助の元まで延びている。
応急処置はしていないのか、時折苦しそうに脇腹を押さえ込んでいる。
あの出血の量。完全に虫の息、という奴だ。むしろあの傷で自分を待ち構えている精神力に驚くべきか。
何かの罠? だが、罠にしては周囲にそれらしいものは無い。伏兵が潜んでいる気配も無いし、トラップの類も見当たら無い。
単純に逃げたということか? それとも――
「
――あえて身を晒し、囮となったか。
体に深手を負い追い詰められた仗助が、くだらないヒューマニズムから、時間稼ぎに専念した。
そう考えるのが妥当だろうか。それならば安心であり、この行為にも納得がいく。
「……女がいないな。逃げたか? それとも逃がしたのか?」
「……」
仗助は答えない。その沈黙を「YES]と取ったのか、
「まあいい。たとえこれが罠であろうが、構わん。どのような策を講じようと、100年の時を生きるこの
「100年?」その単語に反応した仗助が鼻で笑うように言う。「100年、ねぇ……」
「…………」
「いや、何。ホントにアンタが100年前の人物で、この世界に誕生したばかりってんならよぉ~~。アンタの時代にはまったく想像だにしなかった道具とかあるなと思ってよぉ。――例えば、俺の耳に装着している
仗助が装着しているインカムを指差す。草薙の知識を吸収していた
携帯電話の発展型。超小型で、離れた場所からでも通話できる機械。
それは、つまり――
「……黒子、やれ」
仗助がそう呟くと同時に、二人のいる検査室内に大量のバルーンが出現した。
真円に膨らんだ3フィート(87cm)の中型バルーンがおよそ20個。室内に次々と転移されていく。
コレは気象観測用のバルーン(ゴム気球)である。
大学や研究所・工場、さらにはアートやテレビ撮影、成層圏まで飛ばしたりと様々な分野での用途の為に開発されたものだ。幸運にも
これはいわゆる『器』だ。
中のものを収める為の入れ物。
その為に黒子に仗助がいる部屋の
後はコレを破壊するだけだ。
「『クレイジー・ダイヤモンド!』」
仗助は懐から大量のゴムの切れ端を取り出し放り投げると、それは一直線に元のバルーン一部へと戻っていく。 ただし、ただ元に戻すのでは無い。切れ端にはそれぞれに鋭利な金属片が結び付けられている。それはつまり、弾けると言う事だ。大量に空気の入ったバルーンに、勢いを付けた刃物が突き刺さるということだ。
そして――
耳を劈く大音量の破裂音が何度も室内に木霊すると同時に、中から大量の丸い玉が周囲に飛び散り、室内を覆い尽くした。
「これは……」
ふわふわと空中をたゆたう球体に、
――バチン。
知らぬ間に体に触れた球体の幾つかが弾け飛び、服に赤い塗料を付着させる。
「そいつはシャボン玉だ……。あんたの時代にもあった、ただのシャボン玉さ。……俺の『クレイジー・ダイヤモンド』でちょいと加工し直したんで、通常より強度が増しているがな……」
洗剤、ガムシロップ、粉ゼラチン、ラム酒、炭酸水……。
全てシャボン玉を加工する為に必要な道具だ。
それを『クレイジー・ダイヤモンド』で混ぜ合わせ、シャボン玉を作り出した――
「ドラァ!」
ボタボタと滴り落ちる血を手にして、仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』で水圧カッターのように超高速で
「!!」
弾け飛んだシャボン玉は
「ぬぅぅ! この匂いはッ」
「吸血鬼のアンタには馴染み深いだろう? ……『俺の血』だよ、それはよぉ。このシャボン玉全てに俺の血を混ぜ込ませてある。その血がアンタに染み込んだって事はよォ!」
仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』の能力を発動させる。
発動させた能力は地面の血を伝わり、仗助があえて滴らせた血の線を通り、破壊したガラス片に到達する。
ガラス片には前もって閉じ込めていた自身の血液が混ぜ合わせてある。それ単体では役に立たないが、能力の到達を呼び水とする事で、仗助の目論見通りの役割を果たしてくれる。
ふわり、と。
仗助がバキバキにぶち壊した研究所のガラス片が複数、音も無く浮かび上がった。
「……引き合うんだぜ、磁石のプラスとマイナスみてーによぉ。同じ血液なら、簡単に集めてくっ付けられっからよぉ~~……」
