遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 初投稿したポケモン小説の息抜きに作りました~!ごゆるりと。



第1章 日常編 - Transfer -
TURN - 1 START OF THE NEW DUEL


 

- ボクはただ、平穏に生きたいだけなんだ -

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今朝はじめて袖を通したばかりの、新しい制服の胸ポケットから携帯端末(スマートフォン)を取り出して画面を開き、時間を確認する。待ち受けには『AM(午前) 7:35』と、デジタル文字で大きく表示されていた。

 

 まだ予定の登校時間まで、かなり余裕がある。少しくらい寄り道なんかしちゃっても、まぁ大丈夫だよね。

 

 いやぁ今日という日が楽しみ過ぎて、ボクにしては珍しく目覚まし時計のアラームをセットした時刻より、30分も早く起きちゃったからなぁ。うむ、偉いぞボク。ほめてつかわす。

 

 ……少し歩くと、壁一面が鏡張りになっているビルを発見した。ボクは鏡面の前に立ち止まって、そこに映し出された自分の身なりを再チェックする。

 

 

 

 やや癖毛があって、ところどころ毛先が跳ねている、銀色(ぎんいろ)の髪。前髪の長さは()(ぶた)にかかる程度。

 トレードマークと称して常日頃かけている、フレームが赤いメガネの奥から覗くのは、黒色の瞳。

 

 人からはよく童顔と言われる、生まれてこの方17年の付き合いになる、見慣れた丸い顔。

 

 服装は、これから通う学園の生徒であることを証明する、ピカピカの制服一式。

 白いラインが入った黒のジャケット。その下には白のワイシャツを着ていて、首元には青いネクタイを巻いている。

 ズボンはジャケットと同じ黒色で、新品なので折り目がクッキリと浮かんでいる。

 

 忘れ物も無し。うん、バッチリ!

 

 

 

 この日は運よく天候にも恵まれて、見上げれば雲ひとつない晴れ渡った青空が広がっている。

 燦然(さんぜん)と輝く太陽から降り注ぐ、眩しくも暖かい光がボクの身体を包容してくれている。

 

 そして、快晴に元気を貰っているのはボクだけでなく、この街…『ジャルダン』も一緒だ。

 

 

 

 正式名称『ジャルダン・ライブレ』。通称・ジャルダン。

 

 総人口・約34万人、総面積・約20平方キロメートル。(暇な時にウィキ○ディアで調べた。)※東京都新宿区と、ほぼ同じ人口と面積。

 

 方々(ほうぼう)で高層ビルが軒を連ねる、絵に描いた様な大都市だ。

 しかもどうやら、街は7つのエリアに分けられているらしく、ボクが主に暮らす事になったこの地区は、ジャルダンの都心部・『1番街(ばんがい)』と呼ばれている。

 

 これだけ広大な都市の中心部というだけあって、街は朝から驚く程の賑わいを見せている。駅前に行けば大勢の人々が往来しているし、ボクと同じ制服を着た学生の姿も、たくさん見受けられる。これで昼頃に繁華街でも寄ったら、人酔いして倒れてしまいそう。

 

 

 

 だけど、この街の最も特徴的なところは…

 

 行き交う全ての人間が『デッキ』と『デュエルディスク』を、常に肌身はなさず携行している…つまり『決闘者(デュエリスト)』であるということなんだ。

 

 

 

 『デュエルモンスターズ』

 

 8000種以上の(そのうち1万を超えるだろう)多種多様なカード群の中から、厳選した40枚のカードで山札(デッキ)を組み、モンスター、魔法、(トラップ)などを駆使して(たたか)う。ワールドワイドな人気を誇るカードゲーム。

 

 今や、このカードゲームはカードゲームの粋を超越して、世界を動かすレベルにまで発展している。プロにもなると、契約金が何百万やら何千万やら、時には億単位で支払われる事もあるんだとか。なんて言うか……すごい(語彙力)。

 

 

 

 そんなわけで決闘者(デュエリスト)が街中を闊歩しているのは、別に世界中どこに行っても日常茶飯事の光景ではあるけれど、この街(ジャルダン)は特に、デュエルの色が濃厚な気がする。

 

 何せ、『デュエルが全てを支配する街』とまで言われているのだから。

 

