遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 デュエルはページの終盤からスタートです!( °ロ°)

 予想以上に長くなってしまったので前編・後編に分けました!



TURN - 2 Aimed Muzzle - 1

 

 次代のエリート決闘者(デュエリスト)を育成する教育機関・『デュエルアカデミア』。

 

 世界中に数多く点在する公共施設で、このデュエリスト人口が過密している巨大都市・『ジャルダン・ライブレ』にも、中高一貫の超・マンモス校が供給されている。

 

 そしてボクは今日から、その『デュエルアカデミア・ジャルダン校』に転入し、晴れて学園の生徒の仲間入りを果たす。所属は高等部2年生。筆記試験と実技試験を辛勝でパスしての中途入学だ。

 

 これからこの学び舎で、笑って泣いて、(みんな)と楽しく決闘(デュエル)しながら日々を過ごして、かけがえのない青春を謳歌(おうか)できるのかと思うと、期待に胸が高鳴る。

 ボク・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)の切望した、自由で平穏な学園生活(スクールライフ)が今、始まるんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………の、(はず)だったんだけどなー……」

 

 

 

 広々とした館内に立ち尽くすボクの、悲し気な(ひと)(ごと)は、誰の耳にも届かないまま虚しく空中に霧散して消えた。

 

 突き刺さる十数の視線。

 ザワつく会場。

 徐々に増えていく観客(ギャラリー)の人数。

 たまに飛ぶ野次(ヤ ジ)

 何ならボクの方には、ゴミとかも飛んできてる。

 

 だけど今ボクが何よりも意識を向けているのは…(いな)、向けざるを得ないのは……

 

 それら全ての雑音(ノイズ)が霞む程の圧倒的な存在感(オーラ)を放ち、左腕に装着したデュエルディスクを構えながらボクと対峙する、一人の決闘者(デュエリスト)の存在だった。

 

 相手と同じくボクの左腕にも、すでにデュエルディスクが装着してある。

 

 そして、ボク達が立っている場所は、円形の最新式デュエルフィールド。

 (たが)いに所定の位置に着き、いつでも始められる(・ ・ ・ ・ ・)状態になっている。

 

 

 

 ど う し て こ う な っ た !!

 

 

 

 急展開すぎじゃない!?これが小説だったら、読者の置いてけぼりも甚だしいよ!

 

 

 

「おい!何をボーッとしてやがる、とっとと始めるぞ!」

 

 

 

 いつまでもボクが逡巡して、ディスクを起動しない事に気づいた相手が怒鳴り声を上げた。

 

 

 

「……分かったよ。お手柔らかに」

 

(…あーあ、こんな変な目立ち方したくなかったのに……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――― 半日前まで遡り、事の顛末を説明しよう。

 

 記念すべき最初の登校日から遅刻ギリギリで校舎内に滑り込むという、よくある漫画の1ページ目みたいな大ポカをやらかしたけど、運よく始業の時間には何とか間に合った。セーフだよね!?

 

 

 

総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)です。パンダとカレーが好きです。仲良くしてねぇ~!」

 

 

 

 と、言った具合に、笑顔で手をヒラヒラと振りながら簡単な自己紹介をして、教室中から鳴り響く温かい拍手を一身に浴びながら、担任の先生に指定された自分用の席に座る。おお、憧れの窓際だ。

 ここまで来ると、なんだか本当に漫画かアニメの主人公になった様な気分だ。正直ドキドキしたけど、上手いこと噛まずに喋れたぞ。ボク、グッジョブ!

 

 

 

 授業を一通り終えた後、お待ちかねの昼休みに突入した。生徒は学園の食堂で昼食を取るらしいのだけど、困った事に所在地が分からない。

 そこで、通りかかった女子生徒を一人つかまえて、案内してもらえないか頼んでみた。

 

 

 

「ふむふむ、なるほど。食堂が何処(ど こ)にあるか分からないと。OK、私についてきて!」

 

 

 

 その子は朗らかに笑って、快く道案内を引き受けてくれた。なんて優しい世界。

 

 

 

 彼女の名前は、黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)

 

 背中まで伸ばした長い黒髪に、赤のメッシュが入ってるのが特徴で、両の瞳にも、綺麗な赤色を宿している。

 左耳には、3つもピアスが付いていた。

 陶器の様に白い肌の持ち主で、顔も可愛く、プロポーション抜群の美少女。

 そして胸も(おお)き…ゲフンゲフン!

