遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum - 作:箱庭の猫
1ヶ月ぶりです。またまた遅くなりましたー!!( ;∀;)
ルイきゅん vs 金髪のケンちゃん戦、決着です!
『弱肉強食』。
ジャルダン・ライブレという街を形容するには、まさしく
この街は
闘争心を持て余した
いつしかジャルダンは、『
逆に敗者・弱者は、強者に喰われ奪われ、全てを失う。
だからこそ──
「ギャッハッハッハ!! てめぇ
「うぅ……!」
デュエルアカデミア・ジャルダン校が制定した、生徒の
その最下層、ランク・Eに格付けされたルイは、気弱で臆病な性格も災いして、金沢達に目をつけられた。
「おらよっ! 【サイバー・オーガ】でトドメだ!」
「うわあああっ!!」
機械の
ろくな抵抗も出来ず、最後まで良い様に
「おいおい。いくらランク・Eっつっても弱すぎだろ。どんなデッキ使ってんだ? 俺が鑑定してやるよ!」
「あっ……!」
金沢は仲間にルイの身体を抑え込ませて動けなくすると、彼のデュエルディスクから、デッキを乱暴に取り上げた。
「かっ、返してください!」
「うるせぇな! ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ! いいかぁ? 俺は
何とも無茶苦茶な言い分だが、そんな強引な主張も
特に結果を重視する実力主義のアカデミアには、勝てば官軍、負ければ賊軍という考えが深く根付いており、下位ランクの生徒は上位ランクの生徒に逆らえない縦社会が形成されていた。
誰かが言った。弱さとはそれだけで罪である、と。
「……チッ、しけてんなぁ。ろくなカード持ってねぇ」
「お……お願いです……返してください……」
「あぁん?」
「ぐすっ……た、大切なカードなんです……だから……」
涙を流しながら懇願するルイ。彼の
「ほらよ、返すぜっ!」
「!!」
ゴミでも投げ捨てるかの様にして、金沢はルイのデッキを、持ち主の目の前にバラまいた。
そして拘束から解放されたルイは、急いで地面に散らばったカードに手を伸ばす。
だが──ルイの指先が触れる直前で、金沢がそのカードを足で踏みつけてしまった。
「あっ……あああぁ……!」
「ケッ! なぁにが大切なカードだ! 男の腐った野郎みてぇによぉ!」
グリグリと靴底で踏みにじられるカード。ルイは慌てて金沢の足を掴む。
「や、やめてくださ……」
「
「っ!」
金沢は空いている方の足で、
「おー、痛そっ」
「ケンちゃん容赦ねぇ~」
「くくくっ」
固い地面にうつ伏せで倒れ込むルイを、金沢の仲間達は
何人か他の生徒が通りかかったが、イジメの現場を目撃はしても、誰もルイを助けようとはしてくれない。
それどころか、ルイに対して冷ややかな視線を向ける生徒さえ少なくなかった。
学園から最弱の劣等生の烙印を押された生徒に手を差し伸べる者など、一人もいなかったのだ。
「ランク・E風情が気安く触ってんじゃねぇぞ!」
「っ……うぅ……」
「てめぇが弱ぇのが
気が済んだのか飽きたのか、金沢達はゲラゲラと笑いながら立ち去っていった。
後に取り残されたルイは、頭の痛みを堪えながら身体を起こし、金沢に踏まれたカードを拾う。
「みんな……ごめんね……僕が……僕が弱いから……」
自分ひとりが
それでも、
一部では中等部の優秀な弟と比べて、兄のルイを嘲笑する声も聞こえていた。唯一の救いは、その弟が兄を見放さず、味方でいてくれた事か。ルイは無力な自分が酷く惨めに思えて、悔しくて仕方なかった。
1枚1枚、辺りに散乱したカード達を拾い集めるルイの
(僕が……もっと強かったら……)
