ポケットモンスター虹 ~ダイ~   作:入江末吉

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VSルカリオ 旅は道連れ

「俺と、一緒に――――」

 

 ダイの一言が空気の震えを以てリエンの元へと届かせた。彼女の頭の中に、この言葉は染み込んでいく。

 しばらくの間、二人は一言も口を利かなかった。先程休んでいたベンチに戻っても、一言も交わさない。

 

 リエンは自分を分析した。恐らく、興奮しているのかもしれないと自らを評価する。

 というのもいつになく心臓が元気に鼓動を打っている。自分らしくないと思った、少し情熱的な言葉を浴びすぎたせいだとも。

 

 しかし純粋に言えば嬉しかったのかもしれない。リエンはいつも、誰かにキッカケを求めた。

 マリンレスキューの手伝いを始めたのも、父の手伝いが理由だったように何をするにも誰かの理由が必要だった。

 臆病になったとも言える。自分の行動に確たる自信がなく、自分に言い訳が出来る誰かの理由が欲しかった。だからこそ、したくとも自発的に旅に出たいなどとは言えなかった。

 

 そして、ダイはこう言った。君と一緒に旅がしたいと。

 自分がどう思っているかを彼は口にした。だからこそ、リエンは彼について行っても自分の中の正しさに抵触することなく旅に出られる。

 

 しかしなぜかそれは良くない気がした。ぞわぞわと、まるで足枷をつけたままモタナタウンを旅立つみたいで、ひどく気分が悪かった。

 

「少し、考えてもいいかな……私自身は、前向きなつもりだけど……」

 

 気づけばリエンはそう答えていた。ベンチを立ってその場を後にするが、ダイは追いかけてこなかった。それが少しだけ助かった。

 浜に戻ると、先程帰っていったシザリガーの足跡らしきものが残っていた。

 

「おや、リエン。どうかしたのかい?」

「パパ……現場監督?」

「思ったより瓦礫が大きかったり、数が多かったりして人手が欲しいと言うんでな。父さんはそんなに大した怪我はしていないし、今日は海水浴客もいないから手は空いているしね」

 

 そういう父親の額には玉の汗が浮かんでいた。それなら、とリエンはミズを呼び寄せた。

 

「ミズ、瓦礫の運搬を手伝ってあげて」

 

 ゴーストタイプとはいえ、ポケモンはポケモンだ。それにミズは【サイコキネシス】と【れいとうビーム】が使えるため、瓦礫の運搬としてはスペシャリストに近い。

 

「リエンは手伝ってくれないのかい?」

「私、これでも女の子なので力仕事とか専門外なんですけど?」

 

 頬を膨らませて父親に向き直るリエン。リエンの父親はハハハと笑って、零れそうな汗をタオルで拭った。リエンの頬はすぐに萎んでしまう。

 

「どうかしたのかい? なにか、悩み事?」

「うん、パパはさ……私がいた方がいい? ううん、いいに決まってるよね。今だって、私がいるからミズがいて、ミズがいるからこうやって片付けが早く済むんだしさ?」

 

 尋ねておいて自己完結するリエンに、彼女の父親は首を傾げた。が、じきに目をスッと細めて遠くの海を見やった。

 

「確かにリエンがいないと、父さんは寂しい。が、リエンが旅に出たいってついに言い出すのなら、心から応援したい」

「えっ……?」

 

 まるで見透かされているようだった。驚いたリエンが目をまんまるにして父親を見る。彼はそんなリエンの反応をカラカラと笑って頭を撫でた。

 

「娘の門出が嬉しくない父親はいないよ。大丈夫、リエンの手伝いが無くたって、若い衆が頑張ってくれるさ。あんな風にね」

 

 彼が指し示した先にはリエンの父親以上に汗を流し、シャツをびしょびしょにしながらもポケモンたちと力を合わせる顔馴染みのマリンレスキュー隊員たちがいた。

 不意に誰かがキッカケを与えてくれて、それが正しいと背中を押してくれた。リエンはまるでできすぎたストーリーに思いながらも、旅に対する意識が前向きに傾いた。

 

