遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 セツナよ、先に言っておく。今回のお前はほぼ空気だ。

 セツナ「えっ」



TURN - 19 coffee time

 

「選抜試験まで後2週間かぁ……」

 

 

 

 携帯端末で日付を見ながら、ボクはそう呟いた。

 

 時間というのは案外あっという間に過ぎていくもので、最初の頃は待ち遠しいとすら感じていた『選抜デュエル大会』が、気づけばもう間近まで差し迫っていた。

 

 あんなに暑かった夏も終わりが近づいてきて、徐々に日が沈むのが早くなっている。

 

 今年の夏を振り返ってみると、本当に色々な事があったなぁ。アマネ達と海に行ったり、カリスマ決闘者(デュエリスト)決闘(デュエル)したり、カードの精霊に襲われたり、カードショップの大会で優勝しちゃったり……あれ? ほとんど決闘(デュエル)ばっかりしてるのは気のせい?

 まぁ何にせよ、危ない目にも何度か遭ったけど、充実した濃い時間だったと思う。そうそう、この前は皆と一緒に、お祭りに行って遊んできたんだよね。楽しかったな~。アマネとマキちゃんとルイくんの浴衣姿、眼福だったよ。

 

 ──さて、思い出話はこの辺にしとこうか。

 

 そんなわけで今、学園の高等部の生徒達は、(きた)る『選抜デュエル大会』という大舞台に向けて、より一層決闘(デュエル)研鑽(けんさん)に励んでいる。

 かく言うボクも、学園最凶の決闘者(デュエリスト)鷹山(ヨウザン) (カナメ)にリベンジするって目標があるから、実技の授業に関しては真面目に取り組んでいる。筆記はいつもながら壊滅的だけど(遠い目)。

 ……そう言えば、カナメとは初めて決闘(デュエル)したあの日以来、一度も会ってないんだよね。普段ちゃんと登校してるのかな?

 

 アマネに聞いてみたところ、驚くべき答えが返ってきた。

 

 

 

鷹山(ヨウザン)? あぁ、あの人、学園側から全課程を免除されてるのよ」

 

「えっ!? それってもう授業に出なくても卒業できるってこと!?」

 

「そう」

 

「う、うらやましい……」

 

 

 

 ボクがそんな事になったら学食の為にしか学園に来なくなりそう。ムダに()()しいんだもん、あの食堂の料理。噂では、三ツ星レストランで働いていた元フレンチシェフが作っているとか。

 

 

 

「だから学園には滅多に来ないのよね。もし来てたら何か特別な用事か気まぐれか……あっ、確か駅前の喫茶店によく居るって聞いた気がする」

 

「へぇ、喫茶店かー……」

 

 

 

 なんか……優雅にコーヒーを飲みながら本を読んでる姿が容易に想像できた。

 

 

 

(放課後そこに寄ってみようかな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園から下校したボクは、ものは試しとアマネに教えてもらった喫茶店を探して、駅前へと寄り道してみた。端末で検索して表示されたマップを確認しながら歩き回り、すぐに目的の店の看板を発見する。

 

 

 

「ここか……『CAFE(カフェ) LA() MOON(ムーン)』」

 

 

 

 レトロモダンな雰囲気の、小さな喫茶店だった。目撃情報が正しければ、この中にカナメが居るかもしれない。そう思うと、妙に緊張してしまうのは何故だろう。

 ボクは意を決して、店の木製の扉を開けた。カランカランとベルが鳴る。店内は冷房が効いていて、残暑の日照りに晒された身体に心地よい冷風が染み渡る。店員の若いお姉さんに「いらっしゃいませ~! お好きな席へどうぞ!」と、声をかけられたので、軽く店内を散策する。

 

 BGMのクラシックの穏やかな音色が心を落ち着かせ、天井に飾られた絢爛(けんらん)なシャンデリアが、淡い光で店内を優しく照らしている。カウンターが一つと、テーブル席がいくつか配置してあり、窓際にはソファー席が置かれていた。

 

 そして──

 

 

 

「! ……あははっ、ホントに居たよ」

 

 

 

 その窓際の、黒い革張りのソファー席の一つに座って、一人静かにコーヒーを嗜んでいる、黒髪の青年を発見した。

 どっからどう見ても鷹山(ヨウザン) (カナメ)だ。我ながら自分の運命力が怖い。

 

