遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 やっと主人公とヒロインのガチのデュエル回です!

 え? ヒロインはルイくんじゃないのかって? 何の事だ、まるで意味がry



TURN - 46 A Rival Appears! - 1

 

 ── 数ヶ月前。

 

 

 

「セツナはどうして選抜試験に出る事にしたの?」

 

「えっ?」

 

 

 

 学園の食堂でランチを楽しんでいたら、アマネが(やぶ)から棒にそんな事を()いてきた。

 

 

 

「いや、誘ったのは私なんだけどさ……。セツナの一番の望みは『平穏に暮らすこと』なんでしょ? なのによく参加する気になったなって。……そんなに鷹山(ヨウザン)に負けたのが悔しかった?」

 

「あー……うん」

 

 

 

 ハンバーグを(ひと)切れ食べて飲み込んだ後、フォークを皿の上に置いて、ボクは口を開く。

 

 

 

「それもあるけど、一番は……『面白そうだから』、かな?」

 

 

 

 明るい笑顔でボクが答えると、アマネは()()かキョトンとした。

 

 

 

「……アマネ?」

 

「あ、ううん、何でもない。……まぁ、そんな事だろうなとは思ってたわ。そもそもジャルダン(この街)に来る時点で、あんたも私達と同じで、()()()()()()()なのよ」

 

「ボクは面倒事は嫌いだけど、お祭りとか、楽しそうなイベントは好きだからね~。……あとは、まぁ……『期待』かな?」

 

「期待?」

 

「そう、ちょっとした期待。……まっ、それは別に良いんだ。── ごちそうさま」

 

 

 

 しっかり完食して手を合わせてから、ボクはトレーを持って席を立つ。

 

 

 

「えっ、ちょっと何よそれ。気になるじゃない」

 

「ごめんごめん、こっちの話だから。……聞かなかった事にして?」

 

「……?」

 

 

 

 危ない危ない。やっぱりアマネの前だと、つい余計な事を口走(くちばし)っちゃいそうになっていけないね。

 

 ── 決して誰にも話さないと誓った筈の、ボクの過去の事を……

 

 

 

(……両親がボクを見つけてくれるかも知れないから、なんて……アマネに話す事じゃないよね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「── 総角(アゲマキ)選手、黒雲(くろくも)選手。入場口に移動してください」

 

「お、やっとだね」

 

 

 

 控え室で待機していたボクとアマネを係員さんが呼びに来た。たかが数分の待ち時間が、えらい長く感じたよ。

 

 

 

「じゃ、行こっか。アマネ」

 

「えぇ」

 

「お二人とも頑張ってねぇ~」

 

 

 

 マキちゃんのエールに手を振って応え、ボクはアマネと一緒に部屋を出た。

 

 ── 会場を目指して通路を歩いている最中、ふと、アマネが話し始める。

 

 

 

「……セツナ、私は私の夢の為にも、この大会で何としても結果を出す。容赦(ようしゃ)はしないから覚悟してなさい」

 

「夢……」

 

(そうか、アマネの夢はプロになること……)

 

 

 

 そこでボクの心に迷いが生じ、足が止まった。

 2、3歩ほど前進したアマネも立ち止まり、不思議そうな顔でボクの方に振り返る。

 

 

 

「セツナ?」

 

(……もし、ボクが勝ったとしたら……アマネの夢を潰す事になるんじゃないか……?)

 

 

 

 ボクがこの選抜デュエル大会に参戦した動機は、何となく楽しそうだなって言う好奇心と、カナメにリベンジするのにちょうどいい機会かもって思ったから。── それだけだ。

 

 あとは()いて言えば……ボク個人の、ささやかな『期待』。

 

 言ってしまえば、ただの自己満足なんだ。アマネのこの大会に懸ける想いの重さとは、比ぶべくもない。

 

 そんなボクがアマネの……友達の夢を邪魔する様な事をしていいのか……いや、普通に考えれば、いいわけがない。

 

 そう思ったら、どうしたらいいか分からなくなってきた……

 

 

 

「……セツナ」

 

 

 

 アマネに呼び掛けられ、ハッと我に帰る。

 

 

 

「あ、ごめん……えっと……」

 

 

 

 何を言ったら良いものか悩んでいる時だった。アマネが間近に歩み寄るや否や──

 

