遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 毎回タイトルで悩むんですよね。なんで英語で統一したんだ自分……



TURN - 21 Burning soul

 

 今年の『選抜デュエル大会』の予選は、全部で16ブロックに分けて挙行される。

 1ブロック(ごと)に参加者32名が集結し、左右16人ずつに別れたトーナメント方式で勝ち抜き戦を行う。そして、そのブロックで優勝した一人だけが予選を通過。『本選』出場の切符を手にする事が出来る。

 初日の試合数は片側のトーナメントだけで8つ。両方合わせて16試合。一試合(ワンゲーム)30分なので、全てのブロックを合計(トータル)すると、4時間で256試合!

 

 この日、全512人の決闘者(デュエリスト)が、それぞれの想いを胸に、最強の座を賭け激突する──!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予選『D-ブロック』会場──第4決闘(デュエル)フィールドにて。

 

 

 

「んじゃ、行ってくるね。ルイくん」

 

「セツナ先輩……頑張ってください!」

 

 

 

 ルイくんが鈴の()のような澄んだ声で、ボクにエールを送ってくれた。

 間もなくボクの緒戦が始まる。初めての選抜デュエル大会で、しかも予選1回戦の第一試合。全く緊張してないと言えば嘘になる。どういう空気感なのかも知らないぶっつけ本番なわけだから。

 

 だけど、それでも。ボクは自分のデッキを信じて全力で自分の決闘(デュエル)をする。──ただ、それだけだ。

 

 気分は上々。良い感じに集中してる。

 

 さぁ初陣だ! 満を持してボクは、闘いの舞台へと歩み出た。

 

 

 

「おおっ!! 出てきたぞ噂の転入生!!」

 

「今大会きってのダークホース・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)だ!!」

 

「大会最初の決闘(デュエル)がいきなり期待の新星か! お手並み拝見といくぜ!」

 

「おわっ!?」

 

 

 

 なに!? なんか意外とギャラリー多いんだけど! 期待の新星って、ボクそんなに注目株だったの!?

 まぁでも、ここで初めて九頭竜くんと決闘(デュエル)した時に比べれば、まだやりやすいかな……

 

 

 

(いて)っ!?」

 

 

 

 空き缶が飛んできて頭に直撃した。当たった箇所を擦りながら観客席の方を見ると、()()にもな外見の男子が数人、怖い顔してボクを睨んでいた。

 

 

 

「なーにが噂のダークホースだ」

 

「死ね!」

 

 

 

 うわっ、中指立てられた。やっぱやり(づら)いかも! こないだの暴走族と言い、中も外も治安が安定しないなジャルダンって。もう慣れっこだけどさ。

 

 

 

「あわわわ……セツナ先輩……」

 

 

 

 会場の出入り口付近で心配そうにオロオロしているルイくんに、ヒラヒラと手だけ振って『大丈夫だよ』とジェスチャーする。

 

 出鼻くじかれた感あるけど気を取り直して……

 

 ボクが闘うフィールドの隣には、もう1つ決闘(デュエル)フィールドが設置されている。そちらでは反対側のトーナメントの第一試合が、こちらと同時に行われるみたいだ。

 

 声援と野次の入り交じる中で、ボクも自分の決闘(デュエル)フィールドに上がる。そこには、ボクの最初の対戦相手が、すでに待ち構えていた。

 

 腕を組んで仁王立ちしている、黒髪短髪の男子だった。眉毛が太くて目力が強い。猛々(たけだけ)しい雰囲気で、ザ・体育会系って感じだ。

 

 

 

「ハーーーハッハッハッ!! ついに来たな総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)くん!! 待っていたぞっ!!」

 

(声デカッ!?)

 

 

 

 彼はボクと目が合った途端に、大口を開けて豪快な笑い声を上げた。腹の底から張り上げてる様な、必要以上に大きい声がボクにぶつかってくる。声量あり過ぎて会場の外にまで漏れ聞こえてそう。

 

 

 

「俺は2年の猪上(いのうえ) (あつし)!! 次期十傑(じっけつ)候補の一人だ!! 同級生(タメ)同士よろしくな!!」

 

「! 次期十傑……」

 

 

 

 以前アマネに聞いた事がある。

 

 『次期十傑候補』──。読んで字の如く、次代の『十傑』の座を期待されている優等生を指す総称だ。

 つまり実力は現・十傑とほぼ同等ってわけか……これは早速、強敵の予感。

 

 

 

「……良いね、楽しめそうだ。よろしくね」

 

「おうっ!! 熱い決闘(デュエル)にしよう!!」

 

(あ、暑苦しい……)

 

 

 

 まさかルイくんの弟のケイくん以上の熱血漢がいたとは。背景が燃え盛る炎になってるし。

 

 おっと、そろそろ始まるから準備しないと。

 デュエルディスクを起動して、カードをセットするプレート部分を展開する。デッキが自動(オート)でシャッフルされて、ライフカウンターに『4000』と数値が表示される。予選開始時刻の10時まで、後……1分。

 

 猪上(いのうえ)くんと対峙し、時が来るのを静かに待つ。観客も空気を読んだのか、水を打った様に静まり返っていた。

 

 

 

(先輩……)

 

 

 

 後10秒……心地よい緊張感が心臓の鼓動を高鳴らせ、神経を研ぎ澄ませている。

 …………3、2、1──(ゼロ)

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 選抜デュエル大会・開戦!!

