ドクケイル並びにバラル団のイグナとの戦闘から約一日、俺はヒヒノキ博士からミエルや市長さんたちが目を覚ましたと聞き安心してハルビスタウンを旅立った。思えばもう一度メーシャタウンに行くという話だったが、今はもうしばらく取っておいてもいい気がしている。
ハルビスタウンを出ると、2ばんどうろを通って見覚えのある背の高い木々が見えてきた。
「ハルザイナの森か……」
一度来たことのある森に来た。実は俺、ラジエスシティの港からメーシャタウンに行くには必ず通る必要があるこのハルザイナの森を通ったわけではないのだ。
ラジエスの港、そこからペリッパーを使って海上のルートを通り、後はそこからタウンマップを頼りに森を抜けたんだ。というのも、ラジエスシティとこれから向かう目的地の"リザイナシティ"の間にある"ペガスシティ"に寄るわけにはいかなかったからだ。
「港に、俺の捜索届けが出されてたら、わざわざ
恐らくはアイの仕業だろうか、あらゆる地方で俺の足取りを探しているのかもしれない。カバンの奥底に眠ってるライブキャスターの電源を入れたら、大変なことになる気がしているくらいだ。
一人でぶつくさ言ってるうちに、俺は再びハルザイナの森の入口へと到達した。
「野生のポケモンが飛び出してくるかもしれんしな、出てこいみんな!」
俺はベルトからすべてのボールを放つ。ゾロア、キモリ、ペリッパー、メタモン。改めて見ると、異色の組み合わせに思う。
「変なことを言うぞ、今以上に強くなるため、俺達はジム制覇の旅に出る。そしてこれからジム制覇のため、強くならなければいけない」
四匹が案の定首を傾げる。わかってる、順序が逆なことくらい俺にもわかってる。
「とにかくだ、ジム公式戦のルール通りに戦うのなら、今までみたいなコンビネーションによるだましうちは出来ない。それぞれの力量を上げるしかないんだ」
手持ちから二匹を選択、そのうち一匹どちらかが戦闘不能になった時点で負け。今まではそれこそ化かしあいの末の辛勝というイメージが強い。
「今まで通りのだましうちを狙うなら、ゾロアが鍵になる。意表を突くなら、メタモンが鍵になる。だけど、正々堂々と勝ちに行くならみんなの力が鍵になる」
俺はとにかく、近場にあった大きな木を蹴飛ばしてみる。すると頭の上に何かが落ちてきた。モモンの実だった。しかしいかにも木の実が生っているような木ではなかった。
モモンの実を観察してみると、一部齧られたような跡があった。上を見上げると、木の上からこちらに向かってくる影があった。
「"ヘラクロス"だ、ゾロア【イカサマ】!」
どうやら食事を邪魔してしまったらしい、それにかなり怒っていると見た。ゾロアが飛び出し、ヘラクロスの顔面に飛びつく、ヘラクロスはゾロアを振り払うべくそのまま腕でゾロアを狙うが間一髪ゾロアが離脱。振るった腕はそのまま自分の顔に直撃する。
思わぬ衝撃を受けてか、ヘラクロスは飛行セずに落下してきた。しかしすぐさま起き上がると、角に巨大なエネルギーを溜め込み始めた。俺は図鑑でヘラクロスを徹して見る。
「【メガホーン】が来る! 【みきり】!」
来るとわかっていれば、ゾロアは軽やかな身のこなしで攻撃を回避できる。ただヘラクロスの進行ルートには俺も含まれていたため、慌てて横に飛び込んで回避する。
「脅かしてやれ!」
そう指示すると、ゾロアは急に泣き始めた。怒り心頭と行った雰囲気のヘラクロスが、急に攻撃の手を緩めた。それを見て、ゾロアがニヤリとする。
「【ウソなき】からの【シャドーボール】!」
完全に油断しきったヘラクロスに漆黒の渦巻く球体を叩き込む。見事に身体の中心にヒットしヘラクロスが木々の向こう側へと消えていく。どうやら戦闘不能に出来たらしい。
ゾロアがぴょこぴょこ跳ねて喜びを露わにする。
「ミエルたちが起きてくるまで、各地のポケモンリーグの映像を見漁った甲斐があったな」
思えばアイはいつもこういう上級者の映像を見ては、自分の手持ちではどういうコンビネーションが出来るのかを考えていた。また、一匹でもどれほど戦えるかといったデータも取っていた。
