遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

24 / 55

 ダーク鬼塚だった頃のお前は、もっと輝いていたぞ!

 冗談はさておき、お久しぶりです。2ヶ月ぶりです。なんたるていたらく!!

 セツナ vs ルイくん、(執筆期間的な意味で)ついに決着です!!



TURN - 24 GIANT KILLING

 

「……先輩は、その…………決闘(デュエル)(きら)いになったり、()めたいって思った事とか……ありますか?」

 

 

 

 いつだったか。ルイくんがボクに、そう尋ねてきた事があった。選抜試験の本番に備えて近所の公園で彼の決闘(デュエル)の特訓に付き合っていた時だったのは覚えてる。

 何度か相手をした後、休憩を取ってベンチに隣り合わせで座って缶コーヒーを飲んでいたら、そんな質問をされたんだ。

 

 ボクがキョトンとしていると、ルイくんは何を思ったか急にアタフタし始めた。

 

 

 

「あっ! す、すいません変なこと訊いちゃって……忘れてくださ──」

 

「あるよ」

 

「えっ……ええっ!?」

 

 

 

 よっぽど意外だったみたい。まぁそうだろうね、今のボクは普通に決闘(デュエル)だいすきっ子だし。

 

 ルイくんから視線を外して、ボクは続けた。

 

 

 

「嫌いにもなったし、辞めようとも思った。でも結局、ボクは決闘(デュエル)から離れられなかったなぁ……」

 

 

 

 ベンチの背もたれに寄りかかって、しみじみと語る。ふと目線を上にやれば、澄み切った青空が広がっていた。

 

 

 

「ま、今はもう受け入れてるし、むしろそのおかげでジャルダンの皆と出会えたわけだしね」

 

 

 

 再びルイくんと目を合わせ、彼の頭を優しく撫でる。

 

 

 

「ルイくんもそうだし、アマネやマキちゃん、コータにケイくん。他にもたくさんの友達に恵まれて、毎日決闘(デュエル)を楽しめて。──ボクは幸せだよ。だから決闘者(デュエリスト)として生きる道を選んだ事は、何も後悔していない」

 

「先輩……」

 

「ごめんね。ルイくんの聞きたい答えじゃなかったかも」

 

「い、いえ、ありがとうございました! それに……嬉しいです。僕も、先輩と出会えて本当に良かった……」

 

「ッ……カワイイ」

 

「えっ?」

 

 

 

 (たま)らず顔に手を当てて身悶える。もう人目を(はばか)らず抱き締めてやろうかと思ったけど、ルイくんが困っちゃうだろうから()めといた。

 

 

 

「それで、ルイくんは? 決闘(デュエル)やめたいなーって思った事あるの?」

 

「…………はい……僕、昔から全然勝てなくて、ケイちゃんみたいな才能も無いし、向いてないのかなって……」

 

 

 

 ポツリポツリと落ち込んだ声で胸の内を明かすルイくん。ずっと芽が出ないまま、(つら)い思いをしてきたんだね……。

 

 ルイくんは自分のデュエルディスクに差していたデッキを抜き取ると、両手で大事そうに握り締めた。

 

 

 

「諦めようとも思ったんですけど……やっぱり僕も……デッキは手放せませんでした……」

 

「…………」

 

「僕は……強くなりたいんです……! いつまでもケイちゃんに守られてばかりなのは嫌だ……! 僕だって強くなって、ケイちゃんが誇れる様な立派な決闘者(デュエリスト)になりたいんです!」

 

 

 

 ルイくんの秘めていた激情が、(せき)を切った様に(あふ)れ出した。

 

 この時の彼は、決闘者(デュエリスト)ならば誰もが通るであろう『道』の、真っ只中に立っていた。

 

 人間どんな事でも初めは初心者。決闘(デュエル)だって、──カナメみたいな例外はあるけれど──最初から勝てていた決闘者(デュエリスト)なんてそうそういない。

 負けて、悔しい思いをして、それでも敗北から何かを学んで、また挑戦する。

 そうやって努力と実戦経験を積み重ねていく事で、決闘者(デュエリスト)は少しずつ強くなっていくんだ。

 

 ただ、なかなか成果が出ないと成長が実感できなくて挫折し、そのまま道半(みちなか)ばで諦めてしまう人も多い。

 そこで歩みを止めずに前に進めるかどうかが分かれ目になるわけだけど。

 

 でも──

 

 

 

「ルイくんなら大丈夫だよ」

 

 

 

 ボクはデッキを握るルイくんの小さな手の上に、そっと両手を重ねた。

 

 

 

「……先輩……?」

 

「ルイくんは必ず強くなれる。ケイくんだって言ってたじゃん、君は弱くないって」

 

 

 

 上を目指す向上心、勝利への渇望、そして何より、決闘(デュエル)を愛する心が消えていないのなら。

 

 

 

「だってルイくんは、ボクよりも……誰よりも決闘(デュエル)が大好きなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──初日から激戦が繰り広げられた選抜デュエル大会1日目が終了し、日付が変わって今日は2日目。まもなく予選2回戦の幕が上がろうとしていた。

 

 ボクとルイくんはD-ブロックの会場である第4決闘(デュエル)フィールドで顔合わせをした。

 

 

 

