遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

30 / 55

 ついに30話!!(遅い)あと、お気に入りが50まで増えました! 嬉しいです! ありがとうございます!!

 今回、予想以上に長くなったので久々に二話に分けました!



TURN - 30 Timmy, Johnny, and Spike - 1

 

 (ごう)(えん)() 龍牙(りゅうが)はその深き赤を(たた)えた双瞳(そうどう)に映る光景に、耐え(がた)い不快感を覚えていた。

 

 視線の先では、赤縁(あかぶち)のメガネを掛けた銀髪の少年と、少女に思える顔立ちだが、男子指定の制服を着た茶髪の小柄な生徒が決闘(デュエル)(おこな)っている。

 

 彼の(けん)()の対象は、もっぱら銀髪の少年だった。理由は少年が扱うカードにある。

 

 

 

「ボクは【フェアリー・ドラゴン】を召喚!」

 

「【ミンゲイドラゴン】召喚!」

 

「【デビル・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

 少年の繰り出すモンスターは、ほとんどが低級のコモンカードばかり。

 魔法や(トラップ)にしても、ドラゴンデッキとはシナジーが薄い上に使い道に(とぼ)しく、そのカードである必要性や意義が感じられない。

 自分ならまず採用しないどころか、見向きさえしないであろうカードが散見された。

 

 【ラビードラゴン】や【トライホーン・ドラゴン】と言った、エースカードらしき上級モンスターはまだマシだが、他に有能な上位()(かん)カードなどいくらでもあるというのに、何故わざわざ弱いモンスターや、性能が低く、汎用性(はんようせい)や実用性に欠ける、使いづらいカードをデッキに投入しているのか……

 本気で勝とうとしているのなら、あの様な構成は有り得ない。豪炎寺には少年の神経が全く(もっ)て理解できなかった。

 

 だが現実として、少年はそんなトンデモデッキで、学園最強と名高い九頭竜 響吾に土をつけ、他にも二人の十傑を打ち負かすという快挙を成し遂げ、高い勝率を維持している。

 その事実が、余計に豪炎寺の苛立ちに拍車をかけ、はらわたを煮えくり返らせた。

 

 

 

「くだらん……!」

 

(くだらんくだらんくだらんっ!! 奴は決闘(デュエル)を舐めているのか!? あんな、たかがランク・Eごときに手こずる中途半端なデッキなど、俺は(だん)じてドラゴンデッキとは認めない! あの男は……俺達ドラゴン使いの恥だっ!!)

 

 

 

 腹立たしげに吐き捨て、内心で激しく(いきどお)る豪炎寺。

 元より彼は、所謂(いわゆる)『ファンデッキ』と呼ばれる(たぐい)のデッキを、(ひど)く忌み嫌っていた。

 

 ファンデッキ──勝つ為と言うより、(しゅ)()(しゅ)(こう)やロマン、何らかのテーマに沿って構築された、楽しむ事を主とした娯楽的な要素が強いデッキ。

 それは彼にとって自らのポリシーにして、ここ、デュエルアカデミア・ジャルダン校の校訓でもある『勝利至上主義』に反した、ぬるま湯に浸かった半端者のデッキ。

 しかもそれが自分と同じドラゴンデッキで、あまつさえそんな勝敗を度外視したデッキを使って勝利を重ねている、この総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)という少年が、豪炎寺は心底、気に食わなかったのだ。

 

 

 

「今に見ていろ。キサマの()()ドラゴンデッキなど、俺の〝真のドラゴンデッキ〟で、粉々に打ち砕いてくれる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選抜デュエル大会──3日目。

 

 一戦一戦が濃密で()(れつ)でスリリングだった予選も、いよいよ今日が最終日。

 残る試合は準決勝と決勝のみ。本選に出場する権利を勝ち取れるのは、この()(れつ)な2連戦を制した、たった一人だけだ。

 

 まずは準決勝。

 D-ブロックにてボクと対戦するのは同学年の男子生徒。名前は豪炎寺 龍牙くん。

 

 次期十傑(じっけつ)候補の筆頭という、(ほま)れ高い肩書きを持つ、高等部2年のエース。

 アマネをして学園最凶の十傑──鷹山(ヨウザン) (カナメ)と同格と言わしめた強者(つわもの)にして、伝説の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】の使い手でもある。

 

 正直、勝てるかどうか問われたら、自信を持って『勝てる』とは答えられない。

 だけどボクは楽しみで仕方ない。なんたって、〝伝説〟と闘えるんだから!

