遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 お花畑でほっこりしてるリボルバーちゃん可愛い。



TURN - 27 Friend Ship

 

 ゾロゾロと観客席に移動したボク達5人の(がん)()には、決闘(デュエル)フィールドに立つコータの姿があった。

 

 彼と相対しているのは『十傑(じっけつ)』と呼ばれる、学園でも(じっ)()に数えられる強豪の内の一人──蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()こと、ヨウカちゃん。

 

 ちゃん付けしてるけど女の子ではなく、オネエ言葉で話す立派な男性だ。それも無駄に顔が良い美青年である。

 

 コータはイエロータイプのデュエルディスクに、ヨウカちゃんはネイビータイプのデュエルディスクに、各々(おのおの)のデッキを同時にセットする。

 オートシャッフル機能が作動し、デッキをこまめに混ぜる。

 

 

 

「カラダのシャッフルはアナタが勝ったあと♡」

 

「いやマジで気持ち悪いんでやめてもらっていいスかっ!? カタカナで『カラダ』とか言うな!!」

 

 

 

 もしかしてヨウカちゃんってガチなのかな? ……考えるのはやめとこう、うん。なんか怖くなってきた。

 

 

 

「コーター! がんばれーっ!」

 

川陽(せんよう)くんファイトー!」

 

(あ、アマネさん……!)

 

「コータくーん! アマネたんにカッコイイとこ見せてやれー!」

 

「ちょバッ! み、()(づき)の奴、余計な事を……!」

 

「なんで私限定なのよ?」

 

「ムフフ、アマネたんが魔性の女って事だよ~」

 

「? 大丈夫なのマキちゃん、熱でもあるんじゃない?」

 

「いやいや……」

 

(そうだ……ここで十傑を倒せば、アマネさんの評価は間違いなくウナギ登り! 見ていてくださいアマネさん! 男・川陽 (こう)()、やってやります!!)

 

「……へぇ? アナタ、あのアマネちゃんって()が好きなのね?」

 

「うっ!? な、なんで分かった!?」

 

「女の勘よ♡」

 

「あんた男だろーがっ!!」

 

(クスッ、分かりやすい子ね。嘘がつけないタイプかしら)

 

「そ、そんな事より、とっとと始めるッスよ!」

 

「せっかちねぇ、まぁいいわ。アナタが勝ったら好きにしていいわよ、朝まで♡」

 

「全力で遠慮しときます!!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 コータ LP(ライフポイント) 4000

 

 蝶ヶ咲(ちょうがさき) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 試合開始だ! お互いに手札を5枚引く。

 

 ヨウカちゃんの実力は未知数。入場口で初めて会った時に感じた雰囲気からしても、相当な手練れなのは間違いない。一体どんなデッキを使うのか──

 

 ……ん? 気のせいかな、コータが手札を見つめたまま硬直してる様な……

 

 

 

(……なっ……ぬぁんじゃこりゃあああああっ!? か、完ッ全に──手札事故ッッッ!!)

 

 

 

 ……まさか……ねぇ? ボクは双眼鏡でコータの手札を覗いてみた。

 

 

 

「…………うわ……コータやっちゃってる……」

 

((((あぁ……))))

 

 

 

 コータの身に降りかかった悲劇を説明するには、この言葉だけで事足りるだろう。全てを察したアマネ達は哀れみの目でコータを見ていた。

 

 

 

(おいおいおいおい何でよりによってこんな大事な試合で事故るんだよ!! 相手は十傑だぞ!? 死ねってか!? 俺に死ねってか!?)

 

「どうしたの? また固まっちゃって」

 

「ッ! ……………………完璧な手札だ!!」

 

「今の()は何よ」

 

「う、うるせぇ! 何でもねーよ! せ、先輩が先攻で良いッスよ!」

 

「あら、レディファースト? 紳士なのね」

 

「だからあんた男だろーがっ!!」

 

 

 

 決闘(デュエル)開始の時点で、すでにヨウカちゃんのペースに飲まれかかっちゃってるなぁ。大丈夫かなコータ。

 

 

 

「ではアタシのターン。手札から、フィールド魔法・【(もり)】を発動」

 

「!」

 

 

 