「……約束を果たしに来ました。セツナ先輩」

 

「待っていたよ、ルイくん」

 

 

 

 ……うん。昨日(きのう)と違って、会場の空気に()()されている感じはしない。どうやら腹は(くく)った様だね。

 

 

 

「兄貴ィィーッ!! ファイトだぁーっ!!」

 

「ケイちゃん、ありがとう~!」

 

 

 

 おぉ。ケイくんの声援にも、ちゃんと手を振って応えられてる。

 

 

 

「……先輩……決闘(デュエル)の前に、ひとつだけ……いいですか?」

 

「ん、なんだい?」

 

「あの、どうしても最初にお礼を言いたくて……。僕……正直この大会で、本当に先輩と闘えるなんて思ってなかったんです……出来たら良いなぁ、くらいにしか……」

 

「……」

 

「でも……そんな僕の為に先輩は特訓に付き合ってくれて、皆も応援してくれて……そのおかげで僕は昨日(きのう)金沢(かなざわ)さんに勝つ事が出来ました」

 

「あれはルイくんの実力だよ」

 

「いえっ、僕ひとりだったらきっと諦めてました……皆が支えてくれたからこそ勝てたんです。本当に……ありがとうございました」

 

 

 

 にこやかな笑顔を浮かべて、ルイくんはボクに右手を差し出した。

 

 

 

「そして今日、僕は憧れのセツナ先輩に……僕の全てをぶつけます!」

 

「……フフッ、ルイくんも成長したね。良いよ……かかっておいで!」

 

 

 

 ボクも微笑みながらルイくんの手を取り、固い握手を交わす。

 

 

 

「楽しい決闘(デュエル)をしよう!」

 

「はい!」

 

 

 

 お互いに所定の位置に着いて向かい合う。1試合目の開始時刻の午前10時まで後1分。

 

 ボクはホワイトタイプのデュエルディスクを、ルイくんはグリーンタイプのデュエルディスクを、同時に展開した。

 

 さぁ……始めようか!

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 ルイ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 とうとう実現した、ボクとルイくんのガチンコバトル。観客もノリ良く歓声を上げてくれている。

 

 

 

「行けぇぇーっ!! 兄貴ィィーッ!!」

 

「僕の先攻です!」

 

(……【バニーラ】、僕に(ちから)を貸して!)

 

「僕は……モンスターを裏守備表示でセット! さらにカードを2枚伏せて、ターン終了です!」

 

「ボクのターンだね。ドロー!」

 

(あの守備モンスター……【バニーラ】かな?)

 

「ボクは──【フェアリー・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 1100

 

 

 

「バトル! 【フェアリー・ドラゴン】で、守備モンスターを攻撃!」

 

 

 

 竜の妖精が突進し、特に妨害も無くダメージステップに突入。攻撃対象となった裏側表示のカードが反転して、その正体を現す。

 

 

 

【バニーラ】 守備力 2050

 

 

 

「守備モンスターは【バニーラ】! 守備力は2050です!」

 

(でも、先輩がその事に気づいてない筈がない……!)

 

(やっぱりね!)

 

「おっと! それならボクはここで速攻魔法を発動するよ! 【死角からの一撃】!」

 

「!!」

 

「この効果で【バニーラ】の守備力を、【フェアリー・ドラゴン】の攻撃力に加える!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 1100 + 2050 = 3150

 

 

 

「【バニーラ】の守備力を越えられた……!」

 

「行け! 【フェアリー・ドラゴン】!」

 

 

 

 パワーアップした【フェアリー・ドラゴン】の体当たりが決まり、【バニーラ】は吹っ飛ばされた。なんか小動物を攻撃するのって罪悪感あるなぁ。

 

 

 

「うぅ……!」

 

「……ルイくん。ボクにとってルイくんは、可愛い後輩でもあり大切な友達だよ」

 

 

 

 それはもう、お持ち帰りしたいくらい……おっと何でもない。

 

 

 

「でもそれと勝負は別。ボクにもこの大会で勝ち進みたい理由があるからね。手加減なしで行かせてもらうよ!」

 

「……!」

 

(本気だ……先輩は、全力で僕と闘ってくれてる……!)

 

「……望むところです! (トラップ)発動、【エンジェル・リフト】!」

 

「おっ?」

 

「墓地から【バニーラ】を復活させます!」

 

 

 

【バニーラ】 攻撃力 150

 

 

 

「……フッ」

 

(良い()()してるよルイくん。やっぱり金沢くんに勝った事で、一皮()けたみたいだね)

 

「そうこなくっちゃ。ボクはカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 3150 → 1100

 

 

 

「わざわざあんなザコモンスターを場に戻して、なに考えてんだ?」

 

「やっぱランク・Eなんかじゃ相手にならなそうだな」

 

「……グギギギッ……!」

 

()えろ俺……! 兄貴の念願の決闘(デュエル)を邪魔するわけにはいかねぇ……!)

 

「へっ、見てな……こっから兄貴の巻き返しだぜ!」

 

 

 

「──僕のターンです! ……すぅ……ハァ……」

 

(落ち着いて僕……誰に何を言われても……僕は僕のやるべき事を、僕の決闘(デュエル)をやればいい! 冷静に、次の一手を考えるんだ……!)