選抜デュエル大会・予選1回戦──2試合目。
ルイ
「ルイくん……」
最初のターンのプレイングミスが原因で早くもライフを削られたルイくんは、
ボクと同じく、ルイくんにとっても初めて参加する選抜試験。
ただでさえ緊張している上に観客席からの衆人環視という
会場の張り詰めた空気感に飲み込まれている精神状態に、追い討ちをかける様な先制攻撃を受けた事で、ルイくんの心が折れてしまったとしても、不思議ではなかった。
「なんだぁ? もう腰抜かしちまったのか一ノ瀬ぇ?」
「あっ……う……」
「ハン! だったらさっさと
「……!」
ルイくんの視点が左腕に着けられた緑色のデュエルディスクに移る。
サレンダー……敗北を認め、デッキの上に手を置く事で降参の意を示し、自らのライフを
それをしてしまえば、ルイくんは──
「兄貴ィ!! 負けるなァァーーーッ!!!」
「「「 !!!? 」」」
当然そのソウルフルなシャウトは場内に余すところなく響き渡り、ルイくんは
……あぁ、うん。隣に座ってたボクが一番ダメージ大だよ。耳がキーンてするよ。
アマネはケイくんの行動を予測してたのか、耳を塞いで上手く
「……ケイ……ちゃん……」
「この大会でセツナさんと
「……ッ!!」
「あんだとあのデカブツ……!」
……ここはボクもケイくんに
声を張るのは苦手だけど、少しでもルイくんの
ボクは座席から立ち上がって、大きく息を吸った。
「ルイくん!! がんばれ!! ボク達がついてるよ!!」
「……セツナ先輩……!」
「そうよ! まだライフを少し削られただけ! こっから巻き返しよ!!」
「アマネさんも……みんな……!」
(みんなが僕を応援してくれてる……こんな……ランク・Eの……落ちこぼれの僕なんかの事を……)
「おーおー、泣かせるじゃねぇか。だがこいつが立ち直れるわけ……あ?」
ルイくんは床に落としたカードを1枚ずつ拾い上げると、ゆっくりと腰を上げて身体を立たせていく。
(不思議だ……さっきまで頭が真っ白で足も震えていたのに……みんなのおかげで、気持ちが軽くなってきた……)
「……ありがとうございます……」
そうして、彼は立ち上がった。折れかけた心を奮い起こさせて。
デュエルディスクを構え直し、金沢くんと再び対峙する。
「サレンダーは……しません……!」
「……ペッ! てめぇらの
「──ッ!」
「俺はカードを1枚伏せて、ターン
「ぼ……僕のターンです! ど、ドロー!」
「すぅ……ハァ……」
(落ち着いて、僕……とにかくまずは、今の手札で出来る事を探すんだ……!)
「……僕は、モンスターを裏守備表示でセットして……カードを1枚伏せて、ターン、終了です……!」
「へっ、チキン野郎め! チマチマ守備表示とはよ!」
「くぅ……!」
あぁも事ある
「そんじゃ俺のターンだ! フィールドの【サイファー・スカウター】をリリースし、【
【魔導ギガサイバー】 攻撃力 2200
「っ……!」
「バトルだ! 【ギガサイバー】で守備モンスターを攻撃! 『サイバー・スワイプ』!」
攻撃を仕掛けられた
【ブークー】 守備力 500
伏せられていたのはレベル2の通常モンスター。【ギガサイバー】の攻撃力には
「うあっ……!」
「てめぇのデッキにはザコしかねぇのは分かってんだよ! 揃いも揃って使えないゴミカードばかりって事はなぁ!!」
「ッ……」
確かにルイくんのデッキは、レベル3以下のモンスターしか入っていない『ローレベル』デッキ。
単体では非力な低レベルモンスターを、
ルイくんと何度も
「おらぁ! てめぇのターンだぜ! さっさと次のザコを出しな! 出た
「くっ……」
(でも……僕には金沢さんに見せていない戦術がひとつだけ……それに賭けるしかない……!)