 ボクにデコピンしてきた。

 

 

 

「あ(いた)っ!?」

 

 

 

 ジンジン痛む(ひたい)を両手で抑えながら、ボクは抗議の声を上げる。

 

 

 

「な、何すんのさ急に~っ!?」

 

「あんた今、つまんないこと考えたでしょ?」

 

「……え?」

 

「大方、自分が勝ったら私に悪いかも、とか思ったんじゃない?」

 

「うっ……よ、よく分かったね……エスパー?」

 

「それくらい半年も友達やってたら察しはつくわよ。……ハァ……私も見くびられたものね。あんたを焚き付けようと思って(タン)()切ったのに、(かた)()かしだわ」

 

 

 

 ビシッとボクを指さして、アマネは続けた。

 

 

 

「安心しなさいセツナ。今日の決闘(デュエル)は絶対に私が勝つんだから!」

 

「……!」

 

「だいたいね、今の私はあんただけじゃなく、九頭竜(くずりゅう)や鷹山にだって勝てる自信があるのよ。変に気を遣う余裕なんて与えないから、余計な心配しないで。……手ぇ抜いたりしたら許さないわよ」

 

 

 

 ハッキリと言い切るアマネに、ボクは驚いて目を見開く。

 あの自信に満ち(あふ)れた表情……()()えと輝く(あざ)やかな赤色の(まな)()しは、彼女の言葉がハッタリではないと証明していた。それほどの(ちから)を、今のアマネはつけてきているって事か……

 

 

 

「……そうだね……」

 

 

 

 カナメには(おお)()くんとの試合で手を抜いた事に文句を言ったくせに、自分がアマネに遠慮して、全力を出すのを躊躇(ためら)うだなんて……間違ってた。

 

 

 

「ありがとうアマネ。おかげで腹が決まったよ」

 

「……良い顔に戻ったわね、その意気よ」

 

(そうよセツナ。あなたの決闘者(デュエリスト)としての百パーセントの力! そして最大限の誇りを賭けてもらわなきゃ……私が()()()()勝つ意味がないもの!)

 

「でも顔に傷つけるのは()めてほしかったかなぁ……」

 

「大丈夫よ、ちゃんと前髪で隠れるとこに当てたから」

 

「そ、そういう問題?」

 

 

 

 談笑しながら歩いてる内に、気づけば別々の入場口に向かう分岐点へと到着した。

 

 

 

「じゃあ、また後でね」

 

「えぇ」

 

 

 

 一言(ひとこと)だけのあっさりとしたやり取りを最後に、ここで一旦ボク達は二手に別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして──

 

 セツナとアマネが退室した後、控え室に残された()(づき) マキノは、退屈を(まぎ)らわそうと、ソファーを寝床にしている灰色の髪の青年・狼城(ろうじょう) (アキラ)に話しかける。

 

 

 

「あーあ~、とうとう二人っきりになっちゃいましたね、狼城センパイ。ヒマだなぁ~」

 

「そうか? オレぁやっと静かになって落ち着くぜ」

 

「……ねぇねぇ、センパイ。センパイはセツナくんとアマネたん、どっちが勝つと思います?」

 

「ん~? ……そうだなぁ……どっちかと言やぁ、セツナ君だな」

 

「ほうほう」

 

「そう言うお嬢ちゃんはよ?」

 

「あたしはアマネたんに1票!」

 

「へぇ? まっ、ベンジャミンに勝つぐれぇだし? あの姉ちゃんも相当やるみてーだけどよ……オレの見立てじゃ、ポテンシャルはセツナ君のが上だぜ?」

 

「フッフッフ~。センパイは、アマネたんの『本性』を知らんのですよ」

 

「本性?」

 

「この決闘(デュエル)で見れると良いですね~」

 

(さぁ~て……セツナくんはアマネたんの隠された本性を引き出せるかなぁ~?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『早くも本日のトーナメントは後半戦に突入ッ!! 残り2試合も、みんなの決闘(デュエル)を愛する気持ちを込めて、目一杯盛り上げていこうぜェェーッ!!』

 

「「「 おおおおおぉぉぉぉっっっ!!!! 」」」

 

 

 

 決闘(デュエル)を愛する気持ちか……。良いこと言うね、マック伊東さん。

 