 

「僕は……魔法(マジック)カード・【スケープ・ゴート】を発動します!」

 

「!」

 

「この効果で、4体の【羊トークン】を生み出します!」

 

 

 

 ルイくんのフィールドに丸くて小さい羊が4体も生成された。

 赤・青・黄・ピンクと1匹ずつ毛色が異なり、眠っているかの様な安らかな表情で、ふわふわと浮かんでいる。

 

 

 

【羊トークン】 守備力 0

 

【羊トークン】 守備力 0

 

【羊トークン】 守備力 0

 

【羊トークン】 守備力 0

 

 

 

 ……ん? 何やら観客席が騒がしいな。

 

 

 

「アホかあいつ? 普通【スケープ・ゴート】は相手のバトルフェイズに使うもんだろ」

 

「自分のターンで使ったら、デメリット効果で他のモンスターを召喚できなくなるってのに」

 

「カードの正しい使い方も理解できてねーのか? さすが最弱のランク・Eだな(笑)」

 

 

 

 ……聞こえてきたのはルイくんのプレイングを冷笑した非難の声。ヤバイなー……何がヤバイって、(おも)にケイくんが。

 

 

 

「んぐぐぐぐぐぐぐぐっ……ッ!!」

 

 

 

 ほら、ここから見ても分かるくらいに怒髪天を突いてる。暴れ出す事はないと信じたいけど、ストッパー(アマネ)も居ないしなぁー。見ていておっかないよ。

 

 今ルイくんを笑った人達、自分の幸運に感謝しなよ? ケイくんが我慢してくれてるおかげで、現在進行形で命拾いしてるんだから。

 

 

 

「あらら、言いたい放題に言われちゃってるねぇ~。でも……これで終わりじゃないでしょ? ルイくん」

 

 

 

 当のルイくんはと言うと、そんな周囲の批判に動じる事なく、真っ直ぐにボクを見据えていた。メンタルもだいぶ鍛えられた様だ。

 

 

 

「はい……行きます! リバースカード・オープン! 【トークン謝肉祭】!」

 

「!」

 

「この(トラップ)は、トークンが特殊召喚された時に発動します。フィールドのトークンを全て破壊し、相手に破壊した数 × 300ポイントのダメージを与えます!」

 

「くっ!?」

 

 

 

 羊トークンが全て消滅し、【トークン謝肉祭】のカードの立体映像(ソリッドビジョン)から光線が放射され、ボクに直撃した。

 

 

 

「うわあぁっ!! ッ……!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 2800

 

 

 

「や、やった……決まった!」

 

「よっしゃあっ!! いいぞ兄貴ィ!!」

 

 

 

 ボクのライフが減少した途端、またもや観客がざわめき始めた。だが今度は、さっきまでとは真逆の反応だ。

 

 

 

「お、おいマジかよ!? ランク・Eのくせにあの総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)に……」

 

「先制したっ……!?」

 

「トークンにあんな使い方があったのかよ!?」

 

 

 

 どんなもんだい! ルイくんは凄いだろう!? って、やられてるボクが得意げになるのも変か。

 

 さぁてルイくん。観客の度肝を抜いたところで、お次は何を見せてくれるのかな?

 

 

 

「……僕は【バニーラ】を守備表示に変更して……」

 

 

 

【バニーラ】 守備力 2050

 

 

 

「1枚カードを伏せてターンエンドです!」

 

「ボクのターン! ……おっ、良いところに来てくれるね。【ミンゲイドラゴン】召喚!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

「さらに【二重召喚(デュアルサモン)】発動! これで二度目の召喚権を得た」

 

「まさか……!」

 

「そのまさかだよ。ボクは【ミンゲイドラゴン】を、2体分としてリリース!」

 

(来る……先輩のエースモンスターが!)

 

「出ておいで! 【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「ッ……!」

 

「今度の攻撃は強烈だよ? 防ぎ切れるかな!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】は翼を(ひるがえ)しながら、口腔に光を集めて攻撃態勢に入る。

 

 

 

「【ラビードラゴン】で【バニーラ】を攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 夢のウサギさん対決だ! 【ラビードラゴン】が【バニーラ】に向けて光線を──

 

 

 

「わっ、わ、わっ! えーっと、リバースカード発動です! 【スーパージュニア対決!】」

 

「!?」

 

「【ラビードラゴン】の戦闘を無効にします!」

 

 

 

 ……放たず、に、口の中で静かに光を消滅させて、攻撃をキャンセルした。長い耳をショボンと垂らして、ちょっと残念そう。

 

 

 

「へぇ、これを防ぐんだ。やるじゃん」

 

「まだです! その後、先輩の場の一番攻撃力が低い攻撃表示モンスターと、僕の場で一番守備力の低い守備表示モンスターで戦闘を行います!」

 

「なんだって!? という事は……!」

 

 

 

 今、ボクのフィールドで最も攻撃力が低いのは【フェアリー・ドラゴン】……!

