ポケットモンスター虹 ~ダイ~   作:入江末吉

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2019年、ありがとうございました!
来年もポケットモンスター虹をよろしくお願いします!


★VSジュカイン 鎬を削る者たち(ライバルズ)

 ガシャン、と音を立ててフェンスがひしゃげる。叩きつけられたダイとワースは歯噛みする。

 目の前に立ちはだかる悪鬼と尖兵の番犬は未だ健在。否、立っているだけならまだ良かった。

 

「ったく、敵に回すと厄介極まりねえな」

 

 ワースが小休止とばかりにタバコを取り出すが、それがヘルガーの放っている熱で火がつく前に消し炭と化す。

 どんどん屋上の温度が上がり、このままでは人間が溶ける極熱に届くのも時間の問題だ。ワースもダイも、シャツの中は汗でだくだくになっていた。

 

 一方ダイはというと、イグナとヘルガーの状況に見覚えがあった。

 見覚えがあったどころではない、なんせ自分はそれで蘇生したのだから。

 

「あいつの超回復能力、Reオーラの作用と一緒だ……」

「やっぱりな。どんだけ殴られようと、ダメージを受ける前に時間が遡ってるってわけか」

「でも妙だぞ、イグナの傷は癒えてない。それどころか、どんどん苦しそうに見える」

 

 戦闘中、幾度もコンクリート片が飛び交いそれで顔を切ったイグナの頬からは今も血が流れ続けている。しかしダイがReオーラを身に纏った時は小さな擦り傷切り傷なら一瞬で完治するくらいに素早く傷が治った。

 この違いがなんなのか気になった。ぼんやりと仮説が立ちそうになっているが暑さのせいで考えも纏まらない。

 

 その蜃気楼のような仮説を代弁したのはワースだった。

 

「……なるほど、厄介で最悪の代物ってわけだ」

「どういうことだよ」

「メガシンカは本来トレーナーとポケモンの間を、(いし)を通じエネルギーを循環させるシステムだ。でなきゃ、メガシンカしたポケモンが力を持て余して逆に身体を傷つけちまうからな」

 

 ダイも、アルバやリエンとポケモン図鑑のレコードを交換した際に何匹かのメガシンカポケモンの特徴を知った。

 プテラやボーマンダ、今戦っているヘルガーやギャラドスはまさに、メガシンカのエネルギーが安定しないと身体に強い負担が掛かるのだ。

 

「ところがあれは、トレーナーからポケモンに一方的に力が流れ込んでいる。余分なエネルギーはポケモンの外側に流れ出し、身体の傷を治癒させたり圧倒的な攻撃力に変えていたりと効果は様々だがな」

「メガシンカであって、メガシンカとは違う特性……それって!」

 

「あぁ、道具(アイテム)がメガシンカと謳ってこそいるが、起きてる現象は()()()()()()()()()()だ」

 

 疑似的なキセキシンカ、そのワードにダイは戦慄する。圧倒的な力を得る真の奇跡を自身で体感しているからこそ、対峙する脅威の想像は容易い。

 

「まるでトレーナーが電池だな」

「電池って、それじゃあ中身が無くなったら……どうなるってんだよ」

 

 三本目のタバコもあえなく灰になったところで、ワースは意地悪く笑った。

 そんなこと、分かりきっているだろうに。そう思っているような顔であった。

 

 

 

「そりゃあ電池が切れたら動かなくなるに決まってるじゃねえか、おかしなこと聞くな」

 

 

 

 笑ってこそいるが、ワース自身にもあまり余裕が無いようだった。現に誰彼構わず攻撃を加えるヘルガーによって、ヤミラミも相当のダメージを負っている。

 さらにゲンガーもダイを守って戦闘不能、今はもう既にボールの中。ダイの手持ちで戦えるのは既にジュカインだけとなっていた。

 

 さて、と呟いて立ち上がったワースは無線機を取り出す。

 

 

「ロアには繋がんねぇか。こちらワース、全員よく聞け。撤収だ、動けるやつから速やかに下山を開始しろ。そろそろ飛空艇が迎えに来る手はずになってる」

 

