遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum - 作:箱庭の猫
ついに30話!!(遅い)あと、お気に入りが50まで増えました! 嬉しいです! ありがとうございます!!
今回、予想以上に長くなったので久々に二話に分けました!
視線の先では、
彼の
「ボクは【フェアリー・ドラゴン】を召喚!」
「【ミンゲイドラゴン】召喚!」
「【デビル・ドラゴン】を召喚!」
少年の繰り出すモンスターは、ほとんどが低級のコモンカードばかり。
魔法や
自分ならまず採用しないどころか、見向きさえしないであろうカードが散見された。
【ラビードラゴン】や【トライホーン・ドラゴン】と言った、エースカードらしき上級モンスターはまだマシだが、他に有能な上位
本気で勝とうとしているのなら、あの様な構成は有り得ない。豪炎寺には少年の神経が全く
だが現実として、少年はそんなトンデモデッキで、学園最強と名高い九頭竜 響吾に土をつけ、他にも二人の十傑を打ち負かすという快挙を成し遂げ、高い勝率を維持している。
その事実が、余計に豪炎寺の苛立ちに拍車をかけ、はらわたを煮えくり返らせた。
「くだらん……!」
(くだらんくだらんくだらんっ!! 奴は
腹立たしげに吐き捨て、内心で激しく
元より彼は、
ファンデッキ──勝つ為と言うより、
それは彼にとって自らのポリシーにして、ここ、デュエルアカデミア・ジャルダン校の校訓でもある『勝利至上主義』に反した、ぬるま湯に浸かった半端者のデッキ。
しかもそれが自分と同じドラゴンデッキで、あまつさえそんな勝敗を度外視したデッキを使って勝利を重ねている、この
「今に見ていろ。キサマの
選抜デュエル大会──3日目。
一戦一戦が濃密で
残る試合は準決勝と決勝のみ。本選に出場する権利を勝ち取れるのは、この
まずは準決勝。
D-ブロックにてボクと対戦するのは同学年の男子生徒。名前は豪炎寺 龍牙くん。
次期
アマネをして学園最凶の十傑──
正直、勝てるかどうか問われたら、自信を持って『勝てる』とは答えられない。
だけどボクは楽しみで仕方ない。なんたって、〝伝説〟と闘えるんだから!
おかげで昨夜はクタクタだったのに、待ち遠しくてやけに眠気が浅かったよ。
試合開始は午前11時30分。
今、会場内では反対ブロックの準決勝が、11時から先に始まっている最中だ。
準々決勝までは隣の
そんなわけで、ボクは会場の外に締め出されて、ルイくんとケイくんと一緒に
メガネのレンズを拭いたり、端末を弄るしかやる事がないや。
「ふあ……ヒマだなぁ~」
「なんか……緊張感ないですね、先輩……」
「肝が据わってるっつーか
「うーん……最初は緊張してたけど、なんか慣れた」
「慣れるものなんですか……僕なんて自分が出るわけでもないのに、何故だかドキドキしてきました……」
「じゃあリラックスさせてあげる」
「ひゃわぁ!?」
ぎゅうっとルイくんを抱き締める。イイにおいだなぁ、クンカクンカ……おっと、昨日のマキちゃんと同じ事しちゃってるぞボク。あの後あの二人どうなったんだろう?
ルイくんとじゃれていると、会場内から歓声が聞こえてきた。そろそろ
「んじゃ、ボクも行きますか」
デュエルディスクを左腕に
「……
「ん? なんだいケイくん」
「本当は俺があの野郎をぶちのめしてやりたいところだが……
「ケイちゃん……」
「もちろんだよ、任せといて!」
しばらくして──
準決勝ともなると、観客の数も増してて大にぎわいだ。それともみんな豪炎寺くんの【
「やぁ、今日はよろしくね、豪炎寺くん」
右手を差し出して握手を求めると、豪炎寺くんの顔つきが一気に
これでもかと言うくらい
「……同じドラゴンデッキ使い同士、楽しい
ルイくんを
「……楽しいだと? ふざけるな!!」
「いてっ!?」
豪炎寺くんは怒鳴りながら左手を振り上げて、ボクの右手を思いっきり
「キサマの様な半端者がドラゴン使いを名乗るなどおこがましい!! 虫酸が走るわ!!」
あらあら、ずいぶんと喧嘩腰な事で。
ボクに背中を向けて豪炎寺くんは自分の立ち位置に着く。ボクも手を
「俺はキサマを絶対に認めない!! 完膚なきまでに叩き潰してやる!!」
「いいよ。君がボクの何が気に入らないのか知らないけど、ボクも全力で相手になる!」
「「
セツナ
「先攻は俺だ!」
さーて、早速問題だ。
もし豪炎寺くんの手札が昨日と同じなら、【黒炎弾】と【連続魔法】のコンボで先攻ワンターンキルが成立して、ボクは瞬殺される……!
