遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum - 作:箱庭の猫
この度、yunnnさんの作品、『遊戸 里香の表裏生活』とコラボさせて頂きました!! ありがとうございます!!
デュエルは後編からスタートです!
デュエルモンスターズにまつわる都市伝説と言えば、最も有名なのは『カードの精霊』の存在だ。
この世界に数多あるカードの中には、描かれているモンスターが自我を持ち、デュエルディスクを介さずとも自らの意思で実体化できてしまう、『精霊』の魂が宿ったカードが実在すると言われている。
昔から童話や
もちろん幽霊の
ボクも見たことは無かったので、正直カードに精霊が宿るなんて夢みたいな話は、今まで信じていなかった。
ところが最近、それを完全に信じざるを得なくなった、信じられない様な経験をしたんだ。
事の発端は、ある不思議な力を持った、二人の
その日のアカデミアは、酷く不穏な空気に包まれていた。
いや別に、またボクのクラスに変な人が現れたとかではないよ。今の状況をありのままに説明するなら……朝から学園のあちこちで、
ただ事じゃないと一目で分かった。緊迫した空気が
どうしてこんな事態になっているのか……ボクは自分の後ろの席に座っている親友の少女、アマネに尋ねてみた。
「ねぇ、アマネ。一体これって何があったの?」
「……ついに
「失踪事件って……最近ニュースになってる、あの?」
ここ数日メディアを騒がせている、『連続失踪事件』。
すでに何人もの街の住民が、次々と行方不明になっているという恐ろしい事件だ。テレビで連日報道されていたから、ボクも観て知っていた。
被害者の唯一の共通点は、
(なるほど、それでセキュリティが聞き込みに来たってわけか……)
デュエル界でも名門と名高いジャルダン校の生徒が
「セツナも気をつけてね? アンタがいなくなったら、選抜試験の楽しみが減るから」
「えっ、心配する理由それ?」
……結局、今日は授業どころではなくなってしまった様で、セキュリティの調査が終了した午前中までで終業して、全校生徒は
「はぁ……お腹すいた……」
いつもよりだいぶ早い放課後を迎え、ボクは一人でトボトボと家路を歩いていた。時刻は昼。朝食を軽めにしか摂ってきてなかったせいもあって、さっきから胃がずっと、空腹を訴え続けている。
外食でもしようかと考えたけど、先生には寄り道しないで真っ直ぐ帰れって言われたしなぁ。大好物のカレーが食べれなかったのもショックだったけど、何より午後に控えていた、実技の授業が潰れたのが残念でならない。
「あぁもう、不完全燃焼だよ。身体が疼いてしょうがない」
(こうなったら……ゲームで満足するしかない!!)
そうと決まれば。携帯ゲーム機を取り出して、早速スイッチ・ON!
プレイするのは、最近ハマっている
ちなみに今ボクが攻略しているのは、マキちゃんと同じピンク髪のツンデレっ子で、これが最高にかわい……コホン、なんでもない。
「いてっ。あ、ごめ……ん……?」
しまった、ゲームの画面を見てたら前方不注意で誰かにぶつかった。謝ろうとして顔を上げると……目の前に、全身黒ずくめの衣服を纏った長身の男が立っていた。
怪しい!!!!!!
