とある科学と回帰の金剛石《ダイヤモンド》   作:ヴァン

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東方仗助の邂逅 その①

 8月も上旬を迎えると、夏の日差しが本格的にきつくなって来た。

 夏の太陽がアスファルトを熱し、陽炎を立ち上らせながら、道行く人々を灼熱の地獄へと追いやっている。

 そんな日照りに炙られるようにして東方仗助は、解体が始まった刈谷製薬のビルをボーゼンと眺めていた。

 ――あれから3日経った。

 当初新手のスタンド使いの襲撃を予想していた仗助達だったが、予想に反し誰も何も仕掛けてこなかった。

 ……拍子抜けしなかった、と言えば嘘になる。

 しかし現に何も仕掛けてこないのだから受け入れるしかない。

 組織側にとって仗助達の存在など歯牙にかける価値も無いと言う事に。

 それならこちら側から草薙の死体の一つでも警備員(アンチスキル)に提出しようかと出向いてみたが、時は既に遅かった。

 建物は半分以上重機によって立て壊され、作業員がせわしなく動き回っていた。

 なんでも老朽化による崩落の危険性有りと判断され、急遽立て壊しが決定したとの事だ。

 

「あの~~。それで何か出てきて無いっすか? ……例えば~~死体とか」

 

 仗助が冗談めかして作業員に尋ねるが、「ンなモン出るわけねーだろが」という冷静な返答が帰ってくるだけだった。そのまま「シッシッ」と追い払われてしまい。仗助はおとなしく退散するしかなかった。

 

「……なんてこった。奴ら、全部消す気かよ」

 

 自分達の痕跡全てを消す抜かりの無さに、仗助は頭を抱える。

 これで組織に繋がる線は全て消えてしまった。

 完全にお手上げである。

 

「――いや、まてよ」

 

 仗助の頭に一瞬の閃きが浮かぶ。

 まだ線が消えたわけではない。

 まだ、行くべき場所がある。

 

「鏑木光洋(あきひろ)だ。ヤツは何故、何の縁も無い児童擁護施設に顔を出していた? 単なる善意か?

――違う。そんな事をする人間じゃあないって事は既に知っている。じゃあ何だ? あすなろ園にわざわざ大金叩いて出資してた理由は、何だ?」

 

 自然と身体が動き、気づけば走り出していた。

 嫌な予感がしたのだ。

 鏑木の笑顔。その善意の裏側に潜む邪な企みを垣間見た気がしたのだ。

 仗助は鏑木と始めて会話した時の事を思い出していた。――確かヤツは自分の夢としてこんな事を言っていなかったか?

 

――私の肉体はいずれ朽ちていくが、それでも私の精神こころは死ぬ事はない。あの子達と共に、いつまでも同じ時を共有する。この研究はその為にも必要な事なのだ。そしてその成果はもう間もなく実を結ぶ事となる。これ程嬉しい事はないよ――

 

「子供! 鏑木(ヤロウ)の目的はあすなろ園の子供達かッ! その為に園を存続させていたッ」

 

 何故そんな事をしたのか理由は分からない。

 単なるロリコンなのか。

 それとも別の企てがあったのか。

 いずれにせよ、自分達の痕跡をこうも簡単に消す奴らだ。

 あすなろ園の子供達が無事な保障は何処にも無い。

 仗助は急ぎ第13学区へ。モノレールを乗り継ぎあすなろ園へと急行する――

 

 

「――あら? 仗助さんではありませんこと?」

「――白井っ!? ――それに美坂?」

「どうしたのよ、そんなに汗だくになって――っていうか、いつまで学ラン着てんのよ? 8月よ8月」

 

 あすなろ園へと急行する仗助はその正門辺りで黒子と美琴に遭遇する。

 その両手に持っているビニール袋のは大量のお菓子見える。おそらく子供達のお土産用だ。

 彼女達が奉仕活動終了後も暇を見つけては足繁く通っていたのは知っている。今回もそうなのだろう。

 しかし悠長に挨拶などしていられない。二人には悪いと思ったが仗助は素通りし、あすなろ園の正面へ。

 

「なっ!?」

 

 仗助は思わず目を見開き立ち止まる。

 

「なになに、どうしたのよ」

「仗助さん。そんなに急がなくともあすなろ園は逃げも隠れも――って、ええっ?」

 

 二人は立ちつくす仗助に追いつくと、そのまま正門に目をやる。

 そして仗助同様目を見開き、掲げられた看板の文字を食い入るように見つめなおした。

 

 そこには――

 

『閉園のおしらせ。

 児童擁護施設あすなろ園は老朽化による改修工事に伴い、当面の間、閉園致します。

 期間中は、何かとご不便をおかけしますが、ご理解とご協力の程よろしくお願いいたします』

 

 と書かれていた。

 

「閉園だとぉ~~ッ!?」

 

