ポケットモンスター虹 ~ダイ~   作:入江末吉

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VSバシャーモ アイラ・ヴァースティンという女

 

 突然の邂逅劇、リエンとアルバはただ呆然と立ち尽くしているダイを見て首を傾げた。

 いつも飄々とした態度のダイがただただ言葉を失っている。それどころか、震えているのだ。

 

 バラル団相手に果敢に立ち向かったあのダイが、たかだか一人の小娘を眼前にして震えている。それだけであの一人の少女がダイにとってどれだけ強大な相手かが伺えた。

 少女――アイラはフライゴンの背を降りるとズカズカといった足並みでダイに近づいた。

 

「さっさと行くわ――――」

 

「誰が行くか! これだから嫌なんだよお前の側は!」

 

 ダイは乱暴に掴まれた腕を、それ以上の乱雑さを以て引き剥がす。しかしアイラもまた強情で、ダイを必ず連れ戻すつもりでいた。

 もう一度ダイの腕を掴む。するとダイは強く歯噛みして腰のボールに手を伸ばした。

 

「ジュプトル!」

 

「――――"バシャーモ"!」

 

 しかし応じたアイラの方が素早かった。アイラの腰から解き放たれた灼熱を纏うポケモン"バシャーモ"に対し、ジュプトルは気圧されていた。直感が告げた、強敵だと。

 ダイに関して言えば、見覚えがあるなどと言うものではない。

 

 何度も見てきたのだ。

 

 あのバシャーモと、アイラが勝ち進む背中を、立ち止まった場所から、止まった時間の中からずっと、ずっとずっとずっとずっと見続けてきたのだ。

 ギリッと奥歯を噛み締め、ダイは金切り声のように掠れた声で叫んだ。

 

「【リーフブレ――――」

 

「【ブレイズキック】!」

 

「"バリヤード"、【リフレクター】!」

 

 言い切る前に、展開された半透明の障壁が粉々に砕け散る。バシャーモは素早くその場を離脱しアイラの側へと戻る。対してジュプトルは何が起きたのか理解できておらず、その場で目を丸くしている。

 アストンだ、両者の攻撃が交錯する瞬間。手持ちのポケモン"バリヤード"に物理耐性のある障壁を張らせ、お互いを無傷でとどまらせたのだ。

 

「ふたりとも、落ち着いてください。ここにいる人々やポケモンは全て怪我人です。そんな場で暴れるのをボクは見過ごせません」

「だ、まってろよ……ああそうだ、みすみすあいつらを逃がしたお前がぬけぬけと抜かすなよ……!! 俺たちが怪我してんのはあいつらと戦ったからだ! 俺たちは戦ったんだよ! 盗まれちゃまずいもんだったから、必死に戦ったんだよ!」

 

 決壊、そう表現するのが正しい。まるでダムのように、堰き止めていたダイの心情が口から雪崩れる。リエンは目の前の人物が、ダイの姿をした別人に見えた。命の危機の陥ったときでも、誰かを責めることのなかったダイが八つ当たりのように叱責している。

 アルバにとっても同じことだった。まだ浅い付き合いとはいえ、ダイがここまで感情的になるなど考えられなかったからだ。

 

「ダイ、やめな」

「お前も喋んな!! なんの事情も知らないやつが口を出すな!!」

 

 一触即発、いや片方は既に暴発してしまっているがアイラの眼が徐々に切れ味を増していく。このままでは、とアストンは己の無力さを痛感させられた。

 自分の手持ちは、かつて様々な事件を解決してきた優秀なチームだ。特にバリヤードはこと防御と空間制御においてはPG本部でも類を見ないほどの力量を誇る。だというのに、アイラのバシャーモはそのバリヤードが展開して防御障壁をいとも容易く破壊してみせたのだ。

 頭に血が登っているダイと、計り知れない実力者のアイラ。この両者が今ぶつかれば、自分が本気を出さずに事を収めるのは恐らく至難。

 

「ダイ、行こう。今日はもうジム戦なんか出来る状態じゃないよ、一旦ポケモンセンターに戻ろう」

「そうだよ、アルバの言うとおりだよ。ダイ、ちょっと変だよ」

 

 リエンとアルバがサザンカを気遣ってか、それとも最悪の事態を防ぎたいというアストンの思いを汲んだか、ダイの腕を引っ張ってこの場を去ろうとした。ダイは黙って従い、ジンとの戦闘で激しく損傷した玄関に向かった。