 おかげで昨夜はクタクタだったのに、待ち遠しくてやけに眠気が浅かったよ。

 

 試合開始は午前11時30分。

 今、会場内では反対ブロックの準決勝が、11時から先に始まっている最中だ。

 準々決勝までは隣の決闘(デュエル)フィールドを用いて同時に進行していたけど、準決勝は違うらしい。オマケに次の出場者──つまりボクと豪炎寺くんは、決勝の前に相手のデッキを知れてしまうのはフェアじゃないという事で観戦できないんだとか。

 

 そんなわけで、ボクは会場の外に締め出されて、ルイくんとケイくんと一緒に(ヒマ)してます。

 メガネのレンズを拭いたり、端末を弄るしかやる事がないや。

 

 

 

「ふあ……ヒマだなぁ~」

 

「なんか……緊張感ないですね、先輩……」

 

「肝が据わってるっつーか(のん)()っつーか……相手は次期十傑候補の筆頭なんですぜ? そんな緩くて大丈夫なんすか?」

 

「うーん……最初は緊張してたけど、なんか慣れた」

 

「慣れるものなんですか……僕なんて自分が出るわけでもないのに、何故だかドキドキしてきました……」

 

「じゃあリラックスさせてあげる」

 

「ひゃわぁ!?」

 

 

 

 ぎゅうっとルイくんを抱き締める。イイにおいだなぁ、クンカクンカ……おっと、昨日のマキちゃんと同じ事しちゃってるぞボク。あの後あの二人どうなったんだろう?

 

 ルイくんとじゃれていると、会場内から歓声が聞こえてきた。そろそろ決闘(デュエル)が終わった頃かな。

 

 

 

「んじゃ、ボクも行きますか」

 

 

 

 デュエルディスクを左腕に()める。これだけで気が引き締まるね。

 

 

 

「……(あに)さん!」

 

「ん? なんだいケイくん」

 

「本当は俺があの野郎をぶちのめしてやりたいところだが……(あに)さんに託すぜ。──勝ってくれ!! 絶対に!」

 

「ケイちゃん……」

 

「もちろんだよ、任せといて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして──決闘(デュエル)フィールドの上で、ボクと豪炎寺くんは顔を見合わせていた。

 準決勝ともなると、観客の数も増してて大にぎわいだ。それともみんな豪炎寺くんの【真紅眼(レッドアイズ)】が目当てなのかな?

 

 

 

「やぁ、今日はよろしくね、豪炎寺くん」

 

 

 

 右手を差し出して握手を求めると、豪炎寺くんの顔つきが一気に(けわ)しくなった。(こわ)っ。

 これでもかと言うくらい()(けん)(しわ)を寄せてボクを(にら)んでくる。純度100パーセントの敵意も、昨日よりさらに濃くなった気がした。

 

 

 

「……同じドラゴンデッキ使い同士、楽しい決闘(デュエル)をしよう」

 

 

 

 ルイくんを()(ざま)(けな)した事を許したわけではないけれど、決闘(デュエル)決闘(デュエル)だ。お互い楽しくやれれば、それが一番だとボクは思ってる。

 

 

 

「……楽しいだと? ふざけるな!!」

 

「いてっ!?」

 

 

 

 豪炎寺くんは怒鳴りながら左手を振り上げて、ボクの右手を思いっきり(はじ)いた。

 

 

 

「キサマの様な半端者がドラゴン使いを名乗るなどおこがましい!! 虫酸が走るわ!!」

 

 

 

 あらあら、ずいぶんと喧嘩腰な事で。

 ボクに背中を向けて豪炎寺くんは自分の立ち位置に着く。ボクも手を(さす)りながら同じ様にした。

 

 

 

「俺はキサマを絶対に認めない!! 完膚なきまでに叩き潰してやる!!」

 

「いいよ。君がボクの何が気に入らないのか知らないけど、ボクも全力で相手になる!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 (ごう)(えん)() LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「先攻は俺だ!」

 

 

 

 さーて、早速問題だ。

 もし豪炎寺くんの手札が昨日と同じなら、【黒炎弾】と【連続魔法】のコンボで先攻ワンターンキルが成立して、ボクは瞬殺される……!

