遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum - 作:箱庭の猫
毎回タイトルで悩むんですよね。なんで英語で統一したんだ自分……
今年の『選抜デュエル大会』の予選は、全部で16ブロックに分けて挙行される。
1ブロック
初日の試合数は片側のトーナメントだけで8つ。両方合わせて16試合。
この日、全512人の
予選『D-ブロック』会場──第4
「んじゃ、行ってくるね。ルイくん」
「セツナ先輩……頑張ってください!」
ルイくんが鈴の
間もなくボクの緒戦が始まる。初めての選抜デュエル大会で、しかも予選1回戦の第一試合。全く緊張してないと言えば嘘になる。どういう空気感なのかも知らないぶっつけ本番なわけだから。
だけど、それでも。ボクは自分のデッキを信じて全力で自分の
気分は上々。良い感じに集中してる。
さぁ初陣だ! 満を持してボクは、闘いの舞台へと歩み出た。
「おおっ!! 出てきたぞ噂の転入生!!」
「今大会きってのダークホース・
「大会最初の
「おわっ!?」
なに!? なんか意外とギャラリー多いんだけど! 期待の新星って、ボクそんなに注目株だったの!?
まぁでも、ここで初めて九頭竜くんと
「
空き缶が飛んできて頭に直撃した。当たった箇所を擦りながら観客席の方を見ると、
「なーにが噂のダークホースだ」
「死ね!」
うわっ、中指立てられた。やっぱやり
「あわわわ……セツナ先輩……」
会場の出入り口付近で心配そうにオロオロしているルイくんに、ヒラヒラと手だけ振って『大丈夫だよ』とジェスチャーする。
出鼻くじかれた感あるけど気を取り直して……
ボクが闘うフィールドの隣には、もう1つ
声援と野次の入り交じる中で、ボクも自分の
腕を組んで仁王立ちしている、黒髪短髪の男子だった。眉毛が太くて目力が強い。
「ハーーーハッハッハッ!! ついに来たな
(声デカッ!?)
彼はボクと目が合った途端に、大口を開けて豪快な笑い声を上げた。腹の底から張り上げてる様な、必要以上に大きい声がボクにぶつかってくる。声量あり過ぎて会場の外にまで漏れ聞こえてそう。
「俺は2年の
「! 次期十傑……」
以前アマネに聞いた事がある。
『次期十傑候補』──。読んで字の如く、次代の『十傑』の座を期待されている優等生を指す総称だ。
つまり実力は現・十傑とほぼ同等ってわけか……これは早速、強敵の予感。
「……良いね、楽しめそうだ。よろしくね」
「おうっ!! 熱い
(あ、暑苦しい……)
まさかルイくんの弟のケイくん以上の熱血漢がいたとは。背景が燃え盛る炎になってるし。
おっと、そろそろ始まるから準備しないと。
デュエルディスクを起動して、カードをセットするプレート部分を展開する。デッキが
(先輩……)
後10秒……心地よい緊張感が心臓の鼓動を高鳴らせ、神経を研ぎ澄ませている。
…………3、2、1──
「「
選抜デュエル大会・開戦!!
セツナ
「俺の先攻! 手札5枚ドローッ!!」
お互いに初手のカード5枚を引く。果たして猪上くんは、どんな戦術を披露してくるのか……
相手は来年の今頃には、十傑に名を連ねてるかも知れない
「よぉし! 行くぞぉ!! 俺はフィールド魔法・【バーニングブラッド】を発動!!」
「!」
地鳴りと共に猪上くんの背後に活火山が切り立ち、轟音を響かせ噴火した。
「おぉっしゃあっ燃え上がってきたぁぁぁあっ!!! ふるえるぞハート! 燃えつきるほどヒート!! おおおおおっ、刻むぞ血液のビート!!」
なんかのマンガで読んだ気がするセリフを
「【バーニングブラッド】がフィールドにある時、炎属性の攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ダウンする!! 俺は【バーニングソルジャー】を召喚!!」
【バーニングソルジャー】 攻撃力 1700
「【バーニングブラッド】の効果で、攻撃力アップ!!」
【バーニングソルジャー】 攻撃力 1700 + 500 = 2200
──! 1ターン目から攻撃力2000以上のモンスターが出現した……!
