遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 また3ヶ月も空こうとは……何度目かのお久しぶりでございます。

 ここ最近ドタバタしていたのがようやく落ち着いてきたので、何とか8月中に更新が間に合いました(´・ω・`; )ホッ



TURN - 40 GOD PHOENIX

 

 い……今なんて言ったの、(オオトリ)くん……!

 

 その手に持ってるカードが……『神』のカードだって!?

 

 目を丸くするボクとマキちゃんを見て気を良くしたのか、凰くんは自分が『神』のカードだと称した1枚のカードを(ふところ)にしまうと、したり顔で口を(ひら)いた。

 

 

 

「ふふん、『神』の威光に恐れをなしたか。尻尾を巻いて逃げ出すなら今の内であるぞ、小娘よ」

 

「…………」

 

「マキちゃん……?」

 

「……『神』のカードだか()のカードだか知んないけど……」

 

 

 

 マキちゃんはさっきの試合でのアマネと同じ様に勝ち気な笑みを浮かべ──

 

 

 

「そんなのであたしがビビると思ったら大間違いですよ!」

 

 

 

 凰くんをビシッと指さして、そう言い返した。

 虚勢を張ってる風には見えない。どうやら心配無用だったみたいだね。

 

 

 

「貴様ッ……! ……よかろう。ならば試合で(おの)()(そん)を、存分に後悔させてやるまでよ!」

 

「そっちこそ、あたしの事をか弱い女の子だと思ってたら、後悔しますよ?」

 

 

 

 バチバチと火花を散らす二人。

 

 にしても……『神』のカード……か。

 

 もしアレが本当に、ボクの想像してる『神』のカードなんだとしたら……次の試合は壮絶な闘いになりそうな予感……!

 

 

 

「ふう……ただいま」

 

「おっ、アマネお帰り~」

 

 

 

 数分後、ベンジャミンくんとの試合を終えて準々決勝に勝ち進んだアマネが、控え室に戻ってきた。

 

 

 

「アマネたんおかえりーッ!!」

 

「わっ!? ちょっと、マキちゃん……!」

 

 

 

 アマネに飛びついて、ギュッと抱き締めるマキちゃん。帰宅した飼い主を大喜びで出迎えるペットみたいで微笑ましい。

 

 

 

「準々決勝進出おめでとう、アマネ」

 

「ありがとう、セツナ」

 

「アマネたんおめでと~っ! あとね、パンツが鮮明に映ってたよ~!」

 

「え"っ"!?」

 

「ほらマキちゃん、しょうもない嘘つかないの」

 

「てへへ~、ごめんごめん」

 

「なんだ……ビックリさせないでよ。危うくカメラマンを半殺しにするところだったわ」

 

(( そっちのがシャレになってない!! ))

 

「……見させてもらったよ、アマネの本当のデッキ。まさか【ヴァンパイア】とはね、恐れ入ったよ」

 

「ええ。私にとって、これ以上のデッキは無いわ」

 

 

 

 アマネの操る【ヴァンパイア】デッキ……初見でも、その恐ろしい強さは十二分に(うかが)い知れた。

 

 アンデット族らしく、墓地に置く事で真価を発揮する吸血鬼。

 ひとつアクションを起こせば連鎖的に別の効果が次々と発動する高度な戦術(タクティクス)

 

 明日の準々決勝、ボクはこんな()(ごわ)い相手と闘うのか……気を引き締めとこ。

 

 

 

「──凰選手、()(づき)選手。間もなく第7試合の開始時間です。出場の準備をお願いします」

 

 

 

 それからまた数分後。

 いつもの様に係員さんが、次の試合に出場するマキちゃんと凰くんを呼び出しに来た。

 

 

 

「よーっし! 行ってくるね!」

 

「行ってらっしゃい!」

 

「マキちゃん頑張れーっ!」

 

 

 

 会場へ向かった二人に手を振って見送ると──アマネに話しかけられた。

 

 

 

「……そうそう、セツナには礼を言わないといけないわね」

 

「ん? 何の事?」

 

「私が試合に出る前、『楽しんできな』って言ってくれたでしょ?」

 

「あー、うん、言ったね」

 

「アレのおかげで肩の(ちから)がだいぶ抜けた気がしたのよね。……正直、緊張してたから……あのままだったらガチガチなまま舞台に立ってたと思う。──だから、ありがと」

 

