遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 今回はサクッと書けました!



TURN - 29 BLACK DRAGON

 

「【ヴァンパイア・ロード】で、【ダーク・キメラ】を攻撃!」

 

「ぐはーっ!!」

 

 

 

 アマネ・予選3回戦──突破!!

 

 

 

「【TM-1 ランチャースパイダー】で、【バロックス】を攻撃ーっ!」

 

「うぎゃーっ!!」

 

 

 

 マキノ・予選3回戦──突破!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アマネとマキちゃんも勝ったってさ」

 

 

 

 端末が受信した2件のメッセージを読み上げ、ボクは我が事の様に嬉しくなり微笑む。

 ルイくんとケイくんも、彼女達の勝利を喜び合った。

 

 

 

「すごいです! 皆さん順調に勝ち進んでますね」

 

「この調子で明日(あした)も連戦連勝ですぜ(あに)さん!」

 

「果たしてそう上手くいくかな?」

 

「あん?」

 

 

 

 ひとりの見知らぬ男子生徒が卒然と声をかけてきた。制服の色から、所属は高等部だと(わか)った。

 

 真っ赤な髪と真紅の瞳という派手な外見で、身長や体型はボクと対して変わらないけど、またしてもイケメンだった。

 前々から思ってたけど、この学園の顔面偏差値、高過ぎじゃない? 正直ちょっと(へこ)む……。

 

 ……それにしても、何故だろう。

 こちらに向けられた彼の視線からは、明確な〝敵意〟が感じ取れる。

 それも純度100パーセントの敵意。少なくとも友好的に話しかけてきたわけではなさそうだ。

 

 ケイくんもそれを察知したのかメンチを切りながら彼に絡み出す。

 

 

 

「誰だテメェ。どこの組のモンだ、あ"ぁ?」

 

 

 

 いや言い方がヤクザ。

 

 

 

「俺は2年の(ごう)(えん)() 龍牙(りゅうが)だ。退()けデカブツ、キサマに用はない」

 

「んだとゴラァ!! ケンカ売ってんのかっ!」

 

「け、ケイちゃん! いきなりそんな失礼だよ!」

 

「むっ……兄貴に言われちゃしょうがねぇ」

 

 

 

 ルイくんがケイくんの腕を両手で掴んで必死に引き止めると、ケイくんは素直に従った。やはりケイくんの一番のストッパーは兄のルイくんだね。さすがお兄ちゃん!

 

 

 

「……ほう。キサマ確か2回戦で、そこの男と対戦していたランク・Eだな?」

 

「えっ!? あ、はい……」

 

 

 

 そこの男ってのは、ボクの事か。

 ケイくんにくっついてオドオドしているルイくんを見て、豪炎寺くんは鼻を鳴らした。

 

 

 

「ふん、こんな落ちこぼれに苦戦する様では、キサマの実力もたかが知れてるな。なぁ、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)?」

 

「──!」

 

「えっ……!」

 

「っだと……!」

 

 

 

 ボクはともかく、よりによってケイくんの前でルイくんを侮辱するなんて、地雷を踏むどころか全力で蹴り飛ばす様な()(こう)だよ。

 

 

 

「テメェもういっぺん言ってみろぉ!!」

 

 

 

 当然の如くケイくんが激昂して、豪炎寺くんに掴みかかろうとする。こうなると恐らくルイくんでも止めきれない。ボクはケイくんの肩を、強く掴んだ。

 

 

 

「ケイくん、ストップ。大会期間中に揉め事起こしたら停学じゃ済まないよ」

 

「止めねぇでくだせぇ(あに)さん! 今のだけは聞き捨てならねぇ!!」

 

 

 

 ところが、ボクとルイくんが懸命にケイくんを制止しているというのに、豪炎寺くんはお構い無しに火に油を注いできた。

 

 

 

「何か間違った事を言ったか? 実戦経験のなさが露骨に現れた、哀れなほど薄っぺらな──」

 

「撤回して」

 

「……なに?」

 

 

 

 これ以上、豪炎寺くんに好き勝手言わせるわけにはいかない。

 ケイくんが彼を殴ってしまわない為にも。そして何より、ルイくんの為にも。

 ボクだって、友達を悪く言われて黙ってられるほど、出来た人間じゃない。

 

 

 

「ボクの事は何とでも言えばいい。でもルイくんを……ボクの友達を(おとし)めるのは許さないよ」

 

「先輩……!」

 

「ルイくんは君が思ってる様な決闘者(デュエリスト)じゃない。──撤回して」

 

(ッ……! (あに)さんのこんな顔、初めて見たぜ……)

 

「……断る。……と言ったら?」

 

「……力ずくでも」

 

 

 

 ピリピリした一触即発の空気の中、互いに睨み合う。

 

 

 

「──ふん。ならば力で俺を従わせてみせろ」

 

()るのかい? じゃあ場所を移して──」

 

「慌てるな、俺はこのあと試合が控えているのでな。()()の準決勝で相手をしてやる」

 

 

 

 なるほど、次の試合の出場者だったのか。というか……

 

 

 

「……まるで自分が勝つのは決まってるみたいな言い草だね」

 

「当たり前だ。俺が負けるなど有り得ない」

 

 

 

 この自信家を通り越して傲慢(ごうまん)()(そん)のきらいがある態度、カナメがデジャヴるなぁ。

 

 

 

「よく見ておけ総角。()()()のキサマに、俺が『本物』を教えてやる」

 

(半端者……?)

