キリト「生還したら妹と弟がくっ付いてた」 作:ブロンズスモー
サラマンダーとシルフの間に現れた少年を見て、両陣営はポカンとした表情になっていた。
そんな中、サラマンダー側の一人が「あっ」と声を漏らした。
「も、モーティマーさん!あいつです!もう一人の男!俺たちから逃げるために『巣』に突っ込んだイカレポンチ!」
「あいつが…………?」
相手のボスにキュッと目を細めて睨まれてるのにも気付かず、いや気付いてて無視してるのかもしれないけど、コイコイは全く構うことなくリーファの前に降りた。
「リーファ、晩飯スープのガス点いてたよ」
「あ?あ……嘘、マジ?」
「マジ。なんか今日、朝から上の空だけど大丈夫?」
「だ、誰の所為だと思ってんの⁉︎」
「いや知らんけど。………え、俺?あ、ガス消しといたから」
緊張感のカケラもなく話してると、ユージーンが勢い良く突っ込んで来て、それを紙一重で回避した。
「え、何?誰?」
「俺の部下が世話になったようだな」
「うわっ、世話になったって言葉、本当に使う人初めて見たwww」
直後、ピシッと固まるユージーン。
「ていうかさ、うちのシグルドとかサクヤもだけどさ、良くそこまでキャラになり切れるよね。『喰らえ!』とか『やるな!』とか『遅い!』とか。酷い人だと『当たらなければどうということはない!』とか。なんというか、言ってて恥ずかしくないの?」
全員、黙り込んだ。リーファは「それ言っちゃダメでしょ」みたいな表情でため息をついてから、辺りを見回した。敵味方含めて、腰に手を当てて顔を逸らしたり、額に手を当てて上を向いたりしていた。
それらを全く無視し、リーファに聞いた。
「で、どうしてたの?どこで狩してたん?」
「よく聞けるね」
「は?」
「とりあえず、サクヤとシグルドには後で謝っとくようにね。前のサラマンダー達からは……うん、無事を祈るよ」
「おい待て。どういう意味?」
「行こう、サクヤ。シグルド」
リーファはサクヤとシグルドを連れて飛び去ってしまった。直後、コイコイに襲いかかって来るサラマンダー達。
コイコイは大慌てで逃げ出した。
ー
一時間後、サクヤとシグルドが泣きながらログアウトしてしまったため、自分もログアウトした直葉は部屋でゴロゴロしていた。
すると、コンコンとノックの音がした。「はーい」と返した直後、勢い良く開かれたドアと共に、竹刀を持って乗り込んで来た海斗が襲いかかって来た。
「てめええええ!よくも見捨ててくれやがったなあああああ‼︎」
振り下ろされる竹刀。直葉はベッドの横に落ちてた30cmの竹定規を握ると、それを受けながら返し胴を放った。
ズムッとクリーンヒットし、海斗はお腹を抑えて蹲った。定規を腰の鞘に納める真似をすると、直葉は言った。
「十年早い」
「クッ……ソ………」
「ていうか、人の竹刀勝手に使わないでよ。これ高いんだから」
「ゲホッ、ゲホッ……」
「えっ、ちょっ……大丈夫?そんなに痛かった」
「ェゲフッ!……ゲフッ、ゲフッ‼︎」
「か、海斗⁉︎大丈……!」
「そこだああああ‼︎」
「キャアァアアア⁉︎」
心配になって駆け寄った直後、海斗は直葉をベッドに押し倒した。腹の上に馬乗りになり、膝で直葉の腕を抑え込んだ。
「ちょっ……何するつもり⁉︎」
顔が真っ赤にして抗議する直葉を前髪の隙間から見下ろすと、ニヤリと邪悪に微笑んで、両手を胸前で上に向けて、指をワキワキと触手のように動かした。
真っ赤だった直葉の顔が、真っ青になった。
「ちょっ……まさか、」
「笑い死ね」
「う、嘘でしょ……?嘘よね?」
「貴様らはヴィーあスギュロウブから私に……!」
また噛んだので、台詞の途中だが中断して直葉の脇の下に指を突っ込んだ。
「あっははははは!ちょっ、やめっ……やめてええええははははは‼︎」
「ごめんなさいは?」
「ごっ、ごめっ……!ごめんなさっ……あはははははは‼︎」
「聞こえませーん」
「あ、あんっ……いい加減にっひゃははははは‼︎」
「………………」
一生懸命、上半身を揺らして回避しようにも、抑えられて動けずに笑いまくる直葉を見て、海斗は少し目を逸らした。
何故か?ストレートに言えば、乳揺れである。いつの間にこんな育ったのか知らないが、自分が指を動かす度に、目の前のメロンがプルンプルンと揺れる。それどころか、少し胸が手にあたる。
「………………」
無言でスッと指を抜いた。姉に何してるんだ俺は、みたいな感じでやめた。
「も、もうやめようか……うん」
「ひぃーひぃー……し、死ぬかと思った………」
「う、うん……俺も死ぬかと思った」
「はっ?なんで?」
「なんでもない。じゃ、おやすみ」
海斗は直葉の上から退いて、部屋から出ようとした。ま、当然というかなんというか、直葉は逃さないわけで。海斗を後ろから抱き締めた。
「待った♪」
「……………」
「まさか、このまま帰れるなんて思ってないよね?」
やり返されたけど、ほとんど同じ様な理由で直葉はやめた。
ー
「で、どうだった?逃げ切れた?」
「うん」
直葉の質問に、真顔で即答した。
「えっ……まじ?」
「まぁ、交渉したんだけどね」
「交渉?」
「俺達に仕返ししたければ、デュエル大会でって格好付けた」
「うわあ………」
「ああいう、自分のキャラを確立しちゃってる連中はそういうの大好きだから。簡単に乗ってくれたよ」
「相変わらず黒いなぁ……うちの弟」
呆れながら、直葉は「あれっ?」と声を漏らした。
「…………ねぇ、さっき『俺達』って言った?」
「どこの部分?」
「俺達に仕返ししたければって部分」
「ああ。俺達、だよ」
「それあたしも含まれてない⁉︎」
「含まれてるよ?」
「なんでよ!」
「話の途中から、俺達と最初に揉めた時が発端だって分かったから、俺達が勝ったら金輪際、俺達に付きまとわない事を約束させた」
「そ、そんな勝手な………!」
「まぁ、もう決まっちゃった事だから。仕方ないね」
「………負けたらどうするのさ」
「一番、成績の良かった方の種族の言うことを聞くことになってるから、大丈夫でしょ。何とかなる」
「………何とかなるって……」
「じゃ、俺もう寝るから。おやすみ」
言うだけあって、海斗は部屋を出て行った。