遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 運命の二人……もとい、宿命のライバル対決、決着です!



TURN - 51 FATED RIVAL - 2

 

『コレはとんでもない事が起きてしまったぁ~~~っ!! これまで数多(あまた)決闘者(デュエリスト)(かん)()なきまでに叩き伏せ、(ひざまず)かせてきた学園〝最凶〟・鷹山(ヨウザン) (カナメ)選手が! 今ッ! もう一人の学園〝最強〟・九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)選手の前に、跪いてしまっているではないかぁ~~~っ!!』

 

 

 

 カナメ LP(ライフポイント) 1000

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 3500

 

【ABC-ドラゴン・バスター】 攻撃力 3000

 

()(へん)機獣(きじゅう) ガンナードラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

 九頭竜くんの【リボルバー・ドラゴン】に次ぐ新たな切り札 ── 【ABC-ドラゴン・バスター】の直接攻撃(ダイレクトアタック)を受けたカナメは、ライフポイントを4分の3も失った上、今MCのマック伊東さんが実況した通り……片膝(かたひざ)を地につけ、(こうべ)を垂れてしまっていた。

 

 今まで誰が相手だろうと、顔色ひとつ変えず、余裕の表情で勝ち続けてきた、あのカナメがだ。

 

 そしてカナメの対戦者にして、彼の膝を折った張本人こと九頭竜くんは、そんなカナメを見下ろすと……

 

 

 

「………くっ……ククッ! ── ハハハハハハハハッ!!」

 

 

 

 心の底から愉快そうに、大口を開けて笑い出した。言っちゃ悪いけど……あんなに凶暴な笑顔は初めて見た……!

 

 

 

()(ざま)だなぁ鷹山ッ!! どんな気分だぁっ!? てめぇが散々()(くだ)してきた敗者(ヤツら)と、同じ目線で俺を見上げるのはよぉっ!! ハァーッハハハハハッ!!」

 

「…………」

 

 

 

 九頭竜くんが笑いたくなるのも無理はない。彼は2体の最上級モンスターを従え、ライフポイントもカナメの3倍以上。

 オマケに手札もまだ2枚あるから、1枚だけでも残しておけば、手札コストと引き換えに相手ターン中にもカードを除外できる【ABC】の効果を、次のカナメのターンで確実に発動可能。

 

 対してカナメはモンスターも場に居なければ手札も(ゼロ)。発動済みの永続(トラップ)2枚と、伏せカード1枚がセットしてあるだけだ。

 

 これってもしかして……もしかしちゃうの!?

 

 

 

「ヒュー♪ こりゃスゲぇ。やるねぇ、キョーゴのヤツ」

 

 

 

 ボクと一緒に観戦している、髪色がアッシュグレーで両耳にトランプのピアスを付けた二枚目 ── 狼城(ろうじょう) (アキラ)くんが口笛を吹いた。

 

 

 

「……ねぇ、狼城くん」

 

「ん?」

 

「カナメ……負けちゃうと思う?」

 

「なんでぇ、見守る彼女みてーに心配そうな(ツラ)してよ。負けてほしくねぇってか?」

 

「そ、そりゃあ、まぁ……カナメにリベンジしたくて、ここまで来たんだし……」

 

 

 

 ボクは頭の後ろを軽く()いて、バツが悪そうに答えた。

 

 

 

「ほぉ~? つまりオレぁ眼中にねぇと」

 

「あっ、ち、違うよ!? そういう意味じゃなくて!」

 

「ハハッ、わぁってるって、ジョーダンだよ。……まっ、どうなっかはオレにも分かんねっけどよ、このまますんなり()()がつくたぁ、キョーゴも思ってねーんじゃね?」

 

「………」

 

 

 

 舞台に視線を戻すと、ずっと(うな)()れていたカナメが……何やら肩を震わせていた。

 

 

 

「………素晴らしい……」

 

「あ?」

 

「この痛みだ……この痛みこそが俺を本気にさせる……! フッ……フフフ……ハハハハッ……!」

 

 

 

 そして……ゆっくりと身体を、左右にフラフラ揺らしながら立ち上がった。すると ──

 

 

 

「 ── ハハッ、ハハハハッ! フハハハハハハハッ!! 素晴らしいッ!! 素晴らしいぞ九頭竜ゥッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 こ、今度はカナメまで笑い始めた!?

