めぐみんside
私は今、ギルドにきています。
朝食を食べ終えた後、シンジロウは直ぐに出かけてしまいました。1人残った私は、シンジロウに言われた通りパーティーメンバー探しを始めたのです。
…ですが、街で出会う冒険者達に声を掛けて回り、もうすでに半日が経ってしまいました。
(…どこも取り合ってくれませんね)
私がこのアクセルの街に来たばかりの頃は、アークウィザードで爆裂魔法を使えると言えば、直ぐに入れてもらえたのですが…。
爆裂魔法
(シンジロウくらいですね。私の本質を知っても一緒にいてくれたのは…)
偶然声を掛けてきた、無一文のシンジロウに下心満載でお金を貸し、一緒にクエストへ。あの時もいつものように断られるのでは無いかと思いましたが、それでもパーティーを組んでくれました。
そして、今は他の人とクエストに出ています。このままでは…。
悪い考えを払うように頭を振り、よし!っと気合いを入れて立ち上がり、ギルドでパーティーを募集していないか探してみようと思います。
(シンジロウは大人ぶったところがありますが…。私と一つしか変わりません。大人ぶっている分、まだまだ子供なんですよ。私が側にいてあげないといけませんね‼︎)
そして現在、ギルドのボードでパーティーメンバー募集の紙を見ています。
『パーティーメンバー募集‼︎アークプーリストである女神アクア様と一緒に魔王をしばいてみませんか?パーティーはアットホームで和気あいあいです‼︎』
『※上級職に限る』
…これなら私でも入れそうですね。シンジロウは上級職ではありませんが、このパーティーには最弱職の冒険者もいるみたいなので、押せばいけそうですね。
募集されてる方は…。あの方達ですね。
ギルドを見渡すと、隅のテーブルに寂しそうに男女が座っていました。
(待っていて下さい、シンジロウ!必ずパーティーに入ってみせます‼︎)
私は気合いを入れ、口上に問題が無いか確認した後声を掛けました。
「パーティーメンバーの募集を見てきたのですが、ここでよいのでしょうか?」
「えっと、はいそうですが」
私の問いに緑色の変わった服をきた男の方が返事をしました。年は16〜17くらいでしょうか?水色の髪の女性も同じくらいですね。
おや?男の方はシンジロウと似た様な、異国の風貌ですね。来ている服もシンジロウが持っている上着に似ていますね。…おっと、話が逸れましたね。
それでは…。
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者…!」
(ふっ…。決まりました!完璧です‼︎わたしの口上の素晴らしさに声も出ないようですね)
「……冷やかしにきたのか?」
「ち、ちがわい‼︎」
(マズイです!この流れはダメです‼︎…しかし負けませんよ絶対に‼︎)
こうして、私の戦いは幕を開けたのです。
ーーーーー
シンジロウside
ゴブリンの討伐を終え、無事にお宝をゲットし遺跡を出ようとしている。
(あの匂いは、なんだったんだろ?)
そんな事を考えていると、前を歩くクリスがピタリと止まり、俺の手を掴みながら《潜伏》スキルを発動させた。
「シンジロウ。いま《敵感知》に引っかかったんだけどね、初心者殺しが待ち伏せているみたい。このまま行けば確実に狙われるわ」
「でも、出入り口はここだけだよね?それに森迄は少し開けているから、隠れる場所もないよ」
俺の言葉にクリスは頷き、真剣な顔で言葉を発した。
「…うん。森に入っても初心者殺しに補足されてたら、逃げきるのは難しいの。…だからね、遺跡の前の開けた場所で迎え討って追っ払った方がいいわ。君は大丈夫?」
先程の戦闘で体力が減っている上に、水の呼吸の連発で体のあちこちに痛みを感じる。だが、そんな事を言っていられる状況じゃない。
「大丈夫だよ。遺跡を素早く出て二手に散った方がいいよね」
「そうだね。固まっていたら2人とも囚われるからね」
互いに頷きあい、出口までそっと近づく。
「行くよ。…せーの‼︎」
2人同時に飛び出し、左右に別れる。俺達が飛び出して一呼吸おくと、森の中から俺目掛けて黒い獣が飛び出してきた。
「ッ⁉︎ぐぅ!」
刀を鞘ごと抜きガードしたものの、スピードの速さに反応しきれず組み伏せられてしまった。
「グルルルァ!」
押し返そうとしても、力が強く逆に押されてしまう。
目の前に大きな二本の牙が迫り、押さえ付けられた肩と肋骨あたりに鋭い爪が食い込む。俺を殺そうと殺気立った目が、俺を睨みつける。
「シンジロウ‼︎」
ザシュ!
