遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 世間は大変な事になっておりますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

 作者は先日、虫歯の治療で奥歯をドリルでガリガリやられましたが何とか元気です。
 歯は大切にした方が良いです、マジで。(泣)



TURN - 39 UNDEAD SHOWDAWN

 

「はふぅ~~、今日はもう疲れたよ……」

 

 

 

 熊谷(クマガイ)くんとの決闘(デュエル)に何とか運よく勝てたボクは、アリーナ・カップ出場者用の控え室に戻るなり、置いてあるフカフカなソファーの上に倒れ込んだ。

 

 ただでさえ金沢くん達に襲われて()(へい)させられた身体を押して、あんな衆人環視の中、メガネを外す事で発動する集中モードまで使って、やっと勝利を(つか)み取ってきた帰りなもんだから……緊張の糸が切れて気が(ゆる)んだ途端、疲労感がマックスに達してもうクッタクタ。このまま寝落ちしそうな勢い。

 

 

 

「おかえり~。だいぶお疲れだね~」

 

「観ててヒヤヒヤしたけど、勝てて良かったわね。おめでとう」

 

 

 

 マキちゃんとアマネが(ねぎら)ってくれた。ボクはゴロンと寝返りを打って仰向けになる。

 革張りの高級な質感は実に寝心地が良い。ちょっとウトウトしてきたかも……

 

 

 

「ありがとう二人とも……いやぁ~、緊張したよ」

 

「そんな風には見えなかったけどね~。ねーワニ嬢ちゃん!」

 

「んなっ!?」

 

 

 

 急にマキちゃんに話題を振られたのは、プラチナブロンドの長髪を縦ロール状のツインテール……所謂(いわゆる)、ツインドリルに結んだ美少女・鰐塚(わにづか) ミサキちゃん。

 

 彼女はボクと目が合うと何やら顔を赤くして、オロオロと狼狽(うろた)え出した。どうしたんだろう?

 

 

 

「っ……わ、わわ、ワタクシに勝ったのですから、とと、トーゼンでしてよ!?」

 

「あはは、ありがとう。鰐塚ちゃんも頑張ってね」

 

「~~~~~っ!!」

 

(せせせ、セツナさんに応援されましたわ~~~!!)

 

 

 

 ……? 本当にどうしたんだろう? 鰐塚ちゃん。

 

 

 

「……それから、アマネもね。一足先に、明日(あした)の準々決勝で待ってるよ」

 

「……当然よ。首を洗って待ってなさい。すぐに追いついてあげるから」

 

 

 

 強気に言い切るアマネ。と、その時──

 

 

 

HA()HA()HA()! オモシロイ事を言うねレディー。Me(ミー)に勝てるつもりなのかい?」

 

「「 ! 」」

 

 

 

 アメリカンリーゼントの金髪が目立つ、ハーフっぽい顔立ちの青年に話しかけられた。彼は次の試合に出場する選手。つまりアマネの対戦相手だ。名前は確か……

 

 

 

「犬居……ベンジャミンくん?」

 

「OH! イエス、ザッツライ! 覚えててくれて嬉しいよ。あのミスター・マッスルマンに勝つとはなかなかやるね、シルバーボーイ!」

 

「シルバーボーイて。ボクの名前はセツナだよ。えーっと……マイネームイズ、セツナ?」

 

 

 

 ワタシ英語ワカリマセン。

 

 

 

「…… I intend to do that, senior. I'll get the win.(そのつもりですよ先輩。勝たせてもらいます)」

 

(え、英語!? アマネ喋れたの!?)

 

「Wow !? Your English is very good !! Your pronunciation is so clear that it's hard to believe you're Japanese.(ワオ!? 英語()()いね! 日本人(ジャパニーズ)とは思えないくらい発音がキレイだ)」

 

「Thank you,sir. I feel more confident when I am complimented by people from English-speaking countries.(ありがとうございます。英語圏の人に誉めてもらえると自信がつきますね)」

 

「──But I'm sorry, but I'm also not going to let the pretty lady victory this tournament. I'll fight it to the best of my ability.(だが悪いけど、Meもこの大会の勝利ばかりは()(れん)なレディーと言えど譲る気は無いんでね。本気でやらせてもらうよ)」

 

「Bring it on.(望むところです)」

 

 

 

 凄いやアマネ。外国人と流暢(りゅうちょう)に英会話してる。

 う~ん、ちらほら聞き取れる単語はあるけれども……ダメだ。なんて言ってるのか、まるで意味が分からんぞ。

 

 

 

「アマネって英語喋れるんだね、ビックリしたよ」

 

「そりゃあプロになったら世界中の決闘者(デュエリスト)と闘う事になるんだし。最低限、英語ぐらいは話せないと苦労するでしょ」

 

 

 

 確かに。毎年プロリーグに多くの卒業生を輩出しているこの学園も、グローバルな決闘者(デュエリスト)を育てる為、外国語の教育には決闘(デュエル)の次に力を入れているからね。

 

 世界共通語である英語はもちろん、他にも自分が習得したい国の言語を、自由に選択して授業を受けられるシステムまで導入されている。

 別にプロ決闘者(デュエリスト)を目指してるわけではなくても(ボクもそうだけど)、他国の人とスムーズに意志()(つう)できるスキルというのは、身につけておけば将来いろんなところで役に立つ。なので生徒には好評らしい。

 ジャルダン校が現代決闘(デュエル)界のメジャーとして、名を()せている理由の1つだ。

 

 ……あ、そう言えばボクこの前の英語のテスト赤点ギリギリだったなぁ~、そろそろヤバイのでは?