 木々が二人を取り囲んでいき、殺風景なフィールドは鬱蒼(うっそう)(しげ)った森へと景色を一変させた。

 

 

 

「この森の中では、昆虫、獣、植物、獣戦士族の攻撃力・守備力は、200ポイントアップする。さらにアタシは【プリミティブ・バタフライ】を特殊召喚」

 

 

 

【プリミティブ・バタフライ】 攻撃力 1200 + 200 = 1400

 

 

 

「このカードは自分のフィールドにモンスターがいない時、特殊召喚できるわ。そして【プリミティブ・バタフライ】をリリースし、魔法(マジック)カード・【アリの増殖(ぞうしょく)】を発動。2体の【兵隊アリトークン】を特殊召喚」

 

 

 

【兵隊アリトークン】 攻撃力 500 + 200 = 700

 

【兵隊アリトークン】 攻撃力 500 + 200 = 700

 

 

 

「まだまだ。続いて【対空(たいくう)(ほう)()】を召喚」

 

 

 

対空(たいくう)(ほう)()】 攻撃力 0 + 200 = 200

 

 

 

 蝶々にアリの次は、お花と来たか。ヨウカちゃんのデッキは昆虫族と植物族が中心の構成みたいだね。

 

 

 

「へっ! それっぽっちの攻撃力なんか怖くもなんともねぇぜ!」

 

「ボウヤ、アタシの()(れん)なモンスター達を甘く見てると、痛い目に遭うわよ」

 

「だ、誰がボウヤだとぉ!? 俺には川陽 光太って名前があんだよ!」

 

 

 

 気をつけてコータ。仮にも十傑クラスの決闘者(デュエリスト)が、何の意味もなく攻撃力の低いモンスターを並べるとは思えない。

 

 

 

「【対空放花】の効果発動。自分の昆虫族モンスター1体をリリースする事で、相手に800ポイントのライフダメージを撃ち込む」

 

「なに!?」

 

「1体目の【兵隊アリトークン】をリリース」

 

 

 

 花の中心から長く伸びる柱頭の根元に兵隊アリが飛び乗る。

 

 

 

「アナタのハートを撃ち抜いてアゲル♡」

 

「なんでいちいち言い回しが気持ち悪いんだよ!?」

 

BANG(バンッ)

 

 

 

 ヨウカちゃんが人差し指をコータに向けてピストルを撃つ様な仕草をしたのを合図に、【対空放花】に装填された【兵隊アリトークン】が砲弾と化して発射され、コータの身体を撃ち貫いた。

 

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

 

 コータ LP 4000 → 3200

 

 

 

「弾はもう一発残ってるわよ?」

 

「ぐっ……」

 

 

 

 2匹目の【兵隊アリトークン】もリリースされて、【対空放花】に撃ち出される。

 

 

 

「うわぁ!!」

 

 

 

 コータ LP 3200 → 2400

 

 

 

「ま、ほんの挨拶代わりってところね。アタシはこれでターン終了(エンド)よ」

 

 

 

 凄いや、攻撃の出来ない先攻1ターン目から、いきなりライフを半分近くまで削ってきた。これが挨拶代わりだなんて恐ろしい。

 だけどこれはチャンスだ。ヨウカちゃんの場に残ったのは攻撃力200の【対空放花】1体と、フィールド魔法のみ。

 もしかするとコータを試す為にわざと隙を作った可能性もあるけど、何にせよ反撃するならこの好機を逃す手はない。

 

 ところが……そんな肝心な時にコータの手札はと言うと……酷い有り様だった。

 

 

 

(ち、ちくしょおぉぉ……これじゃまともにモンスターも出せねぇ……! どうにか後攻は取れたが、このドローで何とかしねぇと……!)

 

「ど、ドロー!」

 

(──!! き……キターーーーッ!! 天はまだ俺を見捨ててはいなかった!)