 

 

 

「?どうしたの?」

 

「いや、なんでも……ところで黒雲(くろくも)ちゃんはさ…」

 

「『アマネ』で良いよ。クラスメートは(みんな)そう呼んでる」

 

「じゃあ、アマネ」

 

「わおっ。いきなり呼び捨てにされるのは初めてかも。チャラ男だね~総角(アゲマキ)くんは~!」

 

「あはは。ボクの事も、セツナって呼んでくれて良いよ?」

 

「りょーかい。セツナね。それで、話の続きは?」

 

「そうそう、アマネは今度の、選抜デュエル?には出場するの?」

 

 

 

 その情報は、授業の最中に先生から伝達された。

 

 『デュエルアカデミア・ジャルダン校 - 高等部・選抜デュエル大会』

 

 デュエリストであれば、誰でも一目で興味を惹かれる題名(タイトル)の通り、この学園に在籍する高等部の生徒、全員を対象にした大規模な催事で、生徒(ボク)達にとっては将来の進路に関係する、重要な一大イベントだ。

 

 何故なら、この大会には一般の観戦者だけでなく、世界中のプロ・リーグから、スカウトマンが集まり、時には現役で活躍するプロ・デュエリストや、リーグ代表者と言った、錚々(そうそう)たる顔触れも来賓する。

 

 つまり、大会で上位に勝ち進んだ者、優秀な戦績を残した者、ご高名(プロ)のお眼鏡(メガネ)(かな)った者などは、上手くすればスカウトされて、プロ入りを果たせてしまう可能性だってあるんだ。

 

 参戦するかしないかは個人の自由だけど、世界を目指すデュエリストにとっては正にチャンス。見逃す手はない。

 

 無論、そこまで順調には行かなくとも、勝てば勝つだけ、その成績は今後の為に、色々と有利な材料になる。

 

 特に、この『実力至上主義の学園・ジャルダン校』ではね。

 

 

 

「もっちろん!とっくに参加登録(エントリー)も済ませたよ!セツナは出るの?」

 

「ボクはねぇ~…正直まだ悩んでるんだよね……」

 

「へぇ~、珍しいね?この学園に入ってくる子は皆デュエル中毒(ジャンキー)で闘争心ギラギラだから、9割は即決で参加するのに」

 

「ボクは1割の方みたいだね」

 

「……クククッ!(よう)は怖じ気づいてるって事だろぉ!?転入生!!」

 

「!」

 

「あっ、君は今朝の…金髪のケンちゃん」

 

 

 

 突然ボク達の会話に参入して、目の前に立ちはだかる様に姿を現したのは、今朝ボクが学園に登校する前に、街中でデュエルした相手・金髪のケンちゃんだった。

 

 

 

「だから勝手に、アダ名で呼ぶなっつってるだろうがよ!俺はテメェと仲良くなった覚えはねえっ!…今朝はよくもやってくれたなァ…!」

 

「あ~、うん。そうだね…もしかして、リベンジ?」

 

「ちょっと、金沢(かなざわ)!転入してきたばかりの子に、何いきなり因縁つけてるの!?」

 

 

 

 アマネが(あいだ)に割って入り、金髪のケンちゃんを止めてくれた。

 そっか。彼、金沢(かなざわ)って名前だったんだね。初めて知った。

 

 

 

「チッ、黒雲(くろくも)か…!お前には関係ねぇだろ!」

 

「この子を食堂まで案内する役目を承ってるの。無視は出来ないわ。通行の邪魔だから、そこを退()いて」

 

「…………ッ!」

 

「…………」

 

「……ケッ、まぁいい。俺は伝言があって来ただけだからな」

 

「伝言?」

 

「転入生!今日の放課後、3年の教室に来やがれ!俺らの大先輩が直々に、テメェとのデュエルをご所望だ!」

 

「えっ、デュエル?3年と?……参ったなぁ…デュエルディスクは今、修理中なんだよね」

 

「ハッ、負けるのが(こえ)ぇからって言い訳か?逃げても構わねぇが…その場合テメェは勝負から逃げた臆病者として、『ランク・E』確定だ!!」

 

「…ランク・E…?」

 

「すぐに思い知るだろうぜ、この学園の恐ろしさをよぉ…!クックック」

 

 

 