「……俺は【アレキサンドライドラゴン】を召喚!」
【アレキサンドライドラゴン】 攻撃力 2000
【黒竜の
(ほっ、良かった)
「ふん。ワンターンキルなどなくとも、キサマごときを
(簡単に倒してしまってはつまらん……キサマだけは、圧倒的な力の差を思い知らせた上で、徹底的に叩き潰す! 二度とふざけたデッキでドラゴン使いなどと名乗らせないようにな!)
「この
「──! へぇ……それは楽しみだね。ボクのターン!」
【アレキサンドライドラゴン】……レベル4で攻撃力2000もあるのか。強いな~。
下級モンスターながら、下手な上級モンスターにも
デッキパワーはあちらさんに分があると見て、間違いないかな。
「まっ、上手くやるさ。ボクはモンスターをセット! さらに2枚のカードを伏せて、ターン
「ハッ、ドラゴン使いを自称しておきながら守りの一手か。所詮キサマはその程度という事だ。このドラゴン使いの恥さらしが!!」
「……君のターンだよ」
「言われるまでもない! 俺のターン、ドロー!」
(……フッ、勝利の女神は俺に微笑む。いつ
「俺は【
【
「このモンスターをリリースし、デッキからレベル7以下の【レッドアイズ】モンスター1体を特殊召喚できる!」
「!!」
「現れろ! 我が最強のしもべ──【
卵の
【
会場全体に
すごい……! こうして真正面から見上げると、その威圧感は昨日観客席で眺めていた時とは比べ物にならない。
──ボクがまだ子どもだった頃に、遠く離れた
そのダイジェストを収録した『バトルシティ編』のDVDを
それが今、テレビ画面の中でしか見れなかった憧れのドラゴンの1体が、ボクの目の前に!!
「ほあぁぁぁ……!」
「……兄貴、なんかセツナの
「たぶん……感動してるんだと思う」
「──俺は手札から【
【
おっとと、
何やらモンスターを装備して、【
「バトルだ! まずはその目障りな守備モンスターを消し去ってやる! 【アレキサンドライドラゴン】で攻撃! 『クリソベリル・バースト』!!」
金緑石の
攻撃を受けた裏守備モンスターは【プチリュウ】。守備力700では到底耐え切れず、吹き飛ばされてしまう。
「ふん、壁にもならない
追随して真打ちの【
黒く燃え盛る炎の砲弾がボクに炸裂し、身を焦がす。
「うああああああっ!!!」
セツナ LP 4000 → 1000
「せ、先輩っ!?」
「
「うっ……ぐう……っ」
強すぎる衝撃に、堪らずボクは
これが【
一度で良いから体感してみたいとは思ってたけど、いざ味わってみると、想像の倍以上の威力だ……!
「2枚もカードを伏せていて何もできないとはな。全く拍子抜けだ」
「……フ、フフッ、あはははっ! 楽しくってたまらないよ!!」
「なに?」
「伝説のドラゴン相手にボクのデッキがどこまで通用するか……ここからが本番だよ!」
膝を立たせ、いつもの様にメガネを外し、ボクはデッキからカードを引く。
「ボクのターン、ドロー! ……カードを1枚伏せる! さらにモンスターをセット! これでターンを終了するよ」
「あのセツナ先輩が防戦一方だなんて……」
「くだらん……俺のターンだ! 弱小モンスターだらけの似非ドラゴンデッキめ! キサマの
「……ボクのデッキがエセだって?」
「
「なっ……! 2枚目!?」
「【
観客が
「さらに【紅玉の宝札】は、デッキからも【レッドアイズ】モンスターを墓地へ送る事ができる。俺は、3枚目の【
「まさか……【
その希少価値の高さ故、滅多に世に出回らないと言われる幻の超レアカード。1枚所有してるだけでも凄いのに、それを3枚も……!
「……クク、準備は整った。キサマに今から地獄を見せてやる!」
「……!」
「俺は【アレキサンドライドラゴン】をゲームから除外し、このドラゴンを特殊召喚する! 出でよ! 【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】!!」
銀色の光沢を帯びた鋼鉄の装甲を全身に纏う、【
【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】 攻撃力 2800
「【レッドアイズ・ダークネスメタル】の効果発動! 1ターンに一度、手札または墓地から、ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる! 墓地より現れよ! 2体目の【
【
「まだだ! キサマの地獄はこれからだ!
「ッ! も、もしかして……」
「そうだ……俺が呼び出すのは──3体目の【
【
「【
最強の黒竜が4体も並び立つ光景は、圧巻──としか言い様がない。
1体でも十分過ぎる程の
この怒涛の展開力……これが豪炎寺くんのドラゴンデッキの、真の力か……!
