遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum - 作:箱庭の猫
やっと主人公とヒロインのガチのデュエル回です!
え? ヒロインはルイくんじゃないのかって? 何の事だ、まるで意味がry
── 数ヶ月前。
「セツナはどうして選抜試験に出る事にしたの?」
「えっ?」
学園の食堂でランチを楽しんでいたら、アマネが
「いや、誘ったのは私なんだけどさ……。セツナの一番の望みは『平穏に暮らすこと』なんでしょ? なのによく参加する気になったなって。……そんなに
「あー……うん」
ハンバーグを
「それもあるけど、一番は……『面白そうだから』、かな?」
明るい笑顔でボクが答えると、アマネは
「……アマネ?」
「あ、ううん、何でもない。……まぁ、そんな事だろうなとは思ってたわ。そもそも
「ボクは面倒事は嫌いだけど、お祭りとか、楽しそうなイベントは好きだからね~。……あとは、まぁ……『期待』かな?」
「期待?」
「そう、ちょっとした期待。……まっ、それは別に良いんだ。── ごちそうさま」
しっかり完食して手を合わせてから、ボクはトレーを持って席を立つ。
「えっ、ちょっと何よそれ。気になるじゃない」
「ごめんごめん、こっちの話だから。……聞かなかった事にして?」
「……?」
危ない危ない。やっぱりアマネの前だと、つい余計な事を
── 決して誰にも話さないと誓った筈の、ボクの過去の事を……
(……両親がボクを見つけてくれるかも知れないから、なんて……アマネに話す事じゃないよね……)
「──
「お、やっとだね」
控え室で待機していたボクとアマネを係員さんが呼びに来た。たかが数分の待ち時間が、えらい長く感じたよ。
「じゃ、行こっか。アマネ」
「えぇ」
「お二人とも頑張ってねぇ~」
マキちゃんのエールに手を振って応え、ボクはアマネと一緒に部屋を出た。
── 会場を目指して通路を歩いている最中、ふと、アマネが話し始める。
「……セツナ、私は私の夢の為にも、この大会で何としても結果を出す。
「夢……」
(そうか、アマネの夢はプロになること……)
そこでボクの心に迷いが生じ、足が止まった。
2、3歩ほど前進したアマネも立ち止まり、不思議そうな顔でボクの方に振り返る。
「セツナ?」
(……もし、ボクが勝ったとしたら……アマネの夢を潰す事になるんじゃないか……?)
ボクがこの選抜デュエル大会に参戦した動機は、何となく楽しそうだなって言う好奇心と、カナメにリベンジするのにちょうどいい機会かもって思ったから。── それだけだ。
あとは
言ってしまえば、ただの自己満足なんだ。アマネのこの大会に懸ける想いの重さとは、比ぶべくもない。
そんなボクがアマネの……友達の夢を邪魔する様な事をしていいのか……いや、普通に考えれば、いいわけがない。
そう思ったら、どうしたらいいか分からなくなってきた……
「……セツナ」
アマネに呼び掛けられ、ハッと我に帰る。
「あ、ごめん……えっと……」
何を言ったら良いものか悩んでいる時だった。アマネが間近に歩み寄るや否や──
ボクにデコピンしてきた。
「あ
ジンジン痛む
「な、何すんのさ急に~っ!?」
「あんた今、つまんないこと考えたでしょ?」
「……え?」
「大方、自分が勝ったら私に悪いかも、とか思ったんじゃない?」
「うっ……よ、よく分かったね……エスパー?」
「それくらい半年も友達やってたら察しはつくわよ。……ハァ……私も見くびられたものね。あんたを焚き付けようと思って
ビシッとボクを指さして、アマネは続けた。
「安心しなさいセツナ。今日の
「……!」
「だいたいね、今の私はあんただけじゃなく、
ハッキリと言い切るアマネに、ボクは驚いて目を見開く。
あの自信に満ち
「……そうだね……」
カナメには
「ありがとうアマネ。おかげで腹が決まったよ」
「……良い顔に戻ったわね、その意気よ」
(そうよセツナ。あなたの
「でも顔に傷つけるのは
「大丈夫よ、ちゃんと前髪で隠れるとこに当てたから」
「そ、そういう問題?」
談笑しながら歩いてる内に、気づけば別々の入場口に向かう分岐点へと到着した。
「じゃあ、また後でね」
「えぇ」
時を同じくして──
セツナとアマネが退室した後、控え室に残された
「あーあ~、とうとう二人っきりになっちゃいましたね、狼城センパイ。ヒマだなぁ~」
「そうか? オレぁやっと静かになって落ち着くぜ」
「……ねぇねぇ、センパイ。センパイはセツナくんとアマネたん、どっちが勝つと思います?」
「ん~? ……そうだなぁ……どっちかと言やぁ、セツナ君だな」
「ほうほう」
「そう言うお嬢ちゃんはよ?」
「あたしはアマネたんに1票!」
「へぇ? まっ、ベンジャミンに勝つぐれぇだし? あの姉ちゃんも相当やるみてーだけどよ……オレの見立てじゃ、ポテンシャルはセツナ君のが上だぜ?」
「フッフッフ~。センパイは、アマネたんの『本性』を知らんのですよ」
「本性?」
「この
(さぁ~て……セツナくんはアマネたんの隠された本性を引き出せるかなぁ~?)
