魔女幻想 ~ fantastic Magus   作:神風雲

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五話「メイガスナイト」

 

 

 

 

 朝。昨日あれだけ悲惨な目にあったのに対し、魔理沙の気分は高揚していた。その理由は

 

 「早く八卦炉撃たせろ!!」

 

 八卦炉から出る大口径レーザー。それを聞いたときから撃ちたくてたまらない。そもそも旅に出るなんてどうでもよくなっており、今は八卦炉を使いたいがために魔法を習ってるようなものだった。

 魔理沙自体魔法には興味があったため、魔法の練習はさほど苦にはならなかった。本を読むことも好きだったためか勉強も上手くいっていた。だが今の魔理沙には根本的な魔力が足りなかった。

 

 「どうやったら魔力増えんだよ。撃とうにも魔力が足りなくて出せないぜ」

 

 「おかしいねぇ。八卦炉の中には魔力が封じ込められてあるから魔力量は増えるんだけど・・・」

 

 前よりは飛躍的に魔力量が上がっている。だがそれでも中くらいの炎までが限界だった。

 魔力の出し方もあるらしいが、あまり出し過ぎると生命に関わるためすぐには出来ないと言う。

 

 「仕方ない。私の魔力を少し送ろう。そうすれば流れがよくなって出やすくなるかもしれない」

 

 「分かった、よろしく魅魔様」

 

 魅魔が魔理沙の背中に右手を添える。魅魔が力を注いだ瞬間魔理沙の体が大きくしなってその場に這い倒れ込んだ。

 見ると背中の魅魔が手を添えた辺りに電光が走っている。一体何をされたか分からなかった。とにかく背中から力が入らない。

 

 「大丈夫か!?」

 

 「な、何が、起こった、んだ」

 

 「すまん、少し配分を間違えて注いでしまった」

 

 魅魔ともあろう者が配分を間違えるとは。代わりの代償が動けないとなると重症だ。

 ヒクついて上手く動かせない右手の手の平を前に突き出し、魔力を込めて撃ちだした。すると今までに出したことが無い程の大きな光弾が放たれ、先にある崖に命中して砕けた。

 放った拍子で魔理沙の体が後ろへ吹き飛ばされ、魅魔の両腕に収まった。途端に体の硬直が溶け、魔力の流れが良くなるのを感じた。

 

 「び、びびったー」

 

 「だが魔力の流量は増えたようだ。結果オーライだな」

 

 「まあ、そう言うことにしておくぜ」

 

 やっぱり考えも無しに魔力込めやがったな。

 心の中で愚痴を吐き込み、立ち上がる。そのまま八卦炉を取りだし構える。

 

 「あまり気を詰めなくていい。八卦炉はお前の精神を伝って光の導きを示す。変に魔力を込めても暴走を引き起こすだけだ。落ち着いて行け」

 

 「わかった」

 

 落ちつけと言われてもそんな突然落ちつける訳がない。人間は意外なところで不便だ。

 ひたすら心に言い聞かすが、鼓動の幅が大きくなるばかり。途端に言い聞かすのを止め、目を瞑り音を聞く。

 

 「フゥゥ――――」

 

 心が落ち着いて行く。そして目を瞑っていても八卦炉の居場所が分かるようになった。目の前の手にかざす八卦炉を目視し、一点に魔力を注ぐ。目標は前方に見える山の頂。

 

 「来たぜ!行けッ!!」

 

 掛け声と共にミニ八卦炉から極太のレーザーが発射された。

 

 「おお!これは・・・!!」

 

 山頂に真っすぐ伸びていき、散布された光線を浴びて土煙が舞った。間近で見た光景は光の道の中に星屑が散らばっている様。

 

 「やっほーーい!!」

 

 魔理沙はその興奮を抑えきれずにその場で高らかに叫んだ。

 この喜びを誰かに伝えたかった。

 

 「魅魔様見た!?今の凄かった!!」

 

 子供のように無邪気な笑顔。大きな何かを成し遂げた達成感をその小さな身で体感しているのだろう。もう魅魔には味わいにくい感覚だ。若さが物を言うそれは魅魔にとって邪魔な物だった。