 

 

 

「僕の場のモンスターは1体だけ……【バニーラ】と【フェアリー・ドラゴン】でバトルです!」

 

「げっ!」

 

 

 

 【フェアリー・ドラゴン】が勝手に動き出して、強制戦闘を開始する。

 しかし【バニーラ】の強固な守備力には歯が立たず、あの柔らかそうなまん丸ボディに、タックルを跳ね返されてしまった。

 

 

 

「あちゃ~、そう来たかぁ」

 

 

 

 セツナ LP 2800 → 1850

 

 

 

「バトルフェイズは終了だね。ボクはこれでターンエンド……ん?」

 

 

 

 何やら【バニーラ】がひどく嬉しそうに、短い両手(前足?)をパタパタさせながら飛び跳ねて、ルイくんに何かアピールしている。なんだこの生き物、可愛すぎでは。

 

 

 

「あはは……【バニーラ】は活躍できて嬉しいみたいです。──わっ!?」

 

 

 

 急に【バニーラ】がルイくんに飛びついた。ルイくんはビックリしながらも上手く抱き止める。

 

 

 

「もう、嬉しいのは分かるけどはしゃぎ過ぎだよ。よしよし」

 

 

 

 【バニーラ】の頭を撫でながら幸せそうに顔を(ほころ)ばせるルイくん。

 

 なんだこれぇぇぇぇぇっ!!!!

 ただでさえ可愛いルイくんが可愛いモンスターをもふもふなんてしたら可愛さ2倍どころか可愛さの天元突破でもはやこの世の天国が広がってるんですけどぉぉぉぉっ!?

 

 ダメだもう可愛いを通り越して(とうと)い。尊いが過ぎて浄化されて昇天しそう。

 え? なに? 死ぬの?(ボクが)

 

 ル イ く ん マ ジ 天 使 !!

 

 

 

「あっ、ご、ごめんなさい僕のターンですね! ほら戻って、【バニーラ】」

 

「……ルイくんはもうちょい自分の可愛さを自覚してほしい……」

 

「?」

 

 

 

 また可愛らしく小首を傾げて……くっ、ダメだダメだ! 気を取り直せボク! 危うくルイくんのペースに呑まれるところだった。今回の相手は色々な意味で恐ろしい強敵だな。

 

 

 

(【ラビードラゴン】……こうして向かい合うと、すごい迫力……! さっきは何とか凌げたけど、このターンでどうにかしないと……!)

 

「ど……ドローです!」

 

(──! やった、これなら……!)

 

魔法(マジック)カード・【光の()(ふう)(けん)】を発動します!」

 

「!」

 

 

 

 上空からいくつもの光の(けん)が降り注ぎ、ボクのフィールドを制圧してドラゴン達の動きを止めた。

 

 

 

「これで先輩は3ターンの間、攻撃宣言が出来なくなります!」

 

「ここで【光の護封剣】か……大した引きだね」

 

「……カードを1枚セットして、ターンを終了します」

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 【光の護封剣】がある限り、ボクのモンスターは動けない……。

 

 

 

「【フェアリー・ドラゴン】を守備表示にして、ターンエンド!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 守備力 1200

 

 

 

 ボクのエンド宣言と同時に光の剣が何本か消失した。

 

 残り2ターン。

 

 

 

「僕のターンです……ドロー!」

 

(……!)

 

「永続魔法・【凡骨(ボンコツ)の意地】を発動します! ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、そのカードを相手に見せる事で、もう1枚ドローできます」

 

 

 

 通常モンスター中心のルイくんのデッキには、おあつらえ向きのカードだね。

 

 

 

「ボクのターン、ドロー! ──【デビル・ドラゴン】召喚!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「……ターンエンド」

 

 

 

 光の剣の数がさらに減っていき、もう片手で数えられる程度しか残っていない。

 

 ……残り1ターン。次のボクのターンが終われば、【光の護封剣】の効果は切れる。そうなれば、ボクのモンスター達の総攻撃がルイくんを襲う。

 

 

 

(どうする? ルイくん)

 

「僕のターン……ドロー!」

 

(──来た!)

 

「僕が引いたのは【ウェザー・コントロール】! 通常モンスターです! 【凡骨の意地】の効果でもう1枚ドロー!」

 

 

 

 さすが。引くべきところで引いてくる。デッキがルイくんの想いに応えてくれているんだ。

 

 

 

(トラップ)カード・【凡人の施し】! デッキから2枚ドローして、手札の通常モンスター1枚を除外します! 【ウェザー・コントロール】を除外!」

 

 

 

 手札(ゼロ)の状態から、一気に3枚も補充してきた……!

 

 

 

「……魔法(マジック)カード発動! 【迷える仔羊】!」

 

 

 

 ルイくんの場に【スケープ・ゴート】の【羊トークン】と同じ、丸い羊のモンスターが2匹出現した。1匹は真っ白、もう1匹は肌色っぽい色をしている。

 

 

 

【仔羊トークン】 守備力 0

 

【仔羊トークン】 守備力 0

 

 

 

「カードを2枚伏せて……ターンエンドです」

 

 

 

 ──態勢は整えた、って感じかな?

 結局ここまで目立った戦況の変化はなかったけど、ボクの直感が言っている。これは嵐の前の静けさだと。

 

 恐らく【光の護封剣】が消えた次のターンから、息もつかせぬ激しい攻防が始まる……!

 

 

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 いいよルイくん。ボクも真っ向から迎え撃つ!

