やはり俺が戦車道で有名なのは間違っている   作:雨時々飴

1 / 2
導入部分は短めに


俺が生徒会室に呼び出されるのは間違っている

 青春とは嘘であり、悪である。青春を謳歌せし者たちは、常に自己と周囲を欺き、自らの取り巻く環境の全てを肯定的にとらえ、思い出の一ページに刻むのだ。

 青春を謳歌する者たちは自分達が誰かを踏み台にして、輝かしい青春を満喫出来ているなんて毛頭も思っていない。

 ノーベル賞を受賞した科学者しかり、戦車道で強豪と恐れられ名を連ねる多くの人々も、彼等を支えた人や地盤を作ってくれた人達のお陰で有名になれた。

 しかし、彼らにとってはただの裏方もしくは部下に過ぎない。

 リア充達もそうだ。

 自分達がリア充になれたのは周りの人達を利用したからだ。

 友に女を紹介してもらい、友が気になる意中の女子との距離を縮めるべく協力させて青春を満喫出来ている。

 それも気付いていないリア充共は絶対的悪だ。

 結論、リア充は罰せられるべき。

 

 

 

 

 

「比企谷ちゃん、なんで呼ばれたか分かってる?」

 

 

 県立大洗学園の一室。

 俺こと比企谷八幡は、パッと見小学生にしか見えない生徒会長角谷杏に呼び出されて生徒会室に赴いていた。

 見覚えのある作文を俺の目の前で振りながらしつもんされたら『Yes』、『はい』しか言えないじゃないですか。

 

 

「作文のことですよね」

「ううん、違うよ」

 

 

 違うのかよ!?

 えっ、じゃあなんで俺の作文持ってるんですかね!?私気になります!

 というか、作文でなければ呼び出される身に覚えがない。

 毎日迷惑かけないように誠心誠意努力してるし、自分で言っちゃなんだが一部を除けば成績優秀だ。

 

 

「じゃあなんで呼び出された理由が分かりませんね」

「ふーん、比企谷ちゃんさ。西住みほって知ってる?」

 

 

 西住みほ。

 戦車道を代表する流派の家系に生まれた次女。

 姉の西住まほと共に西住流を伝承する人間。

 そして、ある大会で失態を犯してこの学園に転校してきたクラスメート。

 知らない方がおかしい。

 

 

「まぁ、人並みには」

「西住ちゃんに聞いたんだけどね。比企谷ちゃん、戦車の整備が出来るんだって?」

 

 

 ここで一人の少年の話をしよう。

 少年も西住みほと同じく、戦車道と関わりある家系に生まれた。

 しかし、少年は生まれた性が男であった為に戦車に乗ることは出来なかった。

 少年の周りにいた大人は落胆し、何故に女の子が生まれなかったのかと嘆いた。

 しかし、その後妹が生まれ、周りの大人達は大いに喜んだ。

 妹は生まれた瞬間から戦車道に縛られる運命が決まった。決まってしまったと言うべきか。

 逆に少年は男で生まれた為に自由を約束された。

 由緒正しき家系で金の心配がなく、男である少年には構わない大人であったため

 門限もない。

 少年は男で恵まれた境遇に甘え、欲しい物を買い、毎日帰ってくる度に嫌な顔をする大人達から逃げるように外を徘徊した。

 しかし、ある日少年の人生は変わった。

 いつものように少年は日が暮れた時間に帰宅した。

 周りの家々は消灯してしまった夜遅く、流石に説教は避けられないのを避けるべく裏口から逃げ込もうと中庭に出ると、動き回る戦車。

 少年の家で戦車に乗るのは妹ぐらいだ。

 少年は思わず戦車に近寄り尋ねてしまう、『お前、何してんだよ』と。

 妹は戦車から顔を出し、『戦車の練習だよ』と答える。

 少年は言う、『練習って、お前戦車道嫌いだろ』

 少年は知っていた。無理矢理押し付けられた重圧に妹が苦しんでいる事も、重圧の原因である戦車道を嫌っていることも。

 少年はーーいや、俺はそれを知っていて、見ないふりをして逃げた。

 見ないふりをしていた事実に俺の心はすり潰されるような罪悪感に苛まれた。

 最低な兄、そんな兄に小町は何を言うのか恐怖が襲う。

 しかし、小町の答えは『私が頑張ればお兄ちゃんは自由でいられるでしょ?家の中じゃ疎まれているんだから、愛されている小町が苦労してお兄ちゃんを自由にしてあげないと不公平でしょ?』と素敵な笑顔で言った。

 小町の言葉に俺は涙していた。

 俺の事を思ってくれる人がいたのが嬉しかった。

 そして、俺はその時に決めた。

 小町の誇れるような、そして支えになれるような兄になろうと。

 そして、戦車の整備の本を片っ端から読みふけ、両親に土下座して現役の整備士の弟子入りをした。

 そして、なんか凄いことになった。

 昔話長いなおい。もうちょっとコンパクトに話せなかったのかね。

 まぁ、この話には続きがあるんだけど長々と思い出に浸ってしまって会長がイライラしてるし、また今度感傷に浸るか。

 

 

「まぁ、人並みには」

「いや、人並みなら普通は戦車の整備なんて出来んぞ」

 

 

 俺の言動に呆れたように口を挟んできたのは河嶋桃。

 生徒会の一員で、会長から信頼を得る広報担当。

 堅物キャラで口煩いが、案外ポンコツで俺が転校してきた初日からポンコツを発揮してきた。

 衝撃的過ぎて、河嶋さんには忘れろと言われたが忘れられない。意外に清楚系の白だった。

 

 

「その返事はイエスと取っていいんだよね」

「まぁ、はい」

 

 

 会長が急にニヤニヤし始めたんですが!