 看板を見た仗助は思わず叫ぶ。

 ありえるはずが無い。つい先日だってここに訪れたのだ。

 園長だって、職員だってそんなそぶり一度も見せなかったのに。

 こんな唐突に閉園などあからさまにおかしすぎる。

 

「鏑木のヤロウ……。やってくれたな……。刈谷製薬に続きあすなろ園(ここ)まで……。当面の間、閉園だとぉ! 改修工事にかこつけた誘拐だろうがこいつはよォーーーーッ!」

 

 看板には開園の日時も、子供達の一時身請け先も、何も記載されていない。

 この看板はただのカモフラージュという事は明白だ。

 子供達はさらわれた。

 そして今は鏑木の手の内にある。

 そのどうしようもない事実が苛立を湧き起こさせ、仗助は思わず看板に蹴りを入れた。

 

「……刈谷、製薬ですって? ……仗助さん。あなた、何を知っていますの?」

「待ってよ。鏑木さんってあの車椅子のおじいさん? 良く施設を訪ねてきてた? その人が関係しているって訳?」

 

 仗助の口から漏れた単語を耳にした黒子と美琴は、それぞれに問い詰める。

 一瞬二人の存在を忘れ憤慨していた仗助は、二人同時に襟元を閉められ、我に返る。

 というか身の危険を感じ、冷静さを取り戻した。

 

「アンタっ! 何か知ってんでしょ? 知ってんのよね? そうでしょう、そうに決まってるっ。もし知らないなんて言って御覧なさい、その体に電撃を直接流し込んでやるんだからっ!」

「犯人逮捕に協力するのは市民の勤め。もしそれを妨害するおつもりならそれは立派な犯人幇助。仗助さんが知っている事を話してくださらないのでしたら、(わたくし)が直接厳罰を下しましょう。今、この場所で貴方の半身を地中深くに空間移動(テレポート)して差し上げてもいいんですのよ!」

「ぐえっ!? お、お前等、落ち着け。言ってる事支離滅裂過ぎんぞッ。とりあえず手を離せ、手を」

 

 仗助が「俺の知っている事を話すから、頼むから手をどけれくれッ」と言うと、ようやく目の据わった野獣共は解放してくれた。

 

「げほげほっ、なんつー乱暴な奴らだ。危うく絞め殺される所だったぜ」

「ふんっ。目の前で犯罪行為が執り行われていたと言うのに、その関係者を取り逃がすなどありえませんの」

「関係者って……あのなぁ。まるで俺が何かしたみたいな言い方をすんな」

「でも実際、何かに首を突っ込んでらしたのでしょう? それは(わたくし)が現在追っている案件と同一のものかもしれない。――刈谷製薬と仗助さん。一体どんな関わりがあるんですの?」

「う……」

 

 黒子に鋭い視線を送られ、仗助は一瞬言葉につまる。

 

「スタンド、絡みだぜ。お前らが行うこれからの行動全てに”自己責任身”っつーモンが常に付きまとってくるぜ? それでも聞きたいか?」 

「それでしたらご安心を。それなら既に身をもって体験しておりますから」

 

 黒子が凛とした表情を仗助に向け、言う。

 その瞳の奥に『絶対に引かず、倒れず、くじけない』。そんな強靭な意志の力を感じ取った仗助は「分かった」と短く言い、「とりあえず落ち着いた場所へと行こうぜ」と黒子達に移動するよう促した。

 きっと自分が何も言わずとも、黒子は決して諦めない。『真実』へ到達する為に、『絶対の意思』で前へと進もうとするだろう。

 進もうとする意思させあれば、それはやがて形を伴い具現化し、結果として大成させる。

 白井黒子とはそれが出来る唯一の人間であると仗助は考えていた。

 口を開けば悪態ばかり出てくるが、実の所、仗助は黒子のそういう(・・・・)性格が気に入っているのだ。

 

(なんつーか、一緒に居ると頼りになるっつーか、誇り高い気持ちになるっつーか。……ま、口に出しては絶対に言わんけど)

 

 それに仗助側も現状では手詰まりなのは事実だ。誰かに協力を仰がなくては事態の打開は難しいと考え始めていた所だ。その役割を黒子達が買って出てくれると言うのだからそれはもう、渡りに船であると考えを改めるべきだ。

 

 モノレール駅に到着した仗助は、第七学区に戻る道すがら、自分の知っている情報を全て提示することに決めた。

 

 

 

 

 

「――きっかけは俺の友達(ダチ)の八雲だ。あいつがとあるメールの呼び出しに応じた所から全てが始まった」

 

 第七学区に到着したモノレールを降り、仗助達が向かった先はファミレスの『joseph`s』だった。

 外の炎天下に比べ空調が完備されているファミレスは、まさに天国と地獄ほどの違いがある。

 まさに極楽だ。

 黒子と美琴は迷わずメロンソーダ。

 仗助はカプチーノを注文した。

 その注文の間、仗助がこれまでの経緯を話し始める。

 