 

 天井を(あお)ぎ見たカナメの、異様な高笑いが会場内に響き渡る。

 数秒後、それが止まったかと思うと、カナメは息を大きく吸って首をガクンと下げ、九頭竜くんに顔を向けた。

 

 ……その表情は口角が吊り上がり、目はこれでもかと言うくらい見開かれて、ゾッとするほど()(えつ)(ゆが)んでいた。

 

 

 

「そうだコレだァッ!! この全身が焼けつく様な、極限の勝負ッ!! これこそ俺が待ち望んでいた決闘(デュエル)だッ!! 素晴らしいッ!! 九頭竜、お前は俺の期待を、遥かに上回ったんだッ!!」

 

 

 

 ……カナメって、あんな笑い方もするんだね……ちょっと、というか……かなりビックリしたよ。

 

 

 

「どんな気分だと()いたな九頭竜ッ!? 最高だッ!! あぁ、実に最高な気分だよッ!! ハハハハハハッ!!」

 

「……チッ! ふざけた野郎だ……。何を(わめ)こうが、てめぇはこのターンで終わりなんだよっ!! ()れ! 【ガンナードラゴン】!!」

 

「フフフッ、九頭竜……! 俺のフィールドを、よく見てみろ!」

 

「!?」

 

 

 

 ボクは一瞬、自分の目を疑った。

 

 さっきまで九頭竜くんのフィールドにいた筈の【ABC】が……

 

 いつの間にか ── カナメのフィールドに瞬間移動していたんだ。

 

 

 

【ABC-ドラゴン・バスター】 攻撃力 3000

 

 

 

「なっ……バカな!? なんで俺の【ABC】が、てめぇの場に居やがる!?」

 

(トラップ)カード・【痛恨(つうこん)(うった)え】を発動させてもらった! このカードはダイレクトアタックを受けた時に発動し、相手フィールドで最も守備力が高いモンスターのコントロールを、次の俺のエンドフェイズまで得る事ができる! ただし、効果は無効となり、攻撃もできないがな」

 

「てめぇ……っ!」

 

『よ、鷹山選手、九頭竜選手のモンスターを壁とする事で追撃を防いだァーッ!』

 

 

 

 3体のユニオンモンスターを合体させて融合召喚した【ABC】には、逆に分解して元の3体に戻れる第2の効果があったけど、それを使えるのは相手ターンだけ。

 コントローラーである九頭竜くんのターン中なら、カナメのカード効果をサクリファイス・エスケープで回避する事はできない。

 

 カナメはダイレクトアタックされるのを想定して、この(わな)を張っていたのか……

 

 

 

「……俺はこれで、ターン終了(エンド)だ……!」

 

「どうした九頭竜! もっと減らせ! もっと俺を(たの)しませてみせろぉ!!」

 

「うるせぇっ!! てめぇのターンだ、さっさとしやがれっ!!」

 

「フフフフッ……ここからが本当の決闘(デュエル)の始まりだッ!! 俺の……タァァーンッ!!」

 

 

 

 いきなりハイテンションになったカナメは、普段の彼からは想像もつかないほど大仰(おおぎょう)な動きで、カードを引き抜いた。

 

 

 

「俺は手札から魔法(マジック)カード・【命削りの宝札】を発動ッ!! 俺の手札は(ゼロ)枚。よって3枚ドローするッ!」

 

(野郎……こんな時に引きが冴えてやがる……!)

 

「まぁだだァッ!! 【マジック・プランター】発動ッ! 【連撃の帝王】を墓地へ送り、さらに2枚ドローするゥ!!」

 

「連続ドローだとっ!?」

 

「当然だ! 俺のデッキには、手札増強カードを大量に入れてあるのだからな!」

 

(クソッタレがっ……! あのクソガキと同じ様な真似しやがって!)