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 猪上(いのうえ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「俺の先攻! 手札5枚ドローッ!!」

 

 

 

 決闘(デュエル)スタートの宣言が合図となって、再び客席で喝采が沸き起こる。

 お互いに初手のカード5枚を引く。果たして猪上くんは、どんな戦術を披露してくるのか……

 相手は来年の今頃には、十傑に名を連ねてるかも知れない決闘者(デュエリスト)。決して油断は出来ない。

 

 

 

「よぉし! 行くぞぉ!! 俺はフィールド魔法・【バーニングブラッド】を発動!!」

 

「!」

 

 

 

 地鳴りと共に猪上くんの背後に活火山が切り立ち、轟音を響かせ噴火した。

 

 

 

「おぉっしゃあっ燃え上がってきたぁぁぁあっ!!! ふるえるぞハート! 燃えつきるほどヒート!! おおおおおっ、刻むぞ血液のビート!!」

 

 

 

 なんかのマンガで読んだ気がするセリフを裂帛(れっぱく)の気合いで叫び出す猪上くん。とりあえず、ただでさえ高いテンションが更に上がったのは大いに伝わった。

 

 

 

「【バーニングブラッド】がフィールドにある時、炎属性の攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ダウンする!! 俺は【バーニングソルジャー】を召喚!!」

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 1700

 

 

 

「【バーニングブラッド】の効果で、攻撃力アップ!!」

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 1700 + 500 = 2200

 

 

 

 ──! 1ターン目から攻撃力2000以上のモンスターが出現した……!

 

 

 

「カードを2枚伏せてターン終了だ!! さぁ君のターンだぞ総角くん!! どっからでもかかってこぉい!!」

 

「ほんと元気な人だなぁ……ボクのターン、ドロー!」

 

 

 

 全体強化のフィールド魔法は厄介だけど、ここはありがたく使わせてもらおう。ボクの手札にも、炎属性はいるからね!

 

 

 

「ボクは【ラヴァ・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 1600

 

 

 

「【ラヴァ・ドラゴン】は炎属性。【バーニングブラッド】のフィールドパワーソースを受けて、攻撃力がアップする!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 1600 + 500 = 2100

 

 

 

「ほうっ! 俺のフィールド魔法を有効活用してくるか!! だが攻撃力は【バーニングソルジャー】の方がまだ上だ!!」

 

「分かってるよ、だからもう1枚。装備魔法・【ドラゴンの秘宝】を【ラヴァ・ドラゴン】に装備! 攻撃力300ポイントアップ!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 2100 + 300 = 2400

 

 

 

「ぬっ!?」

 

「バトル! 【バーニングソルジャー】を攻撃!」

 

 

 

 火山を棲み処とするドラゴンが、口腔から溶岩の(たま)を吐き出して攻撃を仕掛ける。

 すると猪上くんは、歯を見せてニヤリと笑った。

 

 

 

(トラップ)発動っ!! 【燃える闘志】!!」

 

「げっ!?」

 

(しまった、あのカードは……!)

 

「この(トラップ)は発動後、装備カードとなる! 【バーニングソルジャー】に装備!!」

 

 

 

 熱く燃える特殊部隊の工作員が、闘志を爆発的に(みなぎ)らせる。

 

 

 

「ふんぬおぉぉぉおっ!! み、な、ぎっっってきたぜぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「いやなんで君まで漲ってるの」

 

「【燃える闘志】の効果ッ! 相手の場に攻撃力(パワー)アップしたモンスターが存在する時、装備モンスターの攻撃力はダメージステップの間、元々の攻撃力の倍になるっ!!」

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 2200 → 3900

 

 

 

「迎え撃て!! 【バーニングソルジャー】!!」

 

 

 

 【バーニングソルジャー】は闘魂を奮い立たせて、目までメラメラと燃えている。そして手に持つ湾曲した刀剣で、【ラヴァ・ドラゴン】の(はな)った溶岩を真っ二つにすると、そのまま突撃して【ラヴァ・ドラゴン】本体をも切り裂いた。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 2500

 

 

 

「ハーーハッハッハッ!! フィールド魔法は相手モンスターにも影響を及ぼす! 君がそれを利用してくる事など予測済みだっ!!」

 

「……ッ」

 

 

 

 この人……ただ熱いだけじゃない。フィールド魔法のデメリットを逆手に取って、きっちり戦略を立てて来てる。さすがは次期十傑候補。

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 3900 → 2200

 

 

 

「……ボクは魔法(マジック)カード・【一時休戦】を発動! お互いに1枚ドローして、次の相手ターンが終わるまで、全てのダメージを(ゼロ)にする!」

 