 それだけ言い残すと、金髪のケンちゃん…(あらた)め、金沢(かなざわ)くんは、ボクとアマネの横を通り過ぎて去っていった。

 

 

 

「セツナ、あんなの気にしなくて良いからね」

 

「うん……でも、わざわざ3年の先輩がボクとデュエルしたいなんて……もしかして、ボクって早くも注目株!?」

 

「いや悪い意味でね!?やっかいな不良グループに、目を付けられたって事なんだよ!?…!…セツナ…(きみ)……転入早々、何しでかしたの?」

 

「ボクまで問題児(もんだいじ)扱いされてる!?」

 

 

 

 気を取り直して、再び食堂へと歩を進める道中、ボクはアマネに、ひとつ質問をした。

 

 

 

「ねぇアマネ先生。さっき金髪のケンちゃ…じゃなかった。金沢くんが言ってた『ランク・E』って?」

 

「あぁ。この学園の、面白(おもしろ)くないカースト制度よ。生徒のデュエルの実力を、上から順に『A・B・C・D・E』の5段階に分けて、ランク付けするの。最強は当然『ランク・A』。逆に最底辺が『ランク・E』。ランクが低い程、周囲の風当たりは強くなるし、ろくなことがないの」

 

(…なるほど…『デュエルの強さが全て』のジャルダン校には、おあつらえ向きのシステムだね…)

 

「ちなみに、アマネのランクは?」

 

「自慢じゃないけれど、B」

 

「うひゃー!勝てる気がしない!」

 

「3年にもなると、ランク・Aの化け物がゴロゴロいるわよ」

 

「ボクのランクは?いつ決まるの?」

 

「フフッ、それは今後の努力次第ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先は、あっという間に時が流れていった。

 

 ようやく辿り着いた広すぎる食堂で、アマネと一緒に美味しい学食でお腹を満たすと、午後の授業は眠気に負けて睡眠学習。可愛い顔した美人の先生に、手刀(しゅとう)で叩き起こしてもらった。

 

 そうして気がつけば放課後が訪れていた。クラスメートは続々と下校の準備に取り掛かり、次々に教室を後にしていく。

 

 

 

(ふぅ、初日の全日程、終了っと。さて……行きますか)

 

 

 

 ボクはどうするかと言うと、昼間の金沢くんの呼び出しに応じて、3年生の教室まで(おもむ)く事にした。

 だって、ここですっぽかしたら、後日なにされるか分からないし。

 

 なにより、挑まれた決闘(デュエル)を受けず、相手に背中を向ける事は、ボクの決闘者(デュエリスト)としてのプライドが許さない。

 

 

 

(……ははっ、プライドかぁ。なんだかんだで、ボクもデュエリストだなぁ…)

 

 

 

 ボクの愛機(ディスク)は今朝の一件で故障してしまったので修理に出している。明日まで戻ってこない。

 

 仕方がないので、デュエルディスクは誰かから拝借するとしよう。どこかに貸してくれる親切な人は居ないものか…

 

 

 

「あっ!セツナ先輩!」

 

 

 

 廊下を歩いていると、少年らしき高い声に名前を呼ばれた。この声には聞き覚えがある。

 振り返ると、こちらにトテトテと駆け寄ってくる、茶髪の男の子と目が合った。

 

 間違いない。今朝、仲良しになった、(いち)()() ルイくんだ。

 

 

 

「やっ、ルイくん。半日ぶりだね」

 

「はい!先輩はこれから、お帰りですか?」

 

 

 

 ルイくんの背は低い。だからボクとの身長差で、必然的にルイくんは、ボクと視線を合わせる際、上目遣いになる。

 クリクリした丸い双眸(そうぼう)がボクを見つめる。その緑色の瞳には、純粋無垢な輝きを秘めていた。

 

 かわええのう、かわええのう。あっ、言っておくけど!ボクにアッチ(・ ・ ・)()は無いからね!

 

 

 

「んーっとね、ちょっと野暮用があって3年の教室に…あっ!」

 

(そうだ!この子がいてくれた!)