「でも、リエンが自分から旅に出たいって思ったのかい?」

「え、ううん……一緒に行かないかって誘われた。この間パパをサメハダーから助けてくれた、あの人」

 

 リエンがそう言うと、どこかやっぱりという顔をした。それでも顔がどこか綻んでいる。

 

「そうか、それで彼がここを出るするのはいつだい?」

「明日か、明後日にでもって言ってたかな。それまでには私も答えを出すつもり」

 

 そう呟くと、一際強い潮風がリエンの髪を撫でた。思わず手で抑える。まるで海からもエールを受け取った気がした。あらゆる要素が、リエンの背を押している。

 それから日が暮れるまで、リエンはレスキュー隊に混じって軽い瓦礫を集める作業を手伝った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「心臓、バックバクだったなぁ」

 

 夜、ポケモンセンターのようやく取れた部屋でくつろぎながら、俺は手持ちのポケモンたちを前に素直な心情を吐いていた。

 生まれてこの方告白をしたことがないので、どんな感じかは分からないけどもしかすると今日の俺みたいな感じなんだろうか。

 

「リエン、いい返事くれるかな」

 

 そうやって呟いて寝返りをうち枕に顔を埋める。するとゾロアが俺の枕元に来て前足で俺の頭を蹴っ飛ばす、痛いっての。

 窓際でかっこつけて休んでいるキモリもまた、無難な感じに励ましてくれる。ペリッパーとメタモンは床の上で小躍りしている。みんなもリエンが気に入っているらしい。

 

「ミズはちょっとおっかないけど、いいやつだしな。一緒に旅が出来たらきっと楽しいよ」

 

 そうやってるうちに、眠気が襲い掛かってきた。美味いもん食ったし、シザリガーとの一件もあって神経を使ったからな。

 俺の意識はそれこそ一瞬のように落ちていった。

 

 

 

 が、起きるのもまた早かった。身体が認識できないくらい疲れていたのか、夢も見ないほどあっという間に眠っていた。

 瞬きする間に寝て時間が立っていた、そんな感覚。寝たという感覚は、同じ姿勢で寝ていたから身体がガッチガチになっていたから気づいたくらいで、この凝りが無かったら恐らく気づかなかったかもしれない。

 時計を見ると、深夜の一時だ。もう個室の消灯時間は過ぎ、殆どのトレーナーが眠りについている頃だろう。

 

 俺は少し喉の渇きを覚えた。が、部屋に設えられてるウォーターサーバーは運悪く水切れ。仕方がないので食堂に行くことにした。

 すると、俺が歩いている音を耳聡く聞いたゾロアが他のポケモンを起こさないようにそろそろと近づいてきた。

 

「お前もついてくるか?」

 

 そう聞いてみるとコクリと頷いたゾロアが俺の後をトコトコとついてくる。廊下の電気も落ちているが、足場を目に優しいライトが照らしているおかげで電気をつけなくとも食堂の場所まで辿り着けそうだった。

 しばらく歩いてみると、食堂から出てくる影が見えた。どうやら俺以外にもウォーターサーバーが切れていたのかそれとも小腹が空いたのか、いずれにせよ何らかの理由で食堂を利用していたトレーナーがいたらしい。

 

 が、俺はその人影を見てゾッとした。闇の中で、目だけが煌々と光っていたのだ。ひと目で、やばいやつだと気づいた。

 

 そして、

 

「う、うわぁあああああああああ!! モフモフだぁああああああ!!」

 

 その人影はこちらに向かって猛突進してきた。しかも、ゾロア目掛けて。しかし姿も見えない何者かがこちらに向かって猛スピードで突っ込んできて、俺もゾロアもパニックを起こしてしまった。

 

「うわっ! マジでやばいやつだ! 【シャドーボール】だ!」

 