「どんな組織で、規模もどれ位か分かっていないが、そいつらの目的は『スタンド使いを増やす事』。その一点だ」

「仗助さんの話を統括すると、相手は能力の伸びしろに悩む方々に対し、ランダムにメールを送っているようですわね。それで、八雲さんはその話に乗ってしまわれた訳ですか」

「…………」

「八雲の話だとかなりの数の人間が講堂に集められたらしい。自分達がやばい事に足を突っ込んでるって自覚がある連中ばかりだ。誰もコトを公にしようなんざ思わないだろうさ。発覚が遅れたのもそのせいだろうな。

そしてそいつらは揃って薬物を注入され――」

「一部の人間はスタンド能力に目覚めた、と言うわけですわね――って、どうしましたのお姉さま? そんな難しい顔をなされて」

 

 黒子が先程から一度も会話に参加してこない美琴を不思議そうな表情で見る。

 美琴は腕組みをして眉間にしわを寄せながら何か考え事をしている。――やがて口を開く。

 

「今回の事件。聞けば聞くほどレベルアッパーの一件にそっくりなのよね。被害者の動機といい、その手口と言い……。」

「お姉さまは、ひょっとしてあの木山が絡んでるのかもしれないとお思いなのですか」

「そうは言って無いわよ。やっているのは別人だと思う。私がムカついてるのはそのやり口よ。木山の時は……何と言うか、犠牲者をなるべく出さないようにっていう配慮があった。やり方には同意できないけど、子供達を助けたいって言う、想いが感じられた。でもこの件は違う。この件には『被害者がどうなろうと知ったこっちゃ無い』っていうただの悪意しか感じられない」

「現に、『ハーネスト』なんて犯罪者も生まれていますからね。お姉さまの仰られることはもっともですわ」

「許せないのよね。人の気持ちを、自分達の目的を遂げる為だけに利用するってやり口。ほんとムカツク!」

 

 よほど腹に据えかねていたのだろう。美琴がテーブルを叩く。

 その衝撃でそれぞれのコップに入った水が波打つ。

 

「お、お客様~~?」

 

 間の悪い事に、ウエイトレスが丁度オーダーを持ってきたタイミングと重なってしまったようだ。

 困惑顔のウエイトレスは平静を取り繕い直すと、「ご、ご注文のメロンソーダとカプチーノでーす」と言いながら手早くそれぞれの席に注文品を置く。そして「し、失礼しました~~」と頭を下げると、そそくさと退散した。

 

「あーー……とりあえず、食べよっか」

「そうですわね」

「だな」

 

 会話が一旦中断された形となったので、三人は仕切り直しの意味も込めて注文した品に口をつけることにした。

 

 が、仗助は先程からちらちらと視線を感じ、気になって仕方ない。

 一体誰だと、視線の先を見てみれば、そこにいたのは涙子と初春の二人組みだった。

 

「――なにやってんだお前等、そんなトコで」

 

 二人は仗助達とは対角線上に位置するテーブルに座っており、声をかけると「ひゃ」という声と共に身を縮こませて隠れようとするが、あからさまに無理がありすぎる。

 やがて観念したのか二人は愛想笑いを振りまきながらこちらへとやってくる。

 

「あはははっ、いや~~偶然初春と歩いていたら美坂さん達を見かけちゃって~~。そしたら東方さんも一緒じゃないですか~~。男子一人に女子二人の組み合わせ、しかもまじめな顔で何か議論してる。ちょーっと興味惹かれちゃってーー」

「――様は出歯亀です」

 

 涙子の取り繕いの言葉を初春がごく完結に翻訳する。涙子は「見も蓋も無いコトをーー」と頬を膨らませるが、初春は「いつものスカートのお返しです」とすまし顔だ。

 黒子は目頭を押さえ「貴方たち……」とため息を洩らした。そのままチラリと美琴の方へ視線を向ける。

 このまま追い返した方がいいのだろうか? という意味を込めての目配せだ。

 それに対し美琴は首を横に振り、

 

「私は良いと思う。二人には事実を話しても。この街に起きつつある良からぬ事に対して、二人は知る権利があると思う」 

 

 そういって、今度は仗助に目配せをする。

 仗助は一瞬考えあぐねたが、短いため息と共に「まあ、いいんじゃあねーの」と同意した。

 

「冷静に考えたら情報を知っておいた方が、危ねぇ場所に立ち寄らないだろうしな。考えを改めたぜ」

 

 その上で「完全な自己責任になるが、それでもいいかい?」と黒子達と同じやり取りをする。

 二人の答えは二つ返事で「YES」だった。

 

 

 涙子と初春が加わった意見交換は、その後もとめどもなく行われた。

 仗助側からは事件を裏で引いているとされる鏑木と草薙という人物の名前を。

 黒子側からは、薬物流通のルートの一つを潰した事。そこで一人の少女と出会った事等の情報を得る事が出来たが――肝心の組織についての情報はそこで費えてしまった。

 