 

 なんて地味に焦りを感じ始めていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

 

 

(いぬ)()選手、黒雲(くろくも)選手。出場の準備をお願いします。入場口に移動してください」

 

「はい」

 

OK(オーケー)!」

 

「アマネたんファイトー!」

 

 

 

 スタッフの呼び出しを受けた二人がデュエルディスク片手に退室していく。

 直前、ボクはアマネにこう言った。

 

 

 

「アマネ! 思いっきり楽しんできな!」

 

「……!」

 

 

 

 アマネはクスッと微笑むと──

 

 

 

「待たせたわね、セツナ。今から見せてあげる。──私の本当のデッキをね!」

 

 

 

 そう言い残して、扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あー、あー、テステス、ん"ん"っ。さぁ~て(みな)のもの! そろそろ第6試合の時間だぞぉ~! トイレは済ませてきたか? 盛り上がる準備はできてるかぁーーーッッ!?』

 

 

 

 控え室に残ったボク達は、百インチ以上はありそうな超大型の液晶ディスプレイが、無駄に高画質でモニタリングしてくれる会場内の模様を観戦していた。これ値段いくらするんだろ。

 

 そのウン十万はくだらなそうな高級テレビの前に設置されたソファーの上で、ボクはマキちゃんと鰐塚ちゃんに挟まれる形で腰を下ろしている。

 気分はもはや映画鑑賞だ。購買でポップコーンでも買ってくれば良かったな。

 

 

 

(はわわわっ、セツナさんが隣に!? ちちち、近いですわ~っ!)

 

(ほらほらワニ嬢ちゃんがんばって~!)

 

 

 

 ……未だに顔が赤いまま目を回している鰐塚ちゃんと、何が面白いのかニマニマ笑っているマキちゃん。状況が上手く掴めないんだけど、教えて偉い人。

 

 ちなみにもう一人……ボク達の位置から見て、斜め右に置かれた別のソファーには、朱色の長髪が眩しい美男子が、足を組んでふんぞり返っていた。

 次の第7試合でマキちゃんと闘う十傑の一人──(オオトリ) 聖将(キヨマサ)くんだ。

 

 彼を含めた4人で試合の開始を待っていた時、誰かが扉を開けて入室してきた。

 

 

 

「ウイーッス」

 

「あ、おかえりー、狼城(ろうじょう)くん」

 

 

 

 癖毛な灰色の髪を掻きながら入ってきたこのイケメンは、狼城(ろうじょう) (アキラ)くん。

 凰くんと同じ十傑で、第8試合に出場する鰐塚ちゃんの相手だ。

 

 

 

「おっ、なんだよセツナ君。両手に花たぁ(スミ)に置けねぇなー」

 

「あはは、良いでしょ。狼城くんも混ざる?」

 

「いんや、(せめ)ぇからいーわ。オレぁこっちで寝んぜ」

 

 

 

 狼城くんは凰くんの真向かい──ボクから見て斜め左──にあるソファーに仰向けで寝転がり、頭の後ろで両手を組むと、人目も(はばか)らず大あくびした。

 

 自分の部屋みたいに(くつろ)いでいらっしゃる。なんと言うか、自由な人だなぁ。去年のアリーナ・カップ、第3位に輝いた強者の余裕ってヤツだろうか。

 

 

 

『よぉーーーしッ!! みんなまだまだ元気だな! その調子で残り3試合、最後まで全力で盛り上げてってくれよぉ! では早速だが選手入場だッ!!』

 

 

 

 お、始まった。例のごとくスモークが噴かれて選手に入場を(うなが)す。

 

 

 

『さぁまずはクールビューティーなルーキーの紹介だ! その()(ぼう)()ることながら、強豪ひしめく予選を勝ち抜いてきた実力は折り紙つき! 2年・黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)ぇぇーッ!!』

 

 

 

 画面に映し出された入場ゲートの奥からアマネが姿を見せると、歓声に混じって指笛(ゆびぶえ)の音も聴こえてきた。

 

 赤いメッシュが入った鮮やかな黒髪を揺らし、ファッションショーでランウェイを歩くモデルの様に悠然(ゆうぜん)と、(よど)みない足取りで決闘(デュエル)フィールドへ歩を進めている。

 表情は真剣そのもので、特に気負った様子とかは見受けられない。

 

 

 

「カメラさんもっと下! アマネたんのパンツが見えない!」

 

「マキちゃん静かに」

 

 

 

 アマネがステージに立った頃を見計らって、反対のゲートもスモークを噴き出した。

 

 

 

『だが今日の相手は予選の時とは一味も二味も違うぜっ! なんてったって学園屈指の上位ランカー・トップ()()! デュエルモンスターズの本場、米国(アメリカ)からやって来た、サイコーにクールな決闘者(デュエリスト)だッ! カモーン! 3年・十傑──(いぬ)() ベンジャミィーンッ!!』

 

 

 

 ベンジャミンくんのご登場だ。決闘(デュエル)フィールドに立ち、カメラに向かって顔の横で二本指をビシッと立てたポーズを決めて、ウィンクしたところがアップで映される。

 

 ふと、ボクはある事を思い出して(くち)(ひら)いた。

 

 

 

「十傑かぁ~。でも確かアマネって、予選で元・十傑の人に勝ったって言ってたよね?」

 

「うん、名前はえーっとね~……(わし)()さん、って言ったかなぁ?」

 

