この鬼殺隊士に祝福を!   作:冬威

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盗賊少女にお宝を!

 

 

この世界に来て1週間がたった。

 

今の俺の日課は朝早くに起き、部屋着からジャージとこっちで買ったズボンに着替えて、刀の基本的な動きの確認をし、その後は軽いランニング。

 

途中で荷馬車に荷物を積み込む手伝いでちょっとした小遣い稼ぎ。そのままパン屋に行き開店準備の掃除と、仕入れた小麦粉等の重い物を運んだりして前日に余ったパンを貰って宿に戻る。

 

めぐみんが起きる前に、汗を拭いて剣道の稽古着に着替える。

 

「う、ん〜。…おはようございます、シンジロウ。今日の朝ご飯は何ですか?」

 

「おはよう、めぐみん。今日はクリームパンとハムレタスサンドを貰ったぞ」

 

「おお!中々豪勢ですね。シンジロウが来てから、朝ご飯を食べる事が出来て助かります」

 

身支度をしながら、めぐみんは朝からご機嫌だ。因みにめぐみんは左目に眼帯を付けているが、別に目が見えないわけではない。初日に判明したのに疲れてて聞けず仕舞い。今更聞くのも何だからスルーしている。

 

なんとか生活は回っているのだが…。

 

冒険者稼業の方は少しも変化がない。2人でこなせそうなカエルのクエストを受け、俺が足止め、めぐみんがカエルに爆裂魔法を打ち込み、倒れためぐみんを背負って帰る。

 

一向にパーティーを組んでくれる人が見つからないのだ。

 

「…あっ!めぐみん。言い忘れてたけど、俺今日は別行動とるから」

 

「却下です。シンジロウが居なくては、爆裂魔法が打てません」

 

テーブルの向かい側に座るめぐみんは、クリームパンを頬張りながら、さも当然の様に返答した。…ほっぺたにクリーム付いてるぞ。

 

「いや、昨日の夜ギルドで会った盗賊の人と、俺だけで行こうと思っ「何故ですか⁉︎私と言うものがありながら、他の人と2人で冒険をするつもりですか‼︎」

 

俺の肩を掴み、どこにそんな力があるのだと思うぐらい、ガクガクと揺さぶってくる。

 

「まぁ、落ち着け。実は昨日なーーーー。

 

 

 

1週間たって俺のレベルは5。スキルポイントを使って《参ノ型》、《四ノ型》を覚えた。

 

だが、下級職の低レベルにも関わらず、レベルの上がりがあまり良くない。このままではいかんのでは?と思いクエストボードから、1枚の依頼書を取り考えていた。

(…『遺跡に住み着いたゴブリンの討伐任務』。これならカエルより報酬がいい上に経験値も稼げそうだな)

 

しかし、ゴブリンの数は5匹確認済みとなっている。本来なら10匹ぐらいで群れを成すようだから、恐らく遺跡内部まで未確認のようだ。

 

更にクエスト内容をよく見ると、遺跡を出来る限り傷つけないでほしいとのこと。めぐみんの爆裂魔法では遺跡ごと吹っ飛ばしてしまう。

 

(…受けたいけど、俺1人じゃムリかな?)

 

うんうん唸りながら、クエストボードの前で固まっていたら後ろから声を掛けられた。

 

「ね、ねぇ、どうかしたの?」

 

はっと我に返り振り向くと、軽装の防具に身を包み、頬に傷がある銀髪のスレンダーな美少女が立っていた。

 

「あ、私はクリス。フリーの盗賊だよ」

 

「えーと、俺は倉富 真路郎。職業は鬼殺隊士です」

 

「キサツタイシ?聞いたことないね。」

 

ふとクリスさんは俺が持つ依頼書に目を移した。

 

「…それ私も受けようと思ってたんだけど、良かったら少し話さない?」

 

クリスさんの話によると、その遺跡は少し前に山賊が根城にしようとしていたらしく、そこをゴブリンに襲われて追い出されたのではないか、とのことだ。

 

そして、山賊のお宝が残っているかもしれないから、このクエストを受けたいらしい。

 

次に俺の職業の事を聞かれ、鬼殺隊士について分かる範囲で説明し、何を悩んでいたのかも聞かれたので今の状況を説明した。

 

・パーティーは2人だけで、相方は爆裂魔法を1回使うと倒れて動けなくなる。

・倒れた後は自分が背負って戦っている。

・ゴブリン討伐のクエストを受けたいが、爆裂魔法が使えないこと。

・かといって1人で大丈夫なのか

 

クリスさんは俺の話を、苦笑いしながら聞いてくれた。それから少し考え込んだ。

 

「よし!君1人でいいのなら、私と一緒にこのクエストを受けてみよう!勿論、分け前は折半で‼︎」

 

