ポケットモンスター虹 ~ダイ~   作:入江末吉

14 / 86
VSハスブレロ 神隠しの洞窟

 

「教授、退院おめでとうございます」

「いやいや、本当傷は大したことなかったからネ。むしろ数日寝てるだけで暇だったヨ」

「大事があっては、生徒たちが悲しみますから」

 

 ダイが拉致、自然災害に巻き込まれて数日が経ちモタナタウンで落ち着いていた頃、リザイナシティの病院前にはジムリーダー・カイドウの姿があった。というのも、先日のトレーナーズスクール強襲事件の際怪我を負ったピエールがこの度退院することになったため、わざわざ出向いてきたのだ。

 そしてわざわざ自分の退院を見届けに来てくれた誇り高い教え子の言葉に思わず頬が綻ぶ。

 

「ずいぶん丸くなったネ」

「……?」

「身体の話じゃないヨ、心の話サ」

 

 カイドウが首を傾げるが彼自身気づいていないのだろう。少し前まで彼はこういう優しさを見せる男ではなかった。それこそ触れれば斬れる刃、それも向こうからわざわざやってきて切り裂いていく通り魔のような切れ味だったのだから。

 それがたった一人、不思議なトレーナーの実力を認めただけでこうも人が変わったのだから驚きだ。彼にはひょっとすると人の切れ味を下げる、そんな力があるのかもしれない。

 

「さて、学校に行って教え子たちに顔を見せに行くかな」

「今日くらいはジッとしてて頂きたいものですが」

「いやいや、今日休んでしまったら身体が鈍って使い物にならなくなりそうだからネ。授業はともかく私がいない間に起きたこと、全部把握しておかないとネ」

 

 ただでさえ、解決に至った事件が無いのだから。

 あの後、ダイの救出に失敗したアストンはエアームドにダイを探させながらも、断腸の思いでその場を後にし捕まえたバラル団の構成員を連れてペガスシティへと戻った。

 しかし事情聴取も満足に進まず、そしてダイが見つかったという情報も無いまま悪戯に時間だけが過ぎていった。

 

「カイドウくんは、ダイくんのことが心配じゃないのかい?」

「なぜ俺が、あの馬鹿の心配をする必要が?」

「……あまりこういうことを言いたくはないけど、死体も上がってこないのでは……」

「ああいえ、俺が心配しないと言ったのはあの馬鹿がしぶとく生きているからですよ。フーディンとあいつには一度パスが繋がれましたから、ふとした拍子にフーディンがやつの気持ちをキャッチするんです」

「そうか、つまり彼はまだ生きているんだネ……それはよかった」

 

 ピエールはそっと胸を撫で下ろした。縁起でもないことは口にするものではない。

 

「それなら、なおのことアストンくんに知らせねばならないネ。彼の安否を一番気にしていたから」

「そうですね……ただ、あの馬鹿は何かを隠していますね。アストン・ハーレィが病室に現れたときの動揺、フーディンを徹してまるわかりでした」

「私も薄々感づいていたネ、それは。見つかっちゃいけない人間に見つかった、そういった動揺の仕方だったよ」

 

 しかしピエールも、ひょっとするとカイドウもまたダイが何を隠していようと彼のことを信用することに変わりはない。いろいろ言いたいことはあるが、カイドウにしろ彼は自分が一度認めたトレーナーだからだ。

 どうしても学校に行くというピエールをカイドウはもう止めはしなかった。それでは、と踵を返してジムに戻ろうとした。

 

 そのときだ、空から突然人が降ってきたのは。

 

「ほっ! 着地成功!」

 

 カイドウもピエールも驚いた。空を仰ぐと、"フライゴン"が恐ろしく高い位置で旋回していた。あそこから飛び降りて無事で済むはずがないのに目の前の人間がまさに無傷だから質が悪い。

 受け身でついた埃を払うと彼女はサンバイザーをくいっと持ち上げた。

 

「さてと……お、人発見。ねーねーもし?」

「……」

「うわっ、カイドウくん無視かネ……おやおやどうかしましたかな、ファンタスティックガール?」

 

 あからさまに知らんぷりを決め込むカイドウに苦笑しながらも、いつものハイテンションティーチャーを演じ対応するピエール。それを見て楽しげに笑みを浮かべていた少女が口を開く。

 

「ここのジムリーダー・カイドウに挑戦しに来たんだけど、ジムってどっちかなぁ? あたし結構方向音痴で……」

 

