遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 な、なんとか10月中に投稿できたぞ……!(力尽きる)

 お久しぶりです、いつも読んで頂きありがとうございます( ;∀;)作者はちゃんと生きてます! 失踪はしませんよ!



TURN - 13 Double Ace

 

 鰐塚(ワニヅカ) ミサキ。

 

 デュエルアカデミア・ジャルダン校の『十傑(じっけつ)』が一人にして、風紀委員長でもある彼女の事を、学園内で知らない者はまずいないだろう。

 

 群雄割拠を極めるジャルダン校において()の生徒を退(しりぞ)け、学園が認めた十人のエリートのみに与えられる特級 --- 十傑(じっけつ)の座を勝ち取った実力も()ることながら、容姿端麗、才色兼備としても有名で、男女問わず人気がある。有志によるファンクラブまで設立されている程だ。

 

 また、先述した通り風紀委員会にも所属しており、学園の治安維持に貢献して、数々の功績を上げている。

 一癖も二癖もある個性的な生徒が多く集まり、何かと問題の起きやすい学園側にとって彼女の存在は大きく、教師達からは高い評価を受け、厚い信頼を寄せられている。

 それ(ゆえ)、彼女の卒業を惜しむ声も多い。

 

 そんな彼女だが……実は今、ある悩みを抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 学園の最上階、風紀委員室にて。

 

 黒い椅子(イ ス)に腰を下ろして、何やら浮かない(おも)持ちで、ため息をつく鰐塚(ワニヅカ)

 

 高級感の漂う椅子は(ひじ)置き&キャリー付きで、座り心地抜群のレザーチェア。

 生徒が座るには(いささ)贅沢(ぜいたく)にも思えるが、彼女が腰かけると違和感が無いどころか(むし)(サマ)になっている。そう感じさせるのは、(ひとえ)に彼女自身の纏う高貴な風格によるものだろう。

 ここだけの話、彼女が風紀委員長に就任した際、普通の椅子では品位に欠けると嫌がって、実家 --- 鰐塚財閥(ざいばつ) --- の財力に物を言わせ、20万円で購入した代物(しろもの)である事は、同じ風紀委員会のメンバーしか知らない。

 

 閑話休題。

 

 両手で頬杖を突き、視線は明後日の方向。

 トレードマークであるドリル状のツインテールを細い指先で弄りながら、心ここにあらずと言った様子の現在の彼女は、一般生徒が『鰐塚(ワニヅカ)』と聞いて真っ先に思い浮かべるであろう普段の高飛車な印象(イメージ)など影も形もなく、微かに伏せられた水色の瞳と物憂げな表情が、どこか儚げな魅力さえ生み出していた。

 

 同室の男子生徒2名はそんな鰐塚(ワニヅカ)を初めて見るのか、(なか)ば見惚れてしまいながらも、心配そうに彼女を見守っていた。

 

 その内の一人、やや長めに伸ばした茶髪の男子が、もう一人の黒髪の男子に小声で話しかける。

 

 

 

「なぁ、(ひろ)()……最近お嬢様、少し変じゃないか?」

 

「お前もそう思うか? 京川(けいかわ)。少しというか、だいぶ変だよな……」

 

 

 

 (ひろ)()と呼ばれた黒髪の男子は、声をかけてきた茶髪の男子の名を京川(けいかわ)と呼び、彼の言葉に同意した。

 

 この二人は風紀委員の中でも高い決闘(デュエル)の実力を誇り、鰐塚も特に信頼を置いている精鋭である。鰐塚とは同学年だが親しみと崇敬(すうけい)の念を込めて、彼女のことは『お嬢様』と呼んでいる。

 

 広瀬は続けた。

 

 

 

「ここのところ授業中も上の空だし、ずっとあの調子だ……まぁ、どんなお嬢様でも美しい事に変わりはないが」

 

「そこは激しく同感だ。しかし明らかに様子がおかしい……先日なんて、オムライスにイチゴジャムかけて、ソースを飲もうとしていたんだぞ」

 