 無理もない。ここ数年のプロリーグに進出するデュエリストは、驚く事に6割がジャルダン出身。

 他の街で『デュエルチャンピオン』になったり頭角を現したりしてるのも、元はジャルダンの人間だったって事例が多いと聞く。

 

 それだけ、この街はデュエリストのレベルが高いんだ。

 

 …その分、デュエルの実力が低い人には、死ぬ程シビアな世界だけどね。

 

 

 

「トドメだ!ダイレクトアタック!!」

 

「うわああぁっ!?」

 

 

 

 聞き慣れた単語が耳を掠めた。次いで、轟音が鳴り響き、同時に誰かの悲鳴が聞こえる。

 

 すぐ近くで、こんな朝早くからデュエルが行われてるのか。さすがデュエルの街。

 それにしても今の音…相当、強力なモンスターの攻撃によるものだよね。……見てみよう。

 

 現場に急行すると、何やら怯えた様子で地面に座り込んでいる茶髪の少年と、そんな彼を見下ろして笑っている、若い男達の集団に出くわした。

 よく見ると双方ともに、ボクと同じデザインの制服を着ている。男達の方は、だいぶ着崩しているけれど。

 この状況を見るに、もうデュエルは終わっちゃったみたい…残念。

 

 

 

「ケッ!相変わらず(よえ)ぇーなぁ、(いち)()()!軽すぎて朝のウォーミングアップにもなんねーよ!」

 

「ぎゃはははっ!もうちょい優しくしてやれよ、ケンちゃん」

 

「バッカ、手加減してるっつの。コイツが歯応え無さ過ぎんの」

 

「うっ……ううっ…」

 

 

 

 『一ノ瀬』と呼び捨てにされた茶髪の男の子は身体を震わせて涙目になっていた。悔しさか恐怖か…たぶん両方かも。

 

 さっき、彼らの会話の中で『ケンちゃん』と呼ばれていた金髪の男が歩き出して、茶髪くんとの距離を縮めていく。彼が茶髪くんをデュエルで倒した相手か。

 

 金髪のケンちゃんは、自分の左腕に装着してあるデュエルディスクを右手の指先で操作し始める。それから茶髪くんを睨み付けて舌打ちした。

 

 

 

「……たった300DPかよ、小遣い稼ぎにもならねぇじゃねぇか」

 

 

 

 『DP』とは『デュエルポイント』。デュエルに勝利すると獲得できるボーナスポイントの事で、そのポイントを使えばカードパックや色々な物を購入できたり、サービスを利用できたりする。

 ボク達デュエリストにとっては世界共通の『お金』というわけだ。

 

 そして、加算されるDP(デュエルポイント)の額は、(おこな)ったデュエルの、いわゆる『質』によって左右される。

 

 

 

「話になんねーんだよ!いい加減そんなカスデッキ捨てて、もっと(つえ)ぇカード買えよ!」

 

「っ!……くっ、うぅ…!」

 

「無理無理!どーせ、そいつ負けっぱなしでDPスッカラカンだもんよ。ろくなカード買えねえって!」

 

「ブハッ!それもそうか!こりゃ失礼しちまったぜ、ギャッハッハ!」

 

 

 

 さっきから男達は言いたい放題の笑い放題。ガラの悪い連中だね。どこに行っても、こういう人種は居るものか……ん?

 

 

 

「……撤回…して…」

 

「あ?なんか言ったか雑魚(ザ コ)

 

「…ぼ…僕のデッキ、を…バカに、しないでくださいっ…!」

 

「「「…………」」」

 

 

 

 ……あーあ。

 

 

 

「はぁ?カスをカスっつって何が悪いんだよ?」

 

「ひっ…!」

 

 

 

 目の色が変わった金髪のケンちゃんは、右拳を固く握り締めて、茶髪くんの顔面を狙って殴りかかった。

 

 ……揉め事は好きじゃないんだけどな、しょうがない。

 

 

 

 ボクは2人の間に素早く飛び込んで、金髪のケンちゃんのパンチを、カバンから引っ張り出したデュエルディスクで受け止めた。カードが(けん)なら決闘盤(デュエルディスク)は盾ってね。

 

 

 