 なんだか初対面の時と構図が似てるな。カナメが座ってて、ボクが立ってる。デジャヴを感じる。

 

 ボクはカナメの向かいの席に腰を下ろす。カナメは無言のまま伏せていた瞳を微かに(ひら)き、透き通る様な碧眼(へきがん)で、ボクの顔を見据えた。リアクション薄いって言うか、ほぼ無反応って……相も変わらず何を考えてるのか分からない人だね。

 

 

 

「驚かないの?」

 

「……今日はここに居れば、お前が来るような気がしたからな」

 

「……!」

 

 

 

 逆にこっちが驚かされた。メガネのレンズの奥でボクが目を丸くしていると、カナメは小さく笑みを浮かべて右手に持っていたコーヒーカップを口元に傾け、優雅に一口。イメージ通り、彼がコーヒーを飲む姿は、品があって(サマ)になっていた。

 

 

 

「お前もどうだ? さすがは『ブルーアイズ・マウンテン』。コクが違うぞ」

 

「ブルーアイズ・マウンテン?」

 

 

 

 ふと、テーブルの上に置いてある会計伝票に目が行った。そこに書かれていた金額を見た途端、ボクは目玉が飛び出すところだった。

 

 

 

「3000円!?」

 

 

 

 家計にバーストストリーム!! どんな高級豆を使ってるの、このコーヒー!?

 

 飲み終えたらしいカナメが通りかかった店員さんを呼び止めて、

 

 

 

「おかわりだ」

 

 

 

 まだ飲むんかい。

 

 

 

「じゃあ、ボクも同じのを一杯お願い」

 

 

 

 一杯3000円のコーヒーがどんな味なのか、すごく興味がある。

 

 数分後、テーブルには二杯のブルーアイズ・マウンテンが。

 恐る恐る一口。

 

 

 

「……おいしい……!」

 

 

 

 馥郁(ふくいく)とした芳醇な香り。口当たり柔らかで、苦味と甘味と酸味がバランス良く調和した絶妙な味わい。カナメの言う通り、コクが違う。

 

 

 

「……まだまだだな」

 

「えっ? ボクには()()すぎるくらいなんだけど?」

 

()()()決闘(デュエル)から更に(ちから)をつけた様だが……その程度では俺を(たの)しませるにはまだ足りない」

 

「あ、デュエル(そっち)の話?」

 

 

 

 ほんっと自分のペースで急に話題を変えるとこあるよね、カナメって。会話のキャッチボールならぬ、会話のドッジボール。

 

 ボクはカップを受け皿(ソーサー)の上に戻して、微笑みながら答える。

 

 

 

「次は──」

 

 

 

 !?

 

 心臓が跳ねた。喫茶店の外から突如、けたたましい爆音が飛び込んできた。ボクの声はそれに遮られてしまい(たま)らず耳を塞ぐ。『次は勝つ』ってクールに言い切ってやるつもりだったのに! なんかボクこういうの多くない!?

 

 どうやら騒音の正体は、バイクのマフラーを吹かした音みたいだ。それも1台や2台じゃなく、何台ものバイクが店の前にたむろして、好き放題にマフラーを空ぶかししている。暴走族か何かだろうか?

 

 静かなコーヒーブレイクを台無しにされて、他のお客さんは迷惑そうに顔をしかめている。店員さんやバリスタさんは、困った様子で窓の外を窺っていた。

 

 

 

「フゥ……騒々しいな」

 

「カナメ?」

 

 

 

 カナメは呆れた様に小さく息を吐くと、ゆっくりと席を立って、店の出入り口の方までスタスタと歩いていき、躊躇なく扉を開けて外に出ていった。ボクも急いで後を追う。

 

 

 

(うわ、うるさっ)

 

 

 

 外には案の定、バイク乗りの集団が我が物顔で公道に()まってバカ騒ぎしていた。ざっと十台かな。何もここで停まらなくたっていいのに。いや、どこだろうとダメだけどさ。

 

 ……ん? よく見ると騒いでいる男達に、一人の女の子が取り囲まれていた。緑色の髪をポニーテールに結んだ可憐な()で、着ている制服は、ジャルダン校の夏服だった。

 

 

 

「よぉーお嬢ちゃん、かわいいね~! 今から俺らと遊ばなぁい?」

 

「やっ……! 離してください……!」

 

「ヒュー! 声もかわえぇ~っ!」

 

「ギャハハハッ!」

 

 

 