「モンスターを伏せて……終了です」
「俺のターン! 【ギガサイバー】! 奴のザコモンスターを蹴散らせ!」
ターンが移ると間髪入れずに攻め込んでくる金沢くん。
次に破壊されたのは、【ウェザー・コントロール】だった。
「僕は……モンスターを守備表示です……!」
「どうしたぁ? 守ってばっかじゃ俺には勝てねぇぜぇ!」
またもや【ギガサイバー】の攻撃が炸裂する。今度は【ララ・ライウーン】が破壊された。
守備表示だから戦闘ダメージを受ける事もなく、何とか凌ぎ切れているけど、いつまで
それにこの会場……敵はどうやら、金沢くんだけじゃないらしい。
「なんだよあいつ? さっきから防戦一方じゃねーか」
「つまんねぇ
「どうやったらあそこまで役に立たないカードばかり集められるんだ?」
「ッ……!」
周囲から浴びせかけられる、心ない
近年のデュエルモンスターズでは、スピード感のある一進一退の攻防や、高度な戦略の応酬、モンスター同士の派手な戦闘などが見栄えも良く、人気が高い。
反面、ルイくんの様なスローペースの
大型モンスターで畳み掛ける金沢くんの豪快な戦術とは対照的に、ここまで目立った動きを見せていないルイくんに対して、とうとう客席からブーイングが飛び始めた。
マズイな……ルイくんが
本人は沈痛な
オマケに金沢くんには手の内を知られているし……この
あと、違う意味で
「あんにゃろうども好き勝手言いやがってぇ~~~~~っ!!」
ケイくんが爆発寸前だった。今にもルイくんに
「落ち着きなよ、ケイくん」
「兄貴を目の前でコケにされて、黙ってられっかよ!!」
「そのお兄さんの顔を見てみな」
「…………!」
「まだルイくんの戦意は消えちゃいないよ」
(それどころか……何か
「……僕の、ターン……ドロー!」
(──! このカードなら、もしかしたら……!)
「ぼ……僕は……【ハッピー・ラヴァー】を召喚します!」
【ハッピー・ラヴァー】 攻撃力 800
「はぁ? 攻撃表示だぁ? まさかそんなザコで、俺の【ギガサイバー】と
「──僕は手札から、【下克上の首飾り】を、【ハッピー・ラヴァー】に装備します!」
小さな天使に
「カードを1枚、伏せて……永続魔法・【弱者の意地】を発動! バ……バトルです! 【ハッピー・ラヴァー】で、【魔導ギガサイバー】を攻撃します!」
これまで、ずっと攻められっぱなしだったルイくんが、初めて自分から攻撃を仕掛けた。
「ハッ! とうとう追い詰められておかしくなりやがったか! そいつより【ギガサイバー】の方が攻撃力は……」
【ハッピー・ラヴァー】 攻撃力 800 → 2800
「なにぃぃっ!?」
「撃ち抜いて! 『ハートビーム』!!」
【ハッピー・ラヴァー】は
「一ノ瀬てめぇ! 一体なにをしやがった!?」
「【下克上の首飾り】は、装備モンスターが自分よりレベルの高いモンスターと
この場合、【ギガサイバー】と【ハッピー・ラヴァー】のレベル差は4。よって2000ポイントアップしたわけだ。
「チィッ……!」
金沢 LP 4000 → 3400
「おぉっしゃあ!! さすが兄貴! ついに野郎のライフポイントを削ったぜ!!」
(や、やった……! 初めて僕のカードで、金沢さんのモンスターを倒せた!)
「【弱者の意地】の効果! 手札が
(このガキ……調子に乗りやがって!)
「俺のターンだ!」
(──! ククッ……!)
「その装備カードさえありゃ、俺が迂闊に攻撃できねぇとでも思ってんだろうが……残念だったな! 俺は【サイバー・レイダー】を召喚!」
【サイバー・レイダー】 攻撃力 1400
「こいつが召喚された時、装備カード1枚を破壊する! 【下克上の首飾り】を破壊だぁ!」
「ッ!」
【ハッピー・ラヴァー】が装着していた首飾りが粉々に砕かれる。金沢くんもランク・Cなだけあって、やるね。早々に対処してきたか。
「なぁ~にが下克上だ。最底ランクの分際で、
やっぱりね。ルイくんを完全に舐め切ってるから、
(今です!)
「永続
「ッ!?」
「レベル3以下の通常モンスターが相手とバトルする時、僕のライフから払った数値分、相手モンスターの攻撃力をダウンします!」
ルイ LP 2800 → 2100
【サイバー・レイダー】 攻撃力 1400 - 700 = 700
上手い! 今度は敵モンスターを弱体化させて、攻撃力の優劣を逆転させた! マキちゃんも得意とする『コンバット・トリック』だ!
