キリト「生還したら妹と弟がくっ付いてた」   作:ブロンズスモー

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プロローグ的な
デスゲームになってた


 

直葉が中学一年の時、その兄の桐ヶ谷和人はSAOというゲームの世界に取り込まれた。SAOとは、直葉は詳しく知らないけど、ゲームの世界で体力が0になると、現実の世界でも死んでしまうという、前代未聞の死のゲームだ。

病室で和人が、そのSAOをやるためのナーヴギアを被って寝ているのを目にして、直葉は膝から崩れて泣き出しそうになった。母親も同じ気持ちだったが堪えて、直葉の肩に手を添えて慰めていた。

この事を、直葉は和人の実の弟に伝えなければならない。二人は昔から、ずっと一緒にゲームをやっていて、すごく仲良かったから、とても悲しむと……そう思ってた。

………だが、

 

「へー、そうなんだ」

 

鼻くそをほじりながら、あっさりとそう答えられた。

それに、直葉は頬を引きつらせながら

 

「へ、へー、そうなんだって……もっと、こう……心配したりしないの?」

 

「え?あ、うん。心配してるよ。超心配。喉が食べ物を通らんわ」

 

「食べ物が喉を通らないんでしょ⁉︎適当過ぎない⁉︎」

 

「そう言われても……弟のβテスト当たり券を無断でパクって行って来た兄を心配しろと言われても……」

 

「うっ……!そ、それはほら!お兄ちゃんも相当やりたかったんだろうし……そもそも、自分だけ当たったからって、アレだけしつこくお兄ちゃんを煽った海斗も悪い!」

 

当時、海斗は「NDK、NDK」とか言いながら、和人の周りをめっちゃ踊ってた。

 

「だからって勝手に持ってくか普通……」

 

「と、とにかく!ちゃんと伝えたからね!」

 

「へいへい」

 

海斗はそうテキトーに返事をすると、ゲーム機を手に取った。

 

「あ、そういや天玉足んねーんだった」

 

その様子を見ながら、直葉はため息をついて海斗の部屋を出た。

 

「はぁ………」

 

喧嘩別れしたまま、この兄弟は離れ離れになってしまった。別にこんなバカバカしい理由の喧嘩なんて、どうでも良いと思っていたが、喧嘩の片方はいつ死ぬか分からない。自分の兄弟のことなので、やはり心配になっていた。

 

(………それなのに、その当人がアレだもんなぁ……)

 

ドアの向こうの海斗を見て、直葉は深いため息をついた。というか、あの弟は何を考えてるか分からないが、いつもいつも能天気だ。ゲームの中では、和人の回復支援を良くしていたらしい。

それは、リアルでも一緒だ。野球部に入っていて、セカンドの二番という、サポートのうまそうな定位置だ。

さらに、勉強も算数、国語という、文系理系どちらでも行ける二科目を得意としている。良く考えたら、ちょっとした完璧超人だった。

ちなみに、直葉もたまに教わってるとは言えなかった。

 

「………素振りしよう」

 

竹刀を持って表に出た。

 

 

 

 

海斗は部屋でゲームをしていた。自分の兄がSAOに取り込まれたらしい。

 

「………ザマぁ」

 

そう呟いて、ゲームをした。心底、彼は思った。

 

(前日に母親に金貸して良かった………)

 

と。そのお陰で、SAOは買えたけど、ナーヴギアは買えなかった。

別にデスゲームは良いけど、野球をやらなくなるのは困る。心底、お金貸して良かった、としみじみ思っている。………まぁ、そのお金まだ返ってきてないけど。

 

(ま、カズはゲーム上手いし、大丈夫でしょ)

 

そんな事を考えながら、ゲームを続けた。

いつもの事だが、母親は仕事が忙しくて、滅多に帰って来ない。

従姉妹の姉と二人きりなわけだけど、まぁ関係がギクシャクしないように知らないフリをしていた。

 

(スグはそれ気付いてんのかな)

 

そんな事を考えながらゲームをして、なんだかんだ三時間くらい経った。

これからはサポート支援だけじゃなく、前衛に出て戦えるようにならないといけない。

そのために、狩猟笛とヘヴィボウガンを封じて、太刀でソロで頑張っている。

段々と慣れて来て、一人でG級の銀レウスを狩れるくらいになった。

 

「………飽きたな」

 

疲れたので、ゲーム機を閉じて机の上に置いた。

 

「………身体動かすか」

 

部屋から出て玄関に向かう途中、洗面所から直葉が下半身だけ下着姿で出て来た。

 

「風呂入ってたん?」

 

「うん。さっきまで素振りしてたから。海斗はどこ行くの?」

 

「俺も今から素振り」

 

「ふーん。あ、見てても良い?」

 

「どーぞ。でもズボン履けよ」

 

「わ、分かってるよ!」

 

そこを注意してから、海斗は玄関に置いてある金属バットを握って庭に出た。

構えをとって、軽くふうぃーん、と気の抜けるような音のスウィングをする。

 

「随分と手を抜いてますねー」

 

ニヤニヤしながら、直葉は言った。

 

「うるせ。さっきまでゲームやってたのに、いきなり全力スイングなんてできるか。そもそも、俺はクリーンアップじゃないし」

 

「ふーん?」

 

もっかい、バットを振った。

そのスイングを見ながら、直葉が聞いた。

 

「ね、なんで剣道やめたの?」

 

「え、なんでって……飽きたから?」

 

「飽きたって……」

 

「他人に勧められてやらされてるものなんて、長く続かないでしょ。自分でやりたいと思ったものじゃないと続かないよ」

 

海斗は和人と一緒で、強制的に祖父に剣道をやらされたが、一年続かずに辞めてしまった。

 

「でも、あたしは続いてるよ?」

 

直葉がキョトンと首を捻った。

 

「勧められたものが、たまたま楽しくなっちゃったんでしょ」

 

「でもなんで野球なの?」

 

「前に、カズが剣道やめた時にすっごい爺ちゃんにボッコボコにされてたでしょ。それを回避するために、一番自分の興味あるスポーツを選んだだけだよ」

 

「あ〜……」

 

「ま、あの時の事がきっかけで、カズは変にスグと距離置いてるみたいだけど」

 

「…………」

 

「あ、ごめん。カズの話はやめたほうがいいよね」

 

お喋りしながら、段々とスイングを鋭くして行く。

 

「……なんで、そんな平気なの?」

 

「は?」

 

「お兄ちゃんと、一番仲良かったの海斗じゃん。なんで、平気でいられるの?帰って来れるか分からないんだよ?」

 

「まぁ、確かにカズが今までゲームでそこそこ強かったのは、俺という優秀なヒーラーがいたからだけど」

 

「いやそんな話じゃなくて。生きて帰って来れるか分からないんだよ?」

 

「大丈夫。カズはリスクとかちゃんと計算できる奴だよ。それでもって、変な正義感もあるから、ちゃんとトッププレイヤーになって、アインクラッド全部クリアしてくるよ」

 

「……………」

 

海斗の話を聞いて、スグは俯きながら「強いなぁ……海斗は」と呟いた。

 

「なんか言った?」

 

「ううん、なんでも」

 

「それより、ボール投げてくんない。トスバッティングしたい」

 

「えー、大丈夫?三年くらい前、それやって顔面にボール飛んで来てから軽くトラウマになってんだけど」

 

「俺、今はそんな下手くそじゃないから」

 

海斗がネットとボールを運んで来ると、直葉はネットの傍にしゃがんでボールをトスした。

 

 


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