 だがその時、一瞬振り返ってしまいアイラと目が合った。

 

 軽蔑の眼差しだった。呆れ果てた、という顔だ。

 それが、無性に腹立たしくなって、ダイはアルバの腕を振り払った。

 

 

「――――ジュプトルッ!! 【ソーラービーム】だ! ぶちかませ!!」

 

 

 トボトボとダイの後ろをついてきていたジュプトルが困惑する。なぜなら、ダイが指定した攻撃対象はアイラそのものだったからだ。

 アイラはため息を吐くと、ジュプトルに向かって指をクイっと引き「撃ってこい」というジェスチャーをする。ジュプトルは遠慮がちに、太陽の力を集め始めた。

 

 

「ダイくん! っ、バリヤード! 次は【ひかりの――」

「いいよアストンさん。あの馬鹿、ちょっと灸を据えなきゃだからさ」

 

 直後、全力とは言い難い濃縮された太陽光がアイラへと迫る。しかしそれを見過ごすバシャーモではない。【ソーラービーム】を正面から受け止める。

 それだけではなく、なんと【ソーラービーム】の力の行き場をコントロールし、ジュプトル目掛けて跳ね返したのだ。【オウムがえし】だ、そして今最もダイに効果のある攻撃だと言える。

 

 バシャーモの炎を吸収し、数倍に膨れ上がった【ソーラービーム】がジュプトルを飲み込む。ジュプトルは同じように受け止めようとしたが、襲い来る熱量を受け止めきれずに岩壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。

 光が収まった後には目を回して完全に戦闘不能に陥ったジュプトルと、圧倒的な力量差を見せつけられ恐れ慄くダイの手持ちのポケモンたちがいた。

 

 ダイは口の中に、さらさらとした小石のような感覚を覚えた。吐き出してみると、それは極小粒の欠片だった。それが歯の欠片だと気づいたとき、自分の奥歯にかけていた圧力を自覚した。

 歯がかけるほどに、強く歯を噛み締めていたのだ。殺意にも見える視線をアイラへと向けようとするが、今度こそ戦えるポケモンがいない今では虚しい挑発に他ならなかった。

 

 アルバに引きずられるまま、ダイは修行場から連れ出された。

 

 

 

「先に約束を破ったのは、そっちじゃんか……」

 

 

 

 ぼそり、と呟かれたアイラのその一言が、ダイはやけに大きく聞こえた。

 けれど思い当たる節も無いまま、目の前が真っ白になった。

 

「ん…………」

 

 連れて行かれるダイを見送るアイラの目は、軽蔑や困惑が無い混ぜになったぐちゃぐちゃな感情を周囲に察知させるほどに語っていた。

 一つ目の困惑、以前のダイはここまで自分に対して激しく牙を剥いたことがない。よくて姉弟喧嘩の程度に収まるくらいで、ここまで激情を露わにしたことなどなかった。

 

 二つ目に、これは一つ目に類似することだがそもそもダイがポケモンを人にけしかけるなど想像も付かなかった。最終的に煽ったのは自分だが、あのジュプトルは相当人を狙うことに慣れていた。

 あれが恐らく、アイラを知っているゾロアやペリッパーならばまだ躊躇はしなかっただろう。

 

「戸惑ってるようですね……ああいえ、出しゃばりました。謝罪いたします」

「いいですよ。カイドウさんたちが言ってたこと、本当だったなぁ……こっちに来てから、あたしの知らないダイになってた」

 

 アストンと会話してるように見えて、独りごちているアイラ。アストンは今はそっとしておいた方がいいだろうと判断し、負傷しているサザンカに駆け寄った。

 

「ご無事ですか、ミスターサザンカ」

「いえ、警視殿の手を煩わせるわけには……くっ」

 

 立ち上がろうとしたサザンカだったが、見た目以上にダメージは大きいようだ。バラル三頭犬は幹部クラスには及ばぬものの、やはり班長を任されているだけの実力者。束になればやはり御すのは困難なのだ。

 

「いったい何があったのですか? 彼らが強奪していったものは、それほどまでに価値のあるものなのですか?」

「……あの巻物の価値は、ある人にとっては取るに足らない骨董品(アンティーク)です。せいぜい、ラフエルが書き記したという歴史的価値しか見出だせない。ですが、ある人が手に取れば……世界を変える力に手を伸ばすことが適ってしまう」