 

「ねぇルイくん!デュエルディスクって今、持ってる?」

 

「ディスク…ですか?いつも携帯してますけど…」

 

「さすが!ごめんなんだけど…少しの間だけ、それ貸してくれない?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --- 数分後。

 

 

 

「いやぁーっ!!どこ行くんですかセツナ先輩!?ここって3年生の校舎ですよね!?」

 

「そうだよ。ちょうど良いところにルイくんが来てくれて助かった。ボクのディスク、修理中だからさ」

 

「もしかして3年の人とデュエルするつもりなんですか!?というか何で(ぼく)まで連れて来られてるんですか!?」

 

「ルイくんを丸腰で帰らせたら危ないと思って。ほら、また誰かに絡まれたりしたら大変でしょ?」

 

「今の状況も同じくらい危険ですよー!やだー!助けてー!!」

 

「平気平気。これが終わったら、ディスクもすぐに返すからさ」

 

 

 

 というわけで、ルイくんから一時的にデュエルディスクを借用したボクは、元の持ち主であるルイくん本人も引き連れて、今回の決闘(デュエル)の相手…金沢(かなざわ)くん(いわ)く、『大先輩』とやらが待ち受ける、高等部3年生の教室に到着した。

 

 

 

「さぁ~て、鬼が出るか(じゃ)が出るか!」

 

「はわわわわ…!」

 

 

 

 腹は決まった。いざ、出陣!扉が自動で開いてくれたので、遠慮なく中に入らせてもらった。

 

 

 

「こんにちは~!金沢くんに呼ばれて来ました、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)って言いま…ッ!?」

 

 

 

 挨拶(あいさつ)が終わらない内に、眼前に何かが(・ ・ ・)飛んできた。

 

 反射的に右手を動かして、それ(・ ・)が顔に直撃する寸前で、上手いことキャッチする。

 

 人差し指と中指に挟んで掴み取ったのは、1枚のカードだった。

 

 もしボクの反応が間に合わなくてカード(これ)が当たってたら、メガネのレンズが砕けてるところだった。

 いやはや危なかったよ。鬼でもなく蛇でもなく、カードが飛び出してくるなんて。

 

 

 

「せ、セツナ先輩…!?」

 

「……随分(ずいぶん)挨拶(あいさつ)だね…先輩?」

 

「まさか本当に来るとはな。逃げたかと思ったぜ」

 

 

 

 教室の奥で机の上に腰を落ち着けている、一人の男が口を開き、そう言った。

 

 カードの飛来してきた方向から見て、彼がこのカードをボクに投擲(とうてき)してきたのは明白だ。

 

 その男の周りには、数十人もの生徒が集まっていた。比率は男子の方が多いけど、中には女子の姿も見受けられる。

 誰も彼もが外見を派手に着飾っていたり、目付きが悪かったり、(いか)つい風体(ふうてい)の人間だらけで、素行も決して誉められたものではない。

 

 いかにも気性の荒そうな集団が教室を占拠していた。

 

 …あっ、思った通り、金沢くんも居た。あのモブトリオも。手を振ったら華麗に無視(スルー)された。

 

 皆一様(みないちよう)に、ボクとルイくんに視線を集中させて、ニヤニヤと笑みを(たた)えていた。

 うぅむ…なんとも威圧的で、一触即発な空間。

 

 

 

「お前が例の転入生か。金沢(かなざわ)と他の連中がやられたっつーから、どんな野郎が来るかと思えば……まさかこんなヒョロいメガネがお出座(で ま)しとはな!」

 

 

 

 出会い頭に突然カードを投げ飛ばしてきた、リーダー格の男が挑発的な台詞(セリフ)を吐く。すると周囲の男女から、ボクを小馬鹿にした様な笑い声が聞こえてきた。

 

 一方、ずっとボクの背中に隠れている涙目のルイくんは、声を震わせながらも言葉を口にした。

 

 

 

「らっ…ランク・A(・ ・ ・ ・ ・)の…!…九頭竜(くずりゅう)さん…!」

 

「!…ランク・A…?」

 

「さ、3年の中でも、特に上位に君臨する、エリート・デュエリストですよぉ…!」

 

「……へぇ…そんな凄い人から決闘(デュエル)の挑戦を受けるなんて光栄だね。でも、どうしてボクを?」

 

「…くくっ…」

 

 

 

 ルイくんが今しがた『九頭竜(くずりゅう)』と呼んだ男は、何やら笑みを浮かべると、座っていた机から()りて床に着地した。

 その後、ズボンのポケットに手を突っ込んで、ボク達の元まで歩いて近づきながら、また喋り出す。

 

 

 

「別に、ただの(ヒマ)つぶしさ。噂に聞く転入生がどれほどの腕前なのか見てやるのと、ついでに何も知らねぇ新人君に……学園(こ こ)でのルールってもんを、叩き込んでやろうと思ってな?」

 

 

 

 そこまで言い終わる頃には、すでに九頭竜(くずりゅう)くんは、ボクの目の前まで接近していた。

 威圧感(プレッシャー)が凄まじい…!というか…この人デカイ!

