ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

31 / 99
地上へ

 59階層で最低限の休息をとり、焼け残っていたポーションで体を回復させ、ナメルの残骸内部からまだ使える弾薬や装備を取り出す。

 食えるものは食う。熱湯になった飲み物をさまして飲む。

 と、パーティを立て直した【ロキ・ファミリア】最精鋭は50階層への長い旅に出た。

 ナメルのどの一両にも、大量の弾薬や銃、手榴弾やパンツァーファウスト3、そして予備の鎖帷子や盾、キャンプ用具、食料も用意されていた。

 焼けたものも多いが、救い出せたものも多かった。

 

 広大な58階層は、芋虫型新種と砲竜などが食い合う地獄と化していた。

 そこに、重機関銃と不壊属性(デュランダル)の〈ローラン・シリーズ〉で突破口を切り開く。

 重装甲にも守られていない。機関砲で敵が瞬時に消滅するわけではない。弾薬も限られている。

 だからこそ瓜生が〈出し〉た火器を、

(使いこなす……)

 ことが肝要であった。

 剣との戦いに、どのように銃を使って戦いを楽にするか。

 ポーションも残りが少ない。また、不壊属性ではない普段の武器は、使いすぎると壊れかねない。逆に不壊属性の武器も使うと切れ味は鈍る。

 不壊属性の武器だけが最終的には頼りになるが、それまでどれほど楽に戦えるか。

 遠距離で弱らせて不壊属性の武器でとどめを刺す。

 至近距離から、牽制して敵を止めたベートが離脱したとき、ラウルが正確な近距離銃撃で足や目を確実に破壊し、ティオナが楽に片付ける。

 手榴弾で煙幕を作り、その隙に突撃する。

 

 まして、57階層から51階層までは、58階層に出現する砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の階層をぶち抜いて襲うブレスの狙撃から逃げながらの戦いだ。

 無駄弾は許されない。足を止めることも許されない。

 何よりも、戦いの主導権を渡すことは許されない。敵の対応に精一杯になり動きを奪われたら、その敵ごと蒸発するだけだ。

 戦いながら、砲竜の咆哮……前兆を聞き逃さず加速し、背後にモンスターを集めて片付けてもらう。

 それを何度も繰り返す。

 一人一人が、「銃」「手榴弾」「パンツァーファウスト3」という武器をしっかりと理解していくことがわかる。

 銃を使わない者も、わかる。

 その異質さ。

 本質的に、集団運用で圧倒的に力を増すこと。

 白兵戦との組み合わせで真価を発揮すること。

 直線的で、貫通力が高く、内部で弾芯が暴れる銃。一発がもっとも軽い。

 特に爆発点の至近距離で圧倒的な破壊力・打撃力を持ち、また範囲攻撃もできるし破片も凶悪な手榴弾。

 一点集中貫通に特化、爆発そのものもそれなりの破壊力を持つが、わずかながら後方安全範囲を必要とするパンツァーファウスト3。

 それと、剣や槍をどう組み合わせるか。

 実戦でそれは磨かれていく。

 

 

 待つ人々も、ただ寝ているのではなかった。

 全員が多種類の装甲車両や機関砲、戦車砲を操縦し、射撃し、修理できるように。

 ライフルと機関銃を使いこなせるように。

 座学と訓練、反省と実践の繰り返し。

 食事はうまい、おいしい菓子もある、風呂にも入れる……だが、訓練は辛いし幹部が心配だ。

 下からなんともいえない、常人には聞こえない低音が響いてくる。時には轟音が響く。

 そして、生きて帰ってくると信じる幹部たちのために、時間のかかる料理も。

 ついにフィンたちが帰ってきたときの皆の喜びは、圧倒的なものがあった。

 即座に冷えたスポーツドリンクと菓子と熱い風呂……スポーツドリンクだけで誘惑をねじ伏せたフィンが多くの団員に話をした。

 

