遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum - 作:箱庭の猫
あけましておめでとうございます!!
今月発売の新パックに【
本年もマイペースに執筆を楽しんでいく所存です。何卒よろしくお願い申し上げます!
新年1発目はアマネたんです!
──後5分で試合開始だ。
アマネは深く息をついて、自分の中から雑念を消していく。
今日の最初の対戦者は、昨日の予選1回戦の様に
『元・
現在はその座を降りているとは言え、かつてはこのデュエルアカデミア・ジャルダン校のトップ
そうでなくとも、
このたった一つの差が、両者の間に広がる実力の差を厳然に示していた。
しかし、恐れをなして
今大会の為に修練は積んできた。今の自分なら、
何より、相手が強ければ強いほど燃えるのが、
「ふう……よし」
(
……会場内に観戦者は二十人前後。予選2日目ならば、まだこんなものだろう。初日に全席を埋め尽くす
「おや、僕の対戦相手は君かい? 嬉しいねぇ。こんな綺麗なお嬢さんと
一足早く
男の外見は、ベージュカラーの髪をマッシュショートに切り揃え、ワックスで毛を立たせて束感を主張した爽やかな髪型に、女子ウケの良さそうな甘いマスクと、スラリとした高身長。
第一印象はハンサムな好青年だが、アマネは反射的に警戒心を
──
似たタイプのセツナは何故かすんなりと受け入れられたのだが……。
「初めまして、だねぇ? 僕は3年の
「……2年の
「フフフ、君も運がないねぇ。この僕と当たってしまうなんて。お気の毒だが君の今年の選抜試験はここで終わりさ。何せ僕は元──」
「知ってますよ、鷲津
「ん?」
「現・十傑、
「っ……!
最初の澄まし込んだ態度は
挑発も立派な戦略だ。
鷲津の地雷を敢えて踏みつける事で彼を逆上させ、冷静さを失わせるのが狙いだったが……期待通りの効果は得られた様だ。
「──フッ、ククッ! 君は礼儀正しい子だと思っていたが、どうやら
(勝つ! 私は必ず本選に行く!)
「「
アマネ
「僕から行くよ! 僕は【ホルスの
【ホルスの黒炎竜
「【ホルス】デッキ……!」
「さらに【レベルアップ!】。進化しろ【ホルス】!」
【ホルスの黒炎竜
(1ターン目から……やってくれるわね)
「カードを2枚伏せてターン
伏せられたカードを見下ろして、アマネは微かに眉を潜める。
(イヤな予感……。【ホルスの黒炎竜】に加えて、もし
「さぁ、君のターンだ、かかってきたまえ。最も、元・十傑のこの僕に勝てる筈もないけどねぇ? フフフフッ」
「勝たせてもらうわ。こんなところで立ち止まるわけにはいかないの」
「おいおいよしてくれよ。ランク・Bの君がランク・A、それも元・十傑の僕に勝つだってぇ? 僕はねぇ、デュエルモンスターズじゃ全国大会に出場する程の腕なのさ。まっ、君とはレベルが違うってゆーか」
「……イラッとくるわね、あいつ」
同期生の
「私のターン、ドロー!」
ディスクにセットされているのは、この大会で結果を出す為に一年間かけて組み上げた〝最強のデッキ〟。
今度はもう絶対に負けない。満を持して、アマネは動き出す。
「私は【ヴァンパイア・レディ】を召喚!」
【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550
「へぇ? 【ヴァンパイア】デッキか」
「バトル! 【ヴァンパイア・レディ】で【ホルス】を攻撃!」
「おいおい! 攻撃力は【ホルス】の方が上だぞぉ?」
「分かってるわよ。モンスターの攻撃宣言時、手札から【ヴァンパイア・フロイライン】を、守備表示で特殊召喚できる!」
【ヴァンパイア・フロイライン】 守備力 2000
「【フロイライン】の効果! 自分のアンデット族モンスターが戦闘するダメージ計算時に、100の倍数のライフを払う事で、そのモンスターの攻撃力と守備力を、払った数値分アップする! 私は、1000ポイントのライフを捧げる!」
アマネ LP 4000 → 3000
【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550 + 1000 = 2550 守備力 1550 + 1000 = 2550
「攻撃力が【ホルス】を越えた!?」
「
紫の衣装で着飾った吸血鬼の
「この僕に先制攻撃とは、生意気にも程があるねぇ!! 速攻魔法・【禁じられた
「!?」
【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 2550 - 800 = 1750
(攻撃力が下がった……!?)