 

 

 

「……俺は【アレキサンドライドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【アレキサンドライドラゴン】 攻撃力 2000

 

 

 

 【黒竜の(ひな)】じゃない。どうやらワンキルは免れたみたいだ。

 

 

 

(ほっ、良かった)

 

「ふん。ワンターンキルなどなくとも、キサマごときを()じ伏せるなど造作もない! カードを1枚伏せて終了だ!」

 

(簡単に倒してしまってはつまらん……キサマだけは、圧倒的な力の差を思い知らせた上で、徹底的に叩き潰す! 二度とふざけたデッキでドラゴン使いなどと名乗らせないようにな!)

 

「この決闘(デュエル)で俺がキサマに! 本当のドラゴンデッキとは何かを教えてやる!!」

 

「──! へぇ……それは楽しみだね。ボクのターン!」

 

 

 

 【アレキサンドライドラゴン】……レベル4で攻撃力2000もあるのか。強いな~。

 下級モンスターながら、下手な上級モンスターにも(まさ)る打点の高さは脅威的だ。これが効果モンスターなら何らかのデメリットが付きものだけど、通常モンスターだから使い勝手の良さもピカイチ。序盤の戦力としては申し分ない優秀なアタッカーだ。

 

 デッキパワーはあちらさんに分があると見て、間違いないかな。

 

 

 

「まっ、上手くやるさ。ボクはモンスターをセット! さらに2枚のカードを伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「ハッ、ドラゴン使いを自称しておきながら守りの一手か。所詮キサマはその程度という事だ。このドラゴン使いの恥さらしが!!」

 

「……君のターンだよ」

 

「言われるまでもない! 俺のターン、ドロー!」

 

(……フッ、勝利の女神は俺に微笑む。いつ()()なる時も)

 

「俺は【伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)】を召喚!」

 

 

 

伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)】 攻撃力 0

 

 

 

 鮮紅(せんこう)色の輝きを放つ、黒い卵の様な石が出現した。ん? 卵? もしかして……

 

 

 

「このモンスターをリリースし、デッキからレベル7以下の【レッドアイズ】モンスター1体を特殊召喚できる!」

 

「!!」

 

「現れろ! 我が最強のしもべ──【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】!!」

 

 

 

 卵の(から)がひび割れていき、やがて赤色の閃光を撒き散らしながら粉々に砕ける。光が消えると、そこには──あの赤き眼の黒竜の姿があった。

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400

 

 

 

 会場全体に咆哮(ほうこう)(とどろ)かせる黒竜。それに応える様に、観衆の熱狂が(ほとばし)る。

 

 すごい……! こうして真正面から見上げると、その威圧感は昨日観客席で眺めていた時とは比べ物にならない。

 

 ──ボクがまだ子どもだった頃に、遠く離れた()()()町で開催された、(かい)()コーポレーション主催の決闘(デュエル)大会・『バトルシティ』。

 そのダイジェストを収録した『バトルシティ編』のDVDを()り切れるほど再生して、【青眼(ブルーアイズ)】や【真紅眼(レッドアイズ)】の活躍するシーンを何度()返した事か。

 

 それが今、テレビ画面の中でしか見れなかった憧れのドラゴンの1体が、ボクの目の前に!!

 

 

 

「ほあぁぁぁ……!」

 

「……兄貴、なんかセツナの(あに)さん、すげぇ幸せそうな()()してねぇか?」

 

「たぶん……感動してるんだと思う」

 

「──俺は手札から【黒鋼竜(ブラックメタルドラゴン)】を【真紅眼(レッドアイズ)】に装備! 攻撃力を600ポイントアップする!」

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400 + 600 = 3000

 

 

 

 おっとと、恍惚(こうこつ)に浸ってうっとりしてる場合じゃなかった。至上の喜びを噛み締めたボクは、気を引き締め直して決闘(デュエル)(のぞ)む。

 何やらモンスターを装備して、【真紅眼(レッドアイズ)】の攻撃力が3000の大台に乗ったらしい。

 

 

 

「バトルだ! まずはその目障りな守備モンスターを消し去ってやる! 【アレキサンドライドラゴン】で攻撃! 『クリソベリル・バースト』!!」

 

 

 

 金緑石の(うろこ)が眩しい神秘的なドラゴンが、翠緑(すいりょく)に煌めく光線を口から放つ。

 攻撃を受けた裏守備モンスターは【プチリュウ】。守備力700では到底耐え切れず、吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

「ふん、壁にもならない(クズ)モンスターが! 【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】! 怒りの黒き炎で奴を料理してやれ! 『黒炎弾』!!」

