キリト「生還したら妹と弟がくっ付いてた」 作:ブロンズスモー
VRMMO
それから、約五ヶ月後。直葉と海斗はモンハンを続け、そこそこ上手くなって来た所で、海斗は中学に入学、直葉は二年生になった。
当然、海斗は野球部に入り、新入生の力を見るためのノックを受けていた。守備位置は全員、セカンドとショートの二箇所に分けられ、交互に打たれたボールを取ってファーストに投げる。終わったら、セカンドの奴はショートに行き、ショートの奴はセカンドに入った。
「次!」
海斗の番になり、三年生が球を打った。だが、その球はピッチャー返しの如く真ん中に行った。ピッチャーマウンドに突っ込んで、イレギュラーでボールは大きく跳ね上がった。
「あ、悪い悪い」
跳ね上がったボールが着地し、ショートバウンドになった所を、セカンドにいた海斗は追いついて、逆シングルで捌くと、ファーストに投げた。
「お、おお。ナイス。すまん」
引き気味に賞賛と謝罪をして、次のノックに入った。
「ふぅ………」
他の一年よりはダントツに上手い海斗と中崎。他の奴らのプレイを見ながらボンヤリしてると、武道館が目に入った。そこの非常口から、ニヤニヤしながら自分を見てる影があった。
「………スグ」
見るなよ、と口パクで伝えたが、おそらく伝わってないのか、ずっと見下ろして来ている。
「お、アレ姉ちゃん?」
前に並んでる中崎が声をかけてきた。
「そーだよ」
「良いよなぁ、可愛いよなぁ。お前の姉ちゃん」
「そうか?家だとあいつ下着姿でウロついてんだよ」
「下着の定義をkwsk」
「上はパーカーかジャージなんだけど、下半身だけパンツなんだよね」
「うおお……いいなぁ、アレ姉ちゃんじゃなくて本当は従姉妹なんだろ?ムラムラしたりしないの?」
「しねーよ。見慣れたわ」
「裏山」
「黙れ」
すると、中崎の番になって、飛んで来たボールを捌いてファーストに投げた。
次は、セカンドにいる奴の番。その間に、何となくもう一度直葉の方を見ると、口パクで「後で覚えてろ」と言っていた。
「………エスパーかよあいつ」
そんな呟きをすると、またノックが飛んで来て、それを取って投げた。
ー
新入生はまだ仮入部期間のため、早く終わった。
制服に着替えてポケットに手を突っ込むと、いつもの感触がなかった。
「………うわっ」
「どうした?」
中崎が聞いて来た。
「家の鍵忘れた臭い」
「マジか」
「先帰ってて。俺、スグの所寄るから」
「んっ。一応、鞄の中とか探してみれば?」
「そーする」
海斗は鞄の中を漁っている間に、他の一年生達は出て行った。
「………やっぱ無いや」
部室を出て、剣道場に向かった。
剣道場は武道場の二階にある。ただでさえ入学したばかりなのに、これから厳つい柔道部道場の横を通らなければならない。考えるだけで気が重かった。
だが、ウジウジしてても仕方ないので、部室を出て武道場に向かった。
ズダンッ、ダンッ、ドバンッと激しい音の柔道場の横を通り、階段を上がって剣道場へ。
おそるおそる、といった感じで中を覗くと、すごい激しく打ち合っていた。お互いに掛かり稽古をやる「相掛かり」という奴だろう。
ぼんやり見てると、海斗に気付いた先生が「きみ」と声をかけて来た。
「あ、はい」
「どうした?仮入部なら終わったぞ。新入生は早く帰りなさい」
「あー、えっと、桐ヶ谷サンいます?」
「………ああ、君が噂の桐ヶ谷弟か」
「え?俺のこと知ってるんですか?」
「かなり有名だぞ。君の姉が自慢げに『野球部にバカみたいに上手い奴が入る』と自慢し」
「わ、わーわーわー!や、やめてください先生!」
練習中だったはずの直葉が慌てて飛んで来た。
「ああ、弟が用あるみたいだぞ」
「す、すいません………。な、何?どしたのカイくん」
「はぁ?カイくん?」
「い、良いから!先生、私に構わず練習続けて下さい!」
何か見栄張ってんなこいつ……と、思っても黙っておいた。
一方で、先生は何かを察したようで、練習を再開した。
「で、どしたの?」
「お前、部活でどんなキャラしてんの?」
「い、いいから!何⁉︎」
「家の鍵忘れた」
「あ、ああ。女子更衣室に鞄あるから。そこから取ってきていいよ」