「返り討ちだよ! 『ブラック・フレイム』!!」
【ホルス】はその名の通り黒い炎を口から放ち、【ヴァンパイア・レディ】を一瞬にして焼き尽くした。
「くっ……!」
アマネ LP 3000 → 2450
「残念だったねぇ! 格下が格上に楯突くからこうなるのさ!」
「っ……1枚カードを伏せて、ターンエンド」
「このエンドフェイズ、戦闘で相手モンスターを破壊した【ホルス】は、【
【ホルスの黒炎竜
早くも第3段階にして最上級【
【LV8】の最大の能力──それは、
しかもノーコストで『1ターンに一度』等の制限も無く、また効果の発動は強制ではなく任意なので、コントローラーは問題なく魔法を使え、相手の魔法は何度でも無効化できるというわけだ。
「……!」
「フフフッ、ありがとう。君が攻撃してきてくれたおかげで、進化させる手間が省けたよ」
「それはどうも……」
「僕のターン! 【ホルス】で【ヴァンパイア・フロイライン】を攻撃ィ!」
「ッ……!
「無駄だよ!!」
「!」
「永続
「ぐっ……!」
(やっぱり……!)
アマネの
【王宮のお触れ】。【ホルス】デッキを相手取るなら必然的に警戒しなければならないカード。
そして今、このカードと【ホルスの黒炎竜
「よって【闇の呪縛】の効果は無効となり、バトル続行! 『ブラック・メガフレイム』!!」
【ホルス】の最終形態が放つ黒炎が【ヴァンパイア・フロイライン】を襲う。
「──【フロイライン】の効果を発動! ライフを1000ポイント払って、【フロイライン】の守備力を1000アップする!」
アマネ LP 2450 → 1450
【ヴァンパイア・フロイライン】 攻撃力 600 + 1000 = 1600 守備力 2000 + 1000 = 3000
吸血鬼の令嬢は差していた傘を盾にする事で【ホルス】の炎を防ぎ、
「だろうね。だがいつまで凌ぎ切れるかな? 君のライフが尽きるのは時間の問題さ」
(……悔しいけど、あいつの言う通りね……このままじゃジリ貧だわ)
「ターンエンドだ。さぁどうする? 【ホルスの黒炎竜 LV8】と【王宮のお触れ】、この2枚が場にある限り、君は魔法も
「私のターン!」
4枚の手札に目を通しながら、アマネは思案する。
(今の私の手札にあるモンスターで召喚できるのは、これ1枚だけ……でも【フロイライン】の効果でライフをギリギリまで削って強化しても、【ホルス】の攻撃力には届かない……魔法カードは使えないし……)
「おいおい長考し過ぎじゃないかぁ? 早くこのターンを終わらせてくれないかなぁ?」
(……ここはひとまず、守りを固めるしかない。必ず突破口はある!)
「私はモンスターをセットしてターンエンド!」
「フハハハッ! 散々悩んだ末に逃げの一手か! 僕のターン! たっぷりと味わうんだなぁ、持たざる者の悲しさを」
「……っ」
「バトル! もう一度【ホルス】で【フロイライン】を攻撃だ! 『ブラック・メガフレイム』!!」
再び迫り来る黒き炎。伏せカードもない──
「…………ッ!」
しかし──アマネはそうしなかった。火炎放射が直撃し、【ヴァンパイア・フロイライン】は一撃で粉砕される。
「なんだ、効果は使わないのか」
「悪い?」
「悪くはない……と、言いたいところだが……ざぁんねん! 判断を
「!?」
「手札から速攻魔法・【レベルダウン!?】発動! この効果により【LV8】をデッキに戻し、墓地の【LV6】を特殊召喚する!」
黒炎竜の身体が変異を起こし、1段階前の姿に逆戻りしていく。
【ホルスの黒炎竜
「行けぇーっ! 【LV6】! 裏守備モンスターを攻撃! 『ブラック・フレイム』!!」
退化したと言えど、【LV6】は並みのモンスターなら十分に破壊できる攻撃力を備えている。その追撃の炎がアマネの場にセットされた守備モンスターを瞬く間に飲み込んだ。
破壊される直前、攻撃対象となった裏側守備表示のモンスターが
「ハハハハハッ!! 快感だねぇ!! 手も足も出ない相手をいたぶるのはぁ!!」
「……手も足も出ない……? それはどうかしら?」
「んん?」
「確かに【ホルスの黒炎竜】と【王宮のお触れ】のコンボは強力。けどそのコンボには弱点があるわ。それは、モンスター効果までは無効に出来ない事!」
「!!」
「破壊された【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果発動! デッキから【ヴァンパイア】カード1枚を手札に加える! 私が手札に加えるのは──【ヴァンパイア・ロード】!」
「はっ……ハハッ! 何かと思えばただのカードサーチか! だがレベル5のモンスターをわざわざ手札に入れてどうする? 君のフィールドはガラ空きだぞ」
「今に分かるわ」
「ふん、何を企んでいようが僕の勝利は揺るがない!」
