ダンまちにアクシズ教を!【更新停止】 作:アクシズ
昨日の約束通り、エースと奴を助けてくれた恩人だという、蒼髪の女とかずみんの三人が【ニョルズ・ファミリア】のホーム『
「おじゃまするわ!私の名はアクア、水の女神アクアよ!よろしくニョルズ!」
こいつは驚いた。開口一番に蒼髪の女が自身を神だと言う。しかもその真偽の程がわからないときた。神威を感じない上に、水の女神アクアなどという神の名は聞いたことがない。その美しい容姿は確かに、神々にも比肩しうると言えるかもしれんが、これはどう判断すればいいのか───(※1)
「初めましてだアクア。すまないが俺は少々混乱している。お前は神だというが、俺にはどうも水の女神アクアという名を聞いた覚えがない。それに神威がまるで感じられんのはどういうことだ?」
「あらそんな事を言ったら、私だってニョルズという神など知らなかったし、あんたは子供達と同じ人間にしか見えないわ」
ますます分からん、俺達神は下界の子らの嘘がわかる。神相手となるとそうもいかないが、しかし───
「あぁよろしいですかニョルズお兄ちゃん?」
「「ブホォ!!」」「ちょっとかずみん!?お兄ちゃんってどういうことよ?あんたねぇ~私の娘に変な事してたら、デンプシーロール打ち込むわよ!」
「ちょっと待ってくれ!これは昨夜『緊張していたわたしを、お兄ちゃんは優しくリードしてくれたのです』ファ!!!」
いきなり何を言い出すのだこの子は!?・・・っておい!?なんだそのオーラは!?神威ではない、がそれに近いものなのか?蒼く神聖な気を纏ったアクアが幽鬼の如く立ちふさがった。
「言い残したことはあるかしら?」
「まて・・・待ってくれ・・・俺はむじっぐぁぁぁぁぁぁ~~~!」こいつ!いきなり殴りやがった!!!
「アクア落ち着いて下さい。神ニョルズは緊張していたわたしに、お兄ちゃんに接するように、気楽にしてくれと言ってくれたのですよ」
「あらそうなの?それなら最初からそう言ってよ。つい殴っちゃったわ!ごめんねニョルズ?」
このやるせなさ、どうすればいい?だがこいつは確かに下界の子とは思えん。流石に初対面で殴り飛ばされたのは初めてだ。力を持った精霊などが神と成ったか?新しく生まれた神なのかもしれんな。
「あぁ痛てて、わかってくれたならいいさ!で話を元に戻したのだが、アクアよ確かにお前が、子供達とは違うモノだろうことは分かったが、新しく生まれた神なのか?他に知り合いの神はいないか?」
「そうね有名どころなら後輩にエリスってのがいるわ!」
不和と争いの女神エリス(※2)・・・・・・だと?そいつなら有名だヘラ、アテナ、アプロディーテの三女神に不和を齎したいうあのエリスか!?そんなやつの先輩だと?くそっ知らんぞそんなやつ!
「神ニョルズよ、今日我々を招いたのはアクアの出自を問いただす為ですか?他に何か用があったのでは?」
はっ!そうだった。今日こいつらを招いたのは、元々その優秀さに目をかけていたエースが、街に戻ったの知り、やつをファミリアに勧誘しようとしてたんだったな。それにこのかずみんの事も気に入ったし、連れも良さそうなら、まとめて誘おうと思っていたんだった。
「いやすまん。元々はエースを俺のファミリアに勧誘しようと思ってだな──────」
♢
その後エースと娘のエスは【ニョルズ・ファミリア】に入団が決まった。かずみんはアクアの子らしく、他神の眷属になるなどありえません!と強く否定されてしまった。
最近下界に来たというアクアと神同士の会話をしたり(こいつは面白いやつだった)でそのまま話が尽きなかった為、宿に残してきたというエスと幼女も呼び(幼女を連れて来なかったのは、俺とアクアが争う可能性も、考えていたからだとか。かずみん恐ろしい子)、宴会となった。
一つ言えることは、アクアは水の女神ではなく、宴会の女神を名乗った方がいいと思う。エリスの先輩だというから、最初はかなり警戒してたんだが、どうにもこの神はあきれる程暢気な気質らしい。もしくはロキのように天界とは別の生き方をしてるのかもしれんな。
ただ今思えば酒の席でつい愚痴ってしまったのが、事の発端だった。ロログ湖の外海に面してる、開口部付近に居座るモンスターのことで、ギルドと上手く折り合い付かず、退治が遅れている為に漁にも影響が出るし、さっさとケリ付けたいみたいなことを言ったんだ。
「ほぉ困っているのですかニョルズ?」
天使の様な愛らしい顔をした、紅い瞳の悪魔が笑ったのだった。
♦
楽しい宴会の場で困っていた、ニョルズの相談を受けたアクアとわたしは、意気揚々とロログ湖の湖畔に来ている。
「アクア今回のミッションは中々大きいですよ!まずアクアの莫大な魔力をふんだんに投入した神聖な結界を、海の入り口付近で暴れるモンスターに届くところまで張ります。その結界にわたしが手を加え、ここにあるようなモンスターの魔石という、化物の核にのみ反応するよう攻撃性を付与します」
「わたしは思いっきり結界を張ればいいのよね?」
「えぇお願いします。ニョルズ、念の為の湖内にいる人員退避が確認出来たら教えてください。こちらの準備は出来てますよ!」
『撮るんだーZ君』でアクアとわたしの姿をバッチリ録画登録し、『色々入るんだーZ君』から《なんとかテイン》(※3)を取り出す。この杖剣があれば、アクアの莫大な魔力による結界にでも、介入することが出来ます。
「よぉ~し、確認出来たぞ!やってくれ!」
「じゃぁ始めるわ!」
アクアが邪悪な者を立ち入らせない結界を張る為、自身の魔力を練り上げていく。その魔力の濃さにアクアを中心として、蒼いモヤのようなモノが、魔力を感知出来ない者にでも、知覚出来るようで、ニョルズをはじめとしたその眷属や、周辺で見守っている者達からどよめきが起きる。
そしてその魔力を結界に注ごうとしたその時、巨大な蛇のようなモンスターが突如湖から飛び出し、アクアに襲い掛かった!!!