「はぁ?女子更衣室だろ?」
「誰もいないから。あ、制服の匂いとか嗅いじゃだめだよ?」
「は?匂い?なんで?」
「うん、なんでもない」
直葉に言われ、女子更衣室に入った。
電気をつけて、直葉の鞄を探す。体育で汗かいたのか、体操服が干されていたが、その下に本人の鞄が置いてあるみたいで、すぐに直葉の鞄を見つけられた。
中から家の鍵を取り出し、さっさと更衣室を出た。
「失礼しました」
一応、そう言っておいて、武道場を出た。去り際に、直葉が手を振っていたので、何故か会釈して帰った。
ー
帰宅し、ゲームを始めて一時間後くらい経って、直葉が帰って来た。
「お帰り。風呂沸いてるよ」
「ありがと」
直葉が風呂に入ってる間、海斗はゲームを中断し、晩飯を作り始めた。テキトーにハンバーグを作って、刻んだキャベツを盛り付けてある皿に乗せると、お茶碗に白米を盛り、食卓に並べた。
すると、風呂から上がって来た直葉が「おっ」と声を漏らした。
「ハンバーグ?」
「ん」
「どしたの?いつも手抜きの癖に」
「何となく」
「ふーん?」
二人揃って晩飯にした。いただきます、と手を合わせ、直葉は早速一口いただいた。
「おお……意外と美味しい」
意外とってなんだ、とも思ったが気にしないことにした。
「今日はどうする?」
「あーどうするか」
「予定ないなら、獰猛ブラキ手伝ってよ」
「おk」
そんな話をしながら、食事を進める。
すると、海斗が何かを思い出したように「あっ」と声を漏らした。
「そういえば、今度ナーヴギアの後継機発売されるらしいよ」
「…………へっ?」
「アミュスフィアって奴。今度こそ安全って言って発売されたって」
「ふーん……安全って、そんなの分からないじゃない」
「そうか?一応、安全確認のβテストもしてたみたいだし、大丈夫だとは思うよ」
「………まさか、買うの?」
「買うよ。けど、起動するのはネットの評価とか本当に安全かどうか調べてからかな。それで安全でも、一、二週間は様子みるけど」
「………あまり賛成できないんだけど」
自分の兄を奪っていったVRMMO。憎いはずであったが、兄が何故ゲームに夢中になって行ったのか、少し興味もあった。それは、弟とゲームをやってみて、少し理解出来てきていた。
しかし、それはあくまでゲームの面白さだ。VRMMOともなれば話は別だ。
「良いよ別に。賛成なんて求めてないから」
「どうして、その話をあたしにしたの?」
「コソコソと隠れてやるよりは、どうせバレるんだしスグには言っといたほうが良いかなって思っただけ」
「……………」
直葉は言われて少し考えた。本来なら、賛成しないどころか辞めさせたい。自分の兄弟が二人揃ってゲームの世界に囚われて欲しくないからだ。そして、自分を置いて行って欲しくなかった。
「ていうか、何よりSAOみたいになるのは万に一つくらいの確率しかあり得ないと思うし」
「なんで?」
「ナーヴギアが売れたのはSAO全プレイヤー1万人分。その分アーガスは賠償金を支払う羽目になると思う。だけど、この計画を知っていのは見た感じ、茅場晶彦だけだ。なら、アーガスはその分、何とかしてその賠償金分は埋め合わそうとしなければならんでしょ。なら、やっぱり、もっと売れる予定だったナーヴギアを改良するしかない」
「…………」
直葉は少し引き気味に海斗を見ていた。こいつ、本当に一ヶ月前まで小学生だったの?的な。
「………なら、あたしもやる」
「はっ?」
「あたしも付き合ってあげる。一人でゲームやるの、つまらないんでしょ?」
「いやまぁ、やるなら俺は止めないけど。オンラインゲームの敵って強いよ?モンハンだって、集会場と村クエじゃ強さ違うじゃん?」
「わ、分かってるよ!ちゃんと、海斗の足引っ張らないようにするから」
「…………」
ま、やるやらないは本人の自由か、と思うことにして、海斗は後頭部を掻きながら言った。
「どうぞご自由に」
「やった!で、なんていうソフトやるの?」
「ああ、今考えてるのは、」
海斗は呟きながら、直葉の携帯を(勝手に)使ってググって、画面を見せた。
「この、ALOって奴」