遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

25 / 55

 あけましておめでとうございます!!

 今月発売の新パックに【雲魔物(クラウディアン)】と【魔弾】の新規が来てて歓喜している箱庭の猫でございます(*´∀`)

 本年もマイペースに執筆を楽しんでいく所存です。何卒よろしくお願い申し上げます!

 新年1発目はアマネたんです!



TURN - 25 Red Eye

 

 ──後5分で試合開始だ。

 

 アマネは深く息をついて、自分の中から雑念を消していく。

 

 今日の最初の対戦者は、昨日の予選1回戦の様に生易(なまやさ)しい相手ではない。

 

 『元・十傑(じっけつ)』──(わし)() 秀隆(ひでたか)

 

 現在はその座を降りているとは言え、かつてはこのデュエルアカデミア・ジャルダン校のトップ10(テン)にまで成り上がるという輝かしい実績を遺していたのは事実。

 

 昨年(さくねん)度の選抜デュエル大会の予選で当時の十傑(じっけつ)(やぶ)れ、辛酸(しんさん)()めさせられたアマネにとっては、正に難敵(なんてき)と言えた。

 

 そうでなくとも、(わし)()は学園の最上位である『ランク・A』に位置する決闘者(デュエリスト)。『ランク・B』のアマネとは、ワンランクの格差がある。

 このたった一つの差が、両者の間に広がる実力の差を厳然に示していた。

 

 しかし、恐れをなして()(けん)するなどと言う選択肢は、初めから彼女には毛頭ない。

 今大会の為に修練は積んできた。今の自分なら、格上(ランク・A)とも十分に渡り合える筈だ。

 

 何より、相手が強ければ強いほど燃えるのが、黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)という決闘者(デュエリスト)なのだ。

 

 

 

「ふう……よし」

 

集中力(コンセントレーション)に乱れ無し。後は──勝つだけ!)

 

 

 

 (しん)()に染まったレッドタイプのデュエルディスクを装着し、アマネは、いざ戦地へと足を踏み入れた。

 

 

 

 ……会場内に観戦者は二十人前後。予選2日目ならば、まだこんなものだろう。初日に全席を埋め尽くす鷹山(ヨウザン) (カナメ)の異常性が改めて(うかが)い知れる。

 

 

 

「おや、僕の対戦相手は君かい? 嬉しいねぇ。こんな綺麗なお嬢さんと()れるなんて」

 

 

 

 一足早く決闘(デュエル)コートの上で待ち構えていた一人の男が声をかけてきた。

 

 男の外見は、ベージュカラーの髪をマッシュショートに切り揃え、ワックスで毛を立たせて束感を主張した爽やかな髪型に、女子ウケの良さそうな甘いマスクと、スラリとした高身長。

 

 第一印象はハンサムな好青年だが、アマネは反射的に警戒心を(いだ)いた。

 ──()()()、この手の男はどうにも好かない。

 似たタイプのセツナは何故かすんなりと受け入れられたのだが……。

 

 

 

「初めまして、だねぇ? 僕は3年の(わし)()だ。よろしく」

 

「……2年の黒雲(くろくも)です」

 

「フフフ、君も運がないねぇ。この僕と当たってしまうなんて。お気の毒だが君の今年の選抜試験はここで終わりさ。何せ僕は元──」

 

「知ってますよ、鷲津 秀隆(ひでたか)さん」

 

「ん?」

 

「現・十傑、狼城(ろうじょう) (アキラ)に負けて、その座を()()()()元・十傑。……でしょ?」

 

「っ……! 狼城(ろうじょう)……狼城ォ……ッ! あ、あいつだけは……絶対に許さん……!」

 

 

 

 最初の澄まし込んだ態度は()()へやら。整った顔を歪ませ、あからさまに機嫌を悪くする鷲津。その反応を見て、ビンゴ、とアマネは思った。

 

 挑発も立派な戦略だ。

 鷲津の地雷を敢えて踏みつける事で彼を逆上させ、冷静さを失わせるのが狙いだったが……期待通りの効果は得られた様だ。

 

 

 

「──フッ、ククッ! 君は礼儀正しい子だと思っていたが、どうやら(しつけ)が必要らしいねぇ!!」

 

(勝つ! 私は必ず本選に行く!)