 

 

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド! そして……このエンドフェイズで【光の護封剣】の効果は終了する」

 

「……!」

 

 

 

 ついに全ての光の剣が消え去り、ようやくボクのモンスターは護封剣の拘束から解き放たれた。

 

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 

 

 引いたカードを見た瞬間、ルイくんの顔つきが変わった。やっぱり仕掛けてくる気満々だ。

 

 

 

「──行きます!」

 

「来い!」

 

「手札から魔法(マジック)カード・【ミニマム・ガッツ】発動! 自分のモンスターを1体リリースし、相手モンスター1体の攻撃力を(ゼロ)にします! 対象は【ラビードラゴン】!」

 

「!」

 

 

 

 【仔羊トークン】の1匹が【ラビードラゴン】に突撃してきた。衝撃で【仔羊トークン】は消し飛び、【ラビードラゴン】は弱体化する。

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950 → 0

 

 

 

「なっ……!」

 

「さらに永続(トラップ)・【暴走闘君(とうくん)】発動! 僕の場のトークンは攻撃力が1000ポイントアップし、戦闘では破壊されなくなります!」

 

 

 

【仔羊トークン】 攻撃力 0 + 1000 = 1000

 

 

 

「【仔羊トークン】を攻撃表示にして──バトルです! 【ラビードラゴン】に攻撃!」

 

 

 

 2匹目の【仔羊トークン】も続けて【ラビードラゴン】へと突貫した。ボクに止める手段はない。そのまま攻撃が通り、【ラビードラゴン】は破壊されてしまう。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

 セツナ LP 1850 → 850

 

 

 

「──【ミニマム・ガッツ】の効果を受けたモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与えます!」

 

「ッ!?」

 

「っしゃあっ! これが決まれば兄貴の勝ちだぁッ!!」

 

「いいや、まだだよ! 速攻魔法・【非常食】! ボクの場にセットされている、もう1枚のリバースカードを墓地に送って、ライフを1000回復する!」

 

「でも……1000ポイントだけじゃ足りませんよ!?」

 

「分かってるさ。チェーンして(トラップ)発動! 【副作用?】!」

 

「!」

 

「カードを1枚から3枚まで、好きな枚数引きなよ。ボクはその数 × 2000ポイント回復させてもらう」

 

「っ……1枚ドローします!」

 

「オーケー。これでボクは合計3000ポイントのライフを得る!」

 

 

 

 セツナ LP 850 → 3850

 

 

 

 ライフポイントが危険域(デッドゾーン)を脱出。直後、【ミニマム・ガッツ】の効果による膨大(ぼうだい)なダメージが、ボクに与えられた。

 

 

 

「うあああああっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 3850 → 900

 

 

 

「ッ……ふう、危ない危ない。(かろ)うじて、ライフを(たも)ったよ……!」

 

「……さすがです先輩……だけど今のドローで、良いカードが引けました!」

 

「えっ?」

 

魔法(マジック)カード・【トークン復活祭】! トークンを全て破壊して、同じ数までフィールドのカードを破壊します!」

 

 

 

 最後の1匹だった【仔羊トークン】が破壊される。

 

 

 

「【デビル・ドラゴン】を破壊!」

 

「うわっ!」

 

 

 

 そして【デビル・ドラゴン】も除去され、ボクの場には守備表示の【フェアリー・ドラゴン】1体が残るのみとなった。

 

 

 

「ターンエンドです!」

 

 

 

 まさかいきなりゲームエンドに持っていこうとするなんてビックリしたよ。それにトークンをここまで巧みに使いこなすとは、やるね。しかも【バニーラ】を立ててボクの反撃にも備えてる。抜かりないプレイングだ。

 

 

 

「……あはっ、面白くなってきた!」

 

「──!」

 

 

 

 ボクはメガネを外して集中力を全開にする。

 やっぱり体力を温存しながら勝とうなんて甘かった。

 

 

 

(ついに先輩がメガネを……ッ……なんて気迫……! これが先輩の真の姿……!)

 

「ボクのターン! ドロー!」

 

(……【ドラゴニック・タクティクス】か……)

 

 

 

 これを使うにはドラゴンが2体必要。となると……賭けに出るしかなさそうだね!

 

 

 

「ボクは手札から魔法(マジック)カード・【モンスター・スロット】を発動!」

 

 

 

 カードのイラストに(えが)かれている緑色の怪物が出現した。

 

 

 

「この効果で、ボクはレベル4の【フェアリー・ドラゴン】と同じレベルのモンスターを墓地から除外!」

 

 

 

 墓地に眠るレベル4モンスター・【デビル・ドラゴン】を取り除く。

 すると、【モンスター・スロット】の怪物の大きな目がスロットのリールを投影し、それを回転させる。

 直後、最初に停止した左のリールには、効果の対象に選択した【フェアリー・ドラゴン】が。次に停止した中央のリールには、除外した【デビル・ドラゴン】が表示された。

 

 

 

「そして、デッキから1枚ドローして、そのカードが同じレベル4のモンスターだったら、特殊召喚できる!」

 

 

 

 頼んだよ、ボクのデッキ。

 

 

 

「ドロー! ──よし!」

 

 

 

 スロットの右端のリールが止まる。映し出された図柄は、レベル4の【エレメント・ドラゴン】。

 

 

 