 嫌な予感しかしない!というか、この人に関わると嫌な事しかあった事がない!

 

 

「じゃあ、比企谷ちゃんも戦車道やろっか」

 

 

 What?

 この人今なんって言いました?

 センシャドウヤロッカ?何処かの国の有名人かな、変な事言う会長だな〜・・・。

 

 

「はぁぁああああ!?戦車道を俺がやる!?」

「うわぁ!?びっくりしたぁ」

 

 

 俺の声に驚く小山柚子さん。

 常識から頭のネジ一つ外れた生徒会の唯一の常識人。

 性格よしスタイルよしで男子生徒からは絶大な人気を誇っている生徒会副会長。

 驚かしてすみません。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!この学校は戦車道はないはずじゃ?」

「あー、今年から作ったの」

 

 

 軽い。

『あそこのコンビニ寄ろ』って誘ってくる友達並みに軽い。

 いや、友達いた事ないから知らんけど。あれ、なんか目から汗が・・・。

 

 

「なんでですか」

「うーん、説明するのはいいんだけど先に返事が欲しいな。関係ない人に教えていい話じゃないし」

 

 

 知りたいなら相応の対価を払えやオラって事ですね。

 これが恐喝と言うやつか(違います)、初めてされたからオラワクワクすっぞ。

 やばい、混乱し過ぎて脳内がキャラ崩壊を始めてる。

 

 

「すみません、手伝えません」

「へぇ、それはどうして?」

 

 

 尋常じゃない程の圧力(プレッシャー)

 真顔で目を細めているだけなのにひしひしと伝わってくる。

 ここで下手な理由を口にすれば酷い未来が待っているだろう、

 けど、俺には断らないとならない事情があった。

 

 

「すみません、バイトがあるので」

「バイト?うちの学校ってバイトしてよかったっけ?」

「先生に事情を話したら特例で許可がおりました」

「そっかー、事情があるなら仕方ないよね・・・。あぁー、西住ちゃんと比企谷ちゃんが揃えば優勝も夢じゃないと思ったんだけどな」

「西住も戦車にはもう乗らないと思いますよ」

 

 

 西住はこの学園に転校してきた原因。

 それを知っている俺は、少し濁しつつ生徒会長に伝える。

 

 

「西住ちゃんなら確保したよ」

 

 

 えっ、戦車道から逃げてこの学園に来た西住が、逃げ出した先でも戦車道に関わるとはどんな心境の変化だ?

 

 

「そうですか。それでは、俺が戦車道の誘いを断ったのは西住には内緒にしておいて下さい。多分、責任感を感じてしまうと思うので」

「分かったよ」

 

 

 俺はそれの言葉を残し、生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

「会長、どうします?」

 

 

 比企谷が生徒会室を出て行った後、河嶋が重々しい雰囲気を纏って口を開く

 

 

「ん?どうするって?」

「整備士の事です。この前自動車部に頼みに行きましたが、戦車の整備は専門外と断られた上に最後の希望でした比企谷八幡にも断られてしまいましたので」

 

 

 河嶋の言う通り、生徒会の面々は自動車部に赴き比企谷に頼んだ事を頼みに行ったのだが、結果はあえなく断られてしまう。

 戦車と自動車は似て非なるものであるらしく、自動車部の面々でもお手上げらしい。

 戦車道において戦車がなくてはならない。それは当然で、戦車がなければ折角復活させた戦車道で優勝し廃校回避の一縷の望みも断たれてしまう。

 そこでダメ元で西住に整備の方法を知っているか尋ねると、西住家では優秀な専属の整備士がいるらしく整備に関わった事がないらしい。

 その話をしてる最中に名が挙がったのは比企谷八幡。

 西住は整備の修行で西住家に訪れていた比企谷と面識があるらしく、整備士である事も知っていたらしい。

 そして、比企谷を生徒会室に呼び出したのだがあえなく惨敗。

 これで戦車道の道は断たれたのだがーー

 

 

「うーん、困った事になったよね。今日見つけた戦車も全て錆び付いて使い物になりませんし、新しい戦車を買うお金もありませんよ」

「大丈夫じゃないかな」

『えっ』

 

 

 ーー何かを確信した表情を浮かべた角谷が言う。

 その言葉の真意を読み取れない二人は、間抜けな声を漏らす。

 

 

「まぁ、これからの事は明日考えようか」




感想や意見要望をお待ちしております

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。