 

 

 

 追随して真打ちの【真紅眼(レッドアイズ)】が攻撃に入る。

 黒く燃え盛る炎の砲弾がボクに炸裂し、身を焦がす。

 

 

 

「うああああああっ!!!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 1000

 

 

 

「せ、先輩っ!?」

 

(あに)さんのライフが一気に3000も……! なんつー破壊力だよ……!」

 

「うっ……ぐう……っ」

 

 

 

 強すぎる衝撃に、堪らずボクは片膝(かたひざ)を突いた。

 これが【真紅眼(レッドアイズ)】の必殺技・『黒炎弾』……

 一度で良いから体感してみたいとは思ってたけど、いざ味わってみると、想像の倍以上の威力だ……!

 

 

 

「2枚もカードを伏せていて何もできないとはな。全く拍子抜けだ」

 

「……フ、フフッ、あはははっ! 楽しくってたまらないよ!!」

 

「なに?」

 

「伝説のドラゴン相手にボクのデッキがどこまで通用するか……ここからが本番だよ!」

 

 

 

 膝を立たせ、いつもの様にメガネを外し、ボクはデッキからカードを引く。

 

 

 

「ボクのターン、ドロー! ……カードを1枚伏せる! さらにモンスターをセット! これでターンを終了するよ」

 

「あのセツナ先輩が防戦一方だなんて……」

 

「くだらん……俺のターンだ! 弱小モンスターだらけの似非ドラゴンデッキめ! キサマの(もろ)さを見せてやる……!」

 

「……ボクのデッキがエセだって?」

 

魔法(マジック)カード・【紅玉(こうぎょく)の宝札】を発動! 手札からレベル7の【レッドアイズ】モンスター1枚を墓地に捨て、2枚ドローする! 俺は【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を墓地へ!」

 

「なっ……! 2枚目!?」

 

「【真紅眼(レッドアイズ)】が1枚だけだと誰が言った?」

 

 

 

 観客が(どよ)めくのも意に介さず、豪炎寺くんはカードを2枚引き、次の手を進める。

 

 

 

「さらに【紅玉の宝札】は、デッキからも【レッドアイズ】モンスターを墓地へ送る事ができる。俺は、3枚目の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を墓地に送る!」

 

「まさか……【真紅眼(レッドアイズ)】を3枚も持ってるの!?」

 

 

 

 その希少価値の高さ故、滅多に世に出回らないと言われる幻の超レアカード。1枚所有してるだけでも凄いのに、それを3枚も……!

 

 

 

「……クク、準備は整った。キサマに今から地獄を見せてやる!」

 

「……!」

 

「俺は【アレキサンドライドラゴン】をゲームから除外し、このドラゴンを特殊召喚する! 出でよ! 【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】!!」

 

 

 

 銀色の光沢を帯びた鋼鉄の装甲を全身に纏う、【真紅眼(レッドアイズ)】の進化形とも言うべき新たな黒竜がフィールドに舞い降りた。

 

 

 

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

「【レッドアイズ・ダークネスメタル】の効果発動! 1ターンに一度、手札または墓地から、ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる! 墓地より現れよ! 2体目の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】!!」

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400

 

 

 

「まだだ! キサマの地獄はこれからだ! (トラップ)発動! 【レッドアイズ・スピリッツ】! 墓地の【レッドアイズ】モンスターを復活させる!」

 

「ッ! も、もしかして……」

 

「そうだ……俺が呼び出すのは──3体目の【真紅眼(レッドアイズ)】!!」

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400

 

 

 

「【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】が……フィールドに3体……!!」

 

 

 

 最強の黒竜が4体も並び立つ光景は、圧巻──としか言い様がない。

 1体でも十分過ぎる程の重圧(プレッシャー)が、4乗にもなってボクの一身に降り注ぐ。もう少し心が弱かったら、たぶん折れていたかも知れない。

 

 この怒涛の展開力……これが豪炎寺くんのドラゴンデッキの、真の力か……!

