ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
すさまじい速度の白兎が駆け、足を止めず斬りつける。
巨大なミノタウロスは剣を無理やり止め、横っ飛び。切り結ぶな、と体に叩きこまれている。
ベルが懐に飛び込もうとする、そこにもう一本の手の大剣がせまり、それをはじきつつ別のほうに歩き続ける。
時に、ミノタウロスが突進する。ベルがかわして切ろうとして、もう一本の剣に追い払われる。牛の尻尾がハエを追うように。
何度も、それが繰り返される。
ナイフ二刀しかなくなったベルは、やっと意識を、深呼吸を取り戻した。
そうなれば、目の前にいるのは……絶対の恐怖、絶対勝てない死の化身ではない。
速さはシルバーバックとさして変わらない。トロルより少し力と耐久が上、というぐらい。
アイズより、桁外れに弱い。
(アイズさんの剣は、身のこなしは、こんなもんじゃない)
最高峰級の剣を身体で知っている。武神の剣を見ている。
最近戦ったレベル2の黒覆面や、桜花や命とも、さほど変わらない相手。
ゆったりと腰を落とし、深呼吸しながら歩き続ける。
わずかな余裕を作り、レッグホルスターのポーションをリリの腹に落とすこともできた。
短剣では、当たっても深い傷をつけられない。敵の大剣を受けても折れることはないが。
神様がくれた脇差『ベスタ』なら、斬ることはできる。だが致命傷でなければ意味はなく、そこまで踏み込もうとすると、相手の二刀のもう一方が邪魔になる。
アイズがオッタルに、『リル・ラファーガ』まで使った。それは正面から叩き潰されたが、オッタルの剣を一本ダメにすることはできた。
そして、レフィーヤが、フィンが、ティオナが駆けつけてきた。
椿・コルブランドも、何の迷いもなく【ヘファイストス・ファミリア】そのものを賭けて刀を抜いた。
やっと作った隙間を、アイズは抜けて駆ける。白兎のもとへ……
その次のルーム。そこでは、小さい女の子が『女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)』アレン・フローメルに……激しく蹴りをぶつけ合い、吹き飛んだところだった。その体を狙って、片手で繰り出された槍……
信じられないほど重いトンファーが打ち払う。
もう片手のトンファーを投げ、空になった手で槍をつかもうとする。
読んでいた。投げられた重量物をわずかな踏み込みでよけ、ぐりっと小さい円を描いた槍の柄が少女をはたき飛ばす。
急所は外れている。トンファーの重さ、反動で空中での軌道が変わっていた。
天井、壁と叩きつけられた少女……片足は折れている。
だが、槍を拾って杖にして立とうとした。
アレンは油断なく槍を構えている。
「ビーツっ!」
レフィーヤが絶叫し、少女を抱きかばう。槍に背を向けて。
アイズが、それも目に入らないように襲いかかり、槍と切り結ぶ。
「任務は果たした。おまえたちと戦っても無益だ」
飛び離れた猫人は、黒髪の少女を見た。片足が折れていても、戦意は折れていない。
「今少し戦いたかった。強くなってまた来い」
アレンはそうビーツに呼びかけ、ミノタウロスの声と鋼音が聞こえる通路、アイズたちがかけつけた通路のどちらとも違う通路に消えた。
レフィーヤが慌ててビーツを介抱する。
「まだ、戦えた。まだ、強くなれた」
「!……ごめんなさい」
レフィーヤは口を覆ってビーツに謝った。
自分こそ、いつでももっと強くなりたいと叫んでいたのに。無茶を繰り返していたのに。
ビーツの、ベルにも負けない強くなることへの飢えは、何度も見ていたのに。
アイズは、もうすさまじい速度で走っている。次々と走り抜ける……リヴェリアがレフィーヤを見て、ビーツに回復呪文をかけてくれた。
ほんのわずかなずれだった。リズムが固まってしまっていた剣戟から、ベルの受け方がわずかに違った。
相手の重心を崩す。
武神にも、アイズにも教わった重要な技。教え方はまったく違ったが。
小さい動きで剣をからませ、相手の力に逆らわず引く。接触を保ったまま小さい円から大きな円に、らせんにつなげる。
動きそのものは、袈裟切りに入る前の振りかぶりにある。
「斬る以上に、振りかぶりと、残心も稽古せよ」