「俺のターンの攻撃に備えたか! うむっ! いいだろう!!」

 

「カードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「うおしっ! 俺のターンだ! ドローッ!! 俺は【超熱血球児】を召喚だっ!!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 500

 

 

 

「当然【バーニングブラッド】の効果を受けて、攻撃力がアップするぞっ!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 500 + 500 = 1000

 

 

 

「それだけではない!! 【超熱血球児】は他の炎属性1体につき、1000ポイント攻撃力をアップする!!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 1000 + 1000 = 2000

 

 

 

 また攻撃力が倒し(がた)い数値に……! しかもあのモンスターは炎属性が増える度に強くなるのか。早いとこ対処しなきゃ。

 

 

 

「ダメージを与えられない以上、攻撃する意味はない! ターンエンドだ!!」

 

 

 

 ここで【一時休戦】の効果は終了する。

 

 

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 さーてと、困ったぞ。猪上くんの場に【燃える闘志】がある限り、ボクは迂闊にモンスターを強化できない。【バーニングソルジャー】を戦闘で破壊するには、元々の攻撃力が2200より高いモンスターを出す必要がある。

 

 

 

(……ひとまず今は守備で凌ぐしかない!)

 

 

 

「ボクはモンスターを裏守備でセット! さらに1枚カードを伏せて、ターンエンド!」

 

「どうしたどうしたぁ! もっと熱くなれよぉぉぉぉっ!! 俺のターン! ドローッ!!」

 

 

 

 このターンから猪上くんの猛攻が始まる。耐え切れなければ最悪ボクの負けだ。

 

 

 

「俺は【スティング】を召喚!!」

 

 

 

【スティング】 攻撃力 600 + 500 = 1100

 

 

 

「炎属性が場に出た事で、【超熱血球児】の攻撃力が更にアーップ!!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 2000 + 1000 = 3000

 

 

 

「攻撃力3000……!」

 

「バトルだぁ!! 俺の炎を受けてみろ!! 【バーニングソルジャー】で、守備モンスターを攻撃ッ!!」

 

 

 

 セットしていたモンスターは【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】。為す術もなく破壊されて、絵巻が焼き払われる。

 

 

 

「今の攻撃で発動しなかったという事は、その伏せカード達はブラフか!? それとも直接攻撃に対して反応する(トラップ)か!?」

 

「……さぁ、どうだろうね?」

 

「いずれにせよ関係ない!! 俺のモットーは〝猪突猛進〟!! 前進あるのみだぁーっ!!」

 

 

 

 【超熱血球児】が(トゲ)の生えた金属バットを素振りして、攻撃の指示を待っている。

 

 

 

「うおらぁーっ!! 【超熱血球児】でっ! プレイヤーに直接(ダイレクト)アターックッ!!」

 

 

 

「──惜しかったね、猪上くん。伏せ(リバース)カード・オープン! 【ガード・ブロック】!」

 

「むっ!?」

 

「戦闘ダメージを(ゼロ)にして、カードを1枚ドローできる!」

 

 

 

 正解は、『ダメージを無効にする』(トラップ)でした。【超熱血球児】の渾身のバッティングは空振りに終わり、ボクは手札を補充する。

 

 

 

「ハハハハッ! やってくれたな! だが俺の攻撃はまだ残っているぞ!! 【スティング】で直接攻撃だ!! 『オーライ! ヒノタマソウル! アタック!!』」

 

 

 

 巨大な火の玉のモンスターがボクに体当たりしようと迫り来る。

 ボクは一瞬、自分の足下に伏せられている、2枚目のリバースカードに視線を送った。

 

 

 

(【戦線復帰】……! 今発動すればこの攻撃は防げる……でも、ここで【ラヴァ・ドラゴン】を蘇生しても、【バーニングブラッド】に守備力を下げられて破壊されるだけ……それなら!)

 

 

 

 逡巡したけど、ボクは相手の攻撃を通す判断をした。炎の(カタマリ)が激突して、身体を焼かれる。

 

 

 

「ぐっ……うああああっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 2500 → 1400

 

 

 

「さらに【超熱血球児】の効果を発動ッ!! こいつ以外の炎属性を墓地に送る(ごと)に、500ポイントのダメージを与える!!」

 

「なっ……!」

 

「もう一度【スティング】を喰らわせてやるぜ!! かっ飛ばせ!! 【超熱血球児】!!」

 

 

 

 【超熱血球児】はバットをフルスイングして、【スティング】を野球のボールの様に打ち飛ばした。打球となった【スティング】が、狙い通りボクに直撃する。

 

 

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 1400 → 900

 

 

 

 ライフポイントは残り3桁。セーフティラインを越えてしまった。デュエルディスクに表示されたライフ数値の色が赤に変わる。

 

 

 

「っしゃあーーーッ!! ナイスバッティンッ!!」

 

 

 

 拳を握って快哉(かいさい)を叫ぶ猪上くん。観客席からも歓声が聞こえた。

 