「その次はタバスコを飲み干そうとしていたな……」

 

 

 

 数日前から度々(たびたび)見られるようになった鰐塚の奇行。それを思い返して広瀬と京川は、訝しげに眉を(ひそ)めた。

 

 このままでは風紀委員会の代表(トップ)として……ひいては学園1の美女として名高い彼女の威厳に、傷がつきかねない。

 彼女に心酔し忠誠を誓い、共に学園の秩序を保つべく戦い続けてきた彼らにとって、それは決して見過ごせる事態ではなく。

 なんとかせねばと頭を悩ませる二人。だが行き着く結論は、互いに一緒だった。

 

 

 

「お嬢様に異変が起き始めた原因……」

 

「……やはり、あいつ(・ ・ ・)か……」

 

「奴しかあるまい……!」

 

 

 

(( 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)!! ))

 

 

 

 二人の脳裏に浮かんだのは、銀髪で赤色のメガネを掛けた、一人の男子生徒の存在だった。

 

 今年の夏前に中途入学してきて、その初日に鰐塚と同じく『十傑(じっけつ)』の一角と称される、九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)決闘(デュエル)(くだ)し、一気に学園中の()(もく)を集めた謎の転入生。

 

 そして……あの鰐塚にも黒星を付けただけに留まらず、あろうことか公衆の面前で彼女を押し倒し、胸を(わし)掴みするという()(らち)を働いた狼藉(ろうぜき)者である。(と、風紀委員会一同は認識している)

 

 

 

決闘(デュエル)で負かされた上に大勢の前で恥をかかされ……お嬢様は酷く傷ついているに違いない…!」

 

「お嬢様の屈辱を晴らすのも我ら副委員長の役目だ! 行くぞ京川!」

 

「おうよ広瀬!」

 

 

 

 広瀬と京川は即座に行動を開始した。

 勇んで室内を出ていく二人。後に取り残された鰐塚がそれに気づいたのは、数分後の事だった。

 

 

 

「……あら、広瀬? 京川? どこへ行ったのかしら……」

 

 

 

 ようやく我に帰った鰐塚。周囲を見渡せば、彼女の他には誰も居ない。すると鰐塚は(おもむろ)に、スカートのポケットから1枚の写真を取り出した。

 

 いつ何処(ど こ)で撮影したのだろうか。写真の中には、赤メガネを外して裸眼になっている、銀髪の少年の姿が。

 それをただジッと見つめながら、鰐塚は再度ため息を零し、頬を薄く紅潮させてポツリと呟いた。

 

 --- 写真に映る、彼の名前を。

 

 

 

「セツナさん……」

 

 

 

 ……そう、一言で言ってしまえば、鰐塚は写真の人物 --- 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)に、()れてしまっていた。

 

 きっかけは彼に初めて決闘(デュエル)を挑み、敗北して地面に組み敷かれた、正にあの時。

 

 一体どこに惚れる要素があったんだと思われるかもしれないが、意外にも鰐塚には、異性に対する免疫(・ ・)というものが、ほとんど無かった。

 何故なら学園の男子にとって、鰐塚 ミサキは高嶺の花。

 常に副委員長の二人がボディーガードの様に付き従い、彼女に近づく悪い虫(・ ・ ・)を排除していた事も相まって、これまで男を寄せ付けずにいた……言い換えれば、男慣れしていなかったのだ。

 

 そんな彼女だ。男性に押し倒されるなど初めての経験だろうし、ましてや胸まで触られたとあっては、パニックで目を回してしまうのは必至。

 そうして混乱の()(つぼ)に陥ったところで鰐塚が見たのは、彼女の心を奪った張本人・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)の、顔だった。

 それも、メガネを取った事で(謎の原理で)イケメン化していた彼の顔面が、鰐塚の眼前、吐息のかかる距離にまで接近していた。

 

 

 

『……大丈夫?(イケメンボイスで脳内再生)』

 

『キュン……!(恋に落ちる音)』

 

 

 