「グギャン⁉︎」
クリスが初心者殺しの背後から、ナイフで切りつけた。初心者殺しは俺から離れ、一度距離をとった。
「大丈夫?立てる?まだ戦える」
「コホッ!だ、大丈夫」
クリスはナイフを構えながら、初心者殺しから目を離さず俺に問い掛けて来た。
「よし!私が気を引くから、シンジロウは止めをさして」
「了解」
俺が返事をすると同時に、クリスは初心者殺しへと真っ直ぐに突っ込んでいく。
俺は隙の糸を辿り、ピンとはる瞬間を待つ。その間に《水の呼吸》を発動さる。
《水の呼吸》。全集中の呼吸と言われ、体の血の巡りと心臓の鼓動を早くさせる。血の巡りが早くさせることで、全身の筋肉と骨は強く、熱くなる。
ヒュウウウ…。
今できる最大限を呼吸へと集中させ高める。
鼓動が早く脈打つ、
全身の隅々に血が通う、
筋肉が燃える様に熱く、
高鳴る…。
ピンッ
隙の糸が張った。
「『弐ノ型 水車』!」
初心者殺しがクリスのナイフを後方に飛んで避けた瞬間。俺は全力で地面を蹴った。
その勢いのまま体を縦回転させ、日輪刀を初心者殺しの胴体に叩き込む。
鮮血が飛び散る。
「グギャン‼︎‼︎‼︎」
ひとつ大きな悲鳴をあげ、初心者殺しは地面へと倒れ込み起き上がることはなかった。
「ッ!…ハア、ハア」
「シンジロウ!…待ってて、すぐに傷の手当をするから」
クリスはポーチから回復ポーションと包帯を取り出し、手際よく傷の手当を始めてくれた。
「…ありがとう、クリス」
「いいよ、気にしないで。…まさか初心者殺しを倒しちゃうなんてね〜。最後の一撃なんてスゴかったよ!」
「クリスが居てくれたからだよ。俺1人じゃ殺されてたよ」
「あはは、それでも凄いことだよ!…それより歩ける?」
「ちょっと、キツイかも…」
呼吸を使いすぎた反動なのか、全身がガッタガタだ。耳鳴りもすごく、鼓動音が全身で響いているようだ。
炭治郎達も修行を積んでなお、使い過ぎると動けなくなっていた。それをスキルで覚えたばかりの俺では、まだまだ体がついて行けない。
クリスに肩を貸してもらい、刀を杖代わりにしてなんとか歩くことが出来た。こうして俺たちは帰路についた。
…ドーーン!
途中、街の近くの平原と思われる場所から、爆発音が聞こえた。
街に着くと俺はクリスに宿まで送ってもらい、毛布にすぐさま倒れ込んだ。
(…なんか、帰る途中に爆発音が聞こえたけど、めぐみんだよな?パーティー組めたの、かな…)
すー、すー…
「あれ?寝ちゃったのかな…」
クリスは今日1日、一緒に冒険をした少年の顔を覗き込んだ。
(寝顔を見ると、まだまだ幼いね)
熟睡する少年に手を伸ばし、ちょびっとしかない眉をそっと指で撫でた。
「…良く頑張りましたね。あなたのおかげで一つ
優しい笑みを浮かべ、そっと呟いた。
ーーーーー
シンジロウが夢の中へと旅立っている頃。
「お、おい!放せよ‼︎…ちょっ、握力強っ⁉︎」
「見捨てないでください!荷物持ちでも何でもしますから!それに、私を仲間にして貰えれば、ちょび眉剣士も付いてきます‼︎だから私を捨てないでください‼︎」
めぐみんは粘液まみれの体で、本日パーティーを組んだ少年に離れまいと必死にしがみついていた。
「ーーやだ。あの男、あんな小さな子を捨てようとしているわ」
「ーー女の子2人とも粘液まみれじゃない。どんな変態プレイをしたのよ!とんでもないクズね‼︎」
周りからヒソヒソと辛辣な言葉と冷たい視線が飛び交う。これ幸いとばかりに、口元を歪めて笑いめぐみんは声を張り上げた。
「どんなプレイでも耐えてみせます!先程のようなカエルのヌルヌルプレイでも‼︎」
「よーし分かった!めぐみん、これからもよろしくな‼︎」
アクセルの街に1人のクズで変態な少年が誕生した瞬間だった。
ーーーーー
ヌルヌルプレイ騒動の後、めぐみんはギルドにある浴場で粘液を落とし、パーティーメンバーと食事を終えすぐさま宿に戻ったのだか…。
「やりましたよ、シンジロウ!遂にパーティーが決まり、まし、た…。あれ?寝ているのですか?」
そこには毛布に包まり、スヤスヤと眠るシンジロウの姿があった。
(…ふむ、疲れているようですね。それに怪我もしているようですし)
ふとシンジロウの枕元に、少し大きめな袋とメモが置かれている事に気づき読んでみると
『今日はお疲れ様。クエストの報酬は明日受け取りに行こうか。ギルドで待ち合わせね』
(一緒に冒険した盗賊の方ですかね…)
『ps.君の寝顔可愛いね〜。お姉さんドキッとしちゃった♡』
「……」
♡
グシャッ
めぐみんは何も言わずにメモを握りつぶした。
これでクリスとの冒険編は終わりです。
そして、次回からあの人達と対面です。