「……あはは、なんか言わなきゃと思ってとっさに出た言葉だったんだけど……力になれたなら良かったよ。どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──アリーナ・カップ1日目もいよいよ大詰め!! 第7試合も君達一人一人の声援で、大いに盛り上げてくれたまえッ!!』

 

 

 

 今日のトーナメントも気づけば残り2試合。

 ボクは引き続き控え室のソファーに腰かけ、ハイビジョンのライブ中継を観戦している。隣にはマキちゃんに代わってアマネが座った。

 もちろん鰐塚ちゃんも一緒にいる。やっぱり顔は赤いままだけど。そして狼城くんは今度こそ爆睡した。

 

 回を重ねる(ごと)(おとろ)えるどころか、ますます盛り上がっていく歓声で場内も温まってきた頃、MCのマック伊東さんが高らかな選手入場のコールで、今回のメインキャストを招き入れた。

 

 

 

『さぁ元気いっぱいにオーディエンスに手を振りながらステージへ現れたのは、今年のルーキー最後の一人! (ちまた)では天真爛漫(てんしんらんまん)な小悪魔と評判の美少女決闘者(デュエリスト)! 2年・観月 マキノォォーッ!!』

 

「イエーイッ!」

 

 

 

 アイドルさながらに笑顔を振り撒いて、カメラに気づくとウィンクを決めたマキちゃん。可愛い。

 これだけの大舞台に立っていても緊張を()(じん)も感じさせず、いつものマキちゃんらしく振る舞っている。

 普段から彼女が怖いもの知らずなのはよーく知ってたけれど、その可憐なルックスに()らない(きも)()わりっぷりに、ボクは改めて感服した。

 

 

 

『そしてそしてぇーっ! その小悪魔ちゃんと相見(あいまみ)えるはぁーッ! 十傑の一人にして、伝統ある凰一族の末裔!! 3年・十傑──(オオトリ) 聖将(キヨマサ)ァァーッ!!』

 

 

 

 続けてマキちゃんの真向かいに(ひら)いているゲートから、凰くんが入場する。

 長く伸びている朱色の髪を歩く(たび)に揺らしながら、威風堂々と決闘(デュエル)フィールドに足を踏み入れた。

 

 

 

「──えっ……セツナ……今、なんて?」

 

「『神』のカードだよ。さっき本人が言ってた」

 

「まさかそんな……()()に『神』のカードの所有者が居るなんて、聞いた事ないわよ!?」

 

「うん、ボクもまさかって思った。でもあの自信……ハッタリではなさそうだよ」

 

「信じられない……!」

 

「あ、そうだ。ねぇ鰐塚ちゃん」

 

「ひゃいっ!?」

 

「鰐塚ちゃんは何か知ってる? 凰くんが持ってるって言う『神』のカードの事」

 

 

 

 同じ十傑である彼女なら、あのカードの正体を知ってるかもしれない。そう思い立って尋ねてみた。ところが……

 

 

 

「あ、あ、あの、えーっと、そ、それはですね……!」

 

(あわわわ、そ、そんなに真っ直ぐ見つめられたらワタクシ……!)

 

「……? どうしたの鰐塚ちゃん? なんか今日ずっと変だよ?」

 

(貴方のせいですわーっ!!)

 

「……セツナ、他の選手の手の内を別の選手に聞くのは感心しないわよ」

 

「それもそっか。ごめん鰐塚ちゃん、今のは忘れて」

 

「えう……そ、そうですの?」

 

 

 

 この試合で今に拝めるんだ、楽しみにしておくとしよう。

 

 

 

『イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 マキノ LP(ライフポイント) 4000

 

 (オオトリ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「余の先攻でよいな?」

 

「よいぞぉ~♪」

 

「っ……貴様、余を侮辱するかっ!!」

 

「まーまー、良いから早く始めてくださいよ~」

 

「無礼者め……容赦はせぬぞっ! 余は【ネフティスの(まも)り手】を召喚!」

 

 

 

【ネフティスの(まも)り手】 攻撃力 1400

 

 

 

「モンスター効果発動! 1ターンに一度、自分の手札を1枚選択し、破壊する!」

 

 

 

 凰くんの手札が1枚、墓地へ送られる。自分の手札を破壊だなんて珍しい効果だなぁ。

 

 

 

「その()、手札からレベル4以下の【ネフティス】モンスター1体を特殊召喚できる! 現れよ、【ネフティスの(みちび)き手】!」

 

 

 

【ネフティスの(みちび)き手】 攻撃力 600

 

 

 

「【導き手】の効果発動! 自分フィールドのモンスター1体と、このカードをリリースする事で、手札、またはデッキから──『神』を召喚する!!」

 

「!?」

 

 

 

 ま、まさか、先攻1ターン目からいきなり『神』!?