 一目惚れだった。そして、初恋だった。

 心臓(ハート)を矢で射抜かれるとは、こういう感覚なのかと、鰐塚は高校3年生にして、ついに身を以て実感した。

 

 最もその(あと)は動揺の余り、彼をひっぱたいて怒鳴り散らし、部下を(けしか)けてしまったが。それについても謝罪をしなければと考えてはいるものの、学年が違う上に風紀委員としての業務も忙しく、さらにこの時期は卒業後の進路相談なども重なって、なかなか会える機会に恵まれないでいた。

 

 

 

(……あの時、もう少し彼のお顔が近づいて来ていたら……もしかしたら、キ、キキ……『キス』と言うモノをされていたかもしれな……はうぅッ!?)

 

 

 

 そこまで想像したところで途端に羞恥心が込み上げ、ボンッと顔が熱くなるのを感じた。鏡を覗かずとも、耳までゆでダコになっているのが自分で容易に理解できた。

 

 

 

(キャーッ!! いけませんわっ、いけませんわー!! 気をしっかり()つのよ鰐塚 ミサキ!! これしきのことで狼狽(うろた)えては……!)

 

 

 

 顔を真っ赤にして頭を左右に振っている姿を、誰かに見られずに済んだのは幸いか。

 今まで味わった事のない感情に戸惑いを禁じ得ず、それからと言うもの、ずっとこの調子である。

 

 

 

「この胸の苦しさ……これが……『恋』、なのでしょうか……」

 

 

 

 セツナの写真を胸の内に抱いて天井を見上げ、どこか情緒的な独り言を口にする鰐塚。もしこの事実をファンクラブの男子達が知ろうものなら、総力を挙げて総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)を叩き潰さんと、動き出すことだろう。

 

 さて、そんな鰐塚の初々しい恋心など知る(よし)も無い広瀬と京川は、王城の様に広大なこの学園の中から、たった一人の生徒(ターゲット)を探し出すべく、校内を駆けずり回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっ……くしゅん!」

 

 

 

 教室へと向かっている道中、なんだか急に鼻がムズムズしてきて、堪らずくしゃみをしてしまった。

 

 

 

「うーん……風邪かなぁ」

 

「誰かセツナくんの(ウワサ)でもしてるんじゃない?あたしも何個か聞いた事あるよ」

 

 

 

 一緒に歩いていた、ピンク色の髪をミディアムショートに揃えた少女・マキちゃんが、とても興味深い話題を持ち掛けた。

 

 

 

「えっ、噂って……例えばどんなの?」

 

 

 

 ボクは尋ねてから、さっき校内の自販機で買った缶コーヒーを開けて飲む。

 

 

 

「んっとね~、セツナくんは酷い女ったらしで、女子をとっかえひっかえして遊んでるチャラ男だってー」

 

「ブーーーーーッ!!!?」

 

 

 

 口に含んだコーヒーが吹き出た。なんて熱い風評被害!!

 

 

 

「ゲホッ、ゲホッ、なんで!? 言いがかりだよ!」

 

「セツナくん学園(こ こ)だと、男子より女子の友達が多いじゃん? だから勘違いされてるんじゃないかなぁ~」

 

「冗談でしょ、人をそんなプレイボーイみたいに……」

 

 

 

「その噂、案外真実だったかもな!!」

 

「「 ? 」」

 

 

 

 突然ボクとマキちゃんの前に、二人組の男子が現れた。一方は茶髪で、もう一方は黒髪。両者とも何やら腕章らしき物を左腕に巻いていた。アレって確か……

 

 

 

「どちら様?」

 

「俺は風紀委員会副会長・(ひろ)() (こう)()!」

 

「同じく風紀委員会副会長・京川(けいかわ) 俊介(シュンスケ)!」

 

(! 風紀委員……)

 

 

 

 黒髪が広瀬くんで、茶髪は京川くんか。うん覚えた。

 

 

 

「なるほど、風紀委員ね……道理で見覚えのある腕章だと思った。鰐塚(ワニヅカ)ちゃんは元気にしてる?」

 

「……! 貴様……我らのお嬢様を気安く…!」

 

「えっ……え?」

 

 

 

 そう言った広瀬くんの顔つきが鬼気迫るものに変わった。となりの京川くんも同様だ。なになに? 何か怒らせるようなこと言った?