 

『なんと恐るべき引きの強さ! 鷹山選手、(ゼロ)だった手札をあっという間に4枚まで増やしたァーッ!』

 

「さて、手札の補強は済んだ……。 ── 始めようか九頭竜ッ!!」

 

「!」

 

「手札から速攻魔法・【帝王の烈旋(れっせん)】を発動! このターン、アドバンス召喚する場合、自分のモンスターの代わりに相手モンスターを1体リリースできる!」

 

「なにっ!?」

 

「俺はお前の【可変機獣 ガンナードラゴン】をリリースし! 【風帝(ふうてい)ライザー】をアドバンス召喚ッ!!」

 

 

 

【風帝ライザー】 攻撃力 2400

 

 

 

「【ライザー】の効果発動! 召喚に成功した場合、フィールドのカード1枚をデッキの一番上に戻す! 俺が戻すのは……【ABC-ドラゴン・バスター】!!」

 

「!?」

 

「だが! 融合モンスターはメインデッキには戻らず、エクストラデッキに戻る! 『バウンス・ウィンド』!!」

 

 

 

 【風帝ライザー】の起こした突風に煽られて、カナメのコントロール()にあった【ABC】は、九頭竜くんのデュエルディスクへと飛ばされる形で帰された。

 

 どうして【ABC】をリリースしなかったんだろう? ボクはその疑問を口に出す。

 

 

 

「わざわざ九頭竜くんのエクストラデッキに戻すなんて……あんな事して何の意味が ──」

 

「分かんねーのかセツナ君よぉ? これで、もっぺん【ABC】を召喚すんには、また1から素材を揃えなきゃいけなくなったんだぜ」

 

「あっ……!」

 

「 ── が、肝心の素材モンスターは、とっくに3体とも除外しちまってる。……まっ、【異次元からの埋葬(まいそう)】とか使えば別だけどよ。ともかくこれで……」

 

 

 

 ……【ABC】は、ほぼ封じられたも同然……!

 

 あれだけ感情的になってても、カナメの冷静な判断力は健在ってわけだね。

 

 

 

「さらに俺は【真源の帝王】の効果を発動! 墓地の【連撃の帝王】と【帝王の烈旋】をデッキに戻し、1枚ドローする!」

 

 

 

 これでカナメはこの1ターンで、通常のドローと合わせて7枚もカードを引いた事になる。

 

 

 

「【命削りの宝札】を使ったターン、お前にダメージは与えられない。俺はカードを1枚伏せ……永続魔法・【アドバンス・フォース】を発動してターンエンド! エンドフェイズに【命削りの宝札】の代償として、手札を全て捨てる」

 

 

 

 最後に1枚だけ残った手札を墓地へ送って、カナメのターンは終了した。

 

 

 

「さぁ九頭竜! お前のターンだッ!」

 

「ケッ、言われるまでもねぇよ! 俺のターン!」

 

( ── ! ククッ、分かってんじゃねぇか、俺のデッキよぉ)

 

「【強欲で貪欲な壺】を発動! デッキの上から裏側で10枚カードを除外し、2枚ドローだ!」

 

『あぁーっとッ! 九頭竜選手も負けじと手札を4枚に増やしたぁ!』

 

「俺がてめぇに遅れを取るなんざ有り得ねぇんだよっ!! 手札から【シャッフル・リボーン】発動! 復活しろ ── 【ガンナードラゴン】!」

 

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

「まだだっ! 墓地の【シャッフル・リボーン】を除外して効果発動! 俺はフィールドの【前線基地】をデッキに戻し、もう1枚ドローするぜ!」

 

(……よし、来やがったな。次はお前の番だ!)

 

「行くぜ、バトルだ! 【ガンナードラゴン】で【風帝ライザー】を攻撃!」

 

「くくくっ、そうだ! その調子だ!」

 

 

 

 【ガンナードラゴン】は頭部と車体の砲身から、計4発の砲弾を射出した。

 

 半分は【風帝ライザー】に被弾し、もう半分は超過ダメージとしてカナメを狙う。

 

 だけど標的となったカナメは身を(かば)うどころか、むしろ歓迎するかの様に両腕を目一杯に広げて、自分の身体を撃ち抜かせた。

 

 

 

「ハハハハハハハッ!!」

 

 

 

 う、撃たれながら笑ってる……!

 

 

 

 カナメ LP 1000 → 600

 

 

 

「さらに魔法(マジック)カード・【生け贄人形(ドール)】を発動! 【ガンナードラゴン】をリリースし、手札のレベル7モンスター・【リボルバー・ドラゴン】を特殊召喚!!」

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

 ── ! この流れは……ボクと決闘(デュエル)した時と、全く同じ……!

