宇宙から幻想入り   作:みけのまかろん!

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001 幻想郷へ流れ着く

 

 

 

 幻想郷の北にある妖怪の山。天狗と河童が暮らし、社会を形成している場所。そこを流れる一筋の川に、一人(?)の河童の姿があった。

 

 

 にとりは何時ものように、珍しい機械を探しに回る為陸地へと向かって泳いでいた。

 服を着たまま颯爽と泳いでいく光景は不思議だが、彼女の着る服は河童の技術で作られた服な為、水を一切吸収せず、また水中での移動に全く妨げにならない。

 

 川から上がると、岸のほうにカプセルのような円柱状の物体が流れ着いているのに気づいた。

 

 いや、その見た目から想像される重量で実際に川から流れ着いたのかは疑問だが、とにかくそこにあったのだ。

 

 ――河城にとりは河童のエンジニア。

 

 外の世界から流れ着いた機械などを集めては分解し、その技術を自分のものにしてきた。

 

 その彼女が目の前に未知の機械を見つけたのならば、興味を示すのも当然だった。

 

「むむむっ、なんだろコレ。何かの装置かな」

 

 見た目だけは外の世界で言う薬のカプセルにそっくりだが、こんな大きなカプセル錠剤がある訳が無い。

 

 触った感じもプラスチックに近い、軟質な触り心地だ。ひんやりとしている辺り、デザインの凝った冷蔵庫なのかもしれない。

 

「うーん、それにしてはネジが見当たらない。こりゃどうやって出来てるんだ?」

 

 見た感じシンプルな構造なのに、その用途と構造が理解できない。

 

「きょうはツイてるね。まさか半里も行く前に見つかるとは」

 

 久しぶりに遭遇した珍しい機械に、にとりは心躍らせていた。これは持ち帰って早速、解析してみないと、とそのカプセル状の物体を引き寄せて来た道を引き返し始める。

 

「うんしょっと。大きさの割にはそんなに重くないのか」

 

 少し持ち上げて、持ち帰る為の防水用のシートで包む。そのまま川の中へ運んでしまったら水に弱い大抵の機械は確実に壊れてしまうからだ。

 

 それに牽引用のロープを取り付け、ロープのもう一方を自分の腰に巻きつける。

 

「よいしょーっと。じゃあ川まで流そう」

 

 にとりの使える能力、『水流を操る程度の能力』でカプセルを再び川へと戻し、そのまま操った流れに乗せる。

 

 大きさの割には以外に軽いそのカプセルを水流を牽引ロープを使って移動させながら、すぐ近くにある自分の家へと運んだ。

 

 一瞬、そのカプセルの上部が明滅し、銀河連邦の所属を表す表示を浮かび上がらせたことに気づかず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 にとりの家は強い川の流れの奥、水中を介した洞窟の中にある。

 

 中は広く、また外との換気穴が開けられている為空気が淀む事は無く、常に新鮮な空気が取り入れられる。

 

 洞窟は入り口近くは工房区画となっており、奥のほうに保管区画と居住区画となっている。天井には蛍光灯による明るい光が差し込んでおり、壁も舗装されているせいか洞窟というよりは一つの建造物と言ったほうが正しく見える。

 

 自らの工房へとカプセルと運んだにとりは、早速解析に取り掛かろうとありとあらゆる装置を用意した。X線装置や赤外線透析装置などを使って、取りあえずこの装置の使用目的を探ろうとしたのだ。

 

 ありとあらゆる装置でこのカプセルと調べてみるが。

 

「まさか、なんにも分からないなんて。一体どうなってるの?」

 

 調べてみるが、この装置の中身はおろか、使用目的もカプセルを構成している材質すら分からない。全く未知の物質で構成されているのだ。

 

「こういう時は、取りあえ分解した方が良いんだけど、ネジすらないんだからなぁ」

 

 一体どこから手をつければ良いのか、無理やり分解して壊すわけにもいかないし。

 

 全くお手上げだったその時、カプセルから突然声がした。

 

『警告。本コールドスリープシステムは予備電力の低下の為、強制解凍に入ります。強制解凍を停止させるには、電力の供給を再開してください。繰り返します……』

 

「え、ちょっと何!? コールドスリープシステム? 電力不足ってどういう…」

 

 突然警告を発しだしたカプセルに驚くにとり。

 

 先ほどまでただのカプセルだったそれが、警告を示す赤色に薄く染まってホログラフィのモニターに警告を表すであろう文字が表示されている。

 

 それを見て思わず疑問を発してしまったにとりだったが、思わぬところから解答が来た。

 

『本システムを維持する為の電力が低下しています』

 

「喋った!?」

 

 突然機械が喋りだしたと言う事実に驚くにとり。それもそのはず、このコールドスリープ装置にはAIが搭載されているのだ。

 

 今までにとりはこれほどの技術は今まで見た事が無かった。

 

 とにかくAIが搭載されているという事は、問いかければ疑問にも答えてくれるかもしれない。にとりは取りあえず質問してみる事にした。

 

「え、っと、まずコールドスリープシステム? って何?」

 

『肉体を超低温化において休眠状態にするシステムです。主に現在治療法が確立されていない病に罹っている患者を保護する為に使用されています』

 

「へぇー。そいつは大層な装置だね。この大きさでこんな事が出来るなんて」

 

 この大きさでそんな大掛かりな事が出来るなんて、と感嘆を覚える。相当な技術を持って作られたに違いない。何せそのコールドスリープの機能だけでなく、応答可能なAIまで搭載されているのである。

 

 と、ここで重要な事に気が付いた。コールドスリープと言うのは人間の肉体を休眠させる為の装置と聞いた。

 

 という事は、この中には人間が眠っている?