(だが念には念を入れ……)
「モンスターを守備表示で出す! エンドフェイズだ。モンスターをバトルで破壊した事で、【ホルス】は再び【LV8】に進化する!」
【ホルスの黒炎竜
「どうだぁ! この鉄壁の布陣を破る事など不可能!!」
「私のターン、ドロー! 墓地の【ヴァンパイア・ソーサラー】を除外して、効果発動! このターン、【ヴァンパイア】をリリースなしで召喚できる!」
「なにぃ!?」
「【ヴァンパイア・ロード】を召喚!」
【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000
「さらに【ヴァンパイア・ロード】をゲームから除外し、【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!!」
【ヴァンパイア・ロード】の姿が消え、新たに出現したのは、紫色の巨躯を誇る強大な魔獣。〝創世記〟を意味する『ジェネシス』の名を持つ事から、
【ヴァンパイアジェネシス】 攻撃力 3000
「こ、攻撃力3000だと!?」
「【ヴァンパイアジェネシス】のモンスター効果! 1ターンに一度、手札のアンデット族モンスター1枚を墓地に捨てる事で、そのモンスターよりレベルの低いアンデット族を1体、墓地から特殊召喚する!」
アマネが墓地に送ったカードは【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】。レベルは7。
「眠りから目覚めなさい! 【ヴァンパイア・レディ】!」
【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550
「バトルよ! 【ヴァンパイアジェネシス】で、【ホルスの黒炎竜 LV8】を攻撃! 『ヘルビシャス・ブラッド』!!」
唸り声を上げながら攻撃体勢に入る【ヴァンパイアジェネシス】。次の瞬間、その姿は血の奔流へと変わり、黒炎竜を直撃する。
両者の攻撃力は互角。爆発に巻き込まれて2体同時に消滅し、バトルは相討ちに終わった。
「そ、そんなバカな……僕の切り札が……!」
「さらに【ヴァンパイア・レディ】で、守備モンスターを攻撃!」
セットモンスターは【ホルスのしもべ】。攻守共に僅か100のモンスター。戦闘破壊は容易だった。
「く、くそっ……! 元・十傑のこの僕が、こんな奴に!」
「……何度も何度も『元・十傑』とばかり……他の言葉を知らないわけ?」
「なんだと?」
「ハッキリ言ってあげる。そうやって過去の栄光に
「──ッ! 黙れえぇぇぇぇっ!!! 黙れ黙れ黙れ!! お前なんかに
「……本性が出たわね」
「俺のタァァァーン!! 【レベル調整】を発動! 相手に2枚引かせ、墓地の【LV】モンスターを特殊召喚! 戻ってこい! 【ホルスの黒炎竜 LV8】ォ!!」
【ホルスの黒炎竜
「フゥー、フゥー……く、くくくっ! せっかく倒したと思ったのに残念だったねぇ! 【レベル調整】で召喚したモンスターは効果が失われ、このターン攻撃できない……だが次のターンで、確実にお前のモンスターを吹き飛ばす!」
「…………」
「この大会は、俺が十傑に返り咲く最後のチャンスなんだ!! それをランク・Bごときに邪魔されてたまるかぁぁぁぁっ!!」
「……フフッ」
「……な……なっ、何が
綺麗にセットした髪を掻き乱し、半泣きで
「悪あがきね。魔法を破壊できない【LV8】なんて、怖くも何ともないわ」
「なっ、なにぃぃぃ~~~っ!?」
「あなたの器はもう知れたわ。私のターン! 来て、【ヴァンパイア・ベビー】!」
【ヴァンパイア・ベビー】 攻撃力 700
「手札から永続魔法・【ヴァンパイアの領域】を発動! 1ターンに一度、ライフを500払う事で、通常の召喚に加えてもう一度【ヴァンパイア】を召喚できる」
アマネ LP 1450 → 950
「【ヴァンパイア・ベビー】をリリースし、【ヴァンパイア・グリムゾン】召喚!」
【ヴァンパイア・グリムゾン】 攻撃力 2000
「い……いくらモンスターを並べようと、【ホルス】の足下にも及ばないぞ!」
「フィールド魔法発動! 【ヴァンパイア
「なななな……なんだこれはぁ!?」
「さらに
「ダッ!?」
「バトル! 【ヴァンパイア・レディ】で、プレイヤーにダイレクトアタック!」
【ヴァンパイア・レディ】の魔眼に
「【ヴァンパイア
【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550 + 500 = 2050
「ぎゃあああっ!!」
鷲津 LP 4000 → 1950
「【ヴァンパイア・レディ】が戦闘ダメージを与えた時、相手は私が宣言した種類のカードを1枚、デッキから墓地に送らなければならない!