こんな真夏日にロングコートて!! 見てるこっちが暑くなる様な出で立ちも異常だけど、さらに不気味なのは、目深く被った黒いハットの下の顔面が、包帯でミイラみたいにグルグル巻きにされていた事だった。
『……こいつも
「えっ……?」
ミイラ男が何か言った……と思った次の瞬間---
『貴様の魂も、私が復活する為の糧としてやろう』
「!?」
男がいきなり突き出した左腕が、ボクの身体を貫いた。
「がっ……!?」
ゲーム機が手元から地面に落ちる。何が起きたのか理解が追いつかない。ただ感じるのは、身を焦がす程の激痛と耐え難い苦しみ。それに、
このままじゃマズイ……! ボクは苦痛に悶えながらも必死に抵抗しようとして---
「ようやく尻尾を見せたな、悪霊!!」
『!』
薄れかけた意識の片隅で聴こえた、凛とした女性の声。途端、ミイラ男の巨体が誰かに蹴り飛ばされて、ボクは気を失う寸前で、男の腕から解放された。
「ガハッ! はっ、ハァ……ハァ……!」
その場に這いつくばって、肩で息をする。本気で死を覚悟したけど、どうにかまだ……生きてるみたいだ。
「大丈夫か? ボウズ。危ないところだったな」
声をかけてくれたのは、刈り上げヘアーのイケメンな男性だった。よかった、助けが来てくれた。
「行くぞ、ゴウ。奴を回収する」
「あぁ、油断するなよ、
『……貴様ら……精霊回収者か……まぁいい。すでに
……? なにを……言って……
「お前を回収して取り返せば済む話だ!」
『無駄だ女。まもなく私は完全復活を遂げる。そうなれば貴様らごときでは……私は止められん!』
突如ミイラ男の周囲に、バチバチと電流が迸った。
「っ! また逃げる気か!? 待て!!」
黒髪の女性が声を荒げて、ミイラ男を捕らえようと駆け出す。ところが男は強い光に包まれたかと思うと、一瞬にして姿を消してしまった。ひとりでに発光したり放電したり、最後はテレポートと来たか。ビックリ人間ショーでも観せられてる気分だ。
「……くそっ……! 瞬間移動なんてチート過ぎるだろう……!」
悔しげに呟く女性。ボクは立て続けに突発した異常事態に頭が混乱するばかりだった。
(あっ、だめだ……意識……が……)
「! お、おいボウズ! しっかりしろ!」
ミイラ男が消えた事で緊張の糸が切れたんだろうか。視界が霞んで、暗転して、そこでボクの意識は途絶えた……
…………目を覚ますと、見慣れない天井が視界一面に広がっていた。ボクの家じゃない。どうやらボクは、床に仰向けで寝かされていたようだ。なんだか
誰が運んでくれたんだろう? あれから一体どうなった? あのミイラ男は何者だったんだ? 徐々に冴えてきた思考がぐるぐる渦巻くけれど、とりあえず月並みな
「ここは……?」
「ここは私達が寝泊まりしている廃ビルだよ」
「!!」
まさか返答が来るなんて思いもしなかったから、ビックリした。首を横に倒すと、あの時ミイラ男に蹴りを入れてくれた黒髪の女性が、仁王立ちしてボクを見下ろしていた。って、その位置に立たれると、スカートの中が見え……
(……なんだ、スパッツか)
「何を期待したのか知らないが、踏みつけられる前に起き上がる事をオススメするぞ?」
「ワカリマシタ!!」
女性の笑顔に影が掛かったので、急いで上体を跳ね起こ……そうとしたら、手首に違和感を覚えた。思うように動かせない。
毛布に隠れて見えなかったけど、何故か両手が荒縄で縛られて、ガッチリと拘束されていた。
「……これは一体なんのプレイ?」
「手荒なマネをしてすまない。だが君に逃げられたりすると、困る事情が出来てしまってな。やむを得ず、縛らせてもらった」
「事情って?」
「あぁ」
「おうボウズ、やっと起きたか」
女性と一緒にいた、刈り上げのお兄さんもやって来た。この二人がボクを懐抱してくれたのか。
それにしても、目を見張る程の美男美女コンビだ。お兄さんは爽やか好青年って感じだし、女性の方は身長が高い上にスタイル抜群で、大人びた雰囲気が何とも麗しい。肩まで伸ばした
「さて少年。目を覚ましたばかりで悪いが……今から君にとっては、突拍子もない話をさせてもらう。信じてくれと言っても難しいだろうが、これから話すことは全て事実だ。心して聞いてくれ」
「なんか怖いけど……うん、聞くよ」
聞かなきゃ縄を
「結論を先に言わせてもらえば、少年……このままでは君は、間もなく死ぬ」
「いきなり死の宣告!?」