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 アマネ LP(ライフポイント) 4000

 

 (わし)() LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「僕から行くよ! 僕は【ホルスの黒炎竜(こくえんりゅう) LV(レベル)(フォー)】を召喚!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(フォー)】 攻撃力 1600

 

 

 

「【ホルス】デッキ……!」

 

「さらに【レベルアップ!】。進化しろ【ホルス】!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(シックス)】 攻撃力 2300

 

 

 

(1ターン目から……やってくれるわね)

 

「カードを2枚伏せてターン終了(エンド)だ!」

 

 

 

 伏せられたカードを見下ろして、アマネは微かに眉を潜める。

 

 

 

(イヤな予感……。【ホルスの黒炎竜】に加えて、もし()()()()()まで使われたら……)

 

「さぁ、君のターンだ、かかってきたまえ。最も、元・十傑のこの僕に勝てる筈もないけどねぇ? フフフフッ」

 

「勝たせてもらうわ。こんなところで立ち止まるわけにはいかないの」

 

「おいおいよしてくれよ。ランク・Bの君がランク・A、それも元・十傑の僕に勝つだってぇ? 僕はねぇ、デュエルモンスターズじゃ全国大会に出場する程の腕なのさ。まっ、君とはレベルが違うってゆーか」

 

「……イラッとくるわね、あいつ」

 

 

 

 同期生の猿爪(ましづめ)を彷彿とさせる高慢ぶりだが、先にケンカを売ったのはこちらなので、それ以上の反論はしなかった。

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

 

 ディスクにセットされているのは、この大会で結果を出す為に一年間かけて組み上げた〝最強のデッキ〟。

 今度はもう絶対に負けない。満を持して、アマネは動き出す。

 

 

 

「私は【ヴァンパイア・レディ】を召喚!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550

 

 

 

「へぇ? 【ヴァンパイア】デッキか」

 

「バトル! 【ヴァンパイア・レディ】で【ホルス】を攻撃!」

 

「おいおい! 攻撃力は【ホルス】の方が上だぞぉ?」

 

「分かってるわよ。モンスターの攻撃宣言時、手札から【ヴァンパイア・フロイライン】を、守備表示で特殊召喚できる!」

 

 

 

【ヴァンパイア・フロイライン】 守備力 2000

 

 

 

「【フロイライン】の効果! 自分のアンデット族モンスターが戦闘するダメージ計算時に、100の倍数のライフを払う事で、そのモンスターの攻撃力と守備力を、払った数値分アップする! 私は、1000ポイントのライフを捧げる!」

 

 

 

 アマネ LP 4000 → 3000

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550 + 1000 = 2550 守備力 1550 + 1000 = 2550

 

 

 

「攻撃力が【ホルス】を越えた!?」

 

吸血鬼(ヴァンパイア)は私の(ライフ)(かて)として、(ちから)を得る! 行け! 【ヴァンパイア・レディ】!!」

 

 

 

 紫の衣装で着飾った吸血鬼の淑女(しゅくじょ)が黒炎竜を襲撃する。

 

 

 

「この僕に先制攻撃とは、生意気にも程があるねぇ!! 速攻魔法・【禁じられた聖槍(せいそう)】を発動!」

 

「!?」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 2550 - 800 = 1750

 

 

 

(攻撃力が下がった……!?)

 

「返り討ちだよ! 『ブラック・フレイム』!!」

 

 

 

 【ホルス】はその名の通り黒い炎を口から放ち、【ヴァンパイア・レディ】を一瞬にして焼き尽くした。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

 アマネ LP 3000 → 2450

 

 

 

「残念だったねぇ! 格下が格上に楯突くからこうなるのさ!」

 

「っ……1枚カードを伏せて、ターンエンド」

 

「このエンドフェイズ、戦闘で相手モンスターを破壊した【ホルス】は、【LV(レベル)(シックス)】から【LV(レベル)(エイト)】に成長する! 現れろ! 【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】!!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】 攻撃力 3000

 

 

 

 早くも第3段階にして最上級【LV(レベル)】へと進化を遂げた【ホルスの黒炎竜】。最高クラスの攻撃力も()る事ながら、何よりも厄介なのは、その恐るべきモンスター効果だ。

 

 【LV8】の最大の能力──それは、魔法(マジック)カードの発動を無効にし、破壊する事。

 しかもノーコストで『1ターンに一度』等の制限も無く、また効果の発動は強制ではなく任意なので、コントローラーは問題なく魔法を使え、相手の魔法は何度でも無効化できるというわけだ。

 

 

 

「……!」

 

「フフフッ、ありがとう。君が攻撃してきてくれたおかげで、進化させる手間が省けたよ」

 

「それはどうも……」

 

「僕のターン! 【ホルス】で【ヴァンパイア・フロイライン】を攻撃ィ!」

 

「ッ……! (トラップ)発動! 【(やみ)呪縛(じゅばく)】!」

 

「無駄だよ!!」

 

「!」

 

「永続(トラップ)・【王宮のお()れ】!! このカード以外の全ての(トラップ)を無効にする!!」

 

「ぐっ……!」

 

(やっぱり……!)