 カプチーノをお代わりし、追加にアイスクリームを注文してさらに粘ってみたが、有益な情報を得ることは出来なかった。

 

「結局ここで打ち止めかよ~~。良く考えりゃあ、一介の高校生と中坊如きの情報収集能力じゃあ、この辺が限界かぁ」

「アンタ、その言葉は聞き捨てなら無いわね。見てなさいっ、こうなったらテキトーに上層部のネットワークにアクセスして……」

「お前、いつか絶対捕まるぞ、それ」

「お姉さま、曲がり形にも風紀委員(ジャッジメント)である(わたくし)の目の前で、犯行予告をなされましても困るのですが……」

「あたしは白井さんの話に出てきたフェブリちゃんってのが気になるなぁ。なんかもう、モロ『ワケあり』って感じゃないですか。きっとその子は世界の命運を握る特殊な力を持っていて、世界征服を狙う悪の組織から……」

「……佐天さん、ラノベの読みすぎです」

 

 意見も出尽くし、明確な目的すら不明瞭になり始める会議ほど、無意味なことは無い。

 もはや集中の糸も切れ、意見もいろんな方向へとっちらかりを始める不毛な会話へシフトし始める。

 俗に言うガールズトークというヤツが始まった。

 その先陣を切ったのは、涙子の一言であった。

 

「そういえば前から気になってたんですけど、白井さんって東方さんの事を下の名前で呼んでますよね? 何でですか?」

「な、なんですの? 藪から棒に」

「だってあたし達の誰も『仗助さん』なんて呼んだ事無いのに、いつの間にか呼んでるんですもん。すっごい気になっちゃって」

「べ、別に他意はありませんわよ。ただ『ひがしかたさん』っていう語感が、(わたくし)的に呼びづらかったってだけですわ」

「え~~。それだけですか~~? それだけで男の人を下の苗字で呼んじゃいます~~? なーんか怪しいなぁ」

 

 こういう色恋沙汰に関しては直感的に鼻が聞く涙子は、「にんまり」とした笑みを湛え黒子を見る。

 それがまた、痛くも無い腹をくすぐられているようでもあり、黒子は助けを求めるように視線を美琴へと向ける。だが――

 

「確かに。あの黒子が男の人を名前で呼ぶのって始めての事じゃない? あんまり自然に呼ぶもんだから今まで違和感無かったわ」

「お、お姉さま?」

 

 美琴は口元に手を当て、しきりに「ウンウン」と何度もうなずいている。

 やがて黒子に向き直ると、「そっかー。黒子もようやく正しい道に目覚めたって訳ね」とその肩口をバンバンと叩きながら満面の笑みを浮かべる。

 

「いだだだ。お姉さまっ、強いっ、力が強すぎますのっ」

「これまでアンタの変態行為に散々頭を悩まされてきたけど、ついにお役御免って訳ね。私の傍にこれからはあんたがいなくなると思うと――……全然さびしくならないわね。まあ、歳の差の問題はあるけど頑張ってねー」

「なんですのっ、そんな在庫処分のバナナの叩き売りのようなやる気の無い声援はっ!? ――というかどうして(わたくし)がこの唐変木と恋仲という話になってますの!? (わたくし)が愛を授かるに相応しい相手はお姉さまだけだといいますのに!」

 

 黒子が心外! と言わんばかりの表情で仗助を指差す。

 不毛な会話に参加するつもりは無かった仗助だが、一連の黒子の態度には「人が黙っていれば好き勝手言いやがってーー!」という想いが存分に湧き出てきた。正直ムカッ腹だ。なのでここは素直に感情を吐露させて貰う事にする。

 

「人を指差してギャンギャン喚き散らすんじゃあねーーっ。――ってか、誰が唐変木だコラッ! 俺の守備範囲はバスト90以上のグラマラス系だって決まってんだ。オメーみてーなガキんちょ、頼まれても願い下げだ!」

「はんっ。その発言、心も体も二次性徴を迎えたばかりの乙女に向かっていうセリフではありませんわね。将来的な展望すら予測できない男子は嫌われますわよ。寝言は(わたくし)の年齢を考えてからおっしゃって下さいですの、このお馬鹿さん!」

「ンだとぉ!? この変態ツインテールがっ!」

「なんですって!? このボンクラ不良が!」

 

「ぐぎぎぎ」とお互いに一歩も引かずににらみ合う同じ穴の狢。

 そのやり取りを見ていた美琴は心底どうでも良いように追加のメロンソーダを口にする。

 

「あーーはいはい。もうどうでもいいから二人でよろしくやんなさいよ」

「おねえさまーーっ!?」

 

 半狂乱になり美琴に縋りつく黒子。だが美琴は「わかったわかった、くっ付かないでよ暑苦しい」とまったくとりつく島もなくスルーした。その態度に、黒子の感情は爆発した。

 