【エレメント・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「さらに【ドラゴニック・タクティクス】発動! ボクの場の2体のドラゴンをリリースして、デッキからレベル8のドラゴンを特殊召喚する!」

 

 

 

 【フェアリー・ドラゴン】と【エレメント・ドラゴン】が巨大な竜を(かたど)ったチェスの(コマ)へと姿を変えた。そしてこの二つの駒が光に包まれていく。

 

 

 

「現れろ! 【トライホーン・ドラゴン】!!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「セツナ先輩の……2体目のエース……!」

 

「バトルッ! 【トライホーン・ドラゴン】で、【バニーラ】を攻撃!! 『イービル・ラセレーション』!!」

 

 

 

 悪魔の竜が【バニーラ】目掛けて鋭い爪を振り下ろす。そう、悪魔だから小動物に対しても情け容赦が一切(いっさい)ないのだ。

 大丈夫だよ痛いのは一瞬だけだから! 【トライホーン】、せめて一思いにお願いします!

 

 

 

「──リバースカード・オープン! (トラップ)カード・【好敵手(とも)の記憶】!!」

 

「ッ! そのカードは!?」

 

「そうです。先輩が……僕に譲ってくれたカードです!」

 

 

 

 数日前──

 

 

 

「ルイくん、これあげる」

 

「えっ……? い、良いんですか!?」

 

「うん。そのカードはきっと、ルイくんの役に立つと思う」

 

「あ……ありがとうございます!! 大切に使わせてもらいますね!」

 

(先輩からカードを貰えた……嬉しい……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──【好敵手(とも)の記憶】の効果! 相手の攻撃モンスターの、攻撃力分のダメージを受けます!」

 

 

 

 【トライホーン】の爪は【バニーラ】をすり抜け、後ろに立っていたルイくんを貫いた。

 

 

 

「うわぁっ!!」

 

 

 

 ルイ LP 4000 → 1150

 

 

 

 やっとルイくんのライフを減らせた。だけどこれは……!

 

 

 

「くぅ……! ……そして、そのモンスターを除外します!」

 

「!」

 

 

 

 せっかく(バク)()を打ってまで呼び出した【トライホーン】が早くも退場させられてしまった。

 

 

 

「この効果で除外されたモンスターは、次の相手ターンのエンドフェイズに、僕の場に特殊召喚されます!」

 

「……やっぱり……君は凄いよ……!」

 

(今まではダメージを恐れて保守的なプレイングしか出来なかったルイくんが、自分のライフを犠牲にしてまで攻められる様になってる……!)

 

 

 

 なんだろう、胸が熱くなる。テンションが上がる。集中力が極限まで高まっていって、気持ちがハイになる!

 こんな……攻撃はことごとく防がれて、ライフポイントも残り少ない……一瞬の油断が命取りになるギリギリの状況なのに……!

 

 

 

「──楽しいね! ルイくん!!」

 

「はい! ──先輩!!」

 

 

 

 ボクもルイくんも、笑っていた。他の事なんて何も考えられないくらいに、この決闘(デュエル)を笑顔で楽しみ、全神経を(そそ)いで奮闘していた。

 互いに一歩も退()かない真剣勝負。終わってほしくないとさえ思う自分がいた。

 

 

 

「……兄貴が……あんなに燃えてる……! ッ……! ガンバレェェーーーッ!! 兄貴ィィィィィッ!!!」

 

 

 

「ボクは魔法(マジック)カード・【超再生能力】を発動! このターン中に手札から捨てたかリリースしたドラゴン族の数だけ、デッキからカードをドローする! ボクは【ドラゴニック・タクティクス】の効果で2体リリースしたから2枚ドロー! ……これでターンエンドだよ」

 

(先輩の場にはリバースカードも無い……今がチャンスです!)

 

「僕のターン、ドロー! ──【マジック・プランター】発動! 【暴走闘君】を墓地に送って、2枚ドローします!」

 

 

 

 ルイくんもドロー増強か……ボクの頬に冷や汗が伝った。今度は何が来る?

 

 

 

「……! 先輩、この決闘(デュエル)……僕の勝ちです!!」

 

「!?」

 

「【バニーラ】を攻撃表示!」

 

 

 

【バニーラ】 攻撃力 150

 

 

 

「そして、これで決めます! 魔法(マジック)カード発動! 【トライアングルパワー】!!」

 

 

 

【バニーラ】 攻撃力 150 + 2000 = 2150

 

 

 

「ッ! 攻撃力が2000ポイントもアップした!?」

 

「先輩のフィールドはガラ空き! この攻撃で、勝負アリです!」

 

 

 

 急激にパワーを増した【バニーラ】が、全速力でこちらに突っ込んでくる。ボクのライフは僅か900。食らったらひと溜まりもない。

 

 

 

「今度こそ兄貴の勝ちだっ!!」

 

「まだまだ! こんな熱い決闘(デュエル)、簡単には終わらせない! 手札から(トラップ)カード・【タイフーン】を発動!」

 

「て、手札から(トラップ)を!?」

 

 

 

 ルイくんは驚愕に目を見開いた。荒れ狂う暴風が、フィールド上で猛威を振るう。

 

 

 

「【タイフーン】は相手の場に魔法(マジック)(トラップ)カードが2枚以上あり、自分の場には存在しない時、手札から発動できる! フィールドの表側表示の魔法(マジック)(トラップ)カード1枚を破壊する! ボクは【エンジェル・リフト】を破壊!」

 

「しまっ……!」

 

 

 

 【エンジェル・リフト】のカードが吹き飛ばされた事で、その効果で蘇生していた【バニーラ】も一緒に破壊される。

 

 

 

「くっ……!」

 

(【バニーラ】……ここまで頑張ってくれて、ありがとう……!)