 

 

「おいおいさっきから一方的だぞ、どうした期待の新星!」

 

「まさか予選1回戦で早くも敗退かー!?」

 

「やっぱ九頭竜さんに勝てたのはマグレだったんじゃねぇのかー!?」

 

 

 

 ……うーむ。好き放題に言われちゃってるなぁ。侮っていたつもりはなかったけど、ここまで追い詰められるとは。

 

 

 

「炎属性が1体減った事で、【超熱血球児】の攻撃力も下がる!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 3000 → 2000

 

 

 

「これで俺のターンは終了だ!!」

 

「……ボクのターン」

 

 

 

 【バーニングソルジャー】を【超熱血球児】の効果で打たなかったのは、それをする事で【超熱血球児】の攻撃力が1000に下がって、反撃されるのを防ぐ為か。次のターンで新たな炎属性を召喚して、トドメを刺せば良いんだからね。

 

 ──でも、どうにか首の皮一枚つながった。このボクのターンで、劣勢を(くつがえ)す!

 

 

 

「猪上くん」

 

「ぬ?」

 

「君がそこまでボクとの決闘(デュエル)に燃えてくれてるなら、ボクもちゃんと応えないとだよね」

 

 

 

 ボクはメガネを外して裸眼になり、(ひら)けた視界に猪上くんの姿を真っ直ぐ捉える。雑念を捨て去り、全身全霊を以て決闘(デュエル)に没頭できる状態を作り上げた。

 

 

 

「……!!」

 

「ここからが本当の勝負だよ!!」

 

「──おうっ!! ようやく熱くなってきたな!!」

 

「ドロー! まずは(トラップ)発動! 【戦線復帰】! 墓地の【ラヴァ・ドラゴン】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 守備力 1200 - 400 = 800

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 2000 + 1000 = 3000

 

 

 

 フィールド魔法・【バーニングブラッド】の効力によって守備力がダウンした上に、炎属性を出した事で【超熱血球児】の攻撃力も3000に戻った。

 けれど問題じゃない。【ラヴァ・ドラゴン】の真価は、守備表示でこそ発揮されるんだ。

 

 

 

「【ラヴァ・ドラゴン】のモンスター効果! 守備表示のこのモンスターをリリースする事で、手札と墓地からレベル3以下のドラゴンを特殊召喚できる! 出ておいで! 【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】! 【プチリュウ】!」

 

 

 

【プチリュウ】 守備力 700

 

【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】 守備力 300

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 3000 → 2000

 

 

 

 フィールドに2体のモンスターが出揃う。この時を待っていた……いよいよ出番だよ、ボクのデッキのエース!

 

 

 

「そしてこの2体のドラゴンをリリース! 【ラビードラゴン】を、アドバンス召喚!!」

 

 

 

 白くて柔らかい体毛に覆われた巨躯を持ち、ウサギの様な長い耳を生やしたドラゴンが、両翼を羽ばたかせ舞い降りた。

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「やった! 先輩のエースモンスターです!」

 

「おおおぉ!! それが君の切り札か!!」

 

「【ラビードラゴン】で、【超熱血球児】を攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】の大きく開かれた口の中から、白い光線が放出される。

 

 

 

「うむ! 見事な闘志だ!! しかし……詰めが甘い!! (トラップ)発動! 【業炎(ごうえん)のバリア -ファイヤー・フォース-】!!」

 

「!?」

 

「この(トラップ)は相手の攻撃モンスターを全て破壊し、その攻撃力の合計の半分のダメージを俺が受け、同じ数値分のダメージを相手にも与える!!」

 

 

 

 渦を巻く業火の防壁(バリア)が【ラビードラゴン】の光線を防ぎ、それに炎を上乗せして跳ね返した。

 このまま【ラビードラゴン】が破壊されたら、お互いに攻撃力の半分、1475ポイントのダメージを受けて、ボクのライフが(ゼロ)になる……!

 

 

 

「俺の勝ちだぁーっ!!」

 

「セツナ先輩!?」

 

「そうは……させないよ!! カウンター(トラップ)! 【白銀のバリア-シルバー・フォース-】!!」

 

「なんだとっ!?」

 

 

 

 【ラビードラゴン】を護る様に白銀の竜巻が発生し、業炎のバリアに反射された光線を(はじ)き返した。

 

 

 

「【シルバー・フォース】はダメージを与える(トラップ)を無効にし、相手の場の、表側表示の魔法(マジック)(トラップ)カードを全て破壊する!」

 

「全てだと!? という事は……【バーニングブラッド】と【燃える闘志】までもが!?」

 

 

 

 白銀のバリアが(はじ)いた光線が分散して、猪上くんの場の【業炎のバリア -ファイヤー・フォース-】と【燃える闘志】、そして【バーニングブラッド】を、一斉に破壊した。

 

 

 

「【バーニングブラッド】が消えた事で、炎属性の攻撃力は元に戻る!」

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 2200 → 1700

 