 そう言った少女の言葉に、無視を決め込んでいたカイドウが反応した。そしてそのトレーナーに向き直ったとき、カイドウは一瞬放たれたプレッシャーに圧された、そんな感覚に襲われたのだ。

 不意に、携帯しているモンスターボールの中にいるフーディンがボールを擦ってカイドウに何かを言おうとしていた。それに気づいたカイドウはフーディンの念写を自身の脳に転送させた。

 

 頭、フーディンはそう言った。カイドウは少女の頭を見た。サンバイザーに、高性能そうなゴーグルが装備されているだけだ。

 ゴーグル、ふとダイの顔が頭によぎった。そして、ダイがつけていたゴーグルとまったく同じデザインで、違うのは色くらいだと思い至った。

 

「都合がいい。そのジムリーダーは俺だ。ついてこい、挑戦者」

「あ、本当に? ならよかった、そんじゃジム戦ついでに聞きたいことがあるんだけどもさ」

「いったいなんだ、時間が惜しい。さっさと話してみろ」

「うんうん、あたしと同じゴーグル持ってて白いジャケットにオレンジ色のラインが入った男の子知らない?」

 

 やはりか、カイドウはそう思った。ピエールも側で目を丸くしていた。

 

「ああ、白いジャケットにオレンジ色のライン、それに橙の髪をしたふてぶてしい男ならば知っている」

「……あれ? それ似た別人かも」

 

 少女はそのまま、淡々と告げた。

 

「私が探してるのは、白いジャケットにオレンジ色のライン、あたしと同じゴーグルしてて橙の髪した()()()()な男の子だよ、名前はダイっていうんだけどさ」

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「へっくし!!」

 

 うぅ、ブルっと来たぜ……やっぱまだ夜風が肌寒さを感じさせるな。俺は捲くっていたジャケットの袖を伸ばした。

 俺――ダイは今、リエンやアルバと一緒にモタナとクシェルシティを繋ぐ14ばんどうろでキャンプしていた。

 

 もう夜中で、リエンとアルバはそれぞれのテントで眠っている。俺はというと少しトイレのつもりで出てきたのだが、なんだか肌寒さを感じている。

 

「モタナが暖かすぎたのかもな」

 

 少ししか滞在しなかったけど、常夏のような街だった。気温だけでなく人も暖かくて、すごく過ごしやすい土地だった。あのコイキングを思い出すと恋しいが、この儚い気持ちも旅の醍醐味だろう。

 そのときだ、ガサガサと俺の後ろの草むらが動いた。そちらに目を向けてみると、新顔が現れた。

 

「よう、眠れないのか"ミズゴロウ"」

 

 新顔と言っても、俺のポケモンじゃない。リエンが旅の餞別に父親から貰ったポケモンだ。なんでも、リエンは父親に俺が地震による崩落を受けて流されてきたことを伝えたらしく、それならとこのミズゴロウを寄越したようなのだ。

 改めて図鑑で徹して見ると、ミズゴロウの頭のヒレはレーダーであり天気から地震ありとあらゆる現象に対して先手が打てる。

 

 ただ、このミズゴロウは少々抜けているところがあり、今こうして眠っていないのも昼間リエンの手の中に抱えられながら寝ていたせいだろう。

 しかしミズゴロウはどういうわけか、頭のヒレをフルフルと揺らすとパァっと顔を明るくした。

 

「どうかしたのか?」

 

 頭の角が気持ちのセンサーになっているポケモンがいるって聞いたことはあるけど少なくともミズゴロウはそういうタイプじゃない。

 すると俺の鼻先に、ポツリと雫が当たった。見上げると、先程まで星の海と呼べるほどの夜空が暗く濁っていた。

 

「雨だ、早いところ戻らないとな……」

 

 俺はミズゴロウを抱え上げると、本降りになる前にキャンプへと戻った。蒼いテントに挟まれている橙のテントが俺のテントである。

 中に入ると、いよいよ持ってざあざあと雨が降り出した。海辺や山の天気は変わりやすいというが、さっきまであんなに星が輝いていたのに残念だ。

 

「あれ、お前……リエンのテントに戻らないのか?」

 

 ふと見ると、ミズゴロウが俺のテントの中にいた。そして周囲を見渡して何かを探しているように見えたが、見つからずに肩を落とし丸まって寝支度を始めていた。

 

「もしかして俺のポケモンと話がしたいのか?」

 