見よう見まねでも、今から始めようということで俺は1v1の戦略を練り始めていたのである。
「それに、選別ってことでヒヒノキ博士がいくつかわざマシンをくれたのも大きいな」
ミエルのケムッソを捕まえる手助けをしたり、街の事件を解決してくれたりのお礼でってことでいくつかもらったものをさっそく使ってみたんだ。ゾロアの【シャドーボール】もそれに当たる。
それに癪だけど、【シャドーボール】はイグナのグラエナが使っていたのもあって、完成形が見えている。これからもっと球体を大きく出来るかもしれない。
「さて、次はキモリだな。今は森のフィールドだからいいけど、ジム戦は屋内ってことがよくあるだろ。【ソーラービーム】を使うには少しばかり場が悪い。それ以外の技で戦わないとな」
コクリと頷くキモリ。確かに【ソーラービーム】は強力だ、それこそここラフエル地方での旅で、俺の窮地を救った技ではあるがこの技は条件が揃っていなければ使えない技の一つだ。
他にも【かみなり】や【ふぶき】なんかは、天候が整っていなければ発動すら出来ない。晴天の中で使うことが出来ない技を切り札にするわけにはいかないだろう。同様にソーラービームを屋内戦がメインになりがちなジム戦での切り札として想定しておくのはまずい。
「かと言って、【メガドレイン】が主力というのもな。そこで、ヒヒノキ博士から貰ったこの二つのわざマシンを使ってみようと思う」
キモリにわざマシン読み取り用の電極パッチを貼り付け、ディスクを読み取る。するとキモリには技の使い方が映像で伝わる仕組みになっているはずだ。
技のインストールが終わると、パッチを外す。するとキモリは手応えあり、っていうような顔をした。
「よし、じゃあ練習がてら、誰か引っ掛けてみるか」
と言ってみたものの、ハルザイナの森の中は複雑であまり中央部では人っ子一人見当たらなかった。虫取り少年くらいいてもいいと思うんだがねぇ。
そろそろミエルのために昇った断崖が見えてくる。ここを遠回りしていくことで森の出口側に辿り着ける。地図が正しいならな。
崖を迂回しようと左の道を言った、その時だった。何か、グラグラしている。足の裏から何かの力が加わっている。それは段々と大きくなっていき、突如横に揺れ始めた。
「地震……? 結構大きいな……」
そして、地震だと思ったそれは間違いだった。遠くの方から、木々をなぎ倒しながら向かってくる何かが見えた。具体的な見た目はわからない。だが、何かが確実にこっちに向かっている……!
「ペリッパー! 飛ぶぞ!」
キモリとゾロアがペリッパーに化けたメタモンに飛び乗り、本物のペリッパーが俺の肩を掴んで浮き上がる。すると、うっすらとしか見えなかった影が公になり始めた。
「"ゴローン"だ……しかも群れで」
巨大な岩石の姿をしたポケモンが群れをなし、巨大な樹木を倒しながら進んでいる。どこを目指しているのかは分からないが、このままだと森がめちゃくちゃにされる。
現に倒れた木々から落ちたポケモンたちが騒ぎ出し、阿鼻叫喚と言った様相だ。
そのまま上空からゴローンの進路を割り当てていたそのとき。横から凄まじい風圧を感じた。
「うわっ!?」
近くを何かが通過し、その風圧がペリッパーを煽り落下し始めた。このままではゴローンの進行上に割入ってしまう。
「どうにか動きを止めるしかない! キモリは【くさむすび】! ペリッパーとメタモンは【みずのはどう】! ゾロアは【こわいかお】だ!」
まずゾロアが威嚇し、ゴローンにこちらを認識させる。そしてゴローンの進行上にある足場の草をキモリの力で結び、受け止めるためのネットを作る。次に【みずのはどう】でゴローンの弱点をつき、速度を落とさせる。
しかしどうやらゴローンたちはまるでなにかに取り憑かれたかのように、もしくはトレーナーの指示を受けてるかのように止める気配を見せなかった。
「ッ! 危ない!」
そのときだ、上空から"ピジョット"が降りてきた。というより、突っ込んできた方が正しい。ピジョットは上に乗っていたトレーナーを落とすと、そのままゴローンの群れに突っ込んでいった。
