天司の落としもの   作:虹野衣司

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今回はグランとアルルメイヤ。
地の文もしっかり坂本真綾さんの声で脳内再生してくださいね!


かっこいい名前が欲しい

「かっこいい名前が欲しい」

グランが私にそう相談してきたのは、暑い夏の日の、静かな夜だった。夕食を終え、自室で読書をしていると、ノックがあった。

「グラン。どうかしたのかな」

「え、部屋に入る前から分かるの?」

「ふふ、私はファータ・グランデ随一の占い師だよ。これくらいの未来が分からなくてどうする?」

「さすがアルルさん!じゃあ話が早いや、相談があるんだ」

「まずは部屋にお入り。ココアをいれてあげよう」

「子どもじゃないんだけど」

「私もココアを飲みたい気分なんだ、付き合っておくれ」

「はーい」

「いい返事だ。まるで子どもみたい」

「アルルさんのいじわる…今日はよしておこうかな」

「ふふふ、すまない、そうはいっても君が相談する未来は視えているからね」

扉越しにこのような会話をするのも、悪くない。

「さ、早くお入り。あまり立ち話はするものでもないよ」

「むー!」

頬を膨らませつつ入ってくるグラン。なかなかどうして愉快じゃないか。

「大人が子どもをからかうのは良くないと思います!」

「おや?自分で子どもと認めているのかい?」

「…ふんっ!」

「それで、相談というのは?」

「知ってるんでしょ」

「いいや。未来のすべてを知っていてはつまらないだろう。相談に来ることは知っていても、相談の内容は知らないのだよ」

「じゃあ今視ればいい」

「まぁまぁ、そんなに拗ねてないで話してごらん。一緒に解決しようじゃないか」

「ずるい…」

何がずるいものか。こんな風に私の心を動かす君の方がずっとずるいというのに。

「その…実は…」

おや?照れるグランなど本当に珍しい。明日は雪でも降るのだろうか。明日の天気くらい、視てみるのもいいかもしれない。

「かっこいい名前が欲しい」

「…ふーん」

「え、アルルさん?もうちょっと何かないの?」

「グラン。君の名前は十分にかっこいい。たとえグランブルーだからなどという適当な理由からつけられた名前だとしても、ファンタジーから取られたジータよりはましさ。自信を持つんだ」

「そういうことじゃなーい!あとさりげなくdisられた!」

「おや?そうではないのか」

「ぼ、僕は…騎空団の団長だ。他の団といえば、例えば…白竜騎士団やリュミエール聖騎士団のようなかっこいい名前があるだろう」

「ふむ。確かに」

「でも、僕たちの騎空団には名前がないんだ」

「いわれるまで気付かなかったよ…そうだね。よろず屋さんからも『みなさ~ん』としか呼ばれないし、七曜の騎士からは『彼の息子の団』くらいにしか呼ばれていないし…」

「そうなんだ。だからかっこいい名前が欲しい!」

「アストロ・ホライズン」

「かっこいい…!けど、アメイジングなことになりそうだから嫌だ」

「ファンタズ・マゴリアCT7」

「かりおっさんだね完全に。修正おめでとう、いや木村さん福原さんありがとう」

「ネブカドネザル・セス」

「絶対強いとは思うけど…」

「疾風のサバンナクロー」

「うみゃみゃみゃみゃ!」

「キノヴォリ」

「食べないでくださーい!いえ、食べるなら僕を…」

「グラン、真面目に決める気はあるのかい?」

「ねぇそれあんたが言う!?」

ココアを飲み、一呼吸置く。

「私からしてみれば、グランが決めたものであればなんでもいいのだけれど」

「そんな無責任な。なんかいい名前、占ってよ!」

「それこそ無責任、というものさ。君が決めた名前なら、どんな名前であっても団員は受け入れるだろう。それに、画数や文字数から風水などで占うことはできても…君なら、グランなら、どんな運勢もいいものに変えてしまうと、信じているよ」

「ずいぶん信じられてるんですねー、うーん。まずは考えてみるよ」

「それがいいさ。ふふふ、今からどんな名前になるか楽しみだね」

「ありがと、アルルさん。ちょっと自信が出てきたよ」

「それは良かった。もう戻ってしまうのかい?」

「あー。うん。これからちょっとランスロットさんと稽古するんだ」

「そうか。では…気を付けて行ってくるんだよ」

「うん!」

「いってらっ…」

「アルルさんも来る?いろんな人から見てもらった方が、練習になると思うんだ」

グランはいつも無意識だから困る。少しは私の心境というのを考えてほしいものだ。

「いや、やはり15歳と29歳では少々無理があるか」

「え、アルルさん、なにか言った?」

「っ!いや、なんでもないんだ。せっかくだから見てみよう。ランスロット殿の太刀筋は美しいからな」

「へ~ランスロット目当てなんだ~、ふ~ん」

そう言ってさっさと行ってしまうグラン。

「あ、わ、おいていかないでおくれよ」

「先に着替えて準備しないと。甲板で待ってて!」

全くグランは。グランがいなくなり、一人残された部屋でため息をついた。

 

それでも私は甲板に向かって歩いていく。

「年は取りたくないものだ」

まるで三十路のようなことを呟きながら、甲板にたどり着くと、綺麗な月と…。

 

いつも通り、次回の投稿は魔物を倒してからさ。

 

「ヴァイス・フリューゲル!」

「うおお!かっこいいぜランちゃん!」

 




今年は2017年です!
なんと文字数が2017だそうです。

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