 

 それだけ言い残し、無線を切ったワースを見上げるダイ。慌ててワースのスラックスを掴んだ。

 

「ち、ちょっと待てよ! あいつはどうするんだよ! あのメガシンカを使ったヤツは、アイツの他にもいるんだぞ!」

「放っとけば、そのうち燃料切れで止まるだろ」

「だからその燃料切れってのは、あいつの生命が燃え尽きちまうってことだろ! アンタの部下じゃねえのかよ! 助けてやろうとか、思わねえのかよ!!」

 

 叫ぶダイ。ワースは無理やり脚を振り払い、スラックスのシワを叩いて直す。

 

「そりゃ思うさ。あいつだって一応俺の部下だ。けどな、トレーナーが生きてる限り回復し続けるような半永久機関のバケモン相手に現状の戦力でどれだけのことが出来る? この場で突っ張る(デメリット)(メリット)が上回れるか? そいつは無理な話だ」

 

 二人、揃って焼き殺されそうになっている現状が。

 何も出来っこない、現実はそう訴えている。

 

「ここは撤退が一番合理的な判断なんだよ。俺は、俺の値段(かち)を見誤らない。

 残酷だろうがな、これが俺の戦い方でよ。もう一度言ってやろうか、俺はリスクを負わない」

 

 言い放ってやった、そういう顔でワースがぐしゃぐしゃに濡れた襟を正した。

 そしてどうやって屋上から離脱したものか、決めあぐねていた時だった。

 

 立ち上がったダイが、ジュカインを伴ってワースの前に出た。

 だからワースは、その背中に問うてみることにした。

 

「おい、どういうつもりだ?」

「うっせぇ。アンタがやらねえなら、俺がやる」

「……はぁ? なに馬鹿げたこと──」

 

「うるせぇって言ってんだ!! 俺がそのリスクを負うってんだよ!!」

 

 振り返るダイ、目が合った。エメラルドの水晶が燃えていた。蒼く、燃え盛っていた。

 

 

「──アンタの代わりに、俺があいつを止める!!」

 

 

 それだけ言い放ち、ダイはジュカインと共にイグナとヘルガーに向かって突進する。ジュカインは【かげぶんしん】からの【ローキック】を多用し、ヘルガーの脚を重点的に狙った。

 しかしどんなにダメージを受けても、イグナの生命力を糧にヘルガーは傷を癒やしてしまう。

 

「【かわらわり】!」

「ジャアアアアアアッ!!」

 

 頭部へ強い打撃を与えようとも、ヘルガーが気を失うことは絶対にない。返すように放たれる【かえんほうしゃ】がダイとジュカインを一気に焼く。

 コンクリートを転がることで沈下するが、ジュカインは弱点の炎技をもろに食らってしまった。これ以上、無理はさせられない。

 

「敵のはずのイグナを、てめーが生命張ってまで助けようとする、理由が分からねえ」

 

 それは今まで損得を選んで生きてきたワースにとって、まるで理解できない行動原理であった。

 当然だ。むしろワースでなくとも理解できないだろう。ともすれば、生命を懸けて目前の仇敵を助けようなどという行動は。

 

「確かに、今日ソラが苦しめられてるのを見て、頭に来た。ぶっ飛ばしてやるとも思った……!」

 

 コンクリートに拳を叩きつけ、ダイは立ち上がる。倣って、ジュカインもまた立ち上がった。

 

「だけどな、あいつがいなかったら……俺はきっと、強くなりたいとは思わなかった。ラフエル地方でも冴えない腑抜け野郎のままだった! だからある意味でイグナは、あいつは俺の恩人だ。好敵手(ライバル)って言ってもいいぜ、だから助けたい……!」

 

「それにな」そう続けてダイはもう一度ワースの方へ振り返る。

 ワースの方は、自分が今どんな顔をしているのか分からなかった。

 

 ただダイから見たワースの顔は、驚愕のそれ。

 

 

「死ぬのなんて、人生の最後に一回だけでいいんだよ。たとえそれが悪党でもな……!」

 