普通なら、タイプ相性からダメージを被るのはピジョットのはずだ。しかしピジョットの正面衝突でゴローンの進路が僅かに逸れる。
「【ブレイブバード】と【はがねのつばさ】のコンビネーション……!」
「おい、怪我はねぇか!?」
飛び降りたトレーナーが背中越しに俺に向かって言う。しかし俺はその朱色のジャケットに目を奪われていた。
ポケモントレーナーの中でも、エリート中のエリートしかなれないとまで言われているポケモンと力を合わせて事に当たる、特殊部隊。
「"ポケモンレンジャー"……怪我はない、すけど」
「そうか、いや悪かった。俺のピジョットがあんまりにもトバしていたもんだから、迷惑かけちまったな」
「アンタのせいか!」
思わず突っ込んでしまった。あのときペリッパーの近くを飛んでいたのはピジョットで、そのあまりのスピードが産んだ風圧が原因だったらしい。
「埋め合わせはするぜ、だがその前に」
ポケモンレンジャーの男は振り向いて、ニッと笑みを浮かべた。自信に溢れた、太陽のような笑みだ。
「――――お仕事しないとな、キャプチャ・オン!」
そう宣言し、手持ちの"キャプチャスタイラー"からディスクを発射しゴローンの群れを取り囲むようにディスクをスタイラーで遠隔操作する。
しかし、ディスクが描く軌跡をゴローンが突き破ってしまい、キャプチャが失敗する。
「お前のペリッパーの力を借りるぞ! そら、出てこい"フローゼル"!」
すると彼はモンスターボールを放り投げた。通常のポケモンレンジャーは手持ちのポケモンを持たないはずだが、恐らく彼もしくはこのラフエル地方支部には例外があるのだろう。
「可能な限りの水技で、ゴローンの動きを止めてくれ!」
「なら、今できる最大級で手伝いますよ!」
「「【ハイドロポンプ】!!」」
お互いの指示を受けて、ペリッパーと彼の手持ちのフローゼルがとんでもない水圧で水を撃ち放つ。それはゴローンの周囲や進行上にぶち撒けられ、即座に泥濘へと変える。
ゴローンが回転する際に発生させた摩擦は、泥濘の泥で滑り急激に動きを鈍らせた。
「今度こそ、キャプチャ・オン!!」
動きを止め、目を回しているゴローンの集団を高速で取り囲むキャプチャディスク。レンジャーの彼は真剣な表情でスタイラーを回転させる。
やがて光の軌跡がゴローンに馴染み、ゴローンは正気に戻ったかのように目をパチクリさせた。
「お前たち野生か? なら元の住処に帰れ。今度はゆっくりだぞ、これ以上は木を倒すんじゃない」
あの荒々しかったのがウソのように、命じられたとおり渋々と言った風にゴローンたちが来た道を戻っていく。まるで暴走族みたいなゴローンだった。
「さて、と。助かった、たぶんフローゼルだけじゃあいつらの動きを止められなかったかもしれないからな」
そう言って男は笑うが、そうには思えない。ペリッパーが放つ【ハイドロポンプ】、実は覚えたてということもありノーコンもいいところだった。フローゼルのリードがなければゴローンに直撃させていたかもしれない。
レンジャーとしての腕もありながら、この男はトレーナーとしても優秀であることを思い知らされた。
「俺の名前はアラン! レンジャークラスはご覧の通りさ」
そう言って男――アランは右腕の袖にあるワッペンを見せる。そこには輝く七つの星と共に"7"という数字が設けられていた。
「レンジャークラス7って、他の地方じゃエリート中のエリートじゃ……それにポケモンの所持を許されてるなんて」
「ハハハッ! 他の地方って、レンジャークラスはどこの地方も"10"が一番高いよ! それに手持ちのポケモンは今日は非番だから連れてるだけさ、もちろん勤務中は留守番を頼んでる」
「非番なのにジャケットを?」
「一番動きやすいし、万が一何かあった時この俺アランが事件を解決したって証を立ててくれやすくなるだろ?」
悪戯っぽく笑うアラン。ダイは思わず拍子抜けしてしまう。まさか初めて出会ったポケモンレンジャーがかなり飄々とした男だったからだ。
「現にほら、ハルザイナの森で暴れてるゴローンを鎮めたって証を立ててくれそうな少年が目の前に~……って、そうだ。お前、名前は?」