 心の中で、歳は取りたくないな。とありがちなセリフを吐き溜めるのだった。そして魔理沙の純真無垢なその笑顔に向けて

 

 「うん。そうだな、実に見事だったぞ」

 

 そう言って魔理沙の頭を撫でた。

 その行動にきょとんとして撫でられた頭を自分の手で確かめる。初めて感じた感触。母親のように優しさがこもった、まるで赤子をあやす様な温もりを感じた。

 それ故拒むことも出来ず、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 

 「どうかしたのか?」

 

 魔理沙の反応に魅魔もまたきょとんとする。咄嗟に魔理沙は、なんでもねえよ、と言って家に入ろうと歩み始める。

 

 「さっきの撃ったら腹減った」

 

 魅魔には見えないように、去り際に伝える。赤くなった頬を見せないように、後ろを向いて大声で叫ぶ。

 

 「だから!いつものキノコスープと山菜サラダ作ってくれよな!!」

 

 それを言うと余計恥ずかしくなる魔理沙。

 きょとんとした顔を起たせ、魅魔は

 

 「わかったよ、今日はいつもより多めにキノコ入れてやるさ!」

 

 魔理沙の肩を叩いて背中に抱きついた。その時、両者の目が合い、どうにもならずに二人は大声で笑った。

 

 

 

 

 翌朝。魔理沙が五行山に来て一年ほどが経過した。魔理沙自身も早く感じており、何故なのかと考えていると

 

 「生き物は楽しいと感じると時間の経過が早くなるんだ。皆が感じている時間と私達の時間が違うのは、それだけ有意義に過ごせていると言うことだな」

 

 と前向きな発言をされた。だが少し嬉しかったのは魅魔様が楽しい時間を「私達の時間」と言ってくれたことだった。魔理沙の行いは少なからず魅魔に楽しさを与えているのだろう。と魔理沙は一人で納得していた。いつも迷惑かけているお礼でもしたいところだ。

 

 「自分でも思うけど俺ってこういうとこ優しいよな~」

 

 「何を言っているのか知らないけど、そう言うことは自分で言わないんだよ」

 

 「突っ込みありがとう、魅魔様」

 

 「あんまり嬉しい気がしないな・・・」

 

 そんな平凡な生活を送っていたのだが。

 それから三日後。何でも問題と言う物は大体三日後に来ることが多い。そんな嫌な予感を気にしていたのだが。

 

 

 ズドンッ

 

 

 底腹に響く大きな物音。振動の仕方から家の中では無い。外からの影響だ。

 魅魔は玄関から出て外へ、魔理沙は二階の出窓から箒を構えて外に出ようとした。するとそこには見慣れない光景が広がっていた。

 

 アウゥゥゥゥゥゥ―――――

 

 聞いたこともない鳴き声。そして目の前の広場に横たわる龍の様な謎の物体。魅魔が見るにそれは鉄だ。

 

 「魅魔様!あれは――」

 

 「絶対出てくるんじゃないよ魔理沙!!こいつはスケールが違いすぎる!!」

 

 初めて見た。あんな鬼の様にしわを寄せた魅魔の顔は。

 

 

 ガゴンッ

 

 

 鉄の龍の一部が吹き飛んだ。そして中から霊装を着た九本の尻尾を持つ謎の人型が出てきた。その構え方はオオカミのような威嚇する形で這い出てきた。

 

 「話が違うじゃないか・・・・あのスキマ妖怪めッ!!」

 

 忌々しげに魔理沙の知らない言葉を吐き捨てる。そして杖を構えて魔法陣を出現させる。

 

 「一気に勝負を付ける。その気で来たなら慈悲など乞わないだろう。穏便に済ませたいのだが、そうもいかないようだし」

 

 目を赤くし、牙を向けるその“猛獣”は駆除する対象に入った。瞬間目の前が煌めき、魔法陣から複数の閃光が飛び出る。

 誘導軌道に乗ってレーザーが堕狐に命中する。派手に土埃を撒き上げて魅魔の視界が眩む。

 

 「面倒な狐だね・・・」

 