 そう尋ねると、寝支度をやめて立ち上がりコクコクと頷いた。俺はカバンの側に並べておいたモンスターボールを取り出し、テントの外でボールからリリースする。

 雨の中でかわいそうだけど、俺のテントの中じゃとてもじゃないが全員出てこれないからな。幸い、ペリッパーが翼で屋根を作り、小さなポケモンたちを雨から守っていた。さすがは"あめうけざら"が特性のペリッパーだ。

 

「みんな、ミズゴロウが挨拶したいんだと。これから一緒に旅をするんだし、仲良くしろよ」

 

 俺は釘を差しておくも、どうやら杞憂らしい。キモリを始め、小さなポケモンたちは非常にフレンドリーにミズゴロウに接している。メタモンなんかは、ミズゴロウに【へんしん】してコミュニケーションを取っているくらいだ。こういうとき、メタモンって便利だよなぁと常々思う。

 しかし雨が少し冗談じゃすまないくらい強くなってきたので俺は渋々テントの中に避難した。

 

 これ、明日の朝までに止むといいんだけどなぁ。そう思いながら俺は枕に頭を落ち着かせた。

 ポケモンをボールに戻すのをすっかり忘れて、だ。

 

 

 

 

 

 翌朝、俺はリエンに叩き起こされることで目を覚ました。ちなみにアルバは一番先に起きてルカリオと日課のスパーリングを行っていた。こういったトレーニングが、アイコンタクトでの逆指示ラグを生み出しているのだろう。

 

「どうしたんだよ、いやに血相変えて」

「ミズゴロウが見当たらないの。ダイ、昨夜見てない?」

「いや、会ったな……俺のポケモンたちと一緒のは、ず……」

 

 俺は寝ぼけていた頭を一気に覚醒させ、カバンの側のモンスターボールを確認する。当然だが、寝る前にポケモンたちを戻していないため、ボールは空だ。

 テントを飛び出し、周囲を見渡す。すると、昨日の雨が泥濘となってペリッパーやゾロアの足跡が転々と残されていた。

 

「よし、後を追おう! えっと、二人はどうする?」

「私もいく、ミズゴロウが心配だしね……」

 

 リエンと頷き合い、俺たちは足跡を辿った。その前に、スパーリングを終え、小休止中のアルバに声をかけておくことにした。

 

「アルバ、俺たちはちょっとミズゴロウたちを探してくる。悪いんだけど、テントの類を片付けておいてくれるか?」

「もちろんいいよ。片付け終わったら後を追うよ。ルカリオなら、君たちの居場所をある程度離れた場所からでも掴めるからね!」

「悪い、任せた……!」

 

 足跡は俺達が来た道、すなわちモタナの方角へと続いていた。最初こそ、ある程度整備された道を言っていたのだがやがて道を外れて森の中を通るようになっていた。それでもやはり足跡はしっかりと残っていたのは運が良かった。

 この分だと、随分遠くへ行ってるな……俺は隣を走るリエンに対し申し訳ない気持ちが湧いてきていた。

 

「ごめんな、こんなことなら昨日ミズゴロウをリエンのテントに戻しておくんだった」

「いいよ謝らなくて。それに手持ちのポケモンが全部いなくなったダイの方がもっと大変でしょ。ミズ、あなたも探すのを手伝って」

 

 するとふよふよと現れたミズが少し高いところを浮遊して周囲を見渡してくれる。俺たちは足跡を辿りながら、ミズの目を頼った。

 どれくらい走っただろう。そろそろアルバが追いかけてきてくれてもいい頃だ。

 

「なぁ、この先って何かあるのか?」

 

 俺はタウンマップで現在位置を検索するが、マップの街と道。それから外れたコースに自分が立っていることに気づく。つまりはマップの対応外地域にいるというわけだ。

 

「――――あるよ、"神隠しの洞窟"が」

「神隠しの、洞窟?」

 

「うん、モタナの子供なら一度は聞いたことのある怪談の中で最も有名なスポット。奥細い一本道があって、奥は行き止まりの洞窟のはずなのに入ったら最後出てこれないって迷信があるの。私たちはその怪談を聞いて育つから、誰も近寄ろうとしないの」

 

 底冷えするような話だった。しかし、タウンマップでその洞窟にカーソルを当てると詳細が出てくる。そして現在地から神隠しの洞窟のある方角と、足跡が向かう方向は偶然なのか同じだった。