「カードを2枚伏せてターン終了だ!! さぁ君のターンだぞ総角くん!! どっからでもかかってこぉい!!」
「ほんと元気な人だなぁ……ボクのターン、ドロー!」
全体強化のフィールド魔法は厄介だけど、ここはありがたく使わせてもらおう。ボクの手札にも、炎属性はいるからね!
「ボクは【ラヴァ・ドラゴン】を召喚!」
【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 1600
「【ラヴァ・ドラゴン】は炎属性。【バーニングブラッド】のフィールドパワーソースを受けて、攻撃力がアップする!」
【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 1600 + 500 = 2100
「ほうっ! 俺のフィールド魔法を有効活用してくるか!! だが攻撃力は【バーニングソルジャー】の方がまだ上だ!!」
「分かってるよ、だからもう1枚。装備魔法・【ドラゴンの秘宝】を【ラヴァ・ドラゴン】に装備! 攻撃力300ポイントアップ!」
【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 2100 + 300 = 2400
「ぬっ!?」
「バトル! 【バーニングソルジャー】を攻撃!」
火山を棲み処とするドラゴンが、口腔から溶岩の
すると猪上くんは、歯を見せてニヤリと笑った。
「
「げっ!?」
(しまった、あのカードは……!)
「この
熱く燃える特殊部隊の工作員が、闘志を爆発的に
「ふんぬおぉぉぉおっ!! み、な、ぎっっってきたぜぇぇぇぇぇっ!!!」
「いやなんで君まで漲ってるの」
「【燃える闘志】の効果ッ! 相手の場に
【バーニングソルジャー】 攻撃力 2200 → 3900
「迎え撃て!! 【バーニングソルジャー】!!」
【バーニングソルジャー】は闘魂を奮い立たせて、目までメラメラと燃えている。そして手に持つ湾曲した刀剣で、【ラヴァ・ドラゴン】の
「くっ……!」
セツナ LP 4000 → 2500
「ハーーハッハッハッ!! フィールド魔法は相手モンスターにも影響を及ぼす! 君がそれを利用してくる事など予測済みだっ!!」
「……ッ」
この人……ただ熱いだけじゃない。フィールド魔法のデメリットを逆手に取って、きっちり戦略を立てて来てる。さすがは次期十傑候補。
【バーニングソルジャー】 攻撃力 3900 → 2200
「……ボクは
「俺のターンの攻撃に備えたか! うむっ! いいだろう!!」
「カードを2枚伏せて、ターン
「うおしっ! 俺のターンだ! ドローッ!! 俺は【超熱血球児】を召喚だっ!!」
【超熱血球児】 攻撃力 500
「当然【バーニングブラッド】の効果を受けて、攻撃力がアップするぞっ!」
【超熱血球児】 攻撃力 500 + 500 = 1000
「それだけではない!! 【超熱血球児】は他の炎属性1体につき、1000ポイント攻撃力をアップする!!」
【超熱血球児】 攻撃力 1000 + 1000 = 2000
また攻撃力が倒し
「ダメージを与えられない以上、攻撃する意味はない! ターンエンドだ!!」
ここで【一時休戦】の効果は終了する。
「ボクのターン!」
さーてと、困ったぞ。猪上くんの場に【燃える闘志】がある限り、ボクは迂闊にモンスターを強化できない。【バーニングソルジャー】を戦闘で破壊するには、元々の攻撃力が2200より高いモンスターを出す必要がある。
(……ひとまず今は守備で凌ぐしかない!)