「クックックッ……ハーッハハハハッ!! 格の違いを思い知ったか! 所詮、面白半分で組んだファンデッキなど、勝つ為に組み上げた『本物』のデッキの前では紙束も同然! 何の役にも立たないのだっ!!」
「…………」
「今キサマの場にはザコモンスターが1体……すでに勝利は俺の手中に収まった!! 無様に消し飛ばされる前に、今なら
「……サレンダー、ねぇ……」
確かに今のボクの心
「……あいにく、ボクはどんな
そう、サレンダーはデッキへの裏切り行為──だから。
「だから、ボクは諦めない。ライフが
「……ふん、心がけだけは大層なものだな。ならば望み通り! 力で叩き潰してやる!!」
「!」
「バトル! 【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】で、守備モンスターを攻撃! 『ダークネス・メタル・フレア』!!」
バチバチと帯電する赤い光の球体が撃ち放たれる。標的にされた裏側表示のモンスターが正体を見せる。
【ミンゲイドラゴン】 守備力 200
「消えろザコがぁ!!」
「速攻魔法・【ハーフ・シャット】! 【ミンゲイドラゴン】は攻撃力が半分になり、このターン戦闘では破壊されない!」
【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400 → 200
前のターンに引いていた
「チッ、悪あがきを……ターンエンドだ!」
【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 200 → 400
「ボクのターン、ドロー!」
(……おっ)
「【一時休戦】を発動! お互いに1枚ドローして、次の相手ターン終了時まで、互いに発生する全てのダメージを
「またその場しのぎのカードか……見苦しいぞ!」
「さっ、君も1枚引きなよ」
「俺に指図するな!」
「さてと、どうしよっかな……ん? ……フフッ」
閃いちゃった。ボクは口元に
「……何を笑っている?」
「君の【
「なに?」
「見せてあげる!
【プチリュウ】 攻撃力 600
「さらに手札から、【
【
「ふん、それがどうした。ザコをいくら並べようと、俺の【
「果たしてそうかな?」
「!」
「
【プチリュウ】 攻撃力 600 → 0
【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400 → 0
【
「あ、
「キサマ……一体なんのつもりだ!!」
「この効果で攻撃力が
「──! そうか……【一時休戦】の効果で、このターンのダメージは
「そんな使い捨てみたいな真似しないよ。言ったでしょ? 【
「どういう事だ?」
「こういう事さ! ──手札から
「!?」
「このターン、戦闘を
「なんだとっ!?」
「【ミンゲイドラゴン】を攻撃表示!」
【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 0
「さぁ反撃開始だ!! まずは【ミンゲイドラゴン】で、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を攻撃!」
さっき攻撃されたお返しと言わんばかりに、民芸品の竜が
「チィィィッ! 返り討ちだ!!」
- ダークネス・メタル・フレア!! -
【レッドアイズ・ダークネスメタル】の放ったエネルギー弾が直撃し、【ミンゲイドラゴン】は敢えなく破壊されてしまう。
「……当然【一時休戦】の効果で、ボクへの戦闘ダメージは
「くっ……!」
「そして【アルケミー・サイクル】の効果で、1枚ドロー! 続けてバトルだ! 【プチリュウ】で、攻撃力3000の【
今度は【
その小さな身体で果敢に黒竜に挑む勇ましい姿には、わずかな迷いも感じられない。
「こざかしい!! 『黒炎弾』!!」
しかし
「っ……この瞬間【アルケミー・サイクル】の効果が発動、1枚ドローする。まだまだ行くよ! 【
「何度やろうと同じ事だ! 『黒炎弾』!!」
攻撃力2400の【
「──【アルケミー・サイクル】で1枚ドロー! さらに【
【
「最も、新しく召喚されたモンスターは【アルケミー・サイクル】の効果の外。破壊されても、もうドローできないけどね」
(こいつ……!)
「これで最後だ……! 2体目の【
(……ごめんね、みんな……)
ボクは目を閉じて、ボクの為に散っていった仲間達に心の中で謝辞を送った。
覚悟の上ではあったけど、大切なモンスター達に自滅を命ずるのは、いつだって心が痛い。
「……【
【
「そして──」
ボクは右手を軽く掲げると──
「バトル……終了!」
パチン、と、指を鳴らした。次の瞬間──
「!!」
その
「ぐおおおおおっ!! バカな……! 俺のモンスターが、全滅っ!?」
「ね? 攻撃力が高ければ勝てるわけじゃないんだよ、
「この……っ!」
ありがとう、みんなの犠牲は無駄にならなかったよ。
この
どんなに弱いとされるカードやマイナーと
セツナがなんかカッコいいぞ……?
豪炎寺くん活き活きしてて書いてて楽しいw ちなみに彼のイメージは漫画版の不審者……もとい黒咲さんです。
本当は豪炎寺に【ダムド】も使わせたかったんですが、それだと墓地闇3体除外してセツナの場ガラ空きにしてダイレクトアタックで勝っちゃうなぁ、という事で、泣く泣くお蔵入りになりました。また出番があれば使わせたいな……
次回は後半戦! 予選・準決勝、決着です!