「ッ!?」

 

「!?」

 

「はい。ストップ」

 

 

 

 ボクが横から乱入したことで、茶髪くんも金髪のケンちゃんも目を丸くしていた。後ろで眺めていたケンちゃんのお仲間も同様だ。

 茶髪くんは何が起きたのか理解できてないみたいで呆然としている。

 一方、金髪のケンちゃんは一歩だけ後退して、ボクの出方を(うかが)いながらも再び殴撃(おうげき)の構えを取った。そうしてから、口を開いた。

 

 

 

「……誰だテメェ?…見ねぇ顔だな」

 

総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)。今日から君らと同じ、『デュエルアカデミア・ジャルダン校』に転入するんだ。ちなみに高等部2年生。よろしくね」

 

「あぁ?転入生?」

 

「そう。輝かしい転入初日に血を見るのは勘弁なんだ。しかも登校前になんてさ。そういうわけだから今回はこの辺で、お開きにしてもらえないかな?」

 

「…………」

 

 

 

 ボクの懇切丁寧(こんせつていねい)な要望に対して、金髪のケンちゃんは怖い顔のまま何も答えない。

 すぐに彼の友達も、ボク達の周りにゾロゾロと集まってきた。

 えーっと、右から順に、モブ1号、2号、3号と名付けよう。

 

 

 

「なんだぁクソガキ!!調子ノッてんじゃ…」

 

「待てよ」

 

 

 

 左端に陣取った、短い黒髪の巨漢・モブ3号の怒声を制止したのは、意外にも金髪のケンちゃんだった。

 

 

 

「良いぜ。お望み通り見逃してやろうじゃねぇか。ただし」

 

「…ただし?」

 

「テメェの持ってる、そのデュエルディスクとデッキを置いてけ」

 

「!!」

 

 

 

 そう来たか…ただでは解放してくれないみたい。

 

 

 

「おら、どうした?とっとと出せよ!言っとくが逃げようなんて思うなよ?」

 

 

 

 モブ3人が()ぐ様ボクを取り囲んで、退路を塞いだ。完全に逃げ場なしだ。

 どうせ、ここで素直に応じてデッキとデュエルディスクを明け渡しても、どの道ボクの事はボコボコにする算段なんだろう。

 

 チラッと横を一瞥(いちべつ)すると、茶髪くんが相変わらず震えながら、どうしたら良いか分からないと言った様相で、こちらを見ていた。

 この人達のターゲットはボクに変わっている。だから今の内に離脱すれば良いのに。腰でも抜けちゃったかな?

 

 ボクは目を閉じて、小さく()め息を()く。そして、ある提案をした。

 

 

 

「…デッキもディスクも、持ってかれるのは困るなぁ。どうかな金髪のケンちゃん。ここはひとつ、『デュエル』で決めるというのは」

 

「デュエルだと?…つか馴れ馴れしく呼んでんじゃねぇよ」

 

「ボクが負けたら言う通りにする。でも、ボクが勝ったら大人しく退散してもらうよ」

 

「…あ"ぁ?」

 

 

 

 最後は少し挑発的な言葉を()えて選んで、そう申し出た。金髪のケンちゃんは眉根を寄せて、明らかに不愉快そうな表情を作った。

 

 

 

「…おもしれーじゃねぇか。テメェが負けたら『土下座して謝る』も追加だ」

 

「お好きなように」

 

 

 

 OK、交渉成立だ。

 

 ボクは愛用のホワイトタイプ・デュエルディスクを、左腕に装着する。そのホルダーには、同じく愛用のデッキをセッティングした。

 ディスクを起動すると、カードをセットするプレート部分が展開して、デッキが自動(オート)シャッフルされる。

 ライフカウンターには、白い電子文字で『4000』と数値が表示される。これで準備は完了。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!そんなの無茶ですよ!」

 

「茶髪くんは下がってて、危ないからね」

 

「で、でも…」

 

「大丈夫だよ、上手くやるから」

 

「挑んでくるからには、ちったぁまともなDP稼がせてくれよぉ?テメェのデッキ売れば、少しは足しになるだろうがな」

 

「そう簡単に譲れるほど、ボクのデッキは安くないよ」

 

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 金髪のケンちゃん LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ククッ、先攻は俺だ。手札から【融合(ゆうごう)】を発動!!」

 

「!」

 

「手札の【サイバー・オーガ】2体を融合!【サイバー・オーガ・(ツー)】、融合召喚!!」

 

 

 

 相手フィールドのモンスターゾーンに、融合モンスター【サイバー・オーガ・2】が立体映像(ソリッドビジョン)となって出現した。1ターン目から融合召喚か…しかも、こんな上級モンスターを…!