「くっ……お、俺のデッキには、後2枚の【王宮のお触れ】しか入ってない……!」
「だと思った」
鷲津のデッキ内から2枚目の【王宮のお触れ】が墓地に捨てられる。万が一にも墓地で発動するカード等を落とされる危険性もあったが、
「【ヴァンパイア
「なんだってぇ!?」
「デッキから【ヴァンパイアの使い魔】を墓地へ。私が破壊するのは当然──【ホルスの黒炎竜 LV8】!!」
黒炎竜が粉々に砕かれて消え去った。これで鷲津を守るものは無い。
「それと【ヴァンパイアの領域】の効果も発動するわ。【ヴァンパイア】が相手に与えた戦闘ダメージ分のライフを回復」
アマネ LP 950 → 3000
(奴の場にはモンスターがもう1体……攻撃されたら俺の負けじゃないか!!)
「フィニッシュよ! 【ヴァンパイア・グリムゾン】で──」
「ま、待てっ!! いや待って! 待ってください!!」
「……なによ」
「な、なぁ頼む、後生だ。勝ちを譲ってくれないか!?」
「はぁ?」
「たた、タダでとは言わない! 俺……僕のパパは大企業の社長で凄い金持ちなんだ! 君が望めばいくらでも出してくれる! ほ、ほら、この小切手に好きな金額を書いてくれ!」
「……アンタ、自分が何を言ってるか分かってるの?」
「頼むこの通りだ! き、君、2年なんだろ? まだ来年が残ってるじゃないか、そうだろう? なっ! それでいいだろう!?」
……呆れて物も言えないとはこういう事なのかと、アマネは過去に類を見ないほど
この
オマケに、『お前には来年があるから良いだろ』と実に身勝手で横暴な物言い。これが公式の大会でなかったら、今この場で彼の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけていたかも知れない。
「……だから?」
「ヒィ!?」
アマネの赤い眼が鷲津を睨む。恐れをなした鷲津は情けない悲鳴を上げながら堪らず腰を抜かした。
「
【ヴァンパイア・グリムゾン】 攻撃力 2000 + 500 = 2500
「な、何故だぁぁぁぁっ!? 絶対無敵の完璧なデッキの筈なのに!! 俺が負けるわけがないのにぃぃぃぃっ!!」
「完璧なデッキなんて存在しないわ。どんな戦術にも、穴はあるものよ」
「そんなああああっ!!」
鷲津 LP 0
散らばった小切手と共に床に
もはや十傑がどうこう以前に
勝者を讃える歓声を一身に浴びながら、アマネは長い黒髪を手で払いつつ会場を後にした。
(あーあ、あんなしょうもない男に追い詰められてた自分がムカつく……でも……)
「
そこまで言いかけた所で、アマネの口が止まった。
「……ううん、
今日は次に3回戦が控えている。勝って
そんなわけで、アマネたんのデッキは【ヴァンパイア】でした! 25話にしてようやくメインヒロインが初デュエル披露という……物語の構成は計画的に!(プロットさえ書いた事ない)
そして自分で書いていて、「作者は鷲津に何か恨みでもあるんか?」と言うくらい鷲津が酷い事にww 実は某ラノベの噛ませ犬キャラがモデルなんです。ヒントは『ジャンケンで決めよう!』。
本文中の
4枚の手札に目を通しながら、アマネは思案する。←この時の手札は
【ヴァンパイアジェネシス】
【ヴァンパイア・ソーサラー】
【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】
【ヴァンパイアの領域】
でした! 軽い事故ですね(笑)ドローしたのが【領域】だったのですが【LV8】のせいで腐り、ちょっとピンチだったのです。
その後のラストターン、手札を全部使いきってフィニッシュまで持っていく流れは我ながら上手く書けたかなぁと思っています(*´∀`)【帝国】がデッキの【ヴァンパイア】も落とせる効果で本ッッッ当に良かった!
ではでは、また次回! 今年は最低月1更新は目指していきたいなぁ~。