遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 しばらく日常回が続くので、お話のリクエストを募集してみようかと思います!( °∀°)

 詳しくは、活動報告をご覧ください!

 コメントお待ちしております!



TURN - 7 Little Writer

 

「ソウカドさん!ぜひ取材(しゅざい)をさせてほしいのです!!」

 

「…………()?」

 

 

 

 黒縁(くろぶち)の丸メガネを掛けた、黒髪ショートの女の子に、突然そう呼び止められた。

 

 数瞬ポカンとしていたボクだったけど、念のため辺りを見回してみる。

 この渡り廊下には現状、ボクと女の子しかいない。

 どうやら彼女が言う『ソウカド』とは、ボクの事らしい。

 そもそも、こんな至近距離で声をかけられた時点で、それ以外の可能性なんてなかったか。

 

 

 

「えーっと……ボクは総角(アゲマキ)って名前なんだけど…」

 

「ふあっ!?ご、ごめんなさいなのです!間違えたのです!」

 

 

 

 女の子は頭を…というより上半身を、90度ピッタシに傾倒(けいとう)して謝った。

 

 

 

「あははっ、良いよ良いよ。(めっ)()に見ない名字(みょうじ)でしょ?」

 

 

 

 『総角』って『ソウカド』とも読めちゃうしね。(むし)ろ、なんで『アゲマキ』なんて読み方をするんだって話だ。

 我ながら珍しい名字だなって、いつも思ってる。よく人から『なんて読むの?』とか聞かれるし。

 

 

 

「うぅぅ…インタビュイーさんの名前を思いっきり間違えてしまうなんて…こんなんじゃ新聞(しんぶん)()として失格なのです…」

 

「新聞部?」

 

「あっ!も、申し遅れたのです!わたし、中等部2年の(はや)() ()(ふみ)なのです!新聞部に所属しているのです!」

 

「へぇ~!(きみ)、中等部の生徒なんだ?制服の色が高等部(ボ ク ら)と違うんだね」

 

 

 

 ()(ふみ)ちゃんの制服のデザインは、青色のブレザーとスカート。白のブラウスの襟元(えりもと)には、赤色のリボンを(むす)んでいた。

 高等部の、落ち着いた色合いの制服(そ れ)と比較すると、割りと明るめな印象を受ける。

 

 しっかし中等部2年か。ということは、年齢は14歳くらい?若いなぁ。

 

 

 

(にしても、この学園って部活とかあったんだね)

 

「ところで、ボクに取材って言うのは?」

 

「は、はいなのです!実は今度の『ジャルダン校・選抜デュエル大会』に出場する生徒の方々(かたがた)から、特に注目すべき選手を、わたしたち新聞部の独断と偏見…ゲフンゲフン!とにかく、インタビューして回っているのです!」

 

「えっ…それでボクのところに来たの?」

 

「そうなのです!なんと言っても総角(アゲマキ)さんは、転入初日にあの九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)さんと決闘(デュエル)して勝利を(おさ)めたとあって、中等部でも一躍(いちやく)有名人なのです!選抜試験に参加すると聞いて、ぜひお話を(うかが)いたいと飛んできたのです!」

 

「うひゃあ、エントリーしたのは昨日(きのう)なのに、耳が早いね」

 

「情報を逸早(いちはや)く入手するのは、ジャーナリストの基本なのです!」

 

 

 

 嬉しそうに敬礼する()(ふみ)ちゃん。

 何か既視感があると思ったら、この小動物っぽさ……ルイくんに似てる気がする。

 実際ルイくんより背も低くて小柄だし。

 

 

 

「はぁ、なるほどねぇ。でも注目って…気恥ずかしいな。九頭竜くんに勝てたのだって、ほとんど運が良かっただけだし…」

 

 

 

 しかも昨日、同じランク・Aの鷹山(ヨウザン) (カナメ)くんに負けたばかりです。

 

 

 

「またまた、ご謙遜(けんそん)を。選抜試験の参加者には、あなたの参戦を喜んでいる人も大勢いるのですよ。九頭竜(ランク・A)に勝った総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)を倒せば、必然的に自分の称号(ランク)も上がると!」

 

「なんて嬉しくない喜ばれ(かた)!!」

 

「というわけなのでして、総角(アゲマキ)さんが(よろ)しければ、取材をお願いしたいのです」

 

「……まぁ、ボクで良ければ」

 

「ありがとうなのです!」

 

 

 

 インタビューとか生まれて初めてだな。ヤバイ、何故か緊張してきた。何を根掘り葉掘り質問されるんだろうか。

 

 ……と、ボクが身構えているのを余所(よ そ)に、記文ちゃんは自分の左腕に決闘盤(デュエルディスク)を装着した。

 ん?デュエルディスク?