『早くも本日のトーナメントは後半戦に突入ッ!! 残り2試合も、みんなの
「「「 おおおおおぉぉぉぉっっっ!!!! 」」」
入場口の手前でお呼び出しを待つボクは今一度、深呼吸をしてコンセントレーションを整えた。
『さぁ! 観客の熱き視線が集まる中、一人目の選手の登場だ! 飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続ける新進気鋭のダークホース! 2年・
おっと、まずはボクからか。
場内に足を踏み入れると、歓声と拍手がボクの全身を叩く様に降り注いだ。
2回目なら慣れるかと思ってたけど……うん、普通に緊張するね。
ボクが
『そして二人目の選手は、そのアゲマキ選手のクラスメート! ランク・Bながら1回戦では
前方の
舞台に上がり数分ぶりにボクと対面すると、赤色のメッシュを刻み込んだ黒い長髪を、手でなだらかに払った。その
「……待たせたわね、セツナ。ようやく私の本当のデッキで、あなたと闘える」
「うん、ボクもずっと楽しみにしてた。ワクワクして試合開始が待ちきれないよ」
……スゴい気迫だねアマネ。肌がビリビリするよ。
ボクも彼女も気合いは充分。いつでも準備オーケーだ。
開戦のゴングが鳴るのを、今か今かと待ち兼ねている。
この数ヶ月間、ボクとアマネは良き
今こそ、その集大成を思う存分ぶつけ合う時だ!!
『両選手から
「「
セツナ
アマネ
「私の先攻!」
(……セツナ、この大会であなたに勝つ事が、私の目標の1つだった……)
── 総角 刹那と初めて会った時から、黒雲 雨音は気づいていた。
(……強いわね、この人。ただ者じゃないわ)
アマネほどの実力者ともなれば、一目見るだけでも相手の力量はおおよそ
その実、『本物の
セツナが九頭竜との
そして── セツナは本当に、あの九頭竜
運に助けられた部分もあるだろうし、九頭竜がセツナを
(セツナは……私に無いものを持っている……。── 天性の素質を……!)
言うなれば、セツナは九頭竜やカナメを始めとした、『十傑』ランクの生徒と同じ……『天才』の領域に居る
まず間違いなく、来年には十傑の座に就いている事だろう。そう思わせるほどの才覚を秘めている。
この時アマネの中で、セツナに対する燃え
セツナに自分の全力をぶつけて、勝ちたい。
彼を越える事ができれば自分は……──
(……いいえ、勝ちたいじゃないわ……。── 私はセツナに勝つ!! そうすれば私は
「行くわよセツナ!」
「来いアマネ!」
さぁーて、どう来るかな。
アマネとは
加えてボクの手の内は、恐らくほぼ全て知り尽くされてる。
厳しい闘いになりそうだね……
(でもボクの手札には早速【ラビードラゴン】が来てくれてる。このカードを出せれば……)
「まずは1枚伏せる!」
「── ! いきなり伏せカード……!」
「そして、私はこのターンで、
「魔法カード?」
「そのカードは……── 【手札
(なっ……【手札抹殺】!?)