「ボクはモンスターを裏守備でセット! さらに1枚カードを伏せて、ターンエンド!」
「どうしたどうしたぁ! もっと熱くなれよぉぉぉぉっ!! 俺のターン! ドローッ!!」
このターンから猪上くんの猛攻が始まる。耐え切れなければ最悪ボクの負けだ。
「俺は【スティング】を召喚!!」
【スティング】 攻撃力 600 + 500 = 1100
「炎属性が場に出た事で、【超熱血球児】の攻撃力が更にアーップ!!」
【超熱血球児】 攻撃力 2000 + 1000 = 3000
「攻撃力3000……!」
「バトルだぁ!! 俺の炎を受けてみろ!! 【バーニングソルジャー】で、守備モンスターを攻撃ッ!!」
セットしていたモンスターは【ヤマタノ
「今の攻撃で発動しなかったという事は、その伏せカード達はブラフか!? それとも直接攻撃に対して反応する
「……さぁ、どうだろうね?」
「いずれにせよ関係ない!! 俺のモットーは〝猪突猛進〟!! 前進あるのみだぁーっ!!」
【超熱血球児】が
「うおらぁーっ!! 【超熱血球児】でっ! プレイヤーに
「──惜しかったね、猪上くん。
「むっ!?」
「戦闘ダメージを
正解は、『ダメージを無効にする』
「ハハハハッ! やってくれたな! だが俺の攻撃はまだ残っているぞ!! 【スティング】で直接攻撃だ!! 『オーライ! ヒノタマソウル! アタック!!』」
巨大な火の玉のモンスターがボクに体当たりしようと迫り来る。
ボクは一瞬、自分の足下に伏せられている、2枚目のリバースカードに視線を送った。
(【戦線復帰】……! 今発動すればこの攻撃は防げる……でも、ここで【ラヴァ・ドラゴン】を蘇生しても、【バーニングブラッド】に守備力を下げられて破壊されるだけ……それなら!)
逡巡したけど、ボクは相手の攻撃を通す判断をした。炎の
「ぐっ……うああああっ!!」
セツナ LP 2500 → 1400
「さらに【超熱血球児】の効果を発動ッ!! こいつ以外の炎属性を墓地に送る
「なっ……!」
「もう一度【スティング】を喰らわせてやるぜ!! かっ飛ばせ!! 【超熱血球児】!!」
【超熱血球児】はバットをフルスイングして、【スティング】を野球のボールの様に打ち飛ばした。打球となった【スティング】が、狙い通りボクに直撃する。
「うわぁぁぁっ!!」
セツナ LP 1400 → 900
ライフポイントは残り3桁。セーフティラインを越えてしまった。デュエルディスクに表示されたライフ数値の色が赤に変わる。
「っしゃあーーーッ!! ナイスバッティンッ!!」
拳を握って
「おいおいさっきから一方的だぞ、どうした期待の新星!」
「まさか予選1回戦で早くも敗退かー!?」
「やっぱ九頭竜さんに勝てたのはマグレだったんじゃねぇのかー!?」
……うーむ。好き放題に言われちゃってるなぁ。侮っていたつもりはなかったけど、ここまで追い詰められるとは。
「炎属性が1体減った事で、【超熱血球児】の攻撃力も下がる!」
【超熱血球児】 攻撃力 3000 → 2000
「これで俺のターンは終了だ!!」
「……ボクのターン」
【バーニングソルジャー】を【超熱血球児】の効果で打たなかったのは、それをする事で【超熱血球児】の攻撃力が1000に下がって、反撃されるのを防ぐ為か。次のターンで新たな炎属性を召喚して、トドメを刺せば良いんだからね。
──でも、どうにか首の皮一枚つながった。このボクのターンで、劣勢を
「猪上くん」
「ぬ?」
「君がそこまでボクとの
ボクはメガネを外して裸眼になり、
「……!!」
「ここからが本当の勝負だよ!!」
「──おうっ!! ようやく熱くなってきたな!!」
「ドロー! まずは
【ラヴァ・ドラゴン】 守備力 1200 - 400 = 800
【超熱血球児】 攻撃力 2000 + 1000 = 3000
フィールド魔法・【バーニングブラッド】の効力によって守備力がダウンした上に、炎属性を出した事で【超熱血球児】の攻撃力も3000に戻った。
けれど問題じゃない。【ラヴァ・ドラゴン】の真価は、守備表示でこそ発揮されるんだ。
「【ラヴァ・ドラゴン】のモンスター効果! 守備表示のこのモンスターをリリースする事で、手札と墓地からレベル3以下のドラゴンを特殊召喚できる! 出ておいで! 【ヤマタノ
【プチリュウ】 守備力 700
【ヤマタノ
【超熱血球児】 攻撃力 3000 → 2000
フィールドに2体のモンスターが出揃う。この時を待っていた……いよいよ出番だよ、ボクのデッキのエース!