 パニックを起こした俺はそのままゾロアに攻撃の指示を出し、パニックを起こしたゾロアもまた素直に言うことを聞き襲い掛かってきた何かに向かって暗闇の中で輝く闇色の球体を撃ち放った。

 が、その球体は襲い掛かってきた何かにぶつかる直前に割って入った影によって受け止められ、かき消された。そしてその割って入ってきた何かによって襲ってきた何かが取り押さえられた。

 

「んおおおおお!! 離せっ、離せ! "ルカリオ"! ボクはっ、このモフモフを、愛でるんだぁあああああ!!」

 

 影は欲望を叫びながらジタバタと暴れだした。俺はもうこの影の姿が見えないのが不安で仕方がないので、廊下の電気をつけた。

 すると、俺と同じくらいの大きさで童顔の男がポケモン――ルカリオに抑えつけられ暴れているあまりかっこいいとは言えない姿で転がっていた。というか若干惨めだった。

 

「な、なんか用か……?」

「いや、君のゾロアもふもふだなぁって思って! ぼ、ボクそういうポケモンに目がなくて……つい、てへへ」

 

 苦笑いしながらそう言って頭を押さえる男。ルカリオも観念したのを感じ取ったのか、その男から離れた。立ち上がったところで、俺とゾロアはもう一度男を警戒した。

 警戒されてると思ったのか、男はさらに苦笑を強くした。

 

「も、もう襲わないよ。ボクはアルバ、こっちは相棒のルカリオ」

「……俺はダイ。ゾロアは言わずもがな俺の手持ち……それじゃ、俺食堂に用があるんで……」

 

 敵意ならぬモフ意が無いことはもうわかったが、それでも先程の姿が見えない状態での襲撃がいかんせんトラウマになっているのか、背中を見せられない気がした。

 

「あはは……もしよかったら、少しお話したかったけど……ちょっと警戒されすぎてるね」

 

 そう言って男――アルバはその場を去ろうとした。そんな主の気持ちを感知したのか、ルカリオもしょぼんとした背中で去っていく。

 

「テーブルごしなら、別に話をしてやらんこともないです……」

 

「本当に!? ありがとうモフゥゥゥうがっ!?」

 

 気を許した途端再びゾロアに向かってダイブするアルバ。しかしルカリオがしっかり上から抑えつけ、アルバは地面に顎をぶつけて大人しくなった。本当、油断も隙もないけどルカリオが同伴なら話くらいは問題ないだろう。

 廊下の電気を消し、代わりに食堂の一画の電気をつけアルバを椅子に座らせる。俺は設えられてるウォーターサーバーの一つから水を汲むとそれを一旦すべて飲み干し、もう一杯注いでからテーブルに戻った。

 

「それで? 話がしたいって、なんでさ……俺そんなに面白い話は出来ないぞ」

「そんなことないでしょ、だって君……ああ、ダイのゾロアすごくいいキレしてたから。あんなにパニックを起こしていたのに【シャドーボール】をキッチリ、ボクの鳩尾目掛けて撃てるんだもの」

 

 そうだったのか、そういう目を向けてみるとゾロア自身特に意識はしてなかったらしい。無意識に急所を狙う実力がついてきたのか、それともまぐれか。たぶん後者だろうな、そもそもアルバの体格すら分からないような暗闇だったわけだし。

 

「ひょっとして、ダイも強さを求めて旅をしてるの?」

「強さを求める、ってジム戦のことか? まぁそういう意味なら、ほれ」

 

 俺は肌身離さず持っているスマートバッジをテーブルに乗せた。するとアルバはキラキラした目をそれに向けた。

 

「す、すす、スマートバッジだ……ってことは、リザイナシティのジムリーダー……超常的頭脳(パーフェクトプラン)のカイドウさんに認めてもらったんだ!」

「辛勝、だったけどな……」

「しかも勝ったんだ!? うわぁすごいなぁ、憧れちゃうよ。僕もバッジを持ってるには持ってるよ、ただ勝負に勝ったわけじゃないからね」

 

