キリト「生還したら妹と弟がくっ付いてた」 作:ブロンズスモー
そのまま飛び続ける事数時間。三人は森の中に降りた。モンスターも割と沢山討伐し、全員武器や魔法の熟練度も上がって来た。
「ふぅ……疲れた。そろそろ、引き返そっか」
先頭のリーファがコイコイとレコンに言った。
「そうだね、そろそろ初期装備もなんとかしたいし」
「じゃ、行こうか」
「…………」
コイコイは辺りを見回していた。既に飛ぼうとしていたリーファは、フワッと浮き上がってコイコイに言った。
「コイコイ、行くよー」
「…………うん」
頷いて、後を追った。直後、森の中から複数のサラマンダーが現れ、剣を構えて突撃して来た。
「!」
「な、何⁉︎」
「………………」
コイコイは一番近くにいた敵に向かって盾を投げた。だが、そいつは剣で盾を弾き飛ばすと、コイコイに斬りかかった。
「ッ‼︎」
コイコイは背中の剣を抜いて一撃をガードする。そのコイコイの後ろから、もう一人のサラマンダーが斬りかかった。
そいつにリーファが剣で突きを入れて、ガードさせて引き下がらせた。
「…………」
コイコイはサラマンダーの腹に蹴りを入れて怯ませると、羽を生やしてそいつの足を掴み、飛び上がった。だが、飛ぶ先に、サラマンダー二人に先回りされた。
剣を突き刺されそうになったので、手に持ったサラマンダーでガードし、下に降りた。
「リーファ、ついて来て。低空飛行で木を避けながら突破する」
「わ、分かった!でもレコンも誘ってあげて!」
森の中をコイコイを先頭に、リーファ、レコンと飛び出した。その後を、一人減って七人になったサラマンダーが後を追った。
「な、何⁉︎何なのあの人達⁉︎」
「多分、昨日蹴散らしたサラマンダー三人の仲間達だよ。仕返しに来たんだ」
「なんで⁉︎なんで分かるの⁉︎」
「俺の動きが明らかに読まれてた。投げた盾をガードではなく打ち払って対処してたり、飛んで空中で一人仕留めようとした所に先回りされた。俺の動きが掴まれてる証拠だ」
「………ど、どうするの?」
「とりあえず、木を避け回って後ろから来てる連中を木にぶつけて数を減らす。そこから先は逃げてる間に考える。俺の背中にピッタリくっついて。後ろの人にも伝えて」
言いながら後ろを振り返った。追っ手の数が五人に減っていて、レコンの姿が消えていた。
「……………」
「……………」
二人して、汗をかいた。
「………まさか……」
「殺られたか逸れたか……。仕方ないね、俺達だけでもさっさと逃げよう」
「ち、ちょっと!まだやられたって決まったわけじゃないでしょ⁉︎」
「死んでなくてもレコンの周りには三人いる。助けるのは現実的じゃない」
「で、でも!あたし達のためにわざわざALOまで買ってくれたんだよ⁉︎」
「……………」
あたし達のため、というよりリーファ=直葉のためだろ、と思っても、さすがに声は出さなかった。
すると、後ろのリーファが足を止めた。
「………じゃ、もういい」
「おい、何やってんの?バカなの?死ぬの?」
「あたし、レコンを助けに行く」
「はぁ⁉︎」
「逃げるなら一人で逃げて」
「……………」
それを聞いて、コイコイはため息をついた。本当に世話の焼ける姉だ、的な。
「………わかったよ。リーファはあの緑の所に行って」
「!」
「あの五人は俺が惹きつける」
「で、でもそしたらコイコイが危ないんじゃないの?」
「なんとかする。合流したら何とか逃げて身を隠して。逃げ切ったら、個人メッセージ送って場所教えて。そっちに後ろの連中引き連れて、奇襲かけて全員殺す」
「生き残れるんだよね?」
「俺は誰かさんがミスってイビルとラージャンが集まってる所に柵で閉じ込められて、何とか生還した男なんだけど(反撃出来なかったとはいえ)」
「………じゃ、待ってて」
リーファは真上に飛び上がり、コイコイも真上に上がった。
当然、追ってくるサラマンダー。途中、コイコイは足を止めて両手を前に突き出した。
「!」
広範囲に及ぶ魔法を放ち、サラマンダー達は剣や盾をかざしてガードした。
その間にリーファは飛んでレコンを探しに行った。幸い、サラマンダーのメンバーの中には、飛ぶのにコントローラーが必要な奴もいたので、最悪随意飛行が可能な奴だけでも抑えられれば、リーファに追いつける奴はいない。
「…………」
背中の剣を抜いて、下の五人をただ見下ろした。
ー
リーファは飛んで、レコンを探し回った。来た道を戻って一番高い木の中に潜った。そこから、辺りを見回してると、ガサッと森の中から誰かが飛び出して来た。
「! レコン!」
その後から、サラマンダーが三人続いて来ている。レコンは真っ直ぐとスイルベーンに向かって逃げていた。
(よし、アレなら……!)