 

魔法(マジック)カード発動! 【打ち出の()(づち)】! 手札を任意の枚数デッキに戻して、その枚数分ドローする!」

 

「いきなり手札交換カード? なんだ、手札事故だったのね」

 

「んなっ! そ、そんな、そんなこここと、あ、あるわけねぇだるるぉ!?」

 

「どうでもいいから早くしなさい? 女を待たせる男なんてサイテーよ?」

 

「だからあんたは男ッ……あーもう! 分かったよ! 俺は手札を全部交換だっ!」

 

 

 

 気持ちは分かるよコータ。ボクも金沢(かなざわ)くんとの決闘(デュエル)で初手が事故って、やむなく最初に【リロード】使った時は「ダセーッ!」って笑われたもん。

 

 

 

(頼むぞ~、俺のデッキ……)

 

「ドロー! …………よ、よし、よし! これなら行けるぜ! こっからが本番だ!」

 

「まだ始まってすらいないじゃない」

 

「うるせーっ! 俺は【(でん)()メン-単三型(たんさんがた)】を召喚!」

 

 

 

 乾電池にオレンジ色の頭と手足を取り付けた様な、ユニークなデザインのモンスターが現れる。

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0

 

 

 

「あらあら、アナタこそ攻撃力(ゼロ)のモンスターしか呼べないじゃない」

 

「先輩こそ、俺のイカしたモンスターを舐めてかかると痛い目見るぜ! 【電池メン-単三型】の効果! こいつは自分フィールドの【単三型】が全て攻撃表示の時、1体につき、1000ポイント攻撃力をアップする!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 1000

 

 

 

「バトルだ! 【単三型】で【対空放花】を攻撃! 『バッテリー・パンチ』!!」

 

 

 

 【電池メン-単三型】は拳に電気を帯びて、【対空放花】に渾身(こんしん)のパンチをお見舞いした。

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 4000 → 3200

 

 

 

「静電気ね、この程度」

 

「へっ、言ってろよ」

 

「川陽くーん! その調子ー!」

 

(ふおおおおっ!! アマネさんが俺に声援を送ってくれてる!! ゆ、夢じゃないよな!?)

 

「…………痛い。夢じゃない!!」

 

「???」

 

 

 

 自分のほっぺをつねって、訳の分からない事を叫び出すコータに、さすがのヨウカちゃんも若干困惑したみたいだ。

 

 

 

(スゲーぞ俺! あの十傑にダメージを与えられた! やれば出来るんだ、俺!)

 

「フハハハーッ! 参ったか! ターンエンドだ!」

 

 

 

 ヤバイなー、コータの悪い癖が……割りとすぐ調子に乗っちゃうタイプだから。

 

 

 

「あら生意気。アタシのターン──ドロー」

 

 

 

 カードを引き抜く右腕や、手札を扱う指先まで、ヨウカちゃんの動きの一つ一つが、ダンスを踊る様に流麗で、思わず目を奪われてしまう。

 

 

 

決闘(デュエル)とは『美』。闘いは華麗でなければならないのよ」

 

「……知らねーッスよ、んなもん」

 

「なら教えてアゲル。アタシは【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を召喚」

 

 

 

共鳴虫(ハウリング・インセクト)】 攻撃力 1200 + 200 = 1400

 

 

 

「うげっ! 攻撃力が【単三型】より強いだと!?」

 

「【電池メン-単三型】を攻撃──『ハウリング・プレッシャー』!」

 

 

 

 耳を(つんざ)く強烈な音波攻撃を浴びて、【単三型】が砕け散った。

 

 

 

「くそっ……!」

 

 

 

 コータ LP 2400 → 2000

 

 

 

「ターンエンドよ」

 

「っ……俺のターン!」

 

(……! おっしゃあっ! ようやく運が向いてきたぜ!)

 

「へへっ、今から俺の必殺コンボを見せてやるぜ!!」

 

「あら、そう。楽しみね」

 

魔法(マジック)カード・【充電器(バッテリーチャージャー)】! ライフを500払って、墓地の【単三型】を特殊召喚!」

 

 

 

 コータ LP 2000 → 1500

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 1000

 

 

 

「そしてぇ! 見て驚け! こいつが俺の必殺カードだ! 速攻魔法・【地獄の暴走召喚】!!」

 

「!」

 

「相手フィールドに表側表示のモンスターが存在し、俺のフィールドに攻撃力1500以下のモンスター1体を特殊召喚した時に発動! その同名モンスターを手札・デッキ・墓地から、可能な限り特殊召喚できる! さらに2体の【単三型】を、特殊召喚だぁ!!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0

 

 

 

 場に3体の【単三型】が集まった! これが何を意味しているかと言うと──

 

 

 

「なるほど……それがアナタの狙いってわけね」

 

「さすが十傑、察しが良いじゃないスか。そう! 【単三型】は全て攻撃表示! つまり同じ【単三型】1体につき、攻撃力が1000ポイントアップする! よって3体の攻撃力は──」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 1000 → 3000

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 3000

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 3000

 

 

 

 攻撃力3000のモンスターが3体!