 

 そう、九頭竜(くずりゅう)くんは長身だった。軽く、180cm(センチ)以上はある。

 

 髪の色は(ムラサキ)で、髪型はウルフカット。

 褐色(かっしょく)の肌が印象的で、制服の上からでも、引き締まった体格をしているのが分かる。喧嘩(ケンカ)には、かなり慣れていそうだ。

 瞳は髪と同じく、両目とも紫色。

 よく見たら、顔立ちは端整(たんせい)で、鼻筋が通ってて目元は凛々(り り)しい。

 うん、普通にイケメンでした。最早モデルだよね?(うらや)ましい。

 

 顔や身長に多少の嫉妬心を覚えながらも、ボクは平静を装って言葉を返す。

 

 

 

「……それって、後半がメインなんじゃないの?九頭竜くん」

 

「……なるほど、(しつけ)のなってねぇクソガキってわけか」

 

 

 

 数秒間、ボクと九頭竜くんは(にら)み合った。

 

 すると、何か(わる)だくみでも思い付いたみたいに、九頭竜くんの口角が上がった。

 

 

 

「30分後に『第4デュエルフィールド』まで来い。せいぜい俺を楽しませろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから場所を移り、ボクとルイくんは、学園の中庭で休憩していた。

 

 緊張の糸が切れたボクは、置いてあった青いベンチに座り込み、脱力して息を吐いた。

 

 

 

「はぁー、怖かった~!殴られやしないかとヒヤヒヤしたよ…」

 

(ぼく)は胃に穴が空きそうでした……セツナ先輩、本当に九頭竜さんとデュエルする気なんですか…?」

 

「ここまで来たら、もう敵前逃亡は出来ないよ。とにかく、やるだけやってみる」

 

「……先輩の、そういう前向きなところ、羨ましいです…」

 

「ははっ、物事を深く考え込んでないだけだよ。ボクの悪い(くせ)なんだ」

 

 

 

 ふと、数分前の出来事を思い返す。

 

 教室に入った途端に九頭竜くんは、ボクの顔を目掛けて、手裏剣(しゅ り けん)の如くカードを投げつけてきた。しかも、あの鋭い弾道と殺気…

 

 

 

(…本気で目を狙って投げてきた……思った以上に危ない人みたいだね…九頭竜くんは…)

 

「あーっ!!こんなところに居た!探したわよセツナ!」

 

「ん?」

 

 

 

 女の子の声だ。なんだか今日は色んな人に呼ばれるなぁ。

 

 ベンチに座ったまま振り向くと、昼休みにボクと友達になってくれた少女・アマネが走り寄ってきた。

 

 

 

「どうしたのアマネ?そんなに(あわ)てて」

 

(きみ)が3年の九頭竜に決闘(デュエル)を挑んだって、あちこちで話題沸騰(ふっとう)中なのよ。九頭竜(あいつ)の仲間が学園中に言いふらしてたわ」

 

「「ええっ!?」」

 

 

 

 ルイくんと驚きの声がハモった。というか挑戦してきたのは、あっちからなんだけどね…

 

 

 

「どうにも、大事(おおごと)になりそうね……なんせ、九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)と言えば、学園でも指折りの実力を持つ有名人だもの。そんな相手に、『転入初日から喧嘩(ケンカ)をふっかける無謀な挑戦者(チャレンジャー)が現れた!』なんて聞き付けたら、学園の生徒としては観てみたくなるものよ」

 

「……あぁ、そういうこと……」

 

「どういう事ですか?セツナ先輩」

 

「つまりは、ボクを客寄せパンダ(・ ・ ・ ・ ・ ・)にして、見世物(みせもの)デュエルがやりたいんだよ。九頭竜くんは」

 

「自分の力を周囲に誇示(こ じ)しながら、転入生(セツナ)に格の違いを思い知らせてやる為にね。趣味の悪い奴…!」

 

「…………」

 

「負ければ金沢の言ってた通り、最底辺(ランク・E)は確実……勝ち目はあるの?セツナ」

 

「……舐められたもんだね」

 

「せ…先輩…?」

 

 

 

「おかげで、(ガラ)にもなく火が点いちゃったよ。九頭竜くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、遂に約束の時間が訪れる。

 

 九頭竜くんに指定された『第4デュエルフィールド』に行き着くと、すでに十数人の生徒が観客席に待機していた。みんな暇人か!