【超熱血球児】 攻撃力 2000 → 1500

 

 

 

「ぐうっ……!」

 

「これで【ラビードラゴン】の攻撃は有効! 行け!!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

 再度【ラビードラゴン】は光線を放ち、ついに【超熱血球児】を吹き飛ばした。

 

 

 

「うおおおおおっ!!」

 

 

 

 猪上 LP 4000 → 2550

 

 

 

 (トラップ)カードには若干……というか、かなり肝を冷やしたけど、やっと猪上くんのライフを削れた。

 これで相手フィールドのカードは【バーニングソルジャー】1体のみ。形勢は逆転できたはず。

 

 

 

「ボクは最後にカードを1枚セット! これでターンエンド!」

 

「……ハッハッハッハ……」

 

「? 君のターンだよ? 猪上くん」

 

「ハァーーハッハッハッハッハッ!! (たかぶ)る! 昂るぞぉ!! そうだ!! 決闘(デュエル)とはやはりこうでなくてはなっ!! 魂と魂のぶつかり合い!! それこそが俺の全身からアドレナリンを掻き出し! この身体の中の血液を沸騰させるぅ!!」

 

「う、うん、分かった、分かったから」

 

「俺のターン(DAー)!! ──ッ! よおっしゃあぁぁっ!! 俺の熱血デッキの最強モンスターを引いたぜっ!!」

 

「……!」

 

「手札から魔法(マジック)カード・【スター・ブラスト】発動!! このカードは手札のモンスターのレベルを任意の数だけ下げる事が出来る! ただし、俺はその数 × 500ポイントのライフを支払う!」

 

 

 

 猪上 LP 2550 → 50

 

 

 

「一気にライフを50まで減らした!?」

 

「俺は手札の、【ヘルフレイムエンペラー】のレベルを5つ下げる!!」

 

「!」

 

 

 

 確か【ヘルフレイムエンペラー】のレベルは9。5つ引いたらレベル4になって、リリース無しで召喚できる!

 

 

 

「来い!! 【ヘルフレイムエンペラー】!!」

 

 

 

 フィールド全体に灼熱の炎が巻き起こり、激しくうねる猛火は、やがて巨大な魔獣の威容を(かたど)った。獅子の頭部に人型の上半身。下半身は4本脚で、大きな翼を広げて尻尾を生やしている。それはさながら神話の生物──ケンタウルスを彷彿とさせる姿だった。

 

 

 

【ヘルフレイムエンペラー】 攻撃力 2700

 

 

 

(ここに来て、こんな上級モンスターを……!)

 

「でも、攻撃力なら【ラビードラゴン】の方が……」

 

「そいつはどうかな!! 俺の手札には──2枚目の【バーニングブラッド】があるのだっ!!」

 

「なっ!?」

 

「発動ッ!!」

 

 

 

 猪上くんは最後の手札に【バーニングブラッド】を温存していたのか……! 再びフィールド上に火山が屹立(きつりつ)する。

 

 

 

【ヘルフレイムエンペラー】 攻撃力 2700 + 500 = 3200

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 1700 + 500 = 2200

 

 

 

「ハッハッハ! どうだぁーーーっ!! これで【ヘルフレイムエンペラー】で【ラビードラゴン】を倒し! 【バーニングソルジャー】で直接攻撃(ダイレクトアタック)すれば、今度こそ俺の勝ちだっ!!」

 

「っ……!」

 

「バトルッ!! 【ヘルフレイムエンペラー】の攻撃!! 『猪上ファイヤー』!!」

 

「い……猪上ファイヤー!?」

 

 

 

 技名はアレだけど、威力は絶大だ。【ヘルフレイムエンペラー】の口から放たれた火炎放射が【ラビードラゴン】を襲う。

 

 ──そう来ると、思っていたよ!

 

 

 

「リバースカード・オープン! 【燃える闘志】!!」

 

「なにぃ!?」

 

「言ったでしょ。君の熱意には、ちゃんと応えるって!」

 

 

 

 前のターン、ドローフェイズでこの(トラップ)を引き当てた時は、ボクも驚いた。ボクのデッキから猪上くんへの、ちょっとした意趣返しだ。

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950 → 5900

 

 

 

「攻撃力、5900だとっ!?」

 

「チェックメイトだ!! 【ラビードラゴン】の迎撃!!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

 【ラビードラゴン】は戦意を滾らせ吼え猛ると、白光の奔流を放射した。初撃よりも遥かにパワーを増した極太サイズの光線が、半人半獣の魔物に擬態した猛炎を飲み込み、消滅させる。

 

 

 

「どわああああああっ!!!!」

 

 

 

 猪上 LP 0

 

 

 

 決闘(デュエル)は決着。カードの立体映像(ソリッドビジョン)が消え、フィールドの景色は元に戻る。沸き上がる歓声を聞きながら、ボクは息を吐いて胸を撫で下ろした。

 

 

 

(ホッ……良かった、勝てた)

 

「くっ……ハーーーッハッハッハッ!! ちくしょう完敗だっ!! だが熱く楽しい決闘(デュエル)だったな!! 次こそは俺が勝ぁつ!!!」

 

「ボクも楽しかったよ。また()ろうね、猪上くん!」

 

「おうっ!! 俺の分まで勝てよ!!」

 

 

 

 猪上くんと笑顔で固い握手を交わす。……手汗スゴッ……

 まぁ、実際手に汗握るギリギリの勝負だったのは違いない。初日からこれとかこの大会ハードモード過ぎない?