 その驚異的な展開力を見て、観衆も大いに盛り上がりを見せた。

 

 

 

「す、すごいです! 一気に形勢逆転ですよ!?」

 

(あに)さん! 攻撃力3000の3回攻撃って事件ですぜ!」

 

 

 

 ルイくんとケイくんも同様に驚嘆の声を上げた。

 コータのこのコンボには、ボクも何度も苦しめられたっけ。本当、波に乗った時の爆発力は尋常じゃない。

 

 

 

「どうだっ! これが俺の最強コンボ──名付けて、『アルティメット電池メン』だ!!」

 

「アルティメット電池メン? うーん……」

 

「ビミョ~」

 

 

 

 アマネとマキちゃんの評価はイマイチだった。コータ(いわ)く、コンボ名の由来は、伝説の【青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)】が3体フィールドに揃った、あの有名なシーンが元ネタらしい。

 

 

 

「行っくぜー! バト──……へ?」

 

 

 

共鳴虫(ハウリング・インセクト)】 守備力 1300 + 200 = 1500

 

共鳴虫(ハウリング・インセクト)】 守備力 1300 + 200 = 1500

 

 

 

「えっ……お、おい! なんであんたのモンスターまで増えてんだ!?」

 

「自分のカードの効果をお忘れかしら? 【地獄の暴走召喚】は、アタシにも特殊召喚の権利があるのよ」

 

「あっ!」

 

 

 

 コータ……完全に忘れてたね……

 

 

 

(しまったぁ~~~! 普段これ使って相手に特殊召喚される事ってあんましないから、すっかり抜けてたぜ!)

 

「だ、だったら戦闘で破壊するまでだ! まずは攻撃表示の【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を攻撃!」

 

 

 

- バッテリー・パンチ!! -

 

 

 

「……」

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 3200 → 1600

 

 

 

 自分のモンスターが倒されてライフが半減しても、ヨウカちゃんは全く動じず涼しい顔をしていた。

 

 

 

「【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】が戦闘で破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター1体を特殊召喚できる。アタシは【共振虫(レゾナンス・インセクト)】を召喚」

 

 

 

共振虫(レゾナンス・インセクト)】 守備力 700 + 200 = 900

 

 

 

(ちい)せー虫がワラワラと……構うもんか! 2体目の【単三型】で【共振虫(レゾナンス・インセクト)】を攻撃! 必殺! 『バッテリー・キック』!!」

 

 

 

 2体目の【単三型】の電流を纏った飛び蹴りが、鈴虫のモンスターに炸裂する。

 

 

 

「【共振虫(レゾナンス・インセクト)】にも効果があるわ。この子がフィールドから墓地へ送られた時、デッキからレベル5以上の昆虫族を手札に加える事ができる」

 

「リクルートの次はサーチか……」

 

「どうするの? 最後の1体で、【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を攻撃する?」

 

「………」

 

(あのモンスターを破壊しても奴はノーダメージな上、新たな虫を呼ばれるだけだ……)

 

「攻撃は……しねぇ。ターンエンドだ!」

 

「フフッ、おりこうさん」

 

(さすがにそこまで短絡的ではない様ね)

 

(……押している……ハッキリと俺が押している! だってのに……奴の落ち着き払った態度は何だ!?)

