『ZOIDOS Genesis 風と雲と虹と』第一部「ソラの都」 作:城元太
『神々の怒り』。先の大異変がそう呼ばれたことも、誰の記憶からも薄れつつある。
悲しみに打ち沈んだ人々の顔に微笑みが甦り、引き裂かれた大地に再び草花の芽が萌え出でた。
この惑星の東の大地、力強く、人と大地とゾイドが繋がった世界に、新たな
遠く春霞に
新緑に映える碧い機体、春の息吹に応え金色の
何処の誰が名付けたか知らぬ。人はそう呼ぶ、〝村雨ライガー〟と。
父のその父の、そのまた父の代より呼ばれてきた。確かな事は、ゾイドが今ここで
風防の隙間から流れ込む風が、操縦席に座る若武者の頬を撫でていく。
「ゆくぞ、村雨」
操るゾイドに語りかけ、機体
鋼鉄の獅子が咆哮する。金属生命体の放つ命の喜びを精一杯讃え、周囲に雄叫びを轟かせた。若武者は額に汗を光らせ、風防を目一杯に開いた。彼の瞳が語っている。
俺はこの大地が好きだ。
俺はこの星が好きだ。
俺はここに生きている。
若武者の見据える先、青い筑波の山肌が浮き上がっていた。
風防を開いたまま、村雨が悠然と歩いて行く。
見渡す限りの地平に青々と繁った水田が広がり、苗の隙間の水面に真上の太陽が煌めく。
豊かな大地だ。今年も豊作であるように。
畝の列から、百姓仕事の合間に顔を見上げる。
「小次郎様、本日はどちらへの野駆けで」
「おう、
鎌を片手に下草を刈る百姓が問いかける。
「村雨ライガーが泥だらけではありませぬか」
「ちと
「御精が出ます。今宵は回忌の夜、夕刻には館に出向きますので、その折改めて御挨拶します」
「留次郎、皆も待っておるぞ」
操作盤に片膝をついて伸びあがると、再び彼は操縦席に身を任せた。
ゾイドは生きている。村雨ライガーの気性は概ね穏やかだが、機嫌が良い時もあれば悪い時もある。どんなに
それでいい。俺は根っからのゾイド乗りだ。これからも、このゾイドと共に歩もうぞ。
草原を渡る新緑の香を感じつつ、小次郎は村雨ライガーを進めて行った。
春霞の向こう側に
「兄上、お帰りなさいませ」
今はこの鎌輪の館の当主である以上、例え兄弟であっても最大の礼を尽くすのが習いである。五郎
「四郎はどうした」
「
「良いではないか。将平は俺達と違って頭がいいのだ」
三郎を宥め、小次郎は高らかに笑っていた。
「小次郎、帰ったのか」
館の奥より声がする。笑い声を聞き付けたのであろう。
「母上、御厩よりただいま帰りました。
「それは良いことでした。それにしてもまあ、村雨が泥だらけではないか」
微笑む母に、若武者も笑顔を浮かべる。
「今宵は父君の忌の儀を行うのであろう。礼を失せぬよう、夕刻までに村雨をきっちり仕上げておくれ」
「心得ました」
父が他界し季節は既に三度目の初夏を迎え、光陰の如き月日の速さを感じる。
今宵は長くなりそうだ。
惣領としての責務の重さを、小次郎は改めて噛みしめていた。
夕刻、
「先の鎮守府将軍
「嫡子たる者、その名を八幡大菩薩の御前にて名乗られよ」
篝火に照らされ、堂々たる体躯の武者が立ち上がる。
宴の最中だ、恥をかく訳には行かぬ。
深く呼吸を整える。背後には、前肢を立て後肢を畳み、宴を見守るように村雨ライガーと王狼ケーニッヒウルフが控える。
若武者は、一際高く名乗りを上げた。
「我が名は
今宵は父の回忌である。皆の者、父の残したこの村雨ライガーと共に、存分に父の供養を行ってくれ」
歓声が沸き上がる。篝火の炎が、星空に届くかのように燃え上がった。