 あちゃー、運悪く捕まっちゃったか。最近あぁいうガラが悪いの増えたから、帰り道では気をつけなさいって先生が言ってたっけ。

 

 女の子は涙目で震えている。これはセキュリティに通報待ったなしだな。ボクが端末を取り出した、その時──カナメが動き出した。

 

 

 

「おい」

 

「あん? ──ぎゃ!?」

 

 

 

 カナメは男の一人に声をかけたかと思うと、そいつが跨がっていたバイクを蹴り飛ばして、派手に転倒させた。

 

 バイク乗り達の注意が瞬時にカナメへと切り替わる。チャンスだ! ボクは僅かな隙を突いて、女の子の手を掴んで引っ張った。

 

 

 

「こっち!」

 

「あっ……!」

 

 

 

 女の子は無事に救出っと。一方のカナメは、やはりと言うべきか。チンピラ達の怒りを大人買いして、詰め寄られていた。

 

 

 

「なんだゴラてめぇ! ケンカ売ってんのか!!」

 

「女が逃げちまったじゃねぇかよクソガキがぁ!!」

 

 

 

 うひー、怖っ。頭に血が昇った男達が、カナメに暴言を浴びせかける。まさに四面楚歌だ。しかしそれでもカナメは、顔色ひとつ変えずに超然と言い放った。

 

 

 

「俺の前で(かしま)しく騒ぎ立てるな、不愉快だ。──さっさと消えろ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

 

 ひと睨み。たったそれだけで、バイク乗りの男達は一瞬にして大人しくなってしまった。ボクまで背筋が冷たくなったよ……

 

 ビリビリと空気が震える中、チンピラの一人が思い出した様に慌てた声を出した。

 

 

 

「く、黒髪に青い眼……! こ、こいつ、まさか……あの鷹山(ヨウザン) (カナメ)か……!?」

 

 

 

 バイク乗り集団は一斉に狼狽する。相手はこの街(ジャルダン)の生ける伝説と称される決闘者(デュエリスト)。恐れを抱くのも無理ないか。

 

 

 

「……へっ、へへへっ、おもしれー」

 

「クランド!?」

 

 

 

 ドレッドヘアーと褐色肌が特徴の大男が、バイクから降りてカナメと対面した。仲間に『クランド』と呼ばれたその男は、左腕にデュエルディスクを装着して起動させた。どうやらカナメとやる気みたいだ。

 

 

 

「俺様がリーダーの(くれ)()() 蔵人(クランド)だ! さぁ構えろよ、鷹山 要! 叩き潰してやるぜ!」

 

(学園最凶だか何だか知らねーが、こんなガキに俺様が負けるわけがねぇ。こいつを負かせば俺様の名は一気にジャルダンに轟くぜ!)

 

「…………」

 

(この程度の相手に俺のデッキを使うまでもない……)

 

「そこの女」

 

「は、はいっ!?」

 

「デッキを貸せ」

 

「……え?」

 

 

 

 カナメは女の子のデッキを借りると、()()()()()()()()()()、それを自分の青色のデュエルディスクにセッティングした。

 

 バイク集団のリーダーを名乗った大男──クランドの顔がひきつる。

 

 

 

「テメェ……どういうつもりだぁ?」

 

「見れば分かるだろう。俺はこのデッキで相手してやると言っているんだ」

 

「ねぇ、カナメ。デッキレシピは見とかなくていいの?」

 

「必要ない」

 

 

 

 ボクの問いに涼しい顔で、キッパリと返答するカナメ。さも当たり前みたいにハンデを付けてきたカナメに対して、クランドは遂にぶちギレた。

 

 

 

「……な、め、や、がっ、てぇぇえっ!! 野郎ぶっ殺してやる!!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 カナメ LP 4000

 

 クランド LP 4000

 

 

 

「先攻は貴様にくれてやる」

 

「この……どこまでも馬鹿にしやがって……!」

 

「早くしろ。コーヒーが冷める」

 

「…………!!!!」

 

 

 

 火に油どんだけ注ぐ気なのカナメさん。見てる方がヒヤヒヤするよ。クランドの仲間も「おいおいおい」、「死ぬわあいつ」、とか言ってるし。

 

 

 

「お望み通りぶっ潰してやる!! 俺様は【ディスクライダー】を召喚!」

 

 

 

【ディスクライダー】 攻撃力 1700

 

 

 

「カードを1枚伏せるぜ! これでターン終了だ!」

 

「では、俺のターン。ドロー。……ふむ」

 

 

 

 6枚の手札を眺めながら、カナメは何やら考え事をしている。もしかして本当に知らないデッキなのかな?