どんな衝撃の真実を告げられても良いように身構えていたけど、第一声から予想の斜め上をゆく発言が飛び出してきて、見事に度肝を抜かれてしまった。女性は続ける。
「驚くのも無理はないさ」
「えーっと……なんでボクは死んじゃうんでしょーか?」
「うむ、それを説明する為にも、まずは『カードの精霊』について教えておく必要があるな」
「カードの精霊?」
「君も名前くらいは聞いたことがあるだろう?」
「そりゃあ、まぁ……
「信じ難いだろうが、カードの精霊は実在する」
「えっ! ほんとに!?」
「あぁ、そして君を襲った黒ずくめの男……アレもカードの精霊だ」
「あのミイラ男が……精霊……? じゃ、じゃあ! アレはモンスターってこと!?」
「その通りだ。残念ながら私達も、何のモンスターカードの精霊なのか……正体までは掴めてないがな」
人間じゃなく精霊……それが本当だとしたら、あの光やら電流やら、魔法みたいな現象を起こせたのも頷ける。あまりに非現実的な話だけど、実際に目の当たりにしてしまった以上、信じるしかないのかも知れない。
(……ん? でも、ちょっと待って……)
「どうしてそのカードの精霊が、ボクを攻撃してきたの?」
「それはな、お前の魂を吸収して、本来の力を取り戻す為だよ」
と、お兄さんが答えてくれた。
魂? そう言えばあのミイラ男も、そんな様な事を言ってた気がする……糧にするとか復活がどうとか。
「感謝しろよボウズ。俺達が助けてなかったら、今頃お前も奴の一部にされていたところだ」
「げえっ……!」
それは嫌すぎる。
ボクが顔をひきつらせていると、女性が補足説明をしてくれた。
「ゴウが言った通り、奴の目的は人間の魂を狩り集め、自らの精神体を復活させること。特に
「!!」
もしやとは思ってたけど……事件の話を聞かされて、気をつけてねって言われた矢先に
「そして君も実は……奴に襲われた時、魂を半分ほど喰われてしまったんだ」
「なっ……!?」
「まだ肉体は
「…………そういう……こと……」
ミイラ男に身体を貫かれた時の、あの奇妙な感覚は……ボクの魂を削って、取り込んでいたのか。
「だが安心してくれ少年。助かる方法が一つだけある」
「本当?」
「あの精霊が完全に復活する前に、
「
「当然だ。何たって、デュエルモンスターズの精霊だからな」
カードのモンスターそのものと
「ところで
「任せておけ。その為に
そう言うと女性は、1枚のカードを取り出して真上に掲げた。すると---
「来い! 【オッドアイズ・ドラゴン】!!」
「!?」
「私達は『精霊回収者』。精霊を使役し、精霊を解放する能力を持った者達だ」
「…………」
「……少年?」
「はっ!? ご、ごめん! 驚きのあまり時が止まってた!」
初めて見るドラゴンの威容と迫力に魅了されて、放心状態になってしまった。
目を凝らしてみる。幻覚じゃない……確かにモンスターが実体を伴って、自分の意思で動いている……! もはや感激すら覚える光景だ。両手が自由だったら端末のカメラ機能で写真を撮りたかった。
「良かったのか里香。正体をバラしちまって」
「こうなってしまっては、隠し通せるものでもないさ。そもそも別に隠してるわけでもないしな。全ては少年を助ける為だ」
「まっ、それもそうか」
「と、言うわけだ少年よ。君の魂を取り返す為に、そして、あの精霊を回収して事件を解決する為に、私達に協力してほしい」
「……分かったよ。ボクもまだ死にたくないからね」
お互いの利害は一致している。手を組む理由としては充分だ。何より、こんな美人に頼まれたら断れない。ボクの命も懸かってるみたいだし。
「私は
「覚えた、里香ちゃん」
「おぉ、初対面の異性に下の名前で呼ばれたのは初めてだ。しかも『ちゃん』付けで」
「ははっ、見た目通りチャラいな、ボウズ」
「ボウズじゃないよ、ボクは
「セツナか、良い名前だな。俺は
「ゴウさんね、分かった」
それぞれの自己紹介が済んだところで、ボクは未だ縄で縛られている両手首を軽く上げた。
「ねぇ、そろそろコレ外してくれない?
「おう悪い悪い。ジッとしてろよ」
ゴウさんの投げたカードが手裏剣の様に飛んできて、縄をスパッと切り裂くと、そのまま壁に突き刺さった。
切られた縄が
「ん、ありがとう」
「……セツナ、君からは強者のにおいがする。腕の立つ
「あははっ、そんな風に言ってもらえるなんて嬉しいな。ボクに出来る事があれば何でも言って。力になるよ」
ボクは里香ちゃんと固い握手を交わす。
次回、後編では、あのキャラをお借りする予定です( ・∀・)フフフフ