 

「ダァーッ! くそっ、惜しい! けどまだ行けるぜ兄貴!」

 

「僕はカードを1枚伏せてターンエンドです!」

 

(場がガラ空きでも攻撃を止めてくるなんて、先輩の決闘(デュエル)は本当に先が読めない……でも……だからこそ面白い!)

 

「……ボクのターンだね……」

 

「はい……この先輩のターンが終われば、【好敵手(とも)の記憶】の効果で、【トライホーン・ドラゴン】が僕の場に復活します」

 

 

 

 そうなったらボクの勝ち目は薄くなる……いや、このターンで何も出来なかったら、もうその時点で敗北は確定的だと言わざるを得ない。

 ドローする前に、1枚だけある自分の手札を見る。残念ながら、現状では全く使い道のない()(ほう)カードだった。

 ……あれ? これってもしかして……詰んでる?

 

 

 

(ヤッバ……ルイくん強すぎ……!)

 

 

 

 絶体絶命、その四文字が頭を(よぎ)る。

 ルイくんの成長速度は、ボクの予想を遥かに超えていた。

 誰がどう見ても不利に追い込まれているのはボクの方だ。散々ルイくんに後ろ指を指していた観客達も、すっかり彼を見る目が変わっていた。

 

 

 

「す、スゲー! あのチビ、マジで勝っちまうぜ!?」

 

「本当にあいつランク・Eかよ!?」

 

「昨日ランク・Cに勝てたのはマグレじゃなかったってのか!?」

 

 

 

「……へっ、へへへ……! 見たかっ!! これが俺の兄貴の……(いち)()() ルイの実力だぁ!! 覚えとけッ!!」

 

(セツナの(あに)さんは間違いなく全力だ。だが兄貴がそれを上回っているんだ!)

 

 

 

 カードを引こうとデッキに手を伸ばした時、ボクは異変に気づいた。

 

 

 

(っ……! 手が……震えてる……)

 

 

 

 ……悔しいけど、認めるしかないね……。ボクはビビってる。

 真価を発揮したルイくんに、恐怖を感じているんだ。

 

 なら……その恐怖を乗り越えてやろうじゃないか!

 

 

 

「──ッ! ドロォーッ!!」

 

 

 

 震える手を無理矢理に動かして、一呼吸で勢いよくカードを引き抜いた。

 うぅ~っ、目を開けるのが怖い!

 恐る恐るドローしたカードを横目で確認する。

 

 

 

(!!)

 

 

 

 この……カードは……!

 

 

 

「……フッ、ははっ、ははははっ!!」

 

「!」

 

(先輩のこの笑い方、見覚えがある……初めて会った時と同じ……まさか!?)

 

「はは……本当に強くなったね、ルイくん。君に敬意を(ひょう)して、見せてあげるよ。ボクのデッキの……()()()切り札(エース)をね!!」

 

「──!! よ、4枚目!? まだ切り札を持っていたんですか!?」

 

「そう。ボクのデッキには【ラビードラゴン】、【トライホーン・ドラゴン】、【ダークブレイズドラゴン】を含む、全部で5枚のエースカードが入っているのさ!」

 

「5枚の……エース……!」

 

 

 

 デッキが託してくれた最後の希望、無駄にはしない。切実に()(ごり)惜しいけど、このターンで決着をつける!

 

 

 

「でも今の先輩に上級モンスターの召喚なんて……あっ!?」

 

「気づいたみたいだね。墓地の【ミンゲイドラゴン】の効果を発動! 自分のスタンバイフェイズに自分フィールドにモンスターが存在しない時、自身を特殊召喚できる!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

「そして再び【ミンゲイドラゴン】を、モンスター2体分としてリリース!」

 

 

 

 ()(ばゆ)い閃光が【ミンゲイドラゴン】を包み込んでいく。

 

 

 

「──【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を、アドバンス召喚!!」

 

 

 

 (きら)びやかな光と共に降臨したのは、紫がかった白い体躯に神秘的な輝きを纏う、美しい竜だった。

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500

 

 

 

「わぁ……綺麗……!」

 

「これで、チェックメイトだ!! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】、ルイくんに直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『シャイニング・ファイヤー・ブラスト』!!」

 

 

 

 神聖な力を秘めたドラゴンの口から、白く燃え盛る炎が放たれた。

 

 

 

「兄貴ィ!?」

 

「……先輩の言ってた通りでした。僕、やっぱり決闘(デュエル)が大好きです! だから……勝ちたい!! (トラップ)発動! 【ドレインシールド】!!」

 

「!」

 

「攻撃を無効にして、その攻撃力の数値だけ、自分のライフを回復します!」

 

 

 

 半透明のバリアが炎を防御してルイくんの身を守った。

 

 

 

 ルイ LP 1150 → 3650

 

 

 