 

 何はともあれ、どうにか1回戦を突破できた。メガネを掛け直しながら決闘(デュエル)フィールドを降りると、ルイくんがトテトテと女の子走りで駆け寄って来てくれた。

 

 女の子走りで駆け寄って来てくれた。(大事なことなので2回言いました)

 

 

 

「せ、先輩! おめでとうございます!」

 

「うん、ありがとう。危うかったけど何とか勝てたよ」

 

 

 

 ルイくんの小さな肩に、ボクは優しく手を乗せる。

 

 

 

「さっ、次はルイくんの番だよ」

 

「…………はい……!」

 

 

 

 彼の声は微かに震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時進行していたもう片方の一試合目も終わり、続いてD-ブロック第2試合の時間が刻々と近づいてきていた。

 

 

 

「うっ……うぅ……」

 

「ルイくん、もう少しだよ。がんばって」

 

 

 

 緑色のデュエルディスクを抱き抱えたルイくんは、会場の入場口からだいぶ離れた位置で、ずっと立ち尽くしていた。細い足は小刻みに震えるばかりで、床に固定されたかの様に前に進まない。

 

 気持ちは分かる。場内に入って一度(ひとたび)フィールドに立てば、待っているのは今まで散々ルイくんをイジメてきた、あの金沢(かなざわ)くんだ。尻込みするなって言う方が酷だろう。できる事なら逃げ出したいとすら考えているかも知れない。

 

 ルイくんのランクは学園で最も弱いとされる『E』。

 対する金沢くんは、それより2つも格上のランク・『C』。その上ルイくんが何度も決闘(デュエル)させられて、全戦全敗している相手だ。

 実力の差は明白。あまりにも分が悪い。

 

 

 

 ──だけど、それは少し前までのルイくんだったら、の話。

 

 この数ヶ月……選抜試験本番に向けて、彼の決闘(デュエル)の特訓に付き合ってきたボクには分かる。

 

 ルイくんには素質がある。最大の弱点である精神面(メンタル)の弱ささえ克服できれば、化ける可能性を十二分に秘めている。

 その為にも必要なのは、『やれば出来るんだ!』という実感と、それに基づく自信。そう、彼に足りてないのは自信だ。

 金沢くんとの決闘(デュエル)に勝利できた時、ルイくんはきっと、大きな成長を遂げられるだろう。

 

 ……とは言え、このままじゃ決闘(デュエル)どころか、出場する前に不戦敗(リタイア)になりそうだね。

 よし。ここはひとつ、ボクの秘伝の(ワザ)で、ルイくんの不安と緊張を(やわ)らげて差し上げよう。

 

 

 

「ルイくん、こっち向いて」

 

「えっ……ひゃあぁ!?」

 

 

 

 ボクは両腕を広げて、ルイくんを正面から抱き締める。突然ハグされて顔を真っ赤に染めるルイくん可愛いいいいいいいいいっ!!!!

 

 にしても()っそ!! 身長も低くて、腕の中にすっぽりと納まるサイズ感! 華奢な体格だから本気で(ちから)を込めたらボクでも折れそうだ。

 

 

 

「はわわわっ、せ、せんぱい……?」

 

「昔さ……ボクの大切な人が、ボクがルイくんみたいに不安や恐怖に押し潰されそうになった時……いつもこうして、抱き締めてくれたんだ」

 

「……!」

 

「そうすると不思議と安心してくるんだよね……どう? 落ち着いた?」

 

「……」

 

 

 

 ルイくんはボクの胸板に、ポスンと顔を(うず)めた。アカン、可愛すぎて悶絶しそう。

 

 

 

「ふあ……あったかいです……セツナ先輩の胸の中……あったかい……」

 

 

 

 ん"んんんんんんんんんんんっ!!!(悶絶)

 もうやめて!! ボクのライフは(ゼロ)よ!!