 褒められると悪い気はしない。しかしアルバのスマートバッジを見つめる目は、どこか夢を追う人間のそれで。

 

「……ボクとルカリオもね、子供の頃からずっとポケモンリーグの中継放送を見てて、いつかあのステージの頂点……"チャンピオン"になりたいって思ったんだ。ボク達が目指すのは、強さの頂点……誰よりも強い男になりたいんだ」

 

 今まさにその夢を語ったアルバ。そばでルカリオもテーブルに顎を乗せ、鼻息を荒くしてバッジを食い入るように見ている。

 

「っと、ごめんね。ボクばっかり話して。ダイの話が聞きたいって、言ったばっかりなのに」

「いや、いいよ。ガキの頃からの夢を持ち続けられるってそれだけで俺は尊敬するよ。俺はどんな夢を持ってたのか、覚えてないし」

 

 アイの金魚のフン続けてりゃ当然か。旅に出た理由も、「アタシが行くからついてこい」だったしな。まるで買い物に行く際の荷物持ちみたいな言い草だ。

 

「叶うと良いな、チャンピオン」

「へへっ、ありがとう。ダイもバッジを集めてるなら、きっとポケモンリーグのトーナメントで戦うことになるかもね」

 

 そう言ってはにかむアルバ、それにつられて俺も自然と笑顔になる。こういうのをきっと、ライバルっていうんだろう。初めての関係に、俺は少しだけ心が踊った。

 

「それで、ダイの次の行き先はクシェルシティなのかな?」

「あぁ、このまま北上すればすぐに着くからな。アルバもか?」

「そうだよ、メーシャタウンからやってきたんだ。リザイナシティから北上していって、ラジエスシティのジムに挑もうかとも考えたんだけどあいにく道路が通行止めで通れなくてね、先にクシェルシティのジムに挑むことにしたんだ」

 

 メーシャタウンか、ちょっと前のことなのに随分昔のことのように思う。それだけ一人旅の毎日が濃いってことなんだろうな。

 

「うー……なんか、我慢が出来なくなってきたぞう……!」

 

 懐かしんでいるとアルバがもぞもぞと身体を揺する。またモフモフの暴走かとゾロアが身構えた。ルカリオもいつでもアルバを止められるようにスタンバっていた。

 

「ダイ! バトルしようよ!」

 

「……はい?」

 

「さっきの辻バトルじゃ我慢できなくなってきた! けどこのままじゃ眠れる気がしないよ! お願い! ガチのタイマンバトル!」

 

 なるほど、可愛い顔してこういう気象の荒さも持ち合わせているのか。しかし、俺もふっかけられた喧嘩から逃げるほど、男捨てちゃいない。

 アルバが差し出した手をガッチリと握り、俺達はポケモンセンター外の広場へと赴いた。夜のモタナタウンは静かな潮風が街全体を涼やかに撫でていた。

 

 ポケモンセンター前の噴水が揺れる。俺とアルバの服がバサバサと音を立てている。

 

「ボクは当然ルカリオで出るよ! 唯一の手持ちだからね!」

「俺は……俺もゾロアで出る。俺はお前の手を知ってるのに、こっちがお前の知らない手を切るわけにはいかないからな」

 

 しょうもない意地のようなものだ、けれどアルバはニッと笑って俺のその意を汲んだ。ゾロアとルカリオがフィールドの中で睨み合う。そしてルカリオが練気を始める。俺は図鑑を取り出し、ルカリオの分析を始めた。

 睨み合いが少々続き、ルカリオの手に淡い水色の光が宿る。あれがルカリオのみ感知できる()()か……

 

 そのとき、不意に風が止んだ。直後、ルカリオの姿が消える。

 

「【しんそく】だ! 回避は諦めて迎え撃つ!」

 

 俺が叫んだのと同時に姿を見せたルカリオのソバットがゾロアを捉える。しかしゾロアもイリュージョンで残像を作り出し、その蹴りを不発に終わらせる。

 お互いのアクション一回目が終了、そのときアルバが叫んだ!

