空に残る魔力の残留素を辿り、召喚地点へ帰還しようとする蝙蝠少女。少女は残留魔法を使い、一度幻想郷へ戻るようだった。
残留魔法と言うのは、魔法を発動する際に余分に発生する魔素や魔力の事である。特に大掛かりな魔法では余白が大きく存在する事が多い。これは術者の技量が高ければ高いほど少なくなるのだが、魔理沙は練習も行わず実践を迎えてしまったため通常より多量の残留素が大気中に放出されていた。
「段々近づいてきたわね・・・」
魔力を感知できるエリスには、その残りカスが明確に見える。海流のように風に魔力が吸い寄せられているため、後を辿れば元が発見できる。
「見ぃつけた」
インクが擦れて潰されたような魔法陣を発見した。これからこの魔法陣を復元魔法である程度形のある所まで復元する。その後、復元した魔法陣をベースに新たな魔術式を形成、魔術陣となった物に動作を加え、別ディメンションへ転移する。
こういった複雑に絡み合った大型魔術陣・魔法陣のことをこの世界では『アカシックリング』と呼ばれている。
転移方法は幽体離脱と同じように精神と肉体を切り離し、肉体をエネルギーに変換。精神、魂とも言うが、これはアジールコートと呼ばれる特殊な容器に保管され転移する。
「来なさい、そして私を連れて行って」
閃烈が大きく唸り、月よりも激しい光がエリスを吸い込んだ。瞬間、エリスの肉体と魂は分離し、跡形も無くその空間から姿を消した。
同時に魔術陣もその空間から形を消した。
1800年 イギリス
「あるところに、背中に蝙蝠の羽を持つ少女がいました。少女は人間の血を吸う悪い悪魔でした」
一人の女が紅い瞳の少女に語り聞かせていた。
「少女は退屈していた生活から抜け出すために、少女は楽園を探す旅に出ました」
「楽園って?」
幼い少女が女に聞く。
「自由に羽を広げられるところかしら?」
「ふーん。続き聞かせて」
「じゃあ続き。少女は旅の途中で出会った魔女と協力して楽園を探すことにしました。しかし辿り着いた場所は魔女にとっての楽園でしたが少女が求める楽園ではありませんでした」
子守歌のように膝の上で寝る幼女に聞かせる。幼女は心地良さそうな顔で目を瞑って静かに聞いていた。
「少女は魔女と別れ、再び自分の楽園を探すことにしました。少女は魔女が残した道具を使って世界中をあちこち探し回りました。そして遂に楽園を見つけたのです」
「めでたしめでたし?」
「もう少しあるわ。楽園を見つけ、住み着いた少女はそこで二人の竜の子供を産みました。楽園で少女と子供の三人は仲良く幸せに暮らしましたとさ」
話の最後を括るように二人でめでたしめでたし、と言った。微笑みながら幼女は疑問を女に問う。
「つまんないお話」
「そう?」
「その少女本当に幸せなの?他にやりたいことあったんじゃないの?」
「そうね、そう思えばあるかもしれないわね」
でも、と話をつなげる。
「多分その少女は誰かとの幸せが欲しかったんじゃないかしら」
「誰かとの?」
「あなたは今幸せ?」
幼女は女の問いに迷いなく答えた。
「幸せだよ、私は」
「そう、なら私も幸せよ。だから少女も幸せなんじゃないかしら」
納得がいかない様子の幼女の頭を撫で、その内分かるわよと気持ちだけ任せた。
「子供の名前は何て言うの?」
「さあ、何が良い?」
「じゃあレミリア!」
「ふふ、好きなのねその名前」
「もう一人は・・・弟?」
「せっかくだから妹にしましょう。少し暴れん坊なかわいい妹よ」
幼女は二人に姉妹を思い浮かべた。背中に蝙蝠の翼があり、牙を持ち、爪を持ち、紅い瞳の二人の姉妹を。
「名前は・・・そうね。暴れん坊だから」
二人はお互いに紅い目を見つめ合って、引き込まれそうな目を、引き込む目を。頬を撫で合って終焉を迎える。
「フランドールにしましょうか」
街外れの迷いの森の紅い館で家族は幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
よくわからんです