「ほう、火星へ帰るのか」
『うん、地球もいいけどやっぱ火星が一番落ち着くからね』
俺の意見で火星に帰る事になった鉄華団は手続きや荷物の運び出しなどで忙しくなっていた。
そんな中蒔苗のじーさんが挨拶に来たので第五形態の俺が相手しているのである。
「鉄華団のお陰でアーブラウの防衛軍もちゃんとした形になった」
改めて感謝する。と蒔苗さんが頭を下げた。
いえいえ。と俺も謙遜して返す。
『テロリストも捕まえたからね。当分は安心だよ』
「ふむ……何かお礼が出来ればいいんじゃがの」
『う~ん……じゃあアーブラウの美味しいお菓子のお店教えてよ。荷物積め終わったら適当に探して皆で行くつもりだったし』
それを聞いた蒔苗さんが腕を組んで思案する。
「お菓子か……う~む……ハニーデュークスなんかどうじゃ?昔の書籍に出てくるお菓子屋を再現したモノで評判も高いぞ?」
『ハニーデュークス……?確か昔読んだ……バリトン・ポイズナー……?』
絶対違う。頑張れ人間サイドの俺の記憶!
『……まぁいいか。ありがとう、そこに行ってみるよ』
「こんなのでいいのか心配じゃがな 」
『いいんだよ。あ、それと地球支部開設記念に貰った薔薇だけど』
「おお、アレがどうかしたか?」
『チビッ子達に任せてたら枯れかけてね。今は俺が育ててるよ』
以前地球支部が出来た時に蒔苗さんやアレジさんから色々花束を貰ったのだが、その中にレア物らしい青色の薔薇の苗が入っていたのである。
最初は皆物珍しさに水の世話をしていたが、次第に飽きて枯れかけてしまっていた。
丁度その頃、俺はラディーチェを油断させる為に皆と遊べず暇だったので、その枯れかけた薔薇を引き取り地球支部の裏手で飼育し始めた。
流石に水をあげるだけではどうしようも無かったのでゴジラ特製の肥料をあげてみた所、みるみる元気を取り戻し今に至る。
「ほう、お前さんがあの薔薇を」
蒔苗さんが驚いて俺を見てくる。
『花言葉は【夢かなう】【奇跡】【神の祝福】だっけ』
何とも今の状況に的確なものである。
「大事にしてやってくれよ」
『うん……最近何か動くんだよね』
「そうか動……」
暫し静寂が広がった。
『…………』
「…………は!?!?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
シンさんの薔薇も改めて鉢植えに植え替えシャトルに積み、皆で蒔苗さんから教えて貰ったハニーデュークスでしこたまお菓子とジュースを買い込んできた。
後は出発するだけだったが何故かシンさんがまだ来ない。
「なあ昌弘、シンさん知らないか?」
座席でハンドグリップをニギニギしている昌弘に問い掛けた。
「ん?俺は知らないぞ?」
「あ、アストン。シンさんは自力で地球から出れるからシャトルに乗るのは俺達だけだよ」
タカキが教えてくれた。
「そうなのか……相変わらず凄いな」
「俺達のシャトルが墜とされないように見張ってくれてるんだろうな」
デルマがパソコンを弄りながら言ってくる。
窓の外を見ると丁度漆黒の機体が通り過ぎていった。
「今さらだけどさ……あのモビルスーツみたいなシンさん、格好良くない?」
「「「「「分かる」」」」」
全員の意見が一致した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺はレーダーで周囲を警戒しながらシャトルが宇宙へ昇って行くのを見守っていた。
(無事到着っと。よし、俺も行くか)
第五形態の漆黒のボディ。
その体の所々には第四形態の名残で紅色のラインが走っているのだが、それが紫色の光を放ち出す。
(あばよ地球!!)
重力制御を全開にした機体が海を割り一直線に宇宙に向かって飛び出して行く。
それをラスタル陣営は唖然として見ていて、マクギリスと石動の二人はテンションアゲアゲで双眼鏡を覗いていた。
「准将凄いですよシンさん!光るとか格好いいですね!!」
「石動!お前もシン君の凄さが分かったか!黒いバエル!あぁ格好いいなぁ!!」
蒔苗(あ、『薔薇が動く』の話が強烈過ぎてハニーデュークスにジュースそっくりの見た目のお酒が売ってる注意をし損ねたわい。……まぁシンがついているし大丈夫じゃろ)
……このミスが後の鉄華団対アリアンロッド艦隊の最終決戦においてとんでもない事態を引き起こす事をまだ蒔苗は知らなかった。