「プレイヤーは全ての手札を捨てる! あんたもよ、セツナ!」
手札を捨てる……
【ラビードラゴン】を……捨てるっ!?
(ガーーーーーン!?)
「フフッ、その
「うぐっ……!」
「当ててみようかしら? 【ラビードラゴン】でしょ」
「……大正解。やっぱりエスパーなんじゃないの、アマネって」
アマネは手札を3枚捨て、3枚ドロー。
ボクは5枚捨て、5枚ドローする。
「まだ私のターンは終わってないわ! 伏せカード・オープン! 魔法カード・【死者蘇生】!」
「!」
「墓地から【ヴァンパイア・スカージレット】を特殊召喚!!」
中世ヨーロッパの貴族の様な
【ヴァンパイア・スカージレット】 攻撃力 2200
「【スカージレット】の効果発動! このモンスターを召喚・特殊召喚した場合、ライフを1000払い、墓地の【ヴァンパイア】を特殊召喚する!」
アマネ LP 4000 → 3000
「私が特殊召喚するのは── 【ヴァンパイア・ロード】!!」
続けて召喚されたのは、黒いマントと水色の髪がトレードマークの吸血鬼。
【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000
「ただし、この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン
そもそも1ターン目にバトルはできない……
やるね、デメリットを上手いこと
「さらに! 墓地の【ヴァンパイア・グレイス】の効果発動! アンデット族モンスターの効果で、自分フィールドにレベル5以上のアンデット族が特殊召喚された時、2000ポイントのライフを払い、墓地から自身を特殊召喚する!」
アマネ LP 3000 → 1000
「現れなさい! 【ヴァンパイア・グレイス】!」
【ヴァンパイア・グレイス】 攻撃力 2000
3体目の吸血鬼は
左手に赤ワインが注がれたグラスを持ち、右手には【ヴァンパイア・スカージレット】の物とは異なる形状の、赤くて丸い宝石を付けた杖を携えている。
『黒雲選手、先攻1ターン目から攻撃力2000以上の上級モンスターを3体も並べてきたァーッ!!』
「私はカードを1枚伏せる」
「上級モンスター3体に、伏せカードか……盤石の態勢だね……!」
「これぐらいで驚くようじゃ、まだまだね。まだ次の手があるわ!」
「っ!」
「【ヴァンパイア・グレイス】の効果! 1ターンに一度、私が宣言した種類のカードを1枚、相手はデッキから墓地へ送る!
「……了解だよ」
デュエルディスクのタッチパネルを指で操作し、画面に映るデッキの中のカードを、1枚1枚スライドさせる。
どれにしようかな……よし、これだ!
「ボクは【スキル・サクセサー】を墓地に送るよ」
(墓地でも効果を使える
「まぁいいわ。私は手札から魔法カード・【
アマネ LP 1000 → 3000
「これで私はターンを終了するわ」
『黒雲選手、抜け目ない! 万全の布陣を敷き、代償として失ったライフも回復して、相手を迎え撃つ準備は万端だ! さぁ、アゲマキ選手はどう打って出るのか!?』
……自分のデッキの弱点を把握して、
「ボクのターン、ドロー!」
(……今の手札じゃアマネのモンスターには敵わない……ここはひとまず、守備に徹するとしよう)
「ボクはモンスターをセット! そしてカードを2枚伏せる! これでターン
「この瞬間!
「っ!? このタイミングで!?」
「永続
ボクの伏せたリバースカード2枚が、血の海……いや、沼の底に沈んでしまった!
「グロっ!?」
良いのこんなのテレビに映して!? 子供が観たら泣くよ!?