 

「【しんそく】からの……【インファイト】だッ!!」

 

 ルカリオが先程練り込んだ波動を身体中から発し、ゾロア目掛けて高速、強力な連打撃を繰り出す。幸いゾロアという的が大きくないため技の大半を躱すことが出来るが、もちろん無傷というわけにはいかなかった。

 パンチが激突し、吹き飛ばされたゾロアへと追撃を仕掛けようとルカリオが踏み込んだ。

 

「【グロウパンチ】!」

 

 周囲に向けて発散した波動、それを再び右手へと収束させるルカリオ。波動はやがて淡い青から紅く燃え上がるような色に変わり、その拳がゾロアへと迫る。

 

「ゾロア! 空中で反転!」

 

 対空中のゾロアがくるりと身体の向きを変え、パンチを放つルカリオへと向き直った。直後、その拳が突き刺さる!

 が、ゾロアは器用にその拳を小さな手で防御しさらに勢いよく吹き飛ばされる。しかしそれこそ計算済み、ゾロアは噴水中央のオブジェに器用に着地すると、その反発エネルギーを利用した突進を攻撃直後のルカリオへと叩き込む!

 

 腹部へ強力な頭突きを食らったルカリオがよろめく。

 

「へぇ、【グロウパンチ】を逆手に取った、【イカサマ】だね?」

「ご名答、相手の力を利用するとかしないと、小さいやつは勝てないんでね。逆に、相手が強けりゃ強いほど、ゾロアは強くなる!」

 

 さぁ、今度はこっちの番だ!

 

「【かげぶんしん】だ!」

 

 ルカリオに向かって駆けるゾロアが無数に分身する。ただの影分身ではない。ゾロアのイリュージョンを織り交ぜた、質量込みの残像だ!

 攻撃を加えても、手応えがある残像だ。

 

「なるほどね……だけど無駄だよ! 本物のゾロアの位置がルカリオにはわかってる! ついでにボクにもわかってる! モフモフはそこだ! 【はどうだん】!」

 

 ッ! そうだ、ルカリオの()()! 感知できるのはルカリオと一部のポケモンだが、すべてのポケモンに流れていると研究が進んでいるはず。

 本物のゾロアに流れる波動で、本物の位置は確実に割り出されてるッ! あとアルバのは無視だ!

 

「だったら! 【こわいかお】! からの【あくのはどう】!」

 

 波動返し! 本物のゾロアがルカリオに向かって脅すようなオーラを放つ。それを受けてルカリオが【はどうだん】を撃つ素振りを一旦緩めた。

 

「へへっビビったな! そのまま行くぜ! 【シャドーボール】!」

「避けて、ルカリオ!」

 

 闇色の球体三連撃。どこへ避けようとどれか一つは当たるという布陣で放ったそれはルカリオの超人地味た動きによって避けられた。

 

「ボクのルカリオが持つ、"ふくつのこころ"! ビビったとしても、膝を屈したとしても、絶対に諦めない精神(こころ)の強さ!!」

 

 こちらの撃つすべての攻撃に対して、何かしらのカウンターを打ってくる……! アルバ、なかなかに強い! 何よりルカリオだ、今までの攻防で気づいたが殆どが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまり、アルバが指示を出す前にルカリオが動き出しているんだ。それほどまでにあの二人は通じ合っている……!

 

「ルカリオ! もう一度【しんそく】でゾロアを捉えろ!」

 

 そう叫んだときには既に、ルカリオはゾロアの懐へと飛び込んでいた。そしてその小さな前足を掴むと、ゴロンと寝転んだ。

 否、あれは柔術の一つ……【ともえなげ】!