 

 

 

 言いたい事だけ言って、豪炎寺くんはボク達の前から立ち去った。どうにか暴力沙汰に発展せずに場が収まって良かった。結局ルイくんへの失言を取り消してくれなかったのは釈然としないけど。

 

 

 

「くそっ、あの野郎……兄貴をコケにしやがって……!」

 

「気にしなくていいからね、ルイくん」

 

「は、はい……ありがとう、ございます……」

 

 

 

 ルイくんの頭を撫でて励ます。またカナメの試合でも観に行くつもりでいたけど、予定変更だ。

 あそこまで大見得を切った豪炎寺くんのお手並み、しかと拝見させてもらおうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予選3回戦・2試合目。この日最後の決闘(デュエル)が行われようとしていた。

 

 豪炎寺くんの相手は、どうやら女の子らしい。ここで勝った方が明日(あした)、ボクと闘う事になる。

 双方、デュエルディスクを展開する。豪炎寺くんのディスクの色は、彼の髪と同じ(しん)()だった。

 

 

 

「よろしくね」

 

「ふん」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 (ごう)(えん)() LP(ライフポイント) 4000

 

 女子生徒 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 先に動いたのは豪炎寺くんだ。

 

 

 

「先攻は俺が(もら)う! 俺は【黒竜(こくりゅう)(ひな)】を召喚!」

 

 

 

【黒竜の(ひな)】 攻撃力 800

 

 

 

 赤色の卵の殻を破って、黒い竜の雛が鳴き声を上げながら顔を出す。

 

 

 

「わぁ、かわいいですね」

 

 

 

 可愛いもの()きなルイくんが目を輝かせる。そんな君こそ可愛いよ!

 

 

 

「いや、アレは……侮れないよ」

 

「さらに俺は【黒竜の雛】を墓地へ送り、効果発動! 手札から──【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を特殊召喚する!!」

 

「!?」

 

 

 

 レッ、レッドアイズだって!?

 

 

 

「出でよ! 【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】!!」

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400

 

 

 

 それは、【黒竜の雛】が成長を遂げた姿──

 純黒に染まった体躯に、持ち主と同じ真紅の眼。

 世界中の決闘者(デュエリスト)達が、あの【青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)】に次ぐ伝説のドラゴンと恐れ(うやま)い、()決闘王(デュエルキング)()(とう) (ゆう)()の生涯の()()──城之内(じょうのうち) (かつ)()が愛用した切り札としても知られる、幻のレアカードだ。

 

 マニア価格ならプレミアムで数十万円は(くだ)らない最上級モンスターの登場に、観客席から驚愕と興奮に満ちた大歓声が沸き起こる。

 ボクも気づけば立ち上がって、レッドアイズの勇姿に釘付けになっていた。

 

 

 

「すごい……!!」

 

 

 

 感動で総身が打ち震えた。まさか生で拝める日が来るなんて……!

 

 

 

「──俺は魔法(マジック)カード・【黒炎弾(こくえんだん)】を発動! このターン、【レッドアイズ】の攻撃を放棄する代わりに、その攻撃力分のダメージを与える!」

 

 

 

 そもそも1ターン目にバトルはない。カードのデメリットを上手く回避した、実に理に(かな)った戦法だ。

 【レッドアイズ】が黒き炎を口の中で(あふ)れさせる。いきなり2400ものダメージか。

 

 

 

「くっ……でも次のターンで、そのドラゴンを倒してやるわ!」

 

「次のターンなどない!!」

 

「!?」

 

「手札から速攻魔法・【連続魔法】を発動! 手札を全て捨て、このカードの効果を【黒炎弾】と同じにする!」

 

「えっ……ま、まさか……!」

 

「合計4800のダメージを食らえっ!!」

 

 

 

 豪炎寺くんが最後の手札を捨てると、【連続魔法】のカードの立体映像(ソリッドビジョン)が2枚目の【黒炎弾】に切り替わる。

 

 結果、放たれた黒炎の塊は──2発!!

 

 

 

「きゃあああぁぁーっ!?」

 

 

 

 女子生徒 LP 0

 

 

 

「せ、先攻1ターンキル……!」

 

 

 

 ボクの口から愕然とした声が(こぼ)れた。

 開始1分足らずの決着。あまりに一瞬の出来事に観客は言葉を失い、場内は【レッドアイズ】が召喚された時の盛り上がりが嘘の様に静まり返っていた。

 

 

 

「そ……そんな……ウソ……こんなの、ウソよ……! うわあぁあぁぁああぁっ!!」

 

 

 

 突きつけられた残酷な現実を受け入れられず、女の子は泣き崩れてしまう。

 すぐに受け入れろという方が無理な話だろう。ましてや選抜デュエル大会という、年に一度の大事な舞台で、何もさせてもらえずに負けたんだ。そのショックは計り知れない。

 とは言え、豪炎寺くんに非は無い。彼は勝つ為に全力を尽くしただけだ。

 