「ぐっ……くそっ……!」
「『ハッピー・バーニング』!!」
可愛らしい天使の口から炎が吐き出されて、【サイバー・レイダー】は焼き尽くされた。そんな技まであったんだ。
「ッ……!!」
金沢 LP 3400 → 3300
「おぉ……すげっ」
「案外やるじゃん、あのランク・E」
良い調子だ。徐々に
「っしゃあーッ!! 見たかってんだ、パツキン野郎!! 兄貴ィ! そのまま押し切っちまえ!!」
「……いや、まだ勝った気になるのは早いわよ」
「え"っ!?」
「アマネの言う通りだね。金沢くんの強さはこんなものの筈がない。ランク・Cは、伊達じゃないよ」
ボクも闘った事があるから分かる。金沢くんは、まだ実力の底は見せていない。何より、彼の切り札である【サイバー・オーガ・
「気をつけてね、ルイくん……!」
「……っ」
「──プッ、くくくっ!」
……? 金沢くん
大柄な体型の
仲間の金沢くんが不利になってるのに何が
「おーい! ケンちゃん! いつまで遊んでやってんだよ?」
「ぶはっ!」
「ダハハッ!」
「……くっくっくっ……あぁ、そうだな。そろそろ本当の力の差ってもんを思い知らせてやるか!」
「!!」
金沢くんの雰囲気が変わった……!
さしずめ、ここからが本番と言ったところか。
「
「!」
「自分のモンスターが戦闘で破壊された時に発動。手札から【サイバー・オーガ】を特殊召喚できる!」
【サイバー・オーガ】 攻撃力 1900
「さ……【サイバー・オーガ】……!」
ルイくんの顔が一気に青くなる。風向きが怪しくなってきたな、ちょっとヤバいかも。
「さらに手札から【サイクロン】を発動! ウザッてぇ【窮鼠の進撃】を破壊するぜ!」
「っ! あぁっ!?」
【窮鼠の進撃】のカードが暴風に吹き飛ばされて除去されてしまう。
「……変ね」
「えっ?」
「手札に【サイクロン】なんて隠し持ってたなら、さっき【サイバー・レイダー】で攻撃した時、ライフコストだけ無駄に払わせて【窮鼠の進撃】を破壊できたはず……」
「……【バイロード・サクリファイス】を発動するために、わざと使わなかったとか?」
「それなら【魔導ギガサイバー】が倒された時点で発動できたはずよ。そもそも【サイクロン】を場に伏せておけば、装備カードを破壊して【ハッピー・ラヴァー】を返り討ちに出来た」
「あ、そっか。……て事は、もしかして……」
「えぇ。金沢の奴、今まで手を抜いてたわね……!」
アマネは眉を
「バトル続行! 【サイバー・オーガ】で、【ハッピー・ラヴァー】を攻撃!」
「!!」
【サイバー・オーガ】の豪腕による強烈な
「うぐっ……!」
ルイ LP 2100 → 1000
「おいおい、ちょっと本気出してやったらコレかよ?」
「……!」
「くくっ、だがこれだけで終わらねぇぞ! さぁらぁにぃ!
「「「 イエーッ!! 」」」
急に盛り上がる三人組。金沢くんも観客が味方についてるのを良い事に、この
「エクストラデッキの融合モンスターを相手に見せ、その融合素材を1体、デッキか墓地から手札に加える! 俺が見せるのは当然【サイバー・オーガ・
2枚目の【サイバー・オーガ】!? という事は、まさか……!
「くくくくっ、とくと見やがれぇっ! 手札から【融合】を発動!」
「!?」
やっぱり。すでに手札に【融合】まで控えていたのか……!
「フィールドと手札の、2体の【サイバー・オーガ】を融合! ──融合召喚! 現れろ! 【サイバー・オーガ・2】!!」
【サイバー・オーガ・
「あっ……あ……!」
ついに【サイバー・オーガ・2】が召喚された……
ルイくんにとって、最もトラウマを刻み込まれたであろうモンスターが。
(ルイくん……これは越えるべき壁だよ。君の手で倒すんだ!)
「まだまだぁ! お楽しみはこれからよぉ!
わざわざデッキの中からモンスターを墓地へ? 今度は何をするつもり……──そうか!?
「そして手札から、【
【サイバー・ダイナソー】 攻撃力 2500
【サイバー・オーガ・2】、1体だけでもキツイのに、ダメ押しで上級モンスターが更にもう1体……!
これだけの布陣を整えられる手札でありながら、今の今まで温存してたのか。
「ギャッハッハッハッ!! 理解したかぁ? 一ノ瀬。てめぇなんざいつでも潰せたんだよ!」
「っ……!」
(僕は、ただ……遊ばれてた……だけ……)
ガクッと、ルイくんの
「この俺を倒せると本気で思ったのかぁ!? 手ぇ抜いてやってるとも知らずに、ちょっと抵抗できたぐれぇで喜んでやがるてめぇの姿、マジで爆笑もんだったぜ! ギャーーーッハッハッハッハッ!!」
──!!