 

 

 

『出たァァーッ!! 九頭竜選手を象徴するエースモンスター・【リボルバー・ドラゴン】ッ!! 【シャッフル・リボーン】の効果でエンドフェイズに除外されてしまう【ガンナードラゴン】を、更なる上級モンスター召喚の布石にするとは、なんという高度なタクティクス! さすがIQ200は伊達じゃないッ!』

 

「【リボルバー・ドラゴン】か……フフフッ。やはりお前と言えば、そのモンスターだな」

 

「俺はターンエンドだ。除外した【シャッフル・リボーン】の効果で、手札を1枚除外する」

 

 

 

 スゴい……なんて高次元な闘いだ……! 一瞬でも(すき)を見せた方が負ける……!

 

 だと言うのに……いや、だからこそか。

 

 

 

「フフフフフフッ、ハハハハハハッ!! アーッハハハハハッ!!」

 

 

 

 カナメは、今が幸せの絶頂と言わんばかりに、また半狂乱で笑い声を上げた。

 

 

 

(たかぶ)る! 昂るぞぉ!! 九頭竜、お前との決闘(デュエル)はいつだってそうだった! 知略と精神を張り巡らせた、ギリギリの闘い! それが……常にこの俺の限界を引き出してきたッ!!)

 

「俺のタァ"ーンッ!!」

 

九頭竜(おまえ)の存在が、俺の全身からアドレナリンを掻き出し! この身体の中の、血液を沸騰(ふっとう)させるゥ!!)

 

「リバースカード・オープンッ! 永続(トラップ)・【()(げん)の帝王】ッ!!」

 

 

 

【始源の帝王】 守備力 2400

 

 

 

「【アドバンス・フォース】の効果により、レベル7以上のモンスターをアドバンス召喚する場合、レベル5以上のモンスター1体をリリースして召喚できる!」

 

「チッ! レベル8の【(みかど)】を引きやがったか……!」

 

「その通りッ! 俺はレベル6の【始源の帝王】をリリースし ── 現れるがいいッ! 【烈風帝(れっぷうてい)ライザー】!!」

 

 

 

【烈風帝ライザー】 攻撃力 2800

 

 

 

 どこからともなく吹き込んだ強風と共に現れたのは ── 風の帝王、その最上位。

 

 

 

「アドバンス召喚に成功した事で、【烈風帝ライザー】のモンスター効果発動ォ! フィールドのカード1枚と、自分または相手の墓地のカード1枚を、好きな順番でデッキの上に戻す! 俺が戻すのは ── お前の場の【リボルバー・ドラゴン】と、俺の墓地にある【マジック・プランター】!」

 

「っ!」

 

「『リジェクション・ウィンド』!!」

 

 

 

 【ABC】の時と同様、【リボルバー・ドラゴン】も暴風に巻き込まれてフィールドから消し飛ぶ。

 そして九頭竜くんとカナメは、【烈風帝ライザー】の効果対象となった自分のカードを、それぞれのデッキの一番上に戻した。

 

 

 

『なんとっ!? これで九頭竜選手の場は、ガラ空きだぁーっ!!』

 

「ぐっ……!」

 

「バトルだァッ!! 俺の渇きを受けてみろ九頭竜ッ! 【烈風帝ライザー】で、ダイレクトアタックッ!!」

 

 

 

 次に【烈風帝ライザー】は、自分の身体に烈風を(まと)わせると、自らが竜巻(たつまき)となって九頭竜くん目掛けて飛んでいく。

 

 

 

「吹き(すさ)べっ! 『インペリアル・ストーム』ッ!!」

 

 

 

 九頭竜くんの手前の床に激突した【烈風帝ライザー】。硬い盤面をも(えぐ)る衝撃が、巻き上がった()(れき)と共に九頭竜くんを吹き飛ばした。

 

 

 

「ガァァァァァッ!!」

 

 

 

 九頭竜 LP 3500 → 700

 

 

 

『九頭竜選手に痛恨(つうこん)の大ダメージィィィッ!! その上、次にドローするカードは【リボルバー・ドラゴン】と確定している! これはいよいよ、勝負が見えたかぁーっ!?』

 

「 ── っ!!」

 

 

 

 そのままステージ上に背中から叩きつけられる ── かと思いきや……

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 九頭竜くんは、空中で体勢を立て直して見事に着地し、(かが)んだ姿勢のままスライディングで後退(こうたい)しつつ、徐々に勢いを殺して停止した。

 

 そして直後 ──

 

 

 

「…………勝負が見えただぁ……?」

 

 

 

 怒りの形相(ぎょうそう)で、彼は叫ぶ。

 

 

 

「ナメんじゃ……ねぇぞぉォォォオッ!!」

 

「!」

 

『ヒィッ!?』

 