 挑戦組がゆっくり入浴してから、幹部の集会。椿や瓜生もいる。

 瓜生は半日前から、業務用の大型圧力鍋でビーフシチューを、ガスオーブンでローストポークとローストチキンと焼きたてパンを作っていた。ごちそうは他にもある。

 コロッケも各種たっぷり。

 美味にため息をつきながら、激戦を語る。

「……ということだ」

 あまりの凄絶さに、居残っていたアキは呆然としていた。

「なるほど。で、やり直せるとしたらどんな装備にする?」

 瓜生の言葉に、フィンとリヴェリアが考え込む。

「食人花が壁を横から食い破って芋虫型新種……あれは装甲車殺しでもあるな」

 フィンがため息をつく。

「たまったもんじゃないな」

「そして……多分だが、戦車が残っていれば、59階層の穢れた精霊でも一発でつぶせたと思う」

「となると、ひたすら数。操縦だけ、砲撃はしない戦車を多数だな。あと対戦車砲や無反動砲を牽引する」

 瓜生がうなずきかける。

「きみがせめてレベル3なら……」

 フィンが瓜生を見て首を振った。

「その場で土砂を〈出す〉という手が使え……それでも壁を食い破って横から、では対処できない」

 瓜生が肩をすくめた。

「さて、車両の選択はこれで正しかっただろうか?ほかにどんなものがある?」

 リヴェリアの言葉に瓜生は、

「歩兵戦闘車……重装甲で機関砲つき、たくさん積める車としては、他にも選択肢はあるといえばある。

 プーマは30ミリ無人砲塔、ナメルとそんなに変わらない。

 スウェーデンの9040は40ミリボフォース。

 ロシアには30ミリ2連装がある。

 火力だけなら、57ミリ機関砲2連装とか40ミリ2連装とかもある。

 だが、砲塔で射撃をしていて、その59階層の敵の大呪文で、射撃手は助かったか?無人砲塔だからこそ助かった、というのはないか?

 やはりナメルと30ミリRWSの組み合わせは、あらゆる状況を想定したらベストだよ」

「どうしても砲塔は装甲が薄くなる、か」

「そりゃね」

「最初から、強い攻撃を受けたら装甲が無意味、という前提で大火力を持っていくのも手だな」

「人数が少ないのにやっていいかな……」

 砂糖をたっぷり入れた紅茶を淹れた瓜生が少し話題を変えた。

「ところで重装甲は必要か?」

「必要だ。乗っていたみんな、陰に隠れたみんなは死ななかった」

 フィンが深くうなずく。

「ああ、死んでいない、それが一番大事だ」

 椿・コルブランドも同意する。

「出会い頭の大火力で言えば、六連自走無反動砲、57ミリ2連装対空自走砲、多連装ロケット……でもどちらも装甲がなあ」

「どう性質が違う?」

 フィンの端的な問いに瓜生が、

「無反動砲は至近距離では戦車砲より少し弱いぐらい。ただし後方噴射が激しく、再装填はできるが車外作業になるし、遅い。

 対空自走砲はそれなりの威力の砲弾を連射できる。

 多連装ロケットは事実上一発限りだが、何十発もまとめて、やや弱い戦車砲ぐらいの弾をばらまける。後方噴射もある。非常に広い戦場なら、上からぶち抜くとかも可能だが……」

 と説明した。

「なら戦車に多連装ロケットが一番いい。使ったら捨てればいい」

 

「ヴィーゼルの小回りもすごく魅力的よ」

 アキの言葉に、幹部たちが考えこむ。

「確かに小さくて火力も高い。でも二人必要で、小さいことがとりえか」

「一応空挺だから……そうだな、次から58階層まで、大穴に空挺戦車を複数投入するという手も使えそうだ」

 

 

 それらの反省から、戦車隊の構成を変更して帰り道に試すことにした。

 一つの単位として。

 先頭にメルカバが1両。屋根には強引に、12.7ミリガトリング重機関銃GAU-19を搭載している。

 すぐ後ろにスウェーデンのSタンクが2両。砲塔がなく車体に自動装填装置つきの主砲が直接固定されている独特の戦車。

 横や上下に撃つのは苦手だが、一人で操縦と射撃ができ、一世代前だが主力戦車としての装甲と100ミリ主砲がある。

 さらに屋根には多連装ロケット弾も積んでおり、それで圧倒的な火力を出会い頭に注ぐ。

 その後方に30ミリ機関砲を積んだナメルが3両。訓練を積めば、1人で操縦と射撃はこなせる。圧倒的な搭載量・装甲・火力のバランス。そして1人で動かせるという大きすぎるメリット。

 それと六輪の大型ウニモグ。装甲はないが荷物量が桁外れだ。

 操縦だけのメルカバも1両、守られている。

 またいくつかの車両は23ミリ2連装機関砲を引きずっている。場合によっては57ミリ対戦車砲も引きずる。

 

 それが最小単位。その単位を二つ以上組み合わせ、中央にチェンタウロ・ドラコ対空戦車と多連装ロケット弾つき装甲車で圧倒的な火力を送る。

 ヴィーゼル空挺戦車やスズキ・ジムニーも小回りが利くので偵察用に組み合わせる。

 