「ダイ。ただのダイ。ラフエルには……観光とジム制覇で」
「ほ~なるほどね……ん? ダイって言えばどこかで……」
まずい! そういえばそうだ、ポケモンレンジャーといえば
「き、昨日のハルビスタウンでの事件を収拾に導いた男……的な?」
「なっ!? てーとなにか!? 俺の不在にハルビスを救ってくれたのがお前か!?」
よかった、ごまかせたらしい。するとアランは急に俺の肩を抱いて叩き始めた、痛い。
「よし、じゃあ二回も事件解決に導いてくれた礼がしたい! ジム制覇ってことはリザイナシティに向かってんだな?」
「えぇ、特に何かしたわけじゃ……誰かがやってくれなきゃ駄目だったし」
「それをお前がやってくれたから言ってんだ! そうだ、この森案内してやるよ! 俺のピジョットならひとっ飛びでリザイナまで行けるが、念のためもう少し森の様子を見て歩きたい。それで問題ねえか?」
問題はないので首肯する。ただ、俺はもう一つ浮かんだお願いをしてみることにした。
「えっと、アラン。もしよかったら、後でバトルをしてもらえないかって……ダメかね」
「……もちろんいいぜ、非番だからな。ただ、俺のポケモンは強えぞ。なんてったって、姉ちゃんの教育を受けてるからな」
どうやら姉がいるらしい。しかもその表情と物言いからして、彼の姉も只者ではなさそうな雰囲気だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
さすがに地元のレンジャーをしているだけあって、アランの道案内のおかげで森を抜けるのはすぐだった。襲い掛かってきた野生のポケモンとアランのポケモンの戦いを見てみたがやはり手さばきがいい。
森のゲートを潜り抜けると、3ばんどうろに出る。すぐ隣が街なだけあって、道がかなり広く舗装されており散歩やジョギングなど様々なトレーナーの姿も伺えた。
「この先にある公園でなら、思いっきりバトルが出来そうだぜ」
もうすぐ夕暮れ時、太陽が沈み始めている時間に俺とアランは少し離れたところで向かい合った。
「じゃあ、ジム制覇ってことでいっちょ公式戦と同じルールでいいな? 二匹選択うちどちらかが戦闘不能になったらその時点で負けだ」
「異論なしで」
アランがさっそく二匹のポケモンを選択する。片方はフローゼルだったが、もう一匹はピジョットではなく"ウインディ"だった。しかも身の丈はアランよりも僅かに大きいほどに巨大だった。
「さぁそっちのポケモンを見せてみろ!」
俺は散々悩んだ末、四匹の中から二匹を選択する。
「メタモンと、キモリだ」
「ほう、なんでその二匹にした? 理由を聞いてもいいか?」
「理由か……ラフエル地方に来てから出会った二匹だから、かな。一番ここのジムに挑みたがってるから、力をつけたいんだ」
キモリとメタモンがこっちを見る。二人共目にやる気が宿っていて、こっちまで熱くなるようだった。昨日までの俺なら考えられない。ただ、今は無性にバトルがしたい。
「よし、じゃあ先鋒はフローゼルだ!」
「まずはキモリで行く!」
フィールドの中にキモリとフローゼルが入り、両者が対峙し合う。人間大の大きさがあるフローゼルに対し、とても小さいキモリだがその分小回りが利くというアドバンテージが有る。もちろん向こうも移動の幅が少なくなるという意味ではアドバンテージはある。
なら、タイプ相性が有利なこっちに分がある。だけど、昨日のラグナのこともある。フローゼルはきっとくさタイプやでんきタイプに有利なカウンター用の技を持ってるはずだ。慎重に攻撃のタイミングを見計らわないと……!
「先手必勝! 【タネマシンガン】!」
わざマシンで覚えさせた技の一つ。キモリが新緑の種を拳で叩き出すように撃ち出す。小さく、数の多い弾丸をフローゼルは跳躍して回避する。
「先手必勝はこちらも同じ! 【アクアジェット】!」
空中なら脚力を使った加速は出来ないと睨んだがそれは間違いだった。フローゼルは尻尾を高速で回転させ、空中で加速し水に乗った。確かに速い、だけどキモリだって技が見えているのなら!