 

 ダイはそれを、笑って言った。そして再び、ジュカインと共にヘルガーへと向かっていく。

 しかしながらどうすればこの状況を打開出来るのか、アイディアらしいアイディアは無い。

 

 メガシンカは既にゲンガーに使ってしまった。そのゲンガーも戦闘不能、仮にもしジュカインがメガシンカしていたとしてもあの無尽蔵の体力を持つヘルガーを止められるか怪しい、というのが現状の見立てだ。

 

 ジュカインが再び【かわらわり】で少しでも多くのダメージを与えようとする。しかしヘルガーもまた抵抗する。

 それを見てダイは確信した。ヘルガーにもまた、止められないのだ。恐らくはメガストーンにリミッターが仕掛けられ、ヘルガー自身は暴走せずにいられる。しかし始まったが最後、イグナの生命を食い潰してしまうまで、力の吸収が止められなくなっている。

 

「止めてくれ」ヘルガーの目はそう言っていた。

 誰を止めろと言っているのかは、悲しげな瞳を見るだけで瞭然だ。

 

「ぐ、ぎぎ……【オーバーヒート】……」

 

「ッ、ジュカイン! 防げ!」

 

 傀儡と化したイグナが口を開けば、放たれるのはヘルガーの最大火力。ダイの指示でジュカインは身体を丸め、灼熱に備えた。

 次の瞬間、ヘルガーを爆心地として煉獄が広がった。熱の勢いでダイはジュカインもろとも再び吹き飛ばされる。叩きつけられたフェンスは既に溶解寸前まで熱されていた。

 

 さらに、今の一撃がダイとジュカインにクリーンヒットし大きな傷になる。立ち上がろうと力を込めれば、激痛が走る。

 

「それでも」口を開けば、諦めを知らない言葉が出てくる。

 

 

 

 

 

 同じように、下の階でもルカリオがギャラドスに食らいつき行動を阻害していた。

 しかし積み重ねた【りゅうのまい】で高められた膂力で、ルカリオによる拘束は容易く振り払われてしまう。

 

「なんでだよ、なんでそこまでして立つんだよ、てめーが……」

 

 既にジュナイパーも戦闘不能。ロアを縛りつけていた【かげぬい】は効力を失っていた。うつ伏せに倒れピクリとも動かないアルバを見て、ロアは呟いた。

 しかしその言葉がトリガーになったか、アルバは再び立ち上がると服の泥と顔の擦り傷から溢れた血を拭った。

 

「こんなところで、負けてられないから……」

 

 それは挑戦者(チャレンジャー)、追いつく側の人間としての意地だった。

 ギャラドスに立ち向かうアルバが見ていたのはギャラドスではない。

 

 その先の、なびく黒髪の幻であった。

 

 

 

 

 

「あの人に、勝つまでは……」

 

 フェンスに焼かれる痛みを無視して尚前へ進み続ける。呟いたのは、ダイの本能。

 ダイが見ているのはヘルガーであり、その先。

 

 輝く黒を携えた男の幻だ。

 

 

 

 

 

「絶対に────」

 

 

 

 

 

 

「────負けたくないから……ッ!!」

 

 

 

 

 

 ダイと、アルバ。

 

 二人の瞳が強い光を湛える。不意に、廃墟の中と屋上を同じ風が吹き抜けた。

 その風は虹色に輝き、二人の身体を包み込むとやがて空を穿つ七色の柱となった。

 

 その日、レニアシティにいた人々は虹の柱を見たと口々に語った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「あ」

 

 最初に音を発したのはダイだった。というのも、そこは自分以外が真っ白い空間だった。

 見覚えがあるとすれば、ペガスシティの刑務所でライトストーンが接触してきた時の、あの夢に出てきた空間のようだった。

 

「ここは、どこ……?」

 

 その声に振り返れば、同じ空間にアルバがいた。ダイとアルバはどこが足場かもわからない光の中を互いに歩み寄った。

 二人で周囲を見渡すが、やはり出口のようなものは無い。

 