 長時間の訓練が難しいアイズやアマゾネス姉妹用に、ジムニーのオートマ変速を改造したのも加えた。悪路走破性に定評がある、身軽な小型車。オートマにしたのは訓練を最小にするためだ。

 瓜生は、

「最初からオートマのテクニカルなら訓練は半分で済んだかもな」

 と少し反省していたが、

「そうしていたら、装甲不足で死人が出ていたかもしれない」

 とリヴェリアに返された。

 市販車のジムニーから、ガラス窓も助手席シートも外した。頑丈なラダーフレームに直接20ミリ機関砲を単装で固定、正面に片手で射撃できるように。14.5ミリセミオート対物ライフルとパンツァーファウスト3も用意し、素早く動いて高い火力を注げるようにしている。

 

 もう一つ重要な変化がある。メルカバとナメルに装備されている60ミリ迫撃砲が、デッドウェイトではなくなった。

 発射薬を減らして天井にぶつからない程度の射程にし、炸薬を超高温のテルミット焼夷弾にした改造弾を【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師たちが多数作ったのだ。

 とりあえず目の前に猛火の壁を作ることができる。

 

 丸一日休んで体の疲れを癒し、新しい戦車隊が49階層に。

 またしても膨大な数があふれていたフォモールを、3門の戦車砲が圧倒した。

 

 49階層はともかく、そればかりやっているとせっかく連れてきたレベル3から4が経験を積めないので、あちこちで車両を小休止させては冒険者の集団戦もさせる。

 

 戦車を扱わない【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師たちも、仕事はあった。

 キャタピラなどのメンテナンス。瓜生の故郷に存在しない銃架を作り、試す。

 そして、この遠征の少し前からの、瓜生が持ってきた様々な金属素材を使った合金……武器や防具の研究。

 実に忙しく、充実していた。

 

 

 そして……

 44階層に、正規ルートとは違う道がある。

 上層以外はどこも、下の階層に行く正規の道以外にも、広くダンジョンそのものは広がっている。そこを探索しても、より下の階層に行くほうが経験値も良質の魔石も稼げるので、割に合わないからクエストでもない限り探索にはいかない。

 44階層まで行ける冒険者は少ないが、そちら側には誰も入らない。誰も帰ってこないとさえ言われている。

 そこには、【ヘファイストス・ファミリア】のメンバーは入れなかった。

(もし、誰も帰ってこなくても……)

 十分地上に戻れるだけの物資と手に入れた『ドロップアイテム』すべてを持たせ、待ってもらうことにした。

 そこは、広い。

 上から見れば、掌から見た左手の手首から先。深い行き止まりの横穴が4つ。親指が出口であり、手首が入り口。

 掌の中央は、温泉が沸いている。ちょうど入れる極上の温度だ。親切なことに、小高い岩の壁があり男湯と女湯に分かれている。

 手首から中指の先まで、およそ900Mある。

「2時間、ここはモンスターが出ない。2時間後、最悪のモンスター・パーティが起きる。どれだけかもわからないタイゴンファング……ライガーファングのでかいのが押し寄せてくるんだ」