『クレイジー・ダイヤモンド』の直す能力で、ガラス片に予め埋め込んでいた血液と、
まったくの死角から、それもディオの意識外からの攻撃だ。タイミングが分からない以上、うかつに時を止める事も出来ないはずだ。
自身に迫るガラス片に、ディオは気が付かない。
そして――
ガラス片は超高速でディオに迫り、血液が付着している右足部分へ音も無く突き刺さった。
「――ッ!?」
ガクリ――とバランスを崩し転倒する
「……馬鹿な……」
地面に崩れ落ちる寸前。
その瞬間まで
「ぐ……ッう……」
同時に、仗助も崩れ落ちるようにその場に膝を突く。
この作戦を実行に移す前から出血が酷かった上に、さらに血をシャボン玉に混ぜ合わせるなどの無茶をしていたのだから当然だ。今、仗助は重い貧血状態となり、立つこともままならない状態だ。
だが、ここで倒れるわけにはいかないのだ。
「……やっと一撃……野郎に入れれたぜ。だが、これからだ……これからが、重要、だぜ……」
よろよろと起き上がった仗助が、足を引きずりながらも前へ前へと歩み寄る。
勝機は今しかない。その一念だけが仗助を突き動かしていた。
仗助が歩く度にボタボタと血の雫が零れ落ち、血の足跡を地面に作り出すが、そんな事を気にしていられる余裕は既に無かった。
先の戦闘で仗助のスタンドのパワーを知った
十分に距離をとり、時間を止めた上でのナイフ投擲。それで片が付くことを知っているから。
だからもう一度、たとえこちらの身体にダメージを負ったとしても、『クレイジー・ダイヤモンド』の射程まで、
もう一度、
その為に身を削ってこの状況に持ち込んだのだ。
やがて――
「……射程距離に、入った……ぜ」
地面に這いつくばった
仗助はその時間の間に、自分の射程距離に
「東方、仗助ェ!」
「これは、八雲の手柄だ……。あいつが命を賭してまでテメーの能力を俺達に知らせてくれなかったら、とっくに全滅していた。だから、必ず倒すぜ……」
射程距離およそ1m。『クレイジー・ダイヤモンド』が十分に届く距離。
その
額に青筋を張らせ、目は血走り、口を歪ませ、まるで呪いの言葉を吐くかのように仗助の名前を呼ぶ。
「殺して……やる」
「俺も同じだ。
一方は無惨に殺された友の為。
もう一方は過去の因縁を断ち切るため。
周囲に赤いシャボン玉達が浮遊する、一種の幻想的な状況の中で、怒りに燃える二人の最後の対決が始まろうとしていた。
「ドララララララララララララァ――ッ!」
先に動いたのは仗助だった。
未だ地面でこちらを見上げているディオに対し『クレイジー・ダイヤモンド』は容赦の無いパンチの連打をディオに対し打ち振るう。
地面が容赦なく抉れ、砕ける様を目の当たりにしながら、
「シャアアアアアア―――ッ!」
繰り出される右ストレート。高速で放たれたパンチを、『クレイジー・ダイヤモンド』は同様にパンチを繰り出し、強引に弾き飛ばす。
「ッ!! コイツッ!」
「どうした!? もっと打ち込んでコイや! コラァ!」
パワー勝負は互角だ。ならば後は手数の多い方が、相手の体により多く連打を打ち込んだ方が勝利を収める。
そう判断した両名はパンチの嵐を繰り出し互いを攻撃する。
二発、三発と続く連打。
拳が交わり、弾き、時には掻い潜ってのパンチの応酬は、いずれも相手には届かず決定打にならない。
まだ遅い。
もっと、もっと早く、攻撃を打ち込まねば!
そんな二人の意思に呼応したのか、スタンドの攻撃は次第に速度を増していく。
手数が増え、威力が増し、並みのスタンド使いでは介入できない領域へと突き進んでいく。
「ドララララララララララララララララララ――ッ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ――!!」
ふいに――
絶妙のタイミングでバックステップで後へ下がり、攻撃を遠ざける。
「――ッ!?」
カクリと、タイミングを外された『クレイジー・ダイヤモンド』の身体が前のめりとなりバランスを崩す。
フェイントを入れられた!
そう判断したときには
「死ねィ!」
再び凶悪な連打が仗助を襲う。
体制を整える時間は無い、その間に敵に風穴を開けられて勝敗は決する。
ならば!