 

「アタシのターン。【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を1体リリース。──【女帝(じょてい)カマキリ】をアドバンス召喚!」

 

 

 

 前肢(まえあし)が鋭利な刃物になっている、巨大なカマキリが出現した。

 

 

 

【女帝カマキリ】 攻撃力 2200 + 200 = 2400

 

 

 

「でけぇ!?」

 

「【共振虫(レゾナンス・インセクト)】の効果で手札に加えたカードよ」

 

「くっ、だが俺の【電池メン】達の方が攻撃力は上だ!」

 

「甘いわね。手札から装備魔法・【()()(つき)機甲鎧(インセクトアーマー)】を【女帝カマキリ】に装着! 攻撃力を700ポイントアップ!」

 

 

 

【女帝カマキリ】 攻撃力 2400 + 700 = 3100

 

 

 

「なに!? 攻撃力3100!?」

 

「さぁ、華麗なる闘いを。【女帝カマキリ】で【単三型】を攻撃! 『エンプレス・サイズ』!!」

 

 

 

 一刀両断。【女帝カマキリ】の大鎌は【単三型】の1体を、容赦なく真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

「くうぅっ……!」

 

 

 

 コータ LP 1500 → 1400

 

 

 

「【単三型】が1体減った事で、残る2体の攻撃力もダウンするわ」

 

「──!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 3000 → 2000

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 3000 → 2000

 

 

 

「ターン終了。さっ、アナタのターンよ?」

 

「……ちくしょう……!」

 

(やっぱ……強ぇわ十傑……勝てる気がしねぇ……! ここまでなのか俺は……!)

 

「──がんばれーっ!! コータァーッ!!」

 

「!!」

 

 

 

 ボクは立ち上がり、精一杯声を張り上げて、コータにエールを送る。友達がピンチで(くじ)けそうな時に、黙ってなんかいられない!

 

 

 

総角(アゲマキ)……」

 

「まだまだ行けるよコータくーん!!」

 

「ライフはまだ残ってる! 諦めるのは早いわよー!」

 

「観月……アマネさん……!」

 

 

 

 皆もボクと一緒に、コータへ声援を投げかけてくれた。

 

 

 

「こっから巻き返しですぜ川陽センパイ!!」

 

「が……がんばってくださいー!」

 

「……お前ら……!」

 

(そうだ……ルイだって、自分より2つもランクの高い金沢相手に、最後まで諦めないで勝ったんじゃねぇか! 先輩の俺が情けねーとこ見せてちゃ……示しがつかねぇよなっ!!)

 

「俺は……諦めねぇ!! 勝負はこれからだぜ!!」

 

 

 

 そう、その意気だよ、コータ。君のデッキには、まだ逆転の可能性が残されてる!

 

 

 

「……美しい友情ね。ちょっとだけ、羨ましいわ」

 

「行くぜ! 俺の……タァーーーンッ!!」

 

(アマネさんにカッコいいとこ見せるんだろ俺! 下なんか向いてる場合じゃねぇぞ!!)

 

「──! よっしゃ来たぜ! 俺は【単三型】を1体リリース!」

 

「! アドバンス召喚……!?」

 

「俺のデッキのエースを紹介してやるぜ! ()でよ! 【超電磁稼働ボルテック・ドラゴン】!!」

 

 

 

 一筋(ひとすじ)の落雷と共に、コータの熱い想いに応えるかの様に現れたのは、ドラゴンを(かたど)った大型ロボット。コータが最も愛用する切り札だ。

 

 

 

【超電磁稼働ボルテック・ドラゴン】 攻撃力 2400

 

 

 

「……攻撃力2400ぽっちのモンスターがエースカード? 拍子抜けね」

 

「そいつはどうかな? 【ボルテック・ドラゴン】の効果発動!」

 

 

 

 【ボルテック・ドラゴン】の胸部に、召喚の為にリリースした【電池メン-単三型】が装着された。すると、【単三型】に蓄電(ちくでん)されたバッテリーが【ボルテック・ドラゴン】の機体に充電され、パワーが急上昇していく。

 

 

 

「【電池メン-単三型】をリリースして召喚した【ボルテック・ドラゴン】の攻撃力は、1000ポイントアップする!!」

 

 

 

【超電磁稼働ボルテック・ドラゴン】 攻撃力 2400 + 1000 = 3400

 

 

 

「攻撃力3400──!?」

 

 

 

 レベル5としては破格の攻撃力だ。

 しかし引き換えにフィールドの【電池メン-単三型】が1体だけとなり、その攻撃力が1000に下がる。

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 2000 → 1000

 

 

 

「まだまだぁ! 手札から速攻魔法・【急速充電器(クイックチャージャー)】発動! 墓地の【電池メン】を2枚、手札に戻す! 俺は2体の【単三型】を手札に戻し、さらに【二重召喚(デュアル・サモン)】を発動! その効果で【電池メン-単三型】を1体、もう一度通常召喚だ!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0

 

 

 

「場に2体の【単三型】が揃った事により、それぞれの攻撃力は再び2000になる!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 1000 → 2000

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 2000

 

 

 

 上手い! これで準備は整った、いよいよコータの猛攻が始まる!