 魅魔には分かった、その土煙がただの煙幕に過ぎないと。

 土埃が上がった瞬間、狐の気配が消えたのだ。そして徐々に広がって行く土煙は魅魔を囲う様にドーナツ状に広がって行った。見え見えの罠だが、存在を消した狐がどこにいるかわからない以上、無闇な攻撃は通用しない。

 

 「なら全てに当てればいいじゃないか」

 

 魅魔にとってそれは分身を増やして身代わりを出しているような面用なことだった。

 同時に魅魔の体の周りに光の球体が生まれ、体の周りを浮遊してレーザーを放った。それは回転する光線、土煙を引き裂いて、その中を漂っていた狐に直撃した。

 

 「ヲオオォォォォォッ!!」

 

 獣の雄叫びが五行山に響き渡り、魔理沙は思わず耳を塞いだ。その瞬間、魔理沙の脳内にある記憶が呼び出された。

 前に香霖堂の書籍で見た事のある妖怪の特徴にそっくりだったのだ。堕狐、妖力、そして何よりあの九本の尻尾がそれを象徴している。

 

 「九尾・・・・伝説の妖怪なのか・・・?」

 

 九尾、その名の通り、九本の尻尾を持つ狐である。各地に様々な伝説や言い伝えがあるが、そのどれもが九尾を恐れていた。つまりその存在は最強クラスに匹敵する妖怪なのだ。

 だが目の前にいる九尾は人型をしており、尚且つ九本の尻尾と大きな狐耳を持っている。これは幻想郷に来た影響か、もしくはさらなる妖力を手にして制御出来ない状態なのか。

 どちらにせよ、魔理沙はおろか、魅魔にすら倒せるか分からないレベルの敵だ。魅魔が先ほどから連射しているレーザーを数十発、数百発当ててもその突進は止まらないかもしれない。

 

 「でも、もしかしたら・・・」

 

 八卦炉なら、八卦炉の極太レーザーをあの狐に叩きこめば倒せるかもしれない、そうでなくとも当てさえすれば体力は削れる。だがそうなると魔理沙の魔力も底を尽きる。そうなれば魔理沙の体も危うくなってしまう。

 すると魅魔がこちらに睨みを利かせて

 

 「変な事考えるんじゃないよ!!ここは私が何とかするんだ、お前は山を下りて助けを呼んでこい!!」

 

 「そんな!魅魔様を置いていけないぜ!!」

 

 「こんなときにふざけるんじゃ無いよ!ここでお前もやられたら誰もこいつを止められない!だったら巫女でも魔女でも呼んでこい!!」

 

 そこへ九尾が爪を立てて襲いかかる。

 

 「危ない!」

 

 危険を察した魅魔は杖を槍のように狐に差し込む、先の三日月部分で鉄棒を受け止め、先端から熱線を吐く。

 だが貫通した先には空虚が広がっていた。それが分身だと分かった時には既に魅魔の体が空を舞っていた。

 

 「魅魔様!!」

 

 「クッ・・・この私が」

 

 狐が魅魔を追撃する。爪を煌めかせてレーザーでも攻撃してくる。

 

 「この程度の妖獣なんぞに!!」

 

 命中する寸前で体を覆うほどの大きさの結界を展開した。

 結界は、霊術、妖術で使われる防護術で用いられるものだ。つまり魅魔は今魔法ではなく博霊の力で戦っていると言うことになる。もちろん魔法や魔術にも防護法はある。だが火力に物を言わせる魔術学では余りに乏しいものなのだ。

 ちなみに、この世には魔力、妖力、霊力、気力、神力が存在し、どの生物もそれぞれを持っている。そしてこの属性には相性があり、魔力は妖力に弱く、妖力は霊力に弱い。つまり

 

 「行け!妙哭一閃!!」

 

 博麗の力で強化された霊力の塊が駄狐を襲い、激しく振動した空気が魔理沙に届いた。

 帽子が飛ばされそうになり、飛んで行くのをなんとか防ぐ。そうしているうちに堕狐の光線乱舞が目の前を迸った。その眩しさに思わず目を伏せた。

 

 「ギャアァァァァギギギギィィィィィ!!」

 

 人の形をしている狐から聞いたこともない断末魔が聞こえ、その一瞬で魅魔が勝ったと悟った。

 だが堕狐は大量に出血しているだけで生存しており、逆に魅魔が地面に倒れていた。

 