 空高く放り投げられたゾロア。起き上がったルカリオは再び練気を開始、溜め込んだエネルギーを拳へと集束させる。

 

「今だ、必殺の【スカイアッパー】!」

 

 跳躍したルカリオが下から掬い上げるようなパンチを繰り出す。しかし、この場において俺だけはその技を()()()()()()。というより、見慣れすぎていた。

 

「【みきり】! そこから【カウンター】だ!」

 

 空中で身動きが取れるポケモンはそういない。拳を振り抜く動作を終了しているルカリオは慌てて脚に波動を纏わせるが、わずかにゾロアが早かった。

 顎を撃ち抜くつもりで放った【スカイアッパー】をゾロアは見切り、逆のその手を足場として駆けたゾロアの突進が上昇するルカリオを急降下させ、地面へと叩きつけた。

 

「ああっ、ルカリオ!」

 

 レンガブロックに寝転ぶルカリオは目を回していた。ゾロアもまた無傷ではなかったが、意識を保っていた。それを見て俺はガッツポーズを掲げる。

 

「よし!」

 

「やっぱり、すごいな……相性や体格差で勝るルカリオがこうもあっさりやられるなんて……」

 

「あっさりなもんか、【しんそく】からの【インファイト】はゾッとしたぜ……それに、指示するまでもなく行動に移せるルカリオとアルバのコンビネーションにはただただ感服だ」

 

「ありがとう……! そう言ってもらえるとボクも嬉しいよ! 負けたけどスッキリした! でも、次は負けない! ボクもルカリオも"ふくつのこころ"、持ってるからね!」

 

 ふくつのこころ、か。負けても次は勝つって言える"せいしんりょく"は本当大したもんだ、ちょっとやそっとじゃ()()()()()ってことか。

 現れた強力なライバルと握手を交わし、俺達は気が済んだということでそれぞれの部屋に戻って今度こそぐっすりと眠りこけた。

 

 そして、盛大に寝過ごしたのであった。モタナで過ごす最後の日、俺は半分以上を寝て過ごしてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 翌日、俺は荷物を纏めて二日間世話になった部屋を引き払うと鏡で身だしなみを整える。ポケモンセンターを後にするとレンガブロックの道を歩き、既に視界に入っている浜へと歩を進めた。

 浜が近づくたびに、一人の少女の姿が目に入る。その側にある、ちょっと大きめのカバンを見やる。

 

「おはよう」

 

「おはよう、昨日はどうしてたの」

 

「いや、寝てた……いろいろあって」

 

 おどけた口調で言うと、少女――リエンはクスクスと笑って見せた。俺はおちゃらけた雰囲気を隠すと、真剣な風を装ってリエンに向き直った。

 

「それで、あの、俺と一緒に来てくれる……?」

「……うん、いいよ。ダイがキッカケをくれなかったら、私きっとこのままマリンレスキューの一員になってたかも。もちろんそれが嫌なわけじゃないよ、けど……それでも、先に世界を見て回りたいんだ」

 

 そうしてみることが、ずっと夢だったと彼女は語る。

 

「きっと、俺と一緒じゃ面倒事に巻き込まれるよ」

「誘っといてそういうこと言うの無しだよ。覚悟決まってるから、オーケーって返事出したの」

「そっか、それは悪かった……それじゃ、よろしくお願いします」

 

 おずおず、そう言って差し出した手をガッシリと握りしめられた。こういう小心者なところすごく情けないと思ってる、反省。

 手を話して踵を返そうとすると、リエンが再び俺の手を引っ張った。

 

「あのね、旅に出る前にパパが話したいって」

「……マジですか」

 

 リエンがちょいちょいと指し示す先に、先日浜で出会った男の人が立っていた。彼はものすごい形相で近づいてくると、俺の目の前に立ち止まり俺を見下ろした。

 そんなに身長が高いわけじゃない俺は、見下され完全にビビっていた。膝が笑っていた。

 

「ダイくん……」

「は、は、は、はい……なんでしょうか……?」

 

 屈強な身体、歯を食いしばっていそうな鬼の形相に似た表情。やがてリエンのお父さんは俺の肩をガッシリと掴んだ。喉の奥からつい「ヒッ」と声が漏れてしまう。

 

「リエンを頼むよ……! 我が強いんだか他人任せなんだか曖昧な娘だが、私の大切な一人娘だ……! 私や子供を手負いにも関わらず迷いなく救ってくれた君だからこうやって任せる気になったんだ! 頼む、娘を……頼む!」

 

 号泣された。直前の鬼の形相がウソのように鼻水を垂らしている。

 

「パパ、大げさだよ……」

 

 大げさなもんかよ、これが俗にいう親の心子知らずってやつか……?