武神に徹底的に言われ、斬る動きよりも厳しく直されている。
渦に吸うように巨体の剛腕を振り回し、重心を崩し……
(いまだ)
短文呪文の詠唱。
だがそれが終わる直前。
足首をひねり、倒れながら、ミノタウロスは無茶な方向に、空いている手の剣を突き出した。
左手の短剣がそれを受けたが、呪文の詠唱中……
魔力暴発(イグニス ・ファトゥス)。魔力が暴走し、ベルが吹き飛んだ。その隙を見逃さず、倒れたままミノタウロスは蹴る。軽装鎧が粉砕され、壁に激突して背中に吊るした楯が外れる。
そこにアイズが駆けこんできた。
倒れ伏し、息はあるのか起き上がろうとする少年。『強化種』の可能性すらあるミノタウロス。勝てるはずがないのに、今まで生き延びていた。
「……今、助けるから」
「……頑張ったね」
見ればリヴェリアがリリを助け、強制停止を解き治癒魔法をかけていた。
安心が、全身を引きずり込むような眠気に変わる。
だが……
自分自身の奥底と、ごくわずかな間向き合う。
何よりも激しいものが、純粋なものが沸き上がる。
(もう……)
「アイズ・ヴァレンシュタインに助けられるわけには、いかないんだ!」
ベルは叫んで、助けの手を振り払う。消音アサルトライフルの入ったかばんも外す。ポーションを一つ飲み干す。Dガードのおかげで手から離れなかった短剣を構え、ナイフを抜いて走り出した。
振り下ろされる大剣、弧を描いて鋭く加速し、左手の短剣で大剣を受け流しつつ右手のナイフが鋭い袈裟切り。火花が散り、巨体の腕に赤い線が走る。泣きたくなるほど細く、出血も少ない。
足を止めないベル、左手の大剣を手首だけで振ってくるのを腰を低くしてよけ、白い閃光がミノタウロスの膝を叩きながら抜ける。
もう、アイズもリリも、フィンもビーツも目に入らない。目の前のミノタウロスだけを見ている。ミノタウロスも、ベル以外目に入れていない……ベルを倒した後のことなど、ひとかけらもない。
再び起きた剣戟の音。
「あの方の目に、誤りがあるはずはなかった」
オッタルの頬に浮かんだ笑みは、かすかすぎて見ていてもわかるものではなかったろう。
「ベルっ!」
ビーツを抱え、リリに駆け寄っていたレフィーヤが飛び出し、呪文を唱えようとするのをフィンが制止する。
「ちょっと」
ティオナがとがめる。
ベートも舌打ちをしながら参戦しようとする。
「よく見るんだ」
フィンの声に、ティオナもベートも我に返った。
「あ……」
「誰が、Lv.1ですって?」
ティオネがあきれる。
「ほう、大したものだ」
椿・コルブランドが目を輝かせる。
分厚いナイフを二刀に構えた少年は、すさまじい速度を解放した。
決して近づけまいと二刀を振るう巨体、重い乱打を受け流し、かいくぐって肉薄しようとする。
むしろミノタウロスの方が、その刃を受けないよう逃げ回っている。
「レフィーヤにも聞いていたが……聞きしにまさるな」
リヴェリアがあきれたように見つめる。
「君の目には……彼はいかにも駆け出しに見えた。ほんの一月前」
フィンがベートに言う。
ベートは衝撃に言葉もなく、激しい戦いを見守っている。
「この刀」
ティオネが、ひどく曲がった刀を拾う。
「怪物祭りのとき、ウリュウがくれたククリと同じ鍛冶師よ」
「彼の仲間だから、当然与えられているか。これほど曲がっても折れないとは」
刀を受け取ったフィンの言葉に、
「刀が折れたという苦情はない。見事!」
椿・コルブランドが賛嘆の声を上げ、曲がった刀をフィンから受け取って見つめた。
「おお……む?『恩恵』がないではないか!いや……それがどうした。
折れなかった、主が生きている。この二つの前に、人の手で打たれていない、ただの鋼だ、など何だ!この刀はまぎれもなく、主の命を救った業物ぞ!」
興奮した鍛冶師の目は、戦いをらんらんと見た。
「ぼ、冒険者さま」
助けを求めようとするリリに、フィンが、
「これは彼の戦いだ。君も、戦ったんだね……仲間として助けたいのは当然だ。だが、今、一人の冒険者が歩いているんだ」
ビーツはうなずいて、じっと戦いを見た。
「そう、ですね……」
レフィーヤは胸が張り裂ける思いで、祈るように手を組んだ。
(がんばって……がんばって、ベル!)