(トラップ)発動っ! 【ダメージ・コンデンサー】!!」

 

 

 

 激昂しながら九頭竜くんが発動したのは、後攻1ターン目にセットしていた伏せカード。

 

 

 

「手札を1枚捨て、俺が受けた戦闘ダメージ ── 2800以下の攻撃力のモンスターを、デッキから特殊召喚っ! 出やがれぇぇぇっ!! 【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】!!」

 

 

 

【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

『お……おぉーっとぉ! 九頭竜選手、やはり転んでもタダでは起きないッ! またもや鷹山選手に対抗するかの様に、こちらも【リボルバー・ドラゴン】の進化版である、【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】を召喚したァァーッ!!』

 

 

 

 マック伊東さんの(うわ)()った声での実況に、狼城くんが一言(ひとこと) ──

 

 

 

「しかも、そんだけじゃねーぜ?」

 

 

 

 と、付け加えた。

 

 

 

「 ── デッキからモンスターを召喚した事で、俺はデッキをシャッフルさせてもらう!」

 

「っ! ほう……!」

 

『う、上手いっ!! これで次のドローカードは分からなくなった!』

 

 

 

 なるほど~! 器用な(かわ)し方をするなぁ、九頭竜くん。

 

 

 

「言ったろうが鷹山っ! 俺がてめぇに遅れを取るなんざ、有り得ねぇってよぉっ!!」

 

「フフフッ、そうでなくてはッ……本当に最高だよ、お前は……!」

 

「【デスペラード】の効果発動! 『ロシアン・ルーレット』!!」

 

 

 

 【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】は、頭と両腕のピストル(リボルバー)のシリンダーを回転させる。

 

 ルーレットの結果は……九頭竜くんの豪運(ごううん)が最大限に発揮された、驚異的なものとなった。

 

 

 

「 ── ルーレットは、3つ全てHIT(ヒット)だっ!!」

 

「なんと……っ!」

 

「【烈風帝ライザー】を撃ち殺せっ!!」

 

 

 

 1発の銃弾が、【烈風帝ライザー】を貫く。

 

 【ガトリング・ドラゴン】とは違い、当たった数『まで』表側表示モンスターを選んで破壊する効果なので、3つヒットしても破壊は1体だけで(とど)められるというわけだ。

 

 

 

「ハッ、他愛もねぇ! 【デスペラード】のルーレットが3つ全て当たった時、俺は1枚ドローできる!」

 

「この局面で……さすがだな。俺はターンエンドだ」

 

『ま、またまた形勢逆転ーッ!? しかも! 鷹山選手の場にはモンスターも伏せカードも無い! これでは次の九頭竜選手の攻撃を止める事は不可能っ! ま、まさか!? ついに鷹山選手の無敗神話が、今日ここで打ち破られてしまうと言うのかぁぁぁっ!?』

 

「俺のターンッ!! ── 終わりだな、鷹山ッ!!」

 

「……!」

 

「バトルだ! 【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】で、鷹山にダイレクトアタック!! 『ガン・キャノン・フルバースト』!!」

 

 

 

 【デスペラード】の銃口が全てカナメに向けられ、一斉に引き金が引かれようとした ── まさにその寸前。

 

 

 

「 ── 墓地から【光の護封霊剣】を除外し、効果発動! お前はこのターン、ダイレクトアタックできない!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 アレは(オオトリ)くんとの試合でマキちゃんも使っていた(トラップ)! そうか、あの時に……!

 

 

 

「っ……【命削りの宝札】で捨てたカードか……俺はカードを2枚伏せる!」

 

(俺が伏せた1枚目は【スクランブル・ユニオン】。こいつを使えば、次の俺のターンで【ABC】に繋げられる!)

 

「ずいぶんと手こずらせてくれやがったが……そろそろ(ねん)()の納め時だなぁ、鷹山ッ!」

 

(あと少しだ……あと少しで! 俺の弾丸が奴の心臓に届くッ!!)