 

 

 

「クックックッ……ハーッハハハハッ!! 格の違いを思い知ったか! 所詮、面白半分で組んだファンデッキなど、勝つ為に組み上げた『本物』のデッキの前では紙束も同然! 何の役にも立たないのだっ!!」

 

「…………」

 

「今キサマの場にはザコモンスターが1体……すでに勝利は俺の手中に収まった!! 無様に消し飛ばされる前に、今なら降参(サレンダー)を認めてやっても良いぞ?」

 

「……サレンダー、ねぇ……」

 

 

 

 確かに今のボクの心(もと)ない盤面とライフじゃ、何を言われても仕方ない。でも、それでも──

 

 

 

「……あいにく、ボクはどんな決闘(デュエル)でも、サレンダーだけは〝絶対に〟しないって決めてるんだ。だって、そんな事したら……ボクを信じて一緒に闘ってくれた、このデッキの想いを裏切る事になる。それだけは、何があってもしたくない」

 

 

 

 そう、サレンダーはデッキへの裏切り行為──だから。

 

 

 

「だから、ボクは諦めない。ライフが(ゼロ)になる、その時まで──絶対に!」

 

「……ふん、心がけだけは大層なものだな。ならば望み通り! 力で叩き潰してやる!!」

 

「!」

 

「バトル! 【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】で、守備モンスターを攻撃! 『ダークネス・メタル・フレア』!!」

 

 

 

 バチバチと帯電する赤い光の球体が撃ち放たれる。標的にされた裏側表示のモンスターが正体を見せる。

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 守備力 200

 

 

 

「消えろザコがぁ!!」

 

「速攻魔法・【ハーフ・シャット】! 【ミンゲイドラゴン】は攻撃力が半分になり、このターン戦闘では破壊されない!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400 → 200

 

 

 

 前のターンに引いていた魔法(マジック)カードが【ミンゲイドラゴン】を守ってくれた。危ない危ない。この攻撃を通しちゃったら、【真紅眼(レッドアイズ)】3体の攻撃を防ぐ手段なんてないからね、ボクの負けだったよ。

 

 

 

「チッ、悪あがきを……ターンエンドだ!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 200 → 400

 

 

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

(……おっ)

 

「【一時休戦】を発動! お互いに1枚ドローして、次の相手ターン終了時まで、互いに発生する全てのダメージを(ゼロ)にする!」

 

「またその場しのぎのカードか……見苦しいぞ!」

 

「さっ、君も1枚引きなよ」

 

「俺に指図するな!」

 

「さてと、どうしよっかな……ん? ……フフッ」

 

 

 

 閃いちゃった。ボクは口元に()(えが)く。

 

 

 

「……何を笑っている?」

 

「君の【真紅眼(レッドアイズ)】達を倒す方法を思いついたよ」

 

「なに?」

 

「見せてあげる! 魔法(マジック)カード・【思い出のブランコ】発動! 墓地から【プチリュウ】を、攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

 

【プチリュウ】 攻撃力 600

 

 

 

「さらに手札から、【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を召喚!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 攻撃力 700

 

 

 

「ふん、それがどうした。ザコをいくら並べようと、俺の【真紅眼(レッドアイズ)】の足下にも及ばん!」

 

「果たしてそうかな?」

 

「!」

 

(トラップ)カード・【アルケミー・サイクル】発動! このターンのエンドフェイズまで、ボクのフィールドにいる全てのモンスターの元々の攻撃力を、(ゼロ)にする!」

 

 

 

【プチリュウ】 攻撃力 600 → 0

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400 → 0

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 攻撃力 700 → 0

 

 

 

「あ、(あに)さん!! なに考えてんだよ!?」

 

「キサマ……一体なんのつもりだ!!」

 

「この効果で攻撃力が(ゼロ)になったモンスターが戦闘で破壊され、墓地に送られる(たび)に……ボクはデッキから1枚ドローする」

 

「──! そうか……【一時休戦】の効果で、このターンのダメージは(ゼロ)……キサマ、自分の手札を補強する為に、ザコ共を自爆特攻の(コマ)として利用する気か?」

 

「そんな使い捨てみたいな真似しないよ。言ったでしょ? 【真紅眼(レッドアイズ)】を倒すって」

 

「どういう事だ?」

 

「こういう事さ! ──手札から魔法(マジック)カード・【ジェノサイド・ウォー】、発動!」

 

「!?」

 

「このターン、戦闘を(おこな)ったモンスターは全て、バトルフェイズ終了と同時に破壊される!」

 

「なんだとっ!?」

 

「【ミンゲイドラゴン】を攻撃表示!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 0

 

 

 

「さぁ反撃開始だ!! まずは【ミンゲイドラゴン】で、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を攻撃!」

 

 

 