「そんな、そんな」
「応援するといい」
フィンがリリをしっかりと引き留めている。どのみち、リリは立つ力もまだない。
稚拙、とも思える戦い。攻防のたびにどちらも大きく飛ぶ。見切りがろくにできていない。
ベルは、相手の体軸を自分の体芯でとらえることはなんとかできている。なんとか、軸を使った攻撃は保っている。
「……このまま続ければ……」
フィンが冷静につぶやいた。レフィーヤがはっとする。
「ああ。傷も浅いし、すぐ治っちまう」
ベートがうなずく。
ミノタウロスの腕から、小さな紫光が時々立ち昇る。
「でも、強力な付与魔法が」
「使う暇があるかい?」
レフィーヤは黙った。
ベルが切り抜け、ミノタウロスの背後に回って距離をとり呪文を唱えようとする、それを許さず全速で襲いかかる、それが何度も繰り返される。
「厚い大剣、剛力の攻撃をナイフで防げているのは……圧倒的な手の速さ。足の速さによる有利な場所取り。腰が入り、軸が決まり、刃筋が通っている。ナイフ自体が、やたらと頑丈だ」
フィンが静かに言う。
「右のナイフはこの刀と同じ鍛冶。左の短剣は、手前の後輩、ヴェルフ・クロッゾの作だ。折れずに戦い抜いておる、よい刃だ。
きゃつめの『折れぬ、切れる、滑らぬ』に徹した戦場剣、われらも真似ようと思うていたが……」
椿・コルブランドは距離があっても正しく見ている。
「じり貧は、彼もわかっているだろう。そしてあのミノタウロス……」
牛頭の表情が、どんどん激しくなっている。
「よほど厳しく訓練されたようだね。切り結んでもだめだ、呪文を唱えさせるな、と……剣を使うミノタウロスなんて、聞いたことがあるか?」
「ない」
「ねえな」
リヴェリアとベートが同時に答える。
フィンは、オッタルとアレン……【フレイヤ・ファミリア】の最強冒険者たちの存在を思った。
(どんな思惑があるのか……一番可能性が高いのは……)
機関銃やドラムスティックのように交互に打ち続けられる二本の大剣。巨体の、底なしのスタミナ。
足を使い続けるベルも体力は衰えていない。すさまじいスピードで、合計すればとんでもない距離走り続ける。円を描き、螺旋を描き、時に直線で、直角に。
ベルは右に、左に揺さぶる。大きく右に加速し、体を回転させて抜きつけ水平の形で斬りつける。
それに受け流され、流れたミノタウロスの腕に、全身で左手の短剣を突き刺す。
傷は浅いが、うっとうしい……激しく振り払う動きに、ベルは有利な場所をつかもうとする。
大振りを、ベルの全身を使った一撃がしっかり流し、崩した。片手のナイフも両手の刀と同じく、全身で打ち突くことを何千となく練習している。
踏み込み、膝に短剣の、厚鉄の重い柄頭を叩きつける。巨牛の絶叫。
ベルは右手のナイフを、袈裟切り……ミノタウロスは必死で跳ぼうとし、膝の傷に崩れた。
フェイク。袈裟切りは途中で止め、掲げたまま呪文を唱え始める。
「【雷火電光、わが武器に宿れ】」
短文詠唱。
「【ヴァジュラ】!」
魔法が完成し、すさまじい閃光と轟音がルームを満たす。草原の草が揺れる。
「なんて魔法!」
ティオナが叫んだ。
「いけええっ!」
レフィーヤが怒鳴る。
「浅い」
ベートが舌打ちをした。
「いや」
フィンは閃光にもかかわらず、しっかり見ている。
すさまじい雷光を帯びたナイフは、膝の傷を回復させ、あくまで攻撃しようとしたミノタウロスの左腕を根元から切り落とした。頑丈な皮膚、切りにくい肉、固い骨を、豆腐のように。切り口が超高温で爆発する。