 

 

 

「余は【導き手】と【護り手】を『神』への生け贄に捧げ──デッキより、【ネフティスの鳳凰神(ほうおうしん)】を特殊召喚!!」

 

 

 

 2体の女性モンスターが、巻き起こった炎の(うず)に包まれ消滅する。

 

 

 

「──()でよ!! 【ネフティスの鳳凰神】!!」

 

(来る……!)

 

 

 

 その炎は、まるで翼を広げる巨大な鳥の様な形状を()し……やがて炎の中から2本の腕を持ち、下半身に両翼を生やした、黄金(おうごん)鳥獣(ちょうじゅう)が姿を現した。

 

 

 

【ネフティスの鳳凰神(ほうおうしん)】 攻撃力 2400

 

 

 

『いきなり出たァァーッ!! これぞ凰選手のエースモンスターにして、神と呼ばれた伝説のカード・【ネフティスの鳳凰神】だぁぁーっ!!』

 

 

 

 神々(こうごう)しい鳳凰の(いなな)きに呼応して轟く、観客の皆さんの大歓声。これには早速エースを召喚してみせた凰くんも、ご満悦の表情。

 

 ──ところが、対戦相手のマキちゃんは何というか……すごくげんなりした顔をしている様に見えた。

 

 

 

「えぇ~~~……『神』のカードって言うから『三幻神(さんげんしん)』を期待してたのに~、普通のモンスターじゃないですかぁ~」

 

「なっ!?」

 

 

 

 ……正直ボクも同感だったけど、そういうのハッキリ言えちゃうマキちゃんホントすごい。

 

 『三幻神』というのは、ある3枚のカードを指す総称で、カード名はそれぞれ──

 

 【オシリスの天空竜】

 【オベリスクの巨神兵】

 【ラーの翼神竜】

 

 これらは『神のカード』とも呼ばれていて、決闘者(デュエリスト)なら知らない者はいない伝説のカードなんだ。

 

 ボクも『バトルシティ編』のDVDで、この3体の『神』が激突するシーンを観て打ち震えてた。懐かしいなぁ。

 

 ……というか冷静に考えてみれば、そんな(まぼろし)のレアカードを、いくら十傑とは言え一介(いっかい)の学生が持ってるわけがないか。

 

 

 

「何よ驚いて損した……おかしいと思ったのよ、『三幻神』のカードは、今は3枚とも『決闘王(デュエル・キング)』が持ってる筈だもの。セツナが紛らわしい言い方するから」

 

「えー? それは凰くんに言ってよ。ボクだって勘違いしちゃったんだから」

 

 

 

 まぁそれは置いといて。モニターに視線を戻すと、やはりと言うべきか凰くんは【(いか)れるもけもけ】みたいにカンカンだった。

 

 

 

「お、おのれ小娘ぇぇっ!! 余だけでなく、我が一族の『神』をも侮辱するかぁ!! その()(そん)、万死に値する!」

 

「んー? 別に侮辱したつもりは無いんですけど~」

 

「えぇい(くち)(つつし)め無礼者! 貴様は凰一族を敵に回したのだっ、断じて許さん!」

 

「うえぇ、なんかめんどくさい人~」

 

「余はこれでターンを終了する! さぁ貴様の──」

 

 

 

 言い終わらない内に──突如『それ』は起こった。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 何の前触れも無く、突然【ネフティスの鳳凰神】に、落雷が直撃したんだ。

 

 

 

「なにぃ!?」

 

『うおおおっ!? こ、これは一体何事だぁーっ!?』

 

「小娘っ、貴様の仕業か!? 何をしたぁ!!」

 

 

 

 激昂する凰くんに対し、マキちゃんはニカッと笑って1枚のカードをお披露目した。

 

 

 

「【サンダー・ボルト】♪ 早いけどセンパイの大好きな神サマには退場してもらいましたよ~」

 

 

 

 マキちゃんもマキちゃんで、いきなり鬼畜なカードを出してきたね……!