 

 

 

(……今の発言はかなりチャラ男っぽかったよ、セツナくん)

 

 

 

「ようやく見つけたぞ総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)。お前を風紀委員会の名の元に、粛正してやる!」

 

「なんで!?(2回目)」

 

 

 

 出会い頭で(ヤブ)から棒に、粛正宣言を受けてしまった…!

 デュエルディスクを構える二人。となればこのまま決闘(デュエル)の流れだろうか。

 

 

 

「セツナくん今度は何やらかしたの?」

 

「やらかしてないよ! ねぇ副会長さん達。デュエルなら大歓迎だけど、粛正って何のこと?」

 

 

 

 まるで心当たりの無いボクの疑問に、京川くんが答えてくれた。

 

 

 

「知れたこと! お前を討ち倒し、鰐塚お嬢様の雪辱を果たす!」

 

「せ、雪辱……?」

 

「そうだ! 貴様のせいでお嬢様は、味覚も崩壊する程の心の傷を負ってしまわれたのだ!」

 

 

 

 と、広瀬くんが次いで告げてきた。

 

 ……あぁ、そう言えば……鰐塚ちゃんと決闘(デュエル)した後、スッ転んで思いっきり胸を揉んじゃったこと、まだちゃんと謝ってなかったかも。そんなに深く傷ついてたのか……

 

 

 

「そっか……それは悪い事しちゃったな……分かった、鰐塚ちゃんに会わせてよ。きちんと謝りたいからさ」

 

「なっ…なんだと……?」

 

(ダマ)されるな京川! この男は上手いこと言って、またお嬢様に近づく気なんだ!」

 

「そ、そうか! 危うく乗せられるところだった……このすけこましめが!」

 

「ええええっ!? ちょ、ボクはそんなつもりじゃ…」

 

「黙れ! 貴様をこの先へは一歩も通さん!」

 

「ここを通りたければ、我らを倒していけ!」

 

「いやボクら教室に戻ってたんだけど……」

 

「まぁ良いじゃん。相手してあげなよ、セツナくん」

 

「マキちゃん?」

 

 

 

 取りつく島もない二人に困り果てていると、マキちゃんが前に歩み出た。

 彼女の左腕には、先日『とあるイベント』で手に入れた、パステルピンクの可愛らしいデュエルディスクが装着されていた。

 

 

 

「あたしも手を貸すしさ、やろうよ」

 

「……タッグデュエルか。いいね、面白そう!」

 

「むっ……お前、見た顔だと思ったら、あの時そいつと一緒にいた女か」

 

「そうだよ、あたしは()(づき) マキノ。そっちが二人がかりなら、こっちも組ませてもらうよ。良いよね?」

 

「ふん、邪魔だてするなら女とて容赦はしない! 行くぞ京川!」

 

「おうよ広瀬!」

 

 

 

「「「「 決闘(デュエル)!! 」」」」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP(ライフポイント) 4000

 

 広瀬 × 京川 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「今回の決闘(デュエル)は『タッグフォースルール』みたいだね」

 

 

 

 『タッグフォースルール』。

 

 二人で一人分のフィールドとライフを共有する特殊なルールで、近年のタッグデュエルでは主流になりつつある形式だ。

 パートナーのカードをどう活用するかが勝敗の鍵を握り、息の合った連携が求められる。

 

 先攻は相手チーム、京川くんからスタートした。

 

 

 

「先攻はこちらが貰う! 俺のターン! 俺は【切り込み隊長】を召喚!」

 

 

 

【切り込み隊長】 攻撃力 1200

 

 

 

「こいつが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる! 来い! 【デイブレーカー】!」

 

 

 

【デイブレーカー】 攻撃力 1700

 

 

 

「まだだ! 【デイブレーカー】が特殊召喚された事で効果発動! 手札から新たな【デイブレーカー】を特殊召喚できる!」

 