 

 

 

 アマネの()(ねん)が当たってしまった。

 【王宮のお触れ】。【ホルス】デッキを相手取るなら必然的に警戒しなければならないカード。

 そして今、このカードと【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】が場に出揃った時点で、相手の魔法・(トラップ)を完封する強固なロックコンボが完成した事になる。

 

 

 

「よって【闇の呪縛】の効果は無効となり、バトル続行! 『ブラック・メガフレイム』!!」

 

 

 

 【ホルス】の最終形態が放つ黒炎が【ヴァンパイア・フロイライン】を襲う。

 

 

 

「──【フロイライン】の効果を発動! ライフを1000ポイント払って、【フロイライン】の守備力を1000アップする!」

 

 

 

 アマネ LP 2450 → 1450

 

【ヴァンパイア・フロイライン】 攻撃力 600 + 1000 = 1600 守備力 2000 + 1000 = 3000

 

 

 

 吸血鬼の令嬢は差していた傘を盾にする事で【ホルス】の炎を防ぎ、(かろ)うじて身を守った。

 

 

 

「だろうね。だがいつまで凌ぎ切れるかな? 君のライフが尽きるのは時間の問題さ」

 

(……悔しいけど、あいつの言う通りね……このままじゃジリ貧だわ)

 

「ターンエンドだ。さぁどうする? 【ホルスの黒炎竜 LV8】と【王宮のお触れ】、この2枚が場にある限り、君は魔法も(トラップ)も使えない! 果たして打つ手があるかなぁ?」

 

「私のターン!」

 

 

 

 4枚の手札に目を通しながら、アマネは思案する。

 

 

 

(今の私の手札にあるモンスターで召喚できるのは、これ1枚だけ……でも【フロイライン】の効果でライフをギリギリまで削って強化しても、【ホルス】の攻撃力には届かない……魔法カードは使えないし……)

 

「おいおい長考し過ぎじゃないかぁ? 早くこのターンを終わらせてくれないかなぁ?」

 

(……ここはひとまず、守りを固めるしかない。必ず突破口はある!)

 

「私はモンスターをセットしてターンエンド!」

 

「フハハハッ! 散々悩んだ末に逃げの一手か! 僕のターン! たっぷりと味わうんだなぁ、持たざる者の悲しさを」

 

「……っ」

 

「バトル! もう一度【ホルス】で【フロイライン】を攻撃だ! 『ブラック・メガフレイム』!!」

 

 

 

 再び迫り来る黒き炎。伏せカードもない──(いな)、あったとしても発動を封じられている現状では、【ヴァンパイア・フロイライン】自身の効果で、ライフをコストに守備力を強化するしか対抗手段は残っていない。

 

 

 

「…………ッ!」

 

 

 

 しかし──アマネはそうしなかった。火炎放射が直撃し、【ヴァンパイア・フロイライン】は一撃で粉砕される。

 

 

 

「なんだ、効果は使わないのか」

 

「悪い?」

 

「悪くはない……と、言いたいところだが……ざぁんねん! 判断を(あやま)ったねぇ!」

 

「!?」

 

「手札から速攻魔法・【レベルダウン!?】発動! この効果により【LV8】をデッキに戻し、墓地の【LV6】を特殊召喚する!」

 

 

 

 黒炎竜の身体が変異を起こし、1段階前の姿に逆戻りしていく。

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(シックス)】 攻撃力 2300

 

 

 

「行けぇーっ! 【LV6】! 裏守備モンスターを攻撃! 『ブラック・フレイム』!!」

 

 

 

 退化したと言えど、【LV6】は並みのモンスターなら十分に破壊できる攻撃力を備えている。その追撃の炎がアマネの場にセットされた守備モンスターを瞬く間に飲み込んだ。

 

 破壊される直前、攻撃対象となった裏側守備表示のモンスターが反転(リバース)し、実体化する。現れたのはコウモリを模した杖を握る、魔法使いの様な出で立ちをした吸血鬼だった。