 

 この愛くるしい生き物の抱き心地を、まだ堪能していたかったけど、もう試合まで時間がないし、何よりこれ以上はボクの身が()たない。色々な意味で。

 名残惜しいけれど腕を離して、ルイくんを解放する。男同士で抱き合ってるとこ誰かに見られなくて良かった。いや、ルイくんは女顔に見えなくもないから、ギリセーフ……かな? マキちゃん辺りに目撃されたらしばらくネタにされてたかも。

 

 ルイくんの可愛さに悶え過ぎて、(ほお)が緩むのを必死に(こら)えながら、ポーカーフェイス()を取り繕って、ボクは口を開いた。

 

 

 

「……ルイくん。ボク達が初めて会った日のこと、覚えてる?」

 

「……はい。あの時は助けてくれて、本当にありがとうございました」

 

「あの時、金沢くんにデッキをバカにされた時、ルイくん言い返してたよね」

 

 

 

 自分自身はどれだけ罵倒されても言われっぱなしだったルイくんが、自分の愛するデッキを侮辱された途端、初めて反論したんだ。

 〝僕のデッキをバカにしないで!〟って。

 

 

 

「その気持ちさえ忘れなければ、今の君なら負けないよ」

 

「……!」

 

「2回戦で、待ってるよ」

 

「はい……! 行ってきます!」

 

 

 

 小走りで会場に向かって駆けていくルイくん。ハグが効いたみたいで一安心。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 ……ちょっとだけ、昔の()()を思い返しちゃった。

 

 さて、ボクも応援席に移動するとしますか。──頑張ってね、ルイくん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

「これこれ。廊下を走ってはいけないよ」

 

「あっ……(たか)()(どう)先生……!」

 

「ついに出番だね、(いち)()()君」

 

「……はい……」

 

「……うむ、とても良い眼をしている。迷いのない、強い決闘者(デュエリスト)の眼になった」

 

「僕が……強い……?」

 

「勇気を振り絞り、自らの意志で挑戦する道を選んだ君に、教育者として私から1つアドバイスだ。──ライフポイントが残っている限りは、最後までカードをドローしなさい。諦めなければ、きっとデッキは応えてくれる」

 

「先生……!」

 

「楽しんできたまえ」

 

「──はい! ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観客席の最前列に並ぶ椅子の1つに、腰を下ろす。ここならルイくんの決闘(デュエル)がよく見える。

 

 

 

「兄貴ィィィィィッ!! 応援に来たぜっ!! って、まだ始まってねぇのかよ!!」

 

 

 

 ……非常に聞き覚えのある大声が会場内に()(だま)した。他の観客(ギャラリー)から奇異の目の集中砲火を浴びながら来場したのは、果たしてルイくんの弟・一ノ瀬 ケイくんだった。

 オレンジ色の短い髪が余計に人目を引いているけど、ケイくんはそんな周囲の視線なんて()()にも掛けず、最前の空いている席を目指してか堂々と階段を下りてきた。

 

 

 

「おーい、ケイくーん。こっちこっち~!」

 

「んあ? あっ! セツナの(あに)さん!! チワッス!!」

 

「あ、(あに)さん? なにそれ……」

 

「俺は認めた男にはそう付けるんすよ。ご無沙汰してます」

 

「嬉しい様な()めてほしい様な……」

 

 

 

 ボクの隣にドカッと座り込むケイくん。デカイな~、相変わらず。これで中2ってのが未だに信じられない。着てる制服は青色だから疑いの余地は無いんだけどさ。

 

 中等部の生徒は大会に参戦(エントリー)は出来ないけれど、見学は自由らしい。他にも青い制服を着た生徒をチラホラ見かける。

 

 

 

「ケイくんが応援してくれるなら、ルイくんも心強いと思うよ」

 

「いよいよ兄貴のデビュー戦っすからね! 観ないわけにはいかねぇぜ!」

 

「あー、いたいた。セツナ! っと……あぁ、ルイくんの弟くんね。久しぶり」

 

「あ、アマネ」

 

「チッス! 黒雲(くろくも)(あね)さん!」

 

「な、何よ(あね)さんって……アマネで良いわよ」

 

 

 

 アマネもやって来て、ケイくんの隣の席に腰かけた。

 

 

 

「アマネって確か『N-ブロック』の一試合目だったよね? どうだった?」

 

「決まってるでしょ、楽勝よ」

 

「さすが」

 

 

 

 まぁアマネが1回戦でつまずくわけないよね。ちなみにマキちゃんは『M-ブロック』の二試合目が出番だった筈だから、ルイくんと同じくそろそろ準備をしている頃かな。

 

 

 

「そういうセツナは? まさか負けてないわよね?」

 

「何とか勝てたよ。いやぁ~手強かったなぁ」

 

「なら良し」

 

「──おっ! 出てきたぜ!」

 

 

 

 急にケイくんが手前の柵を掴んで身を乗り出した。決闘(デュエル)フィールドに目線を落とすと、二試合目の組み合わせに選ばれた参加者(デュエリスト)達が、続々と登場してきていた。

 広い場内に2つ(へい)()された決闘(デュエル)フィールドの一方では、男女の対戦ペアが互いの健闘を祈って握手をしている。

 

 そしてもう一方には……

 

 

 

「よぉ一ノ瀬ぇ、逃げなかったのは誉めてやるぜ?」

 

「っ…………」

 

 

 

 余裕どころか、完全に相手を舐めきっている様な、リスペクトの欠片(カケラ)も感じられない(いや)しい笑みを浮かべている金沢くんと、反対に表情が険しく、試合前からいっぱいいっぱいと言った様相のルイくんが向かい合っていた。

 

 

 

「……っ……は……ぁ……」

 

(……? なんかルイくん、様子が変だな……)

 

「兄貴ィーッ!! かっ飛ばせぇーっ!!」

 

 

 

 ……やっぱり妙だ。ケイくんの、アマネが耳を塞ぐくらいデカイ声援にも、ほとんど反応を示さない。顔色は悪いし動きもぎこちない。

 

 

 

「自分がどんなに身のほど知らずか思い知るんだなぁ!!」

 

「──ッ!」

 

 

 

 デュエルディスクを共に構える二人。さぁ始まるよ、D-ブロック二試合目。

 ルイくん……君の力を、見せつけてやれ!