 

 

 

「……なるほど。なら俺は、【ジェムナイト・ラピス】を召喚」

 

 

 

【ジェムナイト・ラピス】 攻撃力 1200

 

 

 

 現れたのは綺麗で可愛らしい宝石の様なモンスターだった。

 

 

 

「ハッ! んな雑魚モンスターで何が出来んだよ!」

 

 

 

 クランドの心ない言葉に元の持ち主である女の子は悔しげな表情を見せた。自分のカードを(けな)されるのは、誰だって良い気はしない。ボクは彼女の肩に手を置いて優しく話しかけた。

 

 

 

「大丈夫だよ。カナメを信じて」

 

「あ、あなたは……?」

 

「ボク? ボクは総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)。君と同じ、ジャルダン校の生徒さ」

 

「アゲマキ……あっ! もしかして『十傑(じっけつ)』の九頭竜(くずりゅう)さんに勝った転入生の!?」

 

「あははっ、その覚えられ方も懐かしいね」

 

 

 

 この子の為にも絶対に勝ってよね、カナメ。

 

 

 

「カードを2枚伏せてターン終了(エンド)だ」

 

「俺様のターン!」

 

(このクランド様を怒らせるとどうなるか……思い知らせてやるぜ!)

 

「俺様は(トラップ)カード・【強欲な(かめ)】を発動! カードを1枚引かせてもらうぜ!」

 

「好きにしろ」

 

「さらに魔法(マジック)カード発動! 【儀式の下準備】! デッキから儀式()(ほう)・【スカルライダーの復活】と、儀式モンスター・【スカルライダー】を手札に加えるぜ!」

 

 

 

 クランドは儀式召喚を使うのか……! 以前、海で戦ったアマネの元カレ、鯨臥(いさふし)を思い出すプレイングだ。心なしかキャラも似てる。

 

 

 

「そして【スカルライダーの復活】を発動! 手札の【アンサイクラー】、【ヴィークラー】、【トライクラー】の3体を墓地に送る!」

 

 

 

 生け贄となった、3体のモンスターの合計レベルは6。フィールドに落雷が発生し、どこからかブォンブォンとバイクのコールが爆音で聴こえてくる。

 

 

 

「狂い咲け! 爆裂音! カードの荒野に、戦慄の(わだち)を刻め!! ──儀式召喚!! 轟け! 伝説の爆走王・【スカルライダー】!!」

 

 

 

【スカルライダー】 攻撃力 1900

 

 

 

 アレが彼のエースモンスターらしい。クランドの仲間達の盛り上がりが異常だ。奏でる騒音が耳に響く。

 

 

 

「ハッハーッ! まだまだ飛ばすぜぇ! 手札から【カオスライダー グスタフ】を召喚!」

 

 

 

【カオスライダー グスタフ】 攻撃力 1400

 

 

 

「【グスタフ】の効果発動! 墓地の魔法(マジック)カードを2枚まで除外し、1枚につき300ポイント攻撃力をアップする! 【儀式の下準備】と【スカルライダーの復活】を除外だぁ!」

 

 

 

【カオスライダー グスタフ】 攻撃力 1400 + 600 = 2000

 

 

 

「さらに【ディスクライダー】の効果も発動だぁ! 墓地の(トラップ)カード・【強欲な瓶】を除外し、攻撃力を500ポイントアップ!」

 

 

 

【ディスクライダー】 攻撃力 1700 + 500 = 2200

 

 

 

 これでクランドのモンスターの攻撃力の総計は6100! 【ジェムナイト・ラピス】1体じゃ太刀打ちできない……!