 

「ターンエンドだっ!!」

 

 

 

 このターンは外したけれど、まだ九頭竜くんはカナメを十分、射程圏内に捉えてる。再び九頭竜くんのリーチだ。

 

 

 

「……俺のターン、ドロー。 ── 再び【マジック・プランター】を発動。【真源の帝王】を墓地へ送り、新たに2枚ドローする」

 

 

 

 そう言えば【烈風帝ライザー】の効果で墓地から戻してたね。

 

 カナメは何を引いたのか。果たしてあの2枚で逆転できるのか……

 

 この場で二人の決闘(デュエル)を観ている誰もが、カナメの一挙一動に注目し……気づけば会場全体が沈黙に包まれていた。

 

 

 

「………フゥ……残念だ。もう少し愉しみたかったのに」

 

「あぁ? どういう意味だ」

 

「 ── 惜しかったな、九頭竜」

 

「なにっ!?」

 

 

 

 そ、それって……まさか勝利宣言!?

 

 静まり返っていた観客席に、期待の込められた歓声が広がっていく。

 

 

 

「お前は前のターンで、俺を撃ち殺すべきだったんだ。残念だが……今回もあと一歩、及ばなかったな」

 

「っ……!」

 

(ケッ! 精々(せいぜい)今の内に勝った気になってやがれっ!! 仮にてめぇが攻撃してきたところで、2枚目の(トラップ)・【炸裂装甲(リアクティブ・アーマー)】で返り討ちだ!)

 

「行くぞ九頭竜……ラストターンだっ!! 俺は墓地に送った【真源の帝王】の効果を発動! 墓地から【帝王】と名のつく魔法・(トラップ)カード1枚を除外し、このカードを通常モンスター扱いとして、守備表示で特殊召喚する! 俺は墓地の、【始源の帝王】を除外!」

 

 

 

【真源の帝王】 守備力 2400

 

 

 

「そして【真源の帝王】をリリースし ── ……あぁ、実に()(ごり)惜しいよ……こいつを出す事で、この愉しい時間が終わってしまうのだから」

 

(野郎っ、一体……何を出す気だっ!?)

 

 

 

 カナメは、召喚の手を止めて閉じていた瞳を……

 

 ── 意を決した様に(ひら)き、右手を天に(かか)げた。

 

 

 

「現れろ ── 【邪帝(じゃてい)ガイウス】!!」

 

 

 

 突如カナメのフィールドに黒く禍々(まがまが)しい闇の波動が発生し、その中から頭に2本の角を生やした、邪悪なオーラを放つ【帝】が召喚された。

 

 

 

【邪帝ガイウス】 攻撃力 2400

 

 

 

「【ガイウス】の効果発動! 召喚時、フィールドのカード1枚を除外する! 俺は【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】を除外!!」

 

「!?」

 

「【エクスクルージョン・ダーク】!!」

 

 

 

 【邪帝ガイウス】が手の平で生成した漆黒の球体を、【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】に投げ放つと、【デスペラード】はそれに吸い込まれてしまった。

 

 

 

「俺の【デスペラード】がっ!?」

 

(くそっ……だが、まだだっ! 奴が攻撃してくれば ──)

 

「【邪帝ガイウス】の更なる効果! 除外したカードが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ポイントのダメージを与える!!」

 

「なっ……なんだとぉっ!?」

 

 

 

 続けて【ガイウス】は両手の間に再度、球状の黒いエネルギーの塊を作り出した。

 

 九頭竜くんのライフは700。1000ポイントものダメージを食らったら……!

 

 

 

(ふざけんな……! ここまで……ここまで来て……! まだ俺は鷹山に届かねぇってのかっ!?)

 

「〝王手〟だ……九頭竜ッ!!」

 

 

 

 【ガイウス】の投擲(とうてき)した闇のエネルギー(だん)が、九頭竜くんに直撃し ── ()ぜる。

 

 

 

「ぐああああああああっ!!!」

 

 

 

 九頭竜 LP 0

 

 

 

「鷹山っ……てめぇぇぇぇっ……!!」

 

「……最高に愉しい決闘(デュエル)だったぞ、九頭竜 響吾」

 

 

 

 ………学園〝最凶〟と、学園〝最強〟。

 

 二人にとっての最後の頂上決戦は……こうして、突然の結末を迎えた ──

 

 

 

『 ── け……けっ、決着ゥゥーーーッ!! ウィナー! 鷹山 要ッ!! 壮絶な死闘の末に勝利をもぎ取ったのは、学園〝最凶〟!! 鷹山選手だァァァァッ!!』

 

 

 

 勝者の名が声高(こわだか)に告げられた途端、観客は爆発的に拍手喝采を起こす。

 

 そんな中、試合が終わって普段の落ち着いた表情に戻ったカナメは、九頭竜くんとの距離を半分ほどまで縮め、言葉をかける。

 