「やった、防ぎ切れました! これで僕の──」

 

「それはどうかな?」

 

「!?」

 

「ルイくんの全力、確かに受け止めたよ! 手札から速攻魔法発動! 【ダブル・アップ・チャンス】!!」

 

「──ッ!」

 

「モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を倍にして、二度目の攻撃を可能にする!」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500 → 5000

 

 

 

「す……すごい……!」

 

(やっぱり……強くてカッコいいなぁ、先輩は……。僕もいつか、セツナ先輩みたいな決闘者(デュエリスト)に……)

 

「今度こそチェックメイトだ!! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】!!」

 

 

 

- シャイニング・ファイヤー・ブラスト!! -

 

 

 

 一撃目よりも威力が倍加された聖なる炎によって、この激戦にとうとう──終止符が打たれた。

 

 

 

「ッ…………!!」

 

 

 

 ルイ LP 0

 

 

 

 決闘(デュエル)の終了と同時に大歓声が沸き起こった。ボクは勝てた……のか……。

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

 

 気が緩んで我に帰ると、凄い汗をかいていたし、ドッと疲れが出てきた。それだけの熱戦だったんだね。

 

 ルイくんを見てみると、女の子座りで床に……あれれー? おかしいぞ~? 女の子座りって男子の骨格だと出来ないんじゃなかったっけー???

 

 

 

「立てる?」

 

 

 

 手を差し伸べる。ルイくんは項垂れていた頭を上げて、ボクの手を掴んで立ち上がった。

 

 

 

「……えへへ……負けちゃいました。もう少しだと思ったんですけどね……」

 

「今回はボクの運が良かっただけだよ。もう何度も負けると本気で思ったもん」

 

「でも……っ……今の僕の全部を出し切れたので、悔いはないです」

 

 

 

 目尻に涙を浮かべて今にも泣きそうなのを堪えながら、ルイくんは頑張ってボクに笑顔を向けた。

 

 

 

「負けたのに気分が良いなんて、こんな気持ち、初めてです……。対戦ありがとうございました、セツナ先輩」

 

「……うん。ボクの方こそ、ありがとう。本当に心の底から楽しい決闘(デュエル)だったよ!」

 

 

 

 冗談抜きで、ここ最近の決闘(デュエル)の中で一番楽しかった。

 

 そうだ、これだから決闘(デュエル)は辞められないんだ。

 

 

 

「……凄い見応えのある決闘(デュエル)だったな」

 

「あぁ、どっちが勝ってもおかしくなかったぜ」

 

 

 

 どこからか、パチパチと手を叩く小さな音が。それは徐々に大きくなっていき、やがて、盛大な拍手となった。

 

 

 

「いい決闘(デュエル)だったぞー!!」

 

「やるじゃねぇか!」

 

「えっ……え?」

 

「……もうルイくんをバカにする奴はいないよ。君は自分の強さを、自分自身で証明したんだ」

 

「……~~~~ッ!」

 

 

 

 おっと、そろそろ涙腺(るいせん)が限界かな?

 

 

 

「せんぱぁぁぁあい!!」

 

「あはは。良かったね、ルイくん」

 

「兄貴ィィィィィッ!! 最高だったぜぇぇぇぇえっ!!!」

 

 

 

 兄弟そろって号泣しちゃって。

 ボクは観客席に手を振りながら、ルイくんは何度も何度も頭を下げながら、大健闘を讃える拍手に見送られて会場を後にした。

 

 

 

 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)・予選2回戦──突破!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ここで一度、時間はセツナとルイが接戦を繰り広げた1試合目の、開始直前まで遡る。

 

 時を同じくして、遠く離れた第14決闘(デュエル)フィールドでは、N-ブロックの予選が始まろうとしていた。

 

 会場の決闘(デュエル)コートに立っているのは、長く伸ばした黒髪に赤色のメッシュが入った美少女と、ベージュ色のマッシュヘアが特徴の、整った顔立ちの青年。

 

 

 

「フフフッ……『元・十傑(じっけつ)』のこの僕に勝てるかな?」

 

「勝たせてもらうわ。こんなところで立ち止まるわけにはいかないの」

 

 

 

 N-ブロック1試合目──黒雲(くろくも) 雨音(アマネ) vs (わし)() 秀隆(ひでたか)

 

 ──デュエル・スタンバイ!

 

 

 

 





 長かった……書きたい展開が多すぎて今まで以上に時間がかかりました。大変お待たせ致しました。

 一応解説を。セツナが【ラビードラゴン】を召喚したターンに【超再生能力】を使わなかったのは、その時まだ手札になかったからです。引いたのは次の、【フェアリー・ドラゴン】を守備表示にして終了したターンのドローフェイズでした。

 話の中でセツナが「ここ最近で一番楽しいデュエルだった」と語っていますが、作者自身も今までで一番書いてて楽しかったです!
 やはり互いが全力で闘い合って、勝っても負けても後腐れのないデュエルというのは、観るのもやるのも楽しいものですね(*´・ω・`)b

 現在、作中で誰よりも著しい成長を遂げているルイくん。惜しくも大会は敗退してしまいましたが、彼の今後に期待です。

 次回はようやく、アマネのデュエル初披露の回になります!
 感想や評価などお待ちしております(*´∀`)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。