「おねえさまぁ、それはあまりにも……あまりにもご無体な仕打ちですわ。黒子はお姉さま一筋。他の殿方になびく事など1ミクロンもありえないと断言できますのにっ」

 

 そういって美琴の胸やら腹部や臀部を触りまくる。

 

「な!? な、な、な――」

「全てはこの体がいけないんですわ。――この慎ましい胸、健康的で小ぶりなお尻っ。カモシカを思わせるすらりと伸びた足とふとももっ! これら全ての要素が黒子をおかしくさせるのですわ」

 

 ぐりぐりと頭部を美琴のふとももに擦り寄らせながらの胸のもみしだき。その光景を目の当たりにした仗助は――コイツ、手馴れてやがるっ!? と絶句した。

 

「ああ、お姉さまっ……グヘヘヘ。こ、この発展途上な骨ばった体つきがなんとも……」

 

 見ると黒子は口から涎をたらしながら至福の一時を満喫していた。

 このまま時間が止まってってしまえばいい。

 きっと黒子はそう思っている事だろう。

 だが、幸せな時間と言うのは長くは続かないのが世の常である。

 

「く~~ろ~~こ~~ォォォ……」

 

 バチバチと点滅し始める店内の照明設備。

 店内の有線放送にはノイズが混じり始め、空調もダウンした。

 突然の異変に店内の客もざわめき始める。

 その原因たる美琴は自身の体を放電させ、怒りの篭った低い声で黒子の頭を掴む。

 

「お、おねえさ……ま?」

「いっぺん死んで来ぉおおおおおいっ!」

「○×△□■%Ω#Δーーーーっ!?」

 

 黒子は案の定美琴からきつい電撃を受けることになった。

 閃光に包まれる店内。悲鳴。逃げ惑う客。

 しばらく経った後床に転がっていたのは、陸に投げ出された魚の様にのた打ち回る黒子だった。

 

「……こ、これですわ……。こ、このお姉さまの愛の鞭が無いと黒子はダメな身体になってしまいましたの……。電撃が身体を駆け抜けるたびに、痺れるくらいにお姉さまの愛を感じましてよ~~……」

「なら、もう一発イッときましょうか?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――み、見えますわ、新たな世界がががががが……」

 

 そんな光景を遠めで見ながら、涙子と初春は――

 

「ぬふふ。ムキになる所がまた怪しいですなーー初春さんや」

「そうですねー佐天さん。これは完璧に芽生えちゃいましたかねー恋心が」

 

 自分達だけで勝手に盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

「ったくよぉっ! 女三人集まれば姦しいって言うが、ありゃあそんな域を軽く超えちまってるぜ。やかまし過ぎだ! お前等ッ! おかげで出禁喰らっちまったじゃあねーかっ!」

「まったく、それもこれも黒子がギャーギャー喚くから……」

「トドメ刺したのはオメーだけどなぁっ。店ン中で電撃放つか、フツー!?」

 

 仗助は青筋をおっ立てながら美琴に食って掛かる。

 美琴の放った電撃は、店内の空調設備や電化製品の類を一時的にショートさせた。

 ただでさえワイワイと騒がしい一団に対し、店長が目を光らせていた矢先にこれである。

 怒りに震える店長が仗助達を追い出したのはいうまでも無い。多分仗助が同じ立場だったとしてもそうしたに違いない。

 

 ――そして現在。

 話し合う議題も特に無くなったコトから仗助達は岐路に付く事になった。

 その途中で涙子が「この先に近道があるんですよ!」と公園を指し示したので一同は先導に従う事に。

 

「……まてよ?」

 

 仗助はそこではたと気づく。

 

(俺がこいつらに付いて行くメリットってねーじゃあねーかっ、おいっ)

 

 何となく流れでこのグループに同行してしまったが、仗助が付いていく意味はあるかというと――ない。

 

(よくよく考えりゃあ、男一人に女四人ってすんげー気まずいんじゃあねーか。なんで俺今まで何の疑問も持たずにくっちゃべってたんだ? 今更ながら場違いっつーか、居た堪れない気持ちがムクムクと湧き出てきたぜ)

 

 いかつい顔立ちとガタイの仗助だが、こう見えて意外にも純情ボーイなのである。

 このままテキトーに理由つけてこのグループから離脱しようかと考えていた矢先。

 涙子の「あれ? 誰か倒れてる?」という声に我に返った。

 

「あそこですあそこっ。ほらっ、花壇のトコ」

 

 涙子が指し示したのは公園の中心部にある正方形状の花壇だった。

 そこに植えられた紫色のコスモスの花。その中央に身体を丸め、寝息を立てる少女がいた。

 ゴスロリ衣装に身を包んだ見た目9歳くらいの金髪の少女。

 その一場面だけを切り取れば、まるで妖精がお昼寝をしているかのような錯覚を覚える。それ位、マッチした光景だった。

 