 

「ももも、もしかしてこの中にも人間が眠ってるの?」

 

『現在このシステムにはミサキ・ナカジマ博士が休眠状態にあります。ですが現在、電力不足により解凍シークエンスを進めています』

 

「解凍しーくえんす?」

 

 聞くが同時にモニターが何かの進行状況を表すグラフに切り替わり、色々なゲージが段々と満たされていっているのが分かった。

 

『現在70%です』

 

 AIがそう言って表示されたゲージはもう端まで行こうとしており、解凍されるまでもう間もない事を表していた。

 

「え、ええええええ!?ど、どうすれば止められるのさ!?」

 

『現在解凍シークエンスは最終段階に入っており、再冷凍は不可能です』

 

「え、そ、そんなぁ」

 

 にとりは河童として人間と盟友の関係にあると自負しているが、実際の所は人間を苦手としていた。

 

 自分と違う種族と言う事もあるし、河童全体があまり人間と直接関わろうとしないせいかにとり自身もあまり関わった事が無かったからだ。

 

 そして何よりも、人間は自分たちよりも先に死ぬという変えることの出来ない、妖怪として生きる上での宿命とでも言うべき壁がにとりに人間との接触を億劫にさせていた。

 

 最近人間に会ったのは博麗の巫女と白黒の魔法使い位だ。別に人間が嫌いという訳ではないのだが、苦手なのだ。

 

「え、じゃ、じゃあどうしたらいいの私!」

 

『取りあえず体を温めるものを用意すべきです。解凍直後は極度の寒さを感じる為、そのままでは凍死する可能性もあります』

 

「わ、分かった!」

 

 急いで工房を離れ、自宅区画へと走っていく。何で突然こうなるの~、とにとりは思ってはいたが、それで放っておいて目の前で人間に死なれるのは困る。

 

 繰り返し言うが、にとりは人間が苦手なだけで嫌いではないのだ。

 

 好きか嫌いかで言えば好きに分類されるのだが、人間との接触の経験が薄い彼女は人間に対して少々臆病になっていた。

 

「うー、えーと、タオルタオル」

 

 確か極度の寒さを感じるって言ってたな。暖をとるための機械、ストーブでも持っていった方がいいかな、と思ったが多分そんなもの引っ張り出してくる暇は無いだろうと思ったので大量のタオルを持って工房のカプセルをおいた場所に戻る。

 

「よし、持ってきたよ!」

 

 思わずカプセルに向けてそう言ったが返事は無い。

 

「…あれ? あ、そうだった。あれは電子人格だった…」

 

 余計な事を言わないのがAIである。AIは質問に対して堪えただけであって、決して会話しているのではない。その事をうっかり失念していた。

 

 丁度解凍が終わったのか、ゲージが満タンになり、数字が100%を示している。

 

『解凍完了 おはようございます』

 

 圧縮された空気を吐き出す独特の音と一緒に、カプセルの上のほうが少し開き、隙間から真っ白な冷気がこぼれ出てくる。

 

「………」

 

 もくもくと立ち込める冷気の中で開いたカプセルの上方が右へとスライドし、カプセルが完全に開いた。

 

 中からかはぁっ、という息を吐き出して限界まで耐えた後の呼吸の音がすると、人影が一気に現れた。

 

「うぁ、え、えーと…」

 

 冷気の煙が晴れるにつれて、その姿がはっきりとしてくる。細いすらっとした体に少し濡れて艶やかに光る長い髪。そして中性的で、どちらかと言えば女性のような顔立ちをした――男だった。

 

 間近で見た異性の裸体に、思わず頬を赤らめてしまう。血色が戻ったばっかりで、男性にしては細いその体は、どこか色っぽい。

 

 人間が相手だというのに、不覚にも胸が疼いてしまった。

 

「え、えーと、おはよう?」

 

 自分でも言っている事が場違いなのに気が付いてはいたが、とにかく何ていえばいいか分からなかったのだ。少し失敗かと思ったが、それに反してちゃんと返事は来た。

 

「けほっ、あぁ、おは…よう」

 

 だがその声は弱々しく、今にも消え入りそうだった。体が凄く震えているのが見て分かる。その位寒さを感じているのであろう。

 

「えっと、ほら、毛布!毛布を持ってきてるから」

 

「あぁ…あり、がとう…」

 

 震える体にタオルを羽織ると、小動物のように丸くなってしまった。濡れた髪や唇が妖艶さを演出していて、吐き出される白い息に思わずつばを飲んでしまう。

 

「…?」

 

「あああ、いや、なんでもないよ!」

 

 疑問符を浮かべたような彼の表情を見て我に返る。

 

(な、何を考えているんだ私は! まさか人間相手に一瞬でも欲情してしまうとは…)

 

 裸体だった彼を脳内で人知れず反芻しつつ、取りあえず人間が苦手な事を置いといて彼をどうするか考える事にしたのだった。

 

 




寝る。

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