 入場口の手前でお呼び出しを待つボクは今一度、深呼吸をしてコンセントレーションを整えた。

 

 

 

『さぁ! 観客の熱き視線が集まる中、一人目の選手の登場だ! 飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続ける新進気鋭のダークホース! 2年・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)ァァーッ!!』

 

 

 

 おっと、まずはボクからか。

 場内に足を踏み入れると、歓声と拍手がボクの全身を叩く様に降り注いだ。

 2回目なら慣れるかと思ってたけど……うん、普通に緊張するね。

 

 ボクが決闘(デュエル)フィールドに立ったタイミングで、再びマック伊東さんの大声が響く。

 

 

 

『そして二人目の選手は、そのアゲマキ選手のクラスメート! ランク・Bながら1回戦では十傑(じっけつ)に勝利! 確かな強さと美貌を兼ね備えた()(だか)き美少女決闘者(デュエリスト)! 2年・黒雲(くろくも) (アマ)()ェェーッ!!』

 

 

 

 前方の最奥(さいおう)に見えるゲートから、アマネがこちらに歩いてくる。

 

 舞台に上がり数分ぶりにボクと対面すると、赤色のメッシュを刻み込んだ黒い長髪を、手でなだらかに払った。その(うるわ)しい仕草に客席が沸く。

 

 

 

「……待たせたわね、セツナ。ようやく私の本当のデッキで、あなたと闘える」

 

「うん、ボクもずっと楽しみにしてた。ワクワクして試合開始が待ちきれないよ」

 

 

 

 ……スゴい気迫だねアマネ。肌がビリビリするよ。

 

 ボクも彼女も気合いは充分。いつでも準備オーケーだ。

 開戦のゴングが鳴るのを、今か今かと待ち兼ねている。

 

 この数ヶ月間、ボクとアマネは良き()()として、そして良きライバルとして、しのぎを削ってきた。

 

 今こそ、その集大成を思う存分ぶつけ合う時だ!!

 

 

 

『両選手から(ほとばし)る熱気が、実況席にいる私の元まで届いているぞ! これは(こう)試合(ゲーム)が期待できそうだ! ── アリーナ・カップ2回戦・第3試合! 総角 刹那 vs 黒雲 雨音!! それでは皆さん、ご唱和ください! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 アマネ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「私の先攻!」

 

(……セツナ、この大会であなたに勝つ事が、私の目標の1つだった……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── 総角 刹那と初めて会った時から、黒雲 雨音は気づいていた。

 

 

 

(……強いわね、この人。ただ者じゃないわ)

 

 

 

 アマネほどの実力者ともなれば、一目見るだけでも相手の力量はおおよそ推察(すいさつ)できる。

 

 一見(いっけん)チャラチャラしていて、女にだらしのないひょうきん者だが……

 その実、『本物の強者(きょうしゃ)』のみが(まと)える、特有の空気を(かも)し出している。

 

 セツナが九頭竜との決闘(デュエル)で追い詰められた時、声を大にして激励したのは、彼の力の底が見たいという想いからだった。

 

 そして── セツナは本当に、あの九頭竜 響吾(キョウゴ)に勝ってしまった。

 

 運に助けられた部分もあるだろうし、九頭竜がセツナを(あなど)っていたとは言え……それまで鷹山 (カナメ)以外には負けなしだった、〝学園最強〟の決闘者(デュエリスト)を倒したセツナを見て……アマネは驚愕と同時に確信した。

 

 

 

(セツナは……私に無いものを持っている……。── 天性の素質を……!)

 

 

 

 言うなれば、セツナは九頭竜やカナメを始めとした、『十傑』ランクの生徒と同じ……『天才』の領域に居る決闘者(デュエリスト)なのだ。

 

 まず間違いなく、来年には十傑の座に就いている事だろう。そう思わせるほどの才覚を秘めている。

 

 この時アマネの中で、セツナに対する燃え(たぎ)る様なライバル心が()()えた。

 

 セツナに自分の全力をぶつけて、勝ちたい。

 彼を越える事ができれば自分は……──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……いいえ、勝ちたいじゃないわ……。── 私はセツナに勝つ!! そうすれば私は決闘者(デュエリスト)として、さらなる高みに(のぼ)る事ができる!!)