「ああーーーーっ!?」

 

 その時、その幻想をぶち壊すがごとく、黒子が大声で叫んだ。

 

「ど、どうしたのよ黒子。そんな素っ頓狂な声を上げて」黒子の声に驚いた美琴が非難の声を上げる。

「こ、この子ですわ」

「へ?」

 

 黒子はわなわなと少女を指差し、仗助達に向き直る。「(わたくし)が遭遇した謎の金髪少女! ――名前はたしか……フェブリさんっ」

「まじかよ」

 

 仗助は少女・フェブリをまじまじと見下ろす。

 瀕死の黒子を助け、忽然と姿を消したという少女。

 その少女がいま、目の前にいる。

 この少女は何者なのか? 一連の事件に関係しているのか? 色々と聞きたいことは山ほどあるが、それはこの少女が起きてから聞き出せば良い。

 とりあえず今は――

 

「ちょっ!? 仗助さん、何をっ……」黒子が慌てた様子で尋ねる。それに対し仗助は人差し指をあて「静かにしろ」と声を潜める。

「このままにしとくわけにもいかねぇだろ? とりあえず場所を変えて事情を聞こうぜ」

 

 仗助はフェブリをゆっくりと抱き寄せると、起こさないように慎重に近くのベンチに運ぶ。

 後から黒子の「くれぐれも丁寧に、そして慎重にですわよ」との声が聞こえてきたが、そんな分かりきっている言葉は無視だ。

 フェブリをベンチに下ろす際に『クレイジー・ダイヤモンド』で身体の状態を調べる。

 

「とりあえず、怪我はしてねぇみたいだな。単に昼寝してただけか」

「むにゅ……」

「おっ」

 

 しまった。

 微妙な振動の違和感に気づいたのか、フェブリが起きてしまったようだ。

 もう少し待ってから起こすつもりだったのに。

 フェブリは目をこすりながら周囲の状況を確かめ、そして仗助と目が合う。

 

「よ……よう」

 

 とりあえず威圧感を与えないようにしゃがみ、目線をあわせて挨拶する。

 寝ぼけ眼で最初視点が定まらなかったフェブリだったが、しばらくすると完全に夢から覚めたようだ。

 大きな両目をぱちぱちさせ、仗助を視界に入れる。

 やがて――

 

「あーーーーっ!」

「うるせっ――!?」

 

 急にフェブリが大声を上げたかと思うと、仗助に抱きついてきた。

 あまりの突然の事で仗助も、様子を見守る黒子も、美琴も、初春も、涙子も――一瞬何が起きたのか分からずに固まってしまった。

 

「しってるっ。フェブリ、しってる! おにいちゃんのことっ。ゆめでみたっ!」

「ゆ、夢だぁーー?」

「うん。今とすがたはちがうけど感じたの。おにいちゃんは、ゆめでみたおにいちゃんだって」

「ちょいと待て、何言ってんのかさっぱりだ。もうちょっと分かりやすくだな……」

「おにいちゃん。お名前は?」

「俺? 俺は……その……東方仗助っつーんだけどよぉ……」

「じゃあじょーすけってよぶね。フェブリの事もフェブリってよんでいいよ」

 

(――わからねぇ……何なんだ、この状況はよぉ~~~~)

 

 夢の中で自分にあったと言い、慕ってくる少女。

 抱きつき、頬を摺り寄せてくるフェブリ。

 そんな青天の霹靂の状況に戸惑いを覚えるのと同時に、仗助は何らかの事件の余波が自分達の所に到来する予感を感じ取っていた。

 

「確か、光源氏計画と言うものがありましたわね、お姉さま」

「あー聞いたことある。自分好みの女の子に育てちゃうって言うアレでしょ」

「まさか! あんな幼い女の子にあんなことやそんな事を!?」

「佐天さん。いくら東方さんが女日照りでもそこまでは」

「――外野ぁ、聞こえてんぞコラァ!」

 

 当面の問題は彼女達の質疑応答をどうかわすかに費やされそうであるが――

 

 

「――まあ、それはともかくとして、ですの」

 

 いつまでも仗助と戯れているフェブリに業を煮やしたのか黒子がずいっ、と一歩前へ歩み寄る。

 

「事情は聞かねばなりませんわね。フェブリさんの」

「ふえ?」

「教えてくださいません事? あなたの事。あの時、どうしてあの建物にいたんですの?」

 

 黒子も先の仗助同様腰を落とし、フェブリと同じ目線に立つ。

 そして努めて優しい口調で訊ねる。

 こういう場合、強めに追求しても良い答えは返ってこない。

 焦れば焦るほど、子供というのは鋭敏にその感情を察し、心を閉ざしてしまうものである。

 だから待つ。

 フェブリが話したくなるまで。

 フェブリはしばらく「うー」とか「あー」とか言いよどんでいたが、やがておずおずと

 

「でも……知らない人とお話しちゃダメだって、ママが……」

 