リーファは個人メッセージをレコンに送った。
『一番高い木を通り過ぎて。あたしが奇襲する』
レコンはそれに気付いたのか、システム窓を開いて読んだ後に、方向を変えてリーファのいる木に向かって来た。
(チャンスは一度。一人、確実に仕留める……‼︎)
レコンが自分のいる木を通り過ぎ、その後ろのサラマンダーが通った直後、飛び出して突きを放った。
獲った、そう確信した直後、サラマンダーはニヤリと笑って突きを回避し、そのままの勢いでカウンターの拳を出した。
「ッ⁉︎」
「リーファちゃん!」
直撃し、落下するリーファを追って、レコンも着地した。
「だ、大丈夫⁉︎」
「大丈夫……!」
上を見上げると、サラマンダー三人が剣を構えて自分達を見下ろしていた。
「二度も同じ手が通用するか」
「悪いけど、奇襲を最警戒してお前をあぶり出して一緒に消すために、そのカスを泳がせていただけだ」
「っ………。おい、俺の台詞は?」
「知るか」
その様子を見ながら、リーファは悔しそうに奥歯を噛んだ。奇襲が失敗した。敵にどれだけ実力があるか分からないが、人数は三対二、しかももう一人はレコンだった。
(……ぶっちゃけ、オンラインゲームに詳しいってだけで、強くはないんだよなぁ………)
レコンを見ながらそんな事を思いつつ、剣を抜いた。コイコイと約束してしまったため、引くことは出来ない。奇襲は通じないなら、次はどうする。
(………やるしかないか)
そう決めると、正面から戦う事にした。
「レコン、やるよ」
「わ、分かった!」
レコンも片手剣を抜いた。相手は三人、まともにやれば勝ち目はない。レコンは思考を巡らせた。自分をわざわざ助けに来てくれたリーファに助けられっぱなしなのは、仮にも男としてごめんだった。
だからこそ、作戦を決めると、すぐに実行した。
「行くよ!」
「………ごめんっ」
「えっ?」
リーファがサラマンダーの群れに向かった直後、レコンは後ろに逃げ出した。
「ちょっ、レコ……⁉︎」
リーファが言いかけた所で、後ろからサラマンダーの一人が突撃し、リーファはガードした。
「おい、どうする?」
「ほっとけ。あんなカス、いつでも処理できる。だが、あの女は昨日、二人掛かりで負かされた女だ」
「了解」
二人は戦闘に参加した。リーファは包囲されないように間合いを上手く調整して戦っていた。
一人の攻撃をバックステップで避けたら、横から別の男が斬りかかって来て、それもしゃがんで回避した。さらにもう一人が反対側から攻撃して来て、それを剣でガードする。
リーファは羽を生やして前を向いたまま、後ろにスーッと退がりながら、飛ぼうとした。だが、真ん中の一人も羽を生やして追撃し、リーファの脚を掴むと、木に向かって放り投げた。
「っ!」
木に叩きつけられたものの、油断なく立ち上がった直後、左右から追いかけて来ていた。
リーファは腰の鞘を抜くと、左の奴に投げ付けながら、右からの攻撃を、羽を生やして宙返りしながら躱し、背中から斬ろうとした。が、右のサラマンダーの後ろからはもう一人来ていた。
「やばっ……‼︎」
「死ね!」
その直後、剣が胸に突き刺さった。だが、自分にじゃない。斬りかかって来た男の胸に、剣が突き刺さっていた。
「なっ………⁉︎」
その男の後ろには、レコンが立っていた。
「お、お前……⁉︎」