 「魅魔様!!」

 

 一体何が起こったのか分からなかった。あの攻撃戦で明らかに勝っていたのは魅魔だった。なのに何故。

 その理由を魅魔は攻撃を喰らわせたときに見た。

 

 「まさか・・・本当に私の番が来るとはね・・・・」

 

 堕狐は動物的な行動をしていなかった。むしろ人間の様な意識を持って、袖に腕を入れて素立っていた。

 その胸元に見える赤い御札。落書きのように殴り書かれた血の文字。それが呪いだと分かった時にはすでに堕狐を撃っていた。そして魅魔は全ての霊力を吸い取られ、動けなくなった。

 

 「魅魔・・・・様・・・・」

 

 魔理沙は、何を言えばいいか、何をすればいいか分からなかった。今出れば堕狐に殺られる。だが今出ないと魅魔が死ぬ。

 魅魔なら魔理沙の命を最優先して近づく事を許さないだろう。だがだからと言って捨てて逃げ出すのは無様極まりない。

 だから魔理沙はミニ八卦炉を取り出して飛びだした。

 

 「馬鹿ッ!!お前が出てきたら」

 

 「何も言わずに任せてくれ魅魔様!こんな時ぐらい頼ってくれよ」

 

 怒りの表情が徐々に不安へと変わって行く魅魔を見て、魔理沙は頼られているような気がした。

 そうは言ったものの何の策も考えずに飛び出してしまった。今の魔理沙にある考えは駄狐にミニ八卦炉のレーザーを当てることのみ。

 その考えがまとまる前に魔理沙は箒で空へ飛翔した。それを追うように堕狐の尻尾からレーザーが発射される。

 九本の尻尾から出たレーザーは魔理沙を追尾していき、それを巧みにかわしてなんとかすり抜ける。

 

 「クソッ、何か、何か考えは・・・」

 

 ただレーザーを避けているだけでは埒が明かない。魔理沙は八卦炉を撃つタイミングを探すためにバッグの中に入れてあった魔力瓶を三本投げた。適当に投げたため、何の効果があったかは忘れていたが、一つは堕狐の前で爆発した、もう一つは地面に絡みつく蔦を生やして堕狐を抑えつけた。最後の一つは堕狐が正面を向いた瞬間に炸裂し、激しい光を出した。それが堕狐の目を一時的に眩ませたのか、両腕で目を擦って唸る。

 

 「運は俺の味方みたいだぜ!」

 

 勝利が見えた気がした。それを見て、魅魔にも少しの自身が出てきた。

 魔理沙なら出来るかもしれない、と思い始め、それを心の中で祈っていた。

 もがく堕狐は目を瞑ったままレーザーを展開してきた。それはまるで光の幕のよう、正しく“弾幕”だった。

 

 「うわっ!このッ!!」

 

 弾幕の中を駆け抜け、再び立ちふさがった壁にどう対抗しようか考える。そして駄狐の一点レーザーが照射された。それに対抗しようと魔理沙はターレットを呼びだす。

 「ターレット」とは、魔理沙の両サイドに召喚する光の砲台だ。これは攻撃魔法と強化魔法の応用技で、簡単な部類でも強力な魔法だ。

 単にレーザーを撃つのではなく、貫通力の高い高出力レーザーを照射できる。だが魔力の消費が速いため、数秒のチャージ時間が本来かかるのだが、魔理沙の場合は魔素の吸収スピードが速いため、一瞬レーザー照射が途切れるだけで済む。

 ターレットと同時に体から尖らせた魔力刃を飛ばす事で、魔理沙の考案した戦闘スタイル「イリュージョンレーザー」が完成した。

 

 「やるぜ!この霧雨魔理沙様が立派に討伐してやるぜ!!」

 

 まるで猪や鷹を狩るかのように意気込む。そうでもしないと気が持たないのだ。堕狐から放たれる妖怪のオ―ラは尋常じゃなく、魔理沙はこのプレッシャーを小さな体で受け止めていた。

 それでも進むことを止めない。弾幕の中を巧みに潜り抜け、ミニ八卦炉は堕狐の胴体を捉えた。魔力を込めようとした時、ふと先ほどの魅魔を思い出した。

 