「レシラム、お前の仕業か?」

『違うよ、強いて言うならタイヨウ。君がここに連れてきたんだ』

 

 ぼんやりとした白い空間の中でなお、くっきりと存在感を放つ圧倒的な白宝玉に問いかけるも、返ってくるのはそんな言葉。

 

 

『随分と久しぶりに、ここへ来た。この──"対極の寝床"に』

 

 

 そういうレシラムの声音には、実家へ返ってきたような柔らかさがあった。そしてそれを聞いたアルバが慌ててキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「ここが、ラフエル伝説終わりの地……!?」

「随分と殺風景な実家だな、レシラム」

 

 

 

「────まぁそう言うな、白陽の勇士よ」

 

 

 

 突然の、第三者の声。驚いてダイとアルバが振り返った。

 そこには男が立っていた。

 

 炎のように鮮やかな赤髪と、太陽のように輝く黄金の眼を持つ男。

 

 ダイはその人物を知っていた。というより、ここまでそっくりならば疑う余地が無いと思った。

 

 目の前に立っている屈強な男こそが、この地の名たるラフエル本人なのだと直感できた。

 どうやらそれはアルバも同じようで、信じられないようなものを見るように視線をダイと男の間を言ったり来たりさせた。

 

「ら、ら、ラフエルが目の前にいるってことは、ぼ、僕もしかして死んじゃったのかな……!?」

「いいや、生きている。虹の道が繋がり、私がそなた達をここ"対極の寝床"へ招き入れた、つもりであったが……半ば強引に訪問された形になっているな」

 

 英雄も苦笑いをするのか、ダイとアルバは無神経にも同じことを思った。

 しかしラフエルの言葉を受けて、先程のレシラムの言葉を思い出す。

 

「俺、なのか?」

「そうだ。そなたは一度、死んでいる。だが如何にレシラムであろうと死者の傷を無かったことに出来ても魂までは戻せない。ではなぜ、今もなおそなたの魂は現世に留まっていると思う?」

「虹の道……Reオーラ?」

 

 コクリ、と英雄は肯定する。その続きを紡いだのはレシラムだった。

 

『僕がReオーラで君の魂を繋ぎ止め、再び蘇生した肉体に宿した。今の時代に合わせて言うなら、インストールという言葉が相応しいかな』

「伝説のポケモンもインストールとか知ってるんだ……」

「茶化すなって」

 

 おかしなテンションになっているアルバの脇腹を小突いてダイが諌める。

 彼が求めた続きをラフエルが言葉にする。

 

「故に、そなたの魂には"虹"が深く絡みついている。だから、対極の寝床(ここ)へ来ることが出来た」

 

 そう言ってラフエルは両手を左右に掲げた。虹がスクリーンとなって、そこに映像が現れる。

 ダイの目の前にはイグナが、アルバの目の前にはガンダがそれぞれ映っている。

 

 それぞれが戦っている姿が、ありありと映っていた。この数十分間の死闘が全て記録されているようだった。

 

「彼らを取り巻くこの闇の光も、元を辿れば私の身体から流れ落ちた虹なのだ……」

 

 悲しげに呟くラフエル。衝撃の真実に、ダイとアルバはスクリーンを食い入るように見つめた。

 

「今なお現世に縋る亡霊と謗ってくれて構わない。だが、身勝手を承知でそなたらに頼みたい。

 彼らも、私が愛した遠い未来の子らに違いはない。虹のせいで彼らが傷ついているのなら……

 

 彼らを──」

 

 

「救ってやるよ、俺が。俺たちが」

「うん、僕たちが彼らを止める、止めてみせる」

 

 

 あまりにもあっけらかんと言い放つものだから、ラフエルは思わず面を食らった。

 しかしダイとアルバの顔は大真面目のそれ。だからレシラムは再度尋ねることにした。

 

『良いのかい? 彼らは敵対者、助ける意味なんて』

 

「くどいぜレシラム、俺はさっきお前にも決意表明したつもりだ」

「それに、君があの日ダイを救ったのは、()()()()()()()()だろ? なら僕たちも一緒だ」

 