 

 

 

「先輩!えっと…頑張ってください!」

 

「セツナ、武運を祈ってるわ。あの偉そうな先輩の鼻っ柱を、圧し折っちゃえ!」

 

「うん!行ってくるね、二人(ふたり)とも!」

 

 

 

 ルイくんとアマネの声援に励まされて、ボクは施設内の中心に設置された、円形のデュエルフィールドに登檀する。

 左腕には、ルイくんが貸してくれた、グリーン・タイプの決闘盤(デュエルディスク)を装着した。

 

 

 

「……新人歓迎会にしては大げさ過ぎない?九頭竜くん」

 

「なぁに、パーティーは盛り上がった方が良いだろう?」

 

 

 

 先に待機していた九頭竜くんは、ボクの顔を見るなり、不敵な笑みを浮かべた。

 彼の決闘盤(デュエルディスク)は髪色と同じ、パープル・タイプだった。

 紫色のディスクなんてオシャレだね、ボクも欲しい。

 

 時間と共に、ギャラリーの人数も少しずつ増えていく。でも残念な事に、その大半は九頭竜くんの味方なんだ。だから……

 

 

 

「見ろよ!ノコノコと公開処刑されに来たぜ!あのメガネボウズ!」

 

「逃げるなら今の内だぜー!」

 

「九頭竜さんは始まったら、泣いて謝っても許してくれねぇぞーっ!」

 

 

 

 こんな感じで、ボクに()りかかる野次や罵声や(あお)りも悪化してきている。この学園こわい。

 まぁ、良識ある普通の生徒も、何割か来場してるみたいだけど。

 なんか……動物園で、衆目に晒されてる生き物になった気分だ。

 

 それにしても、公式戦でもないのに、ここまで人を集客できてしまうなんて…さすがは『ランク・A - 九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)』、と言ったところか。

 

 エリートの称号は、ボクのメガネと違って伊達(だ て)じゃないってわけだね。

 

 

 

(……参ったなぁ…ボクは平穏に生活できれば、それで良かったのに…転入早々、こんな目立ち方する事になるなんて……)

 

「おい!転入生!何をボーッとしてやがる、とっとと始めるぞ!」

 

「分かったよ、お手柔らかに」

 

 

 

 天井(てんじょう)を見上げながら自分の運命を軽く呪っていると、一足早くディスクを起動した九頭竜くんに怒鳴られた。

 ボクも渋々、デッキをディスクに差し込んで、デュエルの準備に取り掛かる。

 

 

 

「勝負の前に忠告しておくが…このデュエルは『アンティルール』で(おこな)う!互いに1枚、レアカードを賭け、勝った側がそれを(いただ)く!」

 

「!」

 

(えええええっ!?この学園、賭けデュエル(アンティルール)()りなの!?聞いてないよー!)

 

「…OK(オーケー)、受けて立つよ」

 

 

 

 どうやら、絶対に負けてはいけない闘いらしい。今だけは真剣に臨まないとね。

 

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ボクの先攻!手札から、【デビル・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「更にカードを2枚セットして、ターン終了!」

 

 

 

 デュエルディスクの機能が働き、プレイしたカードから、モンスターが立体映像(ソリッドビジョン)となって、フィールド上に具現化する。

 続いて、その後ろにある魔法・罠カードゾーンには、2枚のカードが裏側表示でセッティングされた。

 

 先攻は最初のターン、ドローフェイズにドロー(デッキからカードを引く)が出来ないから、これでボクの手札は現状2枚。

 

 ボクはターン終了(エンド)を宣言し、九頭竜くんにターンを交代(チェンジ)する。

 

 

 

「ふん、何の面白(おもしろ)みもねぇ通常(ノーマル)モンスターか。俺のターン、ドロー!」

 

 

 

 九頭竜くんの手札が6枚になる。

 

 さて、ジャルダン校の上位(トップ)こと、ランク・Aの実力、見せてもらおうかな!