「そしてこの2体のドラゴンをリリース! 【ラビードラゴン】を、アドバンス召喚!!」
白くて柔らかい体毛に覆われた巨躯を持ち、ウサギの様な長い耳を生やしたドラゴンが、両翼を羽ばたかせ舞い降りた。
【ラビードラゴン】 攻撃力 2950
「やった! 先輩のエースモンスターです!」
「おおおぉ!! それが君の切り札か!!」
「【ラビードラゴン】で、【超熱血球児】を攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」
【ラビードラゴン】の大きく開かれた口の中から、白い光線が放出される。
「うむ! 見事な闘志だ!! しかし……詰めが甘い!!
「!?」
「この
渦を巻く業火の
このまま【ラビードラゴン】が破壊されたら、お互いに攻撃力の半分、1475ポイントのダメージを受けて、ボクのライフが
「俺の勝ちだぁーっ!!」
「セツナ先輩!?」
「そうは……させないよ!! カウンター
「なんだとっ!?」
【ラビードラゴン】を護る様に白銀の竜巻が発生し、業炎のバリアに反射された光線を
「【シルバー・フォース】はダメージを与える
「全てだと!? という事は……【バーニングブラッド】と【燃える闘志】までもが!?」
白銀のバリアが
「【バーニングブラッド】が消えた事で、炎属性の攻撃力は元に戻る!」
【バーニングソルジャー】 攻撃力 2200 → 1700
【超熱血球児】 攻撃力 2000 → 1500
「ぐうっ……!」
「これで【ラビードラゴン】の攻撃は有効! 行け!!」
- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -
再度【ラビードラゴン】は光線を放ち、ついに【超熱血球児】を吹き飛ばした。
「うおおおおおっ!!」
猪上 LP 4000 → 2550
これで相手フィールドのカードは【バーニングソルジャー】1体のみ。形勢は逆転できたはず。
「ボクは最後にカードを1枚セット! これでターンエンド!」
「……ハッハッハッハ……」
「? 君のターンだよ? 猪上くん」
「ハァーーハッハッハッハッハッ!!
「う、うん、分かった、分かったから」
「俺の
「……!」
「手札から
猪上 LP 2550 → 50
「一気にライフを50まで減らした!?」
「俺は手札の、【ヘルフレイムエンペラー】のレベルを5つ下げる!!」
「!」
確か【ヘルフレイムエンペラー】のレベルは9。5つ引いたらレベル4になって、リリース無しで召喚できる!
「来い!! 【ヘルフレイムエンペラー】!!」
フィールド全体に灼熱の炎が巻き起こり、激しくうねる猛火は、やがて巨大な魔獣の威容を
【ヘルフレイムエンペラー】 攻撃力 2700
(ここに来て、こんな上級モンスターを……!)
「でも、攻撃力なら【ラビードラゴン】の方が……」
「そいつはどうかな!! 俺の手札には──2枚目の【バーニングブラッド】があるのだっ!!」
「なっ!?」
「発動ッ!!」
猪上くんは最後の手札に【バーニングブラッド】を温存していたのか……! 再びフィールド上に火山が
【ヘルフレイムエンペラー】 攻撃力 2700 + 500 = 3200
【バーニングソルジャー】 攻撃力 1700 + 500 = 2200
「ハッハッハ! どうだぁーーーっ!! これで【ヘルフレイムエンペラー】で【ラビードラゴン】を倒し! 【バーニングソルジャー】で
「っ……!」
「バトルッ!! 【ヘルフレイムエンペラー】の攻撃!! 『猪上ファイヤー』!!」
「い……猪上ファイヤー!?」
技名はアレだけど、威力は絶大だ。【ヘルフレイムエンペラー】の口から放たれた火炎放射が【ラビードラゴン】を襲う。
──そう来ると、思っていたよ!