 さっき攻撃されたお返しと言わんばかりに、民芸品の竜が黒鉄(くろがね)の巨竜に突撃する。

 

 

 

「チィィィッ! 返り討ちだ!!」

 

 

 

- ダークネス・メタル・フレア!! -

 

 

 

 【レッドアイズ・ダークネスメタル】の放ったエネルギー弾が直撃し、【ミンゲイドラゴン】は敢えなく破壊されてしまう。

 

 

 

「……当然【一時休戦】の効果で、ボクへの戦闘ダメージは(ゼロ)だよ」

 

「くっ……!」

 

「そして【アルケミー・サイクル】の効果で、1枚ドロー! 続けてバトルだ! 【プチリュウ】で、攻撃力3000の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を攻撃!」

 

 

 

 今度は【黒鋼竜(ブラックメタルドラゴン)】を装備した、最も攻撃力の高い【真紅眼(レッドアイズ)】に【プチリュウ】が仕掛ける。

 その小さな身体で果敢に黒竜に挑む勇ましい姿には、わずかな迷いも感じられない。

 

 

 

「こざかしい!! 『黒炎弾』!!」

 

 

 

 しかし(ちから)の差は歴然。禍々(まがまが)しい黒炎が【プチリュウ】を一瞬にして焼き払った。

 

 

 

「っ……この瞬間【アルケミー・サイクル】の効果が発動、1枚ドローする。まだまだ行くよ! 【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】で、2体目の【真紅眼(レッドアイズ)】を攻撃!」

 

「何度やろうと同じ事だ! 『黒炎弾』!!」

 

 

 

 攻撃力2400の【真紅眼(レッドアイズ)】2体の内、1体を、剣や槍を持ち、盾と(ヨロイ)を身につけた人形(ひとがた)の竜が群れを成して強襲するも、炎の球の爆裂に巻き込まれて、軍隊は全滅させられた。

 

 

 

「──【アルケミー・サイクル】で1枚ドロー! さらに【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】は戦闘で破壊された時、デッキから仲間を呼ぶ!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 攻撃力 700

 

 

 

「最も、新しく召喚されたモンスターは【アルケミー・サイクル】の効果の外。破壊されても、もうドローできないけどね」

 

(こいつ……!)

 

「これで最後だ……! 2体目の【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】で、3体目の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を攻撃!」

 

 

 

 二組(ふたくみ)目の軍隊が出撃する──だが、やはり最上級ドラゴンには歯が立たず、『黒炎弾』の一撃を受けて無残にも(チリ)となる。

 

 

 

(……ごめんね、みんな……)

 

 

 

 ボクは目を閉じて、ボクの為に散っていった仲間達に心の中で謝辞を送った。

 覚悟の上ではあったけど、大切なモンスター達に自滅を命ずるのは、いつだって心が痛い。

 

 

 

「……【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】が破壊された事で、デッキから同名モンスターを特殊召喚する」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

「そして──」

 

 

 

 ボクは右手を軽く掲げると──

 

 

 

「バトル……終了!」

 

 

 

 パチン、と、指を鳴らした。次の瞬間──

 

 

 

「!!」

 

 

 

 その指鳴らし(スナップ)を合図に【ジェノサイド・ウォー】の効果が適用。ボクのモンスターとバトルした豪炎寺くんの4体の黒竜が、一斉に爆発を起こして消滅した。

 

 

 

「ぐおおおおおっ!! バカな……! 俺のモンスターが、全滅っ!?」

 

「ね? 攻撃力が高ければ勝てるわけじゃないんだよ、決闘(デュエル)ってのは」

 

「この……っ!」

 

 

 

 ありがとう、みんなの犠牲は無駄にならなかったよ。

 

 この決闘(デュエル)で豪炎寺くんに教えてあげよう。

 どんなに弱いとされるカードやマイナーと()()される様なカードでも、組み合わせ次第で強いカードや、強いデッキにだって勝てるって事を!

 

 

 

 





 セツナがなんかカッコいいぞ……?

 豪炎寺くん活き活きしてて書いてて楽しいw ちなみに彼のイメージは漫画版の不審者……もとい黒咲さんです。

 本当は豪炎寺に【ダムド】も使わせたかったんですが、それだと墓地闇3体除外してセツナの場ガラ空きにしてダイレクトアタックで勝っちゃうなぁ、という事で、泣く泣くお蔵入りになりました。また出番があれば使わせたいな……

 次回は後半戦! 予選・準決勝、決着です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。