夜の帳が降りた部屋を覗いたが、明かりを灯そうとは思わなかった。
その部屋に誰もいないことから、目を背けたかったから……。
ーー※ーー
「おかえり、柚子……!」
「私は信じてたよ……。遊矢なら、きっと皆を笑顔にできるって……」
あの日、彼女が帰ってきた。レイという俺が何も知らない少女から分かれて出でて、瑠璃という俺が全てを知っている妹と同じ顔をした少女、柚子が帰ってきた。
「やったー!柚子が帰ってきた!」
「おかえり、柚子お姉ちゃん!!」
「柚子うううう!! 本当に、本当に帰ってきたんだな!!」
皆が笑い、皆が祝った。大切な人が帰ってきたのだから当然だろう。
(瑠璃……!)
俺もその輪の中に入ろうとして……その脚は止まってしまった。
柊柚子を瑠璃と呼んで駆け寄ったあの日を思い出したのだ。
たとえ柚子の中で瑠璃が生き続けているのだとしても……。
(お前の言う通りだよ、ユート。彼女は……瑠璃ではない)
柊柚子にはあんなにたくさんの仲間が、暖かい家族が、未来を生きていく世界がある。
瑠璃として、ユートやアレンの元へは、俺という兄の元へは、14年生きてきたハートランドへは、帰るまい。
「は、ハハハ……」
戦場と化したハートランドで枯れ果てた涙は出ない。周囲の祝いと喜びに抗えず、俺にはもう笑うことしか出来なかった。
「おっ! 黒咲も思わず笑っちまったか!」
「仕方あるまい! エンタメデュエルに敵うものなし!!」
「うん! やっぱり笑顔が一番だよね!!」
ああ……その通りさ。
反逆なんて闇がーー。
笑顔という光に勝てる道理などなかった!!
ーー※ーー
その部屋ーー瑠璃の部屋には、やはり誰もいない。瑠璃が使っていたカードも、瑠璃が着ていた服も、瑠璃が読んでいた本も失われた。窓は割れ、壁紙は剥がれた、荒れ果てて殺風景な一室。
ただ1枚ーー。俺とユートと、その肩を抱く瑠璃の3人が映った写真だけを遺して。
もうこの写真は二度と撮れないのだろう。ユートと瑠璃が、遊矢と柚子の中で生き続けていくとしても、ユートの眼差し、瑠璃の髪……それらの色彩はもう戻ってこないのだから。
『隼! 鉄の意志と鋼の強さはどうした! 俺達の反逆はこれからだ!!』
『何ヘラヘラ笑ってるのよ兄さん! 兄さんは兄さんなんだから、キリッとカッコつけてくれないと駄目なんだから!』
今の俺に、二人がそんな言葉をかけてくれたら、どれ程救われたことだろうか。
ユート、瑠璃……。
もし許されるなら……。
3人でずっと……反逆を……続けたかった……。