『ZOIDOS Genesis 風と雲と虹と』第一部「ソラの都」 作:城元太
回忌の宴には、
「今宵の回忌は滞りなく進んだようだな」
盃を手にしながら、下総の甥に
「良持が急な病により
国香は上機嫌である。常陸伯父は、同国石田の荘の中心にして国府石岡周辺を有し、坂東では嵯峨源氏の
「時に小次郎、お前は
国香の謂わんとする事は察していたが、こうまで早々に切り出されるとは
「太郎は昨年ソラに昇り、都を警護するゾイドの
小次郎の従兄平貞盛は、年齢が近い事もあり、幼少期より筑波の峰を仰ぎ共にゾイドを競わせた仲であった。だが太郎は元服後間も無く上洛し、ソラに於いて厳然とした権力を有する藤原北家に召し抱えられていた。未だに軌道エレベーターの建設が続くソラシティーでは、燃料を含め資材の殆どを地上に依存しており、ジェネレーターの設置の見返りに地方に置かれた国司を通じ、レッゲル等の貢物を大量に調達し続けていた。
「いつまでも坂東で田舎暮らしを捨て置く場合ではあるまいて。お前の父の鎮守府将軍の位階とまではいかずとも、せめて
「国香兄上、左程急かさずとも好いではありませぬか」
折を見計らい、相模村岡の叔父
「小次郎が鎌輪を離れれば、将頼、将平などの年若き者のみとなります。犬養の義姉君も嫡男に発たれては心細いでしょう。仕官の儀は暫く様子を見てからでも宜しいではないですか」
良持と母を同じくする良文は凱龍輝を操り、安房から相模にかけての領地を持つ。良文は筑波に広がる八幡菩薩信仰に対し、自らは
「良文、よもや兄上に意見しようとは思わなんだぞ」
幾分酒が入り高揚したのか、或いは生来のものなのか、常陸に寄宿している叔父平
アイスブレーザーを駆る一番若い叔父は、自らの知行が少なく、良持の死後
「小次郎、貴様は国香兄者の意見が聞けんのか、そして他の者どもも!」
良正は小次郎と共に奉迎に努める三郎や四郎を睥睨し、盃を地面に叩き付ける。
いつものことだ。小次郎はこの若い叔父の仕種に心底辟易していた。
「止めぬか良正。回忌の席であることを忘れたか。お前はいつも粗暴でいかん」
見かねた叔父平
「のう小次郎よ。兄上の申すことも一理あるとは思わぬか。
確かにこの広く未開の坂東では、ゾイドを操る腕は必要だ。香取の海付近より産ずるリーオの
しかしいつまでの地上に這いつくばっていては世界は開けぬ。儂の倅の
無言で聞いていた小次郎が、
「伯父上様達の有り難き進言、誠にもって心に沁み渡りました。仕官の件については、追って母上とも相談の後、お返事
口下手な若武者の、精一杯の口上であった。伯父達の魂胆があからさまにわかる故に、どの様にこの場を収めるか思案した上での返答であったのだ。自慢の息子の事に触れられ、国香は途端に眉目を綻ばせる。
「しっかりやっておるよ。ただ、都への進物が重なってのう。
不平とも、自慢とも取れる初老の伯父の言葉に、
伯父達の動きに警戒しない訳にはいかない。ただ、ソラの都での官職を得られなければ、いつまでも所領の収穫を天井人に搾取され続けるだけだ。せめて
今、ソラの都には太郎貞盛がいる。小次郎にとってとても心強いことだ。時宜を逃せば仕官の道は永遠に閉ざされるかもしれない。
若武者は、燃え上がる篝火と炎に浮かび上がる村雨ライガーを、代わる代わる見つめるのであった。