 

 

 

「くっくっく……覚悟は出来てんだろうなぁ?」

 

「……」

 

「バトルだぁ! 3体のモンスターで総攻撃! 『暴走上等 参連(さんれん)悪辰苦(アタック)』!!」

 

 

 

 攻撃宣言を受けたバイクモンスター達が一斉に爆走を開始した。【ラピス】とカナメを()ね飛ばそうと、アクセル全開で突進する。

 

 

 

(トラップ)カード・オープン。【()(ぼく)の使者】」

 

「!?」

 

 

 

 水色の修道服に身を包んだ3人の女性が出現し、聖なる加護の力で敵の攻撃を全て受け止めた。

 

 

 

「そんな単調な攻撃は俺には効かない」

 

「ぐっ……たかが1ターン生き延びたぐれぇでいい気になってんじゃねぇ!」

 

 

 

 いやいや、カナメ相手に手札(ゼロ)でターンを渡すとか自殺行為だから。

 

 

 

「……やはり貴様の決闘(デュエル)には、鉄の意志も鋼の強さも感じられない」

 

「なにぃ!?」

 

「これ以上は時間の無駄だ。このターンで終わらせる」

 

 

 

 クランドとは対照的に、カナメは大袈裟な動きはせず、淡々とカードをドローする。……もう今のカナメは対戦相手(クランド)の事なんて、見てもいなかった。

 

 

 

(けっ! ハッタリだ……そうだ、ハッタリに決まってる! まだ状況は圧倒的に俺様が有利……)

 

「手札から永続魔法・【ブリリアント・フュージョン】を発動。デッキから【ジェムナイト・アレキサンド】、【ルマリン】、【エメラル】の3枚を墓地へ送り、この3体を融合する」

 

「! デッ、デッキのモンスターで融合だとぉ!?」

 

 

 

 3つの宝石が(まばゆ)い光を放ちながら1つになっていく。

 

 

 

「昼と夜の顔を持つ()(せき)よ。(いかずち)帯びし()(せき)よ。幸運を呼ぶ緑の輝きよ。光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん! ──融合召喚。現れよ、輝きの淑女──【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】!」

 

 

 

 神々しい輝きを纏う、気高くも美しい女騎士が、(つるぎ)を携え舞い降りた。

 

 

 

「【ブリリアント・フュージョン】の効果で融合召喚したモンスターは、攻撃力・守備力が(ゼロ)になる」

 

 

 

【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】 攻撃力 0

 

 

 

「は……はははっ! せっかく召喚しても、攻撃力(ゼロ)じゃどうしようもねぇなぁ!」

 

「手札の魔法(マジック)カード・【ジェムナイト・フュージョン】を墓地に捨て、【ブリリアント・フュージョン】の2つ目の効果を発動。攻撃力を元に戻す」

 

 

 

【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】 攻撃力 0 → 3400

 

 

 

「なんだとぉ!? 攻撃力3400!?」

 

「続いて【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】の効果発動。1ターンに一度、自分フィールドの【ジェムナイト】1体を墓地に送る事で、エクストラデッキから【ジェムナイト】の融合モンスター1体を、召喚条件を無視して特殊召喚できる。俺は【ラピス】を墓地へ送り、【ジェムナイト・プリズムオーラ】を特殊召喚。──『グラインド・フュージョン』!」

 

 

 

【ジェムナイト・プリズムオーラ】 攻撃力 2450

 

 

 

「【プリズムオーラ】のモンスター効果。手札の【ジェムナイト】をコストに、表側表示のカード1枚を破壊する。【ディスクライダー】を破壊」

 

 

 

 【ジェムナイト・プリズムオーラ】の操る円錐形の大槍(ランス)が【ディスクライダー】を刺突して破壊する。

 

 

 

「ぐおぉっ!! く、くそっ……!」

 

「そして、たった今墓地に捨てた【ジェムナイト・オブシディア】の効果を発動。こいつが手札から墓地に送られた場合、墓地のレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できる。【ジェムナイト・ルマリン】を蘇生」

 

 

 

【ジェムナイト・ルマリン】 攻撃力 1600

 

 

 

「す、すごい……! 初めて見る筈の私のデッキを、ここまで使いこなせるなんて……!」

 

 

 

 確かに女の子の言う通り。カナメはしれっと、凄い()()をやってのけている。慣れないデッキをミスもなく器用に回してここまでコンボを繋げるなんて、並の決闘者(デュエリスト)には不可能に近い。

 

 今度はカナメの場に3体のモンスターが揃った。これだけ展開していながら、まだ通常召喚権を残してるんだから驚きだよ。

 

 

 

「バトルだ。まずは【ブリリアント・ダイヤ】と【プリズムオーラ】で攻撃」

 

 

 

 【ブリリアント・ダイヤ】が【スカルライダー】を、【プリズムオーラ】が【カオスライダー グスタフ】を、それぞれ撃退した。クランドのフィールドは完全にガラ空きだ。

 

 

 