「世界を変える、力……?」

 

 あまりに荒唐無稽だった。しかしサザンカの目は嘘を言っていない。アストンは職業柄人の嘘を見抜く力がある。彼の言葉、一言一句には聞く人を信用させる力があった。

 何が巻物に記されているのかまではアストンは聞き出すことが出来なかった。サザンカもこれ以上話すことは出来ないという態度だったからだ。無理もない、守り通せなかった者に守れなかったものの大きさを自覚させることは拷問に等しい。

 

「こんなことでは……クシェルシティのジムリーダーなどと……思い上がりもいいところだ……」

 

 サザンカの自責を止める権限はアストンにはない。だからこそ、彼が立ち上がるまで自分は手を出さない。ひとまず得た情報を本部に包み隠さず報告し、対策会議を設立する必要がある。

 

「ミスター、ボクはここで失礼致します。貴方が嘘を仰らなかったこと、ボクにはわかります。ですから、貴方を信じひとまずこの場は暇とさせて頂きます。いずれまたお目見えすることでしょう」

「……いえ、僕はジムリーダーを辞退しようと考えています。次は恐らく、ありません……こんな弱輩に、街を引っ張ることなど……」

 

 すっかり弱気なサザンカ、これ以上は傷の抉り出しになると察したアストンは早々に口を閉じた。

 だが、それでもなお言わねばならないことが、一つだけある。

 

「ですが、貴方を乗り越えようとする者たちはどうなるのでしょう。目の前の岩壁が勝手に取り払われて、満足するでしょうか?」

「ダイくんたちのことですか……?」

「えぇ、彼はあのミスターカイドウを破った少年です。彼が次に乗り越えんとするのは、貴方なのです。他の誰でもない、クシェルシティジムリーダー・サザンカを。彼は恐らくこれからも数々の脅威と対峙することでしょう。そんなとき、彼に力添えするのは彼の経験自身。貴方は、ここで折れてしまうとしても彼の乗り越えるべき壁たるべきなんです」

 

 それだけを残して、エアームドの背に乗ったアストン。それを呼び止める声があった、アイラだ。

 

「もう言っちゃうんですか?」

「えぇ、対策会議の設立は急務であると判断しましたので」

「そっか、なら……あたしも仲間に入れてもらっていいかな? こう見えて、悪党退治は昔っから自信ありますよ」

 

 拳を打ち鳴らすアイラに、アストンは苦笑を見せた。

 

「確かに戦力はいずれ必要になるでしょう。ですが、外来の貴女の手を煩わせるほど、我々PGは無能の集団ではありません。力とは、振るうべき時に、振るわれるべくして振るわれる。我々が下しかねている鉄槌を、その責を、誰かに肩代わりさせるなど本来あってはならないんです」

 

「そっか、アストンさんがそこまで言うのなら今は退いたげる。だけどあたしの主観で見かねたときは、躊躇せず助力するからね」

「願わくば、御手を煩わせることがないように」

 

 その言葉を最後に、エアームドは飛び立った。刃翼がキラキラと昼の光を受けて輝くその軌跡を、アイラは見送った。修行場には、サザンカとアイラだけが残った。

 正直アイラにはほとんど話がわかっていない。状況に介入しそこねたのもあるが、第一目的のダイを目にしてらしくなく、先走ってしまったのだ。

 

 幼馴染の変貌を前にして、考えが纏まっていないのもある。

 

「アンタの手をこんなんにする攻撃、撃てたんだなぁ……」

 

 アイラはバシャーモに対して呟いた。バシャーモの手は、火傷状態に近い状態まで傷ついていたのだ。もちろん自分の炎で火傷したのではない、【ソーラービーム】を受け止めた瞬間に負った傷だろう。

 ダイの手持ちに、アイラが初顔のメンバーが二匹もいた。メタモンとジュプトルだ。自分のいないところで、当然自分の知らないストーリーを築いてきたのだ。

 

 そう思うと無性にむしゃくしゃして、アイラは頭を掻きむしった。

 

「ダイのくせに、生意気じゃん……」

 