すさまじい衝撃波が、ミノタウロスの巨体すら転がす。アイズたちすら半歩退かせる。
「これは……」
「なんて威力だ」
「僕でも、急所に直撃されたら危ないね。だから、これほど恐れるよう訓練したのか」
「危ない!」
その瞬間、ミノタウロスは起き上がり頭を振った。鋭い角が、ベルを狙う。
ベルは足を止めていない。斬ったのちも歩き続ける。それに救われた。
つい一瞬前、下腹部があった場所を角が通過する。
ベルは一気に走った……壁に刺さっている、脇差のところに。
だが、抜こうとするより早く、片腕のミノタウロスが突撃し、突こうとしている。
ベルは右手のナイフを、軽く投げた。左手の短剣も、こちらは鋭く。
重いナイフが二本、ミノタウロスの目を狙う。
防ごうとした左腕がない。顔を傷つけられ、本能的に首を振っていやがる、その間にベルは脇差を壁から抜き、斬り払いながら走り抜けた。
脇腹を切られた巨体が、一瞬止まる。
あちこちから、治癒の光が出ている……膝はもう何事もなく、断ち砕かれた左腕すら再生しつつある。
ベルは脇差を、『ベスタ』の長い柄を刀のように両手で握った。
すうっと空気が変わる。
もう、それほど長くは続かない。
ベルは一歩踏み出した。決して足を止めるな……武神にも、アイズにも、実戦でも教えられた。
現に、今いた所を強い突きがしっかりと通過している。
鋭い袈裟を一撃放ち、素早く抜ける。
肩を切られながら、巨体は健在。
突然、ミノタウロスの戦い方が変わった。一撃を食らわないよう逃げ回った……一撃を食らって、悟ったように見える。
逃げていては勝てない、相手の恐ろしさをよく知ったうえで、前に出る……
両手剣を両手で握ったミノタウロスの腰が据わったのは、見ている者にもわかった。
「戦いで学び成長しておるな、肝もよい。モンスターでなければ、ぜひうちの【ファミリア】に勧誘したいほどだ」
椿・コルブランドが興奮気味に言う。
「……モンスターの立場でなんだけど、あれで正解ね。逃げていたら、結局は負ける」
ティオネの深い声。
激しい突進。後先などない、一撃必殺。
その殺気が、咆哮の直撃より激しくベルを打ちひしぐ。
ベルは、ひたすら繰り返していた。
(歩き続ける)
(深呼吸)
(肩の力を抜く)
(身体の軸)
膨大な、膨大な素振りで体に叩きこんだこと。
武神と、アイズの剣影。祖父の面影。
駆けちがい、斬りちがう。
突進を、ぎりぎりでほんのわずかに斜め左に方向を変え、相手の芯を自分の芯でとらえながら最小限の回避、振りかぶりも守りとする攻防一体の袈裟……
祖父の、鍬や斧を振るう動きを……正しい刃筋、正しい人体の使い方を見たのが種だった。
何年もの、毎日何千回かしれぬ農作業で、祖父の動きをまねることで双葉を出した。
瓜生が良い土を探し出し、植え替えた。
武神が肥やしを与えまっすぐ伸びるよう支えをつけ水をやった。
アイズが踏み、ふたたび立ち上がることで根が強く張った。敵として手本を見せたことで、葉がより大きく茂った。
何万ともしれぬ素振りが、足腰中心のすさまじい運動が、膨大な実戦が磨き上げた。
正しい刃筋に乗った神の脇差は、硬い角をやすやすと斬り落とし、堅い筋肉に盛り上がる肩を深く切った。
急所をとらえられなかったのは、ミノタウロスの突進が予想以上だったからだ。