 

 

【デイブレーカー】 攻撃力 1700

 

 

 

「当然その効果で、3体目の【デイブレーカー】も特殊召喚だ!」

 

 

 

【デイブレーカー】 攻撃力 1700

 

 

 

「一気にモンスターを4体も揃えた…!」

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

 

 

 先攻1ターン目から手札を全部使いきって、いきなり大量展開で場を埋めた京川くん。広瀬くんという頼れる相棒がいるからこそ、思い切ったプレイが出来るんだろう。

 

 次はマキちゃんにターンが移る。

 

 

 

「あたしのターンだね、ドロー! あたしは【ガトリングバギー】を召喚!」

 

 

 

【ガトリングバギー】 攻撃力 1600

 

 

 

「バトル! 【切り込み隊長】を攻撃!」

 

「くっ…!」

 

 

 

 広瀬 × 京川 LP 4000 → 3600

 

 

 

「やったね! カードを2枚伏せて、ターン終…」

 

「それを待っていた! エンドフェイズに(トラップ)発動! 【スリーカード】!」

 

「ッ!」

 

「このカードは自分のフィールドに同名モンスターが3体以上いる時に発動でき、相手フィールドのカードを、3枚破壊する!」

 

「えぇーっ!?」

 

 

 

 京川くんの場には【デイブレーカー】が3体。発動条件は満たしてる…!

 マキちゃんの召喚した【ガトリングバギー】と、2枚の伏せ(リバース)カードが破壊され、ボク達の場は、ガラ空きになってしまった。

 

 

 

(ヤバッ……【反転世界(リバーサル・ワールド)】が破壊されちゃった…!)

 

「フフッ、コンバットトリックでも狙っていたんだろうが、アテが外れたな」

 

「さすがは京川!」

 

「フィニッシュは任せたぞ、広瀬!」

 

「あぁ任せろ! 俺のターン!」

 

「うぅ……!」

 

「お前達のフィールドはガラ空き、もはや何も出来まい! 覚悟しろ! 3体の【デイブレーカー】で総攻撃!!」

 

 

 

 広瀬くんの指示を受けて、【デイブレーカー】達は一斉攻撃を開始した。3体の攻撃力の合計は5100。この攻撃が通ったら、ボク達のライフは(ゼロ)になる。

 

 でも、それを簡単に許すほど、マキちゃんは手ぬるい決闘者(デュエリスト)じゃない!

 

 

 

「させないよ! 手札から【速攻のかかし】を墓地に送って、バトルフェイズを終了する!」

 

 

 

 マキちゃんがカードを墓地に送ると、かかし型のモンスターが出現して、敵の攻撃を全て受け止めてくれた。

 

 

 

「チッ、凌いだか……ならば俺は【デイブレーカー】を1体リリースし、【カオス・マジシャン】をアドバンス召喚!!」

 

 

 

【カオス・マジシャン】 攻撃力 2400

 

 

 

「カードを1枚伏せ、ターンを終了する」

 

「おっ、ボクの番だね」

 

「ごめんねセツナくん…! なんにも残しておけなくて……」

 

 

 

 両手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げるマキちゃん。ここは男として、しっかり挽回してあげないとね!

 

 

 

「大丈夫、こっから巻き返すよ! ボクのターン!」

 

 

 

 相手のフィールドにはモンスターが3体。しかも1体は上級モンスターで、オマケに伏せカードが1枚か。さて、どうするかな……

 

 

 

「それじゃ、ボクは【スピリット・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 1000

 

 

 

「【スピリット・ドラゴン】で、【デイブレーカー】に攻撃!」

 

「バカめ! そいつより【デイブレーカー】の方が攻撃力が高い!」

 

「見くびってもらっちゃ困るよ、京川くん。【スピリット・ドラゴン】の効果発動! 手札のドラゴン族モンスターを墓地に送る事で、攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

「なにッ!?」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 1000 + 1000 = 2000

 

 

 

「行け、【スピリット・ドラゴン】! 『スピリットソニック』!!」

 