 視線を逸らし仗助の首元に抱きつく。

 その様子に「そうでしたわね。自己紹介がまだでしたわね」と黒子はにっこりと笑顔を浮かべ、フェブリの手を取る。

 

「改めまして、(わたくし)は白井黒子と申しますわ。そこの『仗助おにいちゃん』のお友達ですのよ」

「ともだち?」

「ええ。フェブリさんには先日助けていただいてお礼を言いたかったのですわ。あの時は助けていただいてどうもありがとう」

 

 そういってペコリと黒子は頭を下げる。

 

「うー」フェブリは小さく唸りながら、くいくいと仗助の制服を引っ張る。

 

「ほんと?」

 

 仗助の顔を覗き込み、聞く。

 不安げに瞳が揺れている。

 だから仗助はそんなフェブリを安心させようと「ああ、この黒子お姉ちゃんだけじゃなく、後の3人も皆俺の友達(ダチ)だ」そう言って頭を優しく撫でた。

 

 その言葉を聞き、ようやくフェブリは安心した表情を浮かべる。

 

「ど、どいたしまして……でう」なれない敬語をたどたどしい言葉で紡ぎ、黒子の手をキュっと握り返した。

「これで知らない人ではなくて、ちゃんとしたお友達になれましたわね。――それじゃあきちんとお話を……」

「げほんげほん」

「?」

 

 ワザとらしい咳払いに黒子が後を振り向けば、そこにはチラチラと流し目をくれている美琴がいた。

 

「あーー、黒子さん? そろそろ私たちにもフェブリちゃんを紹介してくれないかなぁ?」

「そうですよ白井さん。私達もちゃんと仲良くなりたいです!」

「そうです、そうですっ。白井さんばかりズルイですっ」

 

 いや、美琴だけではなく涙子と初春も不満げに頬を膨らませ、恨みがましい視線を仗助達に送っている。

 やがて我慢できなくなったのか各々にフェブリの元へと駆け寄り、それぞれに自己紹介を始めだした。

 

「わっ、わっ、わっ!?」

 

 突然出来た大量の『自称・友達』にフェブリは目をパチパチとさせ、戸惑いの表情を浮かべている。

 

 ――こりゃあ、話を聞けるのは大分先だな。

 

 仗助は美琴達にもみくちゃにされ目を白黒とさせているフェブリを見ながら、上空の真っ白な入道雲を見上げ、息を一つ吐き出した。

 

 

 

 

「それじゃあフェブリさん。改めてお話を聞かせてもらえますの」

 

 美琴達との交流(もみくちゃにされただけともいう)が一段落した頃。

 頃合を見計らって、黒子がフェブリに質問をする。

 

「まずは、あの廃墟のビルにいた経緯……理由を教えてくださいます?」

 

 先日、あの廃墟に居合わせた理由を改めて問う。するとフェブリは「にげてきたの」とポツリと言う。

 

「逃げてきた? 誰からですの?」

「フェブリを閉じ込めてた悪い人たちから。ままとも離れ離れになっちゃった……」

 

 明らかに落胆した様子で語るフェブリ。しかしその言葉に違和感を覚える。今度は仗助が質問する。

 

「逃げてきたって……お前、誘拐でもされてきたのか?」

「ゆーかい? ううん、されてないよ。フェブリはずっと同じところにいたよ」

「? 話が見えないな。お前、通学途中とかに攫われたとかじゃあないのか?」

「つーがくってなあに?」

「――っ!? もしかしてだが、お前、生まれてからずっと……?」

「うん。お外に出たのは始めて。ままがにがしてくれたの」

 

 フェブリは何気ないように言う言葉の一つ一つが、仗助達にとっては衝撃だった。

 生まれてこの方外の世界を知らない少女。

 フェブリを逃がしてくれた母や親らしき人物。

 その事実が、フェブリがこれまで過ごしてきた環境の酷さを物語っているようで、思わず言葉につまった。

 

「フェブリはね。大きなはこの中で生まれたの。そのまんなかには外が見える穴があって、白い服をきたフェブリとは違ういろんな人たちがのぞきこんできたの。それで「じっけん?」って言っていろんなお薬をちゅうしゃされたの」

「それで……そこには、フェブリさんと同じような人達はいませんでしたの……」

 

 黒子はフェブリの他に囚われの身の人間がいないか、という意味で質問した……つもりだった。

 それに対しフェブリは「うん、いたよ。フェブリが一杯」と判断に困る回答を口にした。

 

「それは、どういう……」

 

 聞き返そうとする前にフェブリが答える。

 

「初めは一杯いたの。そのこたちとお話をいっぱいしたの。……でも、みんないなくなっちゃったの……」

「クローン……ですのね……」

 

 続くフェブリの言葉でようやく黒子は理解した。

 

「ええ? 白井さんっ。……クローンって、フェブリちゃんが? う、嘘だぁ」

 

 話を受け入れられない涙子がフェブリを抱き寄せながら、言う。「だ、だってこんなにかわいい子が、悪の組織に無理やり人体実験されてるって話だけでも信じがたいのに、だ、誰かのクローンだなんて……」引きつった笑みを湛えながらいやいやと首を振る。

 

「ですが事実ですわ、佐天さん。巷で秘密裏に行われていた、スタンド使いを増やす投薬実験……。それを今度は培養したクローンで行っていたのですわっ。そして生まれたのが、この子っ」

 

 それは一体どんな毎日だったのだろう? 