 しばらく走ると断崖と地面の間にポッカリと開いた穴があり、その入口付近のハゲた地面の部分には明らかに俺のポケモンたちが通ったと思しき足跡があった。

 

「本当に、ここにいるのか?」

「足跡はここにあるから、少なくとも入って出られなくなってるんじゃないかな……心配だね」

 

 俺はライブキャスターのライトをオンにすると、嫌な汗を背中に感じながら洞窟へと入った。中へ入るたびに外の音が聞こえなくなってきて、俺たちは否応なくじっとりとした生唾を飲み下す。

 ミズがいるとはいえ、逆に言えば俺たちはミズ以外の手持ちのポケモンがいない。不測の事態に対応出来るとは到底思えなかった。

 

「ちょっと、手握ってもいい……?」

 

 不安から、つい弱音を漏らしてしまった。リエンは返事こそしなかったが俺の手をガッチリと掴んだ、まるで逃すまいとするような力だった。

 力強いリエンの手から伝わってくる激励を受けて、なんとか俺は先頭を歩く。そのときだ、コロコロと何かを転がす音が聞こえた。小石、かもしれない。

 

「この先、か……?」

「そうだね、なんだか鳴き声も聞こえるよ……だけど、大丈夫かな。あまり中に入りすぎて、もし出られなくなったりしたら……」

「怖いこと言うなよ……いざとなったら、アルバがルカリオを使って俺たちの場所を把握してくれるって」

 

 そう言いながらも、手汗が滲み出てきた。リエンに申し訳なく思いながらも、俺も手を離すまいと力を込めた。

 一本道をだいぶ歩いた頃だ、何かを転がす音が次第に大きくなりやがて先の方からいろんな光が漏れているのが分かった。真っ暗な洞窟を歩いていたせいか、俺はたまらず光に向かって駆け出していた。

 

「お前ら……! 心配させやがって!」

 

 駆け抜けた先は、謎の機材が放つ光によって照らし出され空間の全貌が把握できた。ちょっとした部屋くらいには広い空間だ、そこには俺のポケモンたちとミズゴロウがいた。

 俺の姿を確認して、キモリやゾロアが俺に駆け寄ってくる。ホッとすると、リエンの手を離してキモリたちを抱え上げた。

 

「ん? どうした、お前ら……?」

「ダイ、見て! あそこ、ほら石のところ!」

 

 リエンが指差したところにはペリッパーやミズゴロウが必死に石を転がしていた。どうやら遊んでいるわけではないようだった。

 腕だ、一瞬ゾッとしたが腕が弱くだか動き回っていることから、小さな石の下敷きになっている人はまだ生きているみたいだった。

 

「そうか、もしかして俺たちが寝た後また起きたんだな?」

 

 確認すると、ミズゴロウがこくりと頷いた。やはりだ、また地震が起きてミズゴロウはそれを察知した。しかも、恐らくその震源がここであると突き止めた。

 俺はさっきから謎の光を放つ機材を見た。よくよく見れば、形こそ変わっているが掘削機に似た道具だ。ここに埋まっている人物が使っていたのかは定かではないが、これが放つ特定の振動が洞窟全体を揺さぶり落盤が起きた。

 ミズゴロウは抜けてこそいるが、"ゆうかんな性格"だ。人為的に起きてしまった落盤による地震と突き止め、ここへ駆けつけたに違いない。

 

「よし、待ってろ! リエンは俺が退けた瓦礫を片付けてくれ!」

「待って、救助なら私にも出来るよ」

「わかってる、だからそれまでの救出を俺にやらせて」

 

 俺はキモリたちに混ざって瓦礫を退かし始めた。岩の性質か、細かく砕けているおかげで片手でも退かしやすい石が多い。俺はかき分けるように石を退かし、下敷きになっている人を掘り起こした。

 最後はミズが【サイコキネシス】で埋まっている人の上の石を浮かし、その間に俺とリエンでその人物を引っ張り出した。ペリッパーが水を吐き、気を失いかけている男性に気付けをする。

 

「大丈夫ですか? 聞こえますか?」

「う、う……」

「数時間岩の下にいて、よく生きてるな……生命力だけは大したもんだ……」

 

 思わず感嘆した。リエンが男性の怪我などを見ていると、キモリが俺の服の袖を引っ張った。それは先程まで男性が下敷きになっていた石の山だ。そこから何かがはみ出しているのがわかった。それを引っ張ってみると、登山者やそれこそ山男が背負ってそうな巨大な鞄が出てきた。