 

 

 

「では総角さん!いつでもどうぞ、なのです!」

 

「えっ?なんで、ディスク付けてるの?」

 

「これが新聞部(わたしたち)の取材!名付けて、『インタビュー・デュエル』!!なのです!」

 

「インタビュー・デュエル?」

 

「この広大な学園内に、正確な情報を迅速にお届けする為に編み出した、新聞部の伝統デュエルなのです。デュエルを(おこな)う事によって、その相手の人物像を知るのです!」

 

「…それはまた何と言うか……デュエルの街(ジ ャ ル ダ ン)らしいやり方だね」

 

「もちろん、デッキの内容を(さら)(よう)な報道は一切しないので()(あん)(しん)を!プライバシーには最大限、配慮するのです!」

 

「そういう事なら…良いよ、やろっか。面白(おもしろ)そうだし」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 ()(ふみ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「では僭越(せんえつ)ながら、わたしの先攻なのです!まずは3枚()せるのです!」

 

(…!いきなり3枚の伏せ(リバース)カードか…)

 

「さらに!手札から【カードカー・(ディー)】を召喚なのです!」

 

 

 

【カードカー・(ディー)】 攻撃力 800

 

 

 

「そして、召喚した【カードカー・D】をリリースする事で、カードを2枚ドローするのです!」

 

 

 

 召喚された【カードカー・D】は、早くもフィールドから退場し、記文ちゃんは2枚のカードをデッキから引いた。

 

 

 

「この効果を使用した場合、わたしのターンは終了なのです」

 

「なら、ボクのターン。ドロー!」

 

 

 

 さぁて、始めますか。インタビュー・デュエルというのがどんなものか予想もつかないけれど、ボクはボクの決闘(デュエル)をするのみ!

 

 

 

「ボクは【竜の尖兵(せんぺい)】を召喚!」

 

 

 

【竜の尖兵(せんぺい)】 攻撃力 1700

 

 

 

「モンスター効果発動!手札のドラゴン族を1枚、墓地へ送る事で、【竜の尖兵】の攻撃力を、300ポイントアップする!」

 

 

 

【竜の尖兵】 攻撃力 1700 + 300 = 2000

 

 

 

「うっ!攻撃力2000なのです!?」

 

「バトル!記文ちゃんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

「くあぁ!」

 

 

 

 記文 LP 4000 → 2000

 

 

 

(あれ?すんなり通っちゃった。絶対リバースカードで妨害されると思ったのに…)

 

「……ボクはこれで、ターン終…」

 

「待つのです!リバースカード・オープンなのです!」

 

「えぇっ!?ここで!?」

 

永続(えいぞく)(トラップ)・【ウィジャ(ばん)】発動!!」

 

 

 

 記文ちゃんのフィールドに、不気味な(ボード)が出現した。

 盤面には、アルファベットと数字が羅列しており、青白(あおじろ)い手が盤上に置かれたプランシェットに、指先を添えていた。

 

 かわいい顔して、意外とホラーチックなカードを使うね。一体どんな恐ろしい効果が…

 

 

 

「【ウィジャ盤】は相手のエンドフェイズ(ごと)に、(いち)()()ずつ【死のメッセージ】を指し示すのです」

 

 

 

 そう記文ちゃんが言うと、青白い手が独りでに動き出して、プランシェットの中心に空いた穴の中に、『D』の文字を示した。

 

 

 

「!」

 

 

 

 するとフィールド上空に、『D』の文字が(えが)かれた、おぞましい霊魂(れいこん)の様なものが浮かび上がった。

 直感で、危険だと察知した。アレ(・ ・)は放置しておくと、何か取り返しのつかない事態を引き起こす!

 

 

 

「そして、このターンで最初に刻まれる文字は…これなのです!」

 

 

 

【死のメッセージ「(イー)」】

 

 

 

 プランシェットが移動し、奇怪な音を響かせながら、新たな文字をフィールドに(きざ)んだ。

 今度は「E」か…この【ウィジャ盤】は、ボクに何を伝えようとしているんだ?