「【ファストガード】! 受け止めろ!」
ダメージを最小で抑えられる位置で防御しフローゼルとキモリがぶつかりあう、あのスピードならキモリが吹き飛ばされてもおかしくはない。けれど、当たりどころの計算が合えば、踏ん張りは利くはずだ!
「そのままゼロ距離で【メガドレイン】!」
防御で消耗した体力をそのままフローゼルから奪い取る。アランがすぐさまフローゼルを退かせる。
「なるほど、【みきり】で躱せる攻撃をあえて受け止めることで、フローゼルの体力をゼロ距離で吸い取ったわけだ」
最初はみきりという手もあった。だけど躱せば、フローゼルはすぐさま別の攻撃に移れてしまう。それならば、手応えを感じさせて隙を作ってやればいい。
「フローゼルは救助の相棒でちぃっとバトルとなると無意識下で手を抜いちまうくせがあるんだよな。それでも十分戦えるから、先鋒に選んだんだが……」
フローゼルが下がる。それと同時にウィンディが顔をだす。その表情はまるで待ってましたとばかりに唸りを上げる。【いかく】だ、キモリは思わず後退する。
「無理しなくていい、こっちもメタモンで勝負だ。【へんしん】!」
前にペタペタ出るメタモンが光り輝き、そのまま相手と同じウインディに变化する。メタモンもまたウインディの姿で吠え、威嚇する。俺は図鑑を取り出し、メタモンが今使える技を確認する。
「ウインディ!」
「メタモン!」
「「【ニトロチャージ】!!」」
お互いの指示が交錯する。二匹のウインディが炎を纏い、頭からぶつかり合う。エンジンがかかるように、またギアが上がったように、炎を纏う二匹が加速しだす。
激しい音を立てて弾け合う二匹共が、俺達の指示を待っていた。
「次は【おにび】だ!」
「メタモン! 【しんぴのまもり】で防いでから【ほえる】!」
アランのウインディから放たれる黒い炎の数々はメタモンへと集まるが、メタモンを纏う神秘のヴェールが接触を阻み、さらに【ほえる】によって炎に宿る怨嗟をコントロールし、打ち返す。
【ほえる】で挑発されたフローゼルが再び出張ってくるが、コントロールを奪った鬼火がフローゼルへと纏わりつきやけどを負わせる。
「これで正面から撃ち合いが出来る! 【ワイルドボルト】!」
「こっちのウインディの技を把握しきってやがる! フローゼル! 【どろかけ】で視界を塞げ!」
メタモンがウインディの姿でプラズマを纏い、フローゼルに向かって捨て身の攻撃を行う。フローゼルは足場に水をぶち撒け、その泥をかきあげた。走行するウインディの顔に直撃した泥、進行方向が僅かに逸れた。
しかし身体に纏うプラズマがフローゼルの身体を弾き飛ばす。
「直撃には至らなかった、でも! 次の一撃で……!」
「フローゼル! 【ビルドアップ】だ! 海難救助のパワーを見せてやれ!」
メタモンは視界に入った泥のせいで上手く目を開けられずにいる。その隙にフローゼルは自分の体に力を蓄え、オーラが可視出来るほどまで攻撃と防御を高めていた。
「もっとだ! もっと熱くなれ!」
「メタモン、【じならし】!」
目が開けられなくても、周囲を力強く踏みしめることで軽い揺れを起こし、フローゼルの体勢を崩せれば……!
「俺のフローゼルは今体幹を極限まで高めた! そのくらいの揺れじゃびくともしないぜ! さぁ真打ちだ【バトンタッチ】!」
極限まで高めたエネルギーを、タッチの瞬間ウインディへと譲渡するフローゼル。最初からこれが狙いだったのだ、つまり次にウインディが放つ一撃は正真正銘本気の一撃―――!
「ちらば、もろとも!」
「来るぞ! こっちも迎え撃つ!」
「「【フレアドライブ】ーーッ!!」」
【ニトロチャージ】とは比較に鳴らないほどの業火を纏い、アランのウインディが突進してくる。メタモンは僅かに反応が遅れたが、ニトロチャージの炎を上乗せした【フレアドライブ】で勝負をかける!