 

 

()()()いぞっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 すると豪炎寺くんが突然、泣いている女の子を怒鳴りつけた。

 

 

 

「そうやって無様に泣き(わめ)けば結果が変わるのか? 誰かが(なぐさ)めてくれるとでも思ってるのか!!」

 

「ヒッ……!」

 

「甘ったれるなよ!! 耳障りで不快なだけだ!! 見苦しい姿を晒して決闘(デュエル)(けが)すな!! キサマに──決闘者(デュエリスト)を名乗る資格など、無い!!」

 

「うっ……あ……」

 

「全く、キサマの様な軟弱者を見ていると、虫酸が走──」

 

「豪炎寺くんッ!!」

 

 

 

 ボクは(ガラ)にもなく声を荒げてしまった。

 豪炎寺くんが(イラ)()つのも分からなくはないし、いくら彼は悪くないと言っても、さすがに限度がある。もう見ていられない。

 

 

 

「言い過ぎだよ。そこまで責め立てる必要がどこにあるの?」

 

「……フッ」

 

 

 

 客席から見下ろすボクを、豪炎寺くんはビシッと指さし、こう言った。

 

 

 

「次はキサマだ!! 総角 刹那!!」

 

「…………!」

 

 

 

 ──数分後、隣の決闘(デュエル)フィールドの2試合目も、若干やりづらそうな空気を感じつつ終了した。

 

 こうしてD-ブロックの大会2日目は、気まずいムードと後味の悪さを残しながら、お()()みたいに粛々(しゅくしゅく)と幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、ボクはアマネに電話をかけていた。

 

 

 

『豪炎寺? もしかして豪炎寺 龍牙のこと?』

 

「そうそれ。明日その人と()る事になったんだけどさ、どんな人かアマネ知ってたりする?」

 

『珍しいわね、セツナが対戦相手の事を知りたがるなんて』

 

「ちょっとね」

 

『……豪炎寺、ねぇ……。まぁ知ってるには知ってるわよ。去年同じクラスだったし。そうね、一言で説明するなら……彼は次期十傑(じっけつ)候補の〝筆頭〟よ』

 

「筆頭?」

 

 

 

 次期十傑候補ってのは、何となくそんな気がしてたから予想的中だけど、筆頭と来たか。またカッコいい称号だね。

 

 

 

『つまり次期十傑候補の中で……もっと言えば、私達2年の中で、一番強い生徒って事になるわね。現・十傑で言えば──鷹山(ヨウザン) (カナメ)と同格ってところかしら』

 

「──!!」

 

 

 

 強い強いとは思ってたけど、アマネにカナメと同格と言わしめる程の実力者だったとは。

 でも逆に言えば、その豪炎寺くんに勝てた時、ボクはカナメにも匹敵するレベルまで腕を上げたと考えていいのかな。

 

 

 

『あと、これはあくまで私の印象なんだけど……豪炎寺は私の知る限り、最もジャルダンの人間らしい決闘者(デュエリスト)だと思うわ』

 

「え? それってどういう──」

 

『アマネたーーーん!! 誰と通話してんのー? あたしというものがありながら浮気かなー!?』

 

 

 

 おう、ビックリした。この明るい声は……

 

 

 

「あ、マキちゃんも居たんだ?」

 

『う、うん。いつもの事なんだけど、急に(ウチ)に押しかけてきて──』

 

『あ! セツナくん? やっほー、マキちゃんだよー!』

 

「やっほー。元気そうで何よりだよ、マキちゃん」

 

『ハァハァ、アマネたんはいつ嗅いでも良い匂いだなぁ~。クンカクンカスーハースーハー』

 

『ちょ、や、コラ! 変なトコ触るなぁーっ!!』

 

「……あー、なんか……おジャマだったみたいだね。ごめん切るよー」

 

 

 

 ブレないねぇ、マキちゃんは。

 通話を終えた端末を枕元に(ほう)り、ボクも(あお)()けでベッドに寝転がる。

 

 

 

「ふう……」

 

 

 

 豪炎寺くん……次期十傑候補・筆頭、か。

 彼のエースは【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】と見て、まず間違いないだろう。

 伝説のレアカードと闘えるのか……相手にとって、不足なしだ。

 

 

 

「フフッ……楽しみだなぁ」

 

 

 

 あんな事があっても、やっぱりそう思わずにはいられない。ボクも大概(たいがい)筋金(すじがね)入りの決闘(デュエル)バカなのかも。

 

 ボクのドラゴンデッキと、豪炎寺くんのドラゴンデッキ。

 

 ドラゴン対ドラゴン──果たして、どちらが上かな?

 

 

 

 





 次回、セツナ vs 豪炎寺

 ファンデッキ vs ガチデッキ!!

 豪炎寺は『OCGの大会にいたら絶対に当たりたくない奴』をイメージして書きました。思った以上に嫌な奴になった(汗)

 珍しくおこだったセツナくん。たぶんマジギレしたら超こわい。

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