「ねぇねぇ!何かすんごいのが飛び出てきたんですけど!ですけど!」
「【デコイ】──ッッッ!」(※4)囮スキル発動によって、モンスターの狙いがわたしに移った!
「よしっ!このうにょうにょして気持ち悪い蛇野郎!お前の相手はわたしですよ!」
でもあんまり余裕ありそうもない相手です。
「かずみん!!!」「アクアは早く結界を!」っこの蛇!攻撃が早くて重い!「わっわかったわ!【水の力よ】ッッ!」
アクアが結界を張った瞬間、その結界は湖全体を越えて、海の入口付近まで広がった。それにより、この蛇は身動きが取れないようだ。そうとなれば後は簡単ですが、この間の盗賊ボスといい、この蛇といい。アクアを殴られ、襲われそうになる失態。何と腹立たしいことか!
《なんとかテイン》を構え集中しだすと、周囲に静電気のようなパリパリと輝く光が漂いだす。そしてその周囲に集めた魔力をこの聖杖剣に注ぎ込む!
「罪深きモンスターよ─────悪いですが慈悲はありません・・・【セイクリッド・エクスプロード】───!!」(※5)
辺り一面がまばゆい光に包まれ───蛇モンスターは消え去った。
・・・・・・・・・・
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」」」」」」
一瞬の静寂後、歓声が響き渡る。が《なんとかテイン》を掲げて、今一度静寂を取り戻す。
「女神アクアによって、愚かなモンスターは弱り、そしてアクアの娘、かずみんが打ち取ったぁぁぁぁ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」」」」」」
そうしてアクアかずみんコールが鳴り響き、喜び浮かれるアクアを眺めていたら、ふと違和感を感じ、何故だか今すぐここを離れろと、我がシックスセンスが警鐘を鳴らしだす。
そしてニョルズの眷属であろう獣人がニョルズの元へ。
「ニョルズ様、そのモンスター討伐後からですね、何かおかしいと思ったんですが、先ほどその違和感の正体がわかりまして・・・潮の香りが極端に弱くなったんです。何が起こったんでしょうか」
あっやばい、これあれです。アクアが力加減間違えて、結界内の水を真水(※6)にしちゃったとか、そういうオチです多分。匂いの元とか全部まとめて浄化しちゃったんですねうんうん、流石アクアです・・・
えっと汽水湖というのは真水と海水が混じった湖。元々真水が多かったんならそれほど、問題はありませんよねウィズ?海そのものを真水にとかだったら、海に住む生物を大量殺戮とかしちゃいそうですが・・・ヤバイこれがどれ程問題を含んでるかわかりません。えとえとどうしましょう。結界の範囲は精々湖全体と海との接続口周辺。海水がなくなったんなら、持ってくればいい?いやそもそもバレるとは限らない、モンスターもアクアの結界内じゃ何も出来ないでしょうし、さっさと船に乗ってアマゾネスの島に行く?