調子に乗って侮蔑の言葉を思うがまま浴びせかける金沢くんの言動に、とうとう
「ウガァァァーーーッ!! もう許せねぇあのクズヤロー!! 俺がぶちのめして──」
「
「はいよ」
「ぐへっ!?」
今まさに
どうやら
にしても、ガタイの良い屈強な大男を、キック一発で沈めるとは
「どうだっ! 反撃してみろやぁ!」
(っ……ムリだ……やっぱり……僕なんかじゃ勝てな……)
「ルイくん!!」
「──ッ!!」
『2回戦で、待ってるよ』
(……そうだ……! 僕は……!!)
「
「ッ! あ"ぁ?」
「ライフを500ポイント払って……このターン戦闘で破壊された、攻撃力1000以下の通常モンスターを、墓地から特殊召喚します!」
【ハッピー・ラヴァー】 守備力 500
ルイ LP 1000 → 500
「チッ、しつけぇなぁ……今さら無駄なあがきしてんじゃねぇよ! ザコはザコらしく、大人しく負けろ!!」
「…………っ! いやだ!!」
「!?」
「ルイくん……」
「あ……兄貴ッ……!」
ルイくんのあんなに大きな声、初めて聞いた。
「もう少しなんです……憧れの人が……すぐそこで待ってるんです……! ここで負けるわけにはいかないんだ!!」
「はぁ? まだ俺に勝つ気でいやがんのか? この状況で、てめぇごときに一体なにが出来るってんだよ!」
「……フッ、あの時と一緒だね」
ボクは目を閉じてそう呟いた。
なんかデジャヴを感じると思ったら、このシチュエーション……ボクが転入初日に金沢くんと
次のルイくんのドローで、全てが決まる。これがラストターンだ。
「…………っ」
(僕の手札は、モンスターが1枚だけ。勝つ為には、
『──ライフポイントが残っている限りは、最後までカードをドローしなさい』
「僕のターンです……」
静かに告げ、デッキの一番上のカードに指先をかけるルイくん。
そして──
(僕は、僕のデッキを信じる……お願い……来て!)
「──! ドローッ!」
渾身の思いで、デッキからカードを引く。まさに運命の……デスティニー・ドローだ!
「……!」
(来た……来てくれた!!)
『諦めなければ、きっとデッキは応えてくれる』
「……ありがとうございます……先生……みんな……!」
ルイくんの頬に、涙が伝ったのが見えた。けれども、口元は笑っていた。
「
「!」
「僕の墓地からレベル2以下の通常モンスター3体を特殊召喚します! 来て! 【ブークー】! 【ウェザー・コントロール】! 【ララ・ライウーン】!」
本の姿をした不思議な魔法使い。傘を持った雪ダルマ。電気を帯びた雲のモンスターが、フィールド上に
「へっ! ワラワラと沸いてきやがる。また
「いいえ、僕のモンスターは……全て攻撃表示です!!」
【ブークー】 攻撃力 650
【ウェザー・コントロール】 攻撃力 600
【ララ・ライウーン】 攻撃力 600
【ハッピー・ラヴァー】 攻撃力 800
「はぁあっ!?」
「ダハハハッ! あいつ勝てねぇと分かって
「ブホッ! マジ超ウケるわぁ~それ!」
「あ、兄貴、なに考えてんだよ……っ!? どれか1体でも攻撃されたら、お仕舞いじゃねぇか……!」
「本当にそう思ってる?」
「は……? セツナの
「さらに【サンダー・キッズ】を召喚です!」
【サンダー・キッズ】 攻撃力 700
「だから、そんなザコを出してどうしようってんだっ!?」
「僕のカード達は……ザコなんかじゃありません!」
「っ……!」
「……自分フィールド上に、レベル2以下の通常モンスターが5体揃っている時、発動できるカードがあります」
「なんだと?」
「──行きます! リバースカード・オープン! 【弱肉一色】!!」
あの
突如、金沢くんの場にいる2体のモンスターに異変が起きた。機械で造られた強固なボディに何の前触れもなく亀裂が走り、全身が少しずつ崩壊していく。