 

 

 

「これで、残る文字は「A」「T」「H」の、三つなのです」

 

「A、T、H…?……はっ…!『DEATH(デ ス)』!?」

 

「その通り!なのです!『DEATH』の五文字が揃った時、死の宣告によって、あなたの敗北が決定するのです!」

 

「……!!」

 

 

 

 (こわ)ッ!!!!!

 ゾッとした!なんだそれ!?下手(へ た)なホラー作品より怖いんだけど!!

 

 

 

「つまり、ボクに残された時間は(あと)3ターン…」

 

「なのです!」

 

「ッ…!」

 

「わたしのターン、ドロー!モンスターをセットして、ターンエンドなのです!」

 

 

 

 守備モンスターをセットするだけの、たった(ワン)プレイで、記文ちゃんはボクにターンを渡してきた。

 

 狙いは【ウィジャ盤】の効果による『特殊勝利』。とすれば守りを固めてくるのは自明の理か。

 

 

 

(ともかく、今はあの【ウィジャ盤】を何とかしないとね…!)

 

 

 

 記文ちゃんは思った以上に、やり手みたいだ。楽しくなってきた。

 ペロッと上唇の(はし)を舐めて、ボクはカードをドローする。

 

 

 

「ボクのターン!」

 

(…!やった、このカードなら、ウィジャ盤を攻略できる!)

 

魔法(マジック)カード発動!【(わな)はずし】!」

 

「!」

 

「これで【ウィジャ盤】を破壊する!」

 

「させないのです!トラップ発動!【宮廷のしきたり】!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 【罠はずし】の効果を【宮廷のしきたり】に(はじ)かれて、無効にされてしまった。

 

 

 

「【宮廷のしきたり】が()()る限り、永続(トラップ)を破壊する事は出来(で き)ないのです!」

 

「やっぱり対策はしてくるかー…そりゃそうだよね…」

 

(だったら…守りを打ち崩して、速攻あるのみ!)

 

「【フェアリー・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 1100

 

 

 

「行くよ!【竜の尖兵】で、壁モンスターを攻撃!」

 

 

 

 竜の尖兵の(あやつ)長槍(ながやり)が記文ちゃんの守備(セット)モンスターを刺し(つらぬ)く。

 裏側表示だったカードが反転し、そのモンスターの正体が明らかになる。

 

 

 

薄幸(はっこう)の美少女】 守備力 100

 

 

 

「げっ!?」

 

「フフフッ、その反応は知っているのですね!【薄幸の美少女】が破壊された時、相手モンスターの戦意を喪失(そうしつ)させ、バトルフェイズを強制(きょうせい)終了(しゅうりょう)するのです!」

 

 

 

 フェアリー・ドラゴンと竜の尖兵は、やる気を無くして戦闘不能となった。

 

 

 

「くっ…!ターン終了(エンド)…!」

 

「この瞬間!ウィジャ盤が三つ目の『メッセージ』をフィールドに(しる)すのです!」

 

 

 

【死のメッセージ「(エー)」】

 

 

 

「デッキから【死のメッセージ】カードを、魔法(マジック)(トラップ)ゾーンに置くのです」

 

 

 

 記文ちゃんは、デュエルディスクのサーチ機能で【死のメッセージ「A」】のカードを取り出して、それを魔法(マジック)(トラップ)カードゾーンにセッティングした。

 

 フィールドには「D」「E」「A」。すでに3つのメッセージが(なら)んでいる。

 五文字の全てが(そろ)うまで、残り2ターン。いよいよ本格的に余裕が無くなってきた……ん?

 

 

 

「…ねぇ記文ちゃん!もうカードをセットするスペース、無いんじゃない!?」

 

 

 

 よく見ると、記文ちゃんのディスクの魔法(マジック)(トラップ)ゾーンは、もう5枚のカードで埋まっていた。

 セット出来るカードの上限は、フィールド()(ほう)カードを(のぞ)き、通常5枚まで。

 その5ヶ所のスペース全部にカードが置かれていては、新たな『メッセージ』カードを出す事なんて出来ない。

 

 

 

「心配には及ばないのですよー、総角(アゲマキ)さん!わたしのターン!手札から、フィールド魔法・【ダーク・サンクチュアリ】を発動!」

 

 

 

 ディスクの『フィールド魔法カードゾーン』に、1枚の魔法(マジック)カードがセットされる。

 

 それと同時に、フィールド全域が(やみ)に覆われた。

 

 

 

「!これは…うげっ!?」

 

 

 

 赤黒(あかぐろ)(そら)に次々と、巨大な()(くち)(ひら)き出した。気持ち(わる)ッ!!