 拳を打ち合わせるアルバにダイが頷く。それを見てラフエルは、

 

 

「…………ふ、はっはっは! はははははっ!」

 

 

 ──心底面白そうに、腹を抱えて笑った。だがダイもアルバもそれを怪訝に思ったりはしない。

 我ながら酔狂をしていると、自覚があるからだ。

 

「……そなたらのような者が生まれてきたというのなら、我が命を懸けた甲斐があるというもの」

 

 アルバは首を傾げたが、ダイには分かった。コスモスが語った、ラフエル英雄譚の真の原典。

 一般的なラフエル英雄譚は、ラフエルがレシラム、ゼクロムと共に破滅の光に立ち向かう話だ。

 

 しかし原典では、話が違った。

 ラフエルが争える民草の心を束ねるために、敢えて破滅の光となりて絶対悪として討ち取られたというのが真のラフエル英雄譚の最終章であった。

 

 誰かのために生命を懸けられる、レシラムがいつかに語った「英雄と呼ぶに相応しい男」というラフエルの評価に心から納得する。

 

 

「そなたらに、託す。虹はいつでも、そなたらを見守っている故、使うが良い」

 

 

 ラフエルがダイとアルバ、二人の胸にそっと触れた。

 その大きくごつごつとした手から暖かな虹の光が流れ込み、心臓が一際強い脈動を打つ。

 

「また、会えるかな」

「そなたが虹の輝きを忘れなければ、必ず私はそなた達と共にあろう。約束だ」

 

 ラフエルがすっと右手を差し出した。アルバはズボンで手を拭うと、ゆっくりとその手を取って力強く握り返した。

 

 次いでラフエルはダイの方を見やると、白宝玉(ライトストーン)を手渡した。

 

「こう見えて熱いヤツである。へそを曲げないでやってくれ──我が友を、よろしく頼む」

「あぁ、必ずやり遂げるから。全部終わった時は……ここに俺の部屋でも作ってくれよ」

「ははは……そうだな、考えておこう」

 

 笑い合うダイとラフエル。互いに手のひらをぶつけ合い、対極の寝床にハイタッチの音が響く。

 そこからダイとアルバは頬をピシャリと打ち、互いに視線を交わし、大きく頷き合うとラフエルから距離を取った。

 

 元の場所へ戻ろうと、意識を研ぎ澄ます中ダイはふとあることを思い出しラフエルに問うた。

 

「そうだ、ラフエル。アンタの子孫、アンタを超えるって頑張ってるんだ。なんか、一言でも良いからアドバイスとかないか? カエンのやつ、喜ぶぜ」

 

 そう尋ねられたラフエルはしばし考えるように瞑目して、やがて口元を綻ばせた。

 胸に手を当てながら、ラフエルは言った。

 

「これは、私が英雄(きぼう)となると決めたあの日。私を絶望から救ってくれた、まさに希望の光が放った言葉(うけうり)なのだがな」

 

 ラフエル英雄譚最初の一幕、ラフエルに希望を見せた光の言葉。

 

 

 

 

 

「──"挫けたとしても何度だって立ち上がれ。迷ったとしても前だと信じる方へ突き進め。

 それがお前の道を切り拓く"と伝えてやってくれ」

 

 

 

 

 祝福の言葉が二人の胸に届く。これは今、まさに絶望へ立ち向かう二人への激励(エール)でもあった。

 虹の橋が二人を元の時間へ転送する瞬間、涙を零しながら英雄は呟いた。

 

 

「頼んだぞ、勇者たち」

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 次の瞬間、ダイは身を焦がす灼熱の中に戻ってきた。

 

 次の瞬間、アルバは荒れ狂う暴力の前に戻ってきた。

 

 

「──ジュカイン!」

 

「──ルカリオ!」

 

 

 再び二人が、一番信頼できる相棒を呼び、前へ出す。

 ヘルガーが、ギャラドスが、止めてほしいと懇願する。

 

 それぞれが相対するポケモンを牽制しながら、ダイは一人呟いた。

 