「本当ですか⁉︎ありがとうございます‼︎」

 

願っても無い提案だったので、二つ返事で受けた。

 

 

 

ーーーーと言う事があったんだよ。今日の夜までには帰るよ」

 

俺の話を黙って聞いていた、めぐみんの頬は限界まで膨らませてムスッとしている。

 

「…そんな顔してもダメだから」

 

俺は両手でめぐみんの顔を挟み、膨らんだ頬を潰した。

 

「プヒュゥ〜。…む〜」

 

「経験値稼いでレベルも上げて、習得したスキルもきっちり使いこなせるようにしたいの!」

 

「それは…。ちなみに、その盗賊の方と、その、今後も組んだりは…?」

 

「ああ、クリスさんはフリーで活動してるから、固定のパーティーには入らないそうだよ」

 

「そう、ですか。…今回だけですよ?ちゃんと戻って来て下さいね?」

 

一応納得して貰えたみたいだ。

 

「うん。じゃあ、めぐみんは俺の居ない間もパーティーを組んでくれる人を探しといてね」

 

異世界に来て初めての遺跡に行く。ダンジョン探索みたいで、正直ワクワクだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

アクセルの街を出て、俺とクリスさんは街から離れた森に来ていた。

 

「もう少し入り込んだところに遺跡があるんだけど、今の内に確認しておこうか?」

 

「はい、クリスさん」

 

「クリスでいいよ、シンジロウ。あと敬語もいらないよ」

 

俺とクリスは歩きながら、昨日ギルドで打ち合わせした内容を反復する。

 

今回のゴブリン討伐は、5匹確認出来ているだけで、通常の群れ10匹はいる。またはそれ以上の数かも知れない。逆に逸れのゴブリンであれば5匹倒せば終わり。

 

遺跡は3階建だが、3階は崩れている。それに地下は無いらしい。古くなり所々崩れている為、昼の内は明るいので松明やランタンなどは不要。

 

まずは盗賊のスキル《潜伏》を使い、気配を消しながら遺跡に侵入。この《潜伏》は使用者に捕まっていれば、スキルを持っていなくても気配を消すことが出来る。

 

更に、《敵感知》でゴブリンに奇襲を掛け、できるだけ小分けして倒す。遺跡の様な狭い場所での戦闘に慣れていない俺は前衛を務め、クリスが遊撃でフォローに入ってくれる。

 

「ここまでは問題ないかな?」

 

「うん、大丈夫」

 

「そして、忘れちゃいけないのが…。初心者殺し」

 

この初心者殺しと呼ばれるモンスターは、サーベルタイガーのように大きな二本の牙を持っている。ゴブリン等の雑魚モンスターの周りをうろつき、それを借りに来た初心者の冒険者を狙ってくるそうだ。知能も高く、動きも素早い。

 

「初心者殺しが出た時は、出来るだけ交戦を避けて、逃げる事を考えて」

 

「うん、分かった」

 

打ち合わせの確認が終わる頃に、遺跡の姿が見えてきた。

 

「今のところ、初心者殺しの反応は無いね。遺跡の中には居ないと思うから、今の内に中に入ろう」

 

俺は無言で頷き、クリスの肩に手を置く。《潜伏》を発動させ遺跡へと侵入した。

 

「…《敵感知》に引っかかった。右の部屋に2匹いるね、反対の通路の奥、階段手前に3匹。…この分だと10匹以上いるかもね」

 

クリスは小声で情報を伝えて来た。この場合は2匹を素早く倒して、3匹を倒さないと挟み討ちにされてしまう。

 

「俺が2匹まとめて倒すよ。クリスは部屋の入り口で見張りを」

 

「うん、なるべく静かにね」

 

部屋の中を覗き込むと、2匹のゴブリンが向かいあって木の実を食べていた。2匹は距離が近いため、まとめて一掃できそうだ。俺は刀を抜きスキルを発動させる。

 

「《水の呼吸》」

 

ヒュウゥと僅かに風の音が鳴る。足に力を入れ一気に飛び出す。腕を交差せるように構え、首元に狙いを定め

 

「『壱ノ型 水面切り』」

 

交差した腕を勢いよく水平に振りきり、2匹まとめて首を切り裂いた。ゴブリンは一呼吸おいて、動かなくなる。

 

「うわ〜、君スゴイね。まとめて首切っちゃったよ」

 

クリスは俺の所に寄ってきて、ゴブリンの死体を見て…。若干引いているように見えたけど、気のせいだよね、うん。

 

「ふぅー、他のゴブリンは?」

 

「今のところ、変化無しだよ。多分階段を上がった広間に溜まってるんじゃないかな」

 

君ならどうする?と問いかけるようにクリスは見てきた。

 