 

 【サンダー・ボルト】。これ1枚を発動するだけで、何のコストもデメリットも無しに、相手フィールドのモンスターを全て破壊できる。

 デュエルモンスターズ黎明(れいめい)()から存在する魔法(マジック)カードにして、モンスター除去効果の元祖。当時の決闘者(デュエリスト)達は、ほぼ必ずデッキに投入していたと言われるほどの、これまた伝説的なカードだ。

 ()()では考えられないそのシンプルかつ強力な効果(ゆえ)に、長年リミットレギュレーションで『禁止カード』に指定され、公式の決闘(デュエル)では使用できなかった……のだけれど──

 

 なんと最近それが解禁されて、デッキに1枚までなら入れられる『制限カード』へと(かん)()されたんだ。

 当然のごとく決闘(デュエル)界は震撼(しんかん)し、この学園でも話題騒然(そうぜん)となったのは記憶に新しい。

 

 一気に市場価値が高騰(こうとう)して入手困難になっていた激レアカードなのに、よく持ってたねマキちゃん。

 

 

 

「サ、【サンダー・ボルト】だと……! 小癪(こしゃく)な真似を……!」

 

「ふっふーん、誉め言葉だね。小癪な決闘(デュエル)をさせたら、あたしの右に出る決闘者(デュエリスト)はいませんよ!」

 

 

 

 マキちゃん、それって自慢するとこなのかな……?

 

 

 

「あたしは【ガトリング・バギー】を召喚!」

 

 

 

【ガトリング・バギー】 攻撃力 1600

 

 

 

「ほんでバトル、行くよー! センパイに直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 

 

 バギーに装備された機関銃が火を噴いた。

 

 

 

「ぐおぉっ!!」

 

 

 

 凰 LP 4000 → 2400

 

 

 

『先制は観月選手だぁーッ!!』

 

「どんなもんですか! あたしはカードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)でーす!」

 

 

 

 快調な滑り出しを決めたマキちゃん。この勢いで押し切れればいいけど……

 

 相手は十傑だ。一筋縄で行くとも思えない。

 

 

 

「……ランク・B(格下)の分際で余に傷をつけるとは……だが愚かだな小娘。貴様は神の怒りに触れたのだ!!」

 

「──!?」

 

「余のターン! ──よみがえれ我が神よ!!」

 

 

 

 再びフィールドに炎が発生した。そしてさっきと同じく自在に(うごめ)き始め……

 

 ──破壊された筈の【ネフティスの鳳凰神】が、マキちゃんの眼前に現れた。

 

 

 

【ネフティスの鳳凰神】 攻撃力 2400

 

 

 

「えっ、えーっ!? なんでぇ~~~っ!?」

 

『なんとーっ!? たった今破壊されたばかりの【ネフティスの鳳凰神】が、もう復活したぁーッ!!』

 

「ふははは! 見たか! これぞ神の能力(ちから)!! 【ネフティスの鳳凰神】は効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次の余のターンのスタンバイフェイズに、フィールドへ舞い戻るのだ!!」

 

「何それーっ!? 聞いてないんですけど~っ!」

 

「さらにそれだけではない! 【鳳凰神】はその効果で復活した時──フィールドの魔法(マジック)(トラップ)カードを全て破壊する!!」

 

 

 

 蘇生した【ネフティスの鳳凰神】が翼を広げた途端、渦巻く炎がマキちゃんの魔法・(トラップ)ゾーンにセットされていた2枚のカードを燃やしにかかる。

 

 

 

「その2枚の伏せカードには消えてもらう!」

 

「うわわわわっ!?」

 

 

 

 炎に飲まれて破壊されたのは、【光の()(ふう)霊剣(れいけん)】と【魔法の筒(マジック・シリンダー)】。

 

 うわーこれは痛い。せっかく良い(トラップ)を伏せてたのに発動前に除去されちゃうのは精神的にもキツいものがある。

 

 

 

「おっと危ない。伏せカードの1枚は【魔法の筒(マジック・シリンダー)】だったのか、()(ざか)しいカードを伏せていたな」

 

「ぐぬぬぬ~っ」

 

「続いて墓地より、【ネフティスの悟り手】の効果を発動!」

 

 

 

 あのカードは前のターンには出てきてなかった。てことは【ネフティスの護り手】の効果で、手札から破壊して墓地に送っていたカードか。

 