「そうはさせん! (トラップ)発動! 【六芒星(ろくぼうせい)の呪縛】!」

 

「!」

 

 

 

 広瀬くんが発動した(トラップ)によって、スピリット・ドラゴンは六芒星が(えが)かれた魔法陣に囚われ、動きを封じられてしまった。

 

 

 

「これでお前の攻撃はキャンセルされた! 残念だったな総角(アゲマキ)!」

 

「そう来たかー……バトル終了と同時に、スピリット・ドラゴンの攻撃力は元に戻る」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 2000 → 1000

 

 

 

「ボクはカードを3枚セットして、ターン終了!」

 

 

 

 ここでターンが一周して、京川くんに2回目のターンが回る。

 

 

 

「俺のターン! よし…! 俺は【デイブレーカー】を1体リリース! 現れろ、壮烈なる騎士 --- 【聖導騎士(セイントナイト)イシュザーク】!!」

 

 

 

聖導騎士(セイントナイト)イシュザーク】 攻撃力 2300

 

 

 

「これで俺と広瀬のエースモンスターが出揃った! このターンで終わりにしてやる!」

 

「……!」

 

「バトルだ! まずは【イシュザーク】で、【スピリット・ドラゴン】を攻撃!」

 

 

 

 聖なる力を秘めた高等騎士が、白き大剣で【スピリット・ドラゴン】に斬りかかる。

 

 

 

「リバースカード・オープン! 速攻魔法・【ハーフ・シャット】!」

 

「!?」

 

「【スピリット・ドラゴン】は攻撃力が半分になる代わりに、このターン戦闘では破壊されない!」

 

「ハッ、無駄な足掻きだな! どの道この3体で攻撃すれば、お前達のライフは…」

 

「分かってるよ。だから、こうする! チェーンして速攻魔法・【非常食】発動! 【ハーフ・シャット】を墓地に送って、ライフを1000ポイント回復する!」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP 4000 → 5000

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】攻撃力 1000 → 500

 

 

 

「…チィッ、悪あがきを…! やれ【イシュザーク】! 『ブレイク・ダウン・ディストーション』!!」

 

「くっ…!!」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP 5000 → 3200

 

 

 

 【ハーフ・シャット】のおかげで【スピリット・ドラゴン】は破壊されず、場に留まり続けてくれている。でも残りの敵モンスター達の、更なる追撃が待っていた。

 

 

 

「続いて【カオス・マジシャン】の攻撃!」

 

「『カオス・インパクト』!!」

 

 

 

 ()(すい)色の装束を身に纏った魔法使いの攻撃が、【スピリット・ドラゴン】とボク達のライフにダメージを与える。

 

 

 

「うぐっ…!! …ッ…!」

 

「大丈夫!? セツナくん!」

 

「平気…だよ、これくらい…!」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP 3200 → 1300

 

 

 

「最後は【デイブレーカー】で攻撃!」

 

「ッ……!」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP 1300 → 100

 

 

 

「くそっ、ギリギリで持ち堪えたか…! 俺はこれでターンエンドだ!」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 500 → 1000

 

 

 

 ライフポイント100……! 危なかった~! なんとか(すんで)の所でマキちゃんに繋げられたね……ありがとう、スピリット・ドラゴン。

 

 

 

「ふう……ボクに出来るのはこんなところかな。後はよろしくね、マキちゃん」

 

「オッケー、ありがとうセツナくん。後はあたしに任せて! あたしのターン、ドロー!」

 

「……何なんだ奴らの余裕な態度は…!」

 

「気に食わないな……ライフすら風前の灯火で、この状況を(くつがえ)せるつもりか?」

 

 

 

「んーっと、どうしようかな……決めた! あたしは墓地の(トラップ)カード・【()(びと)のいたずら】を発動するよ!」

 

「なに! 墓地から!?」

 

「墓地で発動する(トラップ)だと!?」

 