「…気付かれる前に行った方が良い、かな?」

 

「うん、正解だよ。じゃあ行こうか」

 

同じ要領で近づき奇襲。階段前にいたゴブリンも2人で簡単に倒せた。

 

階段を少し上ると、敵を感知したもよう。その数は15。先に倒したものを合わせて20、どうやら二つの群れが合わさっていたようだ。

 

「…少し多いね。いけそう?」

 

《水の呼吸》を習得してから、少しずつ炭治郎と同じ「隙の糸」の匂いが分かるようになってきた。それがピンと張られた時に刀を合わせて振るえば、最適な攻撃ができる。

 

俺は少し緊張するも、深呼吸をして頷く。

 

「手筈通りシンジロウが前で、私が後ろ。好きに動いても良いけど、私の声がちゃんと聞こえるように集中し過ぎないようにしてね」

 

「うん」

 

「よし、行くよ」

 

階段を上ると直ぐに広間の入り口に差し掛かる。ゴブリンは彼方此方で、くつろいでいた。

 

クリスとアイコンタクトをとり、俺は広間に飛び込んだ。

 

「ギャギャ!」

 

俺達に気付いたゴブリン達も動き出す。《水の呼吸》を切らさないように、近くにいた1匹を斬り捨てる。勢いを殺さないように型に繋げる。

 

「…『参ノ型 流流舞』」

 

「ギャッ⁉︎」

 

流れる様な足運びで、回避と攻撃を兼ね備えた技。俺に襲い掛かってきている、ゴブリンを先頭から順に爪での攻撃を避け、すれ違い様に切る。4匹撃破。

 

一度その場から後方に飛び退き、周りを見る。クリスは俺が戦い易いように、俺の死角から襲おうとしたであろうゴブリンを3匹狩っていた。これで残り7匹。

 

残り全てを視界に入れると、7本の糸が見える。

 

刀を構える。

 

「『四ノ型 打ち潮』」

 

淀みなく動き、斬撃を繋げることで複数の首を狩れる技。7匹のゴブリンの間を無駄なく動き、隙の糸を辿りながら首を狩りとっていく、が…

 

最後の1匹が視界から外れてしまった。

 

(ッ⁉︎しまった‼︎)

 

糸が切れ慌てて辿ろうとするが、もう遅い。ゴブリンの爪が目の前まで迫ったいた。

 

爪先が頬に触れた瞬間、ゴブリンは横に吹き飛んだ。

 

「ちょっと‼︎今のは危なかったよ‼︎集中し過ぎないでって言ったでしょ‼︎‼︎」

 

声の方を見ると、いかにも怒っていますといったクリスが、何かを投げたようなポーズで立っていた。ゴブリンの飛んだ方を見ると。脇腹にナイフが突き刺さっていた。

 

「…ごめん、クリス。助かったよ」

 

ゴブリンの爪で切れた頬を拭いながら、なんだか申し訳ない気持ちになった。きっとクリスは俺に声を掛けて危険を知らせていたのだろう。

 

「ふぅ、もう良いよ。次は気を付けてね」

 

「…うん」

 

「さて、お宝♪お宝♪」

 

クリスはゴブリンに刺さったナイフを回収し、楽しそうに何の迷いもなく広間の奥に進んでいった。すると床を調べ始め、慣れた手つきで床板を剥がす。

 

「お宝発見‼︎‼︎」

 

剥がされた床を覗くと、エリス金貨が入った袋が2袋。宝石や指輪等貴金属が数個。そして古びた皮のケースがあった。中を開けると豪華な装飾が施された鞭が入っていた。

 

「鞭?これがお宝?」

 

「そうだよ。これはちょっとした力がある鞭なんだ!…ねぇ、他のお宝あげるから、この鞭は私が貰っていい?」

 

「う、うん。鞭なんて使えないから、別に良いけど…。それ売ったら高かったりする?」

 

俺の問い掛けにクリスはそーと、目を逸らした。結構なお宝っぽいな。

 

「まあ、助けて貰ったし、俺は何も文句はないよ」

 

「ホ、ホント⁉︎ありがとう〜。シンジロウは優しい子だよ」

 

よっぽど欲しいのか、わざわざ褒める必要も無いのに俺の頭を撫でてきた。完全に子供扱いされてる。少しイラっとした。

 

「よし!じゃあ帰ろうか」

 

上機嫌なクリスの後に続いて広間を出る。その時吹きさらしの窓から、風にのって外の匂いが飛んできた。

 

(…この、匂いは?)

 

 

 

 

 

 

 






今回はクリスとの出会いです。遺跡なんてのは勝手につくりましたが、真路郎のスキルを使った戦闘シーンを書きたかっただけです。この冒険は次回まで続きます。…その頃のめぐみんは?

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