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 ルイ LP(ライフポイント) 4000

 

 金沢(かなざわ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「先攻はてめぇにくれてやるぜ。さっさとカードを出しな!」

 

「は、はい……!」

 

 

 

 覚束(おぼつか)ない仕草で5枚の手札を引くルイくん。

 ダボッとした大きめな制服を着ているので、身の丈に合わない長さの(そで)が手の甲まで覆っており、俗に言う、萌え袖になっている。その袖口から出ている小さな指先だけで、カードを持つ姿は実に愛らしい。

 

 

 

(ど、どうしよう……早く何か、カードを出さないと……で、でも……!)

 

「チッ! おいこらぁ!! なにチンタラしてやがる! とっととカードを出せっつってんだよ!!」

 

「ひっ……!」

 

 

 

 痺れを切らした金沢くんが怒鳴る。少しの間の長考くらい待ってあげなよ。

 ビクついたルイくんは、焦った様子で手札から1枚のカードを抜き出した。

 

 

 

(ダメだよルイくん、冷静にならなきゃ……!)

 

「ぼ、僕は、このカードを!」

 

 

 

【バニーラ】 攻撃力 150

 

 

 

 まるっこい体型をした小さくて可愛らしいウサギが、人参(ニンジン)(かじ)りながら出現した。

 直後、ルイくんは顔面蒼白になる。

 

 

 

「あっ……!」

 

「あっちゃ~、ルイくんったら……」

 

 

 

 ボクは思わず頭を抱えた。本来【バニーラ】は守備力が2050もある優秀な壁モンスターだ。それをみすみす攻撃表示で棒立ちさせるなんて、普段のルイくんなら絶対に有り得ない。

 これはアレだね……すっかり()()()()()

 

 

 

「ぷっ、ギャッハッハッハッハッハ!! バッ、【バニーラ】を攻撃表示だぁ!? おいおい、一ノ瀬! いきなり笑わせに来てんじゃねーよっ!」

 

 

 

 無遠慮に吹き出して哄笑する金沢くん。他の観客も、ルイくんと【バニーラ】を指さして笑っていた。

 

 

 

「あんにゃろおぉぉぉ……! 俺の兄貴を馬鹿にしやがってぇぇぇぇっ……!」

 

「ケイくん落ち着いて」

 

 

 

「で? 次はどうすんだよ? やることねぇならとっととターンエンドしな!」

 

「す……すいません……ターン、エンドです……」

 

 

 

 ルイくんは肩を落として、か細い声でターンの終了を告げた。笑われた恥ずかしさからか、すでに涙目になっている。

 

 

 

「ケッ、相変わらず歯ごたえのねぇ。俺のターン!」

 

(どうせ俺の勝ちは決まってるからな。存分に遊ばせてもらうぜ)

 

「俺は【サイファー・スカウター】を召喚!」

 

 

 

【サイファー・スカウター】 攻撃力 1350

 

 

 

「うっ……!」

 

「攻撃表示ってのはなぁ、こういうモンスターを出すんだよ! 行け! 【サイファー・スカウター】! 奴の雑魚モンスターを蹴散らせ!」

 

 

 

 【サイファー・スカウター】はスナイパーライフルで【バニーラ】をロックオンし、狙撃した。弾丸が命中した【バニーラ】は無情にも粉砕され、ルイくんも爆風に見舞われる。

 

 

 

「わあぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 ルイ LP 4000 → 2800

 

 

 

 衝撃の余りバランスを崩して、あっさりと尻餅を突いてしまうルイくん。その拍子に手札のカードが落ちて、バラバラと床の上に散らばった。

 

 

 

「一ノ瀬ぇ! てめぇなんざ俺の敵じゃねぇ!!」

 

「っ……くうっ……」

 

 

 

 見下し、嘲り笑う金沢くんを、ルイくんは怯えた目で見上げる事しか出来なかった。

 

 

 

 





 セツナ、1回戦突破!

 ルイくん、いきなり負けそう! ガンバッテー!!(`;ω;´)

 どうしてもルイくん戦の序盤を導入部分としてここまで書きたかったので、少し長くなりました。
 ルイくんの可愛さが天元突破して、セツナが悶え苦しんだ回になりました(笑)

 【ラビードラゴン】も【バニーラ】も同じパックに入っていたの、運命的な何かを感じますね(?)

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