 

 

「………九頭竜……この最後のアリーナ・カップで、お前と闘えて良かった」

 

 

 

 カナメの声かけに、九頭竜くんは膝を突いたまま……何も答えない。

 

 

 

「……改めて礼を言う。そして……さよならだ、九頭竜」

 

 

 

 言いたい事は全て言い終えたのか、カナメは九頭竜くんに背を向け、立ち去ろうとした。

 

 でも、その時 ──

 

 

 

「 ── 待ちやがれっ!!」

 

「!」

 

 

 

 九頭竜くんがカナメをいきなり呼び止めた。その声量に圧倒されてか、興奮していた観客達も、ピタリと押し黙る。

 

 

 

「……てめぇ……まさかこんなところで終わりだと思ってねぇだろうな……!」

 

 

 

 九頭竜くんは、ゆっくりと立ち上がりながら、こう続ける。

 

 

 

「次は……世界だっ!! 次はプロリーグで俺と闘えっ!! ()()でてめぇを撃ち殺して……俺の〝最強〟を全世界に証明してやるっ!!」

 

「………」

 

「逃げられると思うなよ……! どこまでも追い続けてやる! 次こそてめぇに……勝つ!!」

 

 

 

 あと一歩のところで逆転負けさせられて、心がポッキリ折れてもおかしくない筈なのに……

 

 九頭竜くんは落ち込むどころか、すぐさま立ち直って、カナメにリベンジの意志を()(ぜん)と示してみせた。

 

 彼の決意表明を受けてカナメは ──

 

 

 

「……良いだろう。それでこそ、俺が初めて好敵手(ライバル)と認めた決闘者(デュエリスト)だ。 ── 愉しみにしているぞ、九頭竜 響吾」

 

 

 

 そう、どこか嬉しそうに微笑みながら言葉を返して、舞台を降りていった。

 

 すると観客席のどこかから、誰かがパチパチと手を打ち鳴らす音が耳に入り……

 

 それをきっかけに他の観客も、一人また一人と手を叩き始め、間もなくこの場内で今の試合を見届けた、ほぼ全ての人達に(でん)()し ── 万雷(ばんらい)の拍手へと拡大した。

 

 もちろんボクも二人の健闘への惜しみない賛辞を込めて、拍手を送る。

 

 

 

「……スゴい決闘(デュエル)だったね、狼城くん」

 

「あぁ……良いモン観さしてもらったわ」

 

 

 

 本当……名勝負と言って過言じゃない、素晴らしい決闘(デュエル)だった。

 

 互いに一歩も譲らず、ターン毎に戦況の優劣(ゆうれつ)が二転三転する……息つく暇も無い激烈(げきれつ)なシーソーゲーム。

 観てるこっちまで緊張して、手に汗握りっぱなしだったし、(いま)だに心臓がドキドキしてる。

 

 次に続くボク達の試合の前に、良い刺激を貰えたよ。

 

 

 

「にしても、次は世界で勝負か……九頭竜くんの執念も相当だねぇ。何がそうさせるんだろ……」

 

「……昔、誰が言ったか忘れたけどよ……こんな話を聞いたぜ」

 

「ん?」

 

(いわ)く、カナメは『()()()()()天才』で、キョーゴは『()()()()天才』 ── なんだってよ」

 

「進化する……天才?」

 

「いつか、限界まで進化したキョーゴがカナメと()ったら……勝つのは果たして、どっちかねぇ?」

 

「……!」

 

「まっ、オレにゃあ関係ねーけど。行こうぜセツナ君。そろそろ戻んねーと、スタッフにどやされちまう」

 

「……うん……そうだね」

 

 

 

 控え室へ戻っていく狼城くんにボクもついていき、まだ歓声の止まない会場を、ひとまず後にした。

 

 ── 準決勝か……いよいよカナメの待つ決勝戦まで、あと1マスだ!

 

 

 

 





 だが奴は……弾けた。

 帝王、ご乱心の回になってしまいました(笑)いつか「グォレンダァ!!」とか言わせてみたいけど無理だろうなぁ。

 下書きの段階ではカナメのライフが残り100の鉄壁まで減らせたんですが、それだと色々と不自然だったりミスが発覚したので、試行錯誤の末、この形で決着と相成りました。
 回を重ねる毎にデュエルシーンが難しくなってきてる気がするお……( ´ω`)

 ではまた次回!

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