 

 

 

「ハハハハハッ!! 快感だねぇ!! 手も足も出ない相手をいたぶるのはぁ!!」

 

「……手も足も出ない……? それはどうかしら?」

 

「んん?」

 

「確かに【ホルスの黒炎竜】と【王宮のお触れ】のコンボは強力。けどそのコンボには弱点があるわ。それは、モンスター効果までは無効に出来ない事!」

 

「!!」

 

「破壊された【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果発動! デッキから【ヴァンパイア】カード1枚を手札に加える! 私が手札に加えるのは──【ヴァンパイア・ロード】!」

 

「はっ……ハハッ! 何かと思えばただのカードサーチか! だがレベル5のモンスターをわざわざ手札に入れてどうする? 君のフィールドはガラ空きだぞ」

 

「今に分かるわ」

 

「ふん、何を企んでいようが僕の勝利は揺るがない!」

 

(だが念には念を入れ……)

 

「モンスターを守備表示で出す! エンドフェイズだ。モンスターをバトルで破壊した事で、【ホルス】は再び【LV8】に進化する!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】 攻撃力 3000

 

 

 

「どうだぁ! この鉄壁の布陣を破る事など不可能!!」

 

「私のターン、ドロー! 墓地の【ヴァンパイア・ソーサラー】を除外して、効果発動! このターン、【ヴァンパイア】をリリースなしで召喚できる!」

 

「なにぃ!?」

 

「【ヴァンパイア・ロード】を召喚!」

 

 

 

 漆黒(しっこく)外套(がいとう)(まと)いし美青年の吸血鬼がフィールドに降り立つ。

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000

 

 

 

「さらに【ヴァンパイア・ロード】をゲームから除外し、【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・ロード】の姿が消え、新たに出現したのは、紫色の巨躯を誇る強大な魔獣。〝創世記〟を意味する『ジェネシス』の名を持つ事から、吸血鬼(ヴァンパイア)()()と思われる。

 

 

 

【ヴァンパイアジェネシス】 攻撃力 3000

 

 

 

「こ、攻撃力3000だと!?」

 

「【ヴァンパイアジェネシス】のモンスター効果! 1ターンに一度、手札のアンデット族モンスター1枚を墓地に捨てる事で、そのモンスターよりレベルの低いアンデット族を1体、墓地から特殊召喚する!」

 

 

 

 アマネが墓地に送ったカードは【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】。レベルは7。

 

 

 

「眠りから目覚めなさい! 【ヴァンパイア・レディ】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550

 

 

 

「バトルよ! 【ヴァンパイアジェネシス】で、【ホルスの黒炎竜 LV8】を攻撃! 『ヘルビシャス・ブラッド』!!」

 

 

 

 唸り声を上げながら攻撃体勢に入る【ヴァンパイアジェネシス】。次の瞬間、その姿は血の奔流へと変わり、黒炎竜を直撃する。

 

 両者の攻撃力は互角。爆発に巻き込まれて2体同時に消滅し、バトルは相討ちに終わった。

 

 

 

「そ、そんなバカな……僕の切り札が……!」

 

「さらに【ヴァンパイア・レディ】で、守備モンスターを攻撃!」

 

 

 

 セットモンスターは【ホルスのしもべ】。攻守共に僅か100のモンスター。戦闘破壊は容易だった。

 

 

 

「く、くそっ……! 元・十傑のこの僕が、こんな奴に!」

 

「……何度も何度も『元・十傑』とばかり……他の言葉を知らないわけ?」

 

「なんだと?」

 

「ハッキリ言ってあげる。そうやって過去の栄光に(すが)ってばかりいる様な決闘者(デュエリスト)に──私は負けない」

 

「──ッ! 黙れえぇぇぇぇっ!!! 黙れ黙れ黙れ!! お前なんかに()の何が分かる!!」

 

「……本性が出たわね」

 

「俺のタァァァーン!! 【レベル調整】を発動! 相手に2枚引かせ、墓地の【LV】モンスターを特殊召喚! 戻ってこい! 【ホルスの黒炎竜 LV8】ォ!!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】 攻撃力 3000

 

 

 

「フゥー、フゥー……く、くくくっ! せっかく倒したと思ったのに残念だったねぇ! 【レベル調整】で召喚したモンスターは効果が失われ、このターン攻撃できない……だが次のターンで、確実にお前のモンスターを吹き飛ばす!」