 その言葉は、一緒に旅をしてきた中で何度も吐いた言葉だ。その言葉がダイを追い詰めていたなどと彼女は考えていない。

 だからこそ、彼女もまた被害者の目線で立っている。だけど、それでも、彼女が決定的に傷つけられたという事実が揺らがない()()がある。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 リエンはダイのポケモンを預かり、ポケモンセンターの受付に回復を頼みに行った。想像以上に消耗しているらしく、受付の女医は少しばかり真剣味を増した顔でモンスターボールを奥の部屋へと連れて行った。

 一息つくと、自分の服がびしょ濡れな上に泥だらけであることに気づいた。お気に入りの服だったのだが、旅をする上でよれよれになるくらいは覚悟していた。それでもこんな短時間で落ちなさそうな汚れをつけてしまうことになるとは、リエンはベンチを汚すのも忍びなくなりダイを連れて行ったアルバを探しに行った。

 

「あぁ、リエン」

「ダイは?」

「部屋に閉じ籠もっちゃった……一人にしてほしいんだって」

 

 あの様子なら無理もないだろう。ケイカとの戦いで一つしか残らなかったボートを仕方なく手漕ぎで戻ったのだがその途中ダイは瞬きすらしていないんじゃないかと思うほどに空っぽな抜け殻の状態だった。手を引かれれば歩きはするものの、話を出来る状態とは到底思えなかった。

 

「あの人、なんなんだろう……ダイがあそこまで変わるなんて、よっぽだよね」

 

 アルバがそう呟く。リエンはそう言えばと記憶を掘り起こした。

 

 

『ホウエン地方で手に入れた、というか同行者からくすねた"デボンスコープ"、これで夜でも構わず昼間のように浜を監視することが出来るってわけだ』

 

『【ひみつのちから】だよ、前の旅で同行者からパク……拝借したわざマシンの一つで、なにがどうなってんのかわからないけど本来は秘密基地を作るための技なんだ』

 

 

 確か、自分が使っていたベースでの会話だ。あの人物は恐らく、ダイと以前旅をしていた人物なのだ。剣幕から察するに、ダイは彼女の元を無断で立ち去ったのだろう、いろいろ持ち出しつつ。

 だけど恐らく彼女が怒っているのはそんな理由ではないのだろう。最後にボソリと彼女が呟いた何か、リエンには聞き取れなかったが恐らくそれが明確な理由だろう。

 

「どこへ行くの?」

「あの人のところ。多分、あの警視の人とまだ一緒だと思うし……」

「ボクはやめたほうがいいと思うな。あの人も相当な癇癪持ちだよ、ボクにはわかる」

 

 ポケモンセンターを出ようとするリエンをアルバは止めた。思ったより強い力で止められ、リエンはたじたじとする。見ればアルバも、小綺麗だった格好が焼け焦げたり破けたりしていた。

 今日は少なくとも、身体を休めた方がいいのかもしれない。

 

「ダイが閉じ籠もっちゃったから、リエンの部屋に泊めてもらいたいんだけど……いいかな」

「それくらいなら」

 

 自分が借りている部屋へ戻る前に、その隣の固く閉ざされた扉を見つめるリエン。中の少年は今どんな思いでいるのだろう。自分には何が出来るだろう。

 すると考えるより先に、その扉の前で口を開いていた。

 

「ダイ、ひとまずお疲れ様……ゆっくり休んでね」

 

 なんということはない、ただの労い。この一言が彼を幾ばくか楽に出来るのなら、とただただそう思って呟いた。もしかしたら聞こえていないかもしれない。届いていないかもしれない。

 それでも、いずれこの扉は開かれる。リエンはそう信じて、今はこの扉の前から去るのである。

 

 

 

 

 

 その言葉を、ダイはなんと扉の目の前で聞いていた。

 流石に労いの言葉を皮肉と受け取るほど彼は取り乱していなかった。ただし、むしろ後ろ向きな考えがひどく強まってしまった。

 

「……っ」

 

 壁に頭を預けるようにへたり込む。

 

 勝てなかった。

 

「勝てなかった……!」

 

 頭の中にその言葉がひたすら反芻された。まるで、木霊が返ってくるように。心の中の幾人もの自分がが、全員が同じ言葉をうわ言のように呟くのだ。

 その中心にいるアイラが、こちらを見ている。その目はダイを責めているようにも哀れんでいるようにも見えた。どちらにせよ、良く思っていないのは明らかだった。

 

「ちくしょう……!! 結局俺は、どこへ行ってもあいつから逃げられないのかよ……」

 