「なぁかずみん『ひゃい!?わわわわたしはなにもしりませんよ?』うんこれ以上ない程わかりやすい反応をありがとう」
そう言ってわたしの肩をがっしり掴むニョルズ。
「あああアクア!ニョルズがニョルズが何をとちくるったか、わたしを強く抱きしめて放してくれないのですよ!」
「ちょっと何やってんのよニョルズ!あんたやっぱりそっちの気ある神なの?別にそのこと自体に引いたりはしないけど、私の娘に手を出すのはやめてよね」
「ちっげぇよ!つかアクア、何かロログ湖の様子がおかしいようなんだが、ナニカ知らないか?」
「はぁ?なに言い出してるのよあんた、私が全開に結界張ったのよ?問題どころかこの辺りには、モンスターの入れる隙間がない程浄化されて、安全そのものよ?そのロログ湖もほら!とっても澄んで底まで見通せるじゃない!」
駄目だ、こういう時のアクアは必ずといっていいほど墓穴を掘る。
「ちょっとまて、浄化?潮の香がなくなった?・・・かずみんこれはあれか?湖の水が全部浄化されちまったとか、とんでもねぇ自体だったりするのか?」
「──────────はぁ~恐らくそうでしょう。でも言い訳するのなら、こんなはずじゃなかったんですよ?いきなりモンスターに襲われて、動揺したアクアが加減せず結界を張ってしまった。すべてはあのうにょうにょしたヤツのせいです!」
「まてまてまてまて!おい湖の水どうなってる?中の魚達は無事か!?」
♢
あれからすぐに湖の状態が確認され、見事に真水に変わっていることがわかった。このままじゃまずいと大量の人員を投入し、海水を湖内に混ぜ、なるべく元の環境に近い状態へと戻らせたのだった。その際全力で張った結界を消せと言われてアクアが『なんでよ!?』と騒ぎ、ニョルズが丁寧に状況を伝え、それはもうアクアがビィビィ言うまで泣かせてくれました。
「私はみんなが困ってるっていうから、全力で助けてあげたのに!なんで怒られるの!」
住人からも街を救った英雄的立場から一転、面倒事を起こしてくれやがってと、辛くあたられ悲しみに暮れるアクア。
泣きわめくアクアも可愛くて大好きですよと言ったら、少し機嫌が良くなったが、まぁ今回は不慮の事故とはいえ、かなりまずかった。幸い淡水でも海水でも生きれる生物ばかりのようで、湖内の生態系が大きく崩れることなく、それでもかなり怒られたが。元々モンスターの対処が、出来てなかった街側も悪いとし許された。
そして落ち着きを取り戻した後、改めてアクアと共にちゃんとした結界を張り直した。これで暫くの間、モンスターに悩まされることはないでしょう。
アクアを苛めるこんな街はサッサと去るとし、わたし達は幼女と共にアマゾネスの国『テルスキュラ』を目指すべく、船に乗り込んだ。
「「アクア様ぁ!かずみん!お元気で!本当にありがとうございました(やした)!!!」」
元山賊A親子だけは、最後までアクアを責めたりせず、よいしょし続けてくれた。いい人達ですあなた方に祝福を。
「あぁ~まぁなんだ、この街に戻ってきたらまた顔出してくれ!俺も言い過ぎたよ悪かったなアクア!かずみん!」
ニョルズはアクアを沢山泣かしたので、すぐには許してあげません。アクアはどうせすぐ忘れるでしょうから、その分わたしが覚えておくことにします。
そうして船が発進する。
「ニョルズお兄ちゃんのバカぁぁぁぁぁ~~~~!!!アクアをいっぱい苛めたことと、あの夜のこと、忘れないんですからね!!!この苛めっこ!ロリコン!お巡りさんあいつです!!!」
「プ~~~クスクスクスクス!!!ニョルズ~あんたも元気でやりなさい!お巡りさん!やっぱりあいつです!!!」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
眷属の中で特に、女性陣から冷たい目で見られているニョルズを見て笑う。まぁいいでしょう。とりあえず気分を新たに。
わたし達の冒険はこれからだ!
実際汽水湖内がすべて真水とかなったら、問題ありそうですが・・・
汽水湖の生態系とか異世界の事だしこれで良かったとスルーしてください。
アクア様には悪気なかったんだ。すべて100%善意からの行動の結果なのです。
それと注釈を1話から入れてみました。主にこのすばネタや、独自設定などに対してです。
特に見なくても問題ありませんので、長々と説明とか読むの嫌いな方は飛ばしてください。そういうのが好きな人はニヤニヤ出来るかもしれません。
(※1)神威に関して アクアやかずみんは、ダンまちの神々が放つ神威を、感じ取ることが出来ない。ダンまちの神々もまた、アクアはヒューマンに見えている。ただし下界の子のように、本当の事を言っているかどうかは判断出来ない。勘違い要素を増やせるかなと設定。
(※2)不和と争いの女神エリス ここで神ニョルズが連想した、女神エリスとは、ギリシャ神話における神エリスであって、このすばに出てくる幸運の女神エリスのことではありません。
(※3)《なんとかテイン》 アクアがかずみんへのプレゼントをと、ウィズに話を持ち掛け、エリスまで巻き込み作製された不壊属性を持つ聖杖剣。
『なんとかカリバー』と同じ性質を持ちコロナタイトを核とし、永久機関を作れるほどのエネルギーを秘めている。真の名は剣、槍、矢、枝、杖だったとか色々解釈がある武器から、爆裂魔法と相性良さそうと付けられた。
『なんとかカリバー』とは伝説の勇者が使っていた神器で、ベルゼルグ国の国宝。真の名は地球じゃ知らない人が、ほとんどいない程の有名だという。
(※4)デコイ 囮スキル。発動すると敵モンスターの狙いが自分に集中する。クルセイダーのスキル。アクアにもしものことがないよう、これを習得していた。
(※5)セイクリッド・エクスプロード 全身全霊を込めた凄烈な一撃を放つ必殺技。専用の聖剣からでないと発動できない。
(※6) 水のアクアがその気になると、すべての水は真水になります。