 

 

 

「俺は手札から、【可変機獣(かへんきじゅう) ガンナードラゴン】を攻撃表示で召喚する!」

 

 

 

可変機獣(かへんきじゅう) ガンナードラゴン】 攻撃力 1400

 

 

 

「なっ…!いきなり、レベル7のモンスターを!?」

 

「ガンナードラゴンは、攻守のステータスを半分にする事で、リリース無しで召喚できるんだよ!」

 

「…!そんな効果が…早速とんでもないものを出してきたね…!」

 

(でも……攻撃力1400なら、ボクのデビル・ドラゴンの方が僅差(きんさ)で勝ってる!)

 

「おっと、攻撃力の低さに安心してるなら早計(そうけい)だぜ?」

 

「えっ…?」

 

「手札から装備(そうび)魔法・【愚鈍(ぐどん)(おの)】を、ガンナードラゴンに装備する!このカードは、装備モンスターの攻撃力を1000ポイントアップし、更に効果を無効にする(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)!」

 

「!!」

 

 

 

「……マズイわねセツナ……早くもピンチよ」

 

「ど、どういうことですか…?黒雲さん…」

 

「ガンナードラゴンは自身の効果を無効化(む こう か)された事で、半減していた攻撃力が元に戻るの。しかも【愚鈍の斧】の効果で、その攻撃力に(プラス)1000ポイントが加算される…!」

 

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】 攻撃力 1400 → 2800 + 1000 = 3800

 

 

 

「攻撃力……3800!?」

 

「バトルだ!ガンナードラゴン!!敵モンスターを殲滅(せんめつ)しろ!!」

 

 

 

 ガンナードラゴンの標的は、攻撃表示のデビル・ドラゴン。言うまでもなく、力の差は歴然だ。

 

 

 

(…悪いけど、そう簡単に()らせはしないよ!)

 

「ボクはリバーストラップ・【竜の転生】を発動!!」

 

「ッ!?」

 

「デビル・ドラゴンをゲームから除外し、手札の【ラビー・ドラゴン】を、攻撃表示で特殊召喚!!」

 

 

 

 巻き起こる(ほのお)がデビル・ドラゴンを包み込み、新たに【ラビー・ドラゴン】が召喚される。

 

 

 

【ラビー・ドラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「やった!セツナ先輩のエースカードです!」

 

「でも…!」

 

 

 

「ほぉ?なかなか良いカードを持ってるじゃねぇか。だが装備カードでパワーアップした、俺のガンナードラゴンの攻撃力には及ばない!」

 

「…………」

 

「行くぜ…!ガンナードラゴンで、ラビー・ドラゴンを攻撃!!」

 

 

 

 九頭竜くんの攻撃命令を受け、ガンナードラゴンが攻撃を仕掛ける。ラビー・ドラゴンに照準を定め、レーザーガンを射出した。

 

 

 

「させないよ!もう1枚のトラップカード・【反転世界(リバーサル・ワールド)】を発動!効果モンスターは攻撃力・守備力が反転(はんてん)する!」

 

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】 攻撃力 3800 → 2000

 

 

 

「!!…チィッ!」

 

(俺の攻撃宣言は完了している…ガンナードラゴンの攻撃は止まらない…!)

 

「お返しだ!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

 攻撃力の数値が相手を上回った、ラビー・ドラゴンの反撃が成功して、ガンナードラゴンは破壊された。

 

 

 

「ぐおぉあっ…!」

 

 

 

 九頭竜 LP 4000 → 3050

 

 

 

「ガンナードラゴン、撃破!!」

 

「くっ、調子に乗りやがって…!」

 

 

 

 ボクが九頭竜くんのモンスターを返り討ちにした瞬間、観客席が湧き上がった。

 

 

 

「ま、マジかよ!?あの新入り…!」

 

「ランク・Aの九頭竜さん相手に先制した…!?」

 

「しびれる~!」

 

 

 

 そんな驚嘆が会場のあっちこっちから聞こえてくる。

 

 

 

「……エリートにしては迂闊(うかつ)な攻撃だったね、九頭竜くん」

 

「なに…?」

 

「ボクからも言わせてもらうよ。せいぜいボクを楽しませてね!」

 

「…………てめぇ…!」

 

 

 

 さてと、まだまだ決闘(デュエル)は始まったばかり。ここからが腕の見せ所だ!

 

 

 

 





 To Be CONTINUED ... 後編に続く!

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