 昔からそうだった。アイラは何かとダイを見つけるのが上手かった。地元の友達とかくれんぼをしたって、ダイを見つけるのはいつだってアイラだった。鬼ごっこをすれば、ダイを捕まえるのはいつだってアイラだった。

 そして、ラフエル地方へ逃亡してもだ。一世一代の逃亡劇はこんなところで無様に終劇を迎えてしまうのだ。打ち切りもいいところである。

 

 いいや、むしろダイは連れてきてしまったのだ。逃げたつもりで、アイラのことを忘れられず何かあれば彼女と一緒にいた頃の自分を引き合いに出し、今の自分は強くなったんだと言い聞かせ、結果や物事から目を反らしてきただけだった。

 嫌気が差す、じわじわと湧き上がってくる自分への怒り。しかし自傷するほどの度胸は持ち合わせてなどいない。

 

 行き場の無い怒りを鎮めるため、ダイは無気力な脚を無理やり動かしベッドへ倒れ込んだ。

 

 抜けているピースが嵌まれば、少しは状況が打開するのだろうか。そんなことを思いながら、消してしまいたい、忘れてしまいたいアイラとの旅の記憶を掘り進めた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

『イワークの攻撃! ピジョットは動けない!! このまま勝負が決まってしまうのかァ!?』

 

 テレビの音は、隣家まで聞こえてしまうほど大きかった。夢を見ている、自分でそう理解出来る夢のことを、明晰夢というらしい。

 俺はまさに、その明晰夢を見ていた。幼少の頃の俺が、同じく幼少の頃のアイラと一緒にテレビに齧りついている。

 

 ポケモンバトルが、大好きだった頃の俺の姿は少しばかり眩しくて、俺はまるでその場に居合わせているように自然な動きでベッドに腰掛けて子供の俺たちを見守りながら同じようにテレビに見入った。遠方の地方のポケモンリーグが中継放送されていた、アイラはいつも窓から俺の部屋に入ってくると、こうして二人でテレビを見たり本を読んだりして遊んだ。思えばあの頃からあいつはお転婆だった。今はもう、そんな言葉じゃ片付かないが。

 

『いや待った……ピジョットが動いた! しかしどうする! 既に満身創痍、しかも相手はイワーク!! ここから逆転を狙えるのか!!』

 

 実況席が騒がしい、記憶にある。この戦いは歴代ポケモンリーグ決勝においても、類を見ないほど熱い戦いを見せたはずだ。ここから、このピジョットは相性の不利を覆し、逆転するのだ。

 だが過去の俺たちはそんなことを知る由もない。食い入るように、ピジョットとそのトレーナーの動きを見つめていた。

 

「頑張れピジョット!」

 

 俺だ、まだ声の変わっていない高い声の俺が大声を上げた。それに対し、アイラは少し冷静に状況を分析した。

 

「男の子はこういう展開好きよね」

「もちろん……あのピジョットが、まだ諦めてないうちは、頑張るのがわかってるうちは応援したい!」

「まぁ、あたしも好きだけどさ……かなり不利よ、それでも勝ちに行こうっていうんだから、ポケモンリーグチャレンジャーはすごいわ」

 

 アイラは俺より一歳年上だ、今でこそそんなことを気にしてないがこの当時は一個違うだけでかなりお姉さんに見えた。今の俺から見れば、まだまだ子供って感じだけれど。

 

「俺たちも、いつかポケモンを手に入れて、度に出るんだろうなぁ……早く、旅したいなぁ」

 

 熱に浮かされたように、小さい俺が言った。当時は気づかなかったが、アイラは俺のことをじっと見ていた。そして、やたらもじもじしながら口を開いた。

 

「じゃあ、一緒に出発しよっか」

 

「え? うん、アイがいいなら俺もそれでいいよ」

 

「……! じゃあ約束ね――――」

 

 アイラはそう言って、そっぽを向きながら小指を差し出す。小さい俺がそれに指を絡めるがたった今、俺は小さいアイラと目が合った。そんな気がした。

 そこから繰り出される言葉が、俺の脳みそを揺さぶった。

 

 

 

 

 

「――――ダイ、一緒に冒険しよ。一つだけじゃなくて、たくさんの地方を回って、いつかポケモンリーグで戦おうね」

 

 

 

 

 

 




まさか8000文字に一ヶ月もかかるという体たらく

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