 失礼かと思いつつ、何か身分証明になるものを持っていないかと鞄を開けてみた時、そこには石が入っていた。といっても、彼が下敷きになって鞄に入った石ではなく、恐らく彼が集めていたであろう()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「う、ん……私は……」

「目が覚めたみたい、気分はどうですか?」

「良いとは、言えないかな……けほっ、君たちが助けてくれたのかい?」

「成り行き、ですけどね……とにかく生きててよかった」

 

 リエンが男性に声をかける。男性もまた、そこまで酷い怪我はなく、次の瞬間にはもう身体の砂埃をはたき落としていた。

 改めて見てみると、おかしな人だ。この鞄は間違いなく彼の所有物で、だとするならそれなりの格好をしているかと思いきや彼はスーツ姿だ。とても登山や石の集収をしている人とは思えない。

 

「いや、本当に助かった……名乗らせていただこう、私の名前はディーノ。ディーノ・プラハという者だ」

「ダイです、俺のポケモンたちが神隠しの洞窟へ入ってしまって、追いかけてきたらディーノさんがいたのでなんとか掘り起こしました。とにかく生きててよかったです」

「私はリエンと言います、ディーノさんここで一体なにがあったんですか?」

 

 男性――ディーノさんは痛む頭を抑えながら記憶を辿っていた。

 

「そうだ……たしか昨日の夜、急に雨が降ってきて雨宿りしようとしたら、先に謎の機材を運ぶ男たちがいて好奇心から彼らの後を追ったんだ。そうしたらこの空間で削岩をしていたので、私が石の集収を行っているということを話して見学させてもらっていたんだが……」

「無理な削岩で落盤が起きた、と。お前ら、そいつらと行き違いにならなかったか?」

 

 キモリたちに尋ねるがどうやらすれ違いはしなかったようだ。それにしても落盤が起きて、人一人飲み込まれたっていうのに助けなかったなんて……

 義憤、というやつだ。そいつらにだって助かりたいって思いはあっただろう。そいつらの中にもディーノさんを助けたいと思ったやつはいただろう。けれど、パニックを起こせばそれどころではない。

 

「とにかく、外へ出ましょう。ダイ、ディーノさんに肩を貸してあげて」

「任せといて……立てますか?」

「あぁ、すまない……骨折等しなかったのは不幸中の幸いだった」

 

 ディーノさんは非常に背が高くて、肩を貸すというより俺という杖により掛かるみたいな感じになってしまった。リエンがディーノさんの鞄を持とうとしたが、中の石の影響か持ち上げるのに苦労していた。

 

「リエンは俺の鞄を持ってくれ、ディーノさんの鞄は俺が背負うよ」

「ごめんね、お願い」

 

 岩の下から引っ張り出すのも一苦労だったのは、ひとえに鞄そのものの重量もあるだろう。リエンが気に病むことはない。

 洞窟の空間から出ていこうとしたときだ、不意にすっと奥……つまり入り口付近から人影が現れた。しかも、俺はその人影を見てゾッとした。全身の交感神経が過敏に反応した。

 

「お、お前ら……!?」

「げっ! なんで人がこんなところに入り込んでんだ!?」

「な、なにがどうなってんだ……!?」

 

 その見覚えのあるロゴ、灰色を基調とした統一されたスーツ。何より頭を覆っている、フード。

 

「バラル団……!?」

「バラル団、だって……巷で噂の……?」

 

 俺はディーノさんをすぐさま下がらせた。するとバラル団もようやく俺たちに認識が行ったのか、大慌てで持っているシャベルやスコップを手放してモンスターボールを取り出した。

 

「子供がこんなとこまで、いけないじゃないか!」

 

 ダブルバトル! バラル団の下っ端らしき二人組は、"ハスブレロ"と"イワーク"を繰り出した。俺はキモリとゾロアを前線に出し、ペリッパーとメタモンを下がらせた。

 しかし突然の遭遇で実はパニックになった俺はゾロアにイリュージョンを使わせるのを忘れていた。加えて、この閉鎖空間では大きなポケモンがいるだけで脅威となる。出口も、相手に塞がれたままだ。

 

「まずはイワークの動きを止めるぞ! 【タネマシンガン】! ゾロアは【こわいかお】からの【あくのはどう】だ!」

 