「れ、レコン‼︎」
助かった、という表情を浮かべながら、リーファはレコンが突き刺した男に左右面を連続で打って倒して、距離を取った。
「あんた、逃げたんじゃなかったの⁉︎」
「逃げたフリだよ。ごめんね、リーファちゃん」
「全然!助かったよ!」
褒められて、嬉しそうにレコンは「えへへ〜」と頬をかいた。直後、横から剣で斬られ、後ろに吹っ飛んだ。
「な、何やってんのよ⁉︎」
慌ててリーファはレコンの横に退がった。
「大丈夫?」
「ご、ごめん……!」
「まだやれる?」
「もちろん!」
一方、サラマンダー達も、まだやる気のようで剣を抜いた。初期装備ではないのか、両手剣とメイスを持っている。
「リーファちゃん、あの装備は威力が高い。一撃でも貰うと大きいよ」
「分かった」
両チームはお互いに襲い掛かった。両手剣とレコン、メイスとリーファが戦闘を始めた。
ー
コイコイは包囲されないように一方的に攻撃を受けていた。回避しながら、空中と地上を使い分けて逃げていた。
(………メッセージが遅過ぎる……。何かあったな。計画変更しよう)
コイコイはそう決めると、木の中で低空飛行を始めた。サラマンダー達も同じように飛び始める。
木と後ろからの魔法攻撃を上手く躱して、森の奥を突き進むと、若干ひらけた場所に出た。ズザッと着地すると、動きを止めた。それに、何かあると踏んだサラマンダー達も着地した。
「なんだ、諦めたか?」
「賢明な判断だな。この人数を相手にお前一人じゃ勝てないだろう」
「……………」
コイコイは息をつくと、腰に手を当てた。そして、ようやく口を開いた。
「…………」
言葉が出て来ない。サラマンダー達は頭上に「?」を浮かべる中、コイコイは腕を組んだ。
(『それはどうかな?』……いや、『残念だけど、それは違う』……いや、『圧倒的優位から墓穴を掘った』……違うな……『計画通り』‼︎)
考えてる間に、サラマンダー達は段々焦れったくなった。
「なんか喋んないんだけどあいつ」
「え、何?シカト?」
「ナメてね?もうやっちまうか」
と、いうわけで、全員が悩んでるコイコイに襲い掛かろうとした。
だが、その動きは止まった。コイコイの後ろに何かいることに気付いた。いや、後ろだけではない。自分達の後ろや横にも何かがいた。
「囲まれた……⁉︎」
「テメェ、仲間を呼んでやがったのか⁉︎」
「………『女を本気で殴りたいと思ったのは生まれて初めてだ』……いや、『ダメだこいつ、早くなんとかしないと』……あれ?何の台詞について考えてたんだっけ……?」
「おい!聞いてんのか⁉︎」
「…………え、何?俺に話しかけてる?」
「お前だよ!こんなに腹立つ敵はお前が初めてだ‼︎」
コイコイは耳をほじくると、緊張気味に「んんっ!」と咳払いすると言った。
「諸君らはヴィーナスグリョウブから私にやらりぇに来たんだよなァーッ‼︎」
噛みまくっていた。コイコイは恥ずかしそうに顔を手で覆って、言った。
「…………もうなんでも良いや。ここはオークがたくさん湧く場所。中人数でここに潜れば、良い感じに熟練度が上がる場所だけど、ナメてかかると死んじゃう場所」
「なっ………⁉︎」
「じゃ、ここから生きて出れた奴の勝ちって事で。スタート」
オーク数十体vsサラマンダー五人vsコイコイの戦闘が始まった。