 

 

「このモンスターも【鳳凰神】と同じく、効果で破壊され墓地へ送られた場合、次の余のターンで復活する事ができる!」

 

 

 

【ネフティスの悟り手】 攻撃力 600

 

 

 

 効果による破壊をトリガーとして、自身の効果を発揮するカード群か。手札からわざわざ『破壊』って形で墓地に送ったのを見て何かあるとは思ってたけど、面白いデッキを使うね。

 

 それでいてなかなか厄介だ。マキちゃんが()(かつ)に破壊効果を使うと、逆に凰くんを有利にしてしまいかねない。

 

 

 

「バトルだ! 【ネフティスの鳳凰神】で【ガトリングバギー】を攻撃!」

 

「!」

 

「受けよ! 『裁きの炎』!!」

 

 

 

 【鳳凰神】が口から放った灼熱の炎を浴びた【ガトリングバギー】は、ガソリンに引火したのか派手に爆砕した。

 

 

 

「わあっ!!」

 

 

 

 マキノ LP 4000 → 3200

 

 

 

「ふははは! 神の怒りを思い知ったか!! さらに【ネフティスの悟り手】でダイレクトアタック!」

 

()ったーいっ!」

 

 

 

 マキノ LP 3200 → 2600

 

 

 

「さて、バトルは終了だが──メインフェイズ(ツー)で【ネフティスの悟り手】の効果を発動する。余の手札を1枚破壊し、墓地より【ネフティスの護り手】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【ネフティスの護り手】 守備力 200

 

 

 

「ただしモンスター効果は無効化される。余はカードを1枚伏せ、ターン終了だ!」

 

「……ムフフ、いいねぇ張り合いが出てきたね~! あたしのターン!」

 

 

 

 マキちゃんの目の色が変わった。いよいよ()()モードだ。

 

 にしても……と、ボクは呟く。

 

 

 

「厄介なモンスターだねぇ。効果で破壊しても復活してくるとなると……バトルで倒すか手札に戻すか……あとは除外するとか、かな?」

 

「私だったら奪い取るわね」

 

「わーお……アマネらしい」

 

 

 

 さぁ、マキちゃんはどう攻略する?

 

 

 

「──あたしはまず、【強欲で貪欲な壺】を発動! デッキの上から裏側で10枚除外して2枚ドロー! さらに──【()(シン)アークマキナ】を召喚!」

 

 

 

()(シン)アークマキナ】 攻撃力 100

 

 

 

 おっ、この局面であのモンスターを出してきたという事は、──()()が来るかな?

 

 

 

「ふん、攻撃力たかが100では、守備表示の【護り手】すら倒せぬぞ。勝てぬと見て勝負を捨てたか?」

 

「チッチッチッ、甘いですぞ~、センパイ♪」

 

「なに?」

 

「手札から魔法発動! 【右手に盾を左手に剣を】!」

 

 

 

【魔神アークマキナ】 攻撃力 100 → 2100

 

【ネフティスの鳳凰神】 攻撃力 2400 → 1600

 

【ネフティスの悟り手】 攻撃力 600 → 600

 

【ネフティスの護り手】 守備力 200 → 1400

 

 

 

「なんだとぉ!?」

 

 

 

 そう、マキちゃんにとって攻撃力の差なんて、あってない様なもの。モンスター同士の殴り合いは彼女の()()()だ。

 

 

 

「バトル! 【アークマキナ】で【ネフティスの鳳凰神】を攻撃!」

 

「くっ! 永続(トラップ)発動! 【ネフティスの覚醒(かくせい)】! 【ネフティス】の攻撃力を300アップする!」

 

 

 

【ネフティスの鳳凰神】 攻撃力 1600 + 300 = 1900

 

【ネフティスの悟り手】 攻撃力 600 + 300 = 900

 

【ネフティスの護り手】 攻撃力 200 + 300 = 500

 

 

 

「でもまだ攻撃力はこっちが上ですよ! 『ディストーション・ウェーブ』!!」

 

 

 

 機械仕掛けの悪魔が酷く(ひず)んだ音波を響かせ、鳳凰を粉砕する。

 

 

 

「ぐわっ!!」

 

 

 

 凰 LP 2400 → 2200

 

 

 

「戦闘で破壊しちゃえば、もう『神』が復活する事はないですよね!」

 

「くっ……!」

 