 キモリが先制し、タネマシンガンでイワークへ攻撃。続いてゾロアが、アルバのルカリオを数瞬怯ませるほど圧力のある【あくのはどう】を放ち、牽制する。

 イワークは完全に攻勢に出られずにいる、しかしハスブレロは見たところ"いじっぱりな性格"らしくすぐさまこちらの威嚇に動じず攻勢に出てきた。

 

「【みだれひっかき】だ!」

「両手の腕で左右から来るぞ! ゾロアが迎え撃て!! キモリはそのままイワークと継続して睨み合いだ!」

 

 俺がゾロアにイワークに対して脅しの戦法を取ったのにはわけがある。それはあのイワークが見たところ"おくびょうな性格"だったからだ。ちょっと突けば、大胆な動きは出来ないと睨んだがビンゴだ。

 リエンとディーノさんを背にしたままのダブルバトルだが、ハスブレロを先に伸してしまえば恐らく突破は可能だ……!

 

 ハスブレロの【みだれひっかき】をゾロアもまた同じ技で迎え撃つ。しかし大きさに利があるハスブレロの方が押す力は強い。

 やがて拮抗していた力が崩れ、ハスブレロの一撃がゾロアを吹き飛ばす。そしてハスブレロがゾロアに追撃をしようと追い打ちをかけ――――

 

 ゾロアが大声で鳴き始めた。それはまるで痛みに耐えきれず、という風にだ。キャンキャンと甲高く泣くゾロアに対してハスブレロが思わず攻勢を緩めた。

 それが、俺たちの狙い目だ。

 

「【うそなき】からの、【だましうち】!」

 

 ニヤリと笑んだゾロアが飛びかかってきたハスブレロに後ろ足での蹴りを御見舞する。ハスブレロの胴に突き刺さるように決まった蹴り、ハスブレロは吹き飛びトレーナーのバラル団に伸し掛かった。

 ハスブレロを先に押さえることが出来たのは僥倖、一気に畳み掛ける!

 

「【でんこうせっか】! ゾロアは【かげぶんしん】だ!」

 

 キモリが残像を生み出すほどのスピードで接近する、図体がデカく重たいいわタイプのポケモンに追いきれる速度じゃない!

 そしてキモリが跳躍し、イワークの頭に接近する。

 

「【ギガドレイン】!」

 

 イワークから体力を奪い取る。為す術無く体力を奪われたイワークがダウンするかに見えた、そのときだ。

 

「負けるなイワーク! 【ストーンエッジ】だ!」

 

 バラル団の下っ端が声を張り上げ、ここ一番とばかりにイワークが尻尾で地面を叩き、巻き上げた尖った石の破片を周囲へと撒き散らし始めた。

 

「ミズ! 【しんぴのまもり】!」

 

 そこでリエンがミズにヴェールで防御させた。俺も体勢を低くし石の破片を避けることに尽力する。ディーノさんやリエンに襲いかかる石はミズが展開したヴェールによって防がれる。

 イワークが最後の力で行った【ストーンエッジ】は暴発に近いかたちで失敗した。そしてキモリによる体力吸収が終わり、イワークが力尽きた。

 

 しかし倒れたイワークの衝撃が、空間一杯に広がった。その波はやがて、洞窟の上や下にあるであろう空洞を刺激し、より大きな波となって俺たちがいる空間に響く。

 

「まずいぞ、君たち! 早く逃げるんだ! 再び落盤が始まろうとしている!」 

「なんだって……!?」

 

 洞窟の、この空間に来るまでかなりの距離を歩いた。次の落盤が起きるまであと少し……ダメだどう考えても逃げられない……!

 俺はハスブレロにのしかかられて気を失っているバラル団とイワークをボールに戻しているバラル団の二人に目をやった。そして、さっきディーノさんを引っ張り出した、()()()()

 

 やるしかない、一か八かだ……!!

 

「おい! 一時休戦だ! 二人共こっちに来い……ってああもう!」

 

 俺は腰を抜かしているバラル団下っ端の元へ駆け寄るとリエンとディーノさんの方へ蹴飛ばし、気を失っているバラル団を無理やり引っ張り起こした。

 そして手荒な形で引っ張ることになったがやむを得ない。

 

「おい! キモリ! ゾロア! メタモン! ペリッパー! 一気に行くぞ、タイミングを合わせろよ!!」

 

「ダイ! 天井が崩れるよ! ダイったら!!」

 

「行くぞ!!」

 

 直後、天井が振動に耐えきれなくなって俺たちがいる空間へと降り注いで――――――

 

 

 

 




三人旅する予定がすぐバラバラです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。