遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 前々回がセツ×マキ、前回がセツ×ルイと続いたので、今回はセツ×アマです!



TURN - 15 in the RAIN

 

 放課後、ボクとアマネは机の上にカードを広げて、卓上での決闘(デュエル)に興じていた。デュエルディスクを使わない決闘(デュエル)は、場所を選ばないし成績にも影響しないから、お遊戯感覚で気楽に出来るのが良いよね。

 

 

 

「んじゃ、【ラビードラゴン】で【堕天使マリー】を攻撃するよ」

 

「……私の負けね」

 

「たは~っ、何とか勝てた……」

 

 

 

 決闘(デュエル)が決着して、アマネは自分のカードを淡々と片付け始める。一手でも違えば負けてたのはボクだった。本当にギリギリの勝負だったよ。

 

 でも……

 

 

 

「? どうしたのセツナ? 不満げな顔して」

 

「……いつになったら、アマネの本当の(・ ・ ・)デッキと闘わせてくれるのさ?」

 

 

 

 アマネが今みたいな息抜きの決闘(デュエル)どころか、実技の授業でも使用していない、主力(メイン)デッキを隠し持っている事をボクは知っている。さっき使っていたのは所謂(いわゆる)ダミーデッキで、本人は適当に組んだって言うけど、それですらこんなに手強いんだ。アマネの本来の実力(デッキ)と手合わせしたら絶対にもっと楽しいに違いないのだけれど、彼女は(かたく)なに使おうとしない。何故なら、

 

 

 

「ダーメ。言ったでしょ? あのデッキは『選抜試験』用に調整したデッキだから、当日まで使わない事にしてるの」

 

「選抜試験、か……でも開催って確か、秋だよね?」

 

「そうね、あと1ヶ月ちょい。それまで楽しみにしてなよ。私もあのデッキでセツナと()るの、すっごい待ち遠しいけどガマンしてるんだから」

 

「……わかったよ」

 

「じゃあ私そろそろ行くね。メンテ頼んでたディスク、もうすぐ引き取りの時間だから」

 

「そういえば言ってたね。ボクも久々に挨拶だけして来よっかな、ヒマだし」

 

 

 

 鞄を持って教室を後にし、二人で目的の場所へと移動する。

 

 そこは学園の敷地内、校舎に隣接して建っている、大きな工房だった。ここでは主に、生徒達のデュエルディスクの修理、およびメンテナンスを依頼する事が出来る。しかも無料で。改造は校則で禁止されているから断られちゃうけどね。ボクも転入初日に金沢(かなざわ)くんと決闘(デュエル)して、ディスクを故障させちゃった時にお世話になったなぁ。来るのは随分と久しぶりだ。

 

 自動ドアを(くぐ)り抜けて中に入れば、大勢の職人さん達が作業に没頭していた。生徒総数4(ケタ)を誇るマンモス校であるこの学園で、ボク達が心置きなく決闘(デュエル)を楽しめるのも彼らのおかげ。敬礼。

 

 

 

「すいません、メンテナンスをお願いしてた黒雲(くろくも)です。ディスクの引き取りで来ました」

 

 

 

 アマネはボクと違って、目上の人とはちゃんと敬語で話せるから偉い。

 

 

 

「おぉ、待たせたな。ほれ、バッチリ仕上げておいたぜ、持っていってくれ」

 

 

 

 作業着を着た、短い(しら)()のお(じい)さんが出迎えてくれて、アマネに彼女が愛用しているレッドタイプのデュエルディスクを手渡した。ボクの時と同じで、まるで新品みたいにピカピカだった。相変わらず凄い腕前だ。ボクは手を振りながら、彼に挨拶する。

 

 

 

「おじさん、久しぶり」

 

「ん? おぉ、いつかの眼鏡(メガネ)ボウズじゃねーか。なんじゃ、またディスクおしゃかにしたんか?」

 

「いや、今日はアマネの付き添いで」

 

「おうおう、なんでぇ。こぉ~んなべっぴんさん連れて歩いて。ボウズも隅に置けねぇなぁ、このこの」

 

「あはは、からかわないでよ」

 

 

 

 アマネは照れているのか、こそばゆそうに頬を掻いていた。かわいい。

 

 

 

「どうよ、あれから。まだあの古い(かた)、使ってんのかい?」

 

「おかげさまで凄い調子いいよ。(トラップ)の認識だけ直してもらえたら良かったのに、まさか全部手入れしてくれるなんて」

 

 

 

 鞄の中から、ボクの愛機であるホワイトタイプのデュエルディスクを引っ張り出して見せると、アマネがディスクを指さして尋ねた。

 

 

 

「そういえばセツナのディスクって、ずいぶん昔の型だよね? 私も子供のころ使ってた気がする……」

 

「うん」

 

「俺もボウズがそいつを持ってきた時ぁ驚いたぜ。なんせもう十年以上も前の型だからよ、未だに使ってる奴がいんのかってな。しかもこんな若造が」

 

「十年ッ……! セツナ、それいつから使ってるの?」

 

「ん~……5、6年くらい前からかな」

 

「ワハハッ! それだけ長いこと使われてりゃあディスクも幸せじゃろうな! 冥利に尽きるってヤツじゃ」

 

 

 

 おじさんは置いてあった椅子にドカッと座り込むと、おもむろに懐から取り出したタバコに火を点けて吸い始めた。

 

 

 

「……おじさん、タバコ(それ)学園側に見つかったら怒られない?」

 

「バレなきゃ良いんじゃ。ナイショだぞ?」

 

「「 ………… 」」

 

 

 

 一服した後おじさんは、ボクとアマネに気を遣ってだろう、人のいない方向に煙を吐き出して、灰皿に灰を落としてから再び口を開く。

 

 

 

「……最近じゃあ、デュエルディスクも新しい型がポンポン造られてっからな。目移りして半年も経たねぇ内に買い替える奴なんかザラじゃ。そんな時代に、んな古ぼけた型を現在(い ま)でも使い続けてる若者(わかもん)は珍しい。つい昔の血が騒いじまったぜ」

 

「……よっぽど思い入れがあるんだね、そのディスクに」

 

「うん……形見なんだ。ボクにとって、大切な人の」

 

 

 

 ボクはディスクを大事に抱き締めて、そう答える。あれ……なんでこんな話してるんだろ。胸にしまっておこうって、決めた筈なんだけどな。

 

 

 

「形見?」

 

(ヤバッ、もしかしてこれって……セツナの触れちゃいけないところに触れちゃってる!?)

 

「じゃ、じゃあ行こっかセツナ! おじさん、ありがとうございました!」

 

「おう、気ィつけな」

 

「あっ、待ってよアマネ!」

 

 

 

 アマネが何やら慌てた様子で工房を出ていった。何か用事でも思い出したのかな? ボクも急いで後を追った。

 

 

 

(……私、セツナの昔の事って、まだ何も知らないなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が西に傾きかけた空に、入道雲が浮いていた。

 

 アマネと一緒にこうして下校するのも何度目だろう。昼夜を問わず常に賑やかな都心の街中を、ボクらは他愛ない会話を弾ませながら二人で歩いていた。

 

 

 

「それにしても、あっつ……」

 

 

 

 ボクは制服のシャツの胸元を引っ張って呟く。今日の気温は夏本番と言えるこの時期でも最高を記録したみたいで、もうずっと汗が止まらなくて参ってしまう。学園でも夏バテで何人か倒れてたっけ。ルイくんとか体力なさそうだから心配だな。大丈夫なのかな?

 

 

 

「言わないでよ、余計に暑くなるから」

 

「ごめんごめん。どっかコンビニ寄って、アイスでも買う?」

 

「私、ミントが良いな」

 

「ボクはバニラ派かなぁ……ん?」

 

 

 

 不意に、素肌に水滴が当たる冷たい感触。次いで、メガネのレンズにも水粒(みつぼ)が付着して濡れてしまう。

 もしや……と嫌な予感がしたのも束の間、ポツポツと(まば)らに降ってきた雨粒が徐々に勢いを増していき、やがて滝のような豪雨となって降り注いだ。

 

 

 

「うわっ、降ってきた」

 

「アイスどころじゃないわね……最悪」

 

 

 

 夕立とは、やられたよ。ひとまず何処かで雨宿りしなきゃ。ボクとアマネはアスファルトに溜まった水を蹴りながら走り出す。

 しばらくして、シャッターが閉まっている建物の軒先に雨よけ(オーニング)テントが張ってあるのを見つけたので、その下に避難させてもらう事にした。

 

 ここならどうにか雨を凌げそう……とは言ってもボクも彼女も、とっくのとうに全身びしょ濡れになっちゃってるけど。

 

 

 

(ていうかここまで来たならもう……すぐそこ(・ ・ ・ ・)なんだよね……)

 

「アマネ、大丈夫?」

 

「ハァ……ハァ……うん、平気……」

 

「……ッ!?」

 

(く、黒……!)

 

 

 

 アマネの着ている白シャツが雨に濡れたせいで、その下に着けている黒のブラジャーが透けて見えちゃってる……!! 更には上がった吐息に合わせて、アマネの豊かな胸が上下してるし、なんかもう色々と刺激が強すぎる! ボクは反射的に顔を逸らした。

 

 そう言えば水着も黒だったっけ……クールビューティーなアマネには、あぁいう大人っぽい色の下着もよく似合ってると思う。本人に言ったら確実に腹パン(作画崩壊)されるけど。

 

 

 

「すごいどしゃ降りね……まぁどうせ通り雨だろうからすぐ止むと思うけど」

 

 

 

 スカートを絞りながら呟くアマネ。水も(したた)る良い女。そこ、キモいとか言わない。

 確かに程なくすれば晴れそうだけど、この分だとまだまだ時間がかかりそうだ。それまでここでずっと立ち往生ってのもなぁ……仕方ない。

 

 

 

「アマネ」

 

「ん?」

 

「ボクの家、ここから近いけど……寄ってく?」

 

「えっ……?」

 

「そんなんじゃ雨が止むまで待ってたら風邪ひいちゃうよ」

 

(それに、こんなあられもない姿のアマネを、一人で帰すわけにもいかないし……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクの家はアカデミアから徒歩圏内にある、何てことない普通のマンションの一室だ。玄関の鍵を開けて、その中にアマネを招き入れる。

 

 

 

「さっ、上がって」

 

「……お邪魔します」

 

「ちょっと待ってて、タオルと着替え持ってくるから」

 

(……まさかセツナの家に上がる日が来るなんて……)

 

 

 

 適当なお洋服と、濡れた髪や身体を拭く為のタオルを用意してアマネに手渡す。

 

 

 

「はいコレ。男物で悪いけど」

 

「むしろ女物なんて持ってたら問い詰めてるわ」

 

「乾燥機もあるから、濡れちゃった服とか入れていいよ」

 

「うん、ありがとう。ごめんね色々と」

 

「お気になさらず。服が乾くまで、ゆっくりしてってよ」

 

 

 

 アマネが着替えを済ませてる間に、ボクも部屋に戻って自分の制服を脱ぎ捨てる。それから髪を軽く拭いた後に部屋着を着て、鞄の中身を確認する。デュエルディスクは雨の日の決闘(デュエル)も想定して造られてる物だから、耐水性は抜群だ。壊れてる心配は無いだろうけど、一応点検しておくか。

 

 

 

「……問題なしっと。ふぅ……」

 

 

 

 ディスクは大丈夫だったので、ソファーに座り込んで一息。

 

 

 

(それにしても……誰かを自宅に呼んだのって、アマネが初めてだな……)

 

 

 

 メガネのレンズをクロスで拭き取っていると、アマネが部屋の扉を開けて入ってきた。が……今の彼女の格好に、ボクは目を奪われ硬直した。

 

 

 

「な、何よ……ジロジロ見ないでよ……」

 

「…………Oh……」

 

 

 

 アマネに着てもらったのはボクのTシャツだ。当然サイズが合ってないからダボダボなんだけど……胸、だけは逆にキツそうだった。大きく隆起した二つの膨らみによって、シャツにプリントされているパンダさんの顔が、横に平べったく伸びきっていらっしゃる。これがマキちゃんに育てられたおっぱいの破壊力か……!

 

 

 

「まぁ、座りなよ」

 

「ん……」

 

 

 

 ソファーをポンポンと叩いて、ボクの隣に座るよう促すと、アマネはそこに腰を下ろした。赤色のメッシュが入った黒髪から、良い香りがする。

 

 お茶を淹れてアマネに差し出す。窓の外では、まだ雨が降り続けていた。

 

 

 

「……セツナって一人暮らしなんだね」

 

「うん。ジャルダンのアカデミアに転入が決まった頃、1番街(こっち)に引っ越してきたんだ。近い方が通学に便利だからね」

 

「そうなんだ。セツナが以前(ま え)に居たアカデミアって、どんなところ?」

 

「……あー……至って普通の学校だったよ、うん」

 

「……?」

 

 

 

 ---脳裏に一瞬、あの時の記憶と、あの人(・ ・ ・)の姿が(よぎ)った気がした。

 そうだ、『あの日』も今日みたいな雨だった。

 

 

 

「…………あんな思いは二度とゴメンだ」

 

「何か言った?」

 

「いや、なんでもないよ。それよりさ、暇だし決闘(デュエル)でもしようよ」

 

「えっ、あ……うん、良いけど……」

 

 

 

 いけないいけない。小声とは言え、つい口を突いて出てしまった。

 

 

 

「……」

 

(セツナのさっきの表情……『あまり過去の事を詮索されたくない』、そんな顔をしてた……私と同じ……)

 

「よし、やろっか」

 

 

 

 ボクはテーブルの上にデッキをスタンバイして、いつもと変わらない笑顔でアマネと向かい合う。

 

 

 

「……えぇ、今度は負けないわよ」

 

 

 

 デュエル開始2ターン目。

 

 

 

「【ギフトカード】2枚発動。【堕天使ナース-レフィキュル】の効果でセツナに6000ポイントのダメージ。対戦ありがとうございました」

 

「 」

 

 

 

 後攻のボクがドローした途端に瞬殺されました。キュアバーン恐るべし。

 

 

 

「いやいやいや早すぎでしょ! ボクまだドローしかしてないよ!?」

 

「さすがに今のは私の初手が良すぎたわね。ノーカンで良いよ」

 

「むぅ、なんか悔しい……とりあえずもっかい!」

 

「そう来なくちゃ」

 

 

 

 お互いのデッキをカット&シャッフルして再戦。最初の手札となる5枚のカードを引きながら、ふと考える。

 

 

 

(……あぁ、少し分かったかも……なんでボクがアマネと一緒にいると安心できて、昔の事まで喋りそうになるのか…………ボクはアマネのことを、あの人と重ねて見ているんだ……)

 

「……ナ……セツナ!」

 

「!」

 

「どうしたの? ボーッとして。セツナの先攻でしょ?」

 

「あ、あぁごめん。えーっと、じゃあボクはこのカードを召喚して……」

 

 

 

 大丈夫。このままずっと平穏に暮らしていれば、ボクは大丈夫。

 

 もう大切なものを失いたくない。同じ過ちは繰り返さない。繰り返すもんか、もう二度と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨、止んだね」

 

「ホントだ。アマネの服もそろそろ乾いてる筈だよ」

 

「ん、着替えてくる」

 

 

 

 決闘(デュエル)に夢中で気づかなかったけど、雨はいつの間にか、すっかり降り止んでいた。窓ガラス越しに見える晴空(せいくう)は、夕日で赤橙(せきとう)色に染め上げられている。

 

 ジャルダン(この街)は何かと物騒だから女の子ひとりで帰すのも危ないし、途中まで送っていくとしよう。まぁ、アマネなら万が一暴漢に襲われたとしても、撃退できそうだけど。

 

 ……ふと、デスクの上に置いてある、1枚の写真立てが目に入った。ボクは伏せてあったそれを、何の気なしに引っくり返す。

 中に額装(がくそう)された写真には、綺麗な白銀の髪を背中まで伸ばした、一人の女性が写っていた。カメラ目線で儚げに微笑んでいる、美人と呼んで差し支えない顔立ちをしたその女性は、目元に赤色のメガネを掛けていた。

 

 

 

(懐かしいな……あれからもう、2年も経つのか)

 

 

 

 この写真は、ボクの宝物。ボクと『あの人』が共に過ごした、短くとも幸せだった思い出の証。

 

 そして……ボクが犯した『罪』を、一生忘れない為の……十字架だ。

 

 

 

「セツナ」

 

「っ……!」

 

 

 

 聞き覚えのある声がボクの名前を呼んだ。とっさに振り返ると、そこには『あの人』が---

 

 

 

「あ……アマネ……」

 

 

 

 ……いや、違った。身支度を終えたらしいアマネが、元の制服姿で立っていた。

 

 

 

「乾燥機、貸してくれてありがとうね。おかげで助かったわ」

 

「……うん。それは良かった」

 

 

 

 ビックリした……本当に今、アマネがあの人に見えちゃったよ。錯覚を起こすなんて、今日は疲れてるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時間帯の駅前は、帰宅ラッシュで人がごった返している。アカデミアの生徒もちらほらいるけど、やはり夕方ともなると、仕事帰りの社会人の方が多く見受けられた。これだけ混雑してると、満員電車はまず不可避かもね……。

 

 

 

「見送りありがとね。じゃあ今日はこの辺で」

 

「気をつけてね? 痴漢とか……」

 

 

 

 特にアマネみたいなモデル顔負けの美少女は。

 

 

 

「平気よ、変なのが来ても(ひね)り潰せるから」

 

「ひえっ」

 

「それじゃ、また明日学園で」

 

「うん、バイバイ」

 

 

 

 アマネがこちらに背中を向けて歩き出す。……っと、思ったら、急に再び身体を反転させてボクと向き直った。

 どうしたの? ボクがそう聞こうとするより早く、アマネは言った。

 

 

 

「セツナ。過去に何があったか知らないけどさ……つらい時は、無理して笑わなくても良いんだよ?」

 

「…………!」

 

「じゃあね、バイバイ」

 

 

 

 手を振りながら、アマネは今度こそ雑踏の中へと消えていった。その背を見送った後、ボクは、手を降ろしてクスリと微笑む。

 

 

 

「大丈夫、無理なんてしてないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だけど、あの後アマネに貸したTシャツを広げてみたら、胸の辺りだけ伸び伸びになってました。なんてことだ、ボクのパンダさんが。

 

 そんなこんながあった、翌日の朝。

 

 

 

「ふあ……おはよ、アマネ」

 

「おはよ、セツナ。……って、またネクタイ緩んでるし」

 

「うん、ありがとう、アマネ」

 

「もう私に直してもらう前提なのね……しょうがないなぁ」

 

 

 

 いや、自分でやろうと思えばネクタイ結ぶくらいちゃんと出来るんだよ? 出来るんだけどさ……なんとなく今日は、アマネにやってもらいたい気分だったんだ。

 

 

 

「…………」

 

「……何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い」

 

「ぐえぇ……っ! 絞まってる絞まってる!」

 

 

 

 ネクタイを強く引っ張られて首元が締め付けられた。ちょっと調子に乗り過ぎたかな。

 

 すぐに緩めて結び直してくれると、アマネはボクの胸元を軽く叩いた。

 

 

 

「はい、出来た」

 

「ありがとう。悪いね」

 

「別に……セツナには昨日、世話になったから……お礼よ」

 

「そう言えば昨日は楽しかったね」

 

「「「!!!?」」」

 

 

 

 ピシッと、教室の空気が固まる音が聞こえた気がした。次いで、クラスメート全員の視線がボクの方に集中してきたのを感じた。

 

 

 

「なに? 何事?」

 

総角(アゲマキ)ィィィィイッ!! お、おおお前っ……! 黒雲さんと昨日なにしたんだ!?」

 

「ボクの家で一緒に遊んだだけだよ? 雨宿りも兼ねて」

 

「 」

 

 

 

 今度はクラスメートの男子達が、白目を剥いて固まった。女子も何故だかざわついているけど、ボク変なこと言ったかな? その時、真っ先にボクに詰め寄ってきた目の前の男子が突如、柔和な笑みを浮かべてボクの肩に手を乗せた。

 

 

 

「なぁ総角。朝のHR(ホームルーム)までまだ時間あるからよ、少し俺達と外で話そうか?」

 

「えっ、なんかスッッッゴイ嫌な予感しかしないんだけど」

 

 

 

 あれよあれよと男子達がボクの周りに群がってくる。逃げた方が良いと、直感がボクにそう告げた。ボクは自慢の脚力で、教室の天井ギリギリまで跳躍して彼らの頭上を飛び越え、そのまま廊下へと脱出した。

 

 

 

「あっ! 逃げたぞ!」

 

「くそぉ、すばしっこい! 追えー!」

 

 

 

「朝から騒がしいわね、もう」

 

「アマネたーん。昨日はセツナくんの家でお楽しみだったの?」

 

「マキちゃん隣のクラスでしょ、なんでここに居んのよ」

 

「えへへ~、アマネたんが足りなくて来ちゃった。それよりどうなの? どうなったの?」

 

「私が足りないって何よ……残念ながら、マキちゃんが喜びそうな展開は無かったわよ」

 

「な~んだ、つまんないの。あ、でも~……あたしもセツナくんのお(うち)に遊びに行きたくなっちゃったかも~」

 

(……セツナ、ご愁傷さま)

 

 

 

 おや? 突然(さむ)()が……。なんだか恐ろしい相手に目をつけられた様な気がするぞ?

 

 ひとまず、追いかけてくるクラスメートの皆を撒かないと。今日も色んな意味で退屈しない一日になりそうだ。

 

 気がつけばボクは楽しげに笑っていた。

 

 

 

 





 デュエリストにウフフな展開なんぞ無かった……orz

 切なくて甘い恋、とは行かなかったようです(黙

 今回ほんのちょっとだけ、主人公の過去に触れてみました。とは言え本格的に明らかにするのはまだまだ先なので、どうにかそこまで行き着けるよう執筆がんばります( ;∀;)

 次回はコラボ回になります!!

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