「元とは言え十傑に勝てた実績があるなら、きっと大丈夫だね」

 

「くだらんな」

 

「「 ! 」」

 

 

 

 凰くんが突然そう言ってきた。

 

 

 

「鷲津は親の七光りに胡座(あぐら)をかいていただけの出来損ないだ。所詮は十傑の面汚(つらよご)しに過ぎぬ。奴ごときに勝ったところで何の自慢にもならん」

 

「そう~そ。あいつを十傑から蹴落としてやったのぁオレなんだけどよ、ぜーんぜん大した事なかったわ」

 

 

 

 と、狼城くんも目を閉じたまま追随(ついずい)する。

 

 

 

「ふーん……」

 

 

 

 ボクはその鷲津って人の顔さえ知らないけど、ここまでディスられてると不憫に思えてきちゃうね。

 

 

 

『両者、同時にデュエルディスクを展開する! いつでもOKという構えだ! それじゃあ行くぞ! アリーナ・カップ1日目・第6試合! イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 アマネ LP(ライフポイント) 4000

 

 ベンジャミン LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

お先にドウゾ(ゴー アヘッド)、ハニー。レディファーストだ」

 

「……どうも。私のターン!」

 

『先攻は黒雲選手に決まった様だ! さぁ前の試合に続いて新世代の番狂わせは起こせるかっ!? 注目の1ターン目が今スタートだッ!!』

 

 

 

 そう、ボクにとっても注目の1ターン目だ。なんたって、さっきアマネが言った通り……

 

 

 

「やっと拝めるね……アマネの『本当のデッキ』が」

 

 

 

 これまで選抜試験の為に温存しておきたいという理由で、(がん)として見せてくれなかった彼女の真の実力を……今日、ようやく()の当たりにする事ができる!

 

 

 

「──私は【ヴァンパイア・レディ】を召喚!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550

 

 

 

 紫の衣装で着飾った、(あや)しい魅力に(あふ)れる美女が召喚された。

 『ヴァンパイア』って日本語で『吸血鬼』って意味だよね。という事は、もしかして……

 

 

 

「さらに手札から永続魔法・【ヴァンパイアの領域】を発動! 1ターンに一度、ライフを500払う事で、もう1体【ヴァンパイア】を通常召喚できる!」

 

 

 

 アマネ LP 4000 → 3500

 

 

 

「【ヴァンパイア・ソーサラー】召喚!」

 

 

 

【ヴァンパイア・ソーサラー】 攻撃力 1500

 

 

 

 続けてアマネは、とんがり帽子を被りローブに身を包んだ、魔法使いみたいな格好のモンスターを呼び出した。片手に携えた(ロッド)の先端には、赤い球体を埋め込んだコウモリの彫刻が施されている。

 

 なるほど……アマネのメインデッキは、【ヴァンパイア】デッキだったのか!

 

 

 

「私はカードを1枚伏せ……永続魔法・【補充部隊】を発動して、ターン終了(エンド)

 

(これで迎え撃つ準備は整ったわ。あとは相手の出方次第……!)

 

「ヒュー♪ ヴァンパイアとはクールなモンスターを使うね! そんじゃ──Meのターン」

 

(なんだ? この手札は……)

 

「ドロー!」

 

(……おいおいこれじゃあ……Meの勝ちじゃないか!!)

 

『お次は犬居選手のターンだ! 本場()()みの決闘(デュエル)を見せてくれッ!!』

 

「OH,YEAH!! Meはフィールド魔法・【ヴェンデット・ナイト】を発動するぜ!」

 

「!」

 

 

 

 突如ベンジャミンくんの周りをビル群が埋めつくし、天井に映写された夜空の立体映像(ソリッドビジョン)に、サーチライトがいくつも()し込んだ。

 そして地面には何故か、(ゆう)()鉄線(てっせん)を巻きつけた(へい)輪状(りんじょう)に仕切られた、墓地が広がっている。

 

 

 

「【ヴェンデット・ナイト】の効果発動! ワンターンに一度、手札を1枚捨てて、デッキから【ヴェンデット】モンスター1体を手札に加える! Meは【ヴェンデット・ストリゲス】を墓地に捨て、デッキから儀式モンスター・【リヴェンデット・スレイヤー】を手札に加えるぜ!」

 

 

 

 聞き慣れない名前のモンスターカードを見て、ボクは首を傾げた。

 

 

 

「【ヴェンデット】? 初めて見るカードだね」

 

「あれ? セツナくん知らないの? 海外で最近出た新しいカードだよ~」

 

「へぇ~」

 

 

 

 海の向こうには、まだまだボクの知らない未知なるカードがたくさんあるんだね。

 

 

 

「さらに今墓地に捨てた【ストリゲス】の効果発動! このモンスターが墓地へ送られた場合、手札の【ヴェンデット】カード1枚を相手に見せる事で、自身を特殊召喚できる!」

 

 

 

 達者な日本語で宣言し、さっき手札に加えた【リヴェンデット・スレイヤー】を、もう一度アマネに公開するベンジャミンくん。アマネは確認したらしく、コクリと(うなず)いた。

 

 

 

「カムバック・ヒアッ! 【ヴェンデット・ストリゲス】!」

 

 

 

 ベンジャミンくんの足下の墓場から、鳥みたいな怪物が何体も這い出てきて、鳴き声を上げながら翼をはためかせ空中に飛び立った。

 

 

 

【ヴェンデット・ストリゲス】 守備力 2000

 

 

 

ただし(バット)、この効果で特殊召喚した【ストリゲス】は、フィールドを離れた場合、除外される。続けて【ヴェンデット・レヴナント】を通常召喚!」

 

 

 

【ヴェンデット・レヴナント】 攻撃力 1800

 

 

 

 次に現れたのは何人もの人間だった。

 と言っても普通の人間ではない。

 みんな肌が青白くて生気を感じられない上、腕とかは異形に変異していて、人のそれとはかけ離れている。

 

 見た目を一言で言い表すなら……ゾンビだ。

 

 ゾンビの男女が集団で(うめ)きながら、墓場をフラフラさ迷っている。何だかバイ○ハザードみたい。

 

 

 

「さぁこっからがショータイムだ! Meは手札から儀式魔法・【リヴェンデット・ボーン】を発動!」

 

(──! やはり来たわね……!)