 人体実験を連日のように受け、自分と同じ顔をした自分が日に日にいなくなる日々。

 外の世界を知らず、当たり前のように自分の境遇を受け入れて……。

 黒子は思わず胸が一杯になった。

 いや黒子だけじゃないこの場にいる全員が同じ気持ちだっただろう。

 だが、それでも聞かねばならない。

 その先に真実に至る道が隠されているのならば、前へ進まなければ。

 

「――それで、フェブリさん。捕まっていた貴方を、お母さんが助けて下さったのですわね。それで離れ離れになった。(わたくし)と会ったのもそのときですわね」

「うん。見つからないようにキリンさんにびゅんびゅんしてもらったの」

「それはスタンド能力で移動を繰り返していた、と解釈してよろしいのですわね」

「すたんど?」

「こういう能力の事さ」

 

 仗助が『クレイジー・ダイヤモンド』を出現させる。それを見たフェブリが「おおーー」と感嘆の声を上げる。

 

「やはり、見えていますわね」

「ああ。組織とフェブリ。どういう関係かはわからねぇが、糸は繋がったみてぇだな」

 

 以前言っていた黒子の話から、フェブリのスタンドは『絵に描いたものを具現化させる』能力と分かっている。 黒子の前から消え去ったのも恐らくその能力を使用しての事だろう。

 だが分から無い事が一つある。

 フェブリはどうして公園で眠ってたのだろう。

 身を隠すこともせず、どうしてこんな場所で?

 

「眠いの……」

 

 その時フェブリの頭が船を漕ぐ様に揺れ始める。

 両目をこすり、必死に眠気に抵抗している様子だが、どうしても勝てない様子だ。

 そういえば無理に起こしてしまったんだったな。

 仗助は自分達の都合に無理やり付き合わせてしまった事実に反省し、素直に謝罪する。

 

「すまねえな。あれこれ聞いちまって」

「ちがうの……。キリンさん書くといつもこうなるの……。すごくすごく眠くて……」

 

 そのまま最後まで話す事はなく、フェブリは「スースー」と寝息を立て始めた。

 

「……キャパオーバー。幼い身体が使用するには余りに燃費が悪すぎるスタンドらしいな。

花壇で寝てたのもそれが原因か。例えるなら、さしずめ『燃料切れで不時着した飛行機』――ってトコだな」

「でも仗助さん。これからどうしますの? 組織は当然フェブリさんを追っていますわ。事情が事情だけに、このまま警備員(アンチスキル)にも引き渡せませんし……」

「だ、だったら白井さんっ」涙子が勢い良く挙手をする。「あたしのトコで面倒見ますよ。暫くかくまう位余裕です。ね、初春?」

「は、はい。私と佐天さんでちゃんとお世話しますよ」

 

 力強く言い放つ涙子と初春。

 特に涙子はフェブリの境遇に対しずいぶんと肩入れしている様だ。

 さっそく寝ているフェブリの腋の下に手を入れて抱っこし、自分の背中に背負う。

 

「そうですわね。とりあえず、今日の所は佐天さんのお言葉に甘えて解散にしましょうか。フェブリさんには後日改めて事情を聞きましょう」

「うーん。こんな時、寮生活なのが悔やまれるわ……。後で黒子と必ず顔を出すからっ」

 

 美琴が本当に残念! と言った表情でフェブリを見る。それを黒子が「それなら今夜は(わたくし)フェブリさんだとお思いになって甘えてくださいな!」と抱きつこうとして、当然のごとく鉄拳で制裁を受けていた。

 

「ま、こーゆーのは同姓同士の方が話が弾みやすいだろ。詳しい話、後で聞かせてくれよな」

 

 仗助はそんな黒子達のやり取りを無視して涙子たちに言う。

 男である自分は役に立て無いと自覚している為だ。

 そんな仗助に対し涙子は、

 

「はい、任せてください。佐天涙子、初春飾利両名、誠心誠意フェブリちゃんをお世話させていただきます」

 

 ――と、おどけた様子で敬礼の真似事をする。その後に初春が「たはは」と恥じ入りながらも同様に敬礼する。

 

 こうして5人は互いに別れの挨拶を交わし、帰路に着いた。

 その胸に様々な感情や思惑を宿して明日を待つ。

 明日から忙しい毎日になる。

 そんな予感めいたものを、5人は直感的に感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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