 

 

 

【サイバー・オーガ・(ツー)】 攻撃力 2600

 

 

 

「ま、また出た…サイバー・オーガ・2…!」

 

 

 

 ボクの背後で、茶髪くんが呟くのが耳に届いた。なるほど、これがさっきの爆音を起こした張本人か。納得。

 さしずめ金髪のケンちゃんの、エース・モンスターと言ったところかな。

 

 

 

「なら…そのモンスターを倒せば、このデュエルは貰ったも同然だね」

 

「ケッ、ほざいてろ!俺は更に、カードを2枚セットする!」

 

 

 

 裏側表示のカードが立体映像(ソリッドビジョン)としてフィールド上に現れる。

 伏せ(リバース)カードが2枚か。厄介だけど、これで相手の手札は(ゼロ)

 今、フィールドに出ているカードさえ何とかすれば、勝機は十分にある!

 

 

 

「先攻は最初のターン、攻撃する事は出来ない。俺はこれでターンエンドだ!」

 

「それじゃ、ボクのターン!デッキから、カードをドローする!」

 

 

 

 ディスクに差し込んだデッキの、一番上に重なっているカードを、1枚だけ引く。これでボクの手札は現在6枚。

 

 さて、ここからどうプレイングしていくか…。

 

 

 

「…………フッ」

 

「あ?なに笑ってやがる」

 

「…?」

 

 

 

 ボクは勝ち誇った様な、不敵な笑みを浮かべる。そして、手札の中から1枚のカードを勢いよく引き抜き、デュエルディスクの魔法・罠カードゾーンにセットして、それを発動した。

 

 

 

「ボクは手札から魔法(マジック)カード・【リロード】を発動!手札を全てデッキに戻してシャッフル!その後、戻した枚数分ドローする!」

 

「……は?」

 

「えっ…」

 

 

 

 ボクが無駄なキメ顔をしながら発動したカードを見て、この場にいたボク以外の全員が、拍子抜けと言いたげなキョトンとした表情を露にした。やめてくれよ傷つくな。

 

 手元に残った5枚のカードを全部デッキに戻すと、ディスクの機能によって、デッキが再びシャッフルされる。それが済むと、ボクは最初に戻した枚数分、つまり5枚のカードを、もう一度デッキからドローした。

 

 

 

「ギャハハハハハッ!!ダセーッ!初っぱなからそんなカードかよ!手札事故か!?」

 

「そうみたい。いやぁ今朝は調子がよろしくないみたいでさ。あはは」

 

「だ…大丈夫かな…この人…」

 

「聞こえてるよ~茶髪くん」

 

「ひゃい!?ご、ごめんなさい!」

 

 

 

 さぁ仕切り直しだ。新たにドローした手札の内容は……うん、悪くない。ここからが本番!

 

 

 

「ボクは【暗黒の竜王(ドラゴン)】を召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「ハッ!そんな古い雑魚モンスターで何が出来んだよ!」

 

「目に物を見せてあげるよ。魔法カード・【フォース】を発動!その効果で、サイバー・オーガ・2の攻撃力を半分にして、その数値分、暗黒の竜王(ドラゴン)の攻撃力をアップする!」

 

 

 

【サイバー・オーガ・2】 攻撃力 2600 → 1300

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500 → 2800

 

 

 

「なにィ!?」

 

「バトルだ!暗黒の竜王で、サイバー・オーガ・2を攻撃!(ほのお)のブレス!!」

 

 

 

 ボクの攻撃宣言を受けて、暗黒の竜王が口から放った灼熱の炎が敵モンスターを襲う。

 

 

 

「させるかよぉ!(トラップ)カード・【攻撃の()(てき)()】を発動!」

 

「!」

 

 

 