 たしか魅魔は堕狐に攻撃した時に吹き飛ばされた。そして今目の前に見える堕狐の胸元の御札。それが何を意味するのか、魔理沙には分からない。だが魅魔が行動不能に陥る程の物だと言うことは見て分かる。それが分かっている以上、今撃てば魅魔の様になるかもしれないのだ。

 魔理沙も知っている通り、魔力と妖力では妖力が勝る。魔理沙にとって未知の能力である妖力には何があるか分からない。それ故の戸惑いだった。 

 その思考回路は一週周り、わずか数秒で結論を行動に移した。その結果

 

 「轟けッ!マスタースパーク!!」

 

 魔力を一斉に込めると同時に八卦炉の小さな砲門から極太のレーザーが照射された。さらに堕狐との距離、わずか2mの至近距離でこの特大ビームを直に受けるとなるとただでは済まないことは確かだ。いくら御札の加護があるからと言っても多少なりともダメージを負うはずだ。

 そして八卦炉から出たレーザー「マスタースパーク」

 これは魅魔の撃ったレーザーを真似て付けた魔理沙ならではの技であり、発射と同時に星型のレーザーを飛ばすことで攻撃範囲を広げているのだ。

 マスタースパークは確実に堕狐に命中した。それどころか周りの大地も溶かして吹き飛ばしてしまう程の威力だ。

 だがそこにあったのは服が焼け焦げたみすぼらしい姿の駄狐だった。あれほどの威力のレーザーを喰らって依然健全とは恐れ入る。魔理沙の予想ではあの御札がダメージを肩代わりして消えたのだろうと言う。事実堕狐の胸元にあった御札が焼け千切れている。

 

 「まだ生きてるのか!しぶといやつだ」

 

 悪態付いていると

 

 「そちらも、手段が汚いぞ」

 

 「!?」

 

 堕狐が発声した。テレパシーのように脳内に直接聞こえるのではなく、まるで人間のように口で発生したのだ。別に不思議ではないが、普通神様と言うものは常人に対して会話することが出来ないようになっている。神聖な神の領域では常人が生きられないため、同じ言語が通じないそうだが。

 恐らく、堕狐は“疫病神”なのだろう。神聖な階級から“堕落”した狐は疫病神として祀られる、または封印されたのだろう。

 それ故同じ階級であるヒトと会話することが出来るのだ。

 

 「しゃ、喋れるなら話し合いぐらいさせてくれてもいいじゃないか・・・だぜ」

 

 「あなた達と話す必要はありません。私は今、その確信を得ました。そして」

 

 堕狐は背後に横たわる鉄の龍を片手で持ち上げて

 

 「潔く、ここで死んでください」

 

 何のために、誰がそんな事を頼んだのか。それとも堕狐自身の意志なのか。

 ただ分かることは確実に二人を殺しに来ていると言うことだ。その証拠が、堕狐の持ち上げる鉄の龍「電車」だ。

 魔理沙たちは電車と言う存在を知らない。明治時代初頭から時代の進歩が乏しい幻想郷では、現世にある電子機器や通信機器等の近代産業による産物が全くない。もちろん「電車」などと言う自走車などあるはずが無く、鉄の龍のように見えてしまう。

 

 堕狐が振りかぶり、電車を放り投げようとする。その時

 

 「トワイライトブレイク!!」

 

 電車に向けて放たれた光筋は、着弾して青白い光を発生させた。まるで花火の様な美しさで弾けた。その射線を辿っていくと攻撃したのは倒れていたはずの魅魔だった。

 

 「魅魔様!大丈夫なのか!?」

 

 魅魔は足を生やし、優雅に魔理沙の横に立った。

 

 「お前が時間を稼いでくれたおかげでな。魔力の回復に時間がかかった」

 

 魅魔程にもなれば空気中の魔素を体内へ誘導し、魔力の回復を早めることが出来る。今の魅魔はほぼ万全の状態だった。

 

 「話は後だ、あの鉄龍は意外と硬い」

 