 

「行くわよセツナ!」

 

「来いアマネ!」

 

 

 

 さぁーて、どう来るかな。

 

 アマネとは(いく)()となく対戦してるけど、【ヴァンパイア】デッキと()るのは初めてだ。

 

 加えてボクの手の内は、恐らくほぼ全て知り尽くされてる。

 厳しい闘いになりそうだね……

 

 

 

(でもボクの手札には早速【ラビードラゴン】が来てくれてる。このカードを出せれば……)

 

「まずは1枚伏せる!」

 

「── ! いきなり伏せカード……!」

 

「そして、私はこのターンで、()(ほう)カードを使うわ」

 

「魔法カード?」

 

「そのカードは……── 【手札抹殺(まっさつ)】!」

 

(なっ……【手札抹殺】!?)

 

「プレイヤーは全ての手札を捨てる! あんたもよ、セツナ!」

 

 

 

 手札を捨てる……

 【ラビードラゴン】を……捨てるっ!?

 

 

 

(ガーーーーーン!?)

 

「フフッ、その()()を見るに、よっぽど良いカードを持ってたみたいね」

 

「うぐっ……!」

 

「当ててみようかしら? 【ラビードラゴン】でしょ」

 

「……大正解。やっぱりエスパーなんじゃないの、アマネって」

 

 

 

 アマネは手札を3枚捨て、3枚ドロー。

 ボクは5枚捨て、5枚ドローする。

 

 

 

「まだ私のターンは終わってないわ! 伏せカード・オープン! 魔法カード・【死者蘇生】!」

 

「!」

 

「墓地から【ヴァンパイア・スカージレット】を特殊召喚!!」

 

 

 

 中世ヨーロッパの貴族の様な衣装(いしょう)を着こなした、銀髪のハンサムな紳士が現れた。手には赤い宝玉を装飾した、1本の杖を握っている。

 

 

 

【ヴァンパイア・スカージレット】 攻撃力 2200

 

 

 

「【スカージレット】の効果発動! このモンスターを召喚・特殊召喚した場合、ライフを1000払い、墓地の【ヴァンパイア】を特殊召喚する!」

 

 

 

 アマネ LP 4000 → 3000

 

 

 

「私が特殊召喚するのは── 【ヴァンパイア・ロード】!!」

 

 

 

 続けて召喚されたのは、黒いマントと水色の髪がトレードマークの吸血鬼。

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000

 

 

 

「ただし、この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン戦闘(バトル)できないわ」

 

 

 

 そもそも1ターン目にバトルはできない……

 やるね、デメリットを上手いこと()けてきた。

 

 

 

「さらに! 墓地の【ヴァンパイア・グレイス】の効果発動! アンデット族モンスターの効果で、自分フィールドにレベル5以上のアンデット族が特殊召喚された時、2000ポイントのライフを払い、墓地から自身を特殊召喚する!」

 

 

 

 アマネ LP 3000 → 1000

 

 

 

「現れなさい! 【ヴァンパイア・グレイス】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・グレイス】 攻撃力 2000

 

 

 

 3体目の吸血鬼は豪奢(ごうしゃ)な王冠とドレスで着飾った、お年を召されている貴婦人。

 左手に赤ワインが注がれたグラスを持ち、右手には【ヴァンパイア・スカージレット】の物とは異なる形状の、赤くて丸い宝石を付けた杖を携えている。

 

 

 

『黒雲選手、先攻1ターン目から攻撃力2000以上の上級モンスターを3体も並べてきたァーッ!!』

 

「私はカードを1枚伏せる」

 

「上級モンスター3体に、伏せカードか……盤石の態勢だね……!」

 

「これぐらいで驚くようじゃ、まだまだね。まだ次の手があるわ!」

 

「っ!」

 

「【ヴァンパイア・グレイス】の効果! 1ターンに一度、私が宣言した種類のカードを1枚、相手はデッキから墓地へ送る! (トラップ)カードを墓地に送ってもらおうかしら」

 

「……了解だよ」

 

 

 

 デュエルディスクのタッチパネルを指で操作し、画面に映るデッキの中のカードを、1枚1枚スライドさせる。

 

 どれにしようかな……よし、これだ!