 

 

 

「覚悟しろよ、この(ムシ)野郎!! 【ボルテック・ドラゴン】で、【女帝カマキリ】を攻撃! 『ボルテック・カノン』!!」

 

 

 

 【ボルテック・ドラゴン】は体内にチャージした電力を口の中から放出し、それを食らった【女帝カマキリ】は全身が()()して破壊された。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 1600 → 1300

 

 

 

「おぉし! この布陣なら、もう怖いものなしだぜ! 【単三型】で【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を攻撃だ!」

 

「ッ! 破壊された【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】の効果発動!」

 

「へっ! 今さらどんな虫が来ようが──」

 

「デッキから──【(だい)()バッター】を特殊召喚!」

 

 

 

【代打バッター】 攻撃力 1000 + 200 = 1200

 

 

 

「!」

 

(マジかよ……よりによって【代打バッター】だと!?)

 

 

 

 あのカードは確か、フィールド上から墓地へ送られた時、手札の昆虫族モンスター1体を特殊召喚できる効果を持っていた筈。

 わざわざこのタイミングで、しかも攻撃表示で出してきたって事は、十中八九、手札に強力な昆虫族が控えている……!

 

 

 

(俺の攻撃を誘ってやがるのか?)

 

「フフ……どうしたの? 攻撃すれば良いじゃない」

 

「くっ……! …………」

 

(奴の1枚だけ残った手札……1ターン目からずっと持っているあのカード……怪し過ぎる!)

 

 

 

「明らかに何かあるわね……」

 

「攻撃するかしないか、悩み所だね……」

 

 

 

 アマネとボクが呟く。ここで【代打バッター】を破壊すれば戦闘ダメージは与えられる。でも、そうするとヨウカちゃんは新たなモンスターを呼び出せてしまう。下手したら【ボルテック・ドラゴン】以上の上級モンスターが待ち構えている恐れだってある。

 

 

 

(フフッ、アナタが攻撃しようがしまいが……アタシの勝利に揺るぎはないわ)

 

「……っ」

 

(落ち着け俺、これは(わな)だ……! 焦らなくても、次の俺のターンで3体目の【単三型】を召喚すれば、攻撃力3000クラスのモンスターが4体並ぶ! ここで勝負を急がなくても、圧倒的に俺の有利……!)

 

「くっそー、邪魔くせぇバッタだぜ! 俺はこれで──ターンエンドだ!」

 

 

 

 悩んだ(すえ)、コータは攻撃の手を止めた。果たしてこの判断が(きち)と出るか凶と出るか。

 

 

 

「そう……残念。もっと積極的な子かと思ったんだけど。アタシのターンね」

 

「……!」

 

「【レッグル】を召喚」

 

 

 

【レッグル】 攻撃力 300 + 200 = 500

 

 

 

「アナタがその気じゃないなら、自分で動くしかないわね。【代打バッター】、【電池メン-単三型】に負けてらっしゃい!」

 

「なんだと!?」

 

 

 

 攻撃力の劣る【代打バッター】が自ら【単三型】に攻撃を仕掛けた!?

 当然バトルの結果は【単三型】の勝利。【代打バッター】は自滅してしまう。

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 1300 → 500

 

 

 

「負けるって分かってて攻撃してくるかよ普通!?」

 

「……ボウヤ、いえ、コータちゃん」

 

「んなっ……! コータちゃん!?」

 

「誉めてあげるわ、思った以上に楽しかった。だから、ご褒美に……アタシもイイモノ見せて──ア・ゲ・ル♡」

 

「!?」

 

「墓地に送られた【代打バッター】の効果発動! 手札から昆虫族1体を特殊召喚できる!」

 

 

 

 ヨウカちゃんが最後の手札に手をかけた。何が来る……!