「リバースカード・オープン! 【燃える闘志】!!」
「なにぃ!?」
「言ったでしょ。君の熱意には、ちゃんと応えるって!」
前のターン、ドローフェイズでこの
【ラビードラゴン】 攻撃力 2950 → 5900
「攻撃力、5900だとっ!?」
「チェックメイトだ!! 【ラビードラゴン】の迎撃!!」
- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -
【ラビードラゴン】は戦意を滾らせ吼え猛ると、白光の奔流を放射した。初撃よりも遥かにパワーを増した極太サイズの光線が、半人半獣の魔物に擬態した猛炎を飲み込み、消滅させる。
「どわああああああっ!!!!」
猪上 LP 0
(ホッ……良かった、勝てた)
「くっ……ハーーーッハッハッハッ!! ちくしょう完敗だっ!! だが熱く楽しい
「ボクも楽しかったよ。また
「おうっ!! 俺の分まで勝てよ!!」
猪上くんと笑顔で固い握手を交わす。……手汗スゴッ……
まぁ、実際手に汗握るギリギリの勝負だったのは違いない。初日からこれとかこの大会ハードモード過ぎない?
何はともあれ、どうにか1回戦を突破できた。メガネを掛け直しながら
女の子走りで駆け寄って来てくれた。(大事なことなので2回言いました)
「せ、先輩! おめでとうございます!」
「うん、ありがとう。危うかったけど何とか勝てたよ」
ルイくんの小さな肩に、ボクは優しく手を乗せる。
「さっ、次はルイくんの番だよ」
「…………はい……!」
彼の声は微かに震えていた。
同時進行していたもう片方の一試合目も終わり、続いてD-ブロック第2試合の時間が刻々と近づいてきていた。
「うっ……うぅ……」
「ルイくん、もう少しだよ。がんばって」
緑色のデュエルディスクを抱き抱えたルイくんは、会場の入場口からだいぶ離れた位置で、ずっと立ち尽くしていた。細い足は小刻みに震えるばかりで、床に固定されたかの様に前に進まない。
気持ちは分かる。場内に入って
ルイくんのランクは学園で最も弱いとされる『E』。
対する金沢くんは、それより2つも格上のランク・『C』。その上ルイくんが何度も
実力の差は明白。あまりにも分が悪い。
──だけど、それは少し前までのルイくんだったら、の話。
この数ヶ月……選抜試験本番に向けて、彼の
ルイくんには素質がある。最大の弱点である
その為にも必要なのは、『やれば出来るんだ!』という実感と、それに基づく自信。そう、彼に足りてないのは自信だ。
金沢くんとの
……とは言え、このままじゃ
よし。ここはひとつ、ボクの秘伝の
「ルイくん、こっち向いて」
「えっ……ひゃあぁ!?」
ボクは両腕を広げて、ルイくんを正面から抱き締める。突然ハグされて顔を真っ赤に染めるルイくん可愛いいいいいいいいいっ!!!!