 

 

 

「【ダーク・サンクチュアリ】の効果で、わたしは【死のメッセージ】カードを、モンスターカードゾーンにも置くことが出来るのです!」

 

「!?」

 

「モンスターを1体セットして、ターン終了なのです!さぁ、あと2ターンしか残ってないのですよ!」

 

「やるね…ボクのターン!」

 

 

 

 こうなると、もう無駄にターンを浪費している(ヒマ)は無い。このターンで状況を打開しないと…!

 

 

 

(…記文ちゃんのフィールドには守備モンスターが1体のみ。ここで攻めない手はない!)

 

「【竜の尖兵】で、セットモンスターに攻撃!」

 

 

 

 再び【竜の尖兵】が先んじて攻撃を仕掛ける。

 攻撃力2000もあれば、(なみ)のモンスターなら倒せる。

 

 

 

邪霊破(スピリット・バーン)!!」

 

「うわっ!?」

 

 

 

 突如、竜の尖兵の身体から、幽霊(ゴースト)らしき何か(・ ・)が飛び出してきて、ボクを攻撃した。

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3000

 

 

 

「…ッ…!?」

 

 

 

 死ぬ(ほど)ビックリした。ライフより心臓に(だい)ダメージだよ!

 

 

 

「【ダーク・サンクチュアリ】の、もうひとつの効果なのです!相手モンスターが攻撃する時、2(ぶん)の1の確率で攻撃(そ れ)を無効にし、そのモンスターの攻撃力の、半分のダメージを相手に与えるのです!」

 

「…でも、まだ【フェアリー・ドラゴン】の攻撃が残ってるよ!行け!」

 

 

 

 続けて【フェアリー・ドラゴン】の攻撃。ここは、ダメージ覚悟で(おく)さず攻める!

 

 

 

「すごい度胸なのですね!受けて立つのです!【ダーク・サンクチュアリ】の効果を発動!」

 

 

 

 来る…!当たりか外れか…確率は2分の1。なんだか九頭竜くんとの決闘(デュエル)を思い出すね。

 

 

 

「…ざんねん。邪霊破(スピリット・バーン)!!なのです!」

 

「うっ…!」

 

 

 

 セツナ LP 3000 → 2450

 

 

 

 またもや悪霊に強襲された。つくづくツイてない。

 結局このターンも、記文ちゃんのライフを減らせずに終わった。

 

 

 

「ターンエンド。あははっ、参ったなぁ。強いね、記文ちゃん」

 

「ウィジャ盤!効果発動なのです!」

 

 

 

 身の毛のよだつ怪音。耳に残りそうだから()めてほしい。

 

 

 

「デッキから【死のメッセージ「T」】を、モンスターゾーンに守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【死のメッセージ「T」】 守備力 0

 

 

 

「モンスター(あつか)いで召喚された【メッセージ】カードは、【ウィジャ盤】以外の効果を受けず、攻撃対象にもならないのです!」

 

 

 

 さぁ困ったぞ、いよいよ(がけ)っぷちだ。

 

 

 

「わたしのターンは…ドローだけして、終了するのです」

 

「遂にボクの最終(ラスト)ターンか…」

 

「そうなのです!あなたが『ターン終了(エンド)』を宣言した時、それは(すなわ)ち、この決闘(デュエル)の『ゲーム終焉(エンド)』を意味するのです!さぁ、あなたに残されたこの(ワン)ターンで何が出来るのか!見せてもらうのです、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)さん!」

 

「……ボクのターン…」

 

 

 

 正直、中等部の子だからって、甘く見てたのかもしれない。

 

 フィールドに現存している【死のメッセージ】カードは「D」「E」「A」「T」の4文字。

 ここに(あと)1文字、「H」のカードが加われば、その瞬間にボクは、【ウィジャ盤】の死の宣告を受けて敗北する。

 

 勝利条件は

 1・【ウィジャ盤】を対処する。

 2・記文ちゃんのライフを(ゼロ)にする。

 