ベルはそのまま足を止めない、そこに再生した左手の蹄が走る。歩いたことで芯は外れるが強烈に打たれ、吹き飛んだ。
壁にぶつかり、血を吐く。激しいダメージに膝をつこうとするが、目の前の好敵手の姿を見て立ち上がる。手に吸いついた脇差を頼って。
まだ、ミノタウロスは折れていない。
肩の傷は治っていかない。もう再生能力も尽きているようだ。それでも立つ。激しい疲労に、巨大な胸をあえがせ舌を出しながら。
動く片手で、大剣を背中に着くほどふりかぶり、駆ける。
ベルも走り出す。血を飲み、必死で呪文を唱える。
「…………【ヴァジュラ】」
まっすぐ、天を指した脇差に、雷光が落ちる。
技も何もない。
ただ、決着。
どちらの剣が速いか、それだけ。
声にならない気合が、二つほとばしる。
目を真っ白に満たす爆光と衝撃が、広いルームを満たし揺るがす。
リヴェリアがリリを、ティオナがレフィーヤを、椿がビーツをかばったほど。
脇差を手にしたまま、ベルがくずおれる。
そして、体を前に伸ばす運動でもしているように大剣で地を割っているミノタウロス……大剣も折れている。渾身の力がわかる。
ずるり。
巨体が二つになる。
脇下から腰が、きれいに斬れている。頑丈な、断ちにくいことで知られる肉と骨が。
すう、と腕から先に灰と化していく。
「……ベルっ!」
レフィーヤとアイズが走り出す。抱き上げる。
「ベル、ベルぅっ!」
レフィーヤの悲鳴を、リヴェリアが冷静に止めた。
「単なる精神枯渇だ。二度目だな、彼がこうなるのを見るのは……あれほど叱ってやったというのに」
そう言いながら、声には、言葉にできない深いものがあった。
アイズはつい、リヴェリアがベルの鎖帷子を、服を脱がせるのを期待した。
【ステイタス】を見たい。成長の秘密を知りたい。
リヴェリアが首を振った。
「いい鎖帷子と、強い繊維の鎧下だ。胴体に切り傷はない」
アイズの肩に手がかかる。
「見る必要はないだろう?……強い、だけでいい。間違いなく、限界を突破している」
フィンの言葉に、半泣きになりながらうなずく。
「くっそ……」
ベートの悔しそうな声が漏れた。
「ベルさま、ベルさま……」
リリの声がずっと響いていた。
ベル、リリ、ビーツの三人とも、命に別状はないが傷は重い。
フィンやベートは本隊の指揮に戻らなければならないが、リヴェリアとアイズ、レフィーヤの三人が、【ヘスティア・ファミリア】の三人を背負って『バベル』の医務室に運ぶと決めた。
無論、ベルの戦利品である強化種?ミノタウロスの角や皮、魔石も持って。
フィンは、他の冒険者に見られては大変な銃や薬莢を素早く探し、回収した。
使い物にならなくなったベルの武器(脇差以外)は、椿・コルブランドが大切そうに抱えていった。一筆添えて。
炎が【ロキ・ファミリア】の幹部たちと椿・コルブランドの胸を焦がしている。
すべてを投げ出した冒険。全力をぶつけ合う勝負。一番深い自分をさらけだして。
憧れが熱い。口から炎が漏れそうだ。
上級冒険者、最大手ファミリア幹部として忘れかけていた、何か……それが、あの稚拙な勝負にあった。
ぶつける敵がほしかった。
椿は金床と鎚と炉と打つ金属でもよかった。
医務室に運ばれた三人。
【ロキ・ファミリア】の遠征に参加しなかった下級構成員を使い、『ギルド』と主神ヘスティアに連絡した。
ヘスティアは深く感謝した。
ベル・クラネル、ビーツ・ストライ、Lv.2にランクアップ。