にしても
「はわわわっ、せ、せんぱい……?」
「昔さ……ボクの大切な人が、ボクがルイくんみたいに不安や恐怖に押し潰されそうになった時……いつもこうして、抱き締めてくれたんだ」
「……!」
「そうすると不思議と安心してくるんだよね……どう? 落ち着いた?」
「……」
ルイくんはボクの胸板に、ポスンと顔を
「ふあ……あったかいです……セツナ先輩の胸の中……あったかい……」
ん"んんんんんんんんんんんっ!!!(悶絶)
もうやめて!! ボクのライフは
この愛くるしい生き物の抱き心地を、まだ堪能していたかったけど、もう試合まで時間がないし、何よりこれ以上はボクの身が
名残惜しいけれど腕を離して、ルイくんを解放する。男同士で抱き合ってるとこ誰かに見られなくて良かった。いや、ルイくんは女顔に見えなくもないから、ギリセーフ……かな? マキちゃん辺りに目撃されたらしばらくネタにされてたかも。
ルイくんの可愛さに悶え過ぎて、
「……ルイくん。ボク達が初めて会った日のこと、覚えてる?」
「……はい。あの時は助けてくれて、本当にありがとうございました」
「あの時、金沢くんにデッキをバカにされた時、ルイくん言い返してたよね」
自分自身はどれだけ罵倒されても言われっぱなしだったルイくんが、自分の愛するデッキを侮辱された途端、初めて反論したんだ。
〝僕のデッキをバカにしないで!〟って。
「その気持ちさえ忘れなければ、今の君なら負けないよ」
「……!」
「2回戦で、待ってるよ」
「はい……! 行ってきます!」
小走りで会場に向かって駆けていくルイくん。ハグが効いたみたいで一安心。
「…………」
……ちょっとだけ、昔の
さて、ボクも応援席に移動するとしますか。──頑張ってね、ルイくん。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「これこれ。廊下を走ってはいけないよ」
「あっ……
「ついに出番だね、
「……はい……」
「……うむ、とても良い眼をしている。迷いのない、強い
「僕が……強い……?」
「勇気を振り絞り、自らの意志で挑戦する道を選んだ君に、教育者として私から1つアドバイスだ。──ライフポイントが残っている限りは、最後までカードをドローしなさい。諦めなければ、きっとデッキは応えてくれる」
「先生……!」
「楽しんできたまえ」
「──はい! ありがとうございます!」
観客席の最前列に並ぶ椅子の1つに、腰を下ろす。ここならルイくんの
「兄貴ィィィィィッ!! 応援に来たぜっ!! って、まだ始まってねぇのかよ!!」
……非常に聞き覚えのある大声が会場内に
オレンジ色の短い髪が余計に人目を引いているけど、ケイくんはそんな周囲の視線なんて
「おーい、ケイくーん。こっちこっち~!」
「んあ? あっ! セツナの
「あ、
「俺は認めた男にはそう付けるんすよ。ご無沙汰してます」
「嬉しい様な
ボクの隣にドカッと座り込むケイくん。デカイな~、相変わらず。これで中2ってのが未だに信じられない。着てる制服は青色だから疑いの余地は無いんだけどさ。
中等部の生徒は大会に
「ケイくんが応援してくれるなら、ルイくんも心強いと思うよ」
「いよいよ兄貴のデビュー戦っすからね! 観ないわけにはいかねぇぜ!」
「あー、いたいた。セツナ! っと……あぁ、ルイくんの弟くんね。久しぶり」
「あ、アマネ」
「チッス!
「な、何よ
アマネもやって来て、ケイくんの隣の席に腰かけた。
「アマネって確か『N-ブロック』の一試合目だったよね? どうだった?」
「決まってるでしょ、楽勝よ」
「さすが」
まぁアマネが1回戦でつまずくわけないよね。ちなみにマキちゃんは『M-ブロック』の二試合目が出番だった筈だから、ルイくんと同じくそろそろ準備をしている頃かな。
「そういうセツナは? まさか負けてないわよね?」
「何とか勝てたよ。いやぁ~手強かったなぁ」
「なら良し」
「──おっ! 出てきたぜ!」
急にケイくんが手前の柵を掴んで身を乗り出した。
広い場内に2つ
そしてもう一方には……
「よぉ一ノ瀬ぇ、逃げなかったのは誉めてやるぜ?」
「っ…………」
余裕どころか、完全に相手を舐めきっている様な、リスペクトの
「……っ……は……ぁ……」
(……? なんかルイくん、様子が変だな……)
「兄貴ィーッ!! かっ飛ばせぇーっ!!」
……やっぱり妙だ。ケイくんの、アマネが耳を塞ぐくらいデカイ声援にも、ほとんど反応を示さない。顔色は悪いし動きもぎこちない。
「自分がどんなに身のほど知らずか思い知るんだなぁ!!」
「──ッ!」
デュエルディスクを共に構える二人。さぁ始まるよ、D-ブロック二試合目。
ルイくん……君の力を、見せつけてやれ!