 あのカードは『モンスターを破壊から守る』か『自分への戦闘ダメージを(ゼロ)にするか』。どちらか1つだけを選択して適用する防御トラップ。この状勢で選ぶ効果は恐らく…

 

 

 

「俺が使うのは1つ目の効果だ!サイバー・オーガ・2は、このバトルフェイズ中、戦闘では破壊されねぇ!」

 

「やっぱりね。でも、戦闘ダメージは受けてもらうよ!」

 

「ぐうっ!!…チィッ!くそが!」

 

 

 

 金髪のケンちゃん LP 4000 → 2500

 

 

 

 竜王の攻撃が見事ヒットして、サイバー・オーガ・2は全身を業火に包まれる。もちろん【攻撃の無敵化】の効果で戦闘破壊は出来なかったけど、その分ダメージは与えられた。

 

 

 

(ッ……す、すごいです、この人…!レベルの低いモンスターで上級モンスターに躊躇なく攻撃を仕掛けて、あんな(こわ)い人のライフまで削るなんて…僕には真似(マ ネ)できないです…!)

 

 

 

「フゥ、さすがに一筋縄じゃ行かないか。ボクはカードを2枚()せて、ターン終了」

 

(いて)ぇじゃねぇか…だが!これでサイバー・オーガ・2の攻撃力は元に戻る!」

 

 

 

【サイバー・オーガ・2】 攻撃力 1300 → 2600

 

【暗黒の竜王】 攻撃力 2800 → 1500

 

 

 

(…このままだと次のターン、サイバー・オーガ・2の攻撃で、ボクの竜王は破壊されてしまう……でも大丈夫。今ボクが伏せたカードは…(トラップ)カード・【(くさり)付きブーメラン】!)

 

 

 

 【鎖付きブーメラン】。攻撃してきた相手モンスターを守備表示にして、更に自分のモンスター1体の攻撃力を500ポイント上昇させる装備(そうび)カードとなる、特殊な(トラップ)

 

 このカードを使えば敵の攻撃を止められるだけでなく、竜王の攻撃力が上がって、2000ポイントになる。

 

 サイバー・オーガ・2の守備力は1900。次のボクのターンに、パワーアップした竜王で攻撃すれば倒せる。これで勝つる!

 

 

 

「俺のターン、ドロー!……ククッ、このターンで、早くもデュエルはお(しま)いだぜぇ!」

 

「えっ?」

 

「俺がドローしたのは、魔法カード・【リミッター解除】!発動!!」

 

 

 

【サイバー・オーガ・2】 攻撃力 2600 → 5200

 

 

 

「攻撃力が(ばい)になって…5200!?」

 

「それだけじゃないぜぇ?サイバー・オーガ・2が敵モンスターを攻撃する時、攻撃対象にしたモンスターの攻撃力の、半分の数値だけ、こいつの攻撃力が上がるのさ!」

 

「…ということは…」

 

「バトルだ!サイバー・オーガ・2!!あの雑魚を叩き潰せ!!」

 

 

 

 サイバー・オーガ・2の(きょ)()が暗黒の竜王に迫り来る。しかも特殊効果が発動して、ただでさえ(ケタ)外れに跳ね上がった攻撃力の数値に、竜王の攻撃力の半分が上乗せされた。

 

 

 

【サイバー・オーガ・2】 攻撃力 5200 + 750 = 5950

 

 

 

(攻撃力5950!?この攻撃が通ったらボクのライフは(ゼロ)!…だけど、そうはいかない!)

 

「ボクはリバースカード・オープン!【鎖付きブーメラ…」

 

 

 

 …………シーーーーーン…………

 

 

 

「メラ……ブーメ…ラ……ン……ん?んん???」

 

 

 

 伏せ(リバース)カードがオープンしない!?!?!?

 

 あれ?えっ、ちょっと待ってナニゴト!?何度スイッチ押しても反応が無いんですけど!!

 

 ディスクの故障?いや、メンテナンスは間違いなく万全だった(はず)…なのにどうして……はっ!?

 

 

 

(まさか…あの時、金髪のケンちゃんの(パンチ)を、ディスクで防御(ガード)したのが原因…?当たりどころが悪かったのかー!!)