 

「Meが儀式召喚するのはレベル(シックス)の【リヴェンデット・スレイヤー】! Meはレベル(トゥー)の【ストリゲス】と、レベル(フォー)の【レヴナント】をリリース!」

 

 

 

 フィールドにワラワラと集まっていた生ける(しかばね)達が、【リヴェンデット・ボーン】のカードに吸い込まれていく。

 

 

 

「儀式召喚!! カモン! 【リヴェンデット・スレイヤー】!!」

 

 

 

 降臨した儀式モンスターは、【レヴナント】と同じく人形(ひとがた)の【ヴェンデット】。

 

 引き締まった肉体にマントを羽織り、両腕には鋭利な刃が生え、眼は赤い炎が揺蕩(たゆた)っている様に見える。

 背中からは繋ぎ合った人骨らしき細長い棒が5本、さながら触手みたいに伸びていて、その先端にも腕のと同じ刃物が取り付けられていた。

 いかにも肉弾戦が得意そうな偉丈夫(いじょうふ)だ。

 

 

 

【リヴェンデット・スレイヤー】 攻撃力 2400

 

 

 

 ……それにしても、なんでわざわざ【レヴナント】を召喚してから儀式の素材にしたんだろ? 手札からでもリリースはできたと思うけど……

 基本1ターンに1回きりの通常召喚の権利を、ここで行使する必要があったんだろうか?

 

 

 

『ででで出たァァーッ!! 犬居選手のエースモンスターが早くもお出ましだぁッ!!』

 

「クールだろ? Meの大好きなアメコミのダークヒーローがモチーフなんだぜ」

 

(攻撃力2400……!)

 

「くっ……!」

 

さぁ行くよ(ヒアウィ・ゴーッ)! 【リヴェンデット・スレイヤー】で、【ヴァンパイア・レディ】を攻撃(アタック)!」

 

 

 

 いよいよダークヒーローとヴァンパイアの激突だ。

 

 

 

「この瞬間、【リヴェンデット・スレイヤー】の効果発動! こいつがバトルするダメージ計算時に、墓地からアンデット族を除外する事で、攻撃力を300アップする! Meは【レヴナント】を除外!」

 

 

 

【リヴェンデット・スレイヤー】 攻撃力 2400 + 300 = 2700

 

 

 

「っ!」

 

「地獄で会おうぜ、ベイベー。──『ドレッド・アックス』!!」

 

 

 

 【リヴェンデット・スレイヤー】の腕にくっついている刃が、【ヴァンパイア・レディ】を切り裂いた。

 

 

 

「うあっ……!」

 

 

 

 アマネ LP 3500 → 2350

 

 

 

「くっ、【補充部隊】の効果発動! 私が受けたダメージ1000ポイントにつき、1枚ドローする!」

 

「それぐらい問題ない(ノープロブレム)サ。さぁ~て……今からYou(ユー)に、【ヴェンデット】デッキの真の恐ろしさをレクチャーしてあげよう!」

 

「真の恐ろしさ……?」

 

「イエス。【ヴェンデット】の効果モンスターは共通の効果を持ってるのサ。1つはさっきの【ストリゲス】みたいに、特定の条件をクリアする事で墓地から特殊召喚(リボーン)できる効果。アンドもう1つは──【ヴェンデット】の儀式モンスターを儀式召喚する為に、フィールドからリリースされた場合……その儀式モンスターに、新しい効果を()()する効果だ!」

 

「!!」

 

(わか)るかい? 例えば【ストリゲス】をリリースして儀式召喚された【スレイヤー】は、相手に戦闘ダメージを与えたダメージ計算後、デッキから1枚ドローして、手札を1枚捨てる効果を得る!」

 

 

 

 説明しながらベンジャミンくんは、実際にカードを引いて手札を交換した。

 

 得心が行った。道理で召喚権を使ってまで、【ヴェンデット】を場に並べてから儀式したわけだ。

 

 

 

「──さらに! 【スレイヤー】の見せ場はこれで終わりじゃあない! フィールド魔法・【ヴェンデット・ナイト】の効果を発動!」

 

「!?」

 

「【ヴェンデット】が相手モンスターを戦闘(バトル)で破壊した時、自分の墓地から【ヴェンデット】モンスター1体を除外する事で、そのモンスターは相手モンスターに続けて攻撃(アタック)できる! Meはさっき捨てた【ヴェンデット・コア】を除外!」

 

 

 

 あのモンスターは【ストリゲス】から()()された【スレイヤー】の効果で、墓地に捨てていたカード……!

 

 手札とフィールドの状況次第で、何回でも攻撃できるって事か。なんて強力なコンボだ……!