 フィンが平然と告げた。

「安全地帯と勘違いしてしまうんじゃな。そこで鎧を脱いで湯につかっているところで……」

 ガレスがため息をつく。

「たまたま、覚えた魔法の試し打ちをしようとしていたから助かった。思い出したくもない」

 リヴェリアも震え上がっている。

「ここでは、たとえオラリオのレベル6以上が全員いても、とても持ちこたえられまいよ」

 ガレスが心底疲れたように言う。

「実際、レベル5以上を含むパーティがいくつも全滅している。『ギルド』は、レベルにかかわらず入るな、と案内している」

「『猛者』オッタルはじめ、【フレイヤ・ファミリア】最上層の修行場という噂だ。毎回死にかけているとも」

 瓜生は大慌てで多数の機関砲や重機関銃、弾薬、ロケットランチャーを出して出して出しまくった。

 わかる者は片端から整備と装填と試射の繰り返し。

 重機関銃が何十挺も三脚に据えられ、その横には予備銃身が3つと何千という弾薬が積みあがっている。

 76ミリ装輪対空自走砲が1両。

 25ミリ4連装の自走式対空砲が2両。

 30ミリRWSを乗せたナメルが6両。

 23ミリ2連装対空砲が6基。

 20ミリ4連装対空砲が8基。

 20ミリ機関砲を積んだヴィーゼル空挺戦車が4両。

 12.7ミリガトリングを積んだメルカバMk-3が3両。

 トラックに積んだ多連装ロケット弾が2基。

 そして、とんでもない量の地雷が鬼は外とばかりにばらまかれた。

 一時間。

 土砂崩れのようなモンスターの群れが押し寄せ……地雷が次々と、次々と爆発した。

 膨大な爆発の壁。

 それだけで何千の、ゾウに近い大きさの肉食獣型モンスターがバラバラになり、破片に切り刻まれた。

 土砂崩れの上から、多連装ロケット弾が30発ばらまかれ、爆発の嵐が縦深破壊をなす。

 だが、撃ち漏らした怪物は押し寄せてきた。爆風と破片の壁を押し倒し、仲間であるはずの怪物の死体を踏みつぶして。

 それに、多数の機関砲・重機関銃が火を噴いた。

 まさしく弾幕。

 何十万ともいう数の暴力を、圧倒的な弾幕が食い止める。

 機械的に次の弾薬ベルトを装填し、射撃を再開する。次々と重機関銃の銃身が白熱し、交換され、射撃を再開する。

 ひたすら、機械のような射撃が続く。

 戦車砲を撃ち尽くし、連装機関砲の補助に回る者もいる。

 連装機関砲は、連射を続けるためにあえて半分ずつの発砲で、冷えるのを待ちかねて切り替える。時にはその余裕もなく全力連射、結果的に高熱で壊れる。

 リヴェリアとレフィーヤが、並行詠唱で機関砲を使いながら大規模爆炎呪文をぶちかますが、それも目立たないほどのメタルストームと敵の数。

 フィンは冷静沈着に、足元に山積みにされたロケットランチャーでサーモバリック弾を連発し、必要なところに猛炎を叩きこんだ。

 終わりがないかに見えたモンスター・パーティは、ついに一段落した。

 膨大な魔石とドロップアイテム。

 そして地面を埋め尽くす空薬莢。

 まさに悪夢そのものだった。

「46階層にも似たようなところがある。そこは、今回の結果を見ても入るのが危険すぎる」

 とリヴェリアに言われて、瓜生は開いた口がふさがらなかった。

 魔石やドロップアイテムの回収は最低限。

「テストでもある。これでみんな、経験値になっていれば……」

 そうフィンがまとめた。

 訓練としても強烈な効果があった。機関砲を、

(使いこなせなければ、死ぬ……)

 その重圧で、必死で覚えた。好きも嫌いも言っていられなかった。

 

 それ以外は、できるかぎりレベル2から4のメンバーの剣を磨き、おいしい食事を楽しみ、魔石やドロップアイテムをたっぷり集めながら……

 

 余裕と思えた階層で。

 若手にも経験を積ませよう……それが課題になっていた時。

 突然、迷宮の悪意が牙をむいた。

 ポイズン・ウェルミスの大発生。

 新種対策の軽火器小班が、素早くガリル最新型で7.62ミリNATO弾をぶちまけ、グレネードリボルバーから散弾を撃ち出した。

 圧倒的な弾数は細かな怪物が、たとえ大量に出ても圧倒的に吹き払った。

 多くのメンバーは装甲車両に守られていた。

 それでも、十人以上が猛毒に侵された。耐異常すら貫通する猛毒。

 病院車に改装したナメルを最高速で走らせながら、瓜生がリヴェリアと肩を並べて治療に当たる。

 ダンジョンの、魔法の品に慣れたリヴェリアたち優れた魔法使い……だが、瓜生には近代医学の知識がある。普段の冒険では、瓜生は多くの人を近代医学で救い……そして石もて追われるのが常だ。

 だがここでは、瓜生の能力は当たり前のように受け入れられている。何よりも、今は死に瀕した仲間がいる。助けられるなら……

 猛毒には、しっかりクロスマッチをしてから、とりあえず大量輸血による血液交換。

 酸素テント。点滴。……

 医師免許はないが医者としても豊富な経験を持つ瓜生が、リヴェリアに修正されつつ必死でさまざまな物資を出し、治療を続ける。

 全速で18階層に向かい、上層の狭い道も通れるプーマ軽装甲車とウニモグでベートらを急行させ……フィンを中心に、レフィーヤを含む残留組は18階層の森に、多数のトレーラーハウスを用意した。

 その一つは、100人を十分に食わせられる食堂設備。その裏にはコンテナいっぱいの食料とガスボンベ。

 無法の街に逗留する【ロキ・ファミリア】は、思いがけない客を迎えることになる。




44階層のは僕の思いつきです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。