『クレイジー・ダイヤモンド』は膝を抱えるようにしながら回転し、大きな円を描きながら後ろ足で蹴りを放った。
「ドォラァアアアアアアアアアア!」
「――ッ!?」
『
だがこの結果は
「『ザ・ワールド!!』」
――3秒前。
時間を止める猶予を
世界は再び静止する。
宙を舞うシャボン玉も、
この世界で動けるのは、世界を支配するこの
ただ一撃。攻撃を加えれば全てが終わる。
『
ノーガードで繰り出される一撃は確実に仗助の腹に風穴を開けるだろう。
「…………」
――2秒前。
間もなく時間は動き出す。
死角に回り込んだ自分に、仗助は気付かない。
自分を倒すのには二手も三手も足り無い事を仗助は知らない。
知らないまま、あの世へと赴くのだ。
――1秒前。
ここに来て、
何の感慨も湧かない。
100年にも渡る因縁の呪縛からようやく介抱される、そんな気持ちなどまったく湧いてこない。
あるのはたった一つの、シンプルな思考のみだった。
『勝利して支配する』。ただそれだけの簡単なものだ。
この仗助を殺すことでその狼煙が上がる。
この世界を侵略し、全てを手中に収めよう。
――ゼロ。
そして世界は再び動き出し、全ては
「ドォラアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ――!」
「な、ニィイイイッ!?」
世界が再びその色を取り戻した瞬間――『クレイジーー・ダイヤモンド』は向きを反転、死角へと回りこみ、今まさに仗助へ一撃を繰り出そうとしていた『
『
――なぜ、仗助は時を止め、死角に潜り込んだこの
「俺がよぉ……、オメーの体に血をくっ付ける為だけに、シャボン玉を飛ばしたと思ったら……大間違いだ、ぜ」
「まさ……か」改めて周囲に飛来するシャボン玉を見渡し、
空気抵抗を受け、周囲をふわふわと揺蕩うシャボン玉。その数はフロアを多い尽くすほど膨大だ。
仗助へ接近する為には、そのシャボン玉を押しのけるか潰すしか無い。
その軌跡が、くっきりと空中に描き出されている。
「シャボン玉が空気抵抗で動いた(あるいは潰れた)軌道を読んで、この
「単純なトリックだが、勝利を焦りすぎたな! こんな子供だましに引っかかるなんてよぉ!」
「チィッ!」
体に穴は開きはしたが、コレくらいどうとでもなる。吸血鬼には些細な軽症よ!
それよりもう一度時を止めるのだ、この近距離ならば仗助の体を貫ける。
「『
「『クレイジー・ダイヤモンド』!!」
仗助と
仗助に移動の軌道を読まれず攻撃できる策があった。
それは――
「目潰しだッ!」
血液は
「コレで軌道は読めまい! 勝った、死ねいッ!」
凶悪な一撃が、再び仗助に打ち降ろされる。
「…………」
――時間が静止する直前。
仗助が思っていたことは
時間を静止させ、その時の中を動けるという強大なもの。
だが――と仗助は思う。
もしそれが本当なら、
おまけに光や音すら止まるのなら、一体奴は何を目印にこちらに向かってきているのだ?
だから仗助はこう考えた。
『
だとするなら、『作動』するはずだ。
先の戦闘で
――白井さん、これを仗助君に渡して。
八雲が最後に黒子に手渡したもの。
それは八雲がやられた”あの”部屋のコンクリート片だった。
だから、引き寄せられる。
仗助が最後に発動させた『クレイジー・ダイヤモンド』の能力で引き寄せられる。
「なんだ? 身体が!?」
仗助の最後をこの目で見届ける寸前――
「何だとォ!」
まったく予想だにしなかった攻撃方法に、
命運は、そこで分かれた――
「うおおおおおおおおおおおおお!」
仗助は、ありったけを込めた文字通り”最後の一撃”を
だが視界を奪われた仗助に
「《仗助さん! 左、10時の方向ですわ!》」
黒子だ。役目を終えた黒子が再び戻ってきたのだ。
先程から全てを俯瞰して観察していた黒子がインカム越しに指示を出す。
「《相手は目と鼻の先。思い切りブチかましておやりなさい!》」
「ドラァアアアアアアアア――ッ!」
そして――『クレイジー・ダイヤモンド』の放った右ストレートは、完全に不意を尽かれた