 

「…………」

 

「この大会は、俺が十傑に返り咲く最後のチャンスなんだ!! それをランク・Bごときに邪魔されてたまるかぁぁぁぁっ!!」

 

「……フフッ」

 

「……な……なっ、何が()()しいんだぁぁぁ~~~っ!!!?」

 

 

 

 綺麗にセットした髪を掻き乱し、半泣きで(わめ)き散らす鷲津。もはやイケメンは見る影もなくなっていた。根が小心者である事をこれ以上ない程さらけ出した彼を見て、アマネは哀れみさえ覚えた。

 

 

 

「悪あがきね。魔法を破壊できない【LV8】なんて、怖くも何ともないわ」

 

「なっ、なにぃぃぃ~~~っ!?」

 

「あなたの器はもう知れたわ。私のターン! 来て、【ヴァンパイア・ベビー】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・ベビー】 攻撃力 700

 

 

 

「手札から永続魔法・【ヴァンパイアの領域】を発動! 1ターンに一度、ライフを500払う事で、通常の召喚に加えてもう一度【ヴァンパイア】を召喚できる」

 

 

 

 アマネ LP 1450 → 950

 

 

 

「【ヴァンパイア・ベビー】をリリースし、【ヴァンパイア・グリムゾン】召喚!」

 

 

 

【ヴァンパイア・グリムゾン】 攻撃力 2000

 

 

 

「い……いくらモンスターを並べようと、【ホルス】の足下にも及ばないぞ!」

 

「フィールド魔法発動! 【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】!」

 

 

 

 決闘(デュエル)フィールドの景色が作り変えられていき、西洋の街並みが築かれる。上空には(あか)く光る満月が浮いており、街を不気味に照らし出している。

 

 

 

「なななな……なんだこれはぁ!?」

 

「さらに魔法(マジック)カード・【威圧する()(がん)】発動! 攻撃力2000以下のアンデット族1体は、このターン直接攻撃(ダイレクトアタック)ができる!」

 

「ダッ!?」

 

「バトル! 【ヴァンパイア・レディ】で、プレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・レディ】の魔眼に(ひる)んだ【ホルス】は身動きが取れず、鷲津への直接攻撃を許した。

 

 

 

「【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】の効果により、アンデット族の攻撃力はダメージ計算時のみ500アップする!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550 + 500 = 2050

 

 

 

「ぎゃあああっ!!」

 

 

 

 鷲津 LP 4000 → 1950

 

 

 

「【ヴァンパイア・レディ】が戦闘ダメージを与えた時、相手は私が宣言した種類のカードを1枚、デッキから墓地に送らなければならない! (トラップ)カードを宣言するわ」

 

「くっ……お、俺のデッキには、後2枚の【王宮のお触れ】しか入ってない……!」

 

「だと思った」

 

 

 

 鷲津のデッキ内から2枚目の【王宮のお触れ】が墓地に捨てられる。万が一にも墓地で発動するカード等を落とされる危険性もあったが、(トラップ)を封殺する【王宮のお触れ】をキーカードとしているなら、他の(トラップ)は投入していないだろうとアマネは踏んだ。実際、その予測は的中した様だ。

 

 

 

「【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】の二つ目の効果! 相手のデッキからカードが墓地に送られた時、手札かデッキから【ヴァンパイア】を1枚墓地に送り、フィールドのカード1枚を破壊する!」

 

「なんだってぇ!?」

 

「デッキから【ヴァンパイアの使い魔】を墓地へ。私が破壊するのは当然──【ホルスの黒炎竜 LV8】!!」

 

 

 

 黒炎竜が粉々に砕かれて消え去った。これで鷲津を守るものは無い。

 

 

 

「それと【ヴァンパイアの領域】の効果も発動するわ。【ヴァンパイア】が相手に与えた戦闘ダメージ分のライフを回復」

 

 

 

 アマネ LP 950 → 3000

 

 

 

(奴の場にはモンスターがもう1体……攻撃されたら俺の負けじゃないか!!)