 

 

 

第2(セカンド)ラウンドと(しゃ)()()もうか! 【スレイヤー】で【ヴァンパイア・ソーサラー】をアタック! サイコロステーキにしてやれ! 『ドレッド・テンタクル・ナイフ』!!」

 

 

 

 【スレイヤー】は、背中に生やした全ての刃を手足の(ごと)く自在に操り、【ヴァンパイア・ソーサラー】を八つ裂きにした。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 アマネ LP 2350 → 1150

 

 

 

「……戦闘ダメージは1200。【補充部隊】で1枚ドローするわ。そして破壊された【ソーサラー】の効果発動! このモンスターが相手によって墓地に送られた場合、デッキから【ヴァンパイア】カードを1枚、手札に加える。私が加えるのは……【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

おっと(ウップス)、モンスターがいなくなっちまった。このターンのヒーローショーはここまでみたいだな。Meはカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 

 

 ターンを終えても、【スレイヤー】が自身の効果で上昇させた攻撃力は、元に戻らなかった。どうやら永続的な強化らしい。

 闘う度に墓地のアンデット族を除外する事で、どこまでも力を増していくモンスター……かなり厄介だね。

 

 

 

『あ、圧倒的ィィィッ!! 犬居選手、たった1体のモンスターで、敵モンスターを全滅させてしまったぁーッ!』

 

「犬居の必勝パターンに入ったか。もはやあの小娘に勝ち目はあるまい」

 

 

 

 そう断言した凰くんに、マキちゃんが「むっ」と(くちびる)(とが)らせ反論する。

 

 

 

「アマネたんは負けないもん!」

 

「ふん、奴と貴様は確かランク・Bであったな? 格下が格上を……それも、学園に選ばれし最上位である十傑を討とうなど、おこがましい。身の程を知れ愚か者」

 

「むう~っ!」

 

「……ボクはランク・Eの子が、ランク・Cに勝ったのを見た事があるよ」

 

「なに?」

 

決闘(デュエル)に『絶対』は無いし、ランクの差なんて関係ない。──きっとアマネがそれを証明してくれるよ」

 

「……戯言(たわごと)を」

 

 

 

 画面に視線を戻す。やられっぱなしで終わるほどヤワじゃないよ、彼女(アマネ)は。

 

 

 

「さぁ、Youのターンだぜ。セニョリータ」

 

「……私のターン……ドロー!」

 

(とにかく【スレイヤー】を何とかしないと……!)

 

「私は墓地の【ソーサラー】を除外して、効果発動! このターン、レベル5以上の【ヴァンパイア】をリリース無しで召喚できる! 現れなさい──【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!!」

 

 

 

 長い銀髪で背中からはコウモリの羽根に似た翼を広げ、お腹を大胆に露出した、妖艶(ようえん)な女性の吸血鬼が舞い降りる。

 

 

 

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】 攻撃力 2000

 

 

 

「モンスター効果発動! 召喚時、または自分が他の【ヴァンパイア】を召喚した時、このモンスターより攻撃力の高い相手モンスター1体を装備できる!」

 

「ワッツ!?」

 

「私は【リヴェンデット・スレイヤー】を、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に装備!」

 

「そいつはさすがにノーセンキューだ! (トラップ)カード・【ヴェンデット・リボーン】発動! 相手モンスター1体をリリースする!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 突然フィールドの床を突き破って大量のゾンビが湧き出し、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】のスレンダーな身体に、我先にと群がっていった。

 

 

 

「っ……なら! (トラップ)発動! 【ヴァンパイア・シフト】! 自分のフィールドカードゾーンにカードが無く、自分フィールドのモンスターがアンデット族のみの場合に発動できる! デッキからフィールド魔法・【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】を発動する!」

 

 

 

 アマネの周囲に続々と建ち並ぶ家々と、それらを見下ろす様に奥から(そび)え立つ堅牢(けんろう)な城。

 できあがったのは、どこか西洋を思わせる城下町。上空に浮かぶ満月の真っ赤な光によって、不気味に照らされている。

 

 ベンジャミンくんサイドの、人工の光源で()(あん)を明るく照らし出すコンクリートジャングルとは対称的な、ホラーチックな町並みだ。

 

 

 

「その()、墓地から【ヴァンパイア】1体を、守備表示で特殊召喚する! よみがえれ……【ヴァンパイア・レディ】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 守備力 1550

 

 

 

「……やるね(ノット・バッド)。発動条件を満たせなくなる前に発動して次に繋げたか。だが【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】には消えてもらうよ!」

 

 

 

 ゾンビ達に引きずり込まれて、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は地中深くへと沈んでいってしまった。

 

 

 

「そしてリリースしたモンスターと同じレベルの【ヴェンデットトークン】を、Meのフィールドに特殊召喚する!」

 

 

 

【ヴェンデットトークン】 守備力 0 レベル 7

 

 

 

「チェーン終了だ! ここで【スレイヤー】の新たな効果を発動! フィールドの【レヴナント】をリリースして儀式召喚された【スレイヤー】は、ワンターンに一度、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を除外できる! グッバイ、【ヴァンパイア・レディ】!」

 

 

 

 せっかく蘇生した【ヴァンパイア・レディ】が、今度は除外という形で再び退場させられた。

 

 

 

「くっ、そんな効果があったなんて……!」

 

(でも、まだ手は残ってる!)