 先ほどの衝撃を与えたのにもかかわらず、電車は半壊しただけで意外と丈夫だった。

 さてと、と言うと魅魔は黒マントを翻し、邪悪な悪魔の翼を生やし立てた。まるでコウモリの様なその翼は正しく魔女であり、これが本当の姿なのだと魔理沙は頷いた。

 

 「私が突撃する。魔理沙は援護を頼む」

 「俺が先走るから魅魔様は後ろで撃ってくれ」

 

 同時に発音したため、両者顔を見合わせた。

 にやりと笑い、じゃあそういうことで、と言い合わせた瞬間に両者とも駆けだした。

 

 「無様ですね。本当に」

 

 四両列車の二両を切り分け、軽く振りまわす。

 それを素早く避け、かわし、お互い照準を定める。

 

 「ネプチューンストライカー!」

 

 魅魔が杖から流星を放ち、一両に命中して弾け飛ぶ。その火花は黄色に色付き、焦げ付いた鋼を融解させた。

 魔理沙も負けじとターレットを一点に集めて集中突破を図る。

 

 「シャイニングファクトリー!!」

 

 二つのレーザーが回転しあい、一つのレーザーと成って二両目の車両を貫く。堕狐は命中する前に車両を手放し、被弾を避ける。

 だがそうしているうちに魅魔は再度攻撃を仕掛ける。

 翼を大きく広げ、翼に光の種子をいくつも纏わせる。

 

 「ネクロハート」

 

 そう呟いて翼を一振り。すると纏った光弾は白く淡い光を散らしながら堕狐を蜂の巣にして破砕する。

 だが破れたのが結界だと分かると、堕狐は残りの車両をこちらに投げつけて尻尾からカラフルなレーザーを照射してきた。指先からも細かい弾幕を張り、接近を許さない。

 

 「続いて、リーインカ―ネイション!!」

 

 魅魔がさらに技を叫ぶ。

 するとそのレーザーに対抗するように激しい光芒が瞬き、両者の攻撃がぶつかり合った衝撃波が発生した。それに合わせて小弾も宙を揺れ、地面にいくつもの穴を開けた。

 激しい轟音が鳴り響く後ろを魔理沙が飛翔し、堕狐の背中を捉える。同時に魅魔も翼を展開した状態で杖を突き出した。

 

 「マスタースパーク!!」

 「ミッドナイトスパーク!!」

 

 魔理沙はミニ八卦炉から、魅魔は杖のオブジェクトから大出力の大型レーザーを繰り出した。

 堕狐の前後を捉えた激しいスパーク光線は体を包み込み、レーザーの衝撃で出来た力場に押しつぶされる。その瞬間、光芒の中に異空間への出入り口が召喚された。それに焼き消されるように堕狐は消えていった。

 消滅したのだ。

 

 「ふぅ――――」

 

 一件が決着し、落ちついてため息を吐くと

 

 「この大馬鹿者がぁ!!」

 

 がつんと頭部に一撃。

 

 「ッ――。何すんだよいきなり!!」

 

 「何するってお前が無謀なことするからだよまったく!!」

 

 「助かったんだからいいだろ!」

 

 「よくないわよ!!」

 

 まったく、と言って静かに魔理沙に駆け寄り。

 

 「本当の大馬鹿者なんだから・・・」

 

 悲しげに、だが嬉しそうな表情で魔理沙を抱擁した。

 魔理沙もその温かい体に包まれ、ひと時の幸せを感じた。

 

 

 ――――ああ、家族ってこんな風なんだな

 

 

 何故か、どこかそう感じた。その温かい抱擁に、母親を求めてしまうのは何故だろうか。自分の親はもっと優しく、可憐であった。

 だが魅魔に、同じような感情を寄せてしまう魔理沙。

 

 「わるかったな、大馬鹿者で」

 

 「いいわよ。あなたらしいもの」

 

 「へへ、訳分かんねえぜ」

 

 そう言って二人は再び家へと入って行った。

 

 この日、魔理沙は魔法使いとして、そして人間として随分な成長を遂げた。

 魔法使いはいずれ“魔女”となって世の中に威厳と歴史を残すだろう。その一人に成れるかは“メイガス”の騎士次第だ。

 

 

 




 ちなみに私はキノコ嫌いです(どうでもいい)

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