東京都練馬区に存在する一軒家...そこの時代ではのび家と呼ばれる場所の二階に彼はいた。
「〜♪」
鼻歌で交響曲第9番を歌いながら茶を淹れている。その様は素人が見ても、その道のプロが見てもお見事と息を飲む程の優美さであった。
「さて...そろそろですかねぇ」
一連の動作を終え暫くした頃、完成した茶を湯のみに移してどら焼きと一緒にお盆に乗せる。今日の彼の食後のおやつはどうやら和菓子のようだ。どちらも安物ではあるが、彼は美味しそうに頬張りながら一杯啜る。
「やはりお茶と和菓子は最高ですねぇ。人間が生み出した文化の極みだ」
余りにも美味しそうに食べるものだから、どら焼きと茶が高級そうに錯覚してしまう。そんな幸せそうな彼だが、実は一つ悩みの種が存在している。
「さて...来ましたか」
ドタドタと階段の音が鳴り響いたかと思うと勢い良くドアが蹴破られて一人の少年が入って来た。
「デビえもぉぉぉん!!」
「はぁ...本日は一体どういったご用件ですか?のび太さん」
それは、この幸せな時間が終了を迎えたと同時にこれから面倒な事が起こるという合図でもあった。何時ものように冷静に目の前の主人の悩みを聞こうとする。
「ジャイ、ウォォン!!グスッ、アアアアン!!!」
「落ち着いて、要領を得て話して下さい。さしもの私も読心術は持ち合わせてはおりませんので」
鼻水と涙を撒き散らしながら大声で叫ぶ主人にさしもの彼も笑顔を少し歪ませてしまう。だが、すぐさま冷静に何時もの笑顔へと戻るのだった。
「またジャイアンに...殴られて...ムカつくからって...グスッ」
「成る程...そういう事でしたか」
彼は黒いコートの懐に手を入れてガサゴソとあるものを探し出す。それは所謂彼の十八番でもあり彼のアイディンティティであるもの。
「ありました!こちらでございます」
つ最強バッジ〜
悪魔道具である。
「...バッジ?」
「こちらを付ければあら不思議!どんな相手だろうと喧嘩で負ける事はないでしょう」
そちらを渡しながら、彼は続けて言う。
「その代わり決して力を振り回してh「早速ジャイアンに仕返しをするよ!ありがとうデビえもん!!」
だが彼が言い終える前に少年は部屋を出て、超スピードで出掛けてしまったのであった。
「...全く、人の話は最後まで聞くものですよ。折角忠告をしようと思いましたのに...まぁ良いか」
さて...勘のいい方ならばお気付きだと思うが、このデビえもんと呼ばれる人物、所謂未来人(人では無い)である。我々が居る21世紀よりさらに100年後の22世紀からやって来た子守用執事型ロボットである。だが通常の執事型ロボットよりもかなり高性能というハイスペックぶり。
そんな彼が何故21世紀の至って普通の一軒家に居候しているかというと、彼が未来の世界では史上最悪の犯罪者だからである。タイムパトロールの追っ手から命からがら逃げて来た先がここ野比家。元々そこに住んでいた住民は訳を聞く事もなく温かく自分を迎えいれてくれた事もあり彼は恩義を感じてここに居候
「さて...本日はどういった結果になるのでしょうかねぇ?」
もとい利用させて貰っている。何故追われている身である彼が主人においそれと未来の道具を貸しているかというと件の主人が所謂特異点と呼ばれる存在だからだ
「さて...のんびりと様子を眺め「デビちゃん。悪いんだけど買い物を頼まれてくれないかしら?」おや、野比ご夫人。良いですよ、丁度暇でしたので」
特異点についての説明は追々に。彼が出かけようとしたところ主人の母と遭遇した。彼女が買い物を頼んで来たので特に断る理由のない彼は買い物用の手提げバッグを持って出掛けるのであった。
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「ふむ...どうしたものか...」
数時間後、買い物を終えて空き地へと寄り道していた彼が見たのは、ついさっき勢い良く飛び出していったご主人の泣き顔だった。
「デビえもぉぉぉん!!」
「だから忠告したでしょうに...力を振り回す様な真似をしてはいけない、と」
要約するとこうだ。あの後、すぐさまジャイアンに仕返しをしたのび太。バッジの力もあり一瞬で決着はついた。だがその後がいけなかった。容赦なく相手を完膚なきまでにボコボコにしていき、相手が謝ろうが兎に角殴り続けてしまう。その現場をたまたま目撃していたものが一人。のび太の意中の人、源静である。彼女はその光景を見てこう言った。
『のび太さんがこんなにも乱暴な人だっただなんて...酷いわ!』
その言葉は彼の心に深く突き刺さり、現在に至るという訳だ。
「(ふむ...その力を使ってあらゆるものを完膚なきまでに叩きのめすという計画は失敗の様ですねぇ)」
「デビえもぉん」
「良いですか?のび太さん。大いなる力には大いなる責任が伴うものです」
彼は泣き続けている主人を諭す口調で喋り出す。
「大いなる責任?」
「ええ。責任の無い力程、恐ろしいものはありません。今回はのび太さんにそう言ったものがどんなに恐ろしくて孤独なものか教えたくてこのバッジを渡したのですよ」
本当の目的は違うのであるが、態々いう事もないだろうと判断して彼はそれらしい言葉を主人に言う。
「でもどうしよう...きっとジャイアンやしずかちゃんに嫌われたよ...」
「なぁに。大丈夫ですよ。今はまだ取り返しが付きます。剛田さんと源さんの所へ行き謝りに行くのです」
「えぇっ、でも...」
「私も一緒に行きます。大丈夫、誠心誠意謝れば向こうもきっとわかってくれるはずです」
夕日の光が差し込み、彼の体が赤く染まる。彼は笑顔で主人に手を差し伸べてそう言うのであった。
「わかったよ。デビえもん」
「わかればよろしい」
今日も彼は友を演じる
あらゆる道具が収納されているコートを羽織りながら最高の友人を演じる...
To be continued?
気分が乗れば続くかもしれません。