 

「手札から魔法(マジック)カード・【おろかな埋葬(まいそう)】を発動! デッキからモンスター1体を墓地に送る! 私は【ヴァンパイア・ロード】を墓地へ! さらに手札から【死者蘇生】発動! 復活しなさい! 【ヴァンパイア・ロード】!!」

 

 

 

 美人に続いて現れた吸血鬼は、漆黒のマントを(まと)った美青年だった。

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000

 

 

 

「続けて魔法(マジック)カード・【威圧する()(がん)】を発動! 攻撃力2000以下のアンデット族モンスター1体は、このターン直接攻撃(ダイレクトアタック)ができる!」

 

なんだって(ワッダッヘェール)!?」

 

「バトルよ! 【ヴァンパイア・ロード】でダイレクトアタック! 『暗黒の使徒』!!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・ロード】がマントを(ひるがえ)すと、中からコウモリの群れが飛び出して、ベンジャミンくんに襲いかかる。

 

 

 

「ここで【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】の効果発動! アンデット族が戦闘するダメージ計算時、その攻撃力は500アップする!」

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000 + 500 = 2500

 

 

 

「アウチッ!!」

 

 

 

 ベンジャミン LP 4000 → 1500

 

 

 

『ついに黒雲選手が犬居選手のライフを削ったァーッ!!』

 

「【ヴァンパイア】が相手に戦闘ダメージを与えた場合、【ヴァンパイアの領域】の効果で、その数値分のライフを回復するわ!」

 

 

 

 アマネ LP 650 → 3150

 

 

 

「さらに【ヴァンパイア・ロード】が戦闘ダメージを与えた事で、モンスター効果発動! 相手は私が宣言した種類のカードを1枚、デッキから墓地に送らなければならない! 私は……(トラップ)カードを宣言!」

 

「……オーライ。それじゃあMeは、そうだな……【ヴェンデット・リユニオン】を墓地へ送ろう」

 

「この瞬間! 【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】の二つ目の効果を発動! 1ターンに一度、相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、自分の手札、またはデッキから、闇属性の【ヴァンパイア】モンスター1体を墓地に送り、フィールドのカード1枚を破壊する!」

 

「!!」

 

「デッキから【ヴァンパイアの眷族(けんぞく)】を墓地へ送り、【リヴェンデット・スレイヤー】を破壊──と、行きたいとこだけど……確か先輩の墓地にある【リヴェンデット・ボーン】は、除外する事で【スレイヤー】を破壊から守る効果がありましたよね?」

 

「ッ……なんだい、気づいてたのか」

 

「なら私は……【ヴェンデット・ナイト】を破壊!」

 

 

 

 ベンジャミンくんのフィールドに所狭しと林立していた()(てん)(ろう)が全て崩落し、大都市は見る見る内に壊滅していった。

 

 

 

「オーーーノォ~~~ッ!?」

 

(よし! これで一番厄介(やっかい)な連続攻撃は封じたわ!)

 

「墓地の【ヴァンパイアの眷族】は、自分フィールドの【ヴァンパイア】カード1枚を墓地に送る事で、特殊召喚できる。私は【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】を墓地に送る!」

 

 

 

 今度はアマネが築き上げた吸血鬼の帝国も消滅していく。

 

 正しい判断だ。ベンジャミンくんの【ヴェンデット】もアンデット族だから、バトルになったら相手モンスターまで攻撃力が上がってしまう。これ以上フィールドに【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】を残しておいてもメリットは無い。

 

 

 

「そして【眷族】を特殊召喚!」

 

 

 

 白い毛並みに(おお)われた1匹の(オオカミ)が出現する。その半身は黒い(かすみ)みたいに揺らめいていて、実体を成していなかった。

 

 

 

【ヴァンパイアの眷族】 守備力 0

 

 

 

「【眷族】の効果発動! このモンスターを特殊召喚した場合、ライフを500払う事で、デッキから【ヴァンパイア】と名のつく魔法・(トラップ)カード1枚を、手札に加える!」

 

 

 

 アマネ LP 3150 → 2650

 

 

 

「私は(トラップ)カード・【ヴァンパイア・アウェイク】を手札に加える! そしてカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

「やってくれるね、スウィート……! Meのターン……ドロー!」

 

(──! ナイス!!)

 

「BOOYAH!! ラッキーカードを引いたぜ!」

 

「っ!?」

 

「Meは【ヴェンデット・アニマ】を召喚!」

 

 

 

【ヴェンデット・アニマ】 攻撃力 0

 

 

 

「そして儀式魔法・【リヴェンデット・バース】を発動! フィールドのレベル(セブン)となった【ヴェンデットトークン】と、レベル(ワン)の【ヴェンデット・アニマ】をリリース!」

 

(これは……新たな儀式モンスター!?)

 

「──儀式召喚!! カモン! 【リヴェンデット・エグゼクター】!!」

 

 

 

 背中から伸びる2本の太い触手。腕に生えた大型の刃。

 【スレイヤー】を進化させた様な新しいダークヒーローが、首に巻いた青いマントを風に揺らしながら参上した。

 

 

 

【リヴェンデット・エグゼクター】 攻撃力 3000

 

 

 

「攻撃力、3000……!」

 

「こいつがMeのデッキの真打ちサ! 【エグゼクター】はモンスターゾーンに存在する限り、カード名を【リヴェンデット・スレイヤー】として扱う! さらに相手は、【エグゼクター】以外のMeのカードを効果の対象にできない!」

 

(【スレイヤー】と同名って事は……破壊しようとしても、墓地の【リヴェンデット・ボーン】に守られるのね……!)