「これでその2枚の伏せカードは、2ターンの間、使い物にならなくなったわ」
「くっ……」
「私のターン!」
(セツナのプレイングは予測不可能。動きを
「バトル! 【ヴァンパイア・スカージレット】で、守備モンスターを攻撃!」
【スカージレット】が杖を振ると先端の宝玉から光線が放たれ、ボクの裏守備モンスターに炸裂した。
『ああっと! アゲマキ選手を守る唯一のモンスターが消えてしまったァーッ! しかも黒雲選手の場には、まだ攻撃力2000のモンスターが2体! その上、アゲマキ選手の伏せカードは発動を封じられ、攻撃を止める手立てが無い! 2体の
「……もっと楽しめるかと思ったけど……所詮、あんたもここまでね」
「…………それはどうかな?」
「── !?」
ボクのフィールドに
【
「なっ……【
「そう。さっき君が倒した【
「チッ……相変わらず、人の予想の
「そんなに焦らないでよ、アマネ。まだ
「……フフッ、そうね」
(あんたの敗北へのカウントダウンもね……)
「【ヴァンパイア・ロード】で【
【ヴァンパイア・ロード】はマントの中からコウモリを大量に放ち、【
「っ! ── 破壊された【
【
「【ヴァンパイア・グレイス】で攻撃!」
最後の【
危ないところだった……【
「バトル終了。── そして【スカージレット】の効果発動!」
「!」
「このモンスターがバトルで破壊したモンスターを、可能な限り私のフィールドに特殊召喚する!」
「なんだって!?」
「あんたの【
【
アマネの元に【
そしてアマネが妖しく微笑んで差し伸べた手を隊員の1体が取り、
ボ、ボクのドラゴンがアマネに寝返っちゃった……!
「これでセツナのモンスターは、【ヴァンパイア】の忠実な
(【グレイス】の効果は【ヴァンパイア
「ボクのターン!」
(!)
「……フフ、いつまでも防戦一方じゃ、カッコつかないよね」
「!!」
ちょっと早いけど、ボクは掛けている赤メガネを外して裸眼を
「……早いわね、もう本気モード?」
「もちろん。次はボクが攻めさせてもらうよ!」
「── ! ……望むところよ、どっからでもかかってきなさい!」
アマネは夢とプライドを賭けて、全力でこの
だからボクも、一人の
【血の沼地】の効果で、ボクがセットした伏せカードは次のターンまで使えない……
でも、手札から新たに発動するカードは別だ!
「ボクは手札から
【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400
(【ミンゲイドラゴン】に【
「さらに【ミンゲイドラゴン】を2体分としてリリース! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を、アドバンス召喚!!」
ライトパープルの体躯を
【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500
「墓地の【スキル・サクセサー】を除外して、【ホーリー・ナイト】の攻撃力を800アップ!」
【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500 + 800 = 3300
「攻撃力3300……!」
「バトル! 【ホーリー・ナイト】で【ヴァンパイア・ロード】を攻撃! 『シャイニング・ファイヤー・ブラスト』!!」
触れた者を浄化する聖なる炎が、【ヴァンパイア・ロード】を一瞬にして焼き尽くした。
「くうっ!」
アマネ LP 3000 → 1700
「ボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド! 【ホーリー・ナイト】の攻撃力は元に戻る」
【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 3300 → 2500
『アゲマキ選手、最上級ドラゴンを繰り出し、数の不利に攻撃力の高さで対抗ォーッ! 黒雲選手に傾きかけた勝負の流れを、イーブンに持ち直したァーッ!』
「そうこなくっちゃね……! 私のターン!」
(ッ! 良いところに来てくれたわ……!)
「このスタンバイフェイズで【血の沼地】は消滅するわ」
血みどろの沼が徐々に消えていき、ボクの伏せカード3枚が浮上する。
ほっとして胸を撫で下ろす。伏せカードが解禁されて安心したってのもあるけど、アレをずっと見てたら気分が悪くなりそうだったから、やっと無くなってくれて良かった……
「安心するのは早いわよセツナ」
「えっ……?」
「魔法発動! 【ヴァンパイア・デザイア】! 私のフィールドから【
【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000
「あらら~っ、お早いお帰りで……」
「さらに【ヴァンパイア・ロード】を除外して、【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!!」
「!!」
肌が紫色の筋骨隆々な巨人が現れる。今までの【ヴァンパイア】とは一線を
【ヴァンパイアジェネシス】 攻撃力 3000
『黒雲選手も最上級モンスターを出して応戦してきたァァーッ!! 前半の十傑同士の
「ここからが本番よ、セツナ!」
「………」
攻撃力2500 対 3000か……
「良いね……面白くなってきた!」
実は初手で軽く事故ってたアマネたん(ボソッ)
しかし、それを感じさせないくらい堂々とした立ち回りができてこそプロ!