 

 

 

「ボクは【スキル・サクセサー】を墓地に送るよ」

 

(墓地でも効果を使える(トラップ)か……面倒なのを落とされたわね)

 

「まぁいいわ。私は手札から魔法カード・【至高の木の実(スプレマシー・ベリー)】を発動! 自分のライフが相手より少ない時、2000ポイント回復する!」

 

 

 

 アマネ LP 1000 → 3000

 

 

 

「これで私はターンを終了するわ」

 

『黒雲選手、抜け目ない! 万全の布陣を敷き、代償として失ったライフも回復して、相手を迎え撃つ準備は万端だ! さぁ、アゲマキ選手はどう打って出るのか!?』

 

 

 

 ……自分のデッキの弱点を把握して、(おぎな)う手段を用意してる。今さらながら、アマネはデッキの組み方が本当に上手い。

 

 

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

(……今の手札じゃアマネのモンスターには敵わない……ここはひとまず、守備に徹するとしよう)

 

「ボクはモンスターをセット! そしてカードを2枚伏せる! これでターン(エン)──」

 

「この瞬間! (トラップ)カード発動!」

 

「っ!? このタイミングで!?」

 

「永続(トラップ)・【血の沼地】!」

 

 

 

 ボクの伏せたリバースカード2枚が、血の海……いや、沼の底に沈んでしまった!

 

 

 

「グロっ!?」

 

 

 

 良いのこんなのテレビに映して!? 子供が観たら泣くよ!?

 

 

 

「これでその2枚の伏せカードは、2ターンの間、使い物にならなくなったわ」

 

「くっ……」

 

「私のターン!」

 

(セツナのプレイングは予測不可能。動きを()めてる今の内に、速攻で決める!)

 

「バトル! 【ヴァンパイア・スカージレット】で、守備モンスターを攻撃!」

 

 

 

 【スカージレット】が杖を振ると先端の宝玉から光線が放たれ、ボクの裏守備モンスターに炸裂した。

 

 

 

『ああっと! アゲマキ選手を守る唯一のモンスターが消えてしまったァーッ! しかも黒雲選手の場には、まだ攻撃力2000のモンスターが2体! その上、アゲマキ選手の伏せカードは発動を封じられ、攻撃を止める手立てが無い! 2体の直接攻撃(ダイレクトアタック)が通ったら終わりだぞぉーっ!?』

 

「……もっと楽しめるかと思ったけど……所詮、あんたもここまでね」

 

「…………それはどうかな?」

 

「── !?」

 

 

 

 ボクのフィールドに()()からともなく、剣と盾を装備した二足歩行の竜の軍隊が出現した。

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

「なっ……【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】!?」

 

「そう。さっき君が倒した【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】の効果で、デッキから仲間を呼んだのさ」

 

「チッ……相変わらず、人の予想の(なな)め上を行く奴ね……!」

 

「そんなに焦らないでよ、アマネ。まだ決闘(デュエル)は始まったばかりだよ?」

 

「……フフッ、そうね」

 

(あんたの敗北へのカウントダウンもね……)

 

「【ヴァンパイア・ロード】で【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を攻撃! 『暗黒の使徒』!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・ロード】はマントの中からコウモリを大量に放ち、【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を襲わせた。

 

 

 

「っ! ── 破壊された【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】の効果で、デッキから3体目の【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を特殊召喚!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

「【ヴァンパイア・グレイス】で攻撃!」

 

 

 

 最後の【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】まで破壊されたけど、どうにか無傷で乗り切れた。

 危ないところだった……【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】がいてくれなかったら、本当にこのターンで終わってたよ。

 

 

 

「バトル終了。── そして【スカージレット】の効果発動!」

 

「!」

 

「このモンスターがバトルで破壊したモンスターを、可能な限り私のフィールドに特殊召喚する!」

 

「なんだって!?」

 

「あんたの【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】は頂くわ!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

 アマネの元に【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】が復活し、彼女の前に(ひざまず)いた。

 そしてアマネが妖しく微笑んで差し伸べた手を隊員の1体が取り、(こうべ)を垂れる。

 ボ、ボクのドラゴンがアマネに寝返っちゃった……!

 

 

 

「これでセツナのモンスターは、【ヴァンパイア】の忠実な(しもべ)となったわ。ターンエンドよ」

 

(【グレイス】の効果は【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】も無い現状じゃ、無理に使う必要はないわね。また厄介なカードを墓地に送られても困るし)

 

「ボクのターン!」

 

(!)