 以上、二通(ふたとお)りしかない。

 

 いずれにせよ、このターンで決闘(デュエル)の勝敗が決まる。

 

 

 

「…ゾクゾクするね……良いよ。先輩として、カッコイイ逆転(げき)披露し(み せ)てあげる!」

 

「負けないのです!」

 

「ドロー!」

 

 

 

 たった今ドローしたカードを横目で確認し、ボクは口角を上げた。そして早速そのカードを使用する。

 

 

 

「ボクは手札から魔法(マジック)カード・【左腕の代償】を発動!手札を全てゲームから除外し、デッキから()(ほう)カードを1枚、手札に加える!」

 

 

 

 4枚の手札を全て除外して、デッキから1枚のカードをサーチする。

 ボクが選んだ魔法(マジック)カードは…

 

 

 

「ボクは【()(ほう)(じょ)(きょ)】を手札に加え、発動!【死のメッセージ「A」】を破壊する!」

 

「なっ!?」

 

「フフッ、気づかないとでも思った?【死のメッセージ】カードは、1枚でも(フィールド)を離れた場合、【ウィジャ盤】もろとも全て消滅するんだよね?」

 

 

 

 これで記文ちゃんのコンボは途切れる(はず)

 

 

 

「甘いのです!(トラップ)発動!【悪魔の手鏡】!」

 

「ッ!」

 

「【魔法除去】の対象を、【ダーク・サンクチュアリ】に移し替えるのです!」

 

 

 

 ダーク・サンクチュアリの空間が粉々(こなごな)に砕け散り、元の景色へと戻った。

 【ウィジャ盤】を(こわ)すという、当初の(もく)()()は失敗に終わったけど、あの厄介(やっかい)な『邪霊破(スピリット・バーン)』が消えたのだから、僥倖(ぎょうこう)と捉えるべきだろう。

 

 

 

「【ダーク・サンクチュアリ】が消えても、モンスターゾーンに召喚した【死のメッセージ】は、フィールドに(とど)まり続けるのです!」

 

「なら!【フェアリー・ドラゴン】で、セットモンスターに攻撃!」

 

 

 

 フェアリー・ドラゴンの攻撃対象に選択された、セットモンスターが表側表示になる。

 

 

 

【執念深き老魔術師】 守備力 600

 

 

 

 相手モンスターの守備力より、フェアリー・ドラゴンの攻撃力の方が高い。

 戦闘(バトル)の結果、【執念深き老魔術師】は破壊された。……しかし。

 

 

 

「フッフッフー、引っ掛かったのです!【執念深き老魔術師】の、リバース効果!【竜の尖兵】を、破壊!」

 

 

 

 老魔術師が死に(ぎわ)(はな)った魔法攻撃で、竜の尖兵は滅殺(めっさつ)されてしまった。

 

 

 

「くっ…!」

 

「これで総角(アゲマキ)さんの場には、もう攻撃できるモンスターは残っていないのです!」

 

「…………」

 

(あと)は【悪魔の手鏡】が発動して()いたスペースに、最後の【死のメッセージ「(エイチ)」】を置けば、『DEATH』の五文字が揃い【ウィジャ盤】の効果が成立して、わたしの勝利なのですー!わーいわーい!」

 

「……それはどうかな?」

 

「えっ?」

 

「記文ちゃん。(きみ)唯一(ゆいいつ)悪手(ミ ス)は、【竜の尖兵】を破壊(・ ・)したこと!それがボクの逆転を可能にした!」

 

「なっ…!り、リバースカードも手札も無い状態で、何を言ってるのですか!?」

 

「【竜の尖兵】のモンスター効果!相手のカード効果で墓地へ送られた時、墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を、特殊召喚できる!」

 

「ぼ、墓地から!?そんなの一体いつ……あっ!」

 

「そう。最初に竜の尖兵の効果で、手札から墓地に捨てたカードだよ」

 

「まさか…そこまで見越して…!?」

 

「現れろ!ボクのデッキの切り札(エース)!【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「これが総角(アゲマキ)さんの…エース・モンスターなのです…!?」

 

「モンスターゾーンに()る【死のメッセージ「T」】は、攻撃対象に選択できない。その場合、ボクの攻撃は、プレイヤーへの直接攻撃になる!」

 

「し、しまったのですー!!」

 

「チェックメイトだ!【ラビードラゴン】で、記文ちゃんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 

 

 - ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

「なのですうぅぅぅッッ!!!?」

 

 

 

 記文 LP 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエル終了後、記文ちゃんは(なが)椅子(イ ス)に腰を下ろして休憩していた。

 ボクは近くの自販機で購入した、2本の缶コーヒーを両手に持ち、彼女の隣に座る。

 そして、1本を記文ちゃんに手渡した。

 

 

 

「はいコレ」

 

「ええっ!?良いのですか!?」

 

「楽しい決闘(デュエル)だったからね。そのお礼ってことで」

 

「あ、ありがとうなのです!」

 

 

 

 記文ちゃんは目を輝かせて缶コーヒーの(フタ)を開け、グイッと飲み始めた。見ていて実に微笑(ほほえ)ましい。

 

 

 

「それで、どうだった?インタビューの方は」

 

「はいなのです!とても良い記事が書ける気がするのです!ご協力、感謝なのです!」

 

「良かった。記文ちゃんの記事も楽しみにしてるよ」

 

 

 

 あっ、そろそろ授業の時間だ。早めに教室に帰るとしよう。

 

 

 

「じゃあ、ボクは行くよ。頑張ってね」

 

「もちろんなのです!……あっ!最後に(ひと)つだけ、お聞きしたいのです」

 

「なに?」

 

「今回の『選抜デュエル大会』への、意気込みを教えてほしいのです!」

 

 

 

 ふむ、意気込みかぁ…特に考えてなかったけど……それじゃあ、こう答えよう。

 

 

 

「打倒・鷹山(ヨウザン) (カナメ)。…かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記文ちゃんにインタビュー・デュエルを挑まれてから、数日が経過した。

 

 教室で端末をいじって暇潰(ひまつぶ)しをしていると、PDAの通知音が鳴った。何かを受信したらしい。

 

 PDAのメニューを開くと、一通のメールが届いていた。どうやら全校生徒に一斉送信された物のようだ。学園からのお知らせだろうか。

 

 メールのアイコンを指先でタップすると、内容が画面いっぱいに表示された。

 

 

 

「……あぁ、そっか。これって…」

 

 

 

 それは学園の新聞部が配信した、例の『選抜試験』に関する記事だった。

 タイトルは『第××回・選抜デュエル大会!!注目株に、突撃インタビューをしてみた!!』と、大々的に書かれている。

 先日、記文ちゃんが言っていたヤツだ。

 

 文面には、生徒達の(かお)写真(じゃしん)が名前順で、ズラリと並べられていた。この全員が試験に参戦する決闘者(デュエリスト)達なのか。こうしてみると壮観だね。なんか目がパチパチする。

 

 きっと、この中の何割かは、あの記文ちゃんのインタビュー・デュエルを受けたんだろう。

 凶悪な【ウィジャ盤】コンボに、さぞ苦しめられたに違いない。

 

 勿論(もちろん)ボクの名前と顔も、しっかりと掲載されていたよ。目を皿にして探すまでもなく、あ(ぎょう)で真っ先に見つかりました。

 マジでか!本当に載っちゃってるよ、ボク!まさかの新聞デビューだ!

 

 ちょっとドキドキしながら、自分の欄を拝読してみる。

 

 

 

 『総角(アゲマキ) 刹那(セツナ) - 2年生

 

 ジャルダン校に彗星(すいせい)(ごと)く現れた、期待のダークホース!

 その卓越した予測不可能な戦術(タクティクス)には、記者も脱帽の一言!

 打倒・鷹山(ヨウザン) (カナメ)を宣言!果たして番狂わせなるか!?』

 

 

 

 …………(みじか)っ!!予想以上に簡潔明瞭だったよ!

 まぁこれだけの人数を特集してたら、一人(ひとり)一人(ひとり)そこまで詳細には記述できないか。

 ボクは別に問題ないけどね。載せてくれた事に感謝しなきゃ。

 

 

 

(…そう言えば、アマネやルイくんに九頭竜くん、あと、カナメは載ってるかな?)

 

 

 

 仲の良い友達や、知り合いの記事を探して、PDAの画面に夢中で指を走らせる。

 

 選抜デュエル大会か……せっかく参加するなら、とことん楽しまないとね!

 

 

 

 





 Q・インタビュー・デュエルって?

 A・奴をデュエルで取材せよ!

 まるで意味が分からんぞ!!

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