まるで爆弾が正面衝突したかのような爆風が発生し、思わず尻もちをつく。砂埃が舞い、それが晴れた時地面で変身が解け、目を回しているメタモンと膝を屈するウインディがいた。
「メタモンはフレアドライブのダメージで、こっちのウインディは極限に高めた力の反動でノックアウト……引き分けか」
「いや、ウインディは膝を折っただけでまだ動ける……こっちの負けだ」
正面から正々堂々と戦った末に、負けてしまった。唇を噛み締めたその時、ずしんと大きな音を立ててウインディが寝転がって目を回していた。
「な、引き分けだろ?」
アランがそう言って笑いかけてくる。本当に引き分けなのか、未だに実感がない。ウインディがこちらを立てるために、動けないフリをしているんじゃないかって気さえする。
「こんだけ戦えりゃ十分だろ! お前のメタモンはすごい! ウインディを完全にコピっちまうし、お前はお前でウインディが出来ることを把握してる!」
「技の確認は図鑑でやっただけだよ……」
「図鑑? ってーとそれは、ヒヒノキ博士からもらったもんか?」
アランの問いにコクリと頷く。するとアランは飄々とした態度を崩して、俺の方を叩いた。
「そりゃあ、ヒヒノキ博士がお前に託したもんだ。確かに旅をするやつに渡せば勝手にデータが集まってくだろうよ。だけどな、それだけなら別にお前じゃなくてもいいんだ」
ここまで静かだったアランが急に声を荒らげた。
「大事なのは、ヒヒノキ博士が
違うほど、お前はすごいやつってことなんだ!」
肩を叩く勢いが強くなる。思わず顔をしかめるほどに。アランの声が、耳朶を打って頭のなかで跳ね回る。
「もっと誇れ! お前の力が足りないと思うなら後ろを見ろ、お前の背中を見ているやつらを見ろ! 何があったってお前を支えてやれるポケモンたちだ。見てくれは小さいかもしれない。
だがよ、フローゼルに挑んだキモリを見ただろ。お前の指示を完全に信頼して、お前に背中を見せてるんだ。だからお前はお前を信じるポケモンたちを信じろ!」
思わぬ力説に、少し怯んだ。だけどアランの言葉はまっすぐで、思いの外スッと胸に落ちてきた。
俺を信じるポケモンたちを信じる。それが、ポケモンがまた俺を信じる力に変わる。
「わかったよ、今日アランに会えてよかった。ジムを制覇したら、またハルビスに会いにいく。そうしたら、またバトルしてくれ……!」
「おう! 待ってるからな! そうだ、サンビエタウンに行くことがあったら姉ちゃんによろしくな!」
握手を交わして、ピジョットに乗ってハルビスに帰るアランを見送った。その空は茜色に染まり、陽の光は山に消えていく。近くに綺麗な小川でもあるのか、"バルビート"や"イルミーゼ"の光がぽつぽつと現れ始めた。
アランと交わした手を強く握る。昨日の今日で、ここまで心持ちが変わるとは思えなかった。アイと一緒にラフエルに来ていたら、きっと腰巾着のまま変わらなかっただろう。
「さ、真っ暗になる前にリザイナシティまで走っていくぞ!」
頷くポケモンたちをボールに収め、ランニングシューズの力で街のゲートを目指した。
今日より明日、明日より明後日。もっと強くなるための道を、俺達は歩み始めた。
何が待っていようと、絶対に乗り越えてみせる。受け取った灯火が、俺の胸の中で煌々と輝いている限り。
手持ちのポケモンを持ったポケモンレンジャーis新鮮、書いてて楽しかった!
お借りしたキャラクター
おや:葉月つづら(@suirannnn)
Name:アラン
Gender:男
Age:20
Height:172cm
Weight:70kg
Job:ポケモンレンジャー
▼Pokemon▼
ピジョット♀
フローゼル♀
ウインディ♂
▼詳細▼
ポケモンレンジャーとして三年ほど前から前線で働く青年。
飄々とした態度を取るが、その実お人好しで正義感が強く、頼まれると断れない性格。
相棒であるピジョットは6歳のときに乳から貰った卵が孵ったもので、幼い頃から苦楽を共にしてきた。また、ウインディは姉から譲り受けた。
キャプチャスタイラーを駆使して海難事故から遭難まで幅広い現場に出向く。
主にハルビスタウンを拠点としているが実家はサンビエタウンにある。
その実家で姉であるシーヴが育て屋を営んでおり、長い休みが取れたときにはそこで姉に代わって育て屋を代行することも。
そして何を隠そうこの男実は重度のシスコンであるため、姉少々注意が必要、かも。