 

「バトルだ! まずは【スレイヤー】で、【ヴァンパイア・ロード】をアタック!」

 

 

 

 【スレイヤー】が【ヴァンパイア・ロード】を打ち倒す。ご丁寧に【補充部隊】で引かせないよう、与えるダメージの低い方で攻撃してきた。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 アマネ LP 2650 → 1950

 

 

 

「ネクスト! 【エグゼクター】で【ヴァンパイアの眷族】をアタック! 『ドレッド・クロス』!!」

 

 

 

 【エグゼクター】は両腕を交差させる様に振り下ろすと、エックス字型の衝撃波を飛ばして、【ヴァンパイアの眷族】を(こま)()れにした。

 

 

 

「【ヴェンデット・アニマ】をリリースして儀式召喚された【ヴェンデット】儀式モンスターは、バトルで破壊したモンスターを除外する!」

 

(っ……【眷族】は自身の効果でも除外されるから関係ないけれどね)

 

「【ヴェンデット・ナイト】さえ破壊されてなければMeの勝ちだったが……まぁ仕方ない。Meはこれでターンエンドだ!」

 

(【リヴェンデット・バース】で儀式召喚した【エグゼクター】は、次のターンのエンドフェイズに破壊されちまうが、Meの墓地にある【リヴェンデット・ボーン】を除外すれば、()()(まぬが)れる! まさにパーフェクト! 勝利の女神はMeに微笑んでるぜ!)

 

『黒雲選手、何とか首の皮一枚繋がったが、完全に崖っぷちまで追い込まれたっ! このターンがラストターンとなってしまうのかぁーっ!?』

 

「……!」

 

 

 

 アマネの手札は(ゼロ)。フィールドにモンスターも無し。実況の言う通りだ、もはや後がない。

 「終わりだな」、と、凰くんが呟いた。

 

 

 

「格下にしてはよく頑張った様だが、これが現実である」

 

「いや、まだ勝負は決まってないよ」

 

「ハッ、笑わせる。この()に及んで奴に何ができると言うのだ?」

 

「アマネの()を見れば分かるよ。アレは……」

 

 

 

 諦めた眼では決してない。

 かと言って……ただ奇跡に期待しているだけの眼でもない。

 

 ボクには見覚えがある。あの眼は、予選でルイくんが金沢くんと闘った時に見せたそれと同じ……

 

 

 

「──(なに)かを()()()()()眼だ」

 

 

 

「……私のターン……」

 

(確かに状況は崖っぷち……でもひとつだけ。ここから〝逆転勝利〟を狙える手が……ひとつだけある!)

 

 

 

 ゆっくりと、アマネはデッキの上に右手の指先を掛ける。

 画面越しに観ているボクにまで緊張が走った。マキちゃんも食い()る様に親友の命運を見守っている。

 

 

 

(その為には……あのカードを引き当てるしかない!)

 

 

 

 アマネ……自分のデッキを信じて。

 信じれば──必ず応えてくれる!

 

 

 

(お願い、私のデッキよ……応えて!)

 

「ドローッ!!」

 

 

 

 勢いよくカードを引き抜いたアマネ。結果は……!?

 

 

 

(っ……──! 来たッ!!)

 

「……フフッ」

 

 

 

 ……? 今、アマネ……笑った?

 

 

 

「犬居先輩」

 

「ンン?」

 

「どうやら勝利の女神は……私に微笑んだみたいですよ」

 

「!?」

 

(トラップ)発動! 【ヴァンパイア・アウェイク】! デッキから【ヴァンパイア】1体を特殊召喚する! 現れなさい! 【ヴァンパイアの使い魔】!」

 

 

 

【ヴァンパイアの使い魔】 守備力 0

 

 

 

「【使い魔】を特殊召喚した場合、500ポイントのライフを払って、デッキから【ヴァンパイア】モンスター1枚を手札に加える事ができる!」

 

 

 

 アマネ LP 1950 → 1450

 

 

 

「私は──【ヴァンパイア・レッドバロン】を手札に加える!」

 

「レベル(シックス)のモンスターだって? どういうつもりか知らないが……【スレイヤー】の効果発動!」

 

「!」

 

当然(オフコース)、使うのは【レヴナント】の効果だ! 【ヴァンパイアの使い魔】を除外するぜ!」

 

 

 

 空間に穴が開き、コウモリの大群を全て吸収してしまった。

 

 

 

「……!!」

 

 

 

 アマネの赤い双眸(そうぼう)が、驚愕に見開かれる。

 

 

 

『あぁーーーっ!? なんという事だ!! これではせっかく手札に加えた【レッドバロン】を、アドバンス召喚できない! 黒雲選手、いよいよ万事休すかぁーっ!?』

 

残念だったね(トゥー・バッド)! デッド・エンドだ!!」

 

 

 

 誰もがアマネの詰みを予感した事だろう。ところが──

 

 

 

「……そう来ると思ってましたよ」

 

「……ッ?」

 

 

 

 アマネは予想に反して、勝ち気な笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

「私のデッキの最大の弱点は『除外』です。予選でそれをイヤってほど思い知らされました。だから……ちゃんと対策は用意してきたんです!」

 

「!?」

 

「手札から速攻魔法・【異次元からの埋葬】を発動! 除外されているモンスターを、3体まで墓地に戻す! 私が戻すのは、この3体!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・ソーサラー】、【ヴァンパイアの眷族】、【ヴァンパイアの使い魔】がアマネの墓地に戻される。

 

 

 

「そして墓地に戻した【ソーサラー】を再び除外して、効果発動! これにより【ヴァンパイア・レッドバロン】を、リリース無しで通常召喚!」

 

 

 

 現れたのは真っ赤なたてがみの馬を駆り、円錐形(えんすいけい)の槍と甲冑(かっちゅう)で武装した騎兵。

 

 

 

【ヴァンパイア・レッドバロン】 攻撃力 2400

 

 

 

「さらに! 墓地の【ヴァンパイアの使い魔】の効果! 自分フィールドの【ヴァンパイア】カード1枚を墓地に送り、自身を特殊召喚する! 【ヴァンパイアの領域】を墓地へ!」

 

 

 

【ヴァンパイアの使い魔】 攻撃力 500

 

 

 

(SHIT! 【スレイヤー】の除外効果はもう使えない……!)