「この瞬間【アークマキナ】の効果はっつどーうっ! 相手に戦闘ダメージを与えた時、手札から通常モンスター1体を特殊召喚できる! 出ておいで! 【TM-1ランチャースパイダー】!!」

 

 

 

【TM-1ランチャースパイダー】 攻撃力 2200

 

 

 

「レベル7……最上級モンスターだと……!」

 

「【ランチャースパイダー】で【ネフティスの悟り手】を攻撃ぃーッ!」

 

 

 

- ショック・ロケット・アタック!! -

 

 

 

 クモ型の殺戮(さつりく)マシーンが、民族衣装の様な格好をした美女を標的に定め、ミサイルを乱射。爆撃で()()()(じん)に吹き飛ばした。

 

 

 

「うぐああああっ!!」

 

 

 

 凰 LP 2200 → 900

 

 

 

『おぉーっと! 観月選手の凄まじい猛追により、凰選手のライフが早くもデッドラインを超えてしまったぁーっ!!』

 

「わぁーい! 今日のマキちゃん絶好調ォ~ッ!!」

 

 

 

 やるなぁマキちゃん。十傑をここまで圧倒するなんて……本人も大はしゃぎのご様子だ。

 

 

 

「なんかスゴいね今日のマキちゃん。もしかして本当にこのまま勝っちゃうんじゃ……」

 

「……いや、どうかしらね」

 

 

 

 アマネの表情は、やや(けわ)しかった。

 確かに十傑が相手なら、この後まだもう一悶着(ひともんちゃく)ありそうな気もする。

 果たしてエースモンスターを完全に攻略された凰くんは、次にどんな手を打ってくるのだろうか……

 

 

 

「あたしはカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

【魔神アークマキナ】 攻撃力 2100 → 100

 

【ネフティスの護り手】 守備力 1400 → 200

 

 

 

(くそっ、余としたことがなんたる有り様だ! 凰一族の末裔たる者が、二度も『神』の破壊を許してしまうとは……! これ以上、一族の(めい)()に泥を塗るわけにはいかん。必ずこのターンで形勢を引っくり返してくれる!)

 

「余のターン……」

 

(神よ……我に勝利を!!)

 

「ドローッ!!」

 

(……──!)

 

「……ふっ、くっくっくっ……ふははははっ!」

 

「っ!? えっ、今度は何!?」

 

()()、神よ……感謝します。……小娘、よもやここまで余のライフを削れようとはな、素直に誉めてやろう。──だが悔いるがいい……今のターンで余を倒し切れなかった事をな!!」

 

「!?」

 

「このスタンバイフェイズ! 墓地より【ネフティスの祈り手】の効果を発動!」

 

 

 

 あ、忘れてた。そう言えばさっき【悟り手】の効果で、また手札を破壊してた!

 

 

 

「【祈り手】が効果で破壊された場合、次の余のスタンバイフェイズで、デッキから【ネフティス】と名のつく魔法、または(トラップ)カード1枚を手札に加える事ができる! 余は魔法カード・【ネフティスの希望】を手札に加え、──発動!」

 

「!」

 

「余のフィールドの【ネフティスの覚醒】と、貴様の伏せカードを破壊する!」

 

「むむっ! ほんじゃその前に発動させてもらいますよっと! (トラップ)カード・【重力解除】! フィールドの表側表示モンスター、全ての表示形式を変更します!」

 

 

 

【魔神アークマキナ】 守備力 2100

 

【TM-1ランチャースパイダー】 守備力 2500

 

【ネフティスの護り手】 攻撃力 1400

 

 

 

 攻撃力の低い【アークマキナ】が狙われないよう備えてたのか。さすがマキちゃん抜かりない。

 

 

 

「……チッ、まぁよかろう。どのみち、このターンで貴様は終わりなのだからな!」

 

「!」

 

「【ネフティスの覚醒】が破壊された事で、二つ目の効果を発動する! 手札かデッキ、または墓地から、【ネフティス】モンスター1体を特殊召喚する! 再び地上に舞い戻れ、──【ネフティスの鳳凰神】!!」

 

 

 

【ネフティスの鳳凰神】 攻撃力 2400

 

 

 

 危ないとこだったねマキちゃん。【重力解除】を伏せてなかったら大ダメージだ。

 

 

 

「うえ~、せっかくバトルで倒したのに、また~!?」

 

「……ここでこのカードを引くとはな……よもや小娘、貴様ごときに……、──『神』の究極の姿を拝ませる事になろうとは!!」

 

「!?」

 

 

 

 究極の姿!? 【ネフティスの鳳凰神】には、まだ上があるって言うのか……!