 リエンのお父さんは袖で涙を拭い、鼻水を啜るとモンスターボールと一つの石を取り出した。

 

「これは、私からの選別だ……父さんのポケモンが育てていた子でな、きっとお前たちの旅を支えてくれる。そしてこれは私がかつてこの海で溺れた時、私を助けてくれたポケモンがくれた石だ。それ以来私のお守りだったが、これをリエンにあげよう」

 

 透き通った蒼い石とモンスターボールを受け取ったリエンがお父さんに向かってはにかんだ。そして、ありがとうを口にするとリエンのお父さんは耐えきれずに再び涙を流した。

 

「さぁ、行きなさい。夢と希望の物語を紡ぎに――――!」

 

 リエンのお父さんに背を押され、俺たちは浜を、モタナタウンを後にした。カバンを背負ったリエンがその街から一歩を、踏み出した。

 

「不安?」

「正直ね、けどそれ以上にワクワクしてるよ。モタナじゃ見れない人やポケモンの姿が、きっといっぱい見れるはずだからね」

 

 そうだ、それは俺もワクワクしてる。次の街はクシェルシティ、モタナタウンとはまた違う意味で水の町らしい。今から行くのが楽しみだ……!

 モタナタウンを出て、林沿いの山道を歩くことしばらく。見知った顔がまるで俺たちを待っていたように立ちはだかった。

 

「アルバ、何してんだこんなところで」

「ダイがクシェルに行くのを待ってたんだよ」

 

 リエンが俺に誰かと尋ねてくる。誰かと言われればゾロアのストーカーみたいなやつだが、バトルの腕前はピカイチと応えるしか無い。

 そうやってリエンに説明すると、それを聞いていたアルバが苦笑いする。

 

「こっちはリエン、今日から一緒に旅をするんだ」

「へぇ、よろしく! ボクはアルバ! ダイのライバルです!」

 

 自称しやがった。事実だから良いんだけどさ。リエンは笑顔で差し出された手を取った。

 

「それで、なんだって俺を待ってたわけ?」

「クシェルシティに行くのはボクも一緒だし、どうせなら一緒に言った方がいいと思って」

「え~」

 

 せっかくリエンが一緒にいるのに、と思わないこともない。リエンの方を見ると面白そうにしていた。

 

「いいじゃない、旅は道連れって言うでしょ?」

「そうだよ! ジム戦制覇の旅なら目的は一緒じゃない! ボクも連れてってよダイ!」

 

 ……まぁ、賑やかなのはいいことだよな。俺は一昨日のようにアルバの手を取った。

 

「……よろしく、アルバ」

「やった! 改めてよろしくね、二人とも!」

 

 ボールから出てきたルカリオが俺たちに挨拶する。なんとも律儀なやつだ、飼い主も見習ってほしい。少なくともモフモフしたポケモンに急に襲いかかるのはやめようね。

 二人旅かと思われた俺とリエンの旅は、三人旅になって進み始めた。

 

 俺達の門出を祝うように、晴れ渡る大空には虹がかかっていた。

 

 




今回お借りしたキャラクター

おや:もふがみ(@cyberay01)

Name:アルバ
Gender:♂
Age:15
Height:165cm
Weight:52
Job:モフリスト

▼Pokemon▼

ルカリオ

強さとモフモフを求める熱い男。ルカリオとのコンビネーションは抜群。

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