 

「フィニッシュよ! 【ヴァンパイア・グリムゾン】で──」

 

「ま、待てっ!! いや待って! 待ってください!!」

 

「……なによ」

 

「な、なぁ頼む、後生だ。勝ちを譲ってくれないか!?」

 

「はぁ?」

 

「たた、タダでとは言わない! 俺……僕のパパは大企業の社長で凄い金持ちなんだ! 君が望めばいくらでも出してくれる! ほ、ほら、この小切手に好きな金額を書いてくれ!」

 

「……アンタ、自分が何を言ってるか分かってるの?」

 

「頼むこの通りだ! き、君、2年なんだろ? まだ来年が残ってるじゃないか、そうだろう? なっ! それでいいだろう!?」

 

 

 

 ……呆れて物も言えないとはこういう事なのかと、アマネは過去に類を見ないほど(あっ)()に取られた。

 この()に及んで何を言い出すのかと思えば、あろうことか決闘(デュエル)の勝利を金で売ってくれなどと、戯言(たわごと)を抜かしてのけたのだ。

 オマケに、『お前には来年があるから良いだろ』と実に身勝手で横暴な物言い。これが公式の大会でなかったら、今この場で彼の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけていたかも知れない。

 

 

 

「……だから?」

 

「ヒィ!?」

 

 

 

 アマネの赤い眼が鷲津を睨む。恐れをなした鷲津は情けない悲鳴を上げながら堪らず腰を抜かした。

 

 

 

決闘(デュエル)()()だって真剣勝負よ! 誰だろうと手加減はしない! 【ヴァンパイア・グリムゾン】でダイレクトアタック!!」

 

 

 

【ヴァンパイア・グリムゾン】 攻撃力 2000 + 500 = 2500

 

 

 

「な、何故だぁぁぁぁっ!? 絶対無敵の完璧なデッキの筈なのに!! 俺が負けるわけがないのにぃぃぃぃっ!!」

 

「完璧なデッキなんて存在しないわ。どんな戦術にも、穴はあるものよ」

 

 

 

 大鎌(おおがま)を携えた、死神(しにがみ)()(まが)えてしまいそうな風貌の吸血鬼が、その鎌を勢いよく振り下ろし、泣き叫ぶ鷲津の身体を容赦なく斜めに切り裂いた。

 

 

 

「そんなああああっ!!」

 

 

 

 鷲津 LP 0

 

 

 

 散らばった小切手と共に床に()した鷲津。どうやらショックで気絶したらしく、スタッフにズルズルと引き摺られていった。

 もはや十傑がどうこう以前に決闘者(デュエリスト)とさえ呼べない無様さだ。これだけの醜態を衆目に晒してしまっては、彼の今後の処遇が危ぶまれるが……まぁそこはどうせ大企業の社長の父親とやらに泣きついて、金の力で解決するのだろう。いずれにせよ、アマネには何の関係もない話だ。

 

 勝者を讃える歓声を一身に浴びながら、アマネは長い黒髪を手で払いつつ会場を後にした。

 

 

 

(あーあ、あんなしょうもない男に追い詰められてた自分がムカつく……でも……)

 

格上(ランク・A)に勝てた……やっぱりこのデッキは強いわ。これなら私は……」

 

 

 

 そこまで言いかけた所で、アマネの口が止まった。

 

 

 

「……ううん、()()()()()を言うのは、この大会で現・十傑に勝ってから!」

 

 

 

 今日は次に3回戦が控えている。勝って(かぶと)()を締めよ。まだ予選は──選抜デュエル大会は始まったばかりだ。

 

 

 

 黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)・予選2回戦──突破!

 

 

 

 





 そんなわけで、アマネたんのデッキは【ヴァンパイア】でした! 25話にしてようやくメインヒロインが初デュエル披露という……物語の構成は計画的に!(プロットさえ書いた事ない)

 そして自分で書いていて、「作者は鷲津に何か恨みでもあるんか?」と言うくらい鷲津が酷い事にww 実は某ラノベの噛ませ犬キャラがモデルなんです。ヒントは『ジャンケンで決めよう!』。

 本文中の
 4枚の手札に目を通しながら、アマネは思案する。←この時の手札は
【ヴァンパイアジェネシス】
【ヴァンパイア・ソーサラー】
【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】
【ヴァンパイアの領域】
でした! 軽い事故ですね(笑)ドローしたのが【領域】だったのですが【LV8】のせいで腐り、ちょっとピンチだったのです。

 その後のラストターン、手札を全部使いきってフィニッシュまで持っていく流れは我ながら上手く書けたかなぁと思っています(*´∀`)【帝国】がデッキの【ヴァンパイア】も落とせる効果で本ッッッ当に良かった!

 ではでは、また次回! 今年は最低月1更新は目指していきたいなぁ~。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。