 

 

 

「魔法発動、【儀式の下準備】! デッキより儀式魔法カード1枚と、そのカードに名前が(しる)された儀式モンスター1枚を選択し、手札に加える!」

 

「儀式……!」

 

「そして手札に加えた儀式魔法・【ネフティスの(りん)()】を発動! レベル8・【ネフティスの鳳凰神】を、儀式の生け贄に捧げる!」

 

 

 

 ()(たび)フィールド(じょう)で燃え広がる火炎。ただ今度は【鳳凰神】の時と違って、炎の色が青白(あおじろ)かった。

 

 

 

「儀式召喚!! 降臨せよ、レベル8──【ネフティスの蒼凰神(そうおうしん)】!!」

 

 

 

 炎の塊は【ネフティスの鳳凰神】を青く塗り潰した様な、巨大な鳥へと姿を変えた。翼や頭部、尻尾の辺りからは、絶えず青白い炎が噴き上がり続けている。

 

 

 

【ネフティスの蒼凰神(そうおうしん)】 攻撃力 3000

 

 

 

「こ、攻撃力3000~ッ!?」

 

「【蒼凰神】の効果発動! 1ターンに一度、余のメインフェイズに、手札及び我がフィールドに()る表側表示の【ネフティス】カードを、任意の枚数破壊し、同じ数だけ相手モンスターを破壊する! 余は手札の【ネフティスの(まつ)り手】と、フィールドの【ネフティスの護り手】を破壊し、貴様のモンスター2体を破壊する!!」

 

 

 

 【ネフティスの蒼凰神】が両翼を羽ばたかせると、青い熱風が吹き(すさ)び、マキちゃんのモンスターは全て灰と化してしまう。

 

 

 

『あぁーーーっ!! 観月選手のモンスターが全滅してしまったぁーっ! 伏せカードも無い! これは絶体絶命だぞぉ~っ!?』

 

「っ……!」

 

「フフフ、散々手こずらせてくれたが最早これまでであるな。これより神に(あだ)なした愚か者に神罰(しんばつ)(くだ)す! せいぜい()()()うがいい!!」

 

 

 

 【蒼凰神】は口の中に青い炎を溢れさせ始めた。砲撃の用意は万全だ。

 

 

 

「【蒼凰神】の攻撃! 『蒼炎(そうえん)の神罰』!!」

 

 

 

 マズイ、これが通ったらマキちゃんの負けだ……! ボクは思わず立ち上がった。

 

 

 

「マキちゃん!!」

 

「大丈夫よ、セツナ」

 

「えっ……?」

 

 

 

 やけに落ち着いたアマネの声。直後、マキちゃんが動いた。

 

 

 

「墓地から【光の護封霊剣】を除外して、効果発動! このターン、相手はダイレクトアタックできない!」

 

 

 

 (まばゆ)い光の剣に阻まれ、【蒼凰神】は放とうとした炎を直前で消し去った。

 

 

 

「チィッ! 最初に【鳳凰神】の効果で破壊していたカードか……だが、所詮は1ターン延命しただけに過ぎぬ。余のターンは終了だ!」

 

『さぁ観月選手、状況はまさに首の皮一枚! 果たしてこのターンで逆転できるのだろうか!?』

 

 

 

 手札(ゼロ)、フィールドには1枚もカードが無い。もう【光の護封霊剣】は使えない上、モンスターを引いたところで【蒼凰神】の効果で破壊されたら壁にもならない。

 

 言うまでもなく、マキちゃんの命運は次のドローで決まる!

 

 

 

「……行くよ。あたしのターン、──ドロー!」

 

(──! ……)

 

「……カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

 カードを伏せただけで、あっさりと終わってしまったマキちゃんのターン。モンスターではなかったのが幸いかも知れない。何のカードを引いたんだろう。

 

 

 

「ふん、あくまでサレンダーはせぬか。ならば望み通り、今度こそ神の一撃にて葬り去ってくれようぞ! 余のターンである!」

 

(……【鳳翼(ほうよく)の爆風】か。【サイクロン】でも引ければ良かったが……)

 

「……」

 

「……」

 

(奴の伏せカード……仮にモンスターを破壊する(トラップ)だったとしても、【蒼凰神】は自身の効果で次の余のターンが来れば復活する、恐れる事はない。何より、たかが伏せカード1枚に臆して攻撃を躊躇(ためら)うなど、十傑として……(いな)それ以前に、──余の決闘者(デュエリスト)としてのプライドが許さぬ!!)