 

「そして、【レッドバロン】の効果を発動! 1ターンに一度、ライフを1000ポイント払う事で、自分フィールドの他の【ヴァンパイア】モンスター1体と、相手モンスター1体のコントロールを入れ替える!」

 

 

 

 アマネ LP 1450 → 450

 

 

 

「私が入れ替えるのは──【ヴァンパイアの使い魔】と、【リヴェンデット・エグゼクター】!」

 

 

 

 アマネに指定された2体が、それぞれ相手のフィールドに移動する。

 切り札を奪われ、代わりに攻撃力の低いモンスターを送りつけられた。これにはベンジャミンくんも頭を抱えて動揺する。

 

 

 

「オーマイガ!? オーマイガァァ~~~ッ!!」

 

 

 

 【エグゼクター】は他のカードを相手の効果の対象にさせない効果を持ってるけれど、【エグゼクター】自身に耐性は無い。

 さすがアマネ、そこを突いてきたか!

 

 

 

「最後は先輩の大好きなダークヒーローの攻撃でフィニッシュにしてあげます。【リヴェンデット・エグゼクター】で、【ヴァンパイアの使い魔】を攻撃!!」

 

 

 

- ドレッド・クロス!! -

 

 

 

 アマネの支配下に置かれた【エグゼクター】は、ベンジャミンくんの場に移った【ヴァンパイアの使い魔】を、一撃で1匹残らず消し飛ばした。

 

 

 

()()()()()()~~~~~ッ!!」

 

 

 

 ベンジャミン LP 0

 

 

 

『決着ゥゥーーーッ!! ウィナー・黒雲 雨音ッ!! 絶体絶命からの、一発・大逆転勝利ィィィィッ!!』

 

「っしッ!!」

 

(勝った! ついに十傑に勝てたッ!!)

 

 

 

 ガッツポーズして満面の笑顔を見せるアマネ。本当に嬉しそうなのがひしひしと伝わってくる。

 

 

 

「やったぁーーーッ!! アマネたんが勝ったぁーッ!!」

 

「やったー!」

 

 

 

 ボクはマキちゃんと両手でハイタッチしながら、二人で我が事の様にアマネの勝利を喜び合った。

 

 

 

(セツナさんとハイタッチ……キーッ! 羨ましいですわぁ~っ!)

 

「おーおー勝っちゃったな、あのお嬢ちゃん。なぁ? キヨマサ?」

 

「ぐっ……! タヌキ寝入りか狼城、貴様……!」

 

 

 

「OH……ジーザス。まさかMeが負けるなんて……」

 

「対戦ありがとうございました、犬居先輩」

 

「……やれやれ。もうちょっとで勝利の女神を()()き落とせたのに、あと一歩のところでフラれちまったぜ。──コングラッチュレーション、ミス・クロクモ!」

 

 

 

 互いの健闘を(たた)えて握手を交わす、アマネとベンジャミンくん。観客に(なら)って、ボク達も画面の向こうへ惜しみない拍手を送った。

 

 

 

「It was a happy duel !!(楽しい決闘(デュエル)だったよ!)」

 

「Likewise.(私もです)」

 

 

 

「犬居め、格下に不覚を取りおって……」

 

「アマネたんとセツナくんは準々決勝進出か~。う~~~、燃えてきたぁーっ! あたしも負けてらんないね!」

 

「ふん。()は犬居の様に手ぬるくはないぞ」

 

 

 

 おもむろにソファーから立ち上がった凰くんは、制服の内ポケットに手を入れると、1枚のカードを取り出して、マキちゃんに突きつけた。

 

 

 

「覚悟するがよい小娘よ。一族に代々(だいだい)受け継がれし、この『神』のカードの(ちから)で、格の違いを余が直々(じきじき)に思い知らせてくれる!」

 

「「 !? 」」

 

 

 

 か……『神』のカードだって!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……今の決闘(デュエル)で確信したわ……やっぱり、このデッキは強い! これなら自信を持って言える……)

 

「──このデッキなら……今の私ならセツナにだって……それに……九頭竜(くずりゅう)鷹山(ヨウザン)にだって勝てる!」

 

 

 

 





 英語あんまり自信ない……

 【ヴェンデット】が強すぎてどうやってアマネに勝たせたものか悩みすぎて、お脳が焼き切れるかと思いました(゜∀。)

 無意識だったんですが、今回のお話、22話のルイくん vs 金沢と、展開がちょくちょく似ていましたw
 ルイくんと同じ『何かを狙っている眼』って部分は意識してたけど、【おろ埋】からの【死者蘇生】は金沢もやってたし、「あのカードを引き当てるしかない」ってセリフは完全に偶然の一致でした。
 ここまで構図が似るとは……もしや、ヒロイン繋がり?(違)

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