 

「……フフ、いつまでも防戦一方じゃ、カッコつかないよね」

 

「!!」

 

 

 

 ちょっと早いけど、ボクは掛けている赤メガネを外して裸眼を(さら)す。

 

 

 

「……早いわね、もう本気モード?」

 

「もちろん。次はボクが攻めさせてもらうよ!」

 

「── ! ……望むところよ、どっからでもかかってきなさい!」

 

 

 

 アマネは夢とプライドを賭けて、全力でこの決闘(デュエル)に臨んでいる。

 

 だからボクも、一人の決闘者(デュエリスト)としてアマネに敬意を(ひょう)し、全身全霊を(もっ)て、彼女の闘志にしっかり応えないとね!

 

 【血の沼地】の効果で、ボクがセットした伏せカードは次のターンまで使えない……

 

 でも、手札から新たに発動するカードは別だ!

 

 

 

「ボクは手札から魔法(マジック)カード・【二重召喚(デュアルサモン)】を発動! そして【ミンゲイドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

(【ミンゲイドラゴン】に【二重召喚(デュアルサモン)】……来るわね!)

 

「さらに【ミンゲイドラゴン】を2体分としてリリース! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を、アドバンス召喚!!」

 

 

 

 ライトパープルの体躯を(きら)めかせる威光を放ちながら、神聖な竜が吸血鬼達の前に舞い降りる。

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500

 

 

 

「墓地の【スキル・サクセサー】を除外して、【ホーリー・ナイト】の攻撃力を800アップ!」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500 + 800 = 3300

 

 

 

「攻撃力3300……!」

 

「バトル! 【ホーリー・ナイト】で【ヴァンパイア・ロード】を攻撃! 『シャイニング・ファイヤー・ブラスト』!!」

 

 

 

 触れた者を浄化する聖なる炎が、【ヴァンパイア・ロード】を一瞬にして焼き尽くした。

 

 

 

「くうっ!」

 

 

 

 アマネ LP 3000 → 1700

 

 

 

「ボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド! 【ホーリー・ナイト】の攻撃力は元に戻る」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 3300 → 2500

 

 

 

『アゲマキ選手、最上級ドラゴンを繰り出し、数の不利に攻撃力の高さで対抗ォーッ! 黒雲選手に傾きかけた勝負の流れを、イーブンに持ち直したァーッ!』

 

「そうこなくっちゃね……! 私のターン!」

 

(ッ! 良いところに来てくれたわ……!)

 

「このスタンバイフェイズで【血の沼地】は消滅するわ」

 

 

 

 血みどろの沼が徐々に消えていき、ボクの伏せカード3枚が浮上する。

 

 ほっとして胸を撫で下ろす。伏せカードが解禁されて安心したってのもあるけど、アレをずっと見てたら気分が悪くなりそうだったから、やっと無くなってくれて良かった……

 

 

 

「安心するのは早いわよセツナ」

 

「えっ……?」

 

「魔法発動! 【ヴァンパイア・デザイア】! 私のフィールドから【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を墓地へ送り── よみがえりなさい! 【ヴァンパイア・ロード】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000

 

 

 

「あらら~っ、お早いお帰りで……」

 

「さらに【ヴァンパイア・ロード】を除外して、【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!!」

 

「!!」

 

 

 

 肌が紫色の筋骨隆々な巨人が現れる。今までの【ヴァンパイア】とは一線を(かく)す凶暴なビジュアルに、ボクは()()を覚えた。

 

 

 

【ヴァンパイアジェネシス】 攻撃力 3000

 

 

 

『黒雲選手も最上級モンスターを出して応戦してきたァァーッ!! 前半の十傑同士の決闘(デュエル)にも見劣りしない迫力と、高度なプレイングの応酬(おうしゅう)! この接戦を制するのは果たしてどちらなのかァァーッ!?』

 

「ここからが本番よ、セツナ!」

 

「………」

 

 

 

 攻撃力2500 対 3000か……

 

 

 

「良いね……面白くなってきた!」

 

 

 

 





 実は初手で軽く事故ってたアマネたん(ボソッ)

 しかし、それを感じさせないくらい堂々とした立ち回りができてこそプロ!

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