 

「トドメだ小娘! 神の前に(ひざまず)け! 『蒼炎の神罰』!!」

 

「!!」

 

 

 

 ついに放たれた、青く燃えたぎる火炎放射。今回は止められる事なく、どんどんマキちゃんとの距離を詰めていく。

 

 

 

「──この決闘(デュエル)もらったぁーッ!! (トラップ)発動! 【(やみ)よりの(わな)】!!」

 

「なにっ!?」

 

「自分のライフが3000以下の時、1000ポイントのライフを払って発動!」

 

 

 

 マキノ LP 2600 → 1600

 

 

 

「このカードは墓地の通常(トラップ)1枚と同じ効果になる事ができる! あたしが使うのは──【魔法の筒(マジック・シリンダー)】!!」

 

「っ!? し、しまったぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 【闇よりの罠】のカードの立体映像(ソリッドビジョン)が【魔法の筒(マジック・シリンダー)】に切り替わる。

 次いで空中に出現した2本の筒の片方に【蒼凰神】の炎が吸い込まれ、もう片方から凰くん目掛けて、それが発射された。

 

 

 

「うわああああああっ!!!」

 

 

 

 凰 LP 0

 

 

 

『決着ゥゥーッ!! ウィナー・観月 マキノ!! 土俵(どひょう)(ぎわ)からの1発大逆転ーッ!!』

 

「へへん、やったね!」

 

 

 

 Vサインするマキちゃんの満面の笑みを、モニターがアップで映したのを観て、ボクは安堵から胸を撫で下ろし、ソファーの背もたれに全体重を預けた。

 

 

 

「ほっ……マキちゃん勝ったか良かった~。観ててヒヤヒヤしたよぉ」

 

「ほんと……ギリッギリだったわね。でも良かったわ」

 

 

 

 あと一歩というところで予想外の反撃を食らい逆転負けした凰くんのショックは相当なものだろう。床に膝と両手を突き、(こうべ)を垂れていた。

 

 

 

「バカな……有り得ぬ……余が格下に敗北するなど……!」

 

「……控え室でアマネたんの試合を観てた時、セツナくんが言ってたじゃないですか。『決闘(デュエル)に絶対は無いし、ランクの差なんて関係ない』って」

 

「……くっ……認めるしかあるまい……余の完敗である」

 

「対戦ありがとうございました、凰センパイ♪」

 

『これで2年生は4人中3人が準々決勝進出! しかも3人とも十傑を倒しての勝ち上がり! スゴい! 今年のルーキーは、去年にも負けず劣らずの(つぶ)ぞろいだぁーッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──次で今日の試合もラストか。

 

 出場するのは未だにソファー1(きゃく)を占領して(すこ)やかな寝息を立てている狼城くんと、未だにボクの隣で赤い顔して固まっている鰐塚ちゃんだ。

 

 

 

「次だね鰐塚ちゃん。頑張ってね」

 

「はうっ!?」

 

(そ、そうでしたわ! いつまでもセツナさんの匂いを堪能している場合ではなくてよ! 切り替えなくてはいけませんわ!)

 

「いっ、いい、言われるまでもありませんわ! ワタクシの勇姿を(しか)と見届けなさい!」

 

「もちろん。楽しんできてね」

 

「ッ~~~~~!!」

 

(セツナさんに見守られながら決闘(デュエル)するなんて……ぜっっったいに負けられませんわ!!)

 

 

 

 鰐塚ちゃんの決闘(デュエル)を久々に見れるし、狼城くんがどんなデッキを使うのか興味深い。

 

 第8試合も楽しみだ。

 

 

 

 





 タイトルはこれしかないと思いました。

 さて、次回の鰐塚 vs 狼城を投稿したら、その次は一旦デュエル無しの日常回を挟もうと考えております。

 まだどんな話にするかは決めていませんが、もしリクエスト等もらえましたら嬉しいです!
 活動報告の『リクエスト募集』にて随時募集中でございます(*‘ω‘ *)

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