 

「あぁ?何か言ったか?死ねやァ!!」

 

 

 

 ディスクの突然の不調にボクが狼狽(うろた)えている間にも、すでに敵の攻撃は、竜王の目前まで襲来(しゅうらい)していた。

 

 マズイまずいマズイまずいマズイ!!!!!

 

 

 

(さっき【リロード】や【フォース】が発動できたって事は、たぶん魔法は使える!頼む一生のお願い!!)

 

「リバースカード・オープン!速攻魔法・【非常食】!!ボクの魔法・(トラップ)ゾーンにある、もう一枚の伏せカードを墓地に送って、ライフを1000ポイント回復する!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 5000

 

 

 

「ムダな悪あがきしやがって…砕け散れ!!」

 

 

 

 サイバー・オーガ・2の攻撃によって、暗黒の竜王が撃破されてしまう。立体映像(ソリッドビジョン)とは思えない程の、凄まじい衝撃波がボクを襲った。ボクの身体は、その圧力に耐え切れず、後方に吹き飛んだ。

 

 

 

「うわあぁああぁっ!!ぐっ!?……(つう)ぅ…!」

 

 

 

 地面に背中からダイブする形で倒れ込み、身体を叩き付けた。めっさ痛い。

 

 

 

 セツナ LP 5000 → 550

 

 

 

「くっ…ライフが一気にレッドゾーン(・ ・ ・ ・ ・ ・)に入っちゃった…すごい威力…」

 

 

 

 なんとか上半身を起こしてディスクに目をやると、ライフカウンターに表示されている数字の色が危険(デッド)を報せる赤色(レッド)に変わっていた。残りライフ、たった550ポイントか……確かに…ちょっと危ないかも。

 

 

 

「だ、だだ、大丈夫ですか!?」

 

「おおっ、茶髪くん。平気平気。これくらい何てことないよ」

 

「ぎゃははは!無様だなぁおい!」

 

「威勢よく挑んできた割りに大したことねぇなあ!」

 

「往生際が(ワリ)いんだよ!とっとと諦めて降参(サレンダー)しなっ!」

 

 

 

 モブ1号・2号・3号が、口々に侮蔑の言葉をボクに吐きかけてきた。ボクは、そんな罵詈雑言(ばりぞうごん)を地面に座ったまま聞き流していた。

 その流れに乗じて金髪のケンちゃんも、ボクへの口撃(こうげき)を開始した。

 

 

 

「全くアイツらの言う通りだぜ、口ほどにもねぇな転入生。テメェはそこの雑魚を庇おうなんつー下らねぇ正義感で前に出てきて、結局こうやって2人(ふたり)なかよく俺らにカモられてる、甘っちょろいマヌケ野郎だ!」

 

「あぁーっ!?ボクの制服に汚れがあああっ!!新品だったのにー!(泣)」

 

「聞いてんのかテメェ!!」

 

「あっ、ごめんごめん。それで、何だっけ?」

 

「この…!……ケッ!テメェの実力はもう分かった。所詮ジャルダン(この街)でやっていけるレベルじゃねえ。恥の上塗りしたくなきゃあ、そんなカスデッキは捨てちまうこったな!ギャッハッハ!」

 

「…!」

 

 

 

 彼が最後に言い放った暴言がトリガーとなって、ボクの中のスイッチが入る音が聞こえた。

 

 

 

「…………なるほど、確かに許せないね。自分の事はともかく……命より大切な自分のデッキを侮辱されるって言うのは……」

 

「え…?」

 

 

 

 小声で喋ったから、(そば)に寄り添ってくれた茶髪くんにしか今の言葉は聞こえてなかったと思う。

 

 ボクはゆっくりと立ち上がり、制服を二度三度と軽く(はた)いて土埃(つちぼこり)を払った後、かけていた赤色のメガネを右手で外した。

 そして、()(がん)で相手を静かに見据える。

 

 

 

「…あんだ?その目は。まだやろってのかよ。つーか何カッコつけてんだよ!メガネ外して、ちゃんと前は見えてんのかー?ほ~ら、指は何本たってる~?」

 

「2本でしょ。心配しなくても、しっかり見えてるよ。メガネ(これ)伊達(だ て)だから」

 

 

 