 

 

 

「現れなさい! 【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】!!」

 

 

 

 ──!! なに……このモンスターは……!

 

 それは【女帝カマキリ】をも遥かに上回る巨体を誇る、異形の怪物だった。

 上半身は人形(ひとがた)──より具体的に言うと、人間の女性の胴体みたいな作りなんだけど、腕……と言うより前肢が4本も生えていて、その先端は青色の鉤爪(かぎづめ)になっており、頭頂部には三又に分かれた一本の(ツノ)が真ん中に堅く突き出し──さながら王冠(おうかん)を連想させる──、さらに()(つい)の触角が長く伸びている。

 下半身は大きく膨張した腹部が一際(ひときわ)存在感を放ち、見るからに強靭な二本の後ろ足が、その巨体を支えている。そして背中側の赤い(トゲ)(ふし)くれ()った前翅(まえばね)(ひら)くと、下から左右2枚ずつ、半透明の後ろ(ばね)が広がった。

 

 昆虫の女王と呼ばれるのも納得の、一度見たら忘れられない迫力満点なビジュアルだ。

 

 

 

【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2800

 

 

 

「こ……こんなのいたのぉーっ!?」

 

「【森】の環境適応力(フィールド・パワーソース)を得て、攻撃力200ポイントアップよ」

 

 

 

【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2800 + 200 = 3000

 

 

 

「うぐぐ……っ! だがなぁ! まだ俺の【ボルテック・ドラゴン】の方が攻撃力は上だぜ!」

 

「アタシのお目当てはその子じゃないわ。バトル! 【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】で、【電池メン-単三型】を攻撃!」

 

「──! し、しまった!」

 

「『クイーンズ・ヘル・バースト』!!」

 

 

 

 女王様の口が縦にガパッと開かれ、奥から破壊光線が放たれた。

 標的となった【単三型】は、一瞬にして消し飛んでしまった。

 

 

 

「うわぁあああっ!!」

 

 

 

 コータ LP 1400 → 400

 

 

 

 マズイ! 直接攻撃できる【レッグル】で攻撃されたら……!

 

 

 

「このまま【レッグル】のダイレクトアタックで終わりにしてあげても良いけれど……それじゃあ美しくないわね。最後はアタシのエースモンスターで、トドメを刺してあげるわ」

 

「な……なに言ってんだ! そのモンスターはもう──」

 

「【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】の効果。攻撃したダメージステップ終了時、自分フィールドのモンスター1体をリリースする事で、続けて相手モンスターに攻撃できる!」

 

「連続攻撃だと!?」

 

「当然アタシは【レッグル】をリリース」

 

 

 

 うげっ、女王様、【レッグル】を食べちゃった……! ルイくんが口元を手で押さえて涙目になっちゃったじゃないか!

 

 聞きたくない咀嚼(そしゃく)音を響かせ、見るに()えない食事シーンを披露しながら味方の虫を飲み込んだ女王様が、甲高い叫び声を上げる。

 お世辞にも『美しい』モンスターとは言えない気がするんだけど、ヨウカちゃん的にはセーフなの!?

 

 

 

「アナタの場に残った最後の【単三型】は、攻撃力が1000にダウンする」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 2000 → 1000

 

 

 

「あ……あぁ……!」

 

「せめて美しく散りなさい。【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】! 2体目の【単三型】に攻撃!」

 

 

 

- クイーンズ・ヘル・バースト!! -

 

 

 

 2発目の砲撃によって【電池メン-単三型】が全滅する。そして、コータのライフポイントも……

 

 

 

「どわあああああああっ!!!」

 

 

 

 コータ LP 0

 

 

 

「アタシの勝ちね。また()りましょう」

 

 

 

 大の字で伸びるコータに一瞥(いちべつ)を与え、ヨウカちゃんは颯爽(さっそう)決闘(デュエル)フィールドを後にした。

 

 やっぱり十傑だね。圧巻の強さだったよ。

 

 

 

「コータくん負けちゃったね~」

 