「「
ルイ
「先攻はてめぇにくれてやるぜ。さっさとカードを出しな!」
「は、はい……!」
ダボッとした大きめな制服を着ているので、身の丈に合わない長さの
(ど、どうしよう……早く何か、カードを出さないと……で、でも……!)
「チッ! おいこらぁ!! なにチンタラしてやがる! とっととカードを出せっつってんだよ!!」
「ひっ……!」
痺れを切らした金沢くんが怒鳴る。少しの間の長考くらい待ってあげなよ。
ビクついたルイくんは、焦った様子で手札から1枚のカードを抜き出した。
(ダメだよルイくん、冷静にならなきゃ……!)
「ぼ、僕は、このカードを!」
【バニーラ】 攻撃力 150
まるっこい体型をした小さくて可愛らしいウサギが、
直後、ルイくんは顔面蒼白になる。
「あっ……!」
「あっちゃ~、ルイくんったら……」
ボクは思わず頭を抱えた。本来【バニーラ】は守備力が2050もある優秀な壁モンスターだ。それをみすみす攻撃表示で棒立ちさせるなんて、普段のルイくんなら絶対に有り得ない。
これはアレだね……すっかり
「ぷっ、ギャッハッハッハッハッハ!! バッ、【バニーラ】を攻撃表示だぁ!? おいおい、一ノ瀬! いきなり笑わせに来てんじゃねーよっ!」
無遠慮に吹き出して哄笑する金沢くん。他の観客も、ルイくんと【バニーラ】を指さして笑っていた。
「あんにゃろおぉぉぉ……! 俺の兄貴を馬鹿にしやがってぇぇぇぇっ……!」
「ケイくん落ち着いて」
「で? 次はどうすんだよ? やることねぇならとっととターンエンドしな!」
「す……すいません……ターン、エンドです……」
ルイくんは肩を落として、か細い声でターンの終了を告げた。笑われた恥ずかしさからか、すでに涙目になっている。
「ケッ、相変わらず歯ごたえのねぇ。俺のターン!」
(どうせ俺の勝ちは決まってるからな。存分に遊ばせてもらうぜ)
「俺は【サイファー・スカウター】を召喚!」
【サイファー・スカウター】 攻撃力 1350
「うっ……!」
「攻撃表示ってのはなぁ、こういうモンスターを出すんだよ! 行け! 【サイファー・スカウター】! 奴の雑魚モンスターを蹴散らせ!」
【サイファー・スカウター】はスナイパーライフルで【バニーラ】をロックオンし、狙撃した。弾丸が命中した【バニーラ】は無情にも粉砕され、ルイくんも爆風に見舞われる。
「わあぁぁぁぁ!?」
ルイ LP 4000 → 2800
衝撃の余りバランスを崩して、あっさりと尻餅を突いてしまうルイくん。その拍子に手札のカードが落ちて、バラバラと床の上に散らばった。
「一ノ瀬ぇ! てめぇなんざ俺の敵じゃねぇ!!」
「っ……くうっ……」
見下し、嘲り笑う金沢くんを、ルイくんは怯えた目で見上げる事しか出来なかった。
セツナ、1回戦突破!
ルイくん、いきなり負けそう! ガンバッテー!!(`;ω;´)
どうしてもルイくん戦の序盤を導入部分としてここまで書きたかったので、少し長くなりました。
ルイくんの可愛さが天元突破して、セツナが悶え苦しんだ回になりました(笑)
【ラビードラゴン】も【バニーラ】も同じパックに入っていたの、運命的な何かを感じますね(?)