 そう言ってボクは微笑(ほほえ)み、黒ジャケットの胸ポケットに、赤メガネを差し入れる。

 

 

 

「デュエル続行!!まだ君のターンだよ、金髪のケンちゃん」

 

「気安く呼ぶなっつってんだろーが!」

 

「ターンエンドかい?その場合、【リミッター解除】の効果によって、サイバー・オーガ・2は自壊(じかい)するよ!」

 

 

 

 ボクが告げると金髪のケンちゃんの口角がニヤリと邪悪に吊り上がった。

 

 

 

「だーからテメェはマヌケなんだよぉ!トラップ発動!【()空間(くうかん)物質(ぶっしつ)転送(てんそう)(そう)()】!!」

 

「!」

 

「サイバー・オーガ・2を、エンドフェイズまでゲームから除外する!」

 

 

 

 亜空間物質転送装置の効力で、サイバー・オーガ・2の姿が一瞬にしてフィールドから消失した。

 

 

 

「ターンエンドだ!この瞬間、除外したサイバー・オーガ・2が俺のフィールドに戻ってくる!」

 

 

 

 その宣言通り、わずか数秒でサイバー・オーガ・2はフィールド上に帰還した。攻撃力は初期値の2600に戻り、リミッター解除による自壊も行われない。

 

 

 

「ヒャッホゥ!これでリミッター解除のデメリット効果はリセットされて、サイバー・オーガ・2はフィールドに残り続けるぜぇ!」

 

「………」

 

「あわわ…こ、こんなの…もう、どうしようもないですよぉ…」

 

「テメェの場はガラ空き!手札は1枚!こっから一体どうしようってんだ?転入生!」

 

(……この1枚だけじゃ足りない…勝つ為には、あのカード(・ ・ ・ ・ ・)を引き当てないと!)

 

「ボクのターン……ドロー!」

 

 

 

 渾身の思いで、デッキからカードを引く。正に運命の…デスティニー・ドローだ!

 

 ……恐る恐る、ドローしたカードを見る。

 

 直後、ボクは目を見開いた。そして次第に、自然と、お腹の底から笑いが込み上げてくるのを感じた。

 

 

 

「…くっ、ははは……あははは!あはははは!!」

 

「えっ、ええ…?」

 

「…どうしちまったんだ?あの野郎」

 

「引いたカードがゴミ過ぎて、笑うしかねぇんじゃねーの?」

 

「ブホッ!マジ超ウケるわーそれ!」

 

 

 

「あはは!あははは……っはぁー……あぁもう、これだから大好きなんだよ。ボクのデッキは!」

 

「!?」

 

「さぁ行くよ!まずは【トレード・イン】を発動!手札からレベル8のモンスター1枚を墓地に捨て、その(あと)デッキから、カードを2枚ドローする!」

 

(!!よし、波に乗ってきた!)

 

「続いて【思い出のブランコ】を発動!墓地に眠る通常モンスターを1体、特殊召喚できる!ボクが呼び出すのは、さっき墓地に送ったモンスター、【ラビー・ドラゴン】!!」

 

 

 

 ボクのフィールドに、ウサギを彷彿とさせる、白くて長い耳を生やし、毛並みの柔らかそうな、モコモコした白い体毛を(まと)う巨大なドラゴンが召喚された。

 

 

 

【ラビー・ドラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「こ、こ…攻撃力…!2950、だとぉ!?」

 

 

 

 金髪のケンちゃんと3人のモブは、驚愕の余り、開いた口が塞がっていない。これは良い優越感。ドヤ顔したくなる。

 

 

 

「ぐっ…だ、だがなぁ!サイバー・オーガ・2が倒されても、まだ俺にはライフが残るぜ!【思い出のブランコ】で召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される筈だ!そんなドラゴン、ただの一時しのぎにしかならねぇよ!」

 

「うん、そうなんだよね。そこで、このカードさ。【ボマー・ドラゴン】を通常召喚!」

 

 

 

【ボマー・ドラゴン】 攻撃力 1000

 

 

 

「バトル!ボマー・ドラゴンで、サイバー・オーガ・2を攻撃!」

 

「は…はぁ!?ははは!血迷ったかマヌケ野郎!攻撃力1000ぽっちの雑魚で、俺のサイバー・オーガ・2に攻撃!?自爆するつもりかよ!」

 

「いいや、爆発するのは君のモンスターも一緒(いっしょ)だよ」

 

 

 

 ボマー・ドラゴンがサイバー・オーガ・2に突貫した。この時、ボマー・ドラゴンのモンスター効果が誘発する!