「な、なんだこりゃあ!? 俺のモンスター達が!!」
「【弱肉一色】は、お互いの手札と、フィールドのレベル2以下の通常モンスター以外の、全てのカードを破壊します!!」
「なにっ! す、全てだとぉーっ!?」
「なるほど……ルイくんは、このカードの発動を狙っていたのね」
「スゲー! スゲーぜ兄貴ィーッ!!」
やがて金沢くんの【サイバー・ダイナソー】と【サイバー・オーガ・2】は、残骸と化して消滅した。ルイくんが発動していた【弱者の意地】も破壊される。
後に残ったのは、ルイくんの元に
「お……俺の場が……がら空きっ……!?」
「バトルです!! 全モンスターで、プレイヤーに
小さな
5体それぞれの固有の攻撃が、身を守る手立ての無い金沢くんへと、一点集中で放たれた。
「ひっ……うぎゃああああああああああっ!!!?」
金沢 LP 0
確かに聞こえた。金沢くんのライフポイントが
決着が訪れたその瞬間、会場が騒然とした。
「うおぉーっ!? 信じらんねぇ!」
「勝ちやがったぜあのランク・E!!」
「相手はランク・Cだったってのにマジかよ!?」
「んな……バカ……な……!」
一番信じられないのは負けた金沢くん本人だろう。フラフラと後退りしたかと思うと、今度は自分が尻餅を突いて、茫然自失してしまった。
その様子を
「ッ…………!!」
「ウソ……だろぉ……?」
「け、ケンちゃんが……あんな奴に……!」
「っしゃあぁーーーーーっ!! 兄貴が勝ったァァーーーッ!! ゲフッ!?」
「あちゃ、少し蹴りが強すぎた? ごめんね」
歓喜の雄叫びを上げた瞬間、アマネの蹴りのダメージで再びダウンしたケイくんを横目に、ボクは鉄柵に足を乗せると、そのまま下へと飛び降りた。
「……僕が……勝った……の……?」
そして、未だ勝利の実感が湧かないのか呆けた顔で立ち尽くしているルイくんを、後ろから勢いよく抱き締めた。
「ルイくーん!」
「ひゃわあっ!?」
ビックリして目を丸くするルイくん、安定の可愛さだね、うん。
一旦ルイくんを離して、彼の細い双肩に両手を置いて正面から向かい合い、ボクは笑顔で言った。
「おめでとう、ルイくん。君の勝ちだよ!」
「──!! ……うっ……ううぅ……!」
「?」
「うわああああああんっ!!」
「おわぁ!?」
緑色の綺麗な瞳から大粒の涙を流して、ルイくんは大泣きしながらボクに抱きついてきた。
「うえええええんっ!」
「おーよしよし。頑張ったね、ルイくん」
(フフッ、かわいい奴め)
ボクはルイくんを抱き止めて、頭を優しく撫でる。
今だけは泣かせてあげよう。初めての勝利の感動に、浸らせてあげよう。
きっと、ルイくんのデッキも喜んでいるよ。
金沢くんの敗因は、言うまでもないけど、ルイくんを見くびり過ぎて手を抜いたプレイングをした事だ。
ルイくんが大会の為に努力を重ねて成長して、実力の差が
金沢くんはルイくんのカードをゴミだと言った。
でもそれは違う。
この
どんなカードにも存在する以上、必要とされる力がある。
使えないと散々なじられたカードにだって、強い相手を倒せる可能性が秘められているんだ。
改めて初勝利おめでとう、ルイくん。そして、ボクとの約束を果たしてくれて、ありがとう。
一ノ瀬 ルイ・予選1回戦──突破!
ルイくんの初デュエル&初勝利回でした! オメデトー!!(`;ω;´)
あれれ~? ルイくんがセツナより主人公してる?
やはり最後は諦めない人間が勝つ。そんなお話でした。
なんて言いつつ、作者は今年の異常な暑さに負けて、夏バテで執筆意欲すら持ってかれてましたorz
ものすごい時間をかけて一話を書き上げて、ようやく投稿ボタンを押せた時の嬉しさと達成感は半端ないですね(*´・ω・`)b
金沢は何度も何度もザコとばかり……他の言葉を知らないのk(ry
さてさて、セツナとルイくんのデュエルはどうなるのでしょうか。書くのが今から楽しみです!