「……なぁ、ひとつ思ったんスけど、【代打バッター】が出てきた後、あらかじめ【単三型】を1体守備表示にしとけば、まだ生き延びれたんじゃねぇスか?」

 

 

 

 ケイくんの疑問に答えたのはアマネだった。

 

 

 

「無理ね。【電池メン-単三型】は、1体でも表示形式を変更すると、全ての【単三型】の攻守が(ゼロ)になってしまうのよ。そうすると、攻撃力(ゼロ)の【単三型】を棒立ちさせる事になる」

 

「っ……! てこたぁ、つまり……」

 

「そう。この決闘(デュエル)……どう転んでも蝶ヶ咲さんの勝ちだったのよ。川陽くんには(こく)な言い方だけどね」

 

「…………!」

 

「まぁでも、あの十傑のヨウカちゃんのライフを500まで削ったんだ。善戦だったと思うよ」

 

 

 

 ボクがそう言ってパチパチと拍手すると、皆も続いてコータに拍手を送った。

 

 

 

「お疲れコータ! 良い決闘(デュエル)だったよ!」

 

漢気(おとこぎ)見さしてもらいましたぜ川陽センパーイ!!」

 

「……っ……お、お前らぁ~……!」

 

「カッコ良かったわよ! 川陽くん!」

 

「!!」

 

(アマネさんに!! カッコいいって!! 言われたアアアアアアッッッ!!!)

 

「……? なんか急に元気になったわね川陽くん」

 

「やっぱりアマネたんは魔性の女だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、次の4試合目まで順調に消化し、予選2回戦は全て終了。

 時計の針は12時を指し、今は昼休み。生徒達は食堂でランチを摂っていた。3回戦に勝ち進んだ生徒は、次の闘いに向けて鋭気を養っている。

 一方で、ここの食堂の高品質な料理が喉を通らない程に浮かない顔をしている生徒や、中には泣いている生徒もチラホラ見かけた。きっと運悪く負けてしまった人達なんだろう。

 

 ボクの隣に座っているコータも、そんな感じだ。

 

 

 

「ちっくしょおぉぉぉ……」

 

「コータ、いつまで泣いてんのさ。ほら、ボクのカツカレーのカツ1個あげるから元気出しなよ」

 

()()って嫌がらせか!!」

 

「何が!?」

 

 

 

 さっきまでアマネに励まされたのが嬉しかったみたいだけど、今になって悔しさが込み上げてきたらしい。注文した塩ラーメンが、ちっとも減っていない。

 

 無理もないか。もう少しで勝ててたかも知れないんだもの。

 

 

 

総角(アゲマキ)ィ~っ、ぜってー俺の(かたき)取ってくれよぉ~?」

 

「ヨウカちゃんと当たったらね。まずその前に本選に行かないと」

 

「…………なぁ」

 

「ん?」

 

「俺が諦めかけた時……声、かけてくれたよな。皆も応援してくれてさ……正直、アレがなかったら俺……サレンダーしちまってたかも知れねぇ」

 

「コータ……」

 

「……ありがとな。(ちから)をくれてよ」

 

「…………まっ、礼はいいから前に貸した牛丼代、返してね?」

 

「それ今言うなぁ~~~っ!」

 

「あはは、ほら早く食べないと、ラーメン伸びちゃうよ」

 

「うっせ!」

 

 

 

 気を持ち直して食欲が戻ったのか、勢いよく麺をすするコータ。こういう立ち直りの早いところが彼の長所だよね。

 

 

 

「──今度は俺が()()としてお前を応援する番だ! 負けんじゃねーぞ、総角!」

 

「うん、がんばるよ!」

 

 

 

 さぁて、好物のカレーでお腹を満たした後は……午後から予選3回戦の始まりだ!

 

 

 

 





 おぉ! 久々に文字数が一万字以上!

 今回、特に悩んだのが【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】の描写でした。こ、これをどう文章で書き表せと!?

 コータはDMで言えば城之内くん、VRAINSで言えば島くんポジですね。彼は作者的にも扱いやすいので好きです(笑)←おい
 セツナもコータの反応が面白くて弄ってるところありますねw

 いずれカッコいいとこ見せる時が来るのでコータの今後の活躍にご期待ください! 果たしていつになるかなー(遠い目)

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