 

 

 

「ボマー・ドラゴンが攻撃を行う時、お互いが受けるダメージは0!そして、ボマー・ドラゴンを戦闘で破壊した相手モンスターは、破壊される!!」

 

「なっ、なんだとォオオオオオ!!!?」

 

 

 

 ボマー・ドラゴンが大事に抱えていた謎の球体。その正体は言わずもがな、爆弾だ。

 それが大爆発を起こすと、爆風に巻き込まれたサイバー・オーガ・2は、ボマー・ドラゴン諸共(もろとも)こっぱ微塵に粉砕された。

 

 

 

「これで、今度は君のフィールドがガラ空きになったね」

 

「んな…バカな…!」

 

「チェックメイトだ」

 

「ひっ!」

 

「ラビー・ドラゴンで、プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 ラビー・ドラゴンは咆哮(ほうこう)を轟かせると、口から純白に輝く光線を放つ。

 標的となった相手は為す術もなく、瞬く間に光の奔流(ほんりゅう)に飲み込まれた。

 

 

 

「うぎゃあああああっ!!!!」

 

 

 

 金髪のケンちゃん LP 0

 

 

 

「ボクの勝ちだね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルが決着した後、金髪のケンちゃんと他3名は速やかに退却していった。

 

 ひとまず一件落着っと。あー、まだ朝なのに、もう疲れちゃったよ。

 そうだ、壊れたデュエルディスクは早いとこ修理しないと。いつまでも(トラップ)が使用不能だと、デュエルに支障を(きた)す。そのせいで危うく負けるとこだったしね。アレは本当に心臓に悪かった。

 

 それにしても、久々にスリルのあるデュエルだったな。デュエルアカデミアに行ったら、もっと腕の立つデュエリストがゴロゴロ居るのかな?

 

 そんなことを、ボンヤリと考えながら、外していた赤メガネを掛け直していると、あの茶髪くんが話しかけてきた。なんか瞳がキラキラしてる気がする。

 

 

 

「あ、あの!ありがとうございました!!助けていただけて…!」

 

「気にしないで良いよ~?初登校の矢先に嫌なもの見たくなかったって、それだけだからさ。ところで怪我はない?茶髪くん」

 

「えっと…一ノ瀬です。(いち)()() ルイ」

 

「ルイくんかぁ。良い名前だね!ボクの事はセツナって呼んでくれて良いよ。改めてよろしくね」

 

「は、はい!ええ、えっと…その……せ、セツナ先輩!よよ、よろしくです!」

 

「先輩?なんか…こそばゆい響きだね、あはは。悪くないけど。ルイくんって、もしかして下級生?」

 

「あ、はい。一応…ジャルダン校の高等部1年生…です…」

 

「おっ!ボクの1個下なんだ?早くも後輩が出来ちゃったね、しかも学園に着く前から。あはは……は…は……。……ちょっと待って今(なん)()(小声)」

 

 

 

 端末で時間を確かめてみると、なんということでしょう。すでに始業の鐘が鳴る時刻まで、あと10分を切っているではありませんか!

 

 

 

「ぎゃあああ!!転入初日から遅刻なんてシャレにならない!急ごうルイくん!」

 

「ひゃあああ!!はいいいいっ!!」

 

 

 

 こうして、ボク・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)と、茶髪くん改め、一ノ瀬 ルイくんは、2人そろって学園まで猛ダッシュするハメになった。

 

 あんな事があったのに、まだ部屋のベッドで起床してから2時間しか経過してないとか信じられない。

 

 なんだか今日は丸1日、いろいろな人達と出会って、いろいろなイベントに遭遇しそうな予感がする。

 

 まぁそれはそれで、けっこう楽しめそうだけど!

 

 

 

 





 アニメ新作・遊戯王VRAINS 楽しみですね!遊作くん可愛いよ遊作くん!(*´Д`*)hshs

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