 

「俺としたことが、うっかりしてたな……!」

 

 

 ジュカインが新緑刃でヘルガーの角を切り裂いた。ちょっとした衝撃で千切れるほど、角が高熱を携えていた。

 

 

「僕も、まだまだだな……!」

 

 

 アルバが呟きながら、ギャラドスの攻撃を躱す。

 ルカリオが波動を練り上げ、ギャラドスの頭部目掛けて発射する。決定打には当然なりえない。

 

 

「シンジョウさんシンジョウさんってそればっかりでな。隣にいた奴のこと、すっかり忘れてた」

 

 

 ヘルガーが再度【オーバーヒート】を放つ。全力を撃ち尽くしたとしても、イグナという生命の供給源がある限り、熱量が変わることはない。

 再び熱波に煽られて、ダイの身体が吹き飛ぶ。アスファルトの上を転がるが、関係ない。

 

 

「イリスさんイリスさんって、追いかけるばっかり。一緒に走ってる奴のこと、忘れてたなんて」

 

 

 ギャラドスが放つ【たきのぼり】がルカリオに炸裂。暴力の化身は止まることを知らない。

 吹き飛ばされてきたルカリオ共々、壁に叩きつけられる。背中が酷く痛むが、それだけだ。

 

 

「だけど」

 

「そうだ」

 

 

 二人は立ち上がる。ジュカインも、ルカリオも膝を屈しない。

 

 

「──あいつがいたから」

 

 

 二人が前に出る。ジュカインも、ルカリオも歩を絶やさない。

 

 

 その時、吹き荒れる風が虹の光を伴う。そして二人と二匹の身体を取り囲んだ。

 二人の負った火傷や擦り傷が徐々に怪我を負う前に戻っていく。

 

 

 

「俺は"突き進む者"だから、突き進むためにまず"立ち上がれ"……!」

 

 

「僕は"立ち上がる者"だから、立ち上がったら後は"突き進め"……!」

 

 

 互いが、互いを思っている。友達だから、それもあるだろう。

 

 だが何よりも好敵手(ライバル)だから、影響され合う。背中を、押し合う。

 

 

 

「──それを!!」

 

 

 虹が、爆発する。再び立ち上がる虹の柱が、質量を以て二人の髪を、服の裾を、激しく煽る。

 ダイとアルバが左腕のグローブリストへ手を伸ばし、拳を打ちつける。

 

 

「────俺は」     「────僕は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──アイツに教わったんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 風がワースの、ロアの頬を撫でる。二人の体の傷さえもたちまち癒えていく。

 これが、本当の虹の光なんだと二人は理解した。そしてそれを己が力に変える少年を目にする。

 

 冷たい黒曜の光と対を成す、暖かな虹色の光がぶつかり合う。

 

 ダイとアルバはそれぞれ左腕を前へ、上へと突き出す。その手に宿した虹の輝きを掴むために。

 

 

 

 

 

「──信じて前に、突き進め(ゴーフォアード・ビリーヴァー)! ジュカイン!!」

 

 

「──何度でも、立ち上がれ(スタンドアップ・フォーエバー)! ルカリオ!!」

 

 

 

 

 

 ジュカインの身体が、ルカリオの身体が、虹色の繭に包まれる。

 やがてそれは冷たい冬が終わり暖かな春がやってきたように、覚醒の開花を見せる。

 

 そしてダイは、アルバは、その現象の名を告げる。

 確固たる救済の意志を以て、力を振るうために。今、万感の思いを込めて────

 

 

 

 

 

「──────"キセキシンカ"ッ!!!」

 

 

 

 

 

 その言葉に、虹が応えた。虹色の蕾が、花開くように飛散する。

 

 中から現れた、新たなる姿のパートナーが己の存在を証明するように強く叫んだ。

「今、助けに行く」と強く、強く空に向かって吼えた。

 

 

 




初挿絵、なので気合い入れて書きました。
楽しんでくれたら嬉しいです。感想もお待ちしております。

どうか僕に書き続ける力をくださいませ。

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