「ぐわあぁぁぁっ!!」

 

 

 

 クランド LP 4000 → 2050

 

 

 

「【ルマリン】で直接攻撃(ダイレクトアタック)

 

「ぎああぁぁあっ!?」

 

 

 

 クランド LP 450

 

 

 

 あれ、ライフポイントがギリギリ残っちゃったよ!? このターンで終わらせるって言ってたのに大丈夫なの……って、あぁ、そっか。

 

 

 

(まだカナメのフィールドには、伏せ(リバース)カードがもう1枚あったんだ)

 

「……俺の安らかな一時(ひととき)を邪魔してくれた罰だ。貴様には、より屈辱的な敗北を与えてやる」

 

「なっ……なにィ……!?」

 

(トラップ)発動、【ジェム・エンハンス】。【ブリリアント・ダイヤ】をリリースし、墓地の【ジェムナイト・ラピス】を復活させる」

 

 

 

【ジェムナイト・ラピス】 攻撃力 1200

 

 

 

「最後は貴様が雑魚と(ののし)ったモンスターの攻撃で、無様に散っていけ」

 

 

 

 小さなジェムナイトの少女が、クランドにトドメの一撃を放つ。

 

 

 

「うっ……うわああああああっ!!!?」

 

「これで────〝(おう)()〟だ」

 

 

 

 ……再認識したよ。これが学園最凶の決闘者(デュエリスト)鷹山(ヨウザン) (カナメ)──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレイヤーのライフポイントが(ゼロ)になった事を告げる音が、デュエルディスクから鳴り、勝者と敗者が決定した。

 

 

 

 クランド LP 0

 

 

 

 決闘(デュエル)はカナメの圧勝で決着。完敗を喫したクランドは、地に膝と両手を突いて(うな)()れていた。

 

 

 

「馬鹿な……この俺様が……一度もダメージを与えられずに……!」

 

 

 

 あー、その気持ちスッゴい分かる。割りとガチで(へこ)むよね。

 

 他のバイク乗りの仲間達は、リーダーが手も足も出ないまま敗北したという信じ難い現実に戸惑っている様で、カナメを恐怖の対象と見て、怯えながら後退(あとずさ)っている。

 

 

 

「もう一度だけ言う。──今すぐ俺の視界から消え失せろ」

 

「「「「ひっ、ひぃぃぃぃぃっ!!」」」」

 

 

 

 まるで氷みたいに冷たい眼で()め付けられて、クランド含めたバイク集団は、悲鳴を上げながら()()の子を散らす様に退散していった。さぞカナメの存在がトラウマになったことだろう、ご愁傷様。

 

 やっと静かになったところで、カナメはディスクからデッキを取り出すと、それを女の子に返した。

 

 

 

「あっ、あの……!」

 

「フッ……美しいモンスター達を使うんだな。いつか戦える日を(たの)しみにしているぞ」

 

「……!!」

 

 

 

 カナメは女の子に背中を向けて歩き始めた。もう帰っちゃうらしい。

 

 

 

「……鷹山さん……!」

 

 

 

 おや? 女の子の様子が……

 女の子は返されたデッキを握り締めながら頬を赤らめ、目の中にはハートマークが浮かび上がっていた。

 

 アレか! カナメに『ほ』の字なのか!?(死語)

 

 

 

「わっ……私! ジャルダン校、高等部1年の宝生(ほうしょう) (アカ)()と言います! あ、ありがとうございました!!」

 

 

 

 (アカ)()ちゃんって言うのか。カナメの背に精一杯に声を投げ掛ける明里ちゃん。

 

 対するカナメはピタッと立ち止まり、振り返ると、こう言った。

 

 

 

「悪いが俺は……弱い奴の名など覚える気はない」

 

「──ッ!?」

 

 

 

 カナメが明里ちゃんを見る眼は、つい先程クランド達に向けたそれと全く同じ……酷く冷たいものだった。

 

 

 

「俺を倒せる自信がついたなら()()でも挑んでこい。(たの)しめたなら覚えてやる」

 

 

 

 さらっと無茶な条件を提示して、カナメは明里ちゃんを視界から外した。凍てつく様な威圧感から解放された明里ちゃんは、デッキをバラバラと地面に落とし、膝から崩れ落ちてしまった。かわいそうに。

 

 容赦ないなー、カナメったら。ボクはこちらに歩いてくるカナメに喋りかける。

 

 

 

「女の子にあんな顔しなくても」

 

「俺の知った事ではない」

 

 

 

 ズバッと言い切るカナメ。ボクは肩を(すく)めて苦笑した。

 

 ──すれ違い様、再びカナメが口を開いた。

 

 

 

「お前は俺を愉しませてくれるんだろうな? 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)

 

(──! 名前を……)

 

「……フフッ、嬉しいね」

 

 

 

 多少なりとも認めてくれていたのかな? だけど、自分が負ける可能性なんて微塵も考えてない言い草だな。……ボクは顔を上げて答えた。

 

 

 

「いいや、次は勝つよ。今度は絶対に負けない」

 

「…………フッ、それは愉しみだ」

 

 

 

 短い会話を交わして、カナメは去っていった。次に会うのは選抜デュエル大会か……大見得を切った以上、カナメと当たるまでは誰にも負けられないね。

 

 さてと、そろそろ明里ちゃんを立たせてあげないと。ボクは未だに呆然としている彼女に手を差し伸べた。

 

 

 

「立てる? 明里ちゃん」

 

「っ! あ……は、はい……」

 

 

 

 明里ちゃんの手を取って、ゆっくりと立ち上がらせる。その後、地面に散らばったカードを1枚1枚、拾い集める。

 

 

 

「す、すみません、ありがとうございます……」

 

「気にしなくて良いよ。大事なカードが飛ばされたりしたら困るもんね」

 

 

 

 謝りながら明里ちゃんも、せっせとカードを回収していく。

 

 にしても本当に綺麗なモンスター達だなぁ、【ジェムナイト】シリーズ。融合モンスターこんなに種類あるんだ? あっ、【吸光融合(アブソープ・フュージョン)】発見。()()にテストで間違えて『アブソーブ』って書いちゃって、ケアレスミスで減点されたっけ。悔しかったなぁ。

 

 全部のカードを拾い終えて明里ちゃんに手渡す。欠けたカードは無いみたいだった、一安心。

 

 

 

「じゃあ、気をつけて帰ってね」

 

「はい!」

 

 

 

 深々とお辞儀して駅まで走っていく明里ちゃんを手を振って見送る。

 

 やれやれ。ちょっと寄り道しただけで、またトラブルに巻き込まれちゃったなぁ。決闘(デュエル)はしてないけど疲れたしボクも帰るか。……ん? 何か重大な事を忘れている気が……

 

 

 

「あ"っ!!!?」

 

 

 

 コーヒー代まだ会計してない!!!!!!

 ていうか、カナメ支払ってなくない!? このままじゃ無銭飲食になっちゃうよ!!

 

 

 

「はぁ……しょうがないなぁ、ここはボクが払っておくよ」

 

 

 

 自分で注文した分も合わせて、総額9000DP(デュエルポイント)か。さすがにちょっと痛い出費かも……

 

 

 

「あぁ、お代なら要らないよ。君達はあの迷惑な暴走族を追い払ってくれたからね、そのお礼って事で」

 

「ホント!? ラッキー!!」

 

 

 

 カナメの奴、さてはこうなるのを見越してたな?

 

 まぁ何はともあれ一件落着。終わり良ければ全て良し! ブルーアイズ・マウンテンは絶品のコーヒーだったから、明日アマネ達にも教えてあげようっと。

 

 

 

 





 これにて遊戯王INNOCENCEの第1章は終了です! まさかの章の最終話で主人公がデュエルしないというww

 まずはここまで読んで頂き、ありがとうございます!!
 感想が貰えたり、お気に入り登録数や投票も増えてきて、とても励みになります! コラボにまでお誘い頂けて、自分の作品を好いてくれる方々がいるという事実が高いモチベーションとなっております!

 次回からは、ついにやっといよいよ第2章・『選抜デュエル大会編』がスタートします!!

 アニメGXで言ったら、OPが『快晴・上昇・ハレルーヤ』から『99%』に変わるタイミングです!(?)
 もうすぐアマネやルイくんのデュエルが書けるよー! うおーん!( TДT)

 まだまだまだまだまだまだ続くセツナ達のストーリー。完結まで先は長いですが遅筆なりに頑張って書いていきます!

 これからも応援よろしくお願いします!

 P.S. 冒頭で軽く触れた夏祭りの話に関しては後々どこかで執筆する予定です。浴衣デートどうしても書きたいんじゃ(*´Д`)

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