「そっ。最初のターンに【スリーカード】で破壊されちゃった1枚だよ。墓地の【小人のいたずら】を除外して、このターン手札のモンスターのレベルを1つ下げる。これでレベル7のモンスターはレベル6になって、リリース1体で召喚できるようになったよ!」

 

「「!!」」

 

「【スピリット・ドラゴン】をリリースして、【ランチャースパイダー】をアドバンス召喚!!」

 

 

 

【TM-1 ランチャースパイダー】 攻撃力 2200

 

 

 

「は……ははっ、何が出てくるかと思えば、攻撃力2200程度、なんら問題ではない!」

 

「それはどうかなぁ~?」

 

「…?」

 

 

 

 出た! マキちゃんの小悪魔モードだ!

 

 

 

「手札から魔法(マジック)カード発動! 【右手に盾を左手に剣を】!!」

 

「!! そ、そのカードは!?」

 

「そう、フィールドのモンスター全ての攻撃力と守備力を、くるっと入れ替えちゃうカードだよ!」

 

 

 

聖導騎士(セイントナイト)イシュザーク】 攻撃力 2300 → 1800

 

【カオス・マジシャン】 攻撃力 2400 → 1900

 

【デイブレーカー】 攻撃力 1700 → 0

 

【TM-1 ランチャースパイダー】 攻撃力 2200 → 2500

 

 

 

「お……俺達のモンスターの攻撃力が…!?」

 

 

 

 愕然とする京川くんと広瀬くん。無理もないか、デイブレーカーなんて攻撃力(ゼロ)になっちゃったわけだし。

 

 たった1枚の魔法カードで戦況を引っくり返すとは流石マキちゃん!

 ここはひとつ、ボクも前のターンに自分が伏せた(トラップ)を使って、彼女のお役に立つとしよう。

 

 

 

(トラップ)発動! 【戦線復帰】! 墓地からマキちゃんの【ガトリングバギー】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【ガトリングバギー】 守備力 1500

 

 

 

「そしてあたしは魔法(マジック)カード・【戦線復活の代償】を発動! 【ガトリングバギー】を再び墓地に送ってモンスター1体を蘇生し、このカードを装備する! あたしが復活させるのは、セツナくんの【ダークブレイズドラゴン】!!」

 

 

 

 禍々しく逆巻く黒い炎の中から、【ダークブレイズドラゴン】が地上によみがえり、咆哮を響かせる。

 

 

 

「な、なんだこのドラゴンは!? 墓地になんていつの間に…!」

 

「…! そうか貴様…! あの時【スピリット・ドラゴン】の効果で…!」

 

「大正解だよ広瀬くん。墓地から特殊召喚された【ダークブレイズ】は、攻撃力が2倍になる!」

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 2400

 

 

 

「さぁこっちもダブルエースが揃ったし、いっちょ派手にやりますか!」

 

「そうだね、マキちゃん!」

 

「バトル! 【ランチャースパイダー】で【イシュザーク】を攻撃! 『ショック・ロケット・アタック』!!」

 

「【ダークブレイズドラゴン】で、【カオス・マジシャン】を攻撃! 『バーンズダウン・ヘルファイア』!!」

 

 

 

 乱射されたロケットランチャーの(だん)()と、万物を焼き尽くす地獄の業火が、標的となった聖騎士と魔法使いを、瞬く間に消し飛ばした。

 

 

 

「ぐあっ!」

 

「うおぉっ!?」

 

 

 

 広瀬 × 京川 LP 3600 → 2400

 

 

 

「さらに【ダークブレイズドラゴン】の効果発動! 戦闘で破壊したモンスターの、元々の(・ ・ ・)攻撃力分のダメージを与える! これで…」

 

「『チェックメイト』だ!!」

 

「ボクの決めゼリフ取られた!?」

 

 

 

- ブレイジング・ストーム!! -

 

 

 

「「うわあああああああっ!!!?」」

 

 

 

 広瀬 × 京川 LP 0

 

 

 

「イェーイ! あたし達の勝ちー!」

 

「やったねマキちゃん!」

 

 

 

 大喜びなマキちゃんとハイタッチ!

 

 

 

「ま……負けた……」

 

「俺と京川の最強タッグが敗れるとは……」

 

「じゃあそういうわけだから、ボク達はこれで」

 

「またね~!」

 

 

 

 無事に勝てた事だし、そそくさと退散してしまおう。打ち(ひし)がれている様子の二人に一言だけ言い残して、ボクとマキちゃんは歩き出した。

 

 すると……一人の女子生徒がやって来た。

 

 

 

「騒がしいと思ったら、こんなところで何をしているんですの? 広瀬、京川」

 

「「お、お嬢様!?」」

 

 

 

 あの白金に輝くツインドリル……見間違う筈もない。鰐塚ちゃんだった。後で会いに行こうと思ってた矢先に、あちらから来るなんて。

 

 

 

「あっ、鰐塚ちゃん。ちょうど良かった。この(あいだ)の事なんだけど……」

 

「せ、せせ、セツナさん!?」

 

「……ん?」

 

 

 

 ボクに気づいた途端、鰐塚ちゃんは何やら顔を真っ赤にして狼狽(うろた)え始めた。どうしたんだろう?

 

 

 

(なななななんでセツナさんがここに!? というか今(アタクシ)、彼のこと思いっきり名前で呼んでしまいましてよ! どどどどうしたら……え? この間? ああぁやっぱり(アタクシ)がした事にお怒りなのですわね……早くお詫びしなければ…!)

 

「あ、あ、あの……あばば…あげまきさん…! その……あの時は…」

 

「うん、あの時はごめんね。鰐塚ちゃんに酷いことしちゃって……」

 

「……え?」

 

「お詫びと言ったら何だけど……今度さ、食事でも奢らせてよ。駅前にオシャレなレストラン見つけたんだ。きっと鰐塚ちゃんも気に入ると思うから…」

 

「!?!!!!!?!?!!!?」

 

(こ、これってもしや……いわゆる『デート』のお誘い!? 男の人と二人きりでお食事……ま、まさかセツナさんは(アタクシ)のことを……!? そ、そんな…そんなの……!)

 

「……えっと……鰐塚ちゃん?」

 

「こ……心の準備がまだですわぁああああああっ!!!」

 

「えっ!? ちょ…!」

 

 

 

 鰐塚ちゃんは絶叫しながら走り去って行ってしまった。意外に足が速くて追いかける間もなかった。

 

 

 

「あちゃー……嫌われちゃったかな…?」

 

「……ははーん。あたし(わか)っちゃったかも」

 

「解ったって…何が?」

 

「罪な男だねぇ、セツナくんって」

 

「???」

 

 

 

 マキちゃんの言っている意味を把握できず、ボクは首を傾げた。……おや? 背後から殺気が……

 

 

 

「はっ!?」

 

総角(アゲマキ)お前……俺達の前で公然とお嬢様をナンパするとは良い度胸だな…!」

 

「その罪、万死に値する……やるぞ京川…!」

 

「おうよ広瀬…!」

 

「いや、待って、落ち着いて二人とも……」

 

 

 

 完全に怒髪天を突いている広瀬くんと京川くん。ヤバイ、ジリジリと壁際に追い詰められていく…! 助けてマキちゃん……

 

 

 

「あれ、マキちゃん!? どこ行ったの!? マキちゃーん!!」

 

 

 

 いつの間にかマキちゃんは、忽然(こつぜん)と姿を消していた。いち早く危機を察してエスケープしたな、あの小悪魔めぇえええっ!!

 

 

 

「「粛正してやるううううっ!!」」

 

「ギャーッ!?」

 

 

 

「クスクス……本当に見てて飽きないなぁ、セツナくんは」

 

 

 

 





 実はチョロインだった鰐塚ちゃんww

 タッグデュエル初挑戦の回でした! それぞれの見せ場を演出しつつ良い感じにフィニッシュまで持っていく為にアレコレ考えていたら、前回の投稿から1ヶ月以上も空くという